那覇家庭裁判所 昭和47年(家)642号 審判 1972年10月30日
申立人 宮田精子(仮氏)
法定代理人親権者父 宮田利一(仮名)
同母 宮田典子(仮名)
主文
申立人の名を「整子」に変更することを許可する。
理由
本件申立の理由の要旨は、申立人の親権者父母は、三女が出生したので昭和三六年二月七日に「精子」と命名して届出をなした。
ところが、前記届出を実際にしたのは親権者母であつて、当時親権者父は漁船のドック入りで沖繩本島に二ヶ月間滞在していた。ところで三女の命名について親権者双方において意見の喰い違いがあつた。親権者母は、三女の命名について「精神の強い子になれ」とのことで「精子」の命名を希望し、親権者父は「家を整える」とのことで「整子」の命名を希望していたが、双方において納得するまで協議をすることなく、前記のとおり親権者父は沖繩本島に出張し、親権者母において独断で前記命名して届出をしたのが実情である、その後沖繩本島から帰つた親権者父は前記命名に反対し、自己の希望する「整子」の名を強く希望するに至り、また兄達も「精子」は生物学上のいわゆる「精子」と読まれるからとのことで反対するので現在まで平仮名で「せい子」を使用しているのが実情であるが、本件申立に当つて名の変更許可を得る一心から申立書記載のような事情を書いたのである。よつて、申立人の親権者父母はこの際、申立人の名「精子」を「整子」と変更したくその許可を求めるというのである。本件記録添付の戸籍抄本その他の各資料及び家庭裁判所調査官仲山洋子作成の調査報告書並に法定代理人父母等の各審問の結果を総合すると、前記申立の事実関係はこれを認めることができる。
ところで本件においては、名それ自体にはその変更をそれほど必要とする不便や支障は認められないが、子の名の命名の自由を有する親権者の一方母が他の親権者父との間で命名について十分協議をする機会を得ないまま殆ど親権者母の独断で命名され届出がなされてしまつたため親権者父の希望が命名に反映されておらないとして命名に不満を抱き、反対した、その結果親権者母においてもこれをもつともであるとし、双方の一致した意思で名の変更を求めている場合であることが認められ、本件における名の変更を求める利益や必要は主観的なものであり、名自体に客観的な不便や支障がある場合に比べ小さいことは明らかであるが、子の名の命名の自由を有する親権者の心情も無視することはできないから、その自由を十分に行使し得なかつたことに対する不満の念に基く改名の希望は、前記のような実情である限り斟酌されるべき理由ありと解すべきであろう。そしてまた申立人の命名された「精子」の名を称することなく「せい子」と称している関係から命名された子の名の社会的関係も、定着を生ずる程度もいうに足りぬ段階であつて名の変更による社会的影響は極めて僅かであると認められる。しかも本件改名申立は出生後命名までの間における親権者の特殊事情により親権者の命名の自由の行使が十分に行なわれなかつたという客観的事由を根拠とするものであるから本件改名申立を許可すべき正当な理由があるものと認める。
よつて主文のとおり審判する。
(家事審判官 前鹿川金三)