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那覇簡易裁判所 平成20年(ハ)950号 判決 2008年9月30日

京都市下京区烏丸通五条上る高砂町381-1

原告

株式会社シティズ

同代表者代表取締役

●●●

同訴訟代理人

●●●

●●●

(●●●)

被告

●●●

同訴訟代理人弁護士

松崎暁史

主文

1  被告は,原告に対し,金8万0441円及びこれに対する平成20年3月24日から支払済みまで年21.9パーセントの割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを8分し,その1を被告の負担とし,その余は原告の負担とする。

3  この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

被告は,原告に対し,金64万8610円及びこれに対する平成20年3月24日から支払済みまで年21.9パーセントの割合による金員を支払え。

第2事案の概要

1  請求原因の要旨

原告が,平成18年4月25日被告の連帯保証のもと訴外●●●(以下「訴外人」という。)に貸し渡した金300万円の残元金と遅延損害金の支払請求(支払済みまでの金員はそのつど貸金業法43条を適用して弁済充当)。

2  争点

(1)  貸金業法43条1項によるみなし弁済の適用の可否。

ア 期限の利益喪失約款と支払の任意性。

イ 法17条書面の要件該当性。

(2)  平成19年8月1日の経過により期限の利益を喪失したか。

第3当裁判所の判断

1  期限の利益喪失約款と支払の任意性

(1)  本件金銭消費貸借契約証書(以下「契約書」という。)(甲3)6条,貸付及び保証契約説明書(以下「説明書」という。)(甲4)6条及び保証契約説明書(詳細)(以下「詳細説明書」という。)(甲8)7条には「各返済日の元金若しくは利息制限法所定の制限利息の支払いを遅滞したときは,催告の手続きを要せずして債務者は期限の利益を失い直ちに元利金を一括して支払います。」旨規定され,契約書8条,説明書8条及び詳細説明書9条には「弁済金は約定利息,損害金,元金の順に充当します。」旨規定されている。

(2)  法43条1項にいう「債務者が利息として任意に支払った」及び同条3項にいう「債務者が賠償として任意に支払った」とは,債務者が利息の契約に基づく利息又は賠償額の予定に基づく賠償金の支払に充当されることを認識したうえ,自己の自由な意思によってこれらを支払ったことをいい,債務者において,その支払った金銭の額が利息制限法1条1項又は4条1項に定める利息又は賠償額の予定の制限額を超えていること又は当該超過部分の契約が無効であることまでを認識していることを要しないところ,本件のように利息の約定利率が利息制限法1条1項の制限利率を超える場合でも,上記(1)記載の本件期限の利益喪失約款の規定では債務者が期限の利益を喪失しないためには利息制限法所定の制限利息及び返済日の約定分割元金のみ支払えばよく,制限利率を超える約定利息額の支払いをしなくても期限の利益を失わないことは明かであり,本件期限の利益喪失約款の規定が存在することで,債務者において期限の利益を喪失することを免れるために利息制限法を超える約定利率による利息の支払を事実上にしても強制されるということはできない。

(3)  しかし,上記(1)記載の弁済充当特約が存在することから,債務者において,毎月の返済日に約定利息及び約定分割元金の合計額に満たない利息制限法所定の制限利息及び約定分割元金の弁済を行ったとしても元金の支払に満たなくなることは明かであり,本件期限の利益喪失約款の規定により期限の利益を失うことになるとの疑義を生じ,結局本件期限の利益喪失約款及び弁済充当特約の規定では,債務者に対し,毎月の返済日に約定分割元金とともに制限超過部分を含む約定利息を支払わない限り,期限の利益を喪失し,残元本全額を直ちに支払い,これに対する遅延損害金を支払うべき義務を負うことになるとの誤解を与え,その結果,このような不利益を回避するために,制限超過部分を支払うことを債務者に事実上強制することになるものというべきである。

(4)  本件金銭消費貸借契約締結に際して,被告らに対し,原告が,原告の平成20年7月30日付け準備書面4頁第1の6(2)記載のような具体的事例を示しながらなどして,本件弁済充当特約の規定が存在するが,毎月の返済日において,弁済額が約定利息及び約定分割元金の合計額に満たない利息制限法所定の制限利息及び約定分割元金の合計額に過ぎない場合でも,制限利息及び約定分割元金の合計額を上回ってさえいれば期限の利益を喪失することはない旨書面及び口頭で説明していれば上記(3)記載の誤解を債務者たる被告らに与えることが防げ,制限超過部分を支払うことを事実上強制することにならないといえるが,本件では,その旨を書面及び口頭で説明したと認める証拠はない。よって,本件では,制限超過部分を支払うことを債務者たる被告らに事実上強制することになるというべきで,債務者たる被告らが自己の自由な意思によって制限超過部分を支払ったものということはできない。

(5)  貸金業法43条1項は,貸金業者が業として行う金銭消費貸借上の利息の契約に基づき,債務者が利息として支払った金銭の額が利息の制限額を超え,制限超過部分につき,その契約が無効とされる場合において,貸金業者が,貸金業に係る業務規制として定められた同法17条1項及び18条1項所定の各要件を具備した各書面を交付する義務を遵守しているときには,その支払が任意に行われた場合に限って,例外的に,利息制限法1条1項の規定にかかわらず,制限超過部分の支払を有効な利息の債務の弁済とみなす旨を定めたものであり,法43条1項の規定の趣旨にかんがみると,同項の適用に当たっては,制限超過部分の支払の任意性の要件は,明確に認められることが必要と解されるが,本件では,上記のように制限超過部分の支払の任意性の要件を充足しているということができず,貸金業法17条1項所定の要件を具備した書面を交付する義務を遵守したか否かを判断するまでもなく,法43条1項のみなし弁済の規定の適用がないというべきである。

2(1)  契約書1条1項,説明書1条1項及び詳細説明書2条1項によれば,毎月1日に約定分割元金5万円を60回にわたって分割払いする約定であったことが認められ,契約書3条,説明書3条及び4条によれば,年率29.20パーセントの割合による約定利息を毎月1日に60回にわたって支払い,経過日数については,各返済日の前日(貸付日を含む)までであったこと,そして,約定支払日が土曜,日曜,祝日,振替休日,12月31日から1月4日,その他債権者(原告)の休業日に当たる日は翌営業日を支払日とし,利息の日数計算は翌営業日の前日までであることが各認められる。

(2)  証拠及び弁論の全趣旨から,訴外人及び被告において,平成19年8月1日に約定分割元金及び利息制限法所定の制限利息の支払を怠ったことが認められる。

(3)  被告らにおいて,支払期日に約定分割元金及び利息制限法所定の制限利息すら支払わなかったときには,期限の利益を喪失すると解するのが相当である。

3  争点についての判断は以上のとおりであり,本件貸付については貸金業法43条1項のみなし弁済の規定の適用がなく,かつ,被告らにおいては平成19年8月1日の経過により期限の利益を喪失しているから,原告と被告らの貸金取引に関し,利息制限法所定の利率により引直計算すると別紙計算書のとおり,原告の被告に対する債権額としては金8万0441円及びこれに対する平成20年3月24日から支払済みまで年21.9パーセントの割合による金員ということになり,原告の請求は主文の範囲で理由があるので,一部認容することとし,主文のとおり判決する。

(裁判官 松本和秀)

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