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都城簡易裁判所 平成16年(ハ)97号 判決 2004年11月18日

鹿児島県●●●

原告

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同訴訟代理人司法書士

河野幸広

宮崎市●●●

被告

有限会社コスモ商事

同代表者代表取締役

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同訴訟代理人支配人

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同訴訟代理人

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主文

1  被告は,原告に対し,金65万1020円及びこれに対する平成15年10月22日から支払済みまで年6パーセントの割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

主文同旨

第2事案の概要

1  事案の要旨

本件は,原告が,貸金業を営む被告との金銭消費貸借契約に基づき,別紙「利息制限法による計算書(1),(2)」記載のとおり,被告から金員を借り入れ,返済をしたが,これまでに支払った金員を,利息制限法所定の制限利率(以下,単に「制限利率」という。)でそれぞれ計算し充当した結果,過払金の合計額が65万1020円になること,そして,被告が過払金の取得につき民法704条所定の「悪意の受益者」に当たるので,受けた利益に利息を払わなければならならず,そして,その利率は,商事法定利率である年6パーセントの割合によるべきであるとして過払金と利息を請求し,これに対して,被告は,原告は上記計算書で有限会社クレスト(以下,単に「クレスト」という。)が受けた保証料を利息制限法3条のみなし利息として計算しているが,クレストは被告とは別の法人であるので,みなし利息にはあたらず,また,被告は悪意の受益者でもないと争っている事案である。

2  争点

(1)  被告と別会社であるクレストが受領した保証料が利息制限法3条のみなし利息に該当するか。

(2)  被告は,民法704条所定の「悪意の受益者」に当たるか。

3  争点に関する当事者の主張

(1)  争点(1)(被告と別会社であるクレストが受領した保証料が利息制限法3条のみなし利息に該当するか)について

(原告)

利息制限法3条は,「前二条の規定の適用については,金銭を目的とする消費貸借に関し債権者の受ける元本以外の金銭は,礼金,割引金,手数料,調査料その他何らの名義をもってするを問わず,利息とみなす。但し,契約の締結及び債務の弁済の費用は,この限りでない。」と規定している。同法の趣旨は,金銭消費貸借上の貸主には,借主が実際に利用することが可能な貸付額とその利用期間を基礎とする法所定の制限内の利息の取得のみを認めて,利息制限法の制限利息を超過するいかなる名目の利得も利息とみなすものであると解されるところ,平成15年7月18日付け最高裁判決においても,同様の趣旨から,別法人において徴収された「保証料」はみなし利息であると認定されている。

本件では,実質的にも,被告とクレストの関係は,乙A第33号証によれば,その信用保証約定書の基本契約第6条には,「前条の保証債務支払額の限度額は,甲(クレスト)が当該会計年度末(毎年9月末日)において受領した受取保証料総額(乙(被告)との関係で受領したものに限る)の90%を限度として甲乙協議のうえ決定する」と規定されているとおり,被告の借主が支払った保証料は,クレストを通じて保証料の90パーセントを限度にして一定の事由が生じた場合,被告に還元されるという仕組みのものであって,しかも,保証料率は,被告の恣意により上下出来るのであり,本件で原告が支払った金銭は,甲第9号証の1,2のとおり,被告の取得した利息制限法所定の利息よりも原告の支払った保証料の総額の方が遙かに多額であって,被告は貸金業の規制等に関する法律(以下,単に「貸金業法」という。)に定めたみなし弁済の要件を満たすことなく,利息制限法3条を潜脱して年54.75パーセントの利息を確保できるシステムを整備しているのであって,クレストが仮に別会社であるとしても,みなし利息にあたらないということはできない。

よって,原告は,前記「利息制限法による計算書(1),(2)」において,クレストが受けた保証料も被告に対し,みなし利息として計算している。

(被告)

名古屋高裁の平成13年7月4日付け判決は,①債権者は,債務者から徴求した保証料等を預金して処理し,貸付金の返済とは関係なく,月2回保証会社に支払っている。②債権者は,保証会社とは別個に税務申告し決算処理している。③保証会社は求償権行使を行い,回収不能なものについては債権放棄手続をとっているといった点を指摘し,債権者と保証会社を同一視することはできない等と判示して,保証料はみなし利息に該当しないという結論を導いている。

本件においても,被告とクレストとは上記高裁の判決と同様に近い業務形態であり,また,文理上からも,クレストに支払う保証料は,「債権者の受ける元本以外の金銭・・」に該当せず,みなし利息とはならない。

(2)  争点(2)(被告は,民法704条所定の「悪意の受益者」に当たるか。)について

(原告)

原告と被告は如上のように制限利率を超える利息の約定のある金銭消費貸借契約を締結しているが,超過部分の約定は利息制限法1条1項により無効であり,また被告は,貸金業法43条1項のみなし弁済の規定が適用されるために必要なすべての要件を具体的に主張もしておらず,このような状況のなかで被告は原告から支払をうけているのであるから,被告は法律上の原因がないことを知りながら原告から利息等を受け取っていたという認識があった筈である。すなわち,被告は悪意の受益者である。

なお,その利率は,被告の過払金返還債務が貸金業者である被告の貸付と弁済の受領という商行為に起因するものであって,商行為により生じた債務に準じるものであり,原告からの受領金をその営業のために使用していたものと推認されるのであるから年率5パーセントではなく,年率6パーセントによるのが相当である。

(被告)

被告は「悪意の受益者」ではない,また年6パーセントとの原告の主張も認められない。

第3当裁判所の判断

1  請求原因事実は,争点(1),(2)を除いて,証拠及び弁論の全趣旨によりこれを認めることができる。

2  争点(1)について

利息制限法3条の趣旨については,「貸主は,往々にして元利金の返済を受ける外,礼金,割引金,手数料,調査料等を徴することがあるが,これらのものの多くは,元本使用の対価,すなわち,利息の実質を有するのみならず,これらの名義を用いて利息の制限を潜脱することを防ぐ必要があるので,これを利息とみなしたのである」と説明されているところであり,そうすると,同条は,法により利率の規制の潜脱行為を防ぐことを意図した規定であり,制限利率以上のものはいかなる名目の金銭も借主から受け取らせないという規定であることがわかる。

まず,本件では,被告が日賦貸金業者の利息として,出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律(以下,単に「出資法」という。)に定める最高利率である年54.75パーセントを原告から徴する他に原告と別会社となっているクレストが保証料として貸付金額の5パーセントから8パーセントの金額を受け取る仕組みになっているが,被告は54.75パーセントの利息を原告から取得できる事由を明らかにしておらず,従って保証料は,上記いかなる名目の利得も認められないという趣旨からすれば,本件保証料が利息制限法3条にいうみなし利息に該当することは明らかである。

次に,保証料を被告とは別会社であるクレストが受領していることについてであるが,保証料については,被告も別会社であるクレストが原告主張のとおり保証料を受領していることを認めているところ,利息制限法の趣旨を前記の様に,いかなる名目を問わず借主から制限利率以上のものを受け取らせないということにあるのであれば,仮に保証料を貸主と別の者が受け取っているとしてもこの理は変わらないということになる。したがって,本件で,クレストが受けた保証料を,原告が,本件訴状でみなし利息として計算書に計上することは許される。

また,このように解さなければ,本件のような場合に保証会社さえ介在させれば利息制限法3条そのものが潜脱されることになってしまうのである。

ましてや,本件では乙A第33号証の信用保証約定書の基本契約第5条,第6条によれば,借主に一定の事由が生じた場合は,被告はクレストの受けた保証料を90パーセントの範囲内で受領出来る仕組みになっているのであり,更に,被告は,被告の貸付の条件である保証委託契約の保証会社はクレストのみであること,また,クレストが受け取る保証料は被告を経由して渡されていること等を釈明しているのであって,被告とクレストは,形式的には別会社であっても,みなし利息に該当するか否かを本件訴訟において判断する限りにおいては,実質的に同一の会社であるとみるべきである。

3  争点(2)について

(1)  被告は,日賦貸金業者であり,貸金業法や出資法,利息制限法等の関係法律と密接に関連する業務を日々行っているのであるから,貸金業法43条のみなし弁済の成否,ひいては,不当利得になる場合があること等については当然認識している筈である。本件訴訟において,被告は,一応は,みなし弁済の主張をしてはいるけれども,みなし弁済が認められる前提になる日賦貸金業者として営業できる要件を全ては主張してはおらず,不当利得になるものであることは当然知っていたと考えるのが相当である。よって,被告は悪意の受益者であると認められる。

(2)  上記のとおり,被告は,不当利得するについて悪意であったことが認められるので,その利息の発生は特段の事情が認められない限り原告の支払が過払いになった時点からと解すべきであり,そして,その利率については,被告が商人であり,利得物を営業のために利用して収益を上げているものと認められるから,商事法定利率である年6パーセントとするのが相当である。

4  なお,被告は,貸金業法43条のみなし弁済の要件を主張しているが,被告は日賦貸金業者であるから,その営業方法としては,ア登録を受けた貸金業者であること,イ主として物品販売業者,物品製造業者,サービス業者で,内閣府令で定める小規模のもの(常時使用する従業員の数が5人以下のもの)を貸付けの相手方とすること,ウ返済期間が100日以上であること,エ返済期間の5割以上の日数にわたり,貸付けの相手方の営業所又は住所において貸金業者が自ら集金する方法により取り立てること,の以上の要件を充足しなければならず,そしてこれらの要件が主張・立証できた時に初めて貸金業法43条のみなし弁済の規定を主張できるものと解されるから,以上の要件を主張・立証しない被告が貸金業法43条のみなし弁済の要件を主張すること自体が主張失当となる。

5  よって,本件取引に基づく貸付及び返済について,利息制限法所定の制限利率により順次元本充当を行うと,過払額は別紙計算書(1),(2)のとおり合計65万1020円となり,これに,最終弁済日の翌日である平成15年10月22日から年6パーセントの割合による利息を付して,主文のとおり判決する。

(裁判官 坂本健一郎)

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