那覇家庭裁判所平良支部 平成18年(少ハ)1号 決定 2006年6月09日
本人
A (昭和61.6.13生)
主文
本人を平成18年10月12日まで中等少年院に継続して収容する。
理由
第1申請の要旨
本人は,平成17年4月26日那覇家庭裁判所平良支部で傷害保護事件により中等少年院送致の決定を受けて,同月××日沖縄少年院に収容され,平成18年6月12日をもって収容期間が満了になる。
本人は,入院してすぐに体調不良,不眠等を申し出て,休養が続き,医師からうつ病との診断を受け,前回に続き京都医療少年院へ移送となった。京都で約5か月過ごして沖縄少年院に戻ったときには表情も明るく,院生活への意欲も見られた。ただ,自分を大きく見せようとする対人面での問題は相変わらず残っていたため,周囲の少年の反感を買い,対人トラブルを起こし,訓戒の処分を受けた。その後,面接指導により,生活に落ち着きを見せ始めたころ,今度は同僚の反則行為に容易に同調するなどの問題を起こし,謹慎処分を受けた。個別処遇の後に集団寮に戻り,内省や面接指導を受け,現在は落ち着いた生活ぶりである。対人面も適度な交わり方をしながら,問題なく過ごしている。なお,平成18年4月28日に実施した那覇少年鑑別所の鑑別技官による再鑑別の結果によれば,本人に対しては,社会適応力を高めるための指導が浸透しつつあると言えるが,やがて成人する本人の年齢を考慮すると,多くの点で未熟さが目立つとされている。
親との関係では,自分の非を認めて謝罪する姿勢を見せているが,傷害保護事件の被害者でもある継母は本人の更生を願いながらもまだ歩み寄れておらず,父親はそれに気を遣っているという状況で,まだまだ調整が必要である。
本人は平成18年3月16日付けで1級上に進級したが,出院準備教育期間がおよそ半月不足することになる。また,両親特に継母との関係修復を図り,職業中心の生活リズムを形成するには,ある一定期間の専門家による指導,監督が必要である。保護観察期間については概ね3か月程度が相当と思料する。
以上から,本人については,平成18年6月13日から4か月間の収容継続を申請する。
第2当裁判所の判断
1 本人は,建造物侵入・窃盗保護事件で平成14年10月8日に当庁で保護観察処分を受け,保護観察期間中に窃盗未遂,傷害保護事件を起こし,平成15年5月27日に再び当庁で中等少年院送致処分を受け,沖縄少年院に収容された。同院収容中に「うつ症状」により京都医療少年院に移送され,医療的処遇を受けるなどした後,平成16年6月30日に仮退院となり,保護観察が開始されたが,その保護観察期間中に,継母に対して暴行を加えて傷害を負わせる本件非行を敢行し,平成17年4月26日に当庁で中等少年院送致処分を受け(同年10月20日抗告棄却決定),同年4月××日に再度沖縄少年院に収容された。
2 今回の収容後の本人の生活状況は,申請の要旨記載のとおりである。
本人については,当初12か月で処遇カリキュラムが組まれていたところ,平成17年6月9日に2級下から京都医療少年院に移送となり,同年11月14日に同院から1級下に進級して沖縄少年院に移送され,同院においても1級下に認定された。平成18年6月13日で20歳に達することから同月12日までには出院予定であった。しかし,寮内の院生数人と数回にわたりパンの不正喫食をしていたことや,パンの持ち出しの見張り役をしていたことが発覚し,同年2月17日に謹慎7日間の処分を受け,そのために半月間カリキュラムが遅れた。同年3月16日に1級上に進級したが,本人の収容満期が同年6月12日であることから,出院準備教育期間が約半月不足することとなった。
3 本人は,自我が脆弱でストレス耐性が弱く,抑うつ気分に支配されやすい性格傾向がある上,対人技能が余りに未熟であり,「うつ状態」を発症したり,安易な判断で周囲の思惑に流されて規律違反に巻き込まれているのは,そうした資質上の問題のあらわれともいえる。他方,疾病に対して治療処遇が行われたことにより安心感や安定回復がされたことや,危険物取扱者(丙種)試験に合格した自信が,前向きな生活態度をもたらしており,社会適応力を高めるための指導が浸透しつつある段階といえるが,まもなく成人に達する本人の年齢を考慮すると,なお多くの点で未熟さが目立つ状況ではある。
4 本人は,本件非行や審判結果に対する心の整理ができつつあり,少年院収容中に実父と2度面会し,また,実父及び継母に数通の手紙を出して,謝罪の姿勢を示しているが,継母の心の傷は深く,いまだ本人の謝罪を受け入れることのできる状態にはない。家族関係の軋轢の解消,とりわけ本人と継母の関係修復は容易ではなく,出院後も一定期間は専門家による指導下に置き,家族調整を図ることが必要と考えられる。
5 以上の事情を勘案すると,本人の犯罪的傾向はいまだ十分に矯正されておらず,また,出院後も相当期間保護観察を必要とする事情があることが認められる。したがって,本人の収容を継続すべきであるが,出院準備教育期間は収容期間満了後約半月で終了する見込みであること,保護観察の期間としては出院後3か月余りが必要と考えられることから,収容継続の期間としては,申請どおり平成18年10月12日までとするのが相当である(なお,本人については,実質的な収容継続の期間が不相応に長期にわたらないよう,また,本人の更生意欲の低下を招来することのないよう,平成18年6月末を目途とした出院の検討等処遇上特段の配慮をされるよう希望する。)。
6 よって,少年院法11条4項,少年審判規則55条により,主文のとおり決定する。
(裁判官 足立勉)
<以下省略>