那覇家庭裁判所 昭和50年(家)921号 審判 1975年9月13日
申立人 大工真一(仮名) 外一名
主文
申立人の氏「大工」を「大江」に変更することを許可する。
理由
一 申立人等は主文同旨の審判を求め、その理由として述べるところの要旨は以下のとおりである。
1 申立人等はその氏「大工」は奇異な氏に異するものと考えている。申立人真一は、その氏のため、幼少時から他人に「ダイク」さんという渾名で嘲笑されたり、あるいは氏が職業名と間違われ、現在まで恥かしい思いをしてきている。
2 申立人真一と先妻亡昭との間に長女真子(九歳)が、申立人等の間に長男健二(三歳)があるが、病院等で子供の名前が呼ばれると他人が笑いだし親子供にいやな思いをしている。
3 そこで申立人等としては、いうまでもなく、申立人等の子供等にも将来自分達と同じような「大工」の氏から生ずるいろいろな苦しみを味わせたくない。
二 よつて本件申立が戸籍法第一〇七条一項にいう正当な事由があるかどうかを判断する。
申立人等の氏「大工」は、珍奇なものとは認め難いが、大工なる特定の職業を指称するものであることは明らかである。そして、申立人等審問の結果によれば、申立人真一は自動車運転手を職業とする者であるのにかかわらず、建築の大工と間違えられたり、ひやかされたりすることがしばしばであり、長女真子は学校で友達から大工さんといつてからかわれたことも再三である。このように、申立人等親子は「大工」なる氏のため少なからず社会生活上の不便と苦痛を蒙り、時には人格を傷つけられたこともあり、そのために、今や、申立人等は「大工」なる氏に極度の嫌悪感を抱くようになつたこと、他方、申立人真一の兄修二、康男等は、すでに大江に改氏をしていること、以上の事実を認めることができる。
上記によれば本件申立は正当な事由を具備するものと解するのが相当である。
よつて、参与員佐久川政一の意見を聴いたうえ、これを認容することとし、主文のとおり審判する。
(家事審判官 高石博良)