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金沢地方裁判所 平成13年(行ウ)8号 判決 2002年2月07日

原告

原告

被告

金沢税務署長

能瀬幸信

上記指定代理人

平野朝子

松井保之

閨良一

宮島尚史

松田久丸

若山隆男

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が原告甲に対して平成12年5月25日付けでした平成10年分の所得税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と総称して「本件各課税処分」ともいう。)を取り消す。

2  被告が原告乙に対して平成12年5月25日付けでした平成10年分の所得税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)を取り消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

二  被告

主文同旨の判決。

第二基礎となる事実関係

次の各事実は、当事者間に争いがなく(原告らにおいて争うことを明らかにしない事実を含む。)、本件の基礎となる事実関係である。

1  原告甲は、別紙1「本件更正処分及び本件賦課決定処分の根拠」の1(1)アないしウ記載のとおり不動産を譲渡し、同エ記載のとおり平成10年分の所得税の確定申告をした。

2  原告乙は、別紙1「本件更正処分及び本件賦課決定処分の根拠」の1(2)ア記載のとおり不動産を譲渡し、同イ記載のとおり平成10年分の所得税の確定申告をした。

3  これに対して、被告は、原告甲の平成10年分の正当な所得税額は別紙1「本件更正処分及び本件賦課決定処分の根拠」の2(1)記載のとおりであるとして、別紙2-1「原告甲に対する課税処分の経緯」記載のとおり、平成12年5月25日、原告甲に対し本件更正処分及び本件賦課決定処分をした。

4  被告は、また、原告乙の平成10年分の正当な所得税額は別紙1「本件更正処分及び本件賦課決定処分の根拠」の2(2)記載のとおりであるとして、別紙2-2「原告乙に対する課税処分の経緯」記載のとおり、平成12年5月25日、原告乙に対し本件更正処分をした。

5  別紙2-1「原告甲に対する課税処分の経緯」記載のとおり、原告甲は本件更正処分及び本件賦課決定処分につき被告に対して異議申立てをしたがこれを棄却され、次いで国税不服審判所長に対して審査請求をしたがこれも棄却された。

6  別紙2-2「原告乙に対する課税処分の経緯」記載のとおり、原告乙は本件更正処分につき被告に対して異議申立てをしたがこれを棄却され、次いで国税不服審判所長に対して審査請求をしたがこれも棄却された。

第三本件の争点とこれに関する当事者の主張

一  原告らの主張(請求原因)

原告らは、本件更正処分及び本件賦課決定処分は違法であるとして、その取消しを求め、その違法理由として次のとおり主張した。

1  本件更正処分は次の理由により違法である。

(1) 固定資産税は、不動産を保有するためには必ず支払わなければならないものである。

(2) 固定資産税は、事業所得の計算上では必要経費となることに対し、譲渡所得の計算上控除すべき費用とならないことは著しく整合性を欠き不公平である。

(3) 被告は所得税基本通達33-7に基づき平成10年分の所得税の更正処分を行っているが、本来課税処分は法律に基づいて行われるべきであるところ、通達に基づいて行うことは租税法律主義に反している。

2  上記のとおり、本件更正処分は違法であるから、これに基づいて行われた本件賦課決定処分も違法である。

二  被告の反論

原告の上記請求原因主張に対する被告の反論は、別紙3「原告らの主張に対する反論」記載のとおりである。

第四当裁判所の判断

1  譲渡所得に対する課税は、資産の所有者がその資産を譲渡する際に、その所有者が所有していた期間中に増加した価値(増加益)を清算し、これを所得と把握して課税するものであり、したがって、その譲渡所得の計算上経費として控除されるものは、所得税法33条3項において、「資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額」と定められており、また、その「資産の取得費」とは、同法38条1項に定めるとおり、「その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額」、すなわち、当該資産の取得の直接の対価及びその取得のための付随費用並びにその資産の保有中において資産価値の増大をもたらした費用をいい、当該資産の維持管理に要する費用等はこれに含まれないものというべきである。

しかるところ、固定資産税は、固定資産の所有自体を課税原因として、毎年1月1日現在の当該固定資産の所有者に課される税であり、当該資産の維持管理に要する費用に含まれるとはいえても、当該資産の取得の対価・付随費用にも、価値増大の費用にも該当するものではないし、当該資産の譲渡に要した費用に該当するものでもないことが明らかというべきである。

したがって、固定資産税は、不動産を保有するためには必ず支払わなければならないものではあるけれども、だからといって、譲渡所得の計算上経費として控除されるものに該当するということはできない。

2  事業所得の計算上は固定資産税も必要経費となる点についてみると、所得税法27条1項によれば、「事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令に定めるものから生ずる所得をいう。」とされ、同法37条1項によれば、事業所得の計算上必要経費に算入すべき金額は、「事業所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るために直接要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他事業所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする。」旨定められているところ、その課税対象は事業活動により得られる利益・収益であると解され、固定資産税はその性質上、事業活動に必要な維持管理費用の一種であると解されるから、当然「事業所得を生ずべき業務について生じた費用」に含まれ、上記同法37条1項に定める必要経費に該当するものと解されるのであって、このように、所得税法の定める課税対象及びそこからもたらされる経費内容に差異があることに照らせば、固定資産税が事業所得の計算上は必要経費となるのに対して、譲渡所得の計算上は経費とならないからといって、整合性を欠くとか、公平さを欠くとかいうことにはならないものというべきである。

3  上記のとおり、本件各課税処分は、所得税法に基づいてなされており、これを逸脱して原告ら指摘の通達に依拠してなされたものではないから、原告らの前記請求原因主張1(3)も採用できない。

4  そして、原告らは、他に本件各課税処分の違法事由を指摘しない。

してみれば、本件各課税処分は適法であり、原告らの請求は失当たるを免れない。

第五結論

以上の次第で、原告らの請求はいずれも理由がないから、棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法7条、民訴法61条、65条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺修明)

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