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那覇家庭裁判所沖縄支部 平成21年(家)94号 審判 2009年10月01日

主文

未成年者らの親権者を相手方から申立人に変更する。

理由

1  事実関係

本件記録によれば,以下の事実が認められる。

(1)  申立人(昭和49年×月×日生)と相手方(昭和55年×月×日生)は,平成11年ころに知り合い,平成12年ころに婚姻した。申立人と相手方との間には,平成12年×月×日に未成年者Aが,平成15年×月×日に未成年者Bが生まれたが,そのころ,申立人と相手方は,離婚した。もっとも,離婚によっても,上記家族4名による同居生活に変更はなく,申立人と相手方は,平成16年×月×日,再度,婚姻し,二人の間には,平成18年×月×日に未成年者Cが生まれた。未成年者らについては,相手方が中心となって監護に当たっていた。しかし,申立人と相手方は,平成20年×月×日,未成年者らの親権者を母である相手方と定めて離婚した。

(2)  相手方は,上記離婚に際し,実質的にも夫婦関係を解消する意思を有していたが,申立人に対しては,公的扶助を受給することを目的とした離婚であると説明したため,申立人は,前回の離婚と同様,離婚は形式的なものであり,実質的な夫婦関係に変更はないものと考えていた。

(3)  そのような経緯により,申立人,相手方及び未成年者らの共同生活がその後も続けられていたが,申立人との夫婦関係を解消しようと考えていた相手方は,同年×月×日,申立人に対して行き先や理由を告げることなく,自宅を出て,しばらくの間,××に滞在し,同年×月に至って米国へ移住した。相手方は,そのころ,米国人男性と婚姻した。相手方は,家出後も,母とは連絡を取り合っており,母は上記事実を知っていたが,申立人は上記事実を知らなかった。相手方の家出後,未成年者らは,学校や幼稚園,保育園帰りに相手方の母の住む実家に立ち寄ることがあるほか,基本的に自宅で申立人とともに生活をしていた。未成年者Aは小学校3年生であり,未成年者Bは幼稚園に,未成年者Cは保育園に,それぞれ通園していた。未成年者Aは,寝坊を理由とする欠席がやや目立つものの,それは相手方が同居していた時期からも認められ,申立人が監護するようになってから,特にその環境が悪化したという状況にはない。申立人は,○○として稼働しており,勤務時間は概ね午前8時30分から午後5時30分までであり,収入は1か月○○万円程度である。相手方の家出後,申立人は,食事や通学,通園の送迎など未成年者らの監護を全般的に行っており,申立人の母や妹が,時々,これを補助するという体制であった。なお,同人の母は,平成21年×月に死亡している。申立人と未成年者らとの関係にも,特に,問題は認められない。

(4)  相手方は,自らが米国での永住権を取得し,夫と未成年者らの養子縁組を成立させた上,米国において未成年者らを監護していく計画を立てており,その準備が整うまで,未成年者らの監護を相手方の母ら親族に委ねる意向を持っていた。しかし,相手方は,そのような計画について,申立人には秘していた。

(5)  申立人は,平成21年×月×日,相手方が未成年者らを残したまま行方不明であることを理由に,本件申立てをした。

(6)  当裁判所では,調査の結果,相手方が米国に在住していることが判明し,相手方の帰国予定時期に合わせて,同年×月ころに家庭裁判所調査官による相手方に対する面接調査を実施することを予定し,相手方の母を通じてその旨を連絡していた。ところが,同年×月×日,相手方の母は,公園へ遊びに連れて行くと述べて,申立人から未成年者らを預かると,帰国していた相手方へ未成年者らを引き渡した。そして,相手方は,そのまま未成年者らを連れて米国へ戻った。以後,未成年者らは,同国において,相手方の下で生活している。相手方は,夫の1か月約○○○○ドルの収入によって生活をしている。

2  判断

(1)  前記認定事実のとおり,申立人と相手方夫婦は,平成20年×月×日に離婚するに当たり,未成年者らの親権者を相手方と定めているが,当該離婚は相手方が公的扶助を受けるための形式的なものであり,実質的な夫婦生活を解消することは当事者間で話し合われておらず,実際上も,離婚後,従前の共同生活に変動がなかったものである。これらの事実からすれば,上記親権者の指定は,当事者間において,その適格性の観点から協議された結果に基づくものではなく,また,離婚後の未成年者らの監護についても,実体的には,申立人と相手方が共同して行う状態が続いていたものということができる。そして,相手方は,平成20年×月×日,未成年者らを置いて,自宅を出た後,程なくして米国へ移住しており,同日以降は,専ら,申立人が,未成年者らの監護を担っていたことが認められる一方,その監護状況に特段の問題点は認められない。しかも,相手方は,申立人に対してそのような事情を告げることなく,突然,姿を消したものである。このように,同日以降の約9か月間の未成年者らの監護状況に照らせば,その福祉の観点からして,明らかに申立人の方に親権者としての適格性が備えられていたというべきである。なお,平成21年×月×日以降,未成年者らは,相手方に監護される状態に移っているが,同人による米国における監護状況には,なお不明な点が多いこと,従前の環境と大きく異なり,未成年者らにとって種々の負担がかかるとみられる外国へ同人らをいきなり連れて行っていること,その態様も,本件の係属中において,申立人の意思を無視する形で連れて行ったものであること等を考慮すると,現在の監護環境を未成年者らにとって好ましいものであると評価することは困難である。

(2)  以上からすると,未成年者らの福祉のため,未成年者らの親権者を相手方から申立人に変更するのが相当である。

よって,主文のとおり審判する。

(家事審判官 伊丹恭)

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