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金沢地方裁判所 平成20年(行ウ)13号 判決 2011年1月21日

主文

1  原告株式会社の訴えのうち,以下の部分をいずれも却下する。

(1)  処分行政庁が平成19年6月27日付けで原告株式会社に対してした平成16年12月1日から平成17年11月30日までの事業年度の法人税の更正処分のうち所得金額328万0346円,納付すべき税額71万7700円を超えない部分の取消しを求める部分

(2)  処分行政庁が平成19年6月26日付けで原告株式会社に対してした平成17年12月1日から平成18年11月30日までの事業年度の法人税に係る重加算税賦課決定処分のうち加算税額6万6500円を超える部分の取消しを求める部分

(3)  処分行政庁が平成19年6月27日付けで原告株式会社に対してした平成15年12月1日から平成16年11月30日までの課税期間の消費税及び地方消費税に係る更正処分のうち消費税の納付すべき税額1103万0800円及び地方消費税の納付すべき税額275万7700円を超えない各部分(消費税及び地方消費税の納付すべき税額の合計1378万8500円を超えない部分)の取消しを求める部分

(4)  処分行政庁が平成19年6月26日付けで原告株式会社に対してした平成17年12月1日から平成18年11月30日までの課税期間の消費税及び地方消費税に係る重加算税賦課決定処分のうち加算税額2万8000円を超える部分の取消しを求める部分

2  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第1請求

別紙処分目録記載の各処分をいずれも取り消す。

第2事案の概要

本件は,処分行政庁が,原告らの元取締役が行った売上金の除外行為について,同売上金は原告らの益金に算入すべきであり,前記除外行為は原告らの行為と同視できるとして,法人税並びに消費税及び地方消費税につき,更正処分及び重加算税の賦課決定処分を行ったことから,原告らが,被告に対し,前記各処分の取消しを求めた事案である。

原告らは,元取締役が前記売上金を横領したのであるから,それは原告らの所得ではなく,元取締役による横領行為を原告らによる行為と同視できないとして争った。

1  前提事実(争いがないか,証拠(各項末尾記載)及び弁論の全趣旨により明らかに認められる。)

(1)  当事者等

ア 原告株式会社は,昭和51年12月23日に設立された一般貨物自動車運送事業,自動車運送取扱事業,各種遊技機の運搬事業等を目的とする会社であり,主としてアルミ建材の長距離運送並びにパチンコ遊技機及びパチスロ遊技機等(以下,単に「遊技機等」という。)の運送を行っていた。

イ 原告有限会社は,平成16年10月1日に設立された一般貨物自動車運送事業等を目的とする会社であり,同年12月1日から平成18年9月30日までの間,原告株式会社より従業員の引継ぎを受けるとともに,同社のすべての業務につき委託を受けて業務を行ったが,平成18年10月7日に解散し,平成19年2月10日付けでその清算を結了し,同月19日に清算結了登記をした。

ウ 原告ら代表者A(以下「原告ら代表者」という。)は,原告株式会社の設立当初からその代表取締役を務めるほか,原告有限会社の代表者清算人を務めている。(弁論の全趣旨)

エ 原告らは,業務の一環として,名古屋に所在する遊技機等のメーカーから,北陸方面のパチンコ又はパチスロ遊技場(以下「遊技場」という。)に新品の遊技機等を運送した際等に,各遊技場から出された中古の遊技機(以下「廃棄台」という。)をメーカー指定の倉庫(以下「指定倉庫」という。)への運送していたが,同業務は原告らのパチンコ機配送部が担当していた。

原告株式会社は,前記メーカー等のうち,少なくとも,遊技機等のメーカーであるa株式会社(以下「a社」という。)との間では平成15年12月30日付けで,a社の子会社である株式会社b(以下「b社」という。)との間では平成17年2月25日付けで,遊技機等を各遊技場に運送納入する契約を締結し,それぞれ少なくとも平成19年3月27日付けのものまでこれを更新していたが(以下「a社らとの運送契約」という。),同契約においては,新品の遊技機等の運送報酬は,納入先である遊技場に請求するものとされる一方,遊技機の搬入に際し,各遊技場から廃棄台の引取りを求められた場合には,原告株式会社がこれを引き取ることとし,廃棄台の引取りがa社又はb社による依頼である場合には,その運送費用はa社又はb社の負担とするとの条項が定められていた。

(証拠<省略>)

オ Bは,平成12年11月頃,原告株式会社に入社し,運転手として勤務していたが,平成16年10月,原告有限会社の設立と同時にその取締役に就任し,原告らのパチンコ機配送部配送担当課長として,同部の運送業務に係る営業,配車手配及び集金のとりまとめ等に従事し,平成18年7月,原告株式会社の取締役に就任した。

Bは,平成16年2月頃から平成19年2月頃までの間,メーカー等に,廃棄台の指定倉庫への運送業務により発生する報酬を,原告らの振込口座とは異なる株式会社c銀行d支店「X1社B」名義の普通預金口座(番号<省略>・以下「本件口座」という。)に振り込ませ,これを出金して自己の用途に充てていた(以下,「本件行為」といい,原告らが運送した廃棄台に係る運送賃のうち,メーカー等から本件口座に振込入金された金額を「本件金員」という。)。

しかし,松任税務署職員の指摘により本件行為が発覚し(証拠<省略>),Bは,平成19年2月,取締役を解任されて原告らを退社した。

カ Bが,前記オのとおり,本件口座に振り込ませた金員を横領したことについて,損害額を約2500万円程度とした上で,そのうち,Bにおいて930万円の損害賠償義務を認めた上,以下のとおり分割して支払う内容の和解契約(以下「本件和解契約」という。)を締結した上,公正証書(証拠<省略>)を作成し,それに基づきBから損害賠償金を一部受領した。

(ア) 平成19年5月から平成22年8月まで毎月末日限り20万円

(イ) 平成22年9月末日限り5万円

(ウ) 平成19年7月31日限り125万円

(2)  原告らの法人税の事業年度並びに消費税及び地方消費税の課税期間原告株式会社は,各年12月1日から翌年11月30日までを法人税の事業年度並びに消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の課税期間としていた(以下,前年12月1日から各年11月30日までの各事業年度を各年「11月事業年度」と,前年12月1日から各年11月30日までの各課税期間を各年「11月課税期間」という。)。

また,原告有限会社は,各年10月1日から翌年9月30日までを法人税の事業年度としていた(以下,前年10月1日から各年9月30日までの各事業年度を各年「9月事業年度」という。)。

(3)  課税処分に至る経緯等

後記アないしオについて,原告らによる申告及び処分の経緯並びにこれらに係る申告額及び処分額は別表1ないし3のとおりであり,各処分について被告の主張する課税標準等及び税額等は,別紙所得税額及び納付すべき税額等記載のとおりである。

ア 原告らによる確定申告

原告株式会社は,処分行政庁に対し,平成16年ないし平成18年各11月期の法人税及び平成16年ないし平成18年各11月期課税期間の消費税等について,原告有限会社は,処分行政庁に対し,平成17年及び平成18年各9月期の法人税について,いずれも法定申告期限までに,青色申告書により確定申告をした。

イ 原告株式会社による修正申告

原告株式会社は,松任税務署による調査を受け,平成19年3月28日,処分行政庁に対し,平成16年ないし平成18年各11月期の法人税及び平成16年ないし平成18年各11月課税期間の消費税等について各修正申告書を提出した(そのうち,平成17年11月期の法人税について,所得金額328万0346円,納付すべき税額(差引所得に対する法人税額)71万7700円として,また,平成16年11月課税期間の消費税等について,消費税の納付すべき税額(差引税額)1103万0800円,地方消費税の納付すべき税額(譲渡割額)275万7700円(消費税等の納付すべき税額合計1378万8500円)として行った各修正申告を,「本件各修正申告」という。)。

ウ 原告株式会社に対する各処分(法人税)

(ア) 修正申告に係る重加算税賦課決定処分

処分行政庁は,前記イの各修正申告を受け,平成19年6月26日付けで,原告株式会社に対し,平成17年11月期及び平成18年11月期の法人税に係る各重加算税賦課決定処分をした。

(イ) 更正処分及びこれに伴う重加算税賦課決定処分(更正処分等)処分行政庁は,平成19年6月27日付けで,原告株式会社に対し,平成16年11月期の法人税の更正処分及び重加算税賦課決定処分,平成17年11月期の法人税の更正処分,平成18年11月期の法人税の更正処分(減額更正)及び重加算税の変更決定処分(減額変更)をした。

エ 原告株式会社に対する各処分(消費税等)

(ア) 修正申告に係る重加算税賦課決定処分

処分行政庁は,前記イの各修正申告を受け,平成19年6月26日付けで,原告株式会社に対し,平成16年ないし平成18年各11月課税期間の消費税等に係る各重加算税賦課決定処分をした。

(イ) 更正処分及びこれに伴う重加算税賦課決定処分(更正処分等)処分行政庁は,平成19年6月27日付けで,原告株式会社に対し,平成16年11月課税期間の消費税等の更正処分及び重加算税賦課決定処分,平成17年11月課税期間及び平成18年11月課税期間の消費税等の各更正処分(減額更正)並びに各重加算税の変更決定処分(減額変更)をした。

オ 原告有限会社に対する各処分(法人税)

処分行政庁は,平成19年6月27日付けで,原告有限会社に対し,平成17年9月期,平成18年9月期の法人税に係る各更正処分及び各重加算税賦課決定処分をした。

(4)  原告らによる不服申立て

ア 原告株式会社

(ア) 異議申立てを経ない国税不服審判所長への審査請求

原告株式会社は,国税不服審判所長に対し,平成19年7月9日,処分行政庁がした平成16年11月期の法人税の更正処分,重加算税賦課決定処分及び平成17年11月期の法人税の更正処分の各取消しを求めて審査請求をした(国税通則法(以下「通則法」という。)75条4項1号)。

なお,原告株式会社は,国税不服審判所長に対し,平成19年7月9日,処分行政庁がした平成17年11月期及び平成18年11月期の法人税に係る各重加算税賦課決定処分の各取消しを求めて審査請求をしたが,平成19年7月26日,これを取り下げた(原告株式会社は,これについて,後記(イ)のとおり異議申立てをした。)。

(イ) 異議申立て

原告株式会社は,処分行政庁に対し,平成19年7月9日,処分行政庁がした同年6月26日付けの平成16年11月課税期間,平成18年11月課税期間の消費税等に係る各重加算税賦課決定処分及び平成19年6月27日付けの平成16年11月課税期間の消費税等の更正処分及び重加算税賦課決定処分の各取消しを求めて異議申立てをした(通則法75条1項1号)。

原告株式会社は,処分行政庁に対し,平成19年8月8日,処分行政庁がした平成17年11月期及び平成18年11月期の法人税に係る各重加算税賦課決定の各取消しを求めて異議申立てをした。

(ウ) 合意によるみなす審査請求

処分行政庁が前記(イ)記載の各異議申立てを審査請求として取り扱うことを適当と認めてその旨を原告株式会社にそれぞれ通知したのに対し,原告株式会社は,平成19年8月22日,前記各通知にいずれも同意したことから,前記(イ)記載の異議申立てに係る各処分については,その同意があった日に,国税不服審判所長に対し,審査請求がされたものとみなされることとなった(通則法89条1項)。

(エ) 国税不服審判所長の裁決

国税不服審判所長は,前記(ア)の各審査請求(ただし,原告株式会社が取り下げたものを除く。)及び前記(ウ)記載の各合意によるみなす審査請求を併合審理し,平成20年6月19日付けで,処分行政庁がした平成18年11月期の法人税に係る重加算税賦課決定処分に対する審査請求のうち,変更決定処分により取り消された部分に係る審査請求,及び,処分行政庁が平成19年6月26日付けでした平成18年11月課税期間の消費税等に係る重加算税の賦課決定処分に対する審査請求のうち,変更決定により取り消された部分に係る審査請求をそれぞれ却下し,その余は棄却する旨の裁決をした。

イ 原告有限会社

(ア) 異議申立てを経ない国税不服審判所長への審査請求

原告有限会社は,国税不服審判所長に対し,平成19年7月9日,処分行政庁がした平成17年9月期及び平成18年9月期の法人税の更正処分及び重加算税賦課決定処分の各取消しを求めて審査請求をした。

(イ) 国税不服審判所長の裁決

国税不服審判所長は,平成20年6月19日付けで,前記(ア)の各審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした。

(5)  原告らは,同年12月10日,本件訴訟を提起した。

2  争点

(1)  本案前の主張・訴えの利益の有無(原告株式会社に関し)

ア 取消対象の消滅(原告株式会社の訴えのうち,平成18年11月期の法人税に係る重加算税賦課決定処分及び平成18年11月課税期間の消費税等の重加算税賦課決定処分の各取消しを求める部分に関し)

イ 修正申告の存在(原告株式会社の訴えのうち,平成17年11月期法人税の更正処分及び平成16年11月課税期間の消費税等の更正処分の各取消しを求める部分に関し)

(2)  本案の主張

ア 本件金員を原告らの益金に算入すべきか。

イ 原告らの隠蔽仮装行為の有無(Bによる隠蔽仮装行為につき原告らに重加算税を課すことができるか。)

3  当事者の主張

(1)  争点(1)ア(取消対象の消滅)について

(被告の主張)

原告株式会社は,本件において,平成18年11月期の法人税に係る重加算税賦課決定処分及び平成18年11月課税期間の消費税等の重加算税賦課決定処分の各取消しを求めているところ,処分行政庁は,平成19年6月27日,前記平成18年11月期の法人税に係る重加算税賦課決定処分(賦課決定額26万6000円)について重加算税賦課額を6万6500円にするとの変更決定処分を,前記平成18年11月期の消費税等に係る重加算税賦課決定処分(賦課決定額7万円)について重加算税賦課額を2万8000円にするとの変更決定処分をそれぞれしているので,各重加算税賦課決定処分のうち前記各変更決定により取り消された部分は,処分の効力自体が消滅し,取消しの対象自体が存在しない。よって,取消訴訟の対象となりうるのは,各重加算税賦課決定処分のうち前記各変更決定処分による取消後のものである。

したがって,前記各変更決定処分による減額部分の取消しを求める部分は,いずれも訴えの利益を欠き,不適法である。

(原告株式会社の主張)

被告の主張は認める。

(2)  争点(1)イ(修正申告の存在)について

(被告の主張)

ア 原告株式会社は,平成17年11月期法人税の更正処分及び平成16年11月課税期間の消費税等の更正処分の各取消しを求めているが,同社はこれに先立ち本件各修正申告をしているところ,通則法が納税者において申告が過大であるとしてその誤りを是正するため,更正の請求という特別の手続を要求していることからすれば(通則法23条),これを経ることなく,申告額を超えない部分についてまで取消しを請求することは不適法であって,修正申告後に増額更正された場合も同様に,増額更正のうち既に修正申告により確定した納付すべき税額の部分を超えない部分については,取消訴訟を提起することはできないと解すべきである。

イ また,法人税及び消費税等において,申告納税方式を採用した上(通則法16条1項1号,2項),修正申告(同19条)や,更正の請求(同23条)という確定申告書記載事項の過誤の是正につき特別の規定を設けた趣旨からして,前記過誤の是正は,その錯誤が客観的に明白かつ重大であって,更正の請求の方法以外にその是正を許さないならば,納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合でなければ,法定の方法によらないで記載内容の錯誤を主張することは許されず(最高裁昭和39年10月22日第一小法廷判決・民集18巻8号1762頁),これは,確定申告の過誤の是正手段である修正申告の場合であっても同様である。そして,前記客観的に明白かつ重大な錯誤に当たるか否かは,当該申告に係る所得金額に誤算その他申告書自体から錯誤が存在することが明白な場合等に限られるべきであり,租税法律関係の大量性・継続性という性質に照らしても,申告書の記載自体から課税庁が一見して知り得る程度のものを意味すると解するのが相当である。

原告株式会社は,本件各修正申告書を提出しているが,これには,代表者の署名と社印の押印,税理士の署名と押印がされているほか,その記載内容に誤算その他申告自体から錯誤が存在することをうかがわせるものは一切存在しないから,その申告書自体から錯誤が存在することが明白な場合として客観的に明白かつ重大な錯誤に当たるとはいえない。

また,そもそも,原告株式会社は,Bが,損害賠償請求に応じて弁償するものと誤信したことをもって錯誤を主張するが,このこと自体は動機の錯誤にすぎず,これを要素の錯誤(民法95条)と認めるに足りる事情も存在しない。

さらに,仮に原告株式会社の主張するような松任税務署職員による指導があったとしても,本件金員は原告らに帰属するから,この指導について誤りがあったと解する余地はないし,原告ら代表者は,本件各修正申告の経緯について,同社経理担当のCが会計事務所を信頼して本件各修正申告をし,原告ら代表者がこれを見過ごしたのかもしれない旨述べていることなどにも照らせば,およそ民法上の錯誤に該当し得ず,本件各修正申告に何ら無効とすべき点はない。

ウ そうすると,平成17年11月期の法人税の更正処分のうち既に修正申告により確定した納付すべき金額の部分を超えない部分及び平成16年11月課税期間の消費税等の更正処分のうち既に修正申告により確定した納付すべき金額の部分を超えない部分の各取消しを求める訴えについては,いずれも訴えの利益を欠き,不適法である。

(原告株式会社の主張)

本件各修正申告は,Bが同社による損害賠償請求に応じて弁償を行うものと誤信したことと松任税務署職員の指摘により行ったものであるから,同修正申告は法律行為の重要な部分に錯誤があった。

むしろ,松任税務署職員が原告株式会社に対し誤った指導を行ったことによる修正申告は無効であって,これによって被告主張の税額確定の効果は発生しない。また,前後の事情に照らせば,被告は信義則上修正申告をしたことを有利に援用することができない。

(3)  争点(2)ア(本件金員を原告らの益金に算入すべきか。)について

(被告の主張)

ア [1]a社らとの運送契約においては,納入先である遊技場からの報酬に加えて,廃棄台の引取りに係る運送についても原告株式会社の報酬とする旨定められており,[2]前記報酬は,平成15年11月頃までは原告株式会社の振込口座に振り込まれ,その売上げとして申告されていた。そして,平成16年2月頃からは本件口座に振り込まれて同社の売上げとして申告されることはなかったものの,本件行為が発覚した平成19年3月頃より以後は,再び原告株式会社の振込口座に振り込まれ,原告株式会社の売上げとして申告されていた。また,[3]廃棄台の引取り業務は原告らの費用で行われているほか,[4]原告株式会社は,Bとの間で,本件和解契約を締結した上,これに基づく弁済を受領していることから,本件金員が同社に帰属することを前提としている。そして,[5]原告ら代表者は,廃棄台の引取りに係る運送賃について,原告株式会社の正当な運送賃である旨供述していること,[6]Bは,原告株式会社への入社当初からパチンコ機配送部配送課の業務を任され,原告有限会社においても,設立時から取締役として配送課の業務を任されていたなどの各事実に照らせば,本件金員は,法人税又は消費税等の計算上,原告株式会社の業務が原告有限会社に包括的に委託されていた時期(平成16年12月1日から同18年9月30日まで)は原告有限会社の,その他の時期は原告株式会社の所得金額又は課税標準額にそれぞれ計上されるべきものであることは明らかである。

イ また,横領行為が行われた場合,その被害者は横領行為者に対し,不法行為に基づく損害賠償請求権を取得する一方,法人税法は,収益の計上時期について,収入すべき権利が確定した時の属する事業年度とする権利確定主義を採用している。したがって,損害賠償請求権に係る収益の計上時期についても,不法行為が行われた時の属する事業年度の収益に計上すべきである(最高裁昭和43年10月17日第一小法廷判決・集民92号607頁)。したがって,原告株式会社が,Bの横領行為によって損害を被り,その資産を減少させていることから,損害を生じた事業年度に損金を計上するとともに,同社は,Bに対し,同社が被った損害に相当する金額の損害賠償請求権を取得し,それが同社の資産を増加させたものとして,同じ事業年度において益金を計上することになるのであるから,本件行為により原告株式会社に損金が発生し,所得がないとする原告らの主張は理由がない。

(原告らの主張)

ア a社らとの運送契約において,廃棄台の引取りに係る運送についても原告株式会社の報酬とする旨の条項はあったが,原告らはその方針として,仮にメーカー等から廃棄台引取りの依頼があったとしても,メーカー等に対し運送賃は請求せず,サービス扱いとしていた。そして,前記方針は原告ら代表者からBに知らされ,同人はこの方針を十分知っていたにもかかわらず,これを原告らの管理外であるB個人名義の本件口座に隠匿預金し,自己使用していた。したがって,本件行為は原告らからすれば不正行為であるところ,これによって領得された本件金員は原告株式会社には入金されておらず,売上金となっていないほか,原告らはBに対しその返還を求めたものの,資力不足のため回収できていない。

また,Bが実質的にパチンコ機配送課の業務を委任されていたことはなかったが,それにもかかわらず,原告らの方針に反し不正行為を行った。

さらに,会社の規則に違反した従業員の行為について実際に被った諸経費の賠償や,取引先に対する信用毀損の賠償を求める場合もあるのであるから,損害賠償を求めたからといって,その金員が原告らの所得であるとはいえない。

よって,本件金員は原告らの所得ではなく,法人税,消費税等の課税対象とすることはできない。

イ また,仮に本件金員が,一旦は原告らの営業収益になったとしても,Bが直ちにその金を横領して領得したものであるから,即原告らに同額の損金が発生したというべきであり,やはり原告らに所得はない。

また,Bは原告らに対し,本件金員と同額の損害賠償義務を負担したが,原告らはBが親族でもあり,また刑事事件で刑務所に収監されて返済能力もないことから,諸般の事情に照らし,分割弁済を認める本件和解契約をせざるを得なかった。

しかし,Bは,原告らに対し,105万円を弁済して以降支払を行わず,Bの両親から合計125万円の弁済があったものの,今後の回収見込みはない。そうすると,Bに対する損害賠償請求権は経済的にはほとんど無価値であり,原告らは横領された全額について係争年度には損金を生じているというべきであり,係争年度の申告としては所得はなかったのであるから,原告らによる確定申告は正しかったというべきである。

(4)  争点(2)イ(原告らの隠蔽仮装行為の有無)について

(被告の主張)

ア 通則法68条に規定する重加算税は,申告納税制度の下で,隠蔽・仮装(以下「隠蔽仮装行為」ということがある。)という悪質な態様による納税義務違反の発生を防止し,もって徴税の実を挙げようとする趣旨に出た行政上の措置であるところ,同制度の下において納税者が負う申告義務は,納税者が最も良く知っている課税要件事実に従って正しい申告をすべき義務であり,なかでも課税要件事実を隠蔽・仮装して不正な過少申告をしない義務であることは明らかである。この申告に至るまでには,通常第三者の行為が介在するが,その関与があったとしても,納税者本人が,正しい申告をする義務や,特に課税要件事実を隠蔽・仮装し,それに合わせた過少申告をしない義務を免れず,納税者は,第三者が関与する雇用契約等の原因関係上の手段を通じて,正しい申告が実現するよう監督すべき義務を負い,納税者本人がこの監督義務を怠ったことにより,第三者が隠蔽仮装行為に及んだ場合には,納税者本人が隠蔽・仮装を防止することを期待できない場合を除き,納税者本人の納税義務違反による隠蔽・仮装と同視して,重加算税の適用上,納税者本人の隠蔽仮装行為と同様に評価すべきである。

そして,この第三者による隠蔽仮装行為を納税者本人の納税義務違反と同視できるか否かは,前記の悪質な態様による納税義務違反の防止という観点から,第三者が関与する原因関係や監督可能性等を考慮して検討されるべきである。

イ Bは,平成16年2月頃以降,廃棄台の引取りに係る運送賃の振込先を本件口座とし,前記代金を隠蔽・仮装していた。そして,本件金員は前記(2)アの被告の主張のとおり原告らに帰属し,Bは,原告らのパチンコ機配送部担当課長,取締役として,原告らのパチンコ機運送業務の一切について権限を与えられており,少なくともa社らとの運送契約は遊技機等の納入と廃棄台の引取りとが一体のものとして締結されているところ,これらのうち遊技機等の納入に係る運送賃は終始原告らの売上げとして申告されていること,廃棄台の引取りに係る運送賃は,平成15年11月30日頃までは原告株式会社の振込口座に振り込まれ,これについては原告株式会社の売上げとして申告されていたが,平成16年2月頃からは原告株式会社の振込口座に振り込まれなくなったことが認められる。

そうすると,原告らは,パチンコ機配送部の運送業務について一切の包括的な権限をBに付与し,帳簿等を確認すれば,それまで原告株式会社に振り込まれていた廃棄台の引取りに係る運送賃が原告株式会社の口座に振り込まれていないことを容易に知ることができ,Bによる隠蔽仮装行為の存在を容易に知ることが可能であったにもかかわらず,帳簿等を確認するなどの適切な監督権限を何ら行使することなく漫然と放置した結果,Bによる隠蔽仮装行為を受けて申告を行ったというほかなく,原告らの監督上の注意義務違反によりBが隠蔽仮装行為に及んだものと認められ,これを原告らの納税義務違反として同視すべき一方,原告らが隠蔽・仮装を防止することを期待できないというべき事情は何ら存在しない。

なお,重加算税が悪質な納税義務違反の防止のための制度であり,この観点から監督上の注意義務違反の有無が問題となることからすれば,Bが原告らの利益のために行ったものではないことは,原告らの納税義務違反と同視できるかどうかを判断する際には考慮すべきではない。

ウ よって,処分行政庁による各重加算税賦課決定処分は適法である。

(原告らの主張)

Bは名ばかりの取締役であって,実質は従業員であるところ,原告らの指示に反して横領行為に及んだのであり,不正行為を行ったのはBである。

そして,本件では原告ら代表者には仮装・隠蔽する意思はなく,Bの隠蔽仮装行為を知らなかったし,その点に重大な過失はないから,原告らが自己の所得や取引を隠蔽・仮装したことにはならない。

さらに,重加算税は一種の行政罰であるから,それを賦課するに足りる相当な理由がある場合でなければならず,結果責任として,このような重大な罰を加えることは,現行法秩序の基本・根幹に反する。原告らの一取締役であるBがその事実を知っていたにすぎないにもかかわらず,原告らに隠蔽仮装行為があったとして重加算税を賦課することは,個人と法人を混同した法理であり許されない。

よって,処分行政庁による各重加算税賦課決定処分は違法である。

第3当裁判所の判断

1  争点(1)ア(取消対象の消滅)について

(1)  申告に係る税額につき更正処分がされた後,減額更正処分がされた場合において,同処分はそれにより減少した税額に係る部分についてのみ法的効果を及ぼすものであり(通則法29条2項),それ自体は,再更正処分の理由のいかんにかかわらず,当初の更正処分とは別個独立の課税処分ではなく,その実質は当初の更正処分の変更であり,それによって税額の一部取消しという納税者に有利な効果をもたらすものであるから,その取消しを求める訴えの利益を有せず,専ら減額された当初の更正処分の取消しを訴求することをもって足りるというべきであり(最高裁昭和56年4月24日第二小法廷判決・民集35巻3号672頁参照),当初の更正処分の取消請求は減額更正により減額された部分について訴えの利益を失うというべきである(最高裁昭和42年9月19日第三小法廷判決・民集21巻7号1828頁,最高裁昭和46年3月25日第一小法廷判決・集民102号329頁参照)。

(2)  そこで検討すると,前提事実記載のとおり,処分行政庁は,平成19年6月27日,平成18年11月期の法人税に係る重加算税賦課決定処分(賦課決定額26万6000円)について重加算税賦課額を6万6500円にするとの変更決定処分を,また,平成18年11月期の消費税等に係る重加算税賦課決定処分(賦課決定額7万円)について重加算税賦課額を2万8000円にするとの変更決定処分をしている。

したがって,前記各重加算税賦課決定処分のうち各変更決定処分による減額部分(前記平成18年11月期の法人税に係る重加算税賦課決定処分のうち加算税額6万6500円を超える部分及び前記平成18年11月課税期間の消費税等に係る重加算税賦課決定処分のうち加算税額2万8000円を超える部分)については,その効力が消滅しているから,原告株式会社の訴えのうち,当該部分の取消しを求める部分は,訴えの利益を欠き不適法であって,いずれも却下を免れない。

2  争点(1)イ(修正申告の存在)について

(1)  申告税方式を採用する税においては,納税者が確定申告書を提出すれば,それにより納税義務が確定し(通則法16条),納税義務者が申告が過大であると主張してその誤りを是正するためには通則法所定の期間内に更正の請求をすることが必要とされ(通則法23条2項),納税者の救済は専ら更正の請求によって図られることが予定されているのであるから,このような法の定める特別の手続を経由することなしに,申告された税額を超えない部分についての取消しを請求することは,申告の錯誤が客観的に明白かつ重大であり,更正の請求以外に是正を許さないならば納税者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合に限られるというべきである(最高裁昭和39年10月22日第一小法廷判決・民集18巻8号1762頁参照)。

(2)  原告株式会社は,本件各修正申告に関し,前記特段の事情として,前記第2の3(2)の原告株式会社の主張のとおり,Bが弁償を行う旨誤信したこと及び松任税務署職員の指導に基づくものであることを主張する。

そこで検討すると,前提事実,証拠<省略>及び弁論の全趣旨によれば,Bが,平成19年3月6日,原告株式会社に対し,松任税務署による税務調査により本件行為が発覚したことに関し,同社に対し900万円の債務があることを認めた上で毎月20万円以上を返済する旨の書面を差し入れ,同年5月8日,原告株式会社との間で,本件行為による損害を930万円と確認した上で分割して返済する内容の本件和解契約を締結したため,Bからの返済分を納税額に充てるつもりで,原告株式会社の経理を担当するCがe会計事務所の助言に従い,修正申告書に押印して本件各修正申告を行ったが,その後,Bは,同社に対し,105万円を弁済したものの,それ以外は全く返済を行わず,平成19年3月中旬には自己破産手続を取るとも言い出したことから,原告株式会社において,本件各修正申告時に回収を見込んでいたBからの任意の弁済を受けることが困難になったことが認められる。

そうすると,本件和解契約は本件金員が原告株式会社に帰属することを前提とするものであり,原告株式会社もそれを踏まえて本件金員を同社の所得として本件各修正申告を行ったものであるから,同修正申告の内容について原告株式会社の錯誤を認めることはできない。

確かに,原告株式会社は,本件和解契約締結後,Bから約定の分割金の多くについて,任意の支払を受けられなくなったことが認められるものの,原告株式会社が,修正申告の際に,Bから約定の弁済を受けることを,意思表示の要素として松任税務署職員に表示したと認めるに足りる証拠はないし,後記3で述べるとおり,本件金員は原告らの所得であると認められるから,本件各修正申告における確定申告書の記載内容について,更正の請求以外の方法による是正を許さないとすれば,原告株式会社の利益を著しく害すると認めるに足りる特段の事情もない。

なお,そもそも原告が主張するような松任税務署職員による指導を認めるに足りる証拠はないものの,仮に,同署員から本件金員を原告らの所得として修正申告すべきとの指導があったとしても,後記3で述べるとおり,本件金員が原告らの所得であると認められることからすれば,同署員の指導が誤りであったとはいえない。

(3)  そうすると,平成17年11月期の法人税について,所得金額328万0346円,納付すべき税額(差引所得に対する法人税額)71万7700円を超えない部分及び平成16年11月課税期間の消費税等について,消費税の納付すべき税額(差引税額)1103万0800円,地方消費税の納付すべき税額(譲渡割額)275万7700円(消費税及び地方消費税の納付すべき税額合計1378万8500円)を超えない部分については,既に本件各修正申告により確定しているから,前記部分の取消しを求める訴えは,訴えの利益を欠き不適法であって,却下を免れない。

3  争点(2)ア(本件金員を原告らの益金に算入すべきか。)について

(1)  前提事実及び証拠<省略>によれば,[1]a社らとの運送契約においては,前提事実(1)エ記載のとおり,原告株式会社は,本件金員を含む廃棄台の運送賃を,a社及びb社に対し請求できるとされている上,これに基づき,実際に廃棄台の引取りに係る運送賃は,本件行為が行われていた期間以外は,原告株式会社業務部が請求書を作成してa社らに請求し,両社から,原告株式会社の振込口座に振り込まれて同社の売上げとして申告されていたこと(これに対し,原告らは,a社らとの運送契約における規定とは異なり,原告らの方針として,メーカーに対し廃棄台の引取りに係る運送賃は請求せず,サービス扱いをしており,Bにもこの旨指示していたと主張するが,前記認定に反し,採用できない。なお,B及び原告ら代表者も,前記方針及びBに対する指示を明確に否定している(証拠<省略>)),[2]原告株式会社との間で契約書を作成していないメーカーであるf株式会社(a社らの関連会社・以下「f社」という。)も,a社らに代行して,遅くとも本件行為開始前である平成15年11月30日以降,原告株式会社によるa社らが納入した廃棄台の運送賃を原告株式会社の振込口座に入金して支払い,原告株式会社はこれを同社の売上げとして申告を行っており,本件行為開始後も,f社は,Bの指示により,入金先を本件口座に変更したものの,従前どおり原告株式会社に対する支払として,経理処理をしていたこと,[3]同様に原告株式会社と契約書を作成していない有限会社g(以下「g社」という。)は,本件行為開始後,a社から委託を受けて遊技場から引き取られ原告らのトラックにより自己の倉庫に運送された廃棄台を保管するとともに,その運送賃を,本件口座に入金し,原告株式会社に対する支払として経理処理していたこと,[4]廃棄台の運送業務は,本件行為が行われている間も,原告らのトラック及び運転手により行われ,その燃料費,人件費等は原告らにおいて負担していたこと,加えて,[5]前記2(2)で記載したとおり,原告株式会社も,本件金員が原告株式会社に帰属する前提で本件和解契約を締結し,Bから分割金の支払を受けるとともに,それを前提として修正申告を行っていることが認められる。

以上の事実からすると,本件金員は,原告有限会社が原告株式会社の業務を委託されていた平成16年12月1日から平成18年9月30日までは原告有限会社の,その余の期間は原告株式会社の所得と認められることが明らかである。

これに対し,原告らは,前記第2の3(3)の原告らの主張のとおり,Bが本件和解契約で弁済を約した損害賠償の内容は,信用毀損や本件行為により被った諸経費の賠償の場合もあると主張するが,前提事実(1)カのとおり,本件和解契約においては,Bが領得した本件口座に入金されたほぼ全額である約2500万円を損害額とし,同金額に含まれる本件金員も原告株式会社に帰属することを前提としていることが認められるから,前記主張は採用できない。

(2)  また,原告らは,本件金員を返済能力のないBに横領されたことによりその全額を損金と計上すべきと主張する。

確かに,横領行為によって法人の被った損害が,その法人の資産を減少させたものとして同損害を生じた事業年度における損金を構成することは明らかであるが,他面,横領者に対して法人がその被った損害に相当する金額の損害賠償請求権を取得するものである以上,それが法人の資産を増加させたものとして,同じ事業年度における益金を構成し,それが横領行為を行った者の無資力その他の事由によってその実現不能が明白となったときにおいて損金とすべきである(最高裁昭和43年10月17日第一小法廷判決・集民92号607頁参照)。

そうすると,本件行為は横領行為である以上,前記理由によれば,それが横領行為を行ったBの無資力その他の事由によって,Bに対する損害賠償請求権の実現不能が明白となったときにおいてはじめて損金とすべきである。

この点,原告らは,Bに対する損害賠償請求権が各事業年度においてすでに回収不能となっていることが明らかであることから,各事業年度の損金とすべき旨主張するとも解されるが,原告らの主張によっても,Bは,原告株式会社に対し,平成19年4月ないし7月に各20万円,同年8月に25万円を,それぞれ弁済しているというのであり,その後,Bが平成19年10月以降,刑事事件において実刑判決を受けたことが窺われ(証拠<省略>),少なくとも平成22年の段階では刑務所に収監されていることが認められるものの(証拠<省略>),Bが破産手続開始決定を受けたことを認める証拠もないことからすれば,少なくとも前記弁済以前の各事業年度においてBに対する損害賠償請求権の全部又は一部の実現不能が明白となったともいえない。

4  争点(2)イ(原告らの隠蔽仮装行為の有無)について

(1)  通則法68条1項は,過少申告をした納税者が,その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し又は仮装し,その隠蔽し又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは,その納税者に対して重加算税を課すこととしている。この重加算税の制度は,納税者が過少申告をするにつき隠蔽仮装行為という不正手段を用いていた場合に,過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を課すことによって,悪質な納税義務違反の発生を防止し,もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。同項は,隠蔽仮装行為の主体を納税者としているのであって,本来的には納税者自身による隠蔽仮装行為の防止を企図したものと解される。

しかし,納税者以外の者が隠蔽仮装行為を行った場合であっても,それが納税者本人の行為と同視することができるときには,形式的にそれが納税者自身の行為でないというだけで重加算税の賦課が許されないとすると,重加算税制度の趣旨及び目的を没却することになる。

そして,納税者から納税申告手続を委任された税理士が隠蔽仮装行為をした場合と比較すると,税理士は,適正な納税申告の実現につき公共的使命を負っており,それに即した公法的規律を受けているのであるから,当該税理士が前記行為を行うことを容易に予測することができず,当該税理士の選任又は監督につき納税者に何らかの落ち度があるというだけでは当該税理士の隠蔽仮装行為を納税者本人の行為と同視することはできないというべきである(最高裁平成18年4月20日第一小法廷判決・民集60巻4号1611頁参照)。

それに対して,本件のように,【判示事項1】納税者である法人の役員や従業員が隠蔽仮装行為を行った場合,通常,役員は法人の機関として行動する者であるし,従業員であっても,法人の事業活動上の利益を挙げるためにその手足として用いられている者であるから,納税者本人が,相当の注意義務を尽くせば,役員や従業員の隠蔽仮装行為を認識することができ,法定申告期限までにその是正や過少申告防止の措置を講ずることができたにもかかわらず,納税者においてこれを防止せずに前記行為が行われ,それに基づいて過少申告がされたときには,前記行為を納税者本人の隠蔽仮装行為と同視して,納税者本人に重加算税を賦課することができるというべきである。

(2)  そこで,本件について検討すると,証拠<省略>及び弁論の全趣旨によれば,原告らは,原告ら代表者がワンマン経営を行う同族会社であって,その取締役はいずれも原告ら代表者の親族であり,その多くは名目的取締役にすぎず,わずかに原告ら代表者の娘であるCに取締役兼業務部長として主に経理を担当させていたほかは,原告ら代表者の甥であるBに,本社から5分ほど離れた場所にあるパチンコ機配送部を担当させていたことが認められる。したがって,Bの直属の上司は原告ら代表者のみであり,同人において,同部を監督すべきであったにもかかわらず,同人は,パチンコ機配送部には問題が起こらなかったため,同人が普段執務を行う本社から同部に赴いたことはなく,Bからの報告や相談は,交通事故があったとき以外はほとんど受けていなかったほか,同部の売上げが原告らの事業グループ全体に占める割合がさほど大きくないこともあって,同部の最終的な売上げの数字については把握してはいたものの,同部の従業員の給与支払管理を業務部で行うほかは,給与計算,配車手配及び配送伝票の作成等の運行管理,業務部への売上げ報告を始めとして,同部の業務については一切Bに任せていたことが認められる(この点は原告ら代表者も代表者尋問において同旨の供述をしており,Bが実質的な権限を有していなかったとする原告らの主張は理由がない。)。

そして,証拠<省略>によれば,a社らとの運送契約は,業務部を管理するCが契約書に署名押印した上,本件行為後もその更新を続け,また,前述のとおり,本件行為開始前には,業務部において,a社からの廃棄台の引取りの運送賃に係る原告株式会社名義の請求書を作成してa社に請求した上で原告株式会社の所得として計上していたのであるから,a社らとの運送契約等の内容は業務部等において把握していたというべきであるし,Bが,本件行為開始後に運送賃の請求書の元になるパチンコ機等返却確認書の写しや運送伝票を業務部に提出しなくなったことからすれば(証拠<省略>),少なくとも業務部において,a社との関係で本件行為が行われていたことを把握することは可能であった。

もっとも,証拠<省略>によれば,Bは,原告ら代表者及びCに対し,本件金員について,廃棄台の運送賃は新品の遊技機の運送賃に含まれる旨虚偽の説明をしていたほか,平成18年夏頃には,原告ら代表者に対し,Bがa社の廃棄台の引取りに係る運送賃を自己の銀行口座に入金している旨の具体的な内部告発があり,原告ら代表者は,その真偽の確認のため,B本人に確認するとともにa社の金沢営業所等に問い合わせを行ったものの,本件行為を把握するに至らなかったことが認められる。

しかし,前述のとおり,業務部等においてa社らとの運送契約を把握していたと認定すべきであるから,Bの前記説明が同契約の明文に反するものであることは容易に看破することができ,また,内部告発の内容についてB本人に確認する以外にも,実際に廃棄台の運送に従事していた従業員に確認したり,前記伝票の有無等について調査を行うことも考えられるにもかかわらず,これが行われたと認めるに足りないことに加えて,証拠<省略>によれば,a社の北陸地区担当の営業所としては,名古屋支店と金沢営業所があるものの,パチンコ機等の運送関係の事務は,名古屋支店で取り扱い,原告株式会社においても,廃棄台の運送賃をa社名古屋支店宛てに請求していたことが認められることからすれば,原告代表者は十分な回答が期待できない金沢営業所に問い合わせるのみで,名古屋支店に対し問い合わせを行っていないこと,さらに,前記で認定したとおり,原告らは原告ら代表者によるワンマン会社であり,原告ら代表者又は業務部以外の取締役による監督を期待し得ないことからすれば,原告ら代表者や業務部において本件行為を防止するために相当な注意義務を尽くしたとは到底いえず,本件行為開始とともに,伝票等が業務部に送付されなくなったことを契機として,原告株式会社が前記の注意義務を尽くしていた場合には,法定申告期限までに,本件行為を容易に把握した上,本件金員の額を認識し,それに基づく正確な申告が可能であり,過少申告を防止しすることができた。

したがって,Bによる隠蔽仮装行為は原告らの隠蔽仮装行為と同視できるというべきである。

なお,前提事実記載のとおり,本件金員はBが横領して自己の用途に使用し,同金員は原告らに留保されていないことが認められるものの,Bは,原告らの取締役として,原告らの一事業であるパチンコ機運送事業を取り仕切らせ,これによって,原告らにおいても事業を拡大するなどの無形の利益を得ていたことを考慮すれば,原告らが前記の注意義務違反によって重加算税を負担することも,重加算税制度の趣旨及び目的を没却させないとの観点に照らして,なおやむを得ないといわざるを得ない。

5  以上の点のほか,処分行政庁による別紙所得税額及び納付すべき税額等の認定について,原告らは,単に争うとするのみで積極的に自白するものではないと述べるにとどまり,特段の反論及び反証を行わないことに照らせば,弁論の全趣旨により前記処分行政庁の認定は適正なものと認められる。

したがって,処分行政庁の各処分は適法である。

6  よって,主文のとおり判決する。

(裁判官 中垣内健治 裁判官 足立拓人 裁判官 南うらら)

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