金沢地方裁判所 平成21年(行ウ)3号 判決 2010年11月30日
主文
1 原告の被告に対する請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,α議会議員に対し,別紙議員報酬目録記載の月額報酬及び別紙期末手当目録記載の期末手当を支出してはならない。
第2事案の概要
本件は,石川県河北郡α(以下「α」という。)の住民である原告が,α議会議員に対して支給される報酬及び期末手当の額がその活動実態に見合わない過大なものであり,地方自治法(以下「法」という。)203条等に反するもので違法であるなどと主張して,上記の報酬及び期末手当の支給に係る支出負担行為の本来的な権限を有するα長を被告として,法242条の2第1項1号に基づき,上記の報酬及び期末手当の支給の差止めを求めた事案である。
1 前提事実等(証拠等を掲記した事実を除くほかは,当事者間に争いがない。)
(1) 当事者等
ア 原告は,普通地方公共団体たるαの住民である。
イ 被告は,α長であり,αの町議会の議長,副議長及び議員(以下,「本件町議会議員等」という。)に対する議員報酬及び期末手当の支給に係る支出負担行為及び支出命令(以下,併せて「支出負担行為」という。)に関する法令上本来的な権限を有している。
ウ 本件町議会議員等は,後記各規定に基づき,議員報酬及び期末手当の支給を受けており,今後もその支給が継続される予定である(以下,後記各規定に基づいて本件町議会議員等が受ける議員報酬及び期末手当を「本件議員報酬等」という。)。
(2) 住民監査請求
原告は,α監査委員に対し,平成21年4月2日,α長が本件町議会議員等に対して支給している議員報酬及び期末手当(本件議員報酬等)が高額であるから,同報酬等の支給に係る公金支出が違法であるなどとして,住民監査請求をした(以下「本件監査請求」という。甲2)。
(3) 住民監査請求(本件監査請求)の却下
α監査委員は,平成21年4月13日,本件監査請求について,同請求が「「年間30日弱(議会10日間程,各委員会20日間程)しか開催されていないα議会の議員に6月と12月の期末手当を合わせて年間400万円を超える報酬が支払われていることは,「違法な公金の支出」(法242条第1項)であると言わざるを得ない。」などとして,α長に対し,町議会議員に対する月額報酬と期末手当の支払いを停止するよう勧告を求めるものであるが,請求書及び添付された事実証明書を総合してみても,議員報酬制度に対する抽象的な自説を唱えているにすぎず,何ら財政上の違法性,不当性の具体的な内容を摘示しているとは認められ」ず,本件監査請求について「法242条第1項に規定する要件を具備しない」ことから却下するとの決定をし,原告に対し,同日,これを通知した(甲3)。
(4) 住民訴訟の提起
原告は,平成21年5月12日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。
(5) 普通地方公共団体における報酬等に関する法の定め
ア 普通地方公共団体の議員報酬及び期末手当に係る法の定め(法203条)
(ア) 普通地方公共団体は,その議会の議員に対し,議員報酬を支給しなければならない(同条1項)。
(イ) 普通地方公共団体の議会の議員は,職務を行うため要する費用の弁償を受けることができる(同条2項)。
(ウ) 普通地方公共団体は,条例で,その議会の議員に対し,期末手当を支給することができる(同条3項)。
(エ) 議員報酬,費用弁償及び期末手当の額並びにその支給方法は,条例でこれを定めなければならない(同条4項)。
イ 普通地方公共団体の議員以外の非常勤職員の報酬等に係る法の定め(法203条の2)
(ア) 普通地方公共団体は,その委員会の委員,非常勤の監査委員その他の委員,自治紛争処理委員,審査会,審議会及び調査会等の委員その他の構成員,専門委員,投票管理者,開票管理者,選挙長,投票立会人,開票立会人及び選挙立会人その他普通地方公共団体の非常勤の職員(短時間勤務職員を除く。)に対し,報酬を支給しなければならない(同条1項)。
(イ) 前項の職員に対する報酬は,その勤務日数に応じてこれを支給する。ただし,条例で特別の定めをした場合は,この限りでない(同条2項)。
(ウ) 第1項の職員は,職務を行うため要する費用の弁償を受けることができる(同条3項)。
(エ) 報酬及び費用弁償の額並びに支給方法は,条例でこれを定めなければならない(同条4項)。
ウ 法律,条例に基づかない支給禁止の定め(法204の2)
普通地方公共団体は,いかなる給与その他の給付も法律又はこれに基づく条例に基づかずには,これをその議会の議員,第203条の2第1項の職員及び前条第1項の職員に支給することができない。
エ その他
(ア) 地方公共団体は,その事務を処理するに当つては,住民の福祉の増進に努めるとともに,最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない(法2条14項)。
(イ) 地方公共団体の経費は,その目的を達成するための必要且つ最少の限度をこえて,これを支出してはならない(地方財政法4条1項)。
(ウ) 地方公共団体の収入は,適実且つ厳正に,これを確保しなければならない(同条2項)。
(6) αにおける議会の議員報酬及び期末手当に係る条例の定め
ア 議員報酬について
αは,条例により,別紙議員報酬目録記載のとおり,本件町議会議員等の議員報酬を定めている(α議会議員等の議員報酬及び費用弁償に関する条例2条。以下「本件議員報酬規定」という。)。
イ 期末手当について
αは,条例により,別紙期末手当目録記載のとおり,本件町議会議員等の期末手当を定めている(同条例4条,α一般職の職員の給与に関する条例19条(以下,「本件期末手当規定」といい,本件議員報酬規定と併せて「本件各規定」という。),なお,同条例とα議会議員等の議員報酬及び費用弁償に関する条例を併せて「本件各条例」という。)。
2 争点
(1) 本件監査請求の適法性(本案前の争点)・・・争点1
(2) 本件議員報酬等に関する支出負担行為の違法性・・・争点2
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点1(本件監査請求の適法性)について
(被告の主張)
住民訴訟は,法242条の2第1項により,住民監査請求の前置が要件とされているところ,監査請求が法定の要件を満たさず不適法なものとして却下された場合には,適法な監査請求を前置したことにならないから,監査請求前置の要件を欠くこととなる(住民監査請求前置主義)。
しかるところ,原告は,本件監査請求が法定の要件を具備した適法なものと主張しているが,本件監査請求には抽象的な持論の主張があるのみであって,議員報酬及び期末手当の支給がいかなる会計法規に違反しているのかについて具体的な指摘が全く存在しておらず,法242条1項の定める「違法もしくは不当な公金の支出」の指摘がない。したがって,本件監査請求は,法定の要件を具備しない不適法なものである。
α監査委員は,平成21年4月13日,法242条1項に定める法定要件を具備しないものとして本件監査請求を却下しており,本件訴訟提起は,住民監査請求前置を満たしていない不適法なものというべきである。
よって,被告は,原告の訴えを却下する旨の判決を求める。
(原告の主張)
監査委員は,本件監査請求を法241条1項に定める法定要件を具備していないとの理由で却下しているが,原告は,本件監査請求において,「α議会の議員に6月と12月の期末手当と合わせて年間400万円を超える高額の報酬が支払われていることが違法な公金の支出に該当する」旨具体的に指摘しているから,本件監査請求の対象は特定されており,本件監査請求は適法である。
(2) 争点2(本件議員報酬等に関する支出負担行為の違法性)について
(原告の主張)
ア 法203条の趣旨
(ア) 議員報酬について
法203条が,議会の議員について,勤務日数に応じて報酬を支払うことを原則とする他の非常勤職員に対する報酬(法203条の2第2項)と区別して規定した趣旨は,歳費の制度が決定している国会議員との権衡を考慮し,その報酬を日額,月額,年額のいずれで支給するかについて,特に法律上の原則を定めることなく,当該普通地方公共団体の規模やその特質に応じた議員活動の内容及び性質,並びに当該普通地方公共団体の財政状況に応じて,自主的に定めるべきこととした点にある。
したがって,法203条4項は,議会の議員について,勤務日数に応じて報酬を支払うことを禁止するものではなく,議員報酬につき月額報酬制を採用することを必ずしも禁止するものではない。
もっとも,法203条は,勤務日数や活動実態を全く考慮することなく議員報酬を支給することを奨励するものではなく,法203条4項に基づき条例で報酬額と支給方法を定めることができるにしても自ずから限界があると解すべきである。
確かに,普通地方公共団体の議会の議員の活動とその成果は,国会議員の活動と同様,必ずしも議会や各種委員会への出席日数で計量できるものではない。
しかし,そもそも普通地方公共団体の議会の議員は,常勤の職員ではないから,その報酬額の設定において,生活給の側面を考慮する必要がないし,国会議員と普通地方公共団体(都道府県市町村)議会議員とでは,活動内容において量的かつ質的な差異が当然に存在するところであり,都道府県議会議員と市町村議会議員の活動内容との間にも量的かつ質的な差異が当然に存在し,市町村の規模に応じても,その議員活動の内容には,自ずと差異があり得るところであり,財政状況も普通地方公共団体において区々であるから,議員報酬の額及び支給方法にも,当然に差異が生じてしかるべきである。
そして,法203条4項の趣旨は,議員報酬につき,当該普通地方公共団体の規模や特質に応じた議員活動の内容及び性質に即して定めるべきとする点にある以上,当該普通地方公共団体の議員活動の内容につき,1年あたりの実働期間が1か月にも満たない極めて低調な町議会及び各種委員会活動(以下「議会等活動」という。)を中心とした活動しか行わないものであるとすれば,自ずと,それに対応した議員報酬の額及び支給方法が設定されるべきことを当然の前提とした規定というべきであり,勤務日数及び議員活動の実態を全く考慮していないと評価しうる程の過大な報酬額の設定や支給方法の定めをすることまで許容するものではないと解すべきである。
なお,法203条の解釈に関して,議員報酬を就任の日から日割計算によることが適当であることや,議会開会中に出席しない議員に対して報酬を減額する旨の条例を定めることも可能であることからすれば,地方議会の議員報酬は,議員としての活動実態や別に支給される諸手当の存在とは無関係に,議員としての地位を有するだけで当然に支給される性質のものではなく,法が勤務日数に応じた支給を意図的に必要としなかったとの解釈は誤りである。
また,法が歳費ではなく,「報酬」という一定の役務に対する反対給付を意味する言葉を用いており,議員報酬が生活給たる意味を有しないことからすれば,勤務日数を全く考慮せずに,議員報酬額を決定することは許容されていないと解すべきである。
(イ) 期末手当について
法203条3項の趣旨は,国会議員との権衡を考慮して,期末手当を支給することができると定めるにすぎず,支給することを奨励する趣旨を全く含んでいないから,期末手当については,原則支給しないとしつつ,当該普通地方公共団体の規模や特質に応じた議員活動の内容及び性質に即して,例外的に支給することも法律上可能とする趣旨にすぎないと解すべきであり,当該普通地方公共団体における議員の活動内容につき,議員報酬では評価し尽くすことができないなど特段の事情がない限り,期末手当の支給は,法の許容するところではないと解すべきである。
イ 法2条14項及び地方財政法4条の趣旨
法2条14項は,地方公共団体は,最小の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない旨定めており,地方財政法4条は,地方公共団体の経費について,その目的を達成するための必要かつ最小の限度を超えて支出してはならない旨定めているのであるから,地方公共団体の経費に位置づけられる議員報酬と期末手当につき,勤務日数及び議員活動の実態を全く反映させることなく過大に設定することは,法律上許容されていないと解すべきである。
ウ 本件町議会議員等の議員活動の実態
本件町議会議員等1人当たりの1年間における議会等活動の実態は,議会の開催及び出席が年間30日間弱(議会:約10日間,各委員会:約20日間)である。
なお,平成19年1月1日から同年12月31日までの議員活動について,本会議や各種委員会など全議員に共通する議員活動が行われた日は,32日であり,一部の議員が行う議員活動のうち,これらの日以外の日に実施された日の日数は,①総務常任委員2日,②文教福祉常任委員6日,③産業建設常任委員2日,④議会運営委員17日,⑤政治倫理特別委員1日,⑥河北潟周辺議会連絡会2日,⑦議会広報編集委員20日余,⑧決算審査特別委員3日,⑨新人議員1日である。また,平成20年1月1日から同年12月31日までの議員活動について,本会議や各種委員会など全議員に共通する議員活動が行われた日は,28日であり,一部の議員が行う議員活動のうち,これらの日以外の日に実施された日の日数は,①総務常任委員3日,②文教福祉常任委員8日,③産業建設常任委員2日,④議会運営委員11日,⑤議会制度検討委員2日,⑥森林公園活性化特別委員2日,⑦議会広報編集委員22日余,⑧決算審査特別委員5日である。実際の活動時間を無視して,活動に使用する日を数え,旅費日当の支給される公務としての県外視察や研修等の議員活動を考慮してもなお,平成19年,平成20年ともに,議員としての活動日数は年間60日にも満たない。
エ 議員報酬及び期末手当の額
本件各規定によると,1人の本件町議会議員等が1年間に受領することになる議員報酬及び期末手当の総額は,議長545万3260円,副議長478万7455円,議会運営委員長450万2110円,常任委員長450万2110円,議員442万2847円であり,議会等活動の実態(年間30日間の活動)に照らし,1日あたりの報酬額に換算すると,議長18万1775円,副議長15万9581円,議会運営委員長15万0070円,常任委員長15万0070円,議員14万7428円である(計算式〔1年間に受領する議員報酬及び期末手当〕÷30〔1円未満切り捨て〕)。なお,議員としての活動日数が年間60日であるとして換算すると,一般の議員で7万3000円以上,議長で9万円以上となる。
オ 結論
以上のとおり,年間30日弱しか活動しない本件町議会議員等の働きに対する本件議員報酬等は,議会等活動の1日あたり14万7428円以上と極めて高額である。また,議員報酬を高額に設定しつつ,これに加えて期末手当を支給すべき特段の事情もない。
したがって,本件各規定は,一見して明らかに勤務日数及び議員活動の実態を全く考慮していないと評価しうるほどに,過大な報酬及び期末手当の額及び支給方法を定めたものであり,法203条4項の趣旨に違反し,無効である。
また,このように議員1人当たりの勤務日数及び議員活動の実態を全く考慮していないほどに過大な議員報酬額及び期末手当の定めは,法2条14項及び地方財政法4条にも違反し,無効である。
よって,無効な条例に基づいた本件支出負担行為は,違法であり,差し止められるべきである。
カ 被告の主張に対する反論
(ア) 広範な裁量がある旨の主張に対して
被告は,本件各規定の制定について町議会に広範な裁量がある旨主張するが,αにおいて,最も重要な議員活動である議会等への出席は年間30日ほどでしかなく,より重要性の低いその余の議員活動(議員報酬の支給対象として適切とは言い難い議員活動を含む。)を考慮しても,年間440万円を超える議員報酬等の支給は,過大な公金支出といわざるを得ないし,裁量の範囲を越えることは明らかである。ましてや期末手当の支給は,合理的理由を全く見出すことができない。
(イ) 費用弁償や政務調査費等の支給があること
α議会議員等の議員報酬及び費用弁償に関する条例第5条によれば,本件町議会議員等が町議会の会議又は委員会に出席したときは,費用弁償として日額1500円を支給される旨規定され(1項),公務のために出張したときは,相当額の旅費を支給されるから(2項),公務に伴う経費の手当は十分にされているところであり,かつ,α議会政務調査費の交付に関する条例によれば,公務以外の議員活動につき,その経費として年間30万円の政務調査費が支給されるから,「議会の構成員としての活動」や「公人として町内の様々な行事に参加する活動」に対して,あえて高額の議員報酬を定める必要はない。
(ウ) 報酬の算定の基礎とすべきでない活動について
被告は,議員報酬等の制定において,公人として町内の様々な行事に参加することも考慮されるべきである旨主張するが,新年会やパーティなどの懇親会,レガッタの練習及び議員親善グラウンドゴルフ大会など議員相互の親睦を目的とした活動,財団法人A,要保護児童対策地域協議会及び公共施設管理公社などαとは別の団体の役員等としての活動は,議員報酬に値する活動とはいえないし,当該各種団体から別途報酬が支給されている。被告は,このような活動を議員報酬の算定の基礎として採用しており,裁量の逸脱は明白である。
また,衆議院議員や参議院議員への挨拶等の政治活動,政党活動,政治連盟の活動,選挙対策としての活動につき,議員報酬の支給対象となる活動として評価することは,公費をもって各議員の政治活動や政治連盟の活動を支援するに等しく,違法であるし,裁量の逸脱である。
さらに,被告が議員としての活動として提出する証拠の中には,社会教育委員,監査委員等としての活動など,α特別職の職員で非常勤の者の報酬及び費用弁償に関する条例において,議員報酬とは別に日額及び月額の報酬が支給される各種委員としての活動や,同条例に掲げられていないが議員報酬とは別に7000円の範囲内で日額報酬が支給される活動も含まれており(同条例2条2項参照),かかる各種委員としての活動を議員報酬の算定の基礎として考慮することは,二重に報酬を支払うに等しく,裁量の逸脱にあたると解すべきである。
また,議長ないし副議長としての活動は,議員としての活動にはあたらないから,通常の議員報酬の額を算定するにあたり考慮できる活動にすべきでない。
加えて,議長には議員に比較して,年間103万0413円加算した報酬が支払われているが,議長の活動内容及び別途,議長交際費(平成19年度は28万2774円,平成20年度は37万4454円)が支払われていることを考慮すると,上記加算額は裁量を逸脱している。副議長及び各委員長についても,わずかな活動しかしていないにも関わらず,過大な報酬の加算を受けており,裁量を逸脱している。
(エ) 生活給でないこと
議員は,常勤の職員ではないので,生活給の側面を考慮すべきでない。
(オ) αの財政状況が厳しい状況にあること
αは,地方公共団体の財政の健全化に関する法律に照らすと,一般的許可団体(警告ゾーン)にあたると評価されるにもかかわらず,支給することができるとされているにすぎない期末手当を支給する合理的理由は一切ない。
また,議員報酬等の額が,議会等への出席日数及び活動実態を離れて人口比から単純に認定されるものであった場合,その金額に合理的理由がないことは明らかである。
(被告の主張)
ア 法203条に違反しないこと
(ア) 203条の法形式及び趣旨
法は,普通地方公共団体の議会の議員報酬及び期末手当の額並びにその支給方法は,条例でこれを定めなければならないと規定しているのみ(法203条)であって,議員報酬及び期末手当の額並びに支給方法に関する具体的な制限を定めず,条例に全て委ねている。
また,国会議員は,国庫から相当額の歳費を受けることが憲法上保障されており(憲法49条),一般職の国家公務員の最高の給与額より少なくない歳費を受けるとされ(国会法35条),国会議員の歳費,旅費及び手当等に関する法律によって,具体的な金額や支給方法が定められている。そして,憲法は,地方自治の本旨を定め(憲法92条),地方自治の重要性を明文上明らかにしており,法は,地方自治の本旨を具体化するため,地方公共団体の議会の議員について,国会議員との権衡を考慮して,議員に対する報酬の支払いを地方公共団体の義務とし(法203条1項),期末手当の支給が可能であることを明文で定め(同条3項),さらに,他の非常勤職員とは異なって報酬の支給について勤務日数に応じた支給を必要としなかった(法203条の2第2項参照)。
(イ) 平成20年改正
法は,平成20年に改正されているところ,平成20年法律第69号による改正前の同法は,議会の議員を含む非常勤職員の報酬について,全て改正前法203条によって規定していたが,議会の議員の地位が他の非常勤職員と質的に異なることを示すため,新法は,他の非常勤職員と議会の議員報酬を別の条文に書き分け,報酬の扱いが他の非常勤職員と異なることを明確化した。
(ウ) 小括
このような法の規定の仕方や趣旨及び改正の経緯からすれば,法は,普通地方公共団体の議会の議員に対する報酬の額や支給方法について,勤務日数に応じた報酬の支給を要請していないのみならず,国会議員との権衡も考慮して,普通地方公共団体の議会に広い裁量を与えているというべきであって,本件各規定に裁量権の逸脱はなく,適法である。
イ 法2条14項及び地方財政法4条に違反しないこと
法2条14項及び地方財政法4条は,普通地方公共団体に対する抽象的努力義務を定めた規定にすぎず,いかなる場合に同各条項に反するか否かの判断は,各普通地方公共団体の広範な裁量に委ねられているところ,本件各規定及びこれに基づく支給は,別紙議員報酬一覧表記載のとおり,石川県内の他市町村と比較して別段高額ではなく,裁量の範囲内にある。
ウ 本件町議会議員等の活動が重要かつ多岐にわたること
普通地方公共団体の議会は,条例の作成と改廃,予算の作成と決算の承認,その他重要な権限を担っており(法96条ないし100条の2),その構成員たる本件町議会議員等は,議会や委員会に出席しない日であっても,調査や検討のために多大な労力を要し,議員としての活動は,単に議会や委員会への出席にとどまるものではなく,議員の報酬も議会への出席を含む個別の活動に対して直接の対価性を有するものではないから,議会や委員会への出席日数だけで議員等の活動を評価すべきではない。
また,本件町議会議員等は,議会の構成員としての活動のほか,これに付随する活動として町内の様々な行事に参加する立場にあり,議員報酬の金額や支給方法の決定にあたっては,こうした要素も考慮されるべきである(なお,これらの活動の全てについて,直接的に議員報酬及び期末手当と対価性があるという趣旨ではない。)。
エ 費用弁償及び政務調査費について
議員に対する費用弁償及び政務調査費は,議員活動に付随して発生する実費を精算するためのものであって,報酬とは支給目的が異なり,これらが支給されていることをもって,本件各規定が違法とはいえない。
オ αの財政状態について
αの財政状態は,実質公債費率がやや高いものの,現在のところ,破綻の危険はないのみならず,αの財政規模からして,議員報酬や期末手当の支給がαの財政を直接悪化させる程の要因とはいえない。
カ 結論
前記のとおり,法は,議員報酬及び期末手当の額及び支給方法について,町議会に広範な裁量を与えているところ,本件各規定は,議会の議員の職責の重さやαの規模に鑑みると社会通念に照らし,高額というほどの額ではなく,石川県内の他の市町村の議員報酬と比較しても,突出して高額でもないから,裁量権の逸脱はなく,適法である。
また,議長や副議長は,一般の議員と異なる権限が法定されていること(法104条ないし106条)及び報酬の差も議長について月額6万5000円,副議長について月額2万3000円であり,社会通念に照らし,裁量を逸脱するものではない。
なお,本件は,議員報酬及び期末手当に関する政策論であり,議会で議論されて条例の改正を通じて実現されるべきである。
第3当裁判所の判断
1 争点1(住民監査請求の適法性:本案前の争点)について
(1) 本件監査請求の適法性
ア 被告は,本件監査請求には抽象的な持論の主張があるのみであって,議員報酬及び期末手当の支給がいかなる会計法規に違反しているのかについて具体的な指摘が全く存在しておらず,法242条1項の定める「違法もしくは不当な公金の支出」の指摘がないから,法定の要件を具備しない不適法なものであると主張する。
本件監査請求に対する監査委員の決定も,前提事実記載のとおり,被告の主張と同趣旨の判断をしているところである。
そこで,本件監査請求の適法性について,以下検討する。
イ 財務会計行為の特定
住民監査請求においては,対象とする財務会計上の行為又は怠る事実(以下「当該行為」という。)を,他の事項から区別して認識することができるように,個別的,具体的に摘示することを要するが,監査請求書及びこれに添付された事実を証する書面の各記載,監査請求人が提出したその他の資料等を総合して,住民監査請求の対象が特定の財務会計上の行為等であることを監査委員が認識することができる程度に摘示されているのであれば,これをもって足りるのであり,このことは,当該行為が複数である場合であっても異ならない(最高裁平成2年6月5日第三小法廷判決・民集44巻4号719頁,最高裁平成16年11月25日第一小法廷判決・民集58巻8号2297頁参照)。
また,当該行為を防止するために必要な措置を求める場合には,これに加えて,当該行為が行われることが相当な確実さをもって予測されるか否かの点についての判断が可能である程度に特定されていることも必要になる(最高裁平成5年9月7日第三小法廷判決・民集47巻7号4755頁,最高裁平成18年4月25日第三小法廷判決・民集60巻4号1841頁参照)。
本件において,本件監査請求書(甲2)の記載内容(別紙を含む。)によれば,本件監査請求の対象とする財務会計上の行為は,本件各規定に基づく本件町議会議員等に対する議員報酬及びその年の6月と12月の2回にわたる期末手当(本件議員報酬等)の支給に係るα長がする今後一切の支出負担行為であることは明らかであり,他の事項から区別して認識することができるように,個別的,具体的に摘示されているというべきであり,これをもって監査委員が認識することができる程度に摘示されているといえる。また,本件各規定に基づき,本件報酬等が支給されるかを問題とすれば足りるため,相当な確実さをもって予測されるか否かの点についての判断も可能である。
ウ 違法性の特定
次に,住民監査請求において必要とされる違法性あるいは不当性に関する主張は,監査請求の全体の趣旨からみて当該行為が具体的な理由によって,法令に違反し,あるいは行政目的上不適当である旨を指摘すれば足り,特定の法令を挙げてこれに違反する旨までを常に摘示しなければならないものではなく,特定の法令を挙示していないことは,当該監査請求の理由の有無に関わる問題であるというべきである。
そして,本件監査請求書(甲2)の記載内容(別紙を含む。)によれば,本件監査請求は,本件町議会議員等の活動実態に見合わない高額な議員報酬等が支給されていることが違法な公金の支出にあたると記載されているとみることができるから,本件監査請求は,地方自治法等の法令を直接挙げてはいないものの,その全体の趣旨からみて,本件各規定が違法であることを理由に,その支払いが違法となる旨を主張しているということができ,本件監査請求は適法である。
したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。
エ 結論
よって,α監査委員が,本件監査請求を却下したことは,適法な監査請求を却下したことに帰する。
(2) 本件住民訴訟の適法性
被告は,本件監査請求が法242条1項に定める法定要件を具備しないものとして却下されているから,本件訴訟提起は,住民監査請求前置を満たしていない不適法なものであると主張するが,前述したとおり,本件監査請求は適法であったところ,監査委員は,これを不適法であるとして却下したのであるから,監査委員の同措置を不服として住民訴訟が提起された本件訴えは,適法である(最高裁平成10年12月18日第三小法廷判決・民集52巻9号2039頁参照)。
したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。
2 争点2(支出負担行為の違法性)について
(1) 普通地方公共団体の議会の主な権限等
ア 議会の組織・議員の任期等
法は,普通地方公共団体に議会または町村総会を置く(法89条,94条)とし,議会を構成する議員は,住民の直接これを選挙することによって選ばれ(憲法93条2項),衆議院議員又は参議院議員,地方公共団体の議会の議員,常勤の職員等と兼ねることができない(法92条)ほか,関係私企業への就職を制限され(法92条の2),その任期は,原則,4年とされている(法93条)。
イ 議会の権限等
普通地方公共団体の議会は,重要案件に関する審議議決機関であり,法96条1項により,「条例を設け又は改廃すること」(1号),「予算を定めること」(2号),「決算を認定すること」(3号),「法律又はこれに基づく政令に規定するものを除くほか,地方税の賦課徴収又は分担金,使用料,加入金若しくは手数料の徴収に関すること」(4号),「その種類及び金額について政令で定める基準に従い条例で定める契約を締結すること」(5号),「条例で定める場合を除くほか,財産を交換し,出資の目的とし,若しくは支払手段として使用し,又は適正な対価なくしてこれを譲渡し,若しくは貸し付けること」(6号),「不動産を信託すること」(7号),「前2号に定めるものを除くほか,その種類及び金額について政令で定める基準に従い条例で定める財産の取得又は処分をすること」(8号),「負担付きの寄附又は贈与を受けること」(9号),「法律若しくはこれに基づく政令又は条例に特別の定めがある場合を除くほか,権利を放棄すること」(10号),「条例で定める重要な公の施設につき条例で定める長期かつ独占的な利用をさせること」(11号),「普通地方公共団体がその当事者である審査請求その他の不服申立て,訴えの提起,和解,あつせん,調停及び仲裁に関すること」(12号),「法律上その義務に属する損害賠償の額を定めること」(13号),「普通地方公共団体の区域内の公共的団体等の活動の総合調整に関すること」(14号),「その他法律又はこれに基づく政令により議会の権限に属する事項」(15号)など重要な立法案件及び重要な行政上の意思決定の機能を担う。
また,議会は,自治事務にあっては労働委員会及び収用委員会の権限に属する事務で政令で定めるものを除き,法定受託事務にあっては国の安全を害するおそれがあることその他の事由により議会の検査の対象とすることが適当でないものとして政令で定めるものを除く普通地方公共団体の事務について,書類及び計算書を検閲し,普通地方公共団体の長や各種委員会等の報告を請求し,当該事務の管理,議決の執行及び出納を検査することができ,さらに,監査委員に対し,監査を求め,監査の結果に関する報告を請求することができる(法98条)。議会は,上記事務に関する調査を行い,選挙人その他の関係人の出頭及び証言並びに記録の提出を請求することができる(法100条1項)。
そのほか,議会は,選挙(法97条1項),国会又は関係行政庁への意見書の提出(法99条),会議規則の制定(法120条),請願の処理(法125条),議員の辞職の許可(法126条),議員の懲罰(法134条1項)等の権限を有する。
ウ 本会議及び議長等の職務など
普通地方公共団体の議会は,定例会及び臨時会であり(法102条1項),定例会は,毎年条例で定める回数招集しなければならず(同条2項),臨時会は,必要がある場合において,その事件に限り招集される(同条3項)。
普通地方公共団体の議会は,議員の中から議長及び副議長一人を選挙しなければならず,その任期は,議員の任期による(法103条)。議長は,議場の秩序を保持し,議事を整理し,議会の事務を統理し,議会を代表する(法104条)とされ,委員会への出席発言権が認められている(法105条)ほか,普通地方公共団体の議会又は議長の処分又は裁決に係る普通地方公共団体を被告とする訴訟については,議長が当該普通地方公共団体を代表しなければならない(法105条の2)。副議長は,議長に事故があるとき,又は議長が欠けたときは,副議長が議長の職務を行う(法106条)。
エ 委員会
普通地方公共団体の議会は,条例で常任委員会,議会運営委員会,特別委員会を置くことができ,議員は,少なくとも一の常任委員となるものとされている(法109条1項,2項)。常任委員会は,その部門に属する当該普通地方公共団体の事務に関する調査を行い,議案,陳情等を審査するほか,予算その他重要な議案,陳情等について公聴会を開き,真に利害関係を有する者又は学識経験を有する者等から意見を聴くことができ,参考人の出頭を求め,意見を聴くことができる(法109条4~6項)。また,議会運営委員会は,議会の運営に関する事項,議会の会議規則,委員会に関する条例等に関する事項,議長の諮問に関する事項に関する調査を行い,議案,陳情等を審査する(法109条の2第4項)。特別委員会は,議会の議決により付議された事件を審査することとされ,議会の議決により付議された特定の事件については閉会中もこれを審査することを妨げないとされる(法110条)。
(2) 前提事実並びに証拠(甲7~13,乙1~36,39,40)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,同認定を左右するに足る証拠はない。
ア αの人口及び財政状況
αの平成20年3月31日時点の人口は約3万7500人であり,平成20年度決算によるαの資産額は,約600億円,同じく負債額は,約200億円,実質公債費比率は,19.9%(実質公債費比率による起債制限の基準に照らすと4段階中の上から2番目の一般的許可団体となる。)である。
イ 本件町議会議員等の活動について
市町村議会の議員の定数は,法91条により,条例で定めることとされ,市町村の区分に応じ,法に定める数を超えない範囲内で定めなければならないとされているところ,αの議員定数は,18人と定められている。
本件町議会において,定例会及び臨時会の開催は,年間10日程度であり,各委員会の開催は,年間20日程度である。
αの議員は,3つの常任委員会(総務常任委員会,文教福祉常任委員会,産業建設常任委員会)に各6名ずつ所属するほか,議会運営委員会に5名,その他の特別委員会に各数名ずつ属している。
αの議員全員が参加する活動として,本会議の定例会,臨時議会,各常任委員会の定例会,議会全員協議会,石川中央都市圏議会連絡行政課題研究会,各種議員研修があり,現に活動がされている。各議員は,上記の他に各議員の属する委員会の活動にも参加している。
ウ α及び石川県内の他市町村の議員等の報酬額等
本件各規定に基づく平成20年7月1日時点における議員等の報酬額及び期末手当の額は,α議会によって,その職務の内容,職責の軽重,αの規模のほか,αの財政状況を含む諸事情を考慮した上で,別紙議員報酬一覧表のαの欄記載のとおり条例で定められている。なお,平成20年7月1日時点における石川県内の市町村(αを含む。)の議員等の報酬額及び期末手当の額は,別紙議員報酬一覧表記載のとおりである。
エ 法203条の改正について
(ア) 昭和31年の改正
昭和31年法律第147号による法の一部改正により,法203条2項において,「前項の職員の中議会の議員以外の者に対する報酬は,その勤務日数に応じてこれを支給する。但し,条例で特別の定をした場合は,この限りでない。」旨の規定が,同条4項として,「普通地方公共団体は,条例で,その議会の議員に対し,期末手当を支給することができる。」旨の規定がそれぞれ加えられ,法204条の2として,「普通地方公共団体は,いかなる給与その他の給付も法律又はこれに基づく条例に基づかずには,これを第203条第1項の職員及び前条第1項の職員に支給することができない。」などの規定が追加された。
上記法203条2項の規定は,非常勤職員に対する報酬が,勤務に対する反対給付としての性格を有することに鑑み,当該報酬の額は具体的な勤務量,すなわち,勤務日数に応じて支給されるべき旨の原則を明らかにする一方,非常勤職員の勤務の態様は多岐にわたっているため,特別の事情のあるものについては,この原則の例外を定めることができるとし,議会の議員を除外したことは,国会議員との権衡を考慮したものであり,従来どおり議会の議員については特に法律上の原則を設けなかったものである。
上記法203条4項の規定は,法204条の2の規定の新設に伴い,法律又はこれに基づく条例に根拠を持たない限り,職員に対しては,給与その他の給付を一切支給することができなくなるため,国会議員との権衡を考慮し,地方議会の議員に対しても期末手当を支給することが法律上可能であるとしたものであるが,この改正は,議員に対して期末手当を支給すべきものとし,又は支給することを奨励する意図に出るものとは解されない。
法204条の2の規定は,法203条及び204条関係の改正と相まって,地方公共団体の給与規定の整備を図り,その公明適正化を期したものであり,法204条の2の新設により,地方公共団体が職員に支給する給与その他の給付は法律上の根拠を必要とし,法律に規定された種類についてのみ認められることとなり,それ以外の一切の給与その他の給付の支給は禁止されるものであると解される。
(イ) 平成20年の改正(平成20年法律第69号)
改正前法203条の規定は,普通地方公共団体の議会の議員,委員会の委員等の非常勤の職員に対する報酬及び費用弁償並びに議会の議員に対する期末手当に関する規定であったが,改正により,他の行政委員会の委員等の報酬の支給方法等に関する規定と議会の議員に対する議員報酬及び費用弁償並びに期末手当に関する規定を分離し,報酬の名称を議員報酬に改め,改正後の法203条の規定とされた。
(3) 以上を前提に本件支出負担行為の違法性について検討する。
ア 議員報酬及び期末手当に関する議会の裁量について
(ア) 議員報酬について
法203条は,普通地方公共団体の議員報酬について,1項において,普通地方公共団体は議員報酬を支給しなければならないと定め,4項において,議員報酬の額及び支給方法を条例で定めなければならないと定めている。
法203条が普通地方公共団体の議員報酬に関して条例で定めることとしている趣旨(いわゆる給与条例主義)は,普通地方公共団体の議会の議員に対して議員報酬を権利として保障するとともに,報酬の額及びその支給方法の決定を普通地方公共団体の住民の直接選挙により構成される議事機関である議会が制定する条例に委ねることにより,これに対する民主的統制を図ったものであると解される。
加えて,法203条の2第2項が普通地方公共団体の議員以外の非常勤職員の報酬等について,その本文において,勤務日数に応じて支給する旨(日額報酬制)を定め,ただし書において,条例で特別の定めをした場合はこの限りでないとしているのに対し,法203条4項は,文言上,何ら制限することなく議員報酬の額及び支給方法の定めについて条例に委任していること,前記(2)で説示した法203条の改正経緯に窺われるように普通地方公共団体の議員報酬について国会議員との権衡が考慮され,また,前記非常勤職員の報酬等に関する規定と区別して規定されるようになったこと及び普通地方公共団体の議会の権限は,上記のとおり,重要かつ広範多岐にわたり,その構成員である議員の職務も重要かつ広範多岐にわたるものであって,その職務内容は,議会や各種委員会に出席して議決等をすることに尽きるものではなく,その職責を十全に果たすための準備,連絡調整等の諸点も含まれ,必ずしもその画定が容易でない点で,他の非常勤及び常勤の公務員の職務と相当性質を異にするものであること等を踏まえると,法203条1項所定の議員報酬の額及び支給方法については,条例を制定する普通地方公共団体の議会の裁量判断にゆだねられていると解され,当該普通地方公共団体の議員の職務内容や活動内容,当該普通地方公共団体の規模ないし財政状況といった諸事情を総合勘案し,議会が裁量権の範囲を超え又はそれを濫用したものであると認められない限り,違法とはならないというべきである。
(イ) 期末手当について
法203条は,普通地方公共団体の期末手当について,3項において,普通地方公共団体が条例で期末手当を支給することができると定め,4項において,期末手当の額及び支給方法を条例で定めなければならないと定めている。
上記条項は,昭和31年の改正により法204条の2が新設され,普通地方公共団体は,法律又はこれに基づく条例に基づかなければ,いかなる給付も支給することを禁じられたことと関連して新設された規定であるところ,期末手当に関する法203条の趣旨は,議員報酬と異なり,普通地方公共団体の議会の議員にその支給について権利として保障したものではなく,国会議員との権衡を考慮して支給しうる途を開いたものにすぎないと解されるものの,期末手当を支給するか否か,その額及びその支給方法の決定を議会が制定する条例に委ねることにより,民主的統制を図ったものであると解される。
加えて,法203条4項は,文言上,何ら制限することなく期末手当の額及び支給方法の定めについて条例に委任していることや,前記(2)で説示した法203条の改正経緯に窺われるように国会議員との権衡が考慮されたこと及び上述した普通地方公共団体の議員の職務も重要かつ広範多岐にわたり,必ずしもその画定が容易でないこと等を踏まえると,法203条3項にいう期末手当について,支給するか否か,支給する場合の額及び支給方法については,条例を制定する普通地方公共団体の議会の裁量判断にゆだねられていると解され,当該普通地方公共団体の議員の職務内容や活動内容,当該普通地方公共団体の規模ないし財政状況といった諸事情を総合勘案し,議会が裁量権の範囲を超え又はそれを濫用したものであると認められない限り,違法とはならないというべきである。
なお,原告は,期末手当について,議員報酬では評価し尽くすことができないなど特段の事情がない限り,期末手当の支給は,法の許容するところではないと解すべきである旨主張するが,法203条4項は,そのような限定を付しておらず,期末手当を支給するか否か,その額及び支給方法について,議会の裁量判断に委ねていると解され,原告の主張は採用の限りではない。
イ 本件各規定について,裁量の逸脱ないし濫用があるかについて
(ア) 本件町議会議員等に対して支給される本件議員報酬等の額は,上記認定のとおり,αの住民の直接選挙によって選ばれた議員によって構成される議会によって,その職務の内容,職責の軽重,αの規模のほか,αの財政状況を含む諸事情を考慮した上で議決された条例に基づいて,議長について月額34万4000円,副議長について月額30万2000円,議員について27万9000円と定められたものであるところ,石川県内の他の町村の議員報酬の額が,いずれも1か月あたり,議長について27万5000円~38万6000円程度,副議長について24万5000円~34万2000円,その他の議員について22万5000円~32万6000円程度であり,期末手当もおおむね同程度の額が支給されているのであって,α議会は,このような取り扱いとの均衡をも考慮しつつ,議員報酬及び期末手当の額並びに支給方法を定めていたものということができ,議会に与えられた裁量を逸脱したものとは認められない。
原告は,本件各規定が,議員活動の実態を全く考慮していないと評価しうる程の過大な報酬額の設定や支給方法の定めをした旨主張するが,そのような事情を認めるに足る証拠はない。
(イ) 原告は,αの財政状況が厳しい状況にあることや,本件議員報酬等が人口比から単純に試算されているとして,本件各規定が違法である旨主張する。
しかし,本件議員報酬等が人口比から単純に試算されていると認めるに足る証拠はないのみならず,上記認定のαの規模や財政状況に照らすと,本件各規定が裁量権の範囲を超え又はそれを濫用したものと認めるに足りない。
なお,原告は,普通地方公共団体の議会の議員と国会議員とでは,活動内容において量的かつ質的な差異が当然に存在し,報酬の額や支給方法に差異が生じてしかるべき旨主張するが,この点を考慮に入れてもα議会が裁量を逸脱したとは認められない。
(ウ) 原告は,本件各規定が違法である理由として本件町議会議員等に対して費用弁償や政務調査費が支給されていることを挙げる。
しかし,費用弁償や政務調査費は,議員活動に付随して発生する実費を精算するためのものであり,議員報酬や期末手当とは支給目的が異なるため,これらが支給されていることをもって,本件各規定が裁量権の範囲を超え又はそれを濫用したもの解することはできない。
(エ) 原告は,被告が提出した証拠(乙37,38)の中に議員相互の親睦を目的とする活動やαとは別の団体の役員等としての活動,議員報酬とは別途報酬が支払われる活動があるなどと主張して,αにおける議員報酬及び期末手当の支給が過大である旨主張するが,被告が提出した上記証拠は,議員の活動内容の広範さの例として,その公的活動を挙げたものに過ぎず,議員報酬と対価性を有する活動を挙げたものではないのであるから,原告の主張は採用の限りではない。
(オ) 原告は,議長及び副議長と他の議員の報酬額の差について,議長交際費の存在ないし議長及び副議長の活動内容を考慮すると,その加算額は,裁量を逸脱している旨主張する。
しかし,議長及び副議長とその他の議員との権限及び責任の差異及び各加算額(議長について月額6万5000円,副議長について,2万3000円)を考慮すると,議会に与えた裁量権の範囲を超え又はそれを濫用したものとは認められない。
(カ) 原告は,本件各規定につき,勤務日数及び議員活動の実態を全く反映させることなく過大に設定しており,法2条14項及び地方財政法4条に反して違法である旨主張するが,普通地方公共団体の議員の職務が重要かつ広範多岐にわたるものであって,その職務内容は,議会や各種委員会に出席して議決等をすることに尽きるものではないことは上述のとおりであるから,本件各規定が法2条14項及び地方財政法4条の趣旨に照らしても違法であるということはできない。
その他,本件報酬及び期末手当の額並びに支給方法に関する本件各規定がα議会に与えられた裁量権の範囲を超え又はそれを濫用したものであることを認めるに足る事情は窺われない。
したがって,本件各規定は,α議会に与えられた裁量権の範囲内のものと解するのが相当である。
ウ まとめ
以上のとおり,本件報酬及び期末手当の額並びに支給方法に関する本件各規定は,議員報酬および議員に対する期末手当に関する法203条の関係規定の趣旨目的に反するものとはいえず,同条が普通地方公共団体の議会に与えた裁量権の範囲を超え又はそれを濫用したものとは認められない。
したがって,本件各規定は,適法なものであって,本件各規定に基づく被告の支出負担行為も違法であるとは認められない。
第4結論
以上によれば,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中山誠一 裁判官 上田元和 裁判官 川崎志織)