那覇家庭裁判所 昭和51年(少)44号 決定 1976年3月02日
少年 T・A(昭三一・一二・四生)
主文
この事件について少年を保護処分に付さない。
理由
(事実)
少年は、Aと共謀のうえ、金員を強取することを企て、昭和五〇年七月二一日午後三時一〇分ごろ、沖縄県沖縄市○○○×××番地在○ー○ル・○イ○・○ー○ー○株式会社○ザ○ン○ー○ー支店事務所において、同店事務員○下○一○に対し、手挙で顔面を殴打して、床の上に転倒させるなどの暴行を加えて、その反抗を抑圧し、金員を強取しようとしたが同人が大声で悲鳴をあげたので驚いてその場から逃走してその目的を遂げなかつたが、その際前記暴行により同人に対し、加療約一〇日間を要する顔面、左肩打撲及び皮下出血の傷害を負わしたものである。
(法律の適用)
刑法二四〇条前段、六〇条
(不処分の理由)
前記事実は各記録によつて、これを認めることができ本件の罪質は重大であるが、少年の本件犯行における態様は首謀者で共犯者であるAとは異母兄弟の関係にあり、同人から同棲している女性の子供が病気のためその治療費を工面しなければならないから一緒に金員を強取することを誘われ、前記兄に対し日頃から従順であつた少年はこれに同情した末、やむなく本件犯行に加担するに至つたものであり、しかも、本件犯行においては共犯者に従つて犯行現場に入り、単に被害者の側に佇立していただけにとどまり、金員奪取行為はもとより被害者に対しても何んらの暴行行為も為さず、同人が大声で悲鳴をあげるすぐさま現場から逃走したものであつて、犯行の態様を見た場合、少年は共犯者の意のままに消極的、従属的に終始したものである。
当審判廷における少年の部隊長○ー○ヤ○少佐、上司である○モ○軍曹友人である○ー○ナ○上等兵の陳述からすれば少年は日頃勤務上真面目で同僚間にもトラブルもなく、よい性格であり与えられた仕事はきちんとやり、本件以外には問題を起した事のない少年であることと被害者に対して慰籍料として共犯者と各々一八〇ドル宛支払い示談も成立し、同人も寛大な処分を願う寛恕の意思があること及び本件に対して十分に反省している事等を併せて考えれば少年の更生を期することには期待が持てる事情にあるものである。
以上のような事情からして少年に対しては施設による矯正よりも在宅における適切な方法による矯正が少年の更生のためには役立つものであると思料する。そこで在宅矯正について考えるに保護観察による方法が少年の改善更生には最もよい方法であるが、少年は米国軍人であるので言葉上の問題と、軍人である以上軍規による規制、転属、除隊等から住居の制限等困難な点があり適切な指導監督の方法に実施困難を生ずる点があることを考えると少年の軍隊における上司等の強力な指導による方法が少年の健全育成には役立つものであると思料する。そこでその点について少年の部隊長である○ー○ヤ○少佐は当審判廷において少年は不拘束のまま勤務につけて十分やつて行ける少年を更生させるには上司の指導助言を受けさせ部隊長として責任を持つて身柄を引受け更正させる旨陳述していることからしても少年が軍人である事を考えれば少年は軍隊組織にある部隊長及びその他の上司等の指導監督に任した方がより少年の改善更生を助け適切な方法だと思料する。
よつて少年法第二三条二項により主文のとおり決定する。
(裁判官 下地裕)