金沢地方裁判所 平成14年(わ)165号 判決 2002年9月25日
主文
被告人を懲役二年一〇月に処する。
理由
(犯罪事実)
被告人は、平成一四年四月一五日午前二時四〇分ころ、石川県金沢市若松町<番地略>先の左方に湾曲した下り坂の道路において、先行する普通乗用自動車を時速約一二〇キロメートルで追い越した後、その前方の普通乗用自動車をも追い越そうとして更に速度を上げ、その進行を制御することが困難な時速約一五〇キロメートルの高速度で普通乗用自動車を走行させたため、自車を道路の湾曲に応じて進行させることができず、右前方に暴走させて道路右側の樹木及びガードパイプに激突させ、自車の助手席に同乗していた甲野太郎(当時一九歳)に脳挫傷の傷害を負わせ、よって同日午前四時五九分ころ、同市宝町<番地略>金沢大学医学部附属病院において、同人を前記傷害により死亡させたものである。
(証拠の標目)<省略>
(法令の適用)
罰条 刑法二〇八条の二第一項後段、前段(致死の場合)
(量刑の事情)
本件は、当時大学生で、同じ大学生の友人らと軽音楽のバンドを組んでいた被告人が、深夜、一般道路において、同バンドのメンバーである被害者を助手席に乗せ、ともに叫ぶように歌を歌うなどしながら極度に興奮した状態で普通乗用自動車を運転中、その興奮に任せ、対向車線に進出して先行する車両を追い越し、更にもう一台の車両を追い越そうとして、自車を時速約一五〇キロメートルにまで加速したため、自車を暴走させて樹木やガードパイプに激突させ、被害者を死亡させたという事案である。
こうした運転をした動機に酌量の余地はない。被告人は、本件現場を時速一〇〇キロメートルを超える速度で走行すれば自車の制御が困難になることを十分に認識しながら、敢えて、法定速度の時速六〇キロメートルをはるかに超える時速約一五〇キロメートルにまで自車を加速し、本件を起こしたもので、その運転行為はあまりにも無謀かつ危険極まりない。その危険性に照らせば、暴行により人を死亡させた場合に準じた厳しい非難を免れない。
若く前途ある大学生であった被害者は、突然その尊い生命を絶たれたのであって、その無念は想像に難くなく、結果は重大である。遺族の受けた衝撃と悲しみも大きく、当初の処罰感情は当然のことながら厳しいものがあった。
また、被告人は、平成一三年一二月、高速道路上で法定速度の時速一〇〇キロメートルを六二キロメートル超過したという速度違反の罪で罰金刑に処せられ、自重自戒すべき身であるにもかかわらず、その後、前記バンド名を、メンバーと話し合ってこれに由来した「プラス62」とするなどし、上記罰金刑後わずか四か月足らずで本件を起こしたことも考慮すると、交通法規軽視の態度は著しい。
以上によれば、被告人の刑事責任は相当重い。
そうすると、被害者が好意同乗者であり、直前まで被告人とともに興奮を高め合うなどして本件を誘発した側面も全くないとはいえないこと、本件による損害賠償として、被告人が遺族に対し合計約六三〇〇万円を支払うことを約して示談が成立し、自動車損害賠償保険に基づきその金額が支払われたこと、被告人の父親もこれとは別に慰謝料名目で一〇〇万円を遺族に支払ったこと、遺族が、被告人と被害者が親友であったことを知ったこともあって、現在では処罰感情を和らげ、被害者の父親は被告人の寛大な処分を嘆願するに至っていること、被告人が遺族に謝罪し、事実を素直に認めて反省の情を示していること、本件当時は少年であったこと、上記罰金刑以外に前科のないこと、本件により退学処分を受けるなど一定の社会的制裁を受けたこと、被告人の父親が今後の被告人の監督を約していることなど、被告人のために酌むべき一切の事情を考慮してもなお、刑の執行を猶予するのは相当でないと思料し、主文のとおり量刑した。
(裁判長裁判官・伊東一廣、裁判官・髙橋裕、裁判官・平手一男)