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金沢地方裁判所 平成11年(行ウ)5号 判決 2001年5月17日

原告

笹次重太郎

(ほか8名)

原告兼原告ら訴訟代理人弁護士

中村正紀

(以上10名、Xら)

原告ら訴訟復代理人弁護士

岩淵正明

鳥毛美範

奥村回

橋本明夫

川本藏石

被告

(石川県知事) 谷本正憲(Y1)

(県商工労働部長) 山岸勇(Y2)

(県商工政策課長) 田所創(Y3)

(県企業立地推進室長) 山田正彦(Y4)

被告ら訴訟代理人弁護士

橋本勇

主文

1  原告らの被告山岸勇及び同山田正彦に対する主位的請求に係る訴えをいずれも却下する。

2  被告谷本正憲及び同田所創は、石川県に対し、連帯して金58万0716円及びこれに対する平成11年9月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  被告山岸勇は、石川県に対し、金4万4670円及びこれに対する平成11年9月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4  被告山田正彦は、石川県に対し、金4万4670円及びこれに対する平成11年9月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

5  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実及び理由

第7 当裁判所の判断

1  主位的請求の被告適格について

(1)  原告らの主位的請求は、本件支出が違法であるとして、地方自治法242条の2第1項4号前段に基づき、石川県に代位して損害賠償を請求するものであるから、その請求訴訟は、同号前段にいう「当該職員」、すなわち、問題とされている財務会計行為(本件の場合は本件支出行為)を行う権限を法令上本来的に有するとされている者及びこれらの者から権限の委任を受けるなどして右権限を有するに至った者を被告としなければならないところ、前記第2の事実関係からすれば、被告谷本は、本件支出行為を行う権限を法令上本来的に有するとされている者であり、被告田所は、本件支出行為を行う権限を法令上本来的に有するとされている者から権限の委任を受けるなどして右権限を有するに至った者であるけれども、被告山岸及び同山田は、そのいずれにも該当しない。

したがって、原告らの被告山岸及び同山田に対する主位的請求に係る訴えは、地方自治法により特に出訴が認められた住民訴訟の類型に該当せず、不適法といわなければならない。

(2)  原告らは、被告山田及び同山岸は同号前段の「当該職員」である被告田所と共謀し、被告田所をして違法な本件支出行為をさせたものであると主張するけれども、両被告に上記のような行為があり、それにより石川県が両被告に対して損害賠償請求権を取得しているにもかかわらず違法にその行使を怠っているとされる場合に、同号後段に基づく代位請求訴訟を提起する余地があるのは格別、元来同号前段所定の「当該職員」に該当しない者が上記のような行為をしたというだけでは、「当該職員」に該当することになるとはいえないから、原告らの上記主張をもっては、前記(1)の判断は左右されない。

2  本件懇談会の開催の経緯、内容及び費用

前記第2の当事者間に争いのない事実に、以下の(1)ないし(4)の各項の末尾に括孤書きした各書証及び原告林木、被告山田各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下の(1)ないし(4)の各事実が認められる。

(1)  (本件企業誘致)

石川県はかねてから、重要施策の一つとして、企業の石川県への進出を積極的に誘致してきたところ、平成5年以来、日野自動車グループの上場企業である、日野車体との間で、概ね被告らの主張するとおりの経過で企業誘致交渉を続け、数年にわたる精力的な折衝の結果、紆余曲折があった後、平成10年4月に至り、日野車体の経営陣は、石川県小松市に本社機能を含めて工場移転し進出すること(本件企業進出)を決定した。その後も折衝を重ねた結果、同年7月1日ころ、日野車体の代表取締役社長等が同月末ころに石川県庁を訪れて知事に対し正式に本件企業進出を表明する手筈となった。

本件企業進出は、上場企業が本社機能を含めて進出してくるという石川県にとって初めての事例であり、かつ、被告らをはじめ石川県の担当部局では、今後10年間で1000億円を超える経済効果が見込まれると試算し、それが成功裏に進行することに大きな期待を寄せていた。(〔証拠略〕)

(2)  (本件懇談会の企画・設定)

そこで、本件企業誘致を担当してきた被告山田は、本件企業進出に対する石川県側の感謝・歓迎の意と熱意及び期待を表明し、併せて、日野車体の進出意思を強固にしてもらうとともに、相互の意思疎通を図り、今後の折衝を円滑に進める一助となるように、日野車体が正式に進出を表明した直後に石川県・小松市の責任者・担当者と日野車体の幹部役員との懇談会を実施することを計画した。被告山田は、上場企業の幹部役員を迎えて上記のような期待と意向を表明するのに相応しいように、可能な限り上等な懇談会とすべく、高級料亭での懇談会を予定し、予算として60万円を支出できるように計らうこととし、商工政策課庶務係の辻本係長にその旨の支出負担行為伺の起案をしてもらい、被告田所の決裁を得た。

その後、日野車体との間で進出条件の合意もでき、日野車体の役員会で正式に進出が承認された旨の連絡を受けたので、被告山田は、同月27日ころ、知事の被告谷本と日野車体側の日程調整を図り、被告谷本は海外出張に出る前々日の7月31日の午後5時前に東京から帰庁するので、その帰庁直後に、日野車体から被告谷本に正式に進出表明をしてもらい、それに引き続いて懇談会を開催することとした。被告山田は、その懇談会を行う会場として、金沢市内の高級料亭の中から、風情があり犀川を眺望できる「つば甚」を選び、「つば甚」の女将に電話をして仮予約をした。料理は、女将の「一般的には2万円程度でしょう」とのアドヴァイスにより1人2万円の料理とした。女将から「芸妓さんを呼んだらどうでしょうか」との話があり、被告山田は、「では頼む」と依頼し、人数も女将の言う人数に任せ、芸妓の披露する舞踊の内容等については何ら打合せ等をしなかった。被告山田は、上記会場・内容を被告山岸に報告し了承を得て、本予約をした。

本件懇談会の企画・設定に当たり、被告山田その他石川県側において、懇談会で日野車体と意見交換する事項等について、検討、準備したり、日野車体側と連絡し合った形跡は見当たらない。(〔証拠略〕)

(3)  (本件懇談会の会場、料理及び芸妓の同席)

本件懇談会の会場となった「つば甚」は、金沢市内の著名で格式ある高級料亭の1つであり、全国的にも有名な加賀料理を提供する料亭である。「つば甚」では、一般向けのパンフレットでは、夕食(会席料理)として、3万円、2万円、1万5000円の料金を案内しており、本件懇談会ではその中位の料理を選択した結果となっている。

金沢では、踊り、笛、三味線、唄からなる芸妓の芸は、伝統芸能として一般に認知されており、各種祝賀会事や結婚披露宴等の場でも披露されており、石川県や金沢市は、これを伝統芸能の一環として積極的に助成しているところであるが、本件の場合、被告山田は、前記のとおり、「つば甚」の女将のアドヴァイスで芸妓を呼ぶことにしたにすぎず、その人数も女将任せであったし、芸妓にどのような芸を披露してもらうかを検討したこともなく、その芸を懇談会出席者が理解、鑑賞する準備も何ら行っていない。(〔証拠略〕)

(4)  (本件懇談会の実施・内容・費用)

7月31日午後5時ころ、日野車体の代表取締役社長等が石川県庁を訪れて知事に「本社・工場進出意向表明書」を提出し、正式に本件企業進出を表明し、記者会見を行った。その後、「つば甚」に移動し、6時30分ころから、前記第2記載のとおり、被告ら・小松市長及び日野車体側幹部8名が出席して、本件懇談会を開始し、最初に石川県知事として被告谷本が挨拶し、次いで日野車体の社長が挨拶した後、芸妓5人による笛、三味線、日本舞踊のお座敷芸が約30分披露された。その後、加賀料理と酒・ビールを飲食しつつ、午後8時30分過ぎころまで歓談し、会を終了した。会の開始から終了までを通じて、個々の出席者の間では、被告らが前記第5の5項(5)で主張するような話題に係わる会話も随時交わされたが、出席者全体に協議・意見交換する事項が提示されたり、議事進行が図られたり、出席者全体で意見交換がされるようなことはなかった。この間、5人の芸妓は、会場に止まり、酌をしたり、会話の相手を務めたりした。出された酒は、酒38本・ビール34本・冷酒4本・冷酒(大)2本(単純平均で、1人当たりビール2ないし3本、酒4ないし5本)の大量に及んだ。費用の総額は58万0716円、1人当たりの費用は4万4670円の高額に上り、費用の内訳は、料理26万円、酒・ビール等6万5750円、伝統芸能14万6800円、奉仕料・消費税・特別地方消費税10万8166円であった。

なお、本件懇談会後、被告らにおいて、本件懇談会での会話につき集約、検討がされたり、記録化されることはなかった。(〔証拠略〕)

3  本件懇談会の趣旨目的

(1)  上記1及び2で認定した本件懇談会の企画・設定の経緯及び本件懇談会の場所・内容・経過・費用等に照らせば、本件懇談会は、本件企業進出に対する石川県側の感謝・歓迎の意と熱意・期待を表明し、日野車体の進出意思を強固にしてもらうとともに、相互の意思疎通を図ることを目的とした、いわゆる接遇・接待の趣旨の会合であったものであり、むしろ、高級料亭での酒宴をもって接待したものであると認めるのが相当である(上記のうち、石川県側の感謝・歓迎の意と熱意・期待を表明し、日野車体の進出意思を強固にしてもらい、相互の意思疎通を図ることが本件懇談会の主たる目的であったことは被告らの自認するところでもあると解される。)。

(2)  被告らは、上記(1)の他に、今後日野車体との間で折衝、解決されるべき問題についての意見交換をすることも本件懇談会の目的の一つであったと主張し、本件懇談会において被告らが5項(5)で主張するような話題に係わる会話が随時交わされたことは前記認定のとおりであるけれども、前記認定の本件懇談会の内容・進行の仕方・酒量・芸妓の同席に照らしても、事前の準備の存在しないこと及び事後の検討・記録化の存在しないことに照らしても、被告ら主張のような意見交換が本件懇談会の目的の一つであったとは到底認められないし、本件懇談会において実務的に意義のある意見交換がなされたものとも認められないから、被告らの上記主張は採用できない。

(3)  なお、前記認定の芸妓同席の経緯、並びに、芸妓は伝統芸能披露後も本件懇談会に止まり接待をしていた事実に、本件懇談会の内容・経過・酒量等を併せ考えれば、芸妓の伝統芸能を鑑賞することが本件懇談会の目的の一つであったとは到底認められない。

4  本件支出の違法性の有無

(1)  地方公共団体の執行機関が、当該団体の事務を遂行し対外的折衝等を行う過程において、社会通念上儀礼の範囲に止まる程度の接遇・接待を行うことは、当該地方公共団体も社会的実体を有するものとして活動している以上、その事務に随伴するものとして許容されるものというべきであるが、それが公的存在である地方公共団体により行われることに鑑みれば、対外的折衝等をする際に行われた接遇・接待であっても、それが社会通念上儀礼の範囲を逸脱したものである場合は、その接遇・接待は当該地方公共団体の事務に当然伴うものとはいえず、これに要した費用を公金により支出することは許されないものというべきである。

(2)  また、地方自治法232条1項によると、地方公共団体はその事務を処理するために必要な経費を支弁するものであり、同法2条14項には、「地方公共団体は、その事務を処理するに当っては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。」と規定され、また、地方財政法4条1項には、「地方公共団体の経費は、その目的を達成するための必要且つ最少の限度をこえて、これを支出してはならない。」と規定されており、これらの法令の趣旨からすれば、接遇・接待が地方公共団体の事務遂行に随伴するものといえる場合であっても、その費用が事務処理の経費として公金から支出される以上、当該接遇・接待の目的・趣旨、経緯、出席者、場所、内容及び1人当たりの費用等を総合考慮して、目的・効果との関連・均衡上必要最少限と評価しうる費用で行われるものでなければ、社会通念上儀礼の範囲に止まるものとはいえず、これに要した費用を公金により支出することは違法となり、許容されないものというべきである。

(3)  これを本件について検討すると、前記認定の事実関係によれば、本件懇談会は、企業誘致という石川県が重点を置いてきた施策事務の遂行過程において、これに関連して、その誘致企業の幹部に対して行った接遇・接待であり、一定の効果も期待して行われたものと認められるけれども、次のアないしエの諸点に鑑みると、本件懇談会のような高額な費用を要する酒宴をもってする接遇・接待が、本件企業誘致の実現・確保ないしその円滑な実施の事務遂行上必要であるとも、その費用に応じた意義・効果を有するとも到底いえず、本件懇談会は、上記事務の遂行に必要・有意義な範囲を大きく逸脱し、過大な費用を要するものであったといわざるを得ない。すなわち、

ア  元来、企業にとって一定の地域に進出するか否かは、当該企業の事業経営にとって経済的に合理性・有利性を有するか否かが決定的な判断基準であると解されるのであり、企業誘致の実現を図るには、企業立地の条件を整備したり、進出企業に対する優遇措置・支援措置を講じたり、当該地域の利点・適性や上記条件整備・各種措置等を説明、説得したりするのが本来のあり方と解され、〔証拠略〕、被告山田本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、石川県を始め各地方公共団体とも、基本的には、上記のような施策・活動をもって企業誘致を推進しているものと認められる。

なお、〔証拠略〕によれば、一旦進出を決めた後にそれを撤回、変更する企業が相当数あることが認められるけれども、上記各証拠及び弁論の全趣旨によれば、その撤回、変更の決定的な要因もまた、上記のような事業経営上の経済的合理性・有利性の存否であることが認められる。

したがって、対象企業の経営幹部等に対して接遇・接待を行うこと自体は、企業誘致の実現に対しさほど意義ある影響を与えるものではないというべきであり、まして、その接遇・接待が高級料亭での高額接待であるからといって、その意義に格別の差異が生じるということはないものといわなければならない。

イ  まして、本件懇談会の場合は、上記のような本来的誘致活動の結果、日野車体において既に、経済的合理性・有利性ありと判断して、石川県小松市に進出することを正式に決定していたのであり、しかも、本件懇談会は、日野車体が本件企業進出を正式に表明し記者会見する予定を立てた時期に、当該表明の直後に行うことを計画して、そのとおり実施されたものであるから、かかる時期・経緯において行われる接遇・接待は、企業進出の実現に格別の影響を与えるものではないといわざるをえない。

ウ  もっとも、企業進出が決定・表明された後に、これに対して地方公共団体側が感謝・歓迎の意と熱意・期待を表明し、相互の意思疎通を図ること自体は社会的相当性を有するものと解されるし、また、以後の進出撤回を防止し、当該企業進出の実現に関連する地方公共団体の事務を円滑に進め、進出以後の当該企業の活動が地方公共団体の住民の福祉に適うように促す等の企業誘致関連事務遂行上一定の意義を有するということができるけれども、そのような意思表明・意思疎通を行うために、本件懇談会のような高級料亭における酒宴接待が必要であるとは到底解しがたいし、その費用に応じた意義・効用があるとも解されない。

エ  なお、〔証拠略〕、原告林木本人の供述によれば、多数の地方公共団体で、企業進出決定後の接待懇談会は行っていないことが認められるのであって、このことからも、進出決定・進出表明後の接待懇談会は、企業誘致事務上格別の意義・効用を持たないことが示されているというべきである。

また、〔証拠略〕、原告林木本人の供述によれば、1人当たりの費用が本件懇談会ほど高額な懇談会、接待は、石川県においても他県においても見当たらないことが認められるのであって、この点からしても、本件懇談会は、他に類例が見当たらないほど過大な費用を要するものであったのといわざるを得ない。

(4)  してみれば、本件懇談会による接遇・接待は、企画当初から、その全体が不可分の一体として、社会通念上儀礼の範囲を大きく逸脱しており、地方公共団体の事務に当然伴うものとは到底いえず、これに要した費用を公金により支出することは違法であり、許されないものというべきである。

(5)  なお、地方公共団体の行う接遇・接待が制約される根拠・範囲が前記(1)、(2)記載のとおりである以上、その接遇・接待の対象たる誘致企業の進出による経済効果の大きさをもっては、接遇・接待費用支出の違法性を阻却することはできない。

また、被告らは、民間企業における交際と共通性があると論じるけれども、自己の計算で利潤獲得を目的に活動する民間企業と、公費をもって賄われる公的存在として行政事務執行の公正さと経費支出の必要最少限性を求められる地方公共団体とを同列に論じることはできず、被告らの立論は採用できない。

さらにまた、被告らは、沖縄サミットの事例等を挙げるけれども、国家間の外交の一環として外国政府の指導者を接遇・接待することと、誘致企業とはいえ、一民間企業の経営者を接遇・接待することとは、公費使用の許容性において、次元を異にするといわなければならず、この点における被告らの立論も採用できない。

(6)  したがって、本件支出は全体として違法というべきである。

5  石川県の損害・損失

上記4に判事示したところからすれば、石川県は、違法な本件支出により、その支出全額に相当する58万0716円の損害・損失を被ったものというべきである。

6  被告らの責任

(1)  被告田所は、本件支出行為を専決したものであり、前記4に判示したところからすれば、被告田所は、わずかな注意を払えば、本件支出の前記違法性を認識しえたものというべきであるから、上記専決をするにつき少なくとも重大な過失があったものといわざるを得ない。

したがって、被告田所は、地方自治法242条の2第1項4号前段の「当該職員」として、石川県の被った前記の本件損害を賠償する義務がある。

(2)  被告谷本は、本件支出行為につき法令上本来的権限を有する石川県知事の職にあり、専決者である被告田所の行為について指揮監督すべき義務を負っていたところ、同被告は、本件懇談会の実施に同意し、自らこれに出席していたものであり、このことに、前記認定の本件懇談会の企画・設定に至る経過等を併せ考えると、被告谷本は、本件懇談会が高級料亭で行われること等その大枠を知らされていたものと推認され、それにもかかわらず、被告田所の本件支出行為を阻止しなかったものであるから、過失により上記指揮監督責任を怠ったものというべきである。

したがって、被告谷本もまた、地方自治法242条の2第1項4号前段の「当該職員」として、石川県の被った本件損害を賠償する義務がある(なお、この損害賠償義務は、被告田所の前記損害賠償義務と不真正連帯の関係にある。)。

(3)  次に、被告山岸及び同山田は、本件懇談会に出席して飲食したものであるところ、前記認定の事実関係からすれば、同被告らは、本件支出が違法であることを知りながら飲食したものと推認するのが相当であるから、同被告らは、前記判示の違法な本件支出のうち各被告が費消した金額相当分につき、法律上の原因なく、かつ、そのことにつき悪意で利得し、石川県に同額の損失を与えたものというべきである。

したがって、被告山岸及び同山田は、それぞれ、石川県に対し、本件支出の13分の1に相当する4万4670円(円未満切り捨て)の不当利得返還義務を負い、石川県がその返還請求権を行使しないことは違法に財産の管理を怠っているものとして地方自治法242条の2第1項4号後段の「怠る事実」に該当するものというべきである(なお、同被告らのこの不当利得返還義務は、前記被告田所、同谷本の前記各損害賠償義務と、それぞれ上記4万4670円の範囲で不真正連帯の関係にある。)。

第8 結論

以上の次第で、原告らの被告山岸及び同山田に対する主位的請求に係る訴えは不適法として却下することとし、被告谷本及び同田所に対する主位的請求並びに被告山岸及び同山田に対する予備的請求は理由があるから認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、64条但し書、65条を適用し、仮執行の宣言の申立てについては相当でないので却下することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺修明)

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