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那覇家庭裁判所 平成4年(家)308号 審判 1992年9月07日

申立人 上原朝則 外1名

事件本人 上原大介 外2名

主文

本件申立てを却下する。

理由

1  申立ての趣旨及び実情の要旨

申立人らは、「事件本人(養子となる者)を申立人らの特別養子とする。」との審判を求め、その実情の要旨として、申立人夫婦は昭和60年9月6日に同人と養子縁組をしたが、特別養子縁組制度ができた当初からいずれ特別養子縁組の申立てを行いたいと考えていたところ、同人の小学校入学を契機に、戸籍上長男とすることで教師や級友等に養子であることが知れるのを避け、さらには同人自身にも養子であることが知れる可能性を低くするため、本件申立てに及んだ旨述べた。

2  当裁判所の判断

(一)  申立人両名に対する審問の結果及び家庭裁判所調査官作成の調査報告書その他の本件記録並びに当庁昭和60年(家)第××××号養子縁組申立事件記録によれば、以下の事実が認められる。

(1)  申立人上原朝則(以下、「朝則」という。)と同上原尚子(以下、「尚子」という。)とは、昭和46年4月21日婚姻した夫婦であるが、子に恵まれなかったため、親族から養子を迎えようと希望したものの、適当な子がいなかったことから実現できなかった。このため、申立人夫婦は知人の紹介で名古屋産婦人科医師会に養子縁組希望の手続をしたところ、事件本人上原大介(以下、「未成年者」という。)との養子縁組のあっせんを受け、昭和60年8月15日生後2週間くらいの未成年者を引き取り、翌9月6日同未成年者との養子縁組をした。

その後、申立人夫婦は未成年者を実子同様に監護養育して来たが、特別養子制度が新たに設けられたことなど、申立の実情の要旨記載のとおりの理由から、本件申立てに及んだ。

(2)  申立人朝則は、昭和13年1月21日沖縄県国頭郡○○村で上原朝良、キヨコの二男として出生し、○○大学を卒業後2年間小学校の教員をした後、○○○○○販売株式会社を経て株式会社○○○に勤務しており、現在は同社の営業部長の職にある。自他ともに認めるのんびり屋で、仕事熱心であるが物事にこだわらず、また温和な性格である。心身ともに健康状態は良好である。

申立人尚子は、昭和18年1月11日沖縄県国頭郡○○○村で知名栄康、文の長女として出生し、○○大学を卒業した。申立人朝則との婚姻前後を含めて16年間小中学校の教員をした後退職して専業主婦となり、和裁や華道を続けている。温厚でおっとりした性格であり、心身ともに健康状態は良好である。

(3)  現在、申立人夫婦は住民票上の住所から転居し、未成年者とともに申立人尚子の母宅に同居しているが(申立人尚子の祖母を含め5人家族)、未成年者の通学している那覇市立○○小学校付近のマンションを物色中である。夫婦仲は円満であり、平穏で和気あいあいとした家庭が築かれている。

申立人夫婦の資産としては、本籍地所在の申立人朝則名義(持分2分の1)の土地(591.73平方メートル)、同土地上の同人名義の建物(3階建建物の1階と2階の部分)及び預金700万円くらいとゴルフ会員権などがあり、借金はない。申立人朝則の年収は平成3年中で約565万円であり、同尚子の和裁の内職による収入(月額手取り7~8万円)や上記建物からの家賃収入月額12万円もあることから、上記資産保有と合わせて経済的に安定している

(4)  未成年者は、昭和60年8月2日父下田幸次(以下、「実父」という。)、母下田(当時中島)秋子(以下、「実母」という。)の非嫡出子として、名古屋市名東区で出生した。前認定のとおり、出生後2週間くらいで申立人夫婦に引き取られ、その養子となった。病気や怪我もなく順調に発育し、平成元年4月に○○○○○幼稚園に入園し、平成4年4月那覇市立○○小学校に入学した。運動が得意で身体の発育もよく、健康な子供に成長している。明るく活発でやや甘えん坊の性格である。

(5)  実母ほ、昭和39年8月25日名古屋市千種区で中島春男、夏子の二女として出生した。外車販売会社である株式会社○○○○に勤務している時に当時上司であった実父と知り合い、昭和59年頃から親しく交際するようになって未成年者を懐胎した。しかし、当時実父には妻子がいたので出産すべきかどうか迷っていたところ、実母の母が、生まれてくる子供を病院からそのまま養子に出すことを提案したので、会社も退職し一人で育てていく自信のなかった実母はこれに従い、出産後間もなく未成年者を申立人夫婦の養子に出した。実父は、昭和34年12月26日愛知県春日井市で下田幸助、久子の長男として出生し、前認定のとおりの経緯で実母と知り合い、親しく交際するようになった。当時実父には妻子がいたが、実母との交際が原因で妻美智代との関係が悪化し、昭和61年1月13日長女侑華の親権者を妻と定めて調停離婚するに至った。このように実父の離婚が成立したことから、実父と実母は結婚することを決意し、昭和61年7月18日二人は正式に婚姻するとともに、同年10月18日実父は未成年者を認知した。

現在、実父母は実父の実家である肩書住所地(土地100坪、建物40坪)において、昭和62年に生まれた仁(戸籍上長男)と実父の母久子との4人家族で生活しているが、嫁姑間の葛藤もなく、夫婦仲は円満である。実父母は、これといった資産を有しないが借金はなく、株式会社○○○○に勤務している実父の月収が手取約30万円あることから、経済的にも安定している(なお、実父は先妻に対し離婚慰謝料300万円の支払義務を負っていたが、現在では完済しており、長女侑華の養育費月額5万円も滞りなく支払っている。)。

実父母は、未成年者をやむを得ず養子に出したことについて、結婚した当時は少し悔やんだが、申立人夫婦の人柄や家庭環境が申し分なく,そのもとで未成年者が幸せにすくすくと育っていることを知り、現在ではこれでよかったと満足しており、今回の特別養子縁組についてもこれに同意している。

(二)  以上認定の事実に基づいて、申立人らと未成年者との間で特別養子縁組を成立させることの適否について検討する。

(1)  特別養子縁組制度は、劣悪な保護環境に置かれた子を養親の適切な保護環境の下に置こうとするもので、その際、実方の父母及びその血族との親族関係を切断してその影響を排し、強固な親子関係を形成しようというものであり、「父母による養子となる者の監護が著しく困難又は不適当であることその他特別の事情がある場合において、子の利益のため特に必要があると認めるとき」に限り成立させることができるものである(民法817条の7-要保護性)。

ところで、夫婦双方が一旦普通養子とした子をさらに特別養子とすることについては、改正法施行前に普通養子縁組をした夫婦に関しては、普通養子縁組をした当時は特別養子縁組を相当とする事情があってもこれを選択することが不可能であったのであるから、普通養子縁組をした時点及び特別養子縁組成立の審判時点の双方の時点において要保護性の要件が備わっている場合にはこれを認めることができるものと解される。ただし、このような場合には養親が特別養子縁組後も引続き特別養子となる子を監護養育していくので、子の監護養育状況に格別の変化がないことから、特別養子縁組の法的効果との関係で、実方の父母との親子関係の切断を特に必要とする事情がない限り、特別養子縁組を成立させることはできないものと言うべきである。そして、親子双方にとって重大な問題である親子関係の切断ということが軽々に行われてはならないことは、言うまでもないことである。

(2)  そこで、本件についてみてみるのに、前認定の事実によれば特別養子縁組成立に必要な要件のうち、民法817条の7を除くその余の要件(養親の共同縁組、養親又は養子の年齢制限、実父母の同意等)が存在することは明らかである。よって、民法817条の7が規定する要保護性の要件を具備しているかどうかについて検討するに、前認定の事実によれば、普通養子縁組の時点における要保護性は認められるが、現時点における要保護性については、実父母は既に婚姻して前記仁をもうけ、円満かつ経済的にも安定した生活を営むようになっており、未成年者との親子関係(ひいては兄弟関係など)を法律上切断しなければならない事情は何ら存在しないと言わざるを得ない。

(3)  本件特別養子縁組の申立ては、未成年者に対して深い愛情を抱いている申立人夫婦において、未成年者が戸籍上申立人夫婦の長男と記載されることによって、第三者や未成年者自身が養子縁組の事実を知る機会が少なくなり、学校生活など将来にわたって未成年者の利益になるものと考えたことによるものであり、現在未成年者が申立人夫婦の愛情に満ちた監護養育環境の下にあることに照らし、その心情において十分理解できるものである。

しかしながら、実子同様に記載されるものとして理解されがちな特別養子縁組の場合の戸籍記載の配慮は、真の身分関係を秘匿すること自体を目的とするものではなく、親子関係を切断することが養子となる者にとって利益であると判断された実方の父母との関係につき、戸籍上にも切断の事実を明らかにするとともに、一旦切断された親子関係を特別の事情がある場合のほかは探り得ないようにしておくための技術的手段にすぎないものである。したがって、これと異なり、このような戸籍記載上の配慮を得て、真実の身分関係を秘匿することを主たる目的として特別養子縁組がなされることは、特別養子縁組制度の本来の趣旨にもとるものと言わなければならない。

(三)  以上の次第であり、参与員○○○○の意見を聴いた上、本件申立ては理由がないものとしてこれを却下することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 志田博文)

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