金沢地方裁判所 平成7年(ワ)698号 判決 2002年3月06日
原告 廣瀬光夫 ほか1765名
被告 国
代理人 岡本岳 池田信彦 長谷川鉱治 西口武千代 滝藤悟 浅井俊延 閨良一 宮島尚史 村田樹二 今井唯市 ほか23名
主文
1 原告藤本ミキ子の訴えを却下する。
2 被告は、別紙損害賠償額一覧表<略>掲記の原告らのうち同表中に「期間B」欄のある原告らに対し、それぞれ、次の(1)ないし(3)の各金員を支払え。
(1) 同表「賠償額」欄に「賠償額合計」として記載した額の金員。
(2) (1)の金員のうち、同表「賠償額」欄に「A期間総額」として記載した額の金員に対する、第3次訴訟原告についてはいずれも平成8年1月19日から、第4次訴訟原告についてはいずれも平成8年6月25日から各支払済みまで年5分の割合による金員。
(3) (1)の金員のうち、同表「期間B」欄記載の期間に発生した「慰謝料月額」欄記載の各金員に対する、各発生月の翌月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員。
3 被告は、別紙損害賠償額一覧表<略>掲記の原告らのうち同表中に「期間B」欄のない原告らに対し、それぞれ、同表「賠償額」欄に「A期間総額」として記載した額の金員及びこれに対する、第3次訴訟原告についてはいずれも平成8年1月19日から、第4次訴訟原告については平成8年6月25日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 上記2及び3の原告らの平成13年6月29日までに生じたとする損害の賠償請求中、その余の部分をいずれも棄却する。
5 上記1ないし3の原告らを除くその余の原告らの平成13年6月29日までに生じたとする損害の賠償請求をいずれも棄却する。
6 原告藤本ミキ子を除くその余の原告らの訴えのうち、平成13年6月30日以降に生じるとする将来の損害の賠償請求に係る部分をいずれも却下する。
7 原告藤本ミキ子を除くその余の原告らの、自衛隊及びアメリカ合衆国軍隊の軍用機の離着陸等の差止め及びその発する騒音の音量規制に係る請求をいずれも棄却する。
8 訴訟費用の負担は、第3、4次訴訟を通じて、次のとおりとする。
(1) 別紙損害賠償額一覧表<略>掲記の原告らに生じた訴訟費用は、その3分の1を同原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。
(2) 原告藤本ミキ子に生じた訴訟費用は、原告訴訟代理人らの負担とする。
(3) その余の原告らに生じた訴訟費用は、同原告らの負担とする。
(4) 被告に生じた訴訟費用は、その5分の1を原告藤本ミキ子を除く原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。
9 この判決は、第2項のうち別紙損害賠償額一覧表<略>の「賠償額」欄に「賠償額合計」として記載した額の金員の支払を命ずる部分、及び第3項のうち別紙損害賠償額一覧表<略>の「賠償額」欄に「A期間総額」として記載した額の金員の支払を命ずる部分に限り、仮に執行することができる。
事実
第1当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1)(差止請求)
ア 被告は、自ら又はアメリカ合衆国軍隊をして、小松飛行場において、毎日午後零時から午後2時まで及び午後6時から翌日午前7時までの間、一切の軍用機を離着陸させたり、そのエンジンを作動させたりしてはならない。
イ 被告は、自ら又はアメリカ合衆国軍隊をして、小松飛行場の使用により、毎日午前7時から午後零時まで及び午後2時から午後6時までの間、原告らの各居住地に対し70ホン(A)を超える一切の軍用機の発する騒音を到達させてはならない。
(2)(慰謝料等請求)
ア 被告は、原告らに対し、それぞれ、金120万円及びこれに対する第3次訴訟原告らについては平成8年1月19日から、第4次訴訟原告らについては平成8年6月25日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
イ 被告は、原告ら各自に対し、第3次訴訟原告らについては平成8年1月19日から、第4次訴訟原告らについては平成8年6月25日から、被告が自ら又はアメリカ合衆国軍隊をして前記(1)のア及びイの各措置をなし又はなさしめるまでの間、毎月末日限り金5万円及びこれに対する各発生月の翌月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は被告の負担とする。
(4) 仮執行宣言
2 請求の趣旨に対する答弁
(1) 原告藤本ミキ子(別紙当事者目録記載<略>の原告番号第3次訴訟1100番。以下、単に「3次1100」等と略記する。)の訴えを却下する。
(2) 上記(1)の原告を除くその余の原告らの訴えのうち、自衛隊が使用する航空機の離着陸及びエンジンの作動の差止め並びに同航空機が発する騒音の音量規制を請求する部分並びに将来の損害の賠償を請求する部分を、いずれも却下する。
(3) 上記(2)の原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
(4) 訴訟費用は原告らの負担とする。
(5) 仮執行免脱宣言及び仮執行の開始時期猶予宣言
第2当事者の主張
原告らの主張は別冊「原告ら最終準備書面」<略>記載のとおりであり、被告の主張は別冊「被告最終準備書面」<略>記載のとおりであるが、その要旨は次のとおりである。
1 原告らの請求原因の要旨
(1) 原告らの居住地等
原告らの居住地ないし職場所在地は、石川県小松市、同県加賀市、同県能美郡根上町等であり、日本海と加賀平野の豊かな自然に恵まれ、太古のいにしえより静かで平和な生活と生業を営むのに適した地域であった。
ところが、後述するとおり上記地域の中心に小松飛行場(本件飛行場)が設置され、ここに離着陸するすべての軍用機は、日々すさまじい激痛音を発しながら原告らの居住地域上空を飛行するなどしており、これにより原告らの諸権利は著しく侵害されている。
ちなみに、原告らが各自の居住地においてそれぞれ居住を開始した時期は、別表1「居住状況一覧」<略>における「居住期間」欄中の「原告主張」欄記載のとおりである(なお、原告ら訴訟代理人は、この点に関する主張の趣旨について、原告らが上記居住開始時期以降同表記載の居住地に居住し現在も居住を続けている旨主張するものであると釈明し、前後に転居歴を有する原告らにあっても、上記居住地に転入するまでの被害及び同所から転出した後の被害については、本訴においてこれを主張しない趣旨であることを明らかにした。)。
(2) 本件飛行場の概況
本件飛行場は、石川県小松市向本折町に所在し、被告が航空自衛隊基地として設置し、内部的には航空自衛隊小松基地司令が管理する飛行場であるが、昭和36年7月同基地に第6航空団が編成されて以来現在に至るまで、同航空団は、航空総隊隷下、中部航空方面隊直轄部隊の航空団として、戦闘機による防空行動、陸上及び海上の行動に対する支援並びに領空侵犯に対する措置を主要任務とし、日本海側における中心的な自衛隊航空基地としての機能を果たしている。
また、本件飛行場の一部は、昭和57年、地位協定(日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定)により日米共同訓練等の実施のためにアメリカ合衆国軍隊(米軍)に新規提供され、航空自衛隊と米軍との共同使用が認められており、毎年数回共同訓練が行われている。
なお、本件飛行場は、昭和36年公共用飛行場として告示され、自衛隊と民間航空との共用飛行場となっている。
(3) 原告らに対する侵害行為
ア 軍用機による騒音暴露
本件飛行場に離着陸するすべての軍用機は、激痛音を発しながら原告らの居住地域上空を低空飛行のまま上昇、旋回及び下降しており、また、同飛行場でなされる軍用機のエンジン整備等に伴うごう音も原告らの居住地域に直接到達している。軍用機による騒音暴露は、騒音測定が始められた昭和42年以降現在まですさまじい実態をもって推移してきており、原告らは永年にわたってこの激痛音に暴露され続けている。
イ 軍用機の墜落等の危険性
本件飛行場はこれまで軍用機基地として拡張強化されてきたが、この間軍用機墜落等の事故がしばしば起きている。本件飛行場を離着陸する軍用機は、多数の住民が居住する広範な地域の上空を多数回にわたって飛んでおり、原告らが訴えているように、周辺住民は日常的に軍用機の墜落等による大惨事の恐怖におびやかされ、かつ生命の危険にさらされている。
これまでの研究結果によれば、戦闘機の事故発生確率は民間機のそれの100倍とされており、本件飛行場を離着陸する軍用機の戦闘飛行訓練が年々激しく実戦さながらの様相を呈していることも併せ考えると、原告ら周辺住民がまことに憂慮すべき危険にさらされていることは明らかである。
ウ 平和的生存権に対する侵害
原告らは、憲法前文、9条及び13条に基づき、軍事的手段を一切排除して恐怖と欠乏から免れ平和のうちに生存する権利、すなわち平和的生存権を有している。しかるに、自衛隊及び在日米軍は憲法9条で保持を禁止された戦力に当たることは明白であり、本件飛行場を拠点とする航空自衛隊及び在日米軍の存在・活動は、いかなる意味においても憲法上許されないものであるとともに、戦争発生の危険を惹起、誘発するものであって、原告らの有する上記平和的生存権を侵害するものである。
(4) 原告らの被害
原告らは、上記のとおり平和的生存権を著しく侵害されているだけでなく、軍用機の騒音に暴露されるという環境の破壊を被り、かつ、それにとどまらず、以下に述べるとおり、各種の人格権に対する侵害を受けている。その被害の特質は、第一に被害の範囲が極めて広い領域にわたっていることであり、第二に被害の態様が多種多様に現れていることであり、第三に被害の程度が深刻かつ重大であることである。そして、これらの被害はすべての原告に共通して重層的に出現し、相乗的に被害を増大させているものであり、この重層的相乗的な被害の総体がまさに総体として把握されなければならないし、かつ、原告ら個々人がひとしくかかる被害の総体を被っているものである。
ア 身体的被害(健康被害)
軍用ジェット戦闘機騒音による身体的被害のうち最も顕著なのは聴力に対する侵害である。すなわち、軍用機の飛来直後においてはその激痛音によりすべての者が一時的聴力損失の被害を受け、その状態を繰り返されるとやがて騒音性難聴となる。現に原告らの中にも耳鳴り、難聴を訴える者が多い。
また、騒音は自律神経、特に交感神経を刺激し、身体各部に種々の生理的被害を生じさせる。頭痛、めまい、肩こり、疲労感、血圧異常、心悸昂進、食欲不振、胃腸障害等を訴える原告が少なくないのはこのためである。
さらに、激甚な軍用機騒音下に病臥している病気療養中の者にとっては、その精神的苦痛は特に甚だしく、治療が長引き回復が困難となり、経済的負担の増大と共に病状が悪化することとなる。
イ 精神的被害
軍用機騒音は日常生活上他に類を見ないほど強大であり、かつ、金属性激痛音であって、かかる騒音に日夜さらされている原告らはいずれも強い不快感、いらだちや疲労感を訴えている。そして、日常的に墜落の恐怖や不安におびえている。
これまで永年にわたって頻繁に襲いかかる騒音や危険の下での生活を強いられてきた原告らの日々の苦痛はまことに耐え難いものとなっている。
ウ 睡眠妨害
原告らは、強大は軍用機騒音により深刻な睡眠妨害を受けており、その苦痛を強く訴えている。睡眠への影響は単に日常生活の支障となるだけでなく、疲労回復を妨げ、病気療養の妨げとなり、あるいは睡眠不足による疲労や精神的不快感等がストレス要因となって他の疾病を誘発する一契機となるなど、健康に対する重大な影響につながるものである。
エ 日常生活の妨害
騒音による被害は広くかつ深く日常生活全般に及んでいるが、その最たるものは家庭の団らんの破壊である。すなわち、原告らの家庭においては、強烈な騒音のため家族の会話、電話による通話、ラジオ・テレビの視聴が著しく妨げられ、一家団らんでくつろぐことが著しく妨げられる状況にある。また、注意が散漫となり思考が中断され、新聞雑誌を読み手紙を書くなどの日常行為も妨げられ、家事、労働、学習、営業の能率低下も著しく、その被害はまことにゆゆしきものである。
オ 教育保育環境の破壊
子供は、学校でも家庭でも軍用機騒音のため落ち着いて勉強することができない。大切な成長期にあるだけにその受ける被害は甚大であり、人格形成上取り返しのつかない損失である。
また、軍用機の発する雷鳴のごときごう音は、乳幼児の柔らかな心身に深く衝撃的に突き刺さる。えい児はわなわなと震えて狂ったように泣き出し、2、3歳児は母親に強くしがみついて容易に離れようとしない。園児は保母の話も聞かずやかましいと騒ぎ立て、保育のリズムも中身も失われる。成育に必要な午睡と休息は絶えず寸断され、持続性を維持することができない。
乳幼児に及ぼす軍用機騒音の悪影響はまことに多大である。
カ 交通事故の危険
本件飛行場周辺においては、軍用機騒音による車のクラクションやエンジン音が聞こえない、あるいは運転者及び歩行者の注意力が妨げられるといった事態がしばしば生じており、原告らは常に交通事故の危険にさらされている。
キ 職業生活の妨害
本件飛行場周辺で職業生活を営む原告らは、軍用機騒音のため、顧客や職場の同僚との会話及び電話に支障を来すことによる営業上の損失、連絡ミスによる作業進行の停滞、労災事故の危険にさらされるとともに、作業能率の低下、知的作業の停滞等の被害を受け、生活基盤が脅かされている。
(5) 差止請求
原告らの差止請求は、以下の根拠に基づくものである。
また、それは、本件飛行場の全面的使用停止を求めるものではなく、後記「10・4協定」等を勘案した上、当面の部分的措置として、午睡、家庭団らん及び就寝等の時間帯である毎日午後零時から午後2時まで及び午後6時から翌日午前7時までの間に限って飛行差止めを、その余の生活時間帯である毎日午前7時から午後零時まで及び午後2時から午後6時までの間については、騒音を70ホン(A)以下とする音量規制を求めるものである。原告らの請求は、平和、静穏、健康にして快適な環境・生活を維持・保全する上で、まことにささやかな請求にすぎず、当然に認められるべきものである。
ア 平和的生存権
前述したように、本件飛行場を離着陸する自衛隊及び在日米軍の軍用機は憲法9条が保持を禁じている戦力そのものであって、原告らが憲法前文、9条及び13条に基づき有している平和的生存権を著しく侵害している。
よって、原告らは、こうした憲法違反の状態を是正し、平和的生存権を回復するため、本件飛行場におけるすべての軍用機の離着陸等の差止めを求めることができる。
イ 人格権・環境権
原告らは、憲法13条及び25条に基づき、人間としての生存にとって基本的かつ不可欠な利益の総体としての人格権、並びに、健康で快適な生活を維持し得る外的条件であるところの良好な環境を享受し、かつ支配し得る権利としての環境権を有している。
ところが、前述したように、軍用機の飛行等による爆音等によって原告らは上記各権利を著しく侵害されている。
よって、原告らは、被告に対し、こうした権利侵害行為の差止めを請求することができる。
ウ 10・4協定
昭和50年10月4日、石川県知事及び小松市長、加賀市長を含む本件飛行場周辺の関係8市町村長は、防衛施設庁長官との間で「小松基地周辺の騒音対策に関する基本協定書」を締結し、また、小松市長は、名古屋防衛施設局長との間で飛行経路等に関する「協定書」を締結した(「10・4協定」)。
これにより、早朝、夜間及び昼休み時間帯には緊急発進その他特にやむを得ない場合を除き離着陸及び試運転を中止すること、昭和58年までに小松市の騒音環境を屋内外を問わずWECPNL値70ないし75以下にすること等が合意された。
しかるに、被告は、今日に至るも上記協定の完全履行を怠っている。
よって、上記自治体の住民である原告らは、上記協定に基づき本件差止めを求めることができる。
エ 憲法違反
前記のとおり自衛隊及び在日米軍の存在・活動は憲法9条に違反するものであり、かかる憲法違反の行為は許されず、当然停止されなければならない。原告らは、上記憲法違反の行為により前記のとおり具体的な被害を直接に被っているのであるから、かかる行為の差止めを実現し、原告らの権利を救済しなければならない。
もし、憲法以下の法律等によっても上記違憲状態ないし憲法上の権利の侵害状態に対する法的救済が明確に規定されていない場合は、憲法に基づく直接的な請求も可とされなければならない。
(6) 損害賠償請求
ア 被告の損害賠償責任
本件飛行場は被告が設置、管理する公の営造物であるところ、同飛行場においては、軍用機が離着陸するに際し、また、そのエンジン調整等の作業がなされるに際し、激甚な騒音が発せられるため、原告らの居住地ないし職場所在地は極めて劣悪な環境状態にさらされている。
この結果、原告らは、肉体的にも精神的にも多様かつ深刻な被害を受けているのであるから、そうした被害を発生させる本件飛行場は、営造物が通常備えるべき安全性を著しく欠くものというべきであって、その設置、管理に瑕疵が存することは明らかである。
よって、被告は国家賠償法2条1項に基づき、原告らの被っている損害を賠償する義務がある。
イ 原告らの賠償請求の基本的観点
原告らはその個々人が前記のとおりの重層的相乗的な被害を被っており、その被害の総体が損害として把握され賠償されなければならないし、かかる被害の総体は基本的には原告ら全員に等しい被害実態を有するものとして賠償されなければならない。それは、本来、請求の趣旨で求める金額をはるかに超えるものであり、軍用機騒音の適正な評価に基づく数段階の地域的な区分が許されるにすぎないものである。
仮に、上記のような総体的・一律的な賠償請求が許されないとしても、原告らは、第二次的には、大阪空港訴訟最高裁判決が判示するところの、「原告らに共通する最小限度の被害」として前記の被害を主張し、賠償請求するものである。
ウ 過去(訴状送達日まで)の慰謝料請求
原告らは、これまで永年にわたって軍用機のエンジン調整及び整備作業並びに離着陸等による騒音暴露や軍用機墜落の危険に対する不安に苦しめられてきており、本件各訴状送達の日(第3次訴訟については平成8年1月18日、第4次訴訟については平成8年6月24日)までに被った肉体的、精神的損害を慰藉するには少なくとも各自金100万円が必要である。
よって、原告らはそれぞれ、被告に対し、上記慰謝料金100万円及びこれに対する本件各訴状送達の日の翌日(第3次訴訟については平成8年1月19日、第4次訴訟については平成8年6月25日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
エ 弁護士費用
原告らは、本件訴訟につき各自金20万円の弁護士費用を支払うことを約したが、本件訴訟の複雑性、高度の専門性等からして上記費用の支払は最小限度のものであり、かつ、前記侵害行為による損害の一部をなすものである。
よって、原告らはそれぞれ、被告に対し、上記金20万円及びこれに対する本件各訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
オ 将来(訴状送達日の翌日以降)の慰謝料請求
被告は、過去長期間にわたって原告ら本件飛行場周辺住民に対し広範かつ重大な被害を与え続けてきたものであるが、その加害行為を中止するどころか、かえって本件飛行場を在日米軍にも使用させて本件飛行場の軍事基地としての機能を一段と拡大強化し、もって著しい侵害行為を継続してきている。
また、当庁昭和50年(ワ)第288号、昭和58年(ワ)第80号事件(第1、2次訴訟)判決(平成3年3月13日言渡)及びその控訴審である名古屋高等裁判所金沢支部平成3年(ネ)第59号事件判決(平成6年12月26日言渡)により、飛行実態の違法性があきらかにされたにもかかわらず、被告は今日に至るもその改善策を講じていない。
したがって、違法な侵害行為が将来にわたり継続されることは容易に推認されるのであって、将来(訴状送達日の翌日以降)の損害についても、あらかじめ賠償請求をなす必要がある。
よって、原告らはそれぞれ、被告に対し、将来の肉体的、精神的損害に対する慰謝料として、本件各訴状送達の日の翌日から前記差止請求に係る各措置がなされるまでの間、毎月末日限り金5万円及びこれに対する各発生月の翌月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 被告の主張(本案前の主張、請求原因に対する認否・反論及び抗弁)の要旨
(1) 本件飛行場の概況について
本件飛行場は、自衛隊法107条5項に基づく「飛行場及び航空保安施設の設置及び管理の基準に関する訓令」2条により防衛庁長官が航空自衛隊の基地として設置し、同訓令13条により航空自衛隊第6航空団司令(小松基地司令)が管理する飛行場である。その所在地は、石川県小松市向本折町であり、その規模は、長さ2700メートル、幅45メートルの滑走路、長さ600メートル、幅45メートルのオーバーラン、延長4870メートル、幅23メートルの誘導路、面積約9万3000平方メートルのエプロンを有し、総面積は約440万8200平方メートル(土地面積約48万5000平方メートルの運輸省行政財産を含む。)である。
第6航空団は、昭和36年7月15日小松基地に発足して以来現在に至るまでの間、航空総隊隷下、中部航空方面隊直轄部隊の航空団として活動しており、その主要任務は、戦闘機をもってする防空行動、陸上又は海上の行動に対する支援及び領空侵犯に対する措置である。小松基地は、開設以来、日本海側における中心的な自衛隊航空基地として、日本の政治及び経済の中枢部である首都圏、中京及び阪神地区を防衛する重要な任務と機能を果たす拠点となっている。
なお、本件飛行場のうち滑走路、誘導路及び隊舎等の一部の施設(土地約160平方メートル)は、昭和57年11月15日、日米合同委員会において、地位協定2条1項(a)に基づき、同協定2条4項(b)の適用のある施設及び区域としてアメリカ合衆国(米国)に提供することが合意され、我が国と在日米軍との共同使用が許されたものである。
また、本件飛行場のうち滑走路、誘導路及び照明装置等の施設は、昭和36年12月18日、航空法56条の5に基づく「公共の用に供すべき施設」(公共用飛行場)として告示された(運輸省告示第437号)。ここに本件飛行場は航空自衛隊と民間航空の共用飛行場となり、同月20日から共同使用が開始された。
(2) 侵害行為について
ア 米軍機の運航について
米軍機は、ほぼ日米共同訓練の際に限って本件飛行場を使用しているが、その実績は、昭和57年度から平成10年度までのうち、昭和59年及び平成6、7、8、9年を除いて概ね年1回実施されているにすぎず、演習期間も1回当たり1週間程度であるから、そもそも、米軍機の運航は侵害行為として問題になるものではない。
イ 自衛隊機の運航について
自衛隊機は、訓練飛行、対領空侵犯措置、救難活動、輸送等のために本件飛行場を使用しているが、平日における平均離発着回数(自衛隊機管制回数)は、平成4年度約111回、平成5年度約112回、平成6年度約109回、平成8年度約113回、平成9年度約127回、平成10年度約101回で、その大部分は飛行訓練によるものである。本件飛行場においては、土曜日、日曜日及び祝日には、対領空侵犯措置及び救難活動の場合は別として、自衛隊機の飛行はほとんどない。対領空侵犯措置及び救難活動のための飛行は、その性質上、昼夜を問わず行われるが、その頻度は少ない。
訓練飛行は、通常午前8時から午後5時30分までの時間帯に行われている。1週間に2日間は夜間訓練が実施されているが、その時間帯は午後6時30分から午後8時までである。
自衛隊機が本件飛行場を使用するのは、日本海上の訓練空域における戦闘訓練実施のために訓練機が本件飛行場を離着陸する場合が大部分であるが、訓練が集団的に実施されることから、離着陸も一定の時間帯に集中してある程度連続的に実施される。したがって、本件飛行場における騒音の発生状況は、基地から上記訓練空域に出発する場合の離陸音及び一定時間帯の訓練を終えた後基地に帰還する場合の着陸音が特定の時間帯に集中的に発生し、その余の時間帯は比較的静穏な状態であることが特徴的である。すなわち、通常訓練は、1日4単位(うち1単位は夜間訓練である。)の時間帯が設定され、この時間帯が更に2区分あることから、本件飛行場周辺の1地点における集中的騒音の発生は1日6回以内程度、夜間訓練が実施される週2日間については1日8回程度であるが、訓練空域の天候いかんによっては、これが更に減少する。
このように、本件飛行場における騒音の発生は、短時間に集中的に発生する間欠的形態であること、後記のとおり被告による騒音軽減のための各種運航対策が可能な限り実施されていることから、本件飛行場における自衛隊機の運航による騒音は、周辺住民に対して受忍限度を超える程度には達していないというべきである。
(3) 被侵害利益について
本件飛行場における航空機騒音がある程度は周辺住民の生活の快適さを低下させることはあり得るが、その程度は、決して全体として社会生活上受忍できないほどに重大かつ深刻なもの、すなわち、国家賠償法上違法とされるまでのレベルに達しているものではない。航空機騒音障害は結局うるささの問題であり、現在の本件飛行場周辺の騒音レベルでは周辺住民のほとんどの人々に対して直接的な身体的被害を与えていないことは明らかである。
ア 健康及び身体に対する被害について
航空機騒音は全くうるささの問題であり、それは騒音を受けている人々の大多数に対して直接的な健康被害を与えてはいない。通常のジェット機の離着陸に伴う航空機騒音のレベル及び頻度の程度では、聴力損失等の健康及び身体被害が生じる可能性はほとんどないとするのが、今日の医学上の定説である。
また、身体的被害については、個別具体的に主張・立証しなければならないところ、原告らはその健康及び身体に対する被害を個別具体的に主張しておらず、原告らがこのような特異な主張方法をとっていること自体、原告ら自身が航空機騒音により健康及び身体に対する被害を受けていないことを自認しているに等しいと解すべきである。
イ 精神的被害について
本件では、自衛隊の存在それ自体を憲法違反であるとする原告らの独自の見解が訴訟提起の重要な契機となっており、うるささの原因となっている自衛隊等の活動に対するこのような原告らの意見と評価が、うるささの程度を決定する大きな要素となっているであろうことは容易に推測できる。
本件飛行場周辺の航空機騒音の発生は1日の生活時間帯の極めて限定された部分にすぎないのであり、しかも、それらは、住民の社会生活への妨害を極力少なくするように十分に配慮されているから、これによるある程度の精神的不快感はあるとしても、社会生活上受忍限度の範囲内のものである。
ウ 睡眠妨害について
本件飛行場では、夜間の訓練飛行が週2回行われているが、午後8時までには終了し、深夜に及ぶことはなく、人々が睡眠のために特に静穏を必要とする午後10時から翌日午前7時までの間の騒音の発生は極めて少ない。また、被告の助成による住宅防音工事は、夜間における睡眠妨害を解消又は軽減するものである。
このように、本件飛行場における夜間飛行は制限されており、住民に対して社会生活上受忍できないほどの頻度、内容の睡眠妨害を発生させているものではない。
エ 日常生活の妨害について
航空機騒音により、会話妨害、ラジオ・テレビの視聴妨害、思考・読書等の知的作業の妨害が発生することは、一般論としてはあり得ることである。
しかし、既に述べたような本件飛行場における航空機騒音の発生状況からすれば、上記のような生活妨害が仮に発生したとしても、1日のうちのごく限られた時間帯のみに生ずるものであり、一時的かつ間欠的にすぎないものである。また、その妨害の程度は、地域によって異なるであろうが、住宅防音工事の施工された部屋においては、事実上解消又は大幅に軽減されているものと推認できるものである。
オ 教育環境の悪化について
原告らは、学校、家庭における子供の学習が重大な影響を受けている旨主張しているが、そのような被害を受けている原告らを特定しておらず、主張自体失当である。
本件飛行場周辺で子供が家庭又は学校で学習する際、航空機の飛行による学習妨害があるとしても、学習が困難又は不可能となるほどのものではなく、学校防音工事により教室内の騒音レベルは相当大幅に低下しているし、家庭における学習も住宅防音工事の施工された部屋では相当の遮音効果があり、障害は解消又は大幅に低減しているはずであって、社会生活上受忍できる範囲内のものである。
カ 軍用機墜落等の危険について
航空機の墜落事故は極めてまれな偶発的なものである。航空機に対する恐怖感は個人の主観的条件により全く異なり得るものであるが、一般的には航空機の墜落の危険は極めて少ないものである。
キ 平和的環境の破壊について
原告らは、自衛隊機及び米軍機の行動が基地周辺の原告らの平和なうちに生きる権利を日々著しく侵害している旨主張するが、上記主張は独自の立場に立つ特異な見解であり、失当であることは明らかである。
(4) 本件飛行場の公共性
本件飛行場は、我が国が自由な独立国としての平和と安全を維持し、その存立を全うするについて必要不可欠のものとして、政治部門の高度の政治性を有する判断、決定に基づいて配置され、かつ、自衛隊及び米軍によって使用されているものであって、その公共性ないし公益上の必要性が我が国の存立の基本にかかわるものであって、極めて重要かつ高度のものであることは自明の理である。
ア 本件飛行場の重要性
航空自衛隊は、空からの侵攻に対する我が国の防衛と領空侵犯に対する措置をその主たる任務としている。本件飛行場は、日本海側唯一の防空作戦を担う航空作戦基地として、また、中部防衛区域において東京、名古屋、大阪の政治経済の中枢都市を底辺とした三角形の区域の頂点に位置し、その戦略的価値は極めて高い。さらに、北海道、九州間のほぼ中間にあって、機動展開や輸送のための中継基地としても重要な基地である。
第6航空団を主体とする部隊は、本件飛行場を使用して、領空侵犯に対する措置、災害派遣等民生協力活動、練成訓練等の重要な任務を遂行している。特に、本件飛行場の離着陸の大部分を占める練成訓練のための飛行は、領空侵犯に対する措置のための態勢を維持しつつ、有事に即応し得る部隊を練成するため、隊員個々の練度を向上させるとともに、組織としての任務遂行能力を向上させることを目的として行われるもので、日ごろの訓練成果が直ちに有事における能力の発揮につながる防衛組織においては、必要不可欠であり、極めて重要なものである。
イ 立地条件の適正
本件飛行場は、飛行場としての一般的に良好な立地条件を備えているのみならず、本州日本海側のほぼ中央に位置し、しかも、日本海に1ないし2キロメートルで接し、さらに、広範囲な小松沖訓練空域(G訓練空域)にも極めて近いという絶好の地理的条件に恵まれている。このように、本件飛行場は、航空自衛隊の飛行場として最適であり、現在我が国においてこれと同等に良好な立地条件を有する大規模な航空基地を新たに取得することは、現実問題としてほとんど不可能である。
(5) 本件飛行場における騒音防止対策
本件飛行場においては、航空機騒音防止のために諸種の運航対策が実施されているとともに、それによっても避けられない不可避的な騒音障害については、更にこれを軽減するための屋内環境対策及び補償的措置を含む総合的な防衛施設周辺環境対策ともいうべき大規模な周辺対策が実施されてきている。
ア 運航対策
本件飛行場の自衛隊機による使用は、国家の存立を維持するための高度の社会的効用のあるものであるが、他方、被告は、航空機の運航による周辺住民の騒音障害にも配慮し、これをできるだけ軽減するため、諸種の工夫を凝らした騒音軽減運航方式を実施している。
さらに、被告は、昭和50年10月4日、石川県知事及び小松市長を含む周辺8市町村長との間で、小松市周辺の騒音対策に関する基本的事項について協定(10・4協定)を締結し、防衛施設の機能と周辺住民の生活が調和を保つものになるよう騒音対策に積極的に努力している。
イ 周辺対策
被告は、本件被告の周辺住民が被る騒音等による障害を防止、軽減するために、諸種の補償的措置を行ってきた。このような周辺対策は、当初は個別の事例ごとに行政措置に基づき実施していたものであるが、昭和41年には「防衛施設周辺の整備等に関する法律」(周辺整備法)が施行され、防災工事及び道路の整備等の助成、学校、病院等の公的施設に対する防音工事の助成、住宅の移転補償等について法制化され、市町村が行う民生安定施設に対する助成等についても規定が置かれた。そして、昭和49年には「防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律」(生活環境整備法)が施行され、以後、主として同法に基づいて、個人住宅の防音、緑地帯整備等を加えた、抜本的に強化された防衛施設周辺の生活環境整備等の諸施策が実施され、今日に至っており、原告らを含む本件飛行場周辺の住民らが受けている騒音障害等は、相当程度防止され、あるいは軽減されている。
なお、原告らのうち相当数の者は、住宅防音工事の実施によって騒音暴露の程度が軽減されているのであるから、受忍限度を超えているか否かの判断に当たっては、十分にこれを斟酌すべきである。
(6) 差止請求について
ア 自衛隊機の飛行等の差止請求について
自衛隊機の飛行等の差止請求は、その請求内容自体から、防衛庁長官にゆだねられた自衛隊機の運航に関する諸権限の行使の取消変更ないしその発動を求める請求を包含するものであることが明らかである。しかしながら、防衛庁長官の上記権限の行使は、自衛隊法上の実体法規に基づき実施されている公権力の行使そのものであるから、民事上の請求としては許されず、不適法であることは明らかである。
イ 米軍機の飛行等の差止請求について
米軍機の運航等に伴う騒音等による被害を理由として直接の加害者ではない被告に対し米軍機の離着陸等の差止めを請求するためには、被告が米軍機の運航等を規制し、制限することのできる立場にあることが必要である。しかるに、本件飛行場に係る被告と米軍との関係は条約に基づくものであるから、条約及びこれに基づく国内法令に特段の定めがない限り、被告は米軍の本件飛行場の管理運営の権限を制約し、その活動を制限することはなし得ないが、関係条約及び国内法令に上記のような特段の定めは存在しない。そうすると、提供国たる被告において、一方的に米軍の使用を禁止したり制限したりすることは許されないから、米軍機の飛行等の差止請求は、被告の支配の及ばない第三者の行為の差止めを求めるものというほかなく、主張自体失当として棄却を免れない。
(7) 過去分の損害賠償請求について(本件飛行場の違法性の判断について)
既に述べたような本件飛行場における平日の自衛隊機の運航回数及び飛行騒音の発生形態のほか、航空自衛隊は、航空機騒音が住民に与える影響をできるだけ軽減するために、各種の騒音軽減運航対策を実施するなどして、住民の騒音障害の減少に最大限の配慮を尽くしていること、航空機騒音の障害は、身体的被害ではなく、騒音による種々の生活妨害及びうるささによる心理的不快感であり、本件飛行場においては、全体として重大かつ深刻な程度に至っているとは到底認められないこと、しかも、本件飛行場周辺で比較的騒音レベルの高い第2種区域(生活環境整備法5条に基づく第2種区域)については、住民の希望により移転補償措置が実施されることとされており、騒音障害を抜本的に解決する方策が提供されていること、また、その他の一定の地域においても、概ねうるささを半減させる効果を有する住宅防音工事の助成措置のほか、各種地域全体に対する、また個々人に対する補償措置をきめ細かく実施しており、これらは、住民の騒音障害を直接又は間接に軽減し、住民生活の安定と福祉の向上に寄与していること、さらに、自衛隊機等による本件飛行場の使用は、我が国の存立と安全を守り、国民各自が基本的人権を享受する上で必要不可欠な高度の社会的価値を有するものであって、その公共性は極めて本質的かつ重要なものであることなど、違法性判断の諸要素を総合すれば、本件飛行場周辺住民の騒音障害は、全体として受忍できる範囲内のものというべきであり、自衛隊機等による本件飛行場の使用が違法とされる余地は存在しないといわなければならない。
(8) 危険への接近について
本件飛行場は、昭和33年米軍から我が国に返還され、昭和36年2月1日航空自衛隊小松基地として開設され、同年5月15日基地建設工事が完成し、同年7月15日第6航空団が編成され、ジェット戦闘機基地として発足することとなり、昭和40年3月31日第205飛行隊の新編に伴い、主要装備がF―104Jに更新された。
したがって、本件飛行場周辺地域は、遅くともF―104Jが配備された昭和40年の年末ころまでには、現在と同様に、ジェット戦闘機による航空機騒音に暴露される地域であることについて、広く社会的な承認が形成されるに至ったものと認められる。
人々が住居を選定するに当たり、あらかじめ周辺地域の住居に及ぼす影響を調査することが通常であることからすれば、原告らのうち、昭和41年1月1日(基準日)以降に本件飛行場周辺において居住を開始した者らについては、本件飛行場周辺の一定程度の航空機騒音の存在を認識しながら、相当期間にわたる住居として敢えてその住居を選定したのであるから、自己が認識した程度ないしこれと格段に相違のない程度の騒音障害は、これをやむを得ないものとして容認して居住を開始したものと推認すべきであり、「免責の法理としての危険への接近」の法理が適用されるべきである。
また、仮に、基準日以降に本件飛行場周辺地域に転入したという事実のみでは被害の容認を推認するには不十分であるとしても、基準日以降において本件飛行場周辺地域に居住を開始するに際し、本件飛行場の騒音を認識していたことが明らかな者、すなわち、基準日以降において本件飛行場周辺に居住した経験を有しながら、その後、いったん本件飛行場周辺地域外に転居したにもかかわらず、再び本件飛行場周辺地域に居住を開始するに至った者、より騒音レベルの高い区域に転居した者、及び何度もコンター内で転居を繰り返した者については、「免責の法理としての危険への接近」の法理が適用されるべきである。
さらに、原告らのうち相当数の者は公的資料上基準日時点の居住地が不明であるが、その中でも一部の者(具体的には別冊「被告最終準備書面」<略>参照)については危険への接近の法理が適用されるべきである。
なお、以上につき、「免責の法理としての危険への接近」の法理の適用が認められないとしても、少なくとも「減額の法理としての危険への接近」の法理の適用があることは明らかであって、損害賠償額の算定に当たっては相当額の減額がされてしかるべきである。
(9) 昼間騒音の控除(個別W値論)について
我が国において航空機騒音を評価するには、WECPNL値を利用することとされているが、WECPNLの考え方は、騒音が多量かつ定常的に発生しているという条件の下で、発生した時間帯により騒音に対する心理的、生理的反応が異なることから、騒音の時間帯に応じて重みを付けるというものであるが、WECPNLは騒音暴露を受ける者が特定地点に1日中とどまっていることを当然の前提にしている評価方法であり、被暴露者の通勤、通学等の個別的な生活実態を全く考慮していない。したがって、コンター外に通勤又は通学等し、主として夜間、休日のみ騒音暴露を受ける者が現実に受ける騒音の影響を評価する上では、WECPNLは一定の限界がある。
そこで、生活実態ごとに原告らを分類し、それぞれの騒音暴露の内容・程度を明らかにすることが必要であり、通勤や通学等で昼間航空機騒音の暴露を受けていないか、あるいは、住居地より騒音暴露の程度の低い原告らについては、被っているとされる損害の程度が昼夜を通じて同一コンター内に生活する原告らとは異なるはずであり、これを適正に評価しなければならない。
具体的には、コンター外の勤務先に通勤していることが明らかな原告ら(別冊「被告最終準備書面」<略>添付の別表II―2の「個別W値論適用の有無」欄に◎印のある原告ら)については、各人の住所地のWECPNL値から4ないし5減少させた数値をもって当該原告らの損害の有無・程度を判断すべきであり、就労可能な年齢である15歳から65歳までの原告らのうち勤務先が明らかでない原告ら(別冊「被告最終準備書面」<略>添付の別表II―2の「個別W値論適用の有無」欄に○印のある原告ら)についても、衡平の見地から同様の扱いをすべきである。
(10) 同一の損害につき賠償を求めることができない原告らについて
別冊「被告最終準備書面」<略>添付の別表II―5の「前訴訟・参加有無」欄に○印を付した原告らは、第1、2次訴訟の原告として、同訴訟控訴審の口頭弁論が終結した平成6年3月23日までの期間について、既に騒音被害による損害の賠償を受けているか、又は、損害賠償請求権のないことが確定している。
これらの原告は、いずれも上記期間について本訴訟において再び同一の損害につき賠償を求めることは許されない。
(11) 消滅時効の抗弁
日々新たに生じる航空機騒音の性質にかんがみると、航空機騒音を伴う本件飛行場の供用行為を瑕疵とみた場合、これに対応する損害賠償請求権もまた日々新たに発生し、それぞれ別個に消滅時効にかかるものと解される。
そして、昭和50年9月16日に第1次訴訟が提起された事実に照らせば、同日ころに、原告らが、本件飛行場周辺において航空機騒音等による被害が受忍限度を超えるものであると認識していたこと、上記騒音等が国の営造物である本件飛行場を自衛隊等の航空機の運航の用に供したことによって発生していることを認識していたことは明らかである。よって、同日以降の損害については、その日ごとに消滅時効が進行していたことになる。
以上から、本件第3次訴訟の原告らについては、その訴訟提起の日である平成7年12月25日から、本件第4次訴訟の原告らについては、その訴訟提起の日である平成8年5月21日から、それぞれ3年前の日より前に発生した被害についての原告らの損害賠償請求権は、民法724条所定の3年の期間の経過により時効消滅している。
そこで、被告は原告らに対し、平成9年5月15日の本件第6回口頭弁論期日において、上記消滅時効を援用する旨の意思表示をした。
(12) 将来分の損害賠償請求について
民事訴訟法135条は、あらかじめ請求する必要があることを条件として将来の給付の訴えを許容しているが、本件においては、将来の航空機騒音等による侵害行為が違法性を帯びるか否か及び上記侵害行為による原告らの損害の有無、内容、程度は、今後の本件飛行場の使用状況の変化、被告によってされる被害の防止、軽減のための諸方策の内容とその実施状況、個々の原告らに生じ得べき種々の生活事情の変動等の複雑多様な諸因子によって左右されるものであり、現在ではそれを容易に予測できないことを考慮すると、原告らが将来取得すると主張する損害賠償請求権の成否及び内容を現時点であらかじめ認定することは困難であり、かつ、相当ではなく、かかる損害賠償請求権は、それが具体的に成立したとされる時点の事実関係に基づきその成否及び内容を判断すべきものである。
したがって、将来分(本件口頭弁論終結の日の翌日以降)の損害賠償を求める部分は、権利保護の要件を欠き不適法として却下を免れないことは明らかである。
(13) 仮執行開始時期猶予宣言について
判決裁判所は、そもそも仮執行宣言を付すかどうかの裁量権限を有するのであるから、仮執行の効力発生時期を即時とするか、それともこれに期限を付すかの裁量権限を当然有しているものと解される。
仮執行開始時期猶予宣言を行う実際上の必要性としては、仮執行のために郵便局等国民の生活に密接な関係のある国の施設の現金が執行の対象となると一般国民に迷惑をかけることになり、このような事態を避けるために国が執行の対象となる現金を準備する期間の猶予を与えるため、仮執行につき執行開始時期を定めるのが相当であるということである。
理由
第1本件飛行場の概況及び当事者の地位等
1 本件飛行場の概況等
(1) 現況
以下の判示において括弧書きで掲記する各証拠に、<証拠略>を総合すると、本件飛行場の現況は概ね次のとおりであると認められる。
ア 自衛隊施設としての現況
本件飛行場は、航空自衛隊中部航空方面隊所属の第6航空団が所在する小松基地に防衛庁長官が設置し、同基地司令が管理する陸上飛行場であり、自衛隊法107条5項に基づく訓令(飛行場及び航空保安施設の設置及び管理の基準に関する訓令)により防衛庁長官が告示した事項の概要は次のとおりであり、その区域は別冊「被告最終準備書面」<略>添付の第2図記載のとおりである(<証拠略>)。
名称 小松飛行場
所在地 石川県小松市向本折町
等級 a級
滑走路 長さ2700メートル
幅45メートル
誘導路 延長4870メートル
幅23メートル
エプロン 面積約9万3000平方メートル
第6航空団は、第303飛行隊及び第306飛行隊の2個飛行群等から編成され、主要な装備としてF―15イーグル型ジェット戦闘機38機を擁するほか、練習機(T4)8機、救難捜索機(U―125)2機、救難ヘリコプター(UH―60)3機等を保有している(<証拠略>)。
イ 米軍への施設提供
本件飛行場の滑走路等は、日米共同訓練実施のため、地位協定(日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定)第2条により、同条第4項(b)の適用のある施設及び区域、すなわち米軍が一定の期間を限って使用すべき施設及び区域として提供され、その限度で米国の使用が許されている(<証拠略>)。
ウ 民間航空との供用
本件飛行場は、その滑走路等が運輸大臣(現在の国土交通大臣)により航空法56条の5に基づく「公共の用に供すべき施設」として指定された共用飛行場であり、小松空港として民間航空の旅客便(国内線及び国際線)、国際貨物定期便等の利用に供されている。
(2) 沿革等
<証拠略>を総合すると、本件飛行場の沿革、同飛行場の騒音等に係る訴訟の歴史的経緯等は次のとおりであると認められる。
ア 小松基地の開設と本件飛行場の使用開始
戦時中旧海軍が管理していた本件飛行場の前身である小松海軍航空基地は、終戦後米軍に接収されて、補助レーダー基地として使用されるようになり、昭和27年の日米安全保障条約発効後も「FAC4017小松補助飛行場」として引き続き米国に提供されたが(<証拠略>)、昭和33年には米軍による使用ないし接収が解除されて(<証拠略>)、我が国に返還された。防衛庁は、昭和34年大蔵省より民間航空との併用を条件に本件飛行場の使用を許されたことから、昭和35年4月航空自衛隊小松基地新規建設工事に着手し、同年11月には臨時小松基地を設置した。
こうして、小松基地は、臨時小松派遣隊を所在部隊とする航空自衛隊の基地として昭和36年2月1日開設され、同年6月29日には防衛庁長官により本件飛行場の使用開始が告示され、同年7月15日には、F―86F昼間ジェット戦闘機、T―33Aジェット練習機等を主要な装備とする第6航空団への改編が完了した。
また、同年12月には運輸大臣により本件飛行場の滑走路等が「公共の用に供すべき施設」として告示され、民間航空との正式な共同使用が開始した。
イ ジェット戦闘機の本格配備
小松基地では、昭和39年より本格的な新型ジェット戦闘機であるF―104J全天候ジェット戦闘機の新規配備に向けた滑走路延長等の工事が行われ、昭和40年3月31日には第6航空団に同機20機を主要装備とする第205飛行隊が新たに編成された。
ウ 周辺対策に係る法整備等の進展
ところで、被告は、他の大規模防衛施設と同様、本件飛行場に関しても行政措置として助成、補償等一定の周辺対策を実施してきていたが、昭和41年に「防衛施設周辺の整備等に関する法律」(周辺整備法)が公布、施行されて、上記施策が法制化されるに至った。
さらに、昭和48年12月27日環境庁は、各種調査研究結果と専門家の検討報告に基づいて、公害対策基本法9条に基づく「航空機騒音に係る環境基準」を告示したが(<証拠略>)、そこでは、飛行場の周辺地域において、「生活環境を保全し、人の健康の保護に資するうえで維持することが望ましい」基準値が、WECPNLを単位として、類型Iの地域(専ら住居の用に供される地域)で70以下、類型IIの地域(I以外の地域で通常の生活を保全する必要がある地域)で75以下とされ、上記各類型を当てはめる地域は都道府県知事が指定することとされた。
そして、昭和49年6月27日には「防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律」(生活環境整備法)が公布、施行されて、住宅防音工事の助成制度等が拡充整備された。
エ ファントム機配備と10・4協定
防衛庁では、前記F―104J機の配備に続き、更に高い性能を有する新型機種である全天候ジェット戦闘機F―4EJファントム機の小松基地配備が計画されるようになり、本件飛行場の滑走路増強工事を経て、昭和49年8月ころ名古屋防衛施設局長から小松市に対し同機配備の申入れがあり、同年12月には正式に防衛施設庁長官から小松市に対し同機配備のための附帯工事着工の申入れがなされた。
その後、若干の曲折はあったものの、上記工事の即時着工は見送られることとなり、小松市等の関係地方公共団体と防衛庁との間でファントム機配備に関する条件整備についての交渉が重ねられた結果、昭和50年10月4日、防衛施設庁長官と石川県知事及び小松市長等関係8市町村長(小松市長、加賀市長、松任市長、根上町長、寺井町長、辰口町長、川北村長、美川町長)との間で「小松基地周辺の騒音対策に関する基本協定書」が取り交わされ、同日、名古屋防衛施設局長と小松市長との間で小松基地の運用に関し、小松市における良好な生活環境を保全するための協定が交わされた(10・4協定。<証拠略>)。その内容は概略次のとりであり、前記「航空機騒音に係る環境基準」の本件飛行場における達成方途のほか、生活環境整備法に基づく住宅防音工事助成及び移転補償等の措置を被告が実施するに当たっての基本方針等が協定されたものである。
(ア) 「航空機騒音に係る環境基準」に従って、公共用飛行場の区分第2種Bについて定められている期間内(昭和58年12月27日まで)に速やかに環境基準(WECPNL75以下)の達成を期する。
(イ) 生活環境整備法に規定する住宅防音工事及び移転補償については、第1種区域及び第2種区域について、昭和53年度を完了予定とする。
(ウ) 基地周辺における騒音の測定は常時実施する。その管理は国、県及び市町村共同で行う。
(エ) 上記調査結果に基づいて少なくとも年1回騒音コンターの見直しを行う。
(オ) 障害防止工事は、国が原因者であるとの認識のもとに実施するものとする。
(カ) 安全対策として、努めて市街地上空を飛ばないよう飛行経路を選定する。
(キ) 騒音源対策として、<1>騒音を発生源で防止するため、器材の改良を心掛け、並びに離着陸方式、飛行経路等運航方式を改善する、<2>早朝、夜間及び昼休み時間には、緊急発進その他、特にやむを得ない場合を除き、離着陸及び試運転を中止する、<3>高校入試、お旅まつりその他小松市の主要行事で小松市が要請する場合は、できる限り飛行を制限し、又は中止する、<4>エンジン調整は、すべてサイレンサーを使用する。
(ク) 公的施設の防音工事、第1種区域内住宅の防音工事、第2種区域内の移転補償その他の周辺対策を実施する。
オ 周辺対策の進展
そして、上記協定の趣旨を踏まえ、被告は、生活環境整備法上の正式な区域指定の告示を待たずに昭和50年度より住宅防音工事助成事業を開始したほか、昭和51年4月には騒音の常時測定実施のための被告、石川県及び関係市町村の協議機関として小松基地騒音防止対策協議会が発足した。
その後、更なる曲折を経ながらも、結局、昭和51年10月26日にはファントム機16機を主要装備とする第303飛行隊が第6航空団に編成されて、同機の配備が完了した。また、昭和53年12月28日には防衛施設庁長官より生活環境整備法4条ないし6条に基づく本件飛行場に係る第1種ないし第3種の各区域指定が告示され(<証拠略>。なお、同区域指定の詳細については、その後の経過も含めて後記(3)で触れる。)、これに先立ち、昭和52年5月からは被告、石川県、小松市等共同による継続的な騒音測定調査が開始された。
カ 第1次訴訟の提起
この間、昭和50年9月16日には、本件飛行場周辺住民が被告に対し本件とほぼ同旨の自衛隊機離着陸等の差止め及び慰謝料等支払のほか、ファントム機配備自体の禁止を求めた第1次訴訟(当庁昭和50年(ワ)第288号事件)が提起された。
キ 日米共同訓練開始
その後、小松基地では、昭和56年6月30日第205飛行隊が解散し、翌日、新たにファントム機18機を主要装備とする第306飛行隊が第6航空団に編成されて、第6航空団は現行の飛行群と同様の編成となった。
ところで、防衛庁では、日米共同訓練の実施に際し小松基地を使用するため、昭和57年8月小松市に対し同基地使用に係る申入れを行い、同年9月24日には名古屋防衛施設局長と小松市長との間で、「日米共同訓練に関する協定書」が取り交わされた。そして、同年11月15日、日米合同委員会において、地位協定第2条に基づき本件飛行場の滑走路等を米国に一時提供することが合意され、対象施設を米軍と自衛隊が共同で使用することが法的にも可能となった。こうして、同年11月30日、初めて本件飛行場を使用しての日米共同訓練が実施された。
ク 第2次訴訟の提起
かかる状況を受けて、第1次訴訟係属中の昭和58年3月4日、新たに本件飛行場周辺住民らが被告に対し本件同旨の自衛隊機及び米軍機離着陸等差止め並びに慰謝料等支払を求めた第2次訴訟(当庁昭和58年(ワ)第80号事件)が提起された。
ケ イーグル機配備
小松基地では、昭和61年より第303飛行隊の主要装備をF―4EJファントム機から更に新型の機種である全天候ジェット戦闘機F―15Jイーグル機に順次切り替えていくこととされ、昭和62年12月1日同機18機への改編が完了した(<証拠略>)。
コ 第1、2次訴訟の帰すう
ところで、第1、2次訴訟は、併合審理の上、平成3年3月13日原告らの慰謝料等請求を一部認容する一審判決が、平成6年12月26日には一審認容額等を一部変更した控訴審判決が言い渡され、上告の提起はなく、同判決は確定した。
サ その後の経過
その後、小松基地では、平成7年から平成9年ころにかけて、第303飛行隊の主要装備であるF―15Jイーグル機の定数を18機から20機に増やすとともに、第306飛行隊の主要装備をF―15J、DJイーグル機18機に改編し(<証拠略>)、これにより、第6航空団は現在のイーグル型戦闘機38機を擁する態勢となった。
(3) 生活環境整備法上の区域指定(コンター区分)
生活環境整備法は、防衛施設周辺の「自衛隊等の航空機の離陸、着陸等のひん繁な実施により生ずる音響に起因する障害が著しい」と認められる地域を第1種区域として住宅防音工事の助成措置の対象区域とし(4条)、第1種区域のうち「航空機の離陸、着陸等のひん繁な実施により生ずる音響に起因する障害が特に著しい」と認められる地域を第2種区域として移転補償等の対象区域とし(5条1項)、第2種区域のうち「航空機の離陸、着陸等のひん繁な実施により生ずる音響に起因する障害が新たに発生することを防止し、あわせてその周辺における生活環境の改善に資する必要がある」と認められる地域を第3種区域として緑地帯整備等の対象区域とし(6条1項)、各種区域指定は政令で定めるところにより防衛施設庁長官が行うこととした。そして、同法施行令8条及び同法施行規則1条、2条は、「自衛隊等の航空機の離陸、着陸等のひん繁な実施により生ずる音響」の影響度の算定方法を、基本的には前記「航空機騒音に係る環境基準」が採用したWECPNLと同様の値(W値)によることとした上、第3種区域はW値95以上、第2種区域はW値90以上の区域を基準として指定を行うこととした。そして、第1種区域は、当初W値85以上の区域を基準として指定を行うこととされたが(<証拠略>)、その後、上記規則の改正により、昭和54年9月にはW値80以上の区域に、昭和56年12月にはW値75以上の区域に順次拡張して指定を行うこととされた(<証拠略>)。
以上のような法令の定めに従い、本件飛行場に係る各種区域指定の告示は次のとおりなされた(各区域は当該告示のあった日における行政区画によって表示されたものとするとされ、また、区域指定が町の一部にとどまる場合は金沢防衛施設事務所に該当部分を示した図面を備え置き縦覧に供することとされた。なお、第2種区域については、周辺整備法5条1項の規定により既に指定済みの区域は除いて告示された。)。なお、後記エの告示後は区域指定の追加変更は今のところ一切なされていない(<証拠略>)。
ア 昭和53年防衛施設庁告示第19号(同年12月28日告示。<証拠略>)
第3種区域(95コンター)
小松市上牧町、下牧町、浮柳町、鶴ヶ島町、向本折町、佐美町、浜佐美町及び日末町の一部
第2種区域(第3種区域の指定を受けた区域を除き90コンター)
小松市上牧町、下牧町、丸内町鹿小屋、城南町、安宅新町、浮柳町、鶴ヶ島町、坊丸町、向本折町、佐美町、浜佐美町及び日末町の一部
加賀市新保町の一部
第1種区域(第2種区域の指定を受けた区域を除き85コンター)
小松市丸内町大手、丸内町中島、丸内町鹿小屋、丸内町土形、丸の内町二丁目、城南町、向野地方及び鶴ヶ島町の全部
小松市泉町、浮城町、大川町二丁目、上牧町、古城町、小馬出町、下牧町、天神町、浜田町、丸の内町一丁目、丸内町本丸、育成町、桜木町、末広町、安宅町、安宅新町、浮柳町、草野町、小島町、長崎町、坊丸町、向本折町、佐美町、浜佐美町、日末町及び拓栄町の一部
加賀市篠原町、伊切町及び新保町の一部
イ 昭和55年防衛施設庁告示第12号(同年9月10日告示。<証拠略>)
第1種区域(80コンター)
小松市梅田町、大川町一丁目、大川町三丁目、新大工町、鷹匠町、地子町、茶屋町、殿町一丁目、殿町二丁目、中町地方東、丸の内公園町、丸内町三ノ丸、丸内町竹島、美原町、芦田町一丁目、芦田町二丁目、大文字町西、古河町、本町一丁目、本町二丁目、本町三丁目、本町四丁目、本町五丁目、浜佐美本町、犬丸町、御館町及び梯町の全部
小松市泉町、浮城町、大川町二丁目、上小松町、上牧町、京町、古城町、小寺町、小馬出町、下牧町、新町、新鍛冶町、園町、天神町、中町、浜田町、松任町、丸の内町一丁目、丸内町本丸、育成町、桜木町、末広町、大文字町、寺町、西町、本大工町二丁目、安宅町、安宅新町、浮柳町、草野町、小島町、長崎町、坊丸町、大島町、島田町、城北町、蛭川町、松梨町、長田町、向本折町、佐美町、拓栄町、浜佐美町、日末町及び湖東町の一部
加賀市美岬町、宮地町、塩浜町、篠原町、伊切町、手塚町、新保町及び柴山町の一部
石川県能美郡根上町高坂町、下ノ江町、道林町及び山口町の一部
ウ 昭和57年防衛施設庁告示第10号(同年6月28日告示。<証拠略>)
第1種区域(75コンター)
小松市細工町、材木町、相生町、旭町、飴屋町、上寺町、栄町、清水町、錦町、西本折町、白山町、東町、日吉町、本鍛冶町、本大工町、本大工町一丁目、三日市町、本折町、大和町、八日市町、龍助町、問屋町、須天町一丁目、村松町及び松崎町の全部
石川県能美郡根上町中町及び浜町の全部
小松市御宮町、上小松町、京町、小寺町、新町、新鍛冶町、園町、中町、松任町、上本折町、末広町、大文字町、寺町、土居原町、西町、本大工町二丁目、三日市町地方、八日市町地方、安宅町、長崎町、大島町、島田町、城北町、蛭川町、松梨町、荒屋町、長田町、平面町、向本折町、今江町、今江町一丁目、串町、佐美町、拓栄町、日末町及び湖東町の一部
加賀市小塩辻町、美岬町、宮地町、野田町、潮津町、塩浜町、篠原町、伊切町、手塚町、新保町、柴山町、干拓町、田尻町、小塩町、深田町、宮町、黒崎町、高尾町及び豊町の一部
石川県能美郡根上町中ノ江町、高坂町、下ノ江町、浜開発町、大成町、大浜町、道林町及び山口県の一部
エ 昭和59年防衛施設庁告示第18号(同年12月20日告示。<証拠略>)
第3種区域(95コンター)
小松市浮柳町、鶴ヶ島町、向本折町及び日末町の一部
第2種区域(90コンター)
小松市安宅新町、浮柳町、草野町、向本折町、工業団地一丁目、佐美町及び日末町の一部
第1種区域(75コンター)
石川県能美郡寺井町字三道山の全部
小松市御宮町、上小松町、園町、上本折町、土居原町、日の出町一丁目、三日市町地方、八幡町、八日市町地方、島田町、蛭川町、あけぼの町、荒屋町、高堂町、長田町、野田町、平面町、須天町二丁目、大領中町、向本折町、今江町、今江町一丁目、今江町二丁目、今江町七丁目、今江町八丁目、串町、串茶屋町、拓栄町、湖東町及び額見町の一部
加賀市潮津町、野田町、宮地町、小塩辻町、美岬町、塩浜町、篠原町、柴山町、片野町、黒崎町、深田町、橋立町、小塩町、田尻町、豊町及び干拓町の一部
石川県能美郡根上町浜開発町、中ノ江町、大成町、大浜町、西二口町及び五間堂町の一部
石川県能美郡寺井町字寺井、字小長野、字粟生、字新保、字秋常、字末寺、字吉光及び字東任田の一部
石川県能美郡辰口町字出口、字下清水、字上清水の一部
石川県能美郡川北町字土室、字壱ツ屋、字与九郎島、字田子島及び字舟場島の一部
2 原告らの居住地等
(1) 原告らの居住地及び居住期間
<証拠略>を総合すると、後記(2)に挙げた者を除く原告らの居住地及びそのコンター区分はそれぞれ別表1「居住状況一覧」<略>中の「居住地」欄及び「W値」欄各記載のとおりであり(「W値」欄が空欄の者はコンター外居住者である。)、上記各居住地における居住期間はそれぞれ同別表「居住期間」欄中の「裁判所の認定」欄記載のとおりであることが認められる。
(2) 公的資料上居住期間等が不明確な原告らについて
居住地ないし居住期間に関する住民票等の公的資料上の記載と本人の申告内容との間にそごがあるなどの事情で、上記別表中に示した事実認定につき若干の補足説明を要する原告らは以下のとおりである(なお、下記原告らのうち申告居住地における居住期間等が不明であるとした原告らは、被告から原告らの申告内容と公的資料上の記載との不一致等を指摘され、居住事実に疑義があるとされていたにもかかわらず、これまで何らの釈明等もなされてこなかった者らである。)。
ア 3次0028奥澤實及び同0029奥澤邦子
同原告らの申告居住地は小松市「桜木町83番地」とされているが、各居住開始時期として主張された平成元年4月(0028實)、昭和63年3月(0029邦子)以降、公的資料上はいずれも「桜木町84番地」に居住しているものとされており、3次0030奥澤晃作成の陳述書(<証拠略>)上も、0029邦子は「桜木町84番地」で晃らと同居しているものとされている(0028實は、上記陳述書作成当時既に死亡していたものとみられる。)。かといって、上記原告両名が当初「桜木町83番地」を申告居住地としたことが単なる誤記であるとはにわかに解し難いことからすると、申告居住地における居住期間は証拠上不明であると判断せざるを得ない。
イ 3次0109山崎麻未、同0110山崎昌子及び同0111山崎将太
同原告らにあっては、共通の申告居住地である小松市安宅町リ4番地における居住事実を裏付ける公的資料上の記載が一切なく、居住開始時期の主張もないことからすると、申告居住地における居住期間は証拠上不明であると判断するほかない。
ウ 3次0175中出和泉
同原告の申告居住地は小松市「浜佐美本町57番地」とされ、3次0171中出勝英作成の陳述書(<証拠略>)上も上記居住地で勝英らと同居しているものとして記載されているが、その居住開始時期として主張された昭和63年7月以降の居住地が公的資料上は「浜佐美本町20番地」とされており、かかるそごが生じたことにつき合理的な説明もないことから、上記申告居住地における居住期間は証拠上不明と判断せざるを得ない。
エ 3次0279島野悟
同原告(訴えを取り下げたが、被告の同意を得られず、取下げの効力が生じなかった。)にあっては、その申告居住地である小松市梯町ホ8番地2における居住事実を裏付ける公的資料上の記載が一切ない上、陳述書の提出もなく、居住開始時期の主張も全くないことからして、申告居住地における居住事実でさえ必ずしも明らかでなく、いわんや同所における居住期間は証拠上全く不明と判断するほかない。
オ 3次0324重吉保、同0325重吉純子、同0326重吉俊宏及び同0327重吉伸哉
同原告らについては、共通の申告居住地である小松市島田町ホ4番地における各人の居住期間に関する申告ないし主張のうち公的資料上の記載と相違する部分は、これを認めるに足る具体的な証拠あるいは合理的根拠がないことから、それぞれ公的資料上の裏付けがある限度で居住期間を認定した。
カ 3次0381村田武男及び同0382村田富枝
同原告ら共通の申告居住地である小松市園町イ232番地における居住事実は、公的資料上平成元年4月中のわずか数日間についてのみ裏付けが存するにとどまり、実際の居住期間は証拠上不明と判断するほかない。
キ 3次0546尾添サカエ
同原告にあっては、その申告居住地である小松市古城町110番地1における居住事実は公的資料上も平成4年7月24日の居住開始時から平成11年8月19日の転出時まで裏付けられており、その後、同所に再転入し平成12年12月25日に再度転出したことが公的資料上うかがわれるものの、再転入時期が証拠上明らかでないため、公的資料上特定が可能な上記限度で居住期間を認定した。
ク 3次0797西浦善吉、同0798西浦ヨソ及び同0799西浦多津
被告の主張では、同原告ら共通の申告居住地である小松市大川町二丁目97番地における公的資料上の居住開始時期は平成9年7月30日以降とされているが、現証拠上かかる事実を示す公的資料は存せず、住民票上の記載及び弁論の全趣旨を総合すると、同原告らはいずれも昭和41年1月1日前から上記申告居住地に居住していたものと認めるのが相当である。
ケ 3次0877森田郁代及び同0890森田嵩章
同原告らにあっては、共通の申告居住地である小松市殿町一丁目1番地における居住事実を裏付ける公的資料上の記載が一切なく、同所における居住期間を特定して認定するに足る証拠がないことから、居住期間不明と判断するほかない。
コ 3次0946山崎京子及び同0947山崎武司
同原告らにあっては、申告居住地は小松市「浜田町ホ100番地1」とされ、3次0944山崎了一作成の陳述書(<証拠略>)上も、了一らと上記居住地で同居しているものとして記載されているが、他方、公的資料上は昭和63年7月19日以降「浜田町ホ98番地」に居住しているものとされており、かかる不一致の理由について合理的な説明もないことから、上記申告居住地における居住期間は証拠上不明と判断せざるを得ない。
サ 3次1014上林作次及び同1015上林秋子
同原告らにあっては、各申告居住地である小松市「浜田町ロ8番地」における居住事実を裏付ける公的資料上の記載がなく、居住開始時期として主張された平成5年8月以降の居住地は公的資料上「浜田町ロ7番地」とされているところ、かかるそごが生じたことについて合理的な説明はなく、単純な誤記ともにわかに解し難いことから、上記申告居住地における居住期間は証拠上不明と判断せざるを得ない。
シ 3次1157濱野順躯
同原告らにあっては、その申告居住地は加賀市「塩浜町ヌ216番地」とされているが、他方、公的資料上は昭和41年1月1日前から「塩浜町り75番地」に居住しているものとされ、また、本人作成の陳述書(<証拠略>)記載の肩書住所地も公的資料上の記載と同様であるものの、それだけで当初の申告居住地が単純な誤記であったとはにわかに断じ難く、上記申告居住地における居住期間は証拠上不明と判断せざるを得ない。
ス 3次1479輪島笑子
同原告にあっては、申告居住地が加賀市「美岬町尼ゴジ6番地の9」とされ、3次1477輪島正行作成の陳述書(<証拠略>)上も正行らと上記居住地で同居しているものとして記載されているが、他方、居住開始時期として主張された昭和46年8月以降、公的資料上は「美岬町尼ゴジ6番地の4」に居住しているものとされており、かかるそごが生じたことについて合理的な説明はなく、単純な誤記ともにわかに解し難いことから、申告居住地における居住期間は証拠上不明と判断せざるを得ない。
セ 3次1645二谷公喜
同原告にあっては、その申告居住地である寺井町字寺井ま127番地における居住事実を裏付ける公的資料上の記載はないものの、<証拠略>によれば、転出入の届出をなすことなく平成7年6月某日から平成8年4月某日までの間、上記申告居住地に居住していたものと認められる。
3 提訴前死亡原告について
原告(3次1100)藤本ミキ子にあっては、別表1に摘示したとおり第3次訴訟提起前の平成7年12月3日既に死亡していたことが認められる(<証拠略>)ところ、提訴後訴訟代理人らにおいて時機を失することなく当事者の表示を藤本ミキ子の相続人に改めるなどの処置もなしていないことからすると、同原告の名でなされた訴えは死者を原告とする不適法なものといわざるを得ず、却下を免れない。
第2侵害行為(本件飛行場の使用状況等)
1 自衛隊機による使用状況と騒音
(1) 近時の一般的な使用状況
以下に掲記する各証拠に、<証拠略>を総合すると、近時の自衛隊機による本件飛行場の一般的使用状況は次のとおりであると認められる。
ア 飛行訓練
小松基地では、約3年間の教育課程を修了して既に技能証明を与えられ、その後更に約2年間の訓練期間を経た者が戦闘機操縦者として配属されており、これらの者を対象とした飛行訓練が行われている。
飛行訓練には、本件飛行場から約70キロメートル離れた日本海上空の訓練空域(G空域。<証拠略>)で行う訓練のほか、本件飛行場の滑走路を使用して行う計器飛行方式での進入訓練や有視界飛行方式でのタッチアンドゴー訓練、さらに、本件飛行場周辺の高度上空で行う模擬射爆撃訓練(模擬射爆撃のための降下訓練)等がある。
通常の訓練は、平日午前8時ころから午後5時30分ころまでの間に、昼休みの時間帯(正午ころから午後1時ころまで)を除いて1日6回実施することとされており、1回当たりの訓練時間は1時間程度、訓練機数は6機ないし10機程度である。このほか、平日週2回は夜間飛行訓練を1日2回行うこととされており、その終了時刻は通常午後8時ころであるが、夏場は午後9時ころになることがある。
訓練機がG空域で訓練を行う場合、離着陸の際に本件飛行場を使用することとなるが、1回の訓練で6ないし10機の訓練機の一団が1機ずつ又は2機編隊で数分間隔で離陸、着陸するとされているので、それぞれ要する時間は、通常10分程度となる。なお、離陸の際には、約20分前から最小回転数でエンジンを始動しておき、離陸の約10秒前に数秒間エンジンを最大回転数に上げてエンジン調整を行うのが通例である。
イ 緊急発進
領空侵犯に対する措置(自衛隊法84条)としての緊急発進(スクランブル)は、通常、ジェット戦闘機2機の編隊で行われており、国籍不明機等による領空侵犯の危険がある限り、休日であろうと深夜であろうと行われる。
ただし、本件飛行場を使用しての緊急発進の回数は、昭和55年度から平成元年度までの10年間は毎年100回を超えていたが、平成2年度から100回を切るようになり(平成2年度85回、平成3年度58回)、以後、平成4年度49回、平成5年度21回、平成6年度24回、平成7年度6回、平成8年度19回、平成9年度7回、平成10年度21回、平成11年度15回と、平成元年以前に比べて顕著に減少した(<証拠略>)。
ウ 演習
航空自衛隊が参加する主要な演習には、統合幕僚会議が実施する自衛隊統合演習、航空自衛隊が実施する航空自衛隊総合演習(空自総演)、航空総隊が実施する航空総隊総合演習(総隊総演)があり、例年秋にこれらのうち1つが2週間ないし3週間程度実施されているが(<証拠略>)、演習期間中、防空戦闘訓練が実施される1週間程度は本件飛行場も演習参加機の離着陸等に使用される。
演習期間中の訓練は、通常の訓練と異なり、土曜日、日曜日に行われることもあるし、開始時刻が早朝午前6時ころであったり、終了時刻が夜間午後8時ないし9時ころであったりすることも少なくない。また、通常の訓練時と比べて飛行する機数が増えることもある。
エ 日米共同訓練
平成10年までの間に日米共同訓練で本件飛行場が実際に訓練参加機の離着陸等に使用されたのは、昭和57年、昭和58年、昭和60年、昭和61年、昭和62年、昭和63年、平成元年(2回)、平成2年、平成3年、平成4年、平成5年、平成10年の計13回であり、概ね年1回、1ないし2週間程度使用されてきている(<証拠略>)。
日米共同訓練の実施期間中は、通常の訓練時と比べて飛行する機種や機数が増えることがあり、また、土曜日、日曜日に訓練が行われることもある(<証拠略>)。
オ 災害派遣(<証拠略>)
災害派遣(自衛隊法83条)の主なものとしては、急患輸送や海難事故、山岳遭難事故があった場合の捜索救難等があり、小松基地では、主として小松救難隊がこれに当たっており、派遣時には救難機等の離着陸のために昼夜を問わず本件飛行場が使用される。
近年小松基地から上記目的で派遣された航空機の延べ機数は、平成7年度28機、平成8年度58機、平成9年度14機、平成10年度1機、平成11年度0機、平成12年度4機となっており、このうち平成8年度が特に多いのはタンカー沈没による大規模重油流出事故(派遣期間平成9年1月から同年3月初旬まで)があったためである。
カ 航空祭
小松基地では、例年5月ないし9月の休日(従来は日曜日一日が多かったが、近年、例えば平成11年度は土曜日、日曜日の二日にわたった。)に航空祭が開催されており、開催日には、午前9時ころから午後1時30分ころまで本件飛行場を使用していわゆる展示飛行が行われる(<証拠略>)。
キ その他の飛行及びエンジン試運転等
上記各飛行の他、飛行訓練が可能かどうか訓練空域の天候状態を調査するために、朝一番の訓練開始の前に天候偵察機(ジェット戦闘機)を飛行させており、また、他の基地等からの業務飛行や輸送機の飛来等が随時見られる。
本件飛行場においては随時戦闘機等のエンジン調整・整備に伴う試運転等も行っているが、原則として、平日の午前7時から午後10時までの間に行うものとされている。
(2) 近年の離着陸等及び騒音発生の回数ないし頻度
ア 管制航空交通量の集計結果からみた自衛隊機の離着陸等の回数
<証拠略>を総合すると、次のとおり認められる。
本件飛行場に係る飛行場管制業務、進入管制業務、ターミナル・レーダー管制業務及び着陸誘導管制業務は、航空自衛隊小松管制隊が行うこととされており、(航空法施行令7条の2、昭和41年運輸省告示第149号、同第349号)、本件飛行場内での離着陸のほか、本件飛行場に係る航空交通管制圏(小松管制圏。昭和37年運輸省告示第140号)内の航行等については、自衛隊機のみならず民間機、米軍機を含めて航空自衛隊がこれを管制している(<証拠略>)。したがって、小松管制隊が把握している本件飛行場の管制航空交通量は、自衛隊機の離着陸等の回数を知るための重要な手がかりとなると解されるが、<証拠略>によれば、複数機編隊で離陸等することもあり、そのような場合には管制回数は1回として計上されるので、管制回数は離着陸等をした実機数に比べてある程度低い数値となることは免れない。そこで、この点の制約を念頭に置きつつ、以下検討する。
被告において集計した結果(<証拠略>)によれば、昭和45年度から平成12年度まで31年間の本件飛行場における自衛隊機の管制航空交通量(出発、到着のほか、進入復行、模擬計器進入、通過、タッチアンドゴー及びローアプローチを含む。)は、次のとおりとなっている。
すなわち、平成3年度までの年間管制航空交通量(管制回数)は、例外的に少なかった昭和48、50、51年度を除けば、約1万8900回から約2万7600回の範囲で推移しており、1年の暦日数(365日又は366日)で除した1日平均管制回数で見ると、おおむね52回ないし76回の範囲で推移してきた(ただし、年間2万6000回(1日平均70回)を超えたのは、例外的事情のあった昭和61、63年度及び平成元年度だけである。)。近年も、平成4年度が年間2万0016回、1日平均約55回、平成5年度が年間2万0181回、1日平均約55回、平成6年度が年間1万9695回、1日平均約54回、平成7年度が年間2万0459回、1日平均約56回、平成8年度が年間2万0293回、1日平均約56回、平成9年度が年間2万2896回、1日平均約63回、平成10年度が年間1万8124回、1日平均約50回、平成11年度が年間1万7731回、1日平均約48回、平成12年度が年間1万7891回、1日平均約48回と(1日平均管制回数が軒並み60回を超えていた昭和57年度から平成2年度までの時期に比べればやや低めながら)ほぼ横ばいの状態が続いている。
また、被告が、平成7年度から平成12年度までの6年間について、月別の管制日数、管制回数を集計した結果(<証拠略>)によれば、例年冬場(12月、1月ないし3月)は管制回数がかなり少なく(1000回を切る月もある。)、管制日数も比較的少ないという傾向を看取することができ、その反面、その余の季節には、年間の平均回数よりは管制回数が多くなっている。
さらに、被告が、同じく平成7年度から平成12年度までの6年間について、月ごとに土曜日、日曜日、平日別の管制回数と時間帯別の管制回数を集計した結果(集計対象は出発及び到着に限る。)(<証拠略>)によれば、まず、土曜日と日曜日は、年間の管制日数が29日ないし40日であって、年間の土日総日数の約3分の1程度であり、自衛隊機の離着陸しない日が年間の約3分の2に達しているとはいえ、土日には原則的に離着陸しないというにはほど遠い状況にある。もっとも、管制回数で見ると、平日に比べて顕著に少ないということができる(土曜日、日曜日とも10回未満ないし多くても20回程度までの月が多く、1か月50回を超えたのは平成7年9月の日曜日、平成8年9月の日曜日、平成9年5月の土曜日、同年9月の土曜日、平成10年10月の土曜日、平成11年5月の土曜日、同年8月の日曜日、同年9月の日曜日だけである。)。
次に、上記集計結果を基礎に、飛行訓練日1日当たりの管制回数を検討すると、平成7年度の管制日数278日のうち飛行訓練日は180日であり、その余は悪天候のため天候偵察機のみが飛行した日等ということである(<証拠略>)ので、概算、同年度の総管制回数2万0495回を上記180日で除すると、同年度の飛行訓練日1日当たりの管制回数は約114回となる。同様に、平成10年度の管制日数276日のうち飛行訓練日は178日とのことである(<証拠略>)ので、概算、同年度の総管制回数1万8124回を上記178日で除すると、同年度の飛行訓練日1日当たりの管制回数は約102回となる。その他の年度も、飛行訓練日数に大差はないものと推認されるので、飛行訓練日1日当たりの管制回数は上記平成7年度、10年度とほぼ同様ないしは近似した水準であるものと推認される。
また、時間帯別で見ると、昼休みの時間帯である正午から午後1時までの管制回数は顕著に少なく、10回未満ないし多くても20回程度までの月がほとんどである。しかしながら、1年を通算してみると、平成7年度は173回、平成8年度は208回、平成9年度は116回、平成10年度は75回、平成11年度は77回、平成12年度は93回の管制が行われており、その頻度は多くはないけれども、些少な回数ではなく、やむを得ない場合以外は離着陸しないという前記10・4協定に定める程度の管制交通量であるとは到底いえない。夜間及び早朝の時間帯である午後7時から翌朝午前7時までの管制回数をみると、午後7時から午後8時までは、1年を通算すると毎年400回を超えており、相当多数回に及んでいる。午後8時以降の時間帯の管制回数は、それ以前の時間帯の回数と比べると顕著に少なく、10回未満の月がほとんどで、20回を超える月は6年間で3月だけである。しかしながら、1年を通算してみると、午後8時から9時までの時間帯で、平成7年度には31回、平成8年度には19回、平成9年度には24回、平成10年度には20回、平成11年度には62回、平成12年度には14回の管制が行われており、さらに、それ以降午前7時までの時間帯においても、平成7年度には22回、平成8年度には15回、平成9年度には22回、平成10年度には8回、平成11年度には25回、平成12年度には35回の管制が行われており、早朝・夜間にはやむを得ない場合以外は離着陸しないという前記10・4協定に定めている程度の管制交通量とはいい難い状況にある。
なお、以上の集計結果のうち、土曜日、日曜日、平日別及び時間帯別の集計結果に現れた年間総管制回数と年度別及び月別の各集計結果に現れた年間総管制回数との間の差(毎年5000回ないし7000回程度)は、前者の集計対象とならなかった管制回数、すなわち模擬計器進入やタッチアンドゴー等の本件飛行場の滑走路を使用した訓練の回数を示していると解される。
イ 被告及び関係地方公共団体の共同調査結果(常時測定点騒音発生回数)
<証拠略>を総合すると、次のとおり認められる。
前記第1の1(2)オで触れたように、本件飛行場周辺では被告(金沢防衛施設事務所)のほか、石川県、小松市、加賀市、根上町等の関係地方公共団体が共同して航空機騒音の測定調査を継続的に実施してきており、年度ごとの調査結果が、石川県からは「小松基地周辺の騒音対策」に、小松市からは「基地と小松」にそれぞれ掲載されて公表されている。
上記調査では、常時測定点が設けられた小松市小島町(小島町公民館)及び加賀市伊切町(伊切町公民館)で測定された民間機を含む航空機騒音(70dB(A)以上で7秒間以上継続した騒音)の発生回数に基づき、上記各測定点における月別、曜日別、時間帯別の1日平均騒音発生回数がそれぞれ折れ線グラフの形で公表されているが、平成6年度から平成10年度まで5年間のこの点に関する集計結果は、概ね次のとおりである(なお、各グラフ上に平均騒音発生回数が具体的な数値で示されているのは平成9年度及び平成10年度だけであって、平成8年度までのグラフからは平均騒音発生回数を明確に特定するのは困難である。)。
まず、年間を通じた1日平均騒音発生回数を(具体的な数値的データの得られる)平成9年度及び平成10年度についてみると、小松市小島町は平成9年度、平成10年度とも約43回、加賀市伊切町は平成9年度が約38回、平成10年度が約37回であり、月別でみると、冬場(12月、1月、3月)の回数が年間平均回数を下回る傾向がみられる。これらとの対比で平成8年度以前の調査結果をみても、平成7年度の小松市小島町における年間を通じてみた1日平均騒音発生回数の多さが目立つ程度であり、平成9年度及び平成10年度の各数値との間に大きな隔たりは見られない。そして、本件飛行場周辺地域では、小松市小島町が滑走路からみて北東方向、加賀市伊切町が南西方向に位置するそれぞれ代表的な騒音激甚地区であることからすると、本件飛行場周辺地域全体の民間機を含めた航空機騒音の1日平均発生回数は、上記各測定点で得られた数値の合計である80回ないし90回程度とみて大きな誤りはない。
次に、曜日別の1日平均騒音発生回数を見ると、小松市小島町では平日(月曜日から金曜日まで)の平均が平成9年度約56回、平成10年度約55回であるのに対し、土曜日、日曜日はいずれも10回前後で、加賀市伊切町でも同じく平日の平均が平成9年度約46回、平成10年度約44回であるのに対し、土曜日、日曜日はいずれも20回前後となっており、平成8年以前の調査結果からも概ねこれらと同様の傾向が見られる(なお平成7年度は、小松市小島町では月曜日から木曜日まで軒並み70回を超えており、特に平日の回数の多さが目立っている。)。
さらに、時間帯別の1日平均騒音発生回数をみると、上記両測定点とも昼休み時間帯である午後零時台は平均1回前後であり、これを除いた日中に騒音の発生が集中し、午前8時台から午後4時台が、それぞれ概ね平均約3回ないし約6回程度である。夕方は午後5時台から午後7時台が、それぞれ平均2回前後ないし3回弱であり、夜間は午後9時台以降は上記騒音の発生はほとんどなく、小松市小島町では午後8時台も騒音発生が激減し、また、早朝は午前6時台までは騒音発生がほとんどなく、7時台が概ね1回弱程度であることを看取することができる。
以上の調査結果は、民間航空機(民間機)の離着陸等による騒音を対象から除いているわけではないため、自衛隊機(とりわけ騒音の激しいジェット戦闘機)の離着陸等の回数ないし頻度を直ちに示すものではないが、後述するとおり、本件飛行場では民間機の離着陸便数が平成8年ころまでは漸次増加してきて、管制回数でみると昭和63年度に一日平均約20回、平成4年度に約30回、平成8年度には約40回に達し、平成9年、10年度はいずれも約44回、11年度は約41回、12年度は約43回となっていること、民間機は定期便が中心であり、離着陸機数が年間を通じてほぼ一定していること等を考慮すれば、前記調査結果から自衛隊機騒音のおおまかな発生状況を推知することは可能であり、そのような観点からみると、上記データとさきにみた管制航空交通量集計結果から得られたデータとの間には格別の矛盾はないものとみて差し支えない。
ウ 原告らの調査結果(奥村被告)
<証拠略>を総合すると、次の事実が認められる。
第1、2次訴訟の原告ら及びその支援者ら(原告団)は、かねて小松市丸の内町二丁目182番地先路上(丸の内定点)等本件飛行場周辺地域で断続的に騒音調査を行っていたが、その後、同訴訟第一審での検証実施に合わせて、調査をより系統的に行うとともに調査データの信頼性を高めるべく原告ら訴訟代理人あるいは復代理人弁護士ら(原告弁護団)が調査に関与することとなり、平成元年4月から同年7月にかけて上記丸の内定点及び加賀市伊切町ろ312番地先路上(伊切定点)等で原告弁護団が関与した騒音調査が実施された。そして、このときの調査結果を原告弁護団弁護士奥村回らが報告書にまとめ(<証拠略>)、同訴訟でも証拠とされた。
原告団及び原告弁護団による調査は平成2年4月以降も年1、2回実施され、第1、2次訴訟第一審判決言渡後の平成3年10月以降は75コンター内にある安宅海浜公園(小松市安宅第4区所在)でも上記定点調査に準じた調査が行われるようになった。そして、同訴訟が控訴審に係属していた平成5年8月までの調査結果は奥村弁護士らが報告書にまとめて(<証拠略>)、同控訴審でも証拠とされ、さらに、同控訴審の口頭弁論終結後である平成6年10月から平成10年6月までの調査(今次調査)結果もやはり奥村弁護士が報告書にまとめ(<証拠略>)、上記各報告書と共に本件訴訟に証拠として提出された。
これら報告書に現れた原告らの調査結果中には、被告が指摘しているとおり、データの記載上の不備や集計上の誤りが少なからず含まれており、調査自体の精度にも懸念すべき点がないわけではないものの、原告弁護団の指導関与のもとで系統的・継続的に実施されてきており、下記のとおり生の調査データも開示されているというだけでなく、騒音測定の技量は後記の本件訴訟における検証時にも実証されていることからすれば、大筋では信頼に値するデータが得られているものとみることができる。しかも、上記各報告書では、先にみた被告の管制航空交通量の集計結果や関係地方公共団体と共同しての騒音調査結果と異なり、各調査日ごとの生の調査データ(基礎データ)がほぼ明らかにされており、これらデータは、本件飛行場周辺地域における具体的な航空機騒音の発生状況を把握する上で貴重なものと評価すべきである。
ところで、平成6年10月以降の今次調査は、平成6年10月に5日間(10月24日(月)から同月28日(金)まで)、平成7年10月に5日間(10月16日(月)から同月20日(金)まで)、平成8年6月に5日間(6月10日(月)から同月14日(金)まで)、平成9年6月に4日間(6月9日(月)から同月12日(木)まで)、同年9月から10月に4日間(9月29日(月)から10月2日(木)まで)、平成10年6月に5日間(6月22日(月)から同月26日(金)まで)と合計6回、延べ28日間行われたが、このうち、前記報告書の中で調査日ごとのデータが集計、整理されている丸の内定点での調査結果を中心にみると、概ね次のような事実が認められる。
まず、丸の内定点における調査日ごとの航空機騒音の発生回数をみると、ピーク騒音レベルdB(A)値70以上の騒音発生回数が50回を超えたのは、平成6年が5日中3日、平成7年が5日中4日、平成8年が5日中2日、平成9年が8日中7日、平成10年が5日中4日とかなり多く、そのうち平成7年の1日(10月18日)、平成9年の4日(6月10日、同月11日、9月29日、10月1日)は100回を超えたとされている(なお、平成9年9月ないし10月の調査時期には航空総隊総合演習が実施されていた。)。一方、回数が少ない日は30回を下回ることもあり(平成6年、平成7年、平成9年、平成10年ではそれぞれ1日、平成8年では2日がそれに当たる。)、1日ごとの騒音発生回数にはかなりのばらつきがみられる。これらの調査結果を平成元年から平成5年までの調査結果と比べてみても、回数が特に多い日は少なくなった感があるものの(平成元年から平成5年までは毎年少なくとも1日以上は100回を超える日があったとされている。)、全般的にみて顕著な減少傾向までは見受けられない。
次に、時間帯別の騒音発生状況を各調査日ごとの丸の内、伊切両定点における基礎データに照らして概観すると、昼休みの時間帯である正午から午後1時前(午前零時59分)までの間にピーク騒音レベルdB(A)値70以上の自衛隊機(特にジェット戦闘機)騒音が発生したのは、調査日の約4分の1であり、発生日の1日平均発生数は約3回であった。そして、昼休み時間帯を除いた日中の騒音発生状況の基本的な傾向としては、10分前後の短い時間内に6機ないし10機程度のジェット戦闘機が連続して離陸あるいは着陸することに伴い、飛行騒音が集中的に発生する傾向が恒常的に見受けられるが、それ以外にジェット戦闘機が本件飛行場周辺を通過することに伴う騒音や練習機等の飛行騒音が散発的に発生することも少なくない。なお、午後7時台までの調査データが残されている日(平成8年6月13日、平成9年6月10日、11日及び平成10年6月24日)の騒音発生状況からは、訓練が夜間に及ぶ場合には夕刻午後5時以降も日中と大差のない頻度で自衛隊機騒音が発生していることを看取することができる。
以上のほか、演習期間中に調査が行われた平成9年9月29日から同年10月2日までの騒音発生状況を基礎データに照らしてみておくと、早朝午前6時台から練習機の離着陸に伴う騒音が発生し、午前8時台に訓練が始まると、通常の訓練時を上回る機数のジェット戦闘機等の連続的な離陸ないし着陸に伴う騒音が集中的ないし断続的に発生することがあり、夕刻以降もこうした状況のまま午後8時過ぎまで着陸に伴う騒音が続くというおおまかな傾向が認められる。
エ 検証の結果
当裁判所は、平成11年9月7日、8日の2日間にわたり、本件飛行場周辺地域関係十数箇所に対する検証を実施したが、そのほとんどの箇所で原、被告双方が騒音測定を行い、それぞれの測定結果が検証結果の一部とされている。これらの測定結果は、各地点ごとの計測が限られた時間内に行われたこともあって、本件飛行場周辺地域の騒音発生状況の全容を知るにはもとより十分なものではないが、相応のデータが採取されたことにより日々の騒音発生状況の一端をうかがい知ることのできる客観的な資料が得られた点で、その意義は少なくない。なお、後日、被告は、検証実施日両日における訓練時間帯(第1ピリオドないし第6ピリオド)ごとの飛行機数を明らかにしたが(<証拠略>)、そこでは、平成11年9月7日には練習機を含めて延べ49機、翌8日には練習機を含めて延べ58機をそれぞれ飛行訓練に使用した旨が報告されている(平成11年9月7日の第3ピリオド(午前10時50分ころから午前11時50分ころまで)は悪天候のため飛行訓練を中止したとされている(<証拠略>。)。
そこで、これら測定データからみた各検証現場における自衛隊機の飛来状況を具体的にみていくと、概ね次のような事実が認められる(なお、原、被告双方の測定データは大筋で一致しており、いずれに依拠しても格別問題はないが、ここでは、被告も自認している限度での騒音状況を確認する趣旨からも、被告の測定結果を基にみていくこととする。)。
第1日目(平成11年9月7日)は、まず、小松市立日末小学校(同市日末町ニの52番地所在)運動場で午前10時30分から午前11時20分まで騒音測定が実施されたが、前述した(飛行訓練中止という)事情により自衛隊機の飛来は観測されなかった。
次に、原告(3次1068)出渕敏夫宅(小松市佐美町申341番地甲所在)では午後零時50分から午後2時20分まで騒音測定(屋内外)が実施された。屋外では、午後1時2分まず練習機(T4)1機が離陸していったのを皮切りに、午後1時4分から午後1時10分まで10分足らずの間にF―15イーグル型ジェット戦闘機10機が立て続けに離陸していく状況が確認された。その後、午後1時48分にはイーグル機3機、午後1時57分にも同機4機の離陸がそれぞれ確認されたほか、練習機がタッチアンドゴー訓練等で飛来する状況もしばしば確認された。
続く本件飛行場滑走路南端付近ないし浜佐美集団移転跡地付近での騒音測定実施時(午後2時34分から午後3時8分まで)には、測定の対象となるような航空機の飛来は認められず、加賀市伊切町ろ312番地先路上(前述した伊切定点)での騒音測定実施時(午後3時13分から午後3時35分まで)も、ピーク騒音レベルdB(A)値70以上の騒音が計測されたのは民間機1機だけであった。
最後に、安宅海浜公園(小松市安宅第4区内)で短時間ながら午後4時38分から午後4時52分まで騒音測定が実施された際には、午後4時49分と午後4時51分にそれぞれイーグル機2機が上空を通過する状況が確認された。
第2日目(平成11年9月8日)は、まず訴外佐伯暁宅(小松市長田町ヲ140番地所在)で騒音測定(屋内外)が実施された際は、午前10時から午前10時24分までの間に輸送機(YS―11)1機の飛来が確認されただけであったが、次に小松市民センター(同市大島町丙42番地3所在)で午前10時30分から午前11時25分まで騒音測定(屋内外)が実施された際には、午前10時41分から午前10時43分までの間にイーグル機4機が続けて着陸していく状況が確認され、午前10時50分から午前11時1分までの間にも同機延べ10機が上空を通過し、さらに、同機4機が着陸していく状況がそれぞれ確認された(その他、練習機等の飛来状況もしばしば確認された。)。続く訴外出倉辰雄宅(小松市大島町ロ56番地1所在)では、午後零時27分から午後1時15分までの騒音測定(屋内外)実施中ピーク騒音レベルdB(A)値70以上の航空機騒音は屋外でも計測されなかった。
続いて、原告(3次0593)翫正敏宅(小松市上牧町ニの19番地所在)では午後1時29分から午後3時24分まで騒音測定(屋内外)が実施された。屋外では、まず、午後1時48分にイーグル機1機が着陸していったのに続き、午後1時49分から午後1時57分までの間に同機延べ15機が上空を通過する状況が確認された。さらに、午後2時27分に同機1機、午後2時44分に同機2機、午後2時50分から午後2時52分までの間に同機3機がそれぞれ上空を通過する状況が確認された。その他、輸送機や練習機等の飛来状況もしばしば確認された。
その後、鶴ヶ島集団移転跡地付近での騒音測定実施時(午後3時40分から午後3時50分まで)にはイーグル機1機が着陸していく状況が確認され、最後に、小松市丸の内町二丁目182番地先路上(前述した丸の内定点)での騒音測定実施時(午後4時43分から午後5時10分まで)には、午後4時43分にイーグル機2機、午後4時57分に同機3機、午後5時6分に同機1機がそれぞれ着陸していく状況が確認された。
オ まとめ
以上の各種データ等から近年における自衛隊機の離着陸等及び騒音発生の回数ないし頻度に関して特徴的な点をまとめると、次のとおりである。
まず、年次別の傾向をみると、離着陸等の年間総数が近年若干減少したこと(換言すれば、本件飛行場における民間機を含めた離着陸等の総数の中で自衛隊機の占める割合が相対的に若干低下したこと)は見受けられるものの、通常どおり訓練が行われた日における訓練機数や飛行頻度等には格別の変化はなく、通常訓練の規模が近年に至って縮小されたことを直接うかがわせる証拠も特に存しないことからすれば、訓練日とされる平日における平均的な離着陸等の回数ないし頻度は、近年においても第1、2次訴訟当時とほとんど変わらない横ばい傾向が続いているとみるのが相当であって、年間総数に若干の減少傾向がみられるとすれば、前記(1)イで指摘した緊急発進回数の顕著な減少傾向等が影響していると考えるほかない。
なお、平日の訓練時間帯における飛行騒音の具体的な発生状況をみると、10分程度の時間内に離着陸に伴う騒音が集中的に発生する特徴的な傾向は見て取れるけれども、騒音発生は必ずしもそれだけに限られるものではなく、訓練時間帯においては訓練機等が本件飛行場周辺でかなり頻繁に飛行を繰り返している状況がうかがわれる。
その他、季節別の傾向としては、冬場は離着陸等の回数が比較的少ないこと、曜日別の傾向としては、土曜、日曜の離着陸等の回数は通常顕著に少ないことが認められ、一方、時間帯別の傾向としては、昼休みに当たる正午から午後1時前まで及び深夜から早朝にかけては離着陸等の回数は顕著に少ないけれども、いずれも些少とは言えず、10・4協定の定めには遠く及ばないことが認められる。
(3) 近年の騒音の程度
ア 被告及び関係地方公共団体の共同調査結果(日WECPNL年平均値)
被告及び関係地方公共団体が共同で行う騒音測定調査の結果として毎年公表されているのは、前述した常時測定点をはじめとする測定地点ごとのWECPNLに関する数値であるが、そのうち測定地点ごとの日WECPNLの年平均値(パワー平均)の推移を昭和60年度から平成10年度までのデータ(<証拠略>)でみると、おおむね次のとおりである。
まず、常時測定点のうち小松市小島町では、昭和60年度が77、昭和61年度が76とやや低かったものの、昭和62年度以降は一貫して80前後(79ないし82)の数値で推移している。一方、加賀市伊切町では、平成2年度までは84あるいは85と高めの数値で推移していたが、平成3年度以降は80前後(78ないし82)となっている。
次に、他の測定地点の主なデータをみると、小松市下牧町(平成5年度までは下牧町公民館、平成6年度以降は牧農協)では、昭和63年度まで81以上83以下の範囲にとどまっていたが、平成元年度以降は85前後(83ないし87)の数値で推移し、平成6年度には88という最高値が記録された。小松市日末町(日末地区学習等供用施設)では、昭和63年度まで80前後(78ないし82)の数値で推移していたが、平成元年度以降は76以上79以下の範囲内の数値となっている。また、75コンター地域である小松市高堂町では、昭和60年度から63年度までは75ないし78で、平成元年度以降は71ないし74で推移している。加賀市片野町(片野町公民館)では、平成4年度まで75前後(74ないし76)の数値で推移していたが、平成5年度以降の4年間は72あるいは73にとどまった上、平成9年度は65、平成10年度も67と数値がかなり減少した。川北町壱ツ屋(川北小学校)でも、平成7年度まで71以上75以下の範囲内の数値であったが、平成8年度は69、平成9年度は66、平成10年度は64と数値が減少している。
このように、日WECPNLの年平均値でみると、測定地点によっては近年若干の減少傾向がみられるものの、一方ではむしろ高めの水準を維持し、又は、増加している地点もあり(小松市小島町、同市下牧町)、本件飛行場周辺地域全般の傾向として航空機騒音によるうるささの程度が下がってきているとまではいい難い。ちなみに、平成6年度から平成10年度まで5年間の騒音レベルdB(A)年平均値(パワー平均)でみれば(<証拠略>)、加賀市片野町で80以上、川北町壱ツ屋でも80前後(78以上)と相当高水準に達している。
イ 原告らの調査結果
奥村弁護士作成の前出報告書(<証拠略>)に現れた原告らの今次調査結果を、丸の内定点における調査日ごとの騒音測定時の状況を中心にみると、概ね次のとおりである。
まず、丸の内定点上空付近に飛来する航空機が着陸機に偏った日(平成7年10月16日、平成9年6月10日、11日、平成10年6月26日等)は、ジェット戦闘機騒音を含めてピーク騒音レベルdB(A)値が70台、80台にとどまる率が高いが、それ以外の日はジェット戦闘機の離陸時に90台の数値が計測されることがかなり多く、時に100を超えることもある。
次に、伊切定点における騒音測定時の状況を基礎データに照らして概観してみても、丸の内定点における上述した状況と近似した傾向を看取することができるが、ピーク騒音レベルは丸の内定点に比べて全般的にやや低い。
また、75コンター地域である安宅海浜公園での騒音測定データを丸の内定点と比べて概観してみると、安宅海浜公園での測定値は、丸の内定点でのそれをかなり下回る傾向があることは否めない(例えば、ピーク騒音レベルの最大値、中央値は、いずれも丸の内定点と比べて概ね10前後、時に15前後の差が見られる。)ものの、70台、80台の数値が計測される頻度は決して低くなく(例えば、70以上の騒音の発生回数が50回を超えた日数は、平成6年が5日中3日で丸の内定点と同一、平成7年が5日中3日で1日の差、平成8年が5日中1日で1日の差、平成9年の6月が4日中1日で3日の差、平成10年が5日中3日で1日の差であったし、70以上の騒音の概ね3割ないし7割が80以上であった。)、特にジェット戦闘機の飛来時には90を超えることもある。
こうした基本的傾向は、平成5年までの調査結果(<証拠略>)からも概ね同様に看取されるところであって、実際のピーク騒音レベルdB(A)測定値からみると、近年の自衛隊機の離着陸等に伴う騒音の大きさの程度には格別の変化はみられないものということができる。
ウ 検証の結果
検証時に計測されたジェット戦闘機等の離着陸等に伴う騒音の大きさを被告の測定データに照らして具体的にみておくと、概ね次のとおりである。
まず、多数の離陸機の飛来が確認された原告出渕宅では、F―15イーグル機(延べ17機)の離陸に伴い、ピーク騒音レベルdB(A)値で84が1回、85が3回、86が1回、87が2回、88が1回、89が5回、90が3回計測された(1機は計測不能とされた。)。他の航空機騒音としては、タッチアンドゴー訓練中の練習機が一度だけ78を記録したのが最大であった。
安宅海浜公園では、民間機の離陸時に計測された76が最大値で、イーグル機が2回2機ずつ上空を通過したときの数値はそれぞれ75、60にとどまった。
小松市民センターでは、イーグル機、練習機ともに着陸時には概ね70台の数値が計測され(その中でイーグル機1機だけが95という飛び抜けた値を記録した。)、イーグル機は上空通過時もほとんどが70台を記録した。
原告翫宅では、多数のイーグル機(延べ22機)が本件飛行場方面に向かい着陸あるいは通過していく状況が確認されたが、ピーク騒音レベルが60台にとどまったのは1回(2機通過時の66)だけであり、その他は70台が計5回(70が2回、71が1回、77が1回、78が1回)、80台が計11回(80が1回、84が2回、86が2回、88が3回、89が3回)、90台も計2回(90が1回、91が1回)計測された。ちなみに、同原告宅では、他の自衛隊機や民間機の飛来時に80台が計測されることも少なくなく(計5回)、検証時の最大値としては、自衛隊機(C―1)と民間機(B―747)の着陸時にそれぞれ96という数値が計測された。
鶴ヶ島集団移転跡地付近では、イーグル機の着陸時に83という数値が計測され、最後に、丸の内定点では、同機(延べ6機)の着陸に伴い75、80、81、83、84、85という数値がそれぞれ1回ずつ計測された。
エ まとめ
以上の各種データから自衛隊機の飛行騒音の程度に関し近年の特徴的な点をまとめると、本件飛行場周辺地域では近年においても第1、2次訴訟当時と同様ジェット戦闘機の飛来(通過、離陸、着陸)時、特に離陸時における騒音の大きさが顕著であり、小松基地(第6航空団)の主要装備に関しファントム機からイーグル機への機種変更があったことの影響は格別見受けられないというべきである。そして、先に(2)で検討したところと併せ考えると、近年の本件飛行場周辺地域における自衛隊機の離着陸等に伴う騒音暴露の状況は、平日の訓練時間帯に関する限り、依然として第1、2次訴訟当時の状況と特に変わりはないものとみるのが相当である。
2 米軍機による使用状況等
前記1(1)エで触れたとおり、昭和57年以来日米共同訓練実施時に米軍機が本件飛行場を離着陸等に使用するようになったが、近年の(本件飛行場を使用しての)日米共同訓練実施状況を平成5年以降に限ってみれば、平成5年5月17日から同月28日まで及び平成10年11月2日から同月13日までの2回、延べ24日間に限られており(<証拠略>)、米軍機が本件飛行場に離着陸しあるいはその関連で飛行するのは、現状ではごく短い期間に限られている。
3 民間航空機による使用状況等
本件飛行場使用による騒音の発生・暴露の中で自衛隊機及び米軍機によるものの比重を把握するために、以下民間機による本件飛行場の使用状況等について検討する。
民間機による本件飛行場の使用状況の推移を管制航空交通量集計結果(昭和43年度から平成12年度まで。<証拠略>)からみると、昭和43年度は年間3605回、1日平均約10回にとどまっていたが、その10年後の昭和53年度には年間5902回、1日平均約16回となり、更にその10年後の昭和63年度には年間7597回、1日平均約20回となった。そして、平成4年度には年間1万1285回、1日平均約30回に到達し、平成8年度には年間1万4981回、1日平均約40回、平成9年度には年間1万6513回、1日平均約44回に到達し、その後は平成10年度が年間1万6263回、1日平均約44回、平成11年度が年間1万5226回、1日平均約41回、平成12年度が年間1万5962回、1日平均約43回で推移しており、本件飛行場における民間機の離着陸回数は、平成9年ころまで顕著な増加傾向を続け、その後ほぼ横ばいで推移している。
運航路線からみると、平成11年度末現在、国内線では東京便1日9往復をはじめ、札幌、福岡、仙台、那覇、広島等との間に1日少なくとも7往復便があり、国際線は週2往復のソウル定期旅客便、週3往復のルクセンブルク定期貨物便のほか、例年相当数のチャーター便が就航している(<証拠略>)。
民間機の場合、このような国内線定期旅客便中心の運航状況のため、平成11年度、平成12年度の各管制航空交通量集計結果(<証拠略>)からみても月別の管制回数にさほどの変動は生じておらず、年間を通じてほぼ一定の離着陸回数が保たれている。
民間機の離着陸に伴う騒音の程度を前述した検証時の測定データ等からみると、伊切定点ではB―777機の離陸時にピーク騒音レベルdB(A)値で70を計測し、一方、丸の内定点ではB―737機の着陸時に82が計測されており、その他、日末小学校ではB―777離陸時に78、原告出渕宅ではA―300離陸時に77、安宅海浜公園ではB―737離陸時に76、原告翫宅ではB―777着陸時に89、B―737着陸時に86、B―747着陸時には96がそれぞれ計測された(いずれも被告測定値)。奥村弁護士作成の前記報告書に現れた原告らの今次調査結果をみても、民間機の離着陸時に測定された数値は丸の内、伊切両定点とも70台、80台が多く、民間機が90を超える数値を記録することは少ない。
4 墜落等の危険について
<証拠略>によれば、本件飛行場においては、昭和37年から平成2年までの間に、自衛隊機に関し、墜落・着陸失敗・暴走・ターゲット落下等の事故が33回起こっており、近年でも、平成3年12月に着陸態勢下のF―15Jイーグル機が日本海上で墜落し、平成7年10月6日にF―15Jイーグル機が離陸に失敗して炎上し、平成7年11月22日にF―15Jイーグル機が輪島沖で僚機に誤射・撃墜されるという事故が発生していることが認められる。
また、後に第4の2(1)で判示するように、原告らの相当数の者は、陳述書において、自衛隊機の飛行・離着陸に際して、墜落等の事故の危険を感じ、恐怖感・不安感に襲われる旨述べている。
しかしながら、上記判示の事実関係では、本件飛行場周辺に自衛隊機の墜落等の現実的危険性が存在し、周辺に居住等している原告らの権利・利益に対する侵害が発生しているとか、その発生の具体的蓋然性があるとか断ずることは困難であるし、他に、本件飛行場がかかる危険性を惹起するような欠陥・不備を有しているものと認めるに足りる証拠もない。
第3騒音障害の防止軽減作
1 被告の周辺対策の概要
前記第1の1(2)ウで触れたように、被告は、かねて行政措置として防衛施設周辺対策に取り組んでいたが、昭和41年に周辺整備法が、昭和49年に生活環境整備法がそれぞれ公布、施行され、現在では、主として生活環境整備法に基づく周辺対策が実施されている。<証拠略>を総合すると、上記周辺対策の概要は、後述する住宅防音工事の助成措置を除けば、次のとおりであると認められる。
(1) 障害防止工事の助成等(生活環境整備法3条)
ア 障害防止工事の助成(同条1項)
被告は、生活環境整備法3条1項に基づき、本件飛行場周辺の障害防止対策事業に対する補助金として、昭和52年度から昭和60年度までの間小松基地周辺の用排水路改修工事に合計金4億1285万5000円を支出したほか、小松市、加賀市、根上町が昭和51年度以降それぞれ順次実施してきているテレビ共同受信施設設置事業に対しても、平成12年度末現在で合計金5億5629万6000円を支出している。
イ 学校、病院等の防音工事の助成(同条2項)
被告は、生活環境整備法3条2項に基づき、本件飛行場の周辺(小松市、加賀市、根上町、寺井町、辰口町、美川町、川北町、松任市)に所在する小中学校、高等学校、幼稚園、保育所、病院等の施設に対する防音工事の助成措置を実施してきており、行政措置としてあるいは周辺整備法に基づき実施されていた時期を含め、昭和35年度から平成12年度までの事業実績は、対象施設数が小中学校、高等学校、幼稚園、保育所を中心に合計157、補助額は総額金268億7553万6000円に上っている。
上記防音工事は、1級から4級までの工事種別に区分され、1級工事は35デシベル以上の音響軽減効果があるとされ、以下級毎に音響軽減量が5デシベル宛低下するものとされており、工事の方法としては、木造等施設を鉄筋コンクリート造に改築し併せて防音工事を施す場合(改築)、既存の鉄筋コンクリート造施設に防音工事を施す場合(改造)、建物を新築又は増築するのに併せて防音工事を施す場合(併行)等がある。
なお、被告は、防音事業の関連維持費として、上記防音工事に関連する換気設備等の使用に要した電気料金等の費用の一部を補助する行政措置を講じてきており、平成12年度は、対象施設数が131、補助額が合計金4936万1000円となっている。
(2) 移転の補償等(生活環境整備法5条)
被告は、昭和39年度の予算措置で小松市鶴ヶ島地区の8戸を対象に実施して以来、行政措置として、さらにその後は周辺整備法、生活環境整備法に基づき本件飛行場周辺地域で移転補償の措置を実施してきており、現在でも生活環境整備法5条に基づく措置が続けられている。
上記措置の対象区域には、前記第1の1(3)ア及びエに挙げた第2種区域のほか、周辺整備法5条1項の規定に基づき既に指定済みであった「みなし第2種区域(生活環境整備法附則4項により第2種区域とみなすこととされた区域)」が含まれ、対象家屋は合計771戸であったところ、被告の措置を受けて、平成4年度までにそのうち411戸が移転し、さらに、平成5年度から平成12年度までに87戸が移転したことで、移転済み戸数は498戸に達し、土地の買入れを含む補償に要した費用は総額金171億8722万1000円に上っている。
なお、移転先地の公共施設整備事業に係る助成措置(生活環境整備法5条3項)としては、近年では、小松市が平成8年度から平成11年度にかけて実施した事業に対し、合計金5億8576万7000円を支出している。
(3) 緑地帯の整備(生活環境整備法6条)
被告は、昭和46年度以降、前記措置による移転跡地に樹木の植栽を行うなどして緩衝緑地帯の整備事業を始め、生活環境整備法の施行後も同法6条及びその趣旨に基づき同事業を進めてきた。この結果、平成12年度までに総額金3億5500万円をかけて51.65ヘクタールの緩衝緑地帯が整備された。
(4) 民生安定施設の助成(生活環境整備法8条)
ア 防音工事の助成
被告は、前述した学校等の施設以外にも、生活環境整備法8条に基づき、本件飛行場周辺地域(小松市、加賀市、根上町、辰口町、寺井町、美川町、川北町、松任市)の公民館、庁舎、学習等供用施設等に対する防音工事の助成措置を実施してきており、周辺整備法に基づき実施されていた時期を含めた昭和41年度から平成12年度までの事業実績は、施設数が学習等供用施設(130施設)を中心に合計163施設、補助額は総額金69億3814万3000円に上っている。
なお、当裁判所が検証を実施した小松市民センターは、この助成制度により整備された施設(特別集会施設、コミュニティ供用施設及び老人福祉センターからなる複合施設)であり、検証時の測定結果では、ピーク騒音レベルdB(A)の屋内外の測定値に27ないし32のレベル差が記録された(被告測定値。原告らの測定値もほぼ同様のレベル差である。)。
イ 一般助成
生活環境整備法8条に基づく上記防音工事以外の助成措置は、道路改修事業を含めて一般助成措置とされており、被告は、行政措置として、あるいは周辺整備法に基づき実施していた時期を含め、昭和35年度から平成12年度までに小松市をはじめ関係地方公共団体の道路改修、有線放送施設設置等合計103件の事業に対し、総額で金143億7166万8000円の補助金を支出している。
(5) 特定防衛施設周辺整備調整交付金(生活環境整備法9条)
本件飛行場は、生活環境整備法9条1項の特定防衛施設に指定され、特定防衛施設関連市町村として小松市及び加賀市が指定を受けていることから、被告は、同条2項に基づき、特定防衛施設周辺整備調整交付金として、昭和50年度から平成12年度までに小松市に対し総額金60億1543万3000円、加賀市に対し総額金16億4575万2000円を支出している。
(6) 損失の補償(生活環境整備法13条)
被告は、生活環境整備法13条に基づき農耕阻害に係る損失の補償を毎年実施してきており、平成12年度は170名の対象者に総額金141万1000円の補償金が支払われた。
(7) その他
ア テレビ受信料の助成
被告は、行政措置として、昭和45年度から本件飛行場周辺住民の日本放送協会(NHK)テレビ放送の受信料に係る助成措置を講じてきており、平成12年度までの実績は、延べ31万6941件(平成12年度は1万2211件)につき総額金18億1612万3000円(平成12年度は金9280万7000円)の補助金を支出している。
イ 騒音用電話機の設置
被告は、行政措置として、昭和46年度から小松市等で騒音用電話機の設置に対する補助を行ってきたが、昭和53年度以降は設置の申請がなく実施されていない。
ウ 国有提供施設等所在市町村助成交付金
小松市は、国有提供施設等所在市町村助成交付金に関する法律に基づく総務省所管のいわゆる基地交付金制度の適用も受けており、昭和32年度から平成12年度までに総額で金71億1648万8000円の交付を受けている。
2 住宅防音工事の助成措置(生活環境整備法4条)
(1) 住宅防音工事助成措置の概要
<証拠略>によれば、住宅防音工事助成措置の概況は次のとおりであると認められる。
ア 制度概要
住宅防音工事の助成策は、生活環境整備法により新たに採用された周辺対策であり、同法4条は、防衛庁長官が指定する第1種区域に当該指定の際現に所在する住宅につきその所有者等が防音工事を行うときは、被告がその工事に関し助成措置を採ることとし、本件飛行場周辺地域においても、前記第1の1(3)アないしエに示したとおり同区域指定が告示され、被告の防音工事助成措置が実施されている。なお、前述したとおり第1種区域の指定を受ける地域は80コンター、75コンターに順次拡大されていったが、上記助成措置は当該地域が区域指定を受けた際に現に存在する住宅を対象としているため、指定区域が拡大された際に既に指定済みのより高いコンター内に存在していた住宅が法律上助成措置の対象とならないという矛盾した事態(ドーナツ現象)が生じ、問題視されたのを受けて、被告は、平成8年度から行政措置としてかかる住宅を対象とした特定住宅防音工事助成措置を講じている。
上述した生活環境整備法上の助成措置の対象となる防音工事は、まず、新規工事を2居室以内の範囲(平成10年度までは家族数が4人以下の場合1室、5人以上の場合2室とされていた。)で行い、さらに、新規工事を実施した住宅を対象とした残室の追加工事を、世帯人員に応じて5室を限度に行うこととされてきている。
なお、防音工事実施後の助成措置としては、空調機器の機能復旧工事が平成元年度から、建替防音工事、防音建具の機能復旧工事、防音区画改善工事等が平成11年度からそれぞれ実施されており、また、生活保護法に基づく被保護世帯に対しては、平成元年度から空調機器稼働費助成措置が行政措置として講じられている。
イ 事業実績
生活環境整備法に基づく住宅防音工事助成事業は、前記第1の1(2)オで触れたように正式な区域指定の告示を待たずに昭和50年度から前倒しで実施され、さらに、昭和54年度からは追加工事も実施されるようになり、平成12年度までに1万5905世帯につき新規工事が完了し、1万1370世帯につき追加工事が完了しており、被告の支出額は総額金586億2328万3000円に上っている。小松市での具体的な進ちょく状況をみると、新規工事については、昭和62年度までに工事を終えた世帯数が1万世帯を超えていたが、その時期に追加工事まで終えていたのはわずか1500世帯余りにすぎなかった。しかし、その後追加工事の実施も進み、平成5年度には追加工事まで終えた世帯数が5000世帯を超え、結局、平成12年度末現在では、助成対象となる1万1000余りの世帯のうち1万0616世帯について新規工事を終え、7467世帯については追加工事まで完了したという状況にある。
このほか、前述した特定住宅に係る防音工事助成事業は、平成12年度までに総額金17億6310万円をかけて307世帯について新規工事が、229世帯について追加工事がそれぞれ完了しており、平成11年度から実施されている建替防音工事助成事業は、平成12年度までに68世帯の新規工事が総額金3億8177万6000円をかけて完了している。また、平成元年度から実施されている空調機器機能復旧工事は平成12年度までに6614世帯について工事を完了しており(支出総額金20億2920万円)、防音建具機能復旧工事は平成11、12年度に計10世帯に対して実施されている(支出総額金215万9000円)。
ウ 工法及び防音効果
被告は、助成措置を講ずる防音工事の標準的な工法を、W値80以上の区域に所在する住宅について行う第I工法とW値75以上80未満の区域(75コンター)に所在する住宅について行う第II工法とに区分している。
木造住宅でいえば、第I工法は、外部開口部に第I工法用アルミニウム合金製気密建具(防音サッシ)を取り付け、内部開口部に防音ガラス戸や防音ふすま等の防音建具を取り付けるほか、壁を防音壁に改造し、天井も防音天井に改造するが、第II工法は、原則として外部開口部に第II工法用防音サッシを取り付け、内部開口部に防音建具を取り付けるだけで、壁や天井については必要に応じて補修工事を行うにとどめるものとされている。
防音効果の目標値である計画防音量は第I工法で25デシベル以上、第II工法で20デシベル以上とされているが、かかる目標値に達する効果を上げるためには室内を密閉する必要があることから、工事を施した室内に冷暖房機及び換気扇を設置することも助成措置の一環として行われている。
(2) 原告らの居宅に関する工事実施状況等
ア 実施状況全般
<証拠略>によれば、原告らの居宅に関する防音工事助成措置の平成12年度末現在における実施状況は、別冊「被告最終準備書面」引用図表第1表<略>のとおりであり、そのうち前記第1の2(1)及び(2)で認定した原告らの各居住地(別表1「居住状況一覧」<略>中の「居住地」欄に各記載のもの)に係る部分のみを示せば、別表2「住宅防音工事及び陳述書要旨一覧」<略>中の「住宅防音工事」欄にそれぞれ記載したとおりであると認められる。
これによると、原告らの居宅は既に追加工事も終えて4室ないし5室の防音室を備えているものが多く、中には平成11年度から実施されている建替防音工事の助成措置を受けた世帯もわずかながら存するところである。
イ 検証結果からみた防音工事の効果
当裁判所が検証を行った住宅にあっても、75コンターに所在する訴外佐伯宅では第II工法による防音工事が計5室(新規工事2室、追加工事3室)に施されており、80コンターに所在する訴外出倉宅では第I工法による防音工事が計5室(新規工事1室、追加工事4室)に施されている。また、原告翫宅は85コンター内に所在することから、第I工法による防音工事が計5室に施されている。
検証時にこれら居宅の屋内外で騒音測定をしたところ、訴外出倉宅では前述したとおり有効なデータが得られなかったが、訴外佐伯宅ではわずか一例ながら輸送機(YS―11)飛来時にピーク騒音レベルdB(A)で屋外値81、屋内値52が計測されており、屋内外のレベル差29を記録している(被告測定値。原告らの測定値もこれに近いレベル差である。)。原告翫宅では、屋内の防音室2室での各測定時に外部及び内部の開口部すべてが密閉されていたわけでないこともあって、屋内外のピーク騒音レベルdB(A)値レベル差は20未満にとどまることが多かったものの、原告らの測定値をみる限り、防音室によっては上述した条件の下でも20以上のレベル差に達することが皆無でなく、その中には25以上のレベル差が記録されたものもあった(原告翫自身も、計数上20デシベル程度の防音効果があることは本人尋問の際に肯定している。)。
なお、同じく検証を行った原告出渕宅は新家屋への建替時に旧家屋の防音設備を同原告自ら再利用したものであり、被告の施工基準に基づく防音仕様ではない(<証拠略>)ものの、被告の測定値では、F―15イーグル機10機が離陸した際の屋内ピーク騒音レベルdB(A)値はいずれも70以下にとどまり、屋内外で20前後のレベル差が認められた。
3 音源対策について
<証拠略>によれば、被告は、軍用機にあっては民間機と異なり、ジェット戦闘機としての性能を保持しつつその飛行騒音自体の低減を図るエンジン改修等の方策は現在の技術水準をもってしても期し難いとの認識に立ち、本件飛行場における音源対策としては、飛行場内でのエンジンの整備や調整に伴う地上音の低減を図るために、消音装置(サイレンサー。F―15J用、F―4EJ用各1台。その性能は500メートル離れた地点で70dB(A)以下とされる。)を設置しているほか、(昭和51年のファントム機配備に向けた当時の諸施策の一環として)本件飛行場の周囲の一部に高さ5メートルの防音堤及び高さ3ないし5メートルの防音壁を築造しただけで、その余の方策は何ら講じていないことが認められる。
4 運航対策等について
<証拠略>を総合すると、被告は、音源対策に準ずるものとして、次のような運航対策等を基地司令の通達(騒音自主規制要領。<証拠略>)により定めて、これを次のとおり実施していること、こうした運航対策は、昭和49年ころから第6航空団内部の自主規制として定められるようになり、近年に至るまで各種規定の整備、拡充が図られてきていること、なお、これら自主規制は、「対顔空侵犯措置任務時」や「上級部隊計画による演習時」等を除いて適用すべきものとされており、基本的に通常の訓練時を念頭に置いたものと解されることが認められる。
(1) 訓練時間帯の制限
ア 夜間及び早朝の時間帯における訓練の制限
現行の自主規制要領では、4月1日から4月30日までは午後9時過ぎ以降、5月1日から8月12日までは午後9時30分過ぎ以降、その余の期間は午後8時過ぎ以降、いずれも翌朝午前7時前までの夜間及び早朝の時間帯には一切訓練を行わないこととしている。
イ 昼休みの時間帯における訓練の制限
現行の自主規制要領は、正午から午後1時までの昼休み時間帯における訓練について、着陸を行うのは気象の急変や訓練、要務の都合等で必要な場合に限り、離陸、ローアプローチ及びタッチアンドゴー訓練を行うのはやむを得ない場合に限ることとし、飛行場周辺への各種進入訓練は一切行わないとしている。
ウ 各規制の遵守状況
前記第2の1で検討したところによれば、夜間・早朝及び昼休み時間帯の自衛隊機の離着陸は顕著に少なく、上記各規制はほぼ遵守されていると認められるけれども、年間を通じてみると、夜間・早朝や昼休み時間帯に自衛隊機の離着陸のあった日が相当日数認められ、上記規制ひいては前記10・4協定の定めはいまだ十全に履践されているわけではないといわなければならない。
(2) 飛行方式の規制
ア 標準場周経路の工夫(中島方式)
本件飛行場では、小松基地司令の定める小松飛行場運用規則(<証拠略>)が、有視界方式で離着陸をする際に住宅密集地上空を飛行することをできる限り避けるための工夫がされた標準場周経路を定めているが、この飛行経路は、それが実質的に設定された昭和49年当時の基地司令の名を取って中島方式に基づく飛行コース(中島コース)と呼ばれている(<証拠略>)。
中島方式は、現行の自主規制要領にも盛り込まれており、同要領の中で離陸時の飛行経路につき離陸後は可能な限り人家を避けて海側に離脱することとしている点と、着陸時の飛行方式につきイニシャルポイントからの着陸進入経路を滑走路より海側の北陸自動車道沿いに設定することとしている点が、その趣旨を示している。
被告は、第6航空団に属する航空機操縦者らに対し、中島方式に基づく飛行経路をなるべく遵守するよう周知徹底を図っているとするが、これに対し、原告らは、実際には中島方式の遵守率は低い旨強く主張しており、これを裏付けるべく、先にみた原告団及び原告弁護団による騒音調査に際し、実際に飛来する航空機の飛行経路を観測し、それが計器飛行コース、中島コース又は両者の中間に想定した「ニセ中島コース」のいずれに当たるかを分類、整理する調査を続けている。調査日ごとの集計結果は前出各報告書(<証拠略>)にまとめられており、今次調査結果においても、調査日全体を集計すると、丸の内定点からみた飛行経路としては、中島コースの飛行機数は全体の3割に満たず、「ニセ中島コース」の飛行機数がこれを上回るとされている。
上記各調査結果は、中島コースに分類される飛行経路が被告の定めた標準場周経路に厳密に沿うものであるかが必ずしも定かでない上、調査の方法も目印を定めての目視によるものであるなど、その信頼性に疑問の余地がないわけではないが、本件訴訟において丸の内定点で検証を行った際にも、原告らの説明に沿う3通りの飛行経路でジェット戦闘機(イーグル機)が飛来する状況が確認されていること、また、被告も、「ニセ中島コース」なる飛行経路が定型的に存在することについてはこれを強く否定するものの、気象条件等により実際の飛行経路にある程度のぶれが生ずること自体は否定していないこと等をも併せ考えると、中島方式に基づく被告の自主規制には自ずから一定の限界があるといわざるを得ず、上述した原告らの調査結果は、そのことを裏付けるに十分なものと評価するのが相当である。
イ その他の規制
現行の自主規制要領では、飛行方式に関し、上述したほか、小松市街地方面への配慮として、滑走路北東方向への離陸時には編隊離陸を行わないこと、安宅地区方面への配慮として、タッチアンドゴー訓練の際には安宅地区上空を飛行することとなる短場周経路での旋回飛行を行わないことが定められ、概ね遵守されてきている。
(3) 各種行事に伴う制限
現行の自主規制要領は、本件「飛行場の近傍において高校入学試験及び各種の催し等実施のため関係機関等からの特別の要望があり、航空機の騒音について一層の配慮が必要な場合」には、更に訓練の実施を制限することとし、飛行場周辺全域が騒音規制が必要となる場合には原則として飛行訓練を実施しないこととするとともに、飛行場周辺の一部地域がその対象となる場合における追加規制の要領を具体的に定めているが、十分に履践されていると確認し得る証拠はない。
(4) 航空機エンジンの試運転に関する規制
航空機エンジンの調整・整備等に伴う試運転による地上音に関しては、前述したとおりサイレンサーを設置するなどの対策が講じられているほか、現行の自主規制要領では、原則として午後10時から午前7時までは行わないこととし、昼休み時間帯や高校入試期間中にはサイレンサーでの試運転のみとするとの規制が定められ、概ね遵守されてきている(但し、それでもなお前記10・4協定の定めに十分適うものとはいえない。)。
第4原告らの被害状況
1 航空機騒音の特質
<証拠略>によれば、次のとおり認められる。
航空機騒音の特質としては、音響出力・音量が大きく、騒音の及ぶ範囲が広大であり、建物や建造物等によっては遮音、回避が困難であること、騒音の発生が間欠的で、1機1回の飛行による騒音の持続時間は長くはないこと、殊にジェット機の場合、高周波成分を含む金属的な音質であることが挙げられる。また、本訴請求の原因となっている騒音は、ジェット戦闘機の離着陸時の騒音が中心であるが、その騒音は、民間機より音の立ち上がりが鋭く、突発的に襲来し、通常のジェット機より一層不快な金属音・衝撃音を伴っている。
2 被害立証の概要
(1) 原告らの訴え等
原告らの被害の実情に関しては、第3次訴訟原告ら合計12名、すなわち85コンター居住者では1073中林弘明、1068出渕敏夫、0593翫正敏、0774湯淺治男、1037竹内伊知、0879西野清司及び0389川本均の計7名、80コンター居住者では0845安田雅則及び0948長井正則の計2名、75コンター居住者では0365小酒敏夫及び1645二谷公喜の計2名(ただし、二谷は提訴後コンター外に転出している。)、コンター外居住者では1643谷口堯男1名の各本人尋問の結果並びにそのうち一部の者については尋問に先立って提出された各人作成の陳述書(<証拠略>)が存するほか、定型用紙に被害の実情等を記載した多数の原告ら作成の陳述書(<証拠略>)が概ね同居家族ごとに1通ずつ提出されている(ただし、後述するとおり未提出の者も少なくない。)。このうち甲A、甲B各号証として提出された各陳述書(以下これらを指して単に「陳述書」という。)の具体的内容の要旨は、別表2<略>「住宅防音工事及び陳述書要旨一覧」中の「被害の訴え(陳述書要旨)」欄にそれぞれ記載したとおりであり、作成者の内訳をコンター別にみると、80コンター居住者(既に転居した者を含む。以下同じ。)からは計200通を超える最も多くの陳述書が、また、85コンター居住者からも計100通を超える陳述書が、75コンター居住者からも計90通を超える陳述書がそれぞれ提出されている(他方、90コンター居住者では3次0184丸谷作成の1通のみ、コンター外居住者からも計10通足らずの提出があったにすぎない。)。
これら数多くの証拠から原告らの訴える被害の実情に関して特徴的な点を整理すると、概ね以下のとおりである(なお、以下の判示においては、原告番号4けた表示が第3次訴訟原告、3けた表示が第4次訴訟原告である。)。
ア 騒音暴露の実態(騒音の激甚さとそれによる精神的被害・苦痛)
原告らから提出された陳述書の多くは、後述するように定型的な表現を用いた記述が目立つものの、その中には、以下のとおりジェット戦闘機の飛行実態やそれに伴う騒音の特質、さらに、激甚な騒音がもたらす種々の精神的被害・苦痛等について、日常的にそれを体験している者にしか語り得ない迫真性のある叙述をしたものも少なくない。
(ア) 日常的な騒音暴露の激しさ等
まず、各人の居住地における日常的な騒音暴露の実態や騒音のうるささ、激しさ等に関する具体的な訴えを挙げれば枚挙にいとまがないほどであるが、代表的なものは以下のとおりである。
「上空通過時の爆音は当然耐え難いものであるが、我が家の場合地上音にも悩まされている。暖気運転と思われるエンジン音が家に共鳴し振動を起こす(0017木島。85コンター)。」「戦闘機の騒音は抜き打ちで次から次へといつ鳴り止むか分からず、またもう一機来るんじゃないかという不安感が続く(0136北西。85コンター)。」「天気の良い日に外で洗濯物を干しているときにジェット機の音がすると我慢できず両手で耳をふさぐ。上を見ていると次々と続けざまに5機、6機とジェット機が自分に迫ってくるようで、とても不安になる(0184丸谷。90コンター)。」「飛行コースの真下に家があり、基地からの距離は多少あるが、騒音は最大級である。離着陸時に大きく旋回するようになっており、また編隊での着陸等により騒音の継続時間も長い(0229本田。80コンター)。」「自衛隊機は編隊で来るので本当にやかましい。春になり天気が良くなると毎日やかましくなるので大変である(0313佐々井。80コンター)。」「飛行中の衝撃波で障子やガラス戸がガタガタと振動し、地震かと思ったことがある(0417川本。85コンター)。」「我が家の方に離陸上昇する時は地中からわき上がるようなごう音がしてくる。後尾をこちらに向けた時は乾いたような爆音で家中が振動する(0444竹田。85コンター)。」「発進上昇時のあの爆音はこの地域に住んでいる者でないと分かってもらえないと思う。腹の底まで響く。2機ごとに3、4回続けて飛ぶ時はまるで生き地獄である(0452坂下。85コンター)。」「さわやかな日に窓を開けていると、ジェット機が編隊を組んで10分も20分も飛ぶときがあり、やむを得ず窓を閉めたことが何回もある(0503田家澤。85コンター)。」「ジェット戦闘機が小松基地を北方向に離陸し急上昇していく時の爆音は特に強烈であり、騒音などというものでなく、強烈な圧力が瞬間にぐわっと住居の中に押し込んでくる。3機、4機と間隔を置いて繰り返されると家中のすべてが中断されてしまう(0560牧野。75コンター)。」「ジェット機は我が家の真上を低空飛行する。近づくにつれゴーという音がだんだん大きくなり、最高潮の時は部屋の壁や窓がびりびりと振動し、まるで地震のようである(0595翫。85コンター)。」「突然ゴーというジェット機の爆音と空気を揺るがす振動で家具や建具が悲鳴を上げる。テレビも話し声も聞こえなくなる。日曜祭日以外は大体このようなものである(0628島森。80コンター)。」「長男の嫁はドーンという地響きのような地震のような音に悲鳴を上げていた。身重なのに驚きや不安で流産のおそれが出てきたのでしばらく実家に帰らせた(0750金島。80コンター)。」「我が家はジェット機がちょうど屋根の真上辺りを通るので地響きがする(0934山本。80コンター)。」「飛行音は五臓六腑を揺るがす感じがし、エンジンを吹かす者も非常にうるさい(1029稲垣。80コンター)。」「ジェット機が飛ぶときの金属音がたまらなく嫌で、時々どうしようもなく悲しくなることがある(1101相木。80コンター)。」「爆音は頭の芯にまでズーンとくる。精神的にも何かに圧迫されるような感じがする(1120野崎。80コンター)。」「音の大小よりもキーンという金属音の音質にイライラしてしまう。神経にひびく(1267山本。80コンター)。」「旅客機と違いキーンとかヴォーなどという腹まで響く音がうるさくてイライラする。また、早朝のエンジン調整音は戸が震えるほどの振動で、一度体験するとひどさがよく分かる。自衛隊の人は来てみるとよい(1286一色。75コンター)。」「キーンという旋盤で削るような音には耳が痛くなる。複数で飛行しているときは特にひどく、何かに圧迫されるような気持ちになる。また、突然ドカーンと音がして家及び窓ガラスがガタガタと響くと、何事が起こったのかと思い、心臓がドキドキする(1299氷見山。75コンター)。」「爆音が近いと耳をつんざく音がして馬鹿野郎と怒鳴りたくなる。爆音が遠くても地震のように家が揺れ、本当に地震じゃないかと思うことがあり、心臓に悪い(1342東出。80コンター)。」「私の町は着陸態勢のコースにあり、低空で飛ぶので爆音がものすごくひどい(1466高谷。80コンター)。」「ジェット機の爆音が一番ひどい時は耳に手をやっても心臓が締め付けられるような感じがし、腹の中もガタガタと揺さぶられるようで何かに圧迫されるような気持ちになる(1480御器。80コンター)。」「私の住んでいる所はちょうどジェット機が着陸に入ろうとする地点だと思うが、かなりの爆音と低空飛行で通過していく。石でも投げたら当たりそうなくらいに低く飛ぶ、(1517二羽。75コンター)。」「被害の実情は離陸時が特にひどく、テレビやラジオはもちろんのこと会話の声もほとんど聞こえず、家族の団らんが途絶え、イライラする毎日である(1583元田。80コンター)。」「静かな朝を迎え、朝の連続テレビ小説を見ている時間にあのキーンというごう音に音声が消され、イライラする。ジェット機が飛ばない時は誠に静かな環境である。飛ぶのは止めて欲しい(1608惣島。75コンター)。」「朝8時から遅い時には夜8時頃まで飛ぶことがあり、連続して飛んだり編成して飛んだりすると騒音のひどさにイライラし、怒りも出てきてつい空をにらんでしまう(1630近藤。75コンター)。」「ジェット機が飛び去る時の音は、ごう音というか爆音というか何とも形容し難い音である。過ぎ去ったかなと思うと次が来る。次々と飛来する。2機、3機編隊の時は背筋が寒くなる(1634川崎。75コンター)。」「ジェット機の音は民間機のそれと違い金属音に近い音質で、イライラする(1640越阪部。75コンター)。」「寺井町では、離着陸のキーンというすさまじい金属音はないが、編隊で上空を通過した時にはすさまじい音がある(1653岡田。75コンター)。」「自宅がジェット戦闘機の発着コースのほぼ真下にあるため、屋外に居るときに発進飛行があると両手で耳をふさがずには我慢ができない(066八木。80コンター)。」「住所地は小松基地を発進したジェット機が海に向かってカーブを切り方向を転換する所なので、エンジン音がより大きくなって聞こえる(115高橋。80コンター)。」
(イ) 恐怖感・不安感
精神的被害・苦痛の一態様として、ジェット戦闘機飛来時の恐怖感や不安感について具体的に触れたものも次のとおり少なくない。
「外で洗濯物を干していた時突然低空飛行のものすごい音がしてとても恐い思いをした(0099金谷。75コンター)。」「家が計器飛行コースのすぐ近くにあり、夕方や夜間に着陸灯をつけて着陸コースに入ってくる時ずっと向こうの方から真っ直ぐ家の方へ向かってくるのが見えるため、もしかするとそのまま家に突っ込んでくるのでは、という不安がいつもある(0302岡島。80コンター)。」「早朝や夜にジェット機が飛んでいくと何か良くないことが起こったのかという不安と恐怖に襲われ、安眠できなくなる(0348指野。80コンター)。」「夜8時過ぎに次々と基地に戻ってくる戦闘機のごう音とライトで3歳の頃空襲警報で避難した時の恐さがよみがえる(0371村中。75コンター)。」「頻繁にジェット機が飛ぶと一体何があるのだろうと不安になる。夜中にスクランブルがあると、もしや戦闘が始まるのでは、とまで考えてしまう(0394岩井。85コンター)。」「私の家はジェット機の離着陸コースの下なので離着陸の際もし事故で墜落でもしたら自分の家、自分の命はもう助からないだろうと思い、ぞっとしてしまう(前出0452坂下)。」「犬の散歩をしている時にジェット機が真上を何機も飛んでいくと、ものすごい爆音で思わずしゃがんでしまうほどの恐怖を感じる(前出0503田家澤)。」「ガーッとものすごい爆音をたてて家の屋根の真上を飛ぶ音を聞くと、落ちてきたらひとたまりもないなと心配になる(0513神田。85コンター)。」「私の家の上空をジェット機が通過していくとき墜落したら一体どういうことになるのかと思うと、大惨事間違いなしであり、いつもいたたまれない気持ちになる(0710菊田。85コンター)。」「洗濯物を干している時パイロットの顔が見えるほど低く飛んでいくのを見ると、あのまま落ちてきそうでゾッとする(0973越後。85コンター)。」
(ウ) 夜間訓練等
次に、精神的苦痛を特に感じる時間帯をみると、以下のとおり夕食時を中心とした夜間訓練の時間帯に関する具体的な訴えが目立って多い。
「夏の暑いとき、まして夕方6時ころガーッと爆音をたてていると腹が立つ(0004松島。80コンター)。」「夕食時に飛行されると食欲がなくなり、気分が悪くなる(前出0136北西)。」「朝夕の食事をしているときに飛ばれると特にやかましく感じる(0241津田。80コンター)。」「夕食時に飛んでいることがあるので非常に不快な気持ちになる(前出0503田家澤)。」「昼はともかく夕飯をみんなで楽しく食べている時にものすごい爆音がすると本当に腹が立って仕方がない(前出0513神田)。」「晩8時頃静かに眠れると思っているとまた飛行機が連続で来ていやになる。戦場にいるようなものだ(0523青山。85コンター)。」「夜間練習の時は夜遅くまでやかましく、イライラして家にいるのがつらくなり、他の場所へ行って一時を過ごすこともある(0642淺田。85コンター)。」「夜間訓練などで夕食時に連続して飛ばれると食事がのどを通らなくなる(0792鈴木。80コンター)。」「夕食時など一家団らんの時によく飛ぶ。非常にうるさい(0853鈴木。80コンター)。」「特に夕方(夕食時)の爆音がひどい。食欲がなくなる(0943武田。80コンター)。」「夜間訓練はちょうど団らんの時間であり、楽しく食事などをしている時の爆音は団らんの妨げになる(前出0973越後)。」「夕食を食べている時によく飛ぶが嫌になる。食事中くらいは飛んで欲しくない(0985村上。80コンター)。」「日が暮れても訓練をやめないためイライラして何度も基地へ電話しようとしたが結局泣き寝入りしている(1048北村。85コンター)。」「勤務を終え疲れて帰宅し、夕食の準備を済ませほっとして一家団らんの夕食をとっているときに突然大きな爆音に見舞われることがしばしばあり、非常に腹立たしい(1112山下。80コンター)。」「夕方一家団らんで楽しく食事をしているときジェット機の音で会話が中断しテレビの音も消されてしまうと、今頃何故?とイライラする。回数は多くないが、家族の大事な時間を邪魔しないで欲しい(前出1342東出)。」「夕方の4時頃や6時半頃などは特にうるさい。夕方のニュースの時間にテレビの音が聞き取れなくなる(1352宮傍。80コンター)。」「1日の仕事が終わって夕食後部屋でくつろごうとしてもジェット機の音がうるさく、イライラしてくつろげない(1356深村。75コンター)。」「夕方や夜8時頃まで訓練などが実施される場合は大変で、ゆっくりと体を休めることが困難である(1471上田。80コンター)。」「私たちの住んでいる所は飛行コースの上昇部に当たり、特に夕方以降の夜間訓練には我慢ができない(1531牧田。75コンター)。」「夕食時に決まってジェット機が爆音をたてて我が家の真上を飛んでいき、テレビの音声はもちろんのこと家族の会話も聞こえず、家族団らんの雰囲気が壊されている(010蔦。85コンター)。」「夕方の一番大切な家庭のコミュニケーション時に飛ばれると家庭不和の大きな原因になってしまう(044横濱。85コンター)。」
(エ) 季節
また、季節でいえば、「エアコンがなく、夏は開けっ放しなので爆音がうるさい(0834北村。80コンター)」、「爆音によるイライラは常であり、夏場がひどい。子供は2歳前後の頃ほとんど毎日昼は親戚の家に避難していた(0931大西。80コンター)」、「特に夏場窓を開けているときなど、家でテレビを見ていても音声が全然聞こえなくなるほどでイライラする(1139江田。80コンター)」、「真夏に夕食の用意をしているときジェット機のすごい音がするとイライラして食事の支度ができない(1603小酒。80コンター)」、「戸を開けている夏の夜などは特にひどい。テレビの音はかき消されるし、家族の会話もままならない(前出1634川崎)」など、特に夏場のうるささに苦痛を感じるとする訴えが見受けられる。
(オ) 体調不良時
以上のほか、「体調が悪くて家で休んでいたら日頃以上に爆音がうるさかった」との定型的な表現で体調不良時には特にうるささが苦痛となる旨訴える者も多く、その中には、例えば、「妻は妊娠中つわりで爆音に耐えられず、イライラしたり頭痛がしたり精神的に気が滅入ることが多かった(0508西木。85コンター)」などの具体的な叙述もみられる。
(カ) 航空祭、演習及び日米共同訓練について
ところで、原告らの陳述書の中には、以上のような通常の訓練等で日頃から体験する騒音暴露被害のほかにも、航空祭や演習、日米共同訓練等が実施される特別の日には更に大きな精神的苦痛を受けているとして、これらの実態について具体的に触れたものも以下のとおり少なくない。
特に航空祭に関しては、「航空ショーの練習飛行の爆音はすさまじく、苦痛で苦痛で仕方がない(前出0136北西)」、「普段でもうるさくてたまらないのに航空祭があると輪をかけて被害がすごく、言葉にできない(0139山下。80コンター)」、「航空祭が近づくと、朝の7時からうるさくて仕方がない(0176成田。80コンター)」、「航空祭の前日などは何度も家の上を飛ばれる。気持ちが落ち着かない(0224作元。75コンター)」、「航空祭の時は非常に低空かつ高速で飛行練習があり、その並外れた今にも飛び込んでくるような激しい爆音に心臓が締め付けられるようになり、激しく動悸がする(0334北島。80コンター)」、「航空祭の1週間位前から低空飛行や編隊飛行で住民が被害を受けている。大変迷惑である(前出0417川本)」、「航空祭のブルーインパルスの練習時は我が物顔に通常の飛行コースを大きく外れ、我が家の上空よりも更に市役所寄りを飛行し、まるで暴走族のように大きな爆音を響かせて飛び去っていく。その時の接近音は心臓に負担をかけ、恐怖心をあおる(前出0444竹田)」、「航空祭が近くなると特にうるさくて、すごく低く飛んでいるような気がする(0699上林。80コンター)」、「飛行機ショーの時は特にうるさい。地元の迷惑を考えて欲しい(0706南。85コンター)」、「航空祭の時はうるさくて家に居られる状態でない(040石黒。85コンター)」、「航空ショー当日までの練習時の騒音はひどいものであり、通常の倍近く感じられる。地域住民としては毎年その日が来るたびに憤りを感じる(075酒井。80コンター)」といった深刻な訴えが多数みられるところであり、また、演習や日米共同訓練に関しても、実際に演習のあった「平成9年9月13日から10月6日にかけては連続するごう音で家に居られない状態が続いた(0115吉田。80コンター)」とする具体的な訴えのほか、「演習がある時は特に飛行数がものすごく、日々イライラする(前出0792鈴木)」、「日米合同訓練の夜間飛行は今までの海上への航路を外れて市街地の上空を通過するが、その時の不安と騒音は従来の倍以上で、私たちはただただ耐えている(0937北村。80コンター)」、「日米合同訓練など特別な訓練の時は、早朝や夜になっても爆音がまき散らされ、テレビの映りが悪くなったり家族の会話が中断したりする。時として吐き気を感じることもある(1607前。75コンター)」など、数は少ないながらもやはり被害の深刻さをうかがわせる叙述が見受けられる。
(キ) 乳幼児ら
原告らの中には現在も乳幼児期にある者や最近までかかる時期にあった者が少なからず含まれており、以下のとおり、原告らの陳述書の中には同居の家族であるこれら年少者がジェット戦闘機の飛来時に味わう恐怖感について具体的に触れたものが相当数見受けられる。
「子供はとにかく怖がり、ひどいときは親にしがみつき泣き続けている(0132坪口。80コンター)。」「子供が昼寝中びっくりして起きてしまいなかなか寝付いてくれない。外で遊んでいる時はびっくりして泣き出し、家の中に閉じこもってしまう(0341伴場。80コンター)。」「二人の子供がいるが、長女は恐い、恐いと泣きじゃくる(0470岸本。85コンター)。」「子供が乳児の時はジェット機の音で突然泣き出したり、昼寝の最中泣きながら飛び起きてしまったり、散歩に出た時に驚いてしがみつき、帰ると言い出したりしたこともしばしばあった(0475今川。85コンター)。」「長男はジェット機が飛ぶとミルクを飲まなくなり、苦労した。歩けるようになってからもジェット機が飛ぶたびに恐い、恐いと親にしがみついたり泣いたりするようになった。いまだにジェット機が飛ぶと耳をふさいでこわがる(前出0508西木)。」「子どもたち3人とも小さい頃は外で遊んでいる時に飛行機が飛んでくると泣きながらしがみついてきた(0653作本。85コンター)。」「子供が外で遊んでいてもジェット機が来ると耳をふさいで泣き出したり、家へ駆け込んで外へ出ないことがしばしばある(0756中出。80コンター)。」「子供は生まれた時からジェット機の音がすると全身をビクッとさせて泣き出した。今でも耳を押さえて親の所へ飛んできたり、その場にしゃがみ込んでおびえる(前出0792鈴木)。」「孫が幼児の頃は飛び上がって親にしがみついた。家の中を走って逃げたり、こわいと言ってよく泣いた(1031東方。80コンター)。」「子供が0歳から2歳の頃はジェット機が家の上空を通ると爆音の激しさに震え、飛び上がって親に抱きついた(1208大宮。75コンター)。」「孫は、楽しく遊んでいても爆音を怖がりしがみついて泣き出し、聞こえなくなるまで泣くので困った。乳児の頃は寝ていてもびっくりして泣き出す毎日だった(1278中井。80コンター)。」「孫は日中遊んでいる時に爆音が聞こえると怖がってしがみつき、そばから離れない(1616山本。75コンター)。」「現在3歳の長男は、1歳頃からジェット機が飛んでくると身動きができないほど怖がって泣き出し、親にしがみつく状態が続いている(前出010蔦)。」
(ク) 高齢者
他方、各人の居住地で老後を過ごす者など高齢者にとっても騒音被害は切実であるとする次のような訴えも目を引く。
「退職して24時間家にいるようになり、耳鳴りがするようになった。毎日家に居ると騒音は耐えられない(0447村中。85コンター)」「母はジェット機が多く飛んだ日はイライラするようで、夜機嫌が悪い時が多い。老人にとってあの爆音は頭や心臓に良くないと思う(前出0508西木)。」「定年になって以前より家にいる時間が多くなり、こんなにジェット機の爆音がうるさいものかと驚いている(0596中村。85コンター)。」「スクランブルを組み飛び立つ爆音の何とも言いようのない響きは、我ら年老いた者には頭に強く感じる(0761僧野。80コンター)。」「私も定年になり、また独り住まいとなってジェット機騒音がこれほどすごいのかと思い知らされた。ジェット機が家の上空を通る時は電話、テレビ、人との会話など聞こえるものではなく、イライラが治まるまでに2、3時間かかる。専業主婦として1日中家に居た亡き妻の苦痛が今になってやっと分かってきた(1599三宅。80コンター)。」「明治42年生まれの母は、ジェット機の爆音を異常なほど嫌がるので、今は老人ホームに入っている(前出044横濱)。」「亡母が5年間闘病生活を送ったが、うるさい時は目をつぶって非常にこわがり、看病する者も大変だった(083横山。80コンター)。」
イ 日常生活妨害
原告らが各人の居住地において日常生活を営む上でジェット戦闘機等の飛行騒音が種々の不都合をもたらしていることは、前記各原告本人尋問の結果にもよく現れているところであるが、原告ら作成の陳述書もこの点について具体的に触れたものがきわめて多い。
最も典型的な訴えは、会話の妨害、電話による通話の妨害及びテレビ、ラジオ等の視聴妨害の三つであり、会話の妨害は、「一家団らんで楽しく食事をしている時に突然の爆音で会話が中断し、食事もまずくなり、団らんの雰囲気が壊される」という表現で、電話による通話の妨害は、「電話の向こうの声が聞こえなくなり、電話を中断して待っているしか方法がない」という表現で、テレビの視聴妨害は、「テレビの音声が聞こえなくなる。見たい番組の時は本当にイライラし腹が立つ」という表現で定型的にこれを記載したものがきわめて多数に上っている(なお、テレビの視聴妨害に関しては、直接的な音声聴取の妨害だけでなく画像の乱れを伴うことを指摘する者も少なくない。)。その中でも、例えば「騒音による日常生活の様々な障害は慢性化しているように思われる。会話の中断や電話、テレビの音が聞こえにくいなど日常茶飯事であって、いつの間にかそれが当然のこととなっているのが恐ろしい(0494堀。85コンター)」という述懐には、これらの被害が騒音暴露地域の住民にとっていかに恒常的なものとなっているかが端的に示されている。
また、このうち会話妨害に関しては、「一家団らんでテレビを見ている時や夕食時に連続して爆音にさらされると、会話が途切れてイライラした気分になり、団らんの雰囲気もぶち壊しになる(前出0302岡島)」、「1日の中で唯一子供と触れ合うことのできる時間帯に爆音がすると何もかもぶち壊されたような気がする(前出0394岩井)」、「夕食時に家族で話をしていても突然の爆音で話が中断し、『うるさい、いつまで飛んでる』の一声で団らんの雰囲気が急変してしまう(0636柿田。80コンター)」など、家族団らんの破壊という側面を強く訴える者が目立っており、こうした傾向は前記ア(ウ)に挙げた多くの訴えの中にも随所に見受けられるところである。
このほか、聴覚に頼る活動ではないものの、日常生活における読書等の知的な営みに関しても、騒音に気が散り集中力が減退するためこれが阻害されるとする訴えが多く、「読書が中断され、どこまで読んだか分からなくなる」、「文章を書いている時に次の言葉が浮かばなくなる」といった定型的な表現が多くの陳述書に記されている。
なお、以上のような主として屋内における諸活動のほか、戸外における活動の妨害についても、例えば、「外に出ると我慢できないほどうるさい。耳をふさがないで歩けるようになりたい(前出0706南)」、「近所の人と立ち話をしている時突然ガーッと爆音がすると話は通じなくなり爆音がなくなるのを待つしかない(0868松本。85コンター)」、「外で庭仕事をしている時ジェット機の音がやかましくて仕事が中断する(前出040石黒)」、「退社後夕方6時頃自宅近くの畑で農作業をしている時に3、4機の連続発進飛行があると、その騒音が生理的に我慢できず、両手で耳をふさぎ飛び去るのを待つことがたびたびある(前出066八木)」、「外にいる時ジェット機が低空を次々と飛んでいくと誰かと話していても中断される(146中田。80コンター)」などと具体的に触れたものが見受けられる。
ウ 家庭学習妨害
原告らの中には中学生、高校生で近年受験期を迎えた者らが少なからず含まれており、以下のとおり受験期等に家庭での学習が妨げられたり強いいらだちを感じたりしたことについて特に触れた陳述書も少なくない。
「娘が受験勉強の時はジェット機が通った後ため息をついており、特にイライラしていた(0496前田。85コンター)。」「中3の時は受験のことで頭が一杯でストレスもかなりたまっていたのに、そこへジェット機が飛んできてすごい音がすると頭痛もし、自分を抑えるのが大変だった(0594翫。85コンター)。」「子供が受験勉強や宿題をしている時飛んでくるとかわいそうになってくる(0730大田。80コンター)」「子供はうるさくて家で勉強できないと言う(0912吉田。80コンター)。」「子どもたちはうるさくて勉強が進まないと言っている(1162川田。80コンター)。」「子供が受験勉強の頃ジェット機の音が邪魔だとイライラしていたことがあった(1230谷口。75コンター)。」「子供は受験の頃勉強が手に付かないと言っていた(1244丸山。75コンター)。」「子供が受験の頃勉強に集中できないと悩んでいた(1257宮口。75コンター)。」「子どもたちが学校の宿題や受験勉強の時などジェット機の爆音でイライラすることがあり、集中できない(前出1342東出)。」「子供が受験勉強の時はジェット機の音がうるさくて勉強に支障を来した(前出040石黒)。」「子供が学校の宿題をしている時イライラして考えがまとまらなくなる。受験勉強の時は特に困った(前出066八木)。」
エ 睡眠妨害
飛行騒音による睡眠妨害に関しては、確かに、深夜から早朝にかけての通常の就寝時間帯における睡眠妨害を訴える者が少なくないが、具体的な訴えの内容をみると、早朝の睡眠妨害については「早朝の一番眠い時に爆音がするともう安眠できない」という表現で、深夜の睡眠妨害については「夜中のスクランブルにびっくりして飛び起きたことがある」という表現で、いずれも簡単に触れたものが大多数であり、この点に関する被害の深刻さを特に強調した具体的叙述はほとんど見受けられず、前記各原告本人尋問の結果をみても、むしろ深夜から早朝にかけての騒音発生頻度が近年に至って著しく減少したことを肯定するものが目立っている(0593翫、1068出渕、1073中林等)。ただ、陳述書の中には、例えば「早朝に日米合同練習で爆音を浴び、安眠を妨げられたことがある(前出0136北西)」、「早朝の飛行はビックリして目を覚ます。夜中のスクランブルはその日一日中体調が悪い(0593翫。85コンター)」、「時々だが早朝からのジェット機の音はたまらない(0703大幡。85コンター)」、「夜中のスクランブルは年に何度もないことであるが、飛び起きる(前出0931大西)」といった訴えも存するなど、深夜早朝の被害が依然として皆無でないことは十分にうかがわれる。
一方で、陳述書の中には、夜勤等で不規則な生活を強いられている者や朝早く農作業に従事する者らから昼間の睡眠あるいは午睡を妨げられるといった訴えがかなり多いのも目を引くところである。「夜勤明けの睡眠が妨害される」という定型的な表現を用いたものが多いが、3交替制勤務であることや変則的勤務体制であること、当直勤務があること等を具体的に明示したものも少なくない。
オ 身体的な異状ないし不調
原告らの陳述書の中には、難聴、耳鳴り等の聴覚器系の異状をはじめとする種々の身体的な異状ないし不調に関する訴えがきわめて多くみられるところであるが、以下に述べるとおり、各人の訴えを直接裏付ける診断書等の客観的な資料が全く存しないこと等からして、これらを医学的な見地から正しく把握することは困難である。
すなわち、まず、聴覚器系の異状のうち難聴に関しては、「自分では意識していないが、家族や友人から少し耳が遠くなったのではないかと言われる」という程度の定型的な訴えが多いほか、「検査を受けて難聴と言われた」、「検査の結果高音域に聴力低下が認められた」などとしながらも、当該検査結果が客観的資料により明らかにされておらず、また、補聴器を用いているとか、身体障害者の認定を受けたなどとしながらも、具体的な診断病名や症状の程度、原因等が客観的資料により明らかにされていないなど、騒音性の難聴に罹患していることを証拠上確認し得る原告は皆無である。耳鳴りに関しても、「ジーンと耳鳴りがすることがある」という定型的な訴えだけを簡単に記した者ばかりでなく、騒音暴露の直後に一時的な耳鳴りがすることや近年これが慢性化していること等を具体的に訴える者も少なくないが、そうした自覚的な異状が医学的にみて疾患あるいは障害と認めるに足るものかどうか、さらに、それが聴覚機能に及ぼす影響の有無や程度等を判断するには、上述したような訴えのみでは十分でなく、他にこの点の判断資料とすべき客観的な証拠もない。
その他、身体諸所の異状ないし不調についても、例えば循環器系に関しては「医者から少し血圧が高いから気を付けるよう言われた」、「心臓がどきどきする」、「心臓が締め付けられるような感じのすることがある」、消化器系に関しては「胃腸があまり丈夫でない」、中枢神経系に関しては「頭痛がすることがある」、「めまいがすることがある」、さらに、呼吸器系に関しても「せきがよく出る」などのように、定型的な訴えを単純に列挙した陳述書が多く、その中には「高血圧症」、「狭心症」、「胃かいよう」、「メニエル」、「末梢前庭性めまい」、「ぜん息」等の具体的な病名を記したものもあるが、いずれも裏付けとなる診断書等は提出されておらず、症状の程度、原因等も明らかでない。また、原告らの中には「脳腫瘍」、「胃がん」、「肺がん」、「脳内出血」、「脳血栓」等の重病に罹患したことがうかがわれる者もあるが、これら疾病と騒音暴露被害との関係についても格別の立証はない。
カ 住宅防音工事の問題点
原告らが作成した陳述書の定型用紙には被害の実情に関する記載箇所のほかに住宅防音工事の問題点に関する記載箇所が設けられており、多くの原告らはそこで防音効果の乏しさを訴えるとともに同工事の抱える種々の問題点についても具体的に触れている。
原告らの指摘の中で最も目に付くのは、防音建具類の使い勝手の悪さに関するもの及び防音室内の空調機器使用に伴う経済的負担の重さに関するものの二つであり、前者は「戸が重くて開け閉めがしにくい」との表現で、後者は「電気料が自己負担のためエアコンはなるべく使わないようにしている」との表現でそれぞれ定型的に記したものが多い。また、室内を密閉することによる閉そく感や不健康さについて、「一日中戸を閉め切っておくことはできない(0294林)」、「ジェット戦闘機の飛行時に窓戸を開けられない。一種の自由束縛である(0309竹中)」、「自然の風を入れられないのは残念である(0320熊田)」、「夏は網戸で風を通して身体に優しい生活をしたいし、エアコンはリウマチの妻には最悪なのだが、サポーターをして痛みを我慢している姿は哀れである(前出0750金島)」、「騒音がなければ窓を開けて自然の風を満喫したい(1094樋口)」、「せっかく風通しの良い所に住んでいるので春から秋まで天気の良い日は窓を全開にしている。騒音のため身体に良くないエアコンを使わなければならないことに納得がいかない(1415越後谷)」、「夏にエアコンを使うと電気料が高くつくので、うるさいのを我慢して窓を開けている。自然の風の方が身体にも良い(1529西川)」などといった実感のこもった訴えが多いのも目を引くところである。
(2) 本件飛行場周辺住民に対する調査結果
<証拠略>を総合すると、次のとおり認められる。
ア 第1次訴訟の提起後、第2次訴訟の提起前の昭和55年に金沢医科大学石崎有信教授らが小松市の委託を受けて、W値90以上のコンター、85コンター、80コンターの各地域と非騒音地域の各地域から無作為で各50世帯を選び、世帯主の妻か主婦を対象としてアンケート調査を行い、その報告書(<証拠略>)が出されており、次いで、昭和58年3月の第2次訴訟提起後、同訴訟原告で医師の谷口堯男(3次1643)を責任者とする騒音被害医学調査班が組織され、谷口医師が中心となって本件飛行場周辺住民を対象としたアンケート調査をはじめとする各種の騒音影響調査を行っており、昭和58年から昭和62年までに実施した調査(第1次調査)の結果をまとめた報告書(<証拠略>)が第一審に、平成4年から平成5年までに実施した調査(第2次調査)の結果をまとめた報告書(<証拠略>)が控訴審にそれぞれ提出された。
上記石崎らのアンケート調査結果では、騒音地域においては、生活妨害、聴取妨害、睡眠妨害に加えて、耳鳴りや動悸等の身体的影響が非騒音地域に比べて有意に多いことが示されたとされている。
上記谷口らの第1次調査では、昭和59、60年に騒音地域(80コンター)及び非騒音地域の住民にアンケート調査を実施したところ、騒音地域住民に「イライラして腹立たしい」「ゆっくりとくつろげない」との訴えの回答割合が高率であり、THI法(東大ヘルスインデックス法)による健康度調査によると、騒音地域女性で、多愁訴性、直情径行、心身症傾向等で、同男子で多愁訴性、心身症傾向、神経症傾向等で頻度が高かったとされたが、その調査報告自体において、「比較した標準集団は比較的若い労働者集団のため、基地周辺で社会構造が類似する非騒音地域の住民集団との比較が必要であった」としている。
同第1次調査で、昭和61、62年に第1、2次訴訟の原告ら及びその家族125名を対象にして、一般健康診断・聴力健診と併せて問診・アンケート調査等を行ったところ、聴力検査結果では、60歳以下で騒音職歴・耳疾患のない者において、1耳の6分式法による平均純音聴力損失値(MAA)が20デシベル以上の者が約31%であり、1耳の4000ヘルツの聴力損失値が30デシベル以上のC5Dipのパターンを示す者が約13%で、いずれも非騒音地域のそれに比して推計学上有意に高率であった。また、85コンターの住民117名についても同様に聴力検査を行ったところ、60歳以下で騒音職歴・耳疾患のない者において、1耳のMAAが20デシベル以上の者が約31%、1耳に30デシベル以上のC5Dipを示す者は約22%おり、非騒音地域のそれに比して有意に高率であったとされている。しかし、上記各聴力検査結果は、その調査報告自体において、「検査場所・検査機器・検査員等を含め必ずしも研究室内のような厳密な条件は満たされず検査精度のうえで様々な問題を持っていた」ことが自認されていた。原告家族及び騒音地域住民の健康診断では、頭痛等の訴えが多く、高血圧罹患率及び血圧平均値は非騒音地域に比較して有意に高かった。さらに、アンケート調査結果では、難聴又は耳鳴りを訴える者は約35%おり、そのうち約70%の者に実際に30デシベル以上の聴力損失を認めたとされ、いらいらするというような神経症状の訴えが多く、THI法による健康度調査では多愁訴性、心身症傾向が多かったとされたが、この調査は、調査対象が原告ら及びその家族ということで一定の偏りが生じていた面があったことは否めない。
さらに、同第1次調査で、上記59、60年調査資料に、昭和62年に85コンター住民及び非騒音地域住民を対象に行ったTHI法による健康度調査による資料を併せて、性・年齢を一致させたペア構成により騒音地域と非騒音地域とを比較検討したところ、騒音地域の方が男女とも多愁訴性、心身症傾向の項目で有意に多く、女子では情緒不安定の項目も有意に多かったとされた。
次に、上記谷口らの第2次調査では、85コンター居住の地区労組合員23名及び同コンター住民66名と、75コンター居住の地区労組合員297名にアンケート調査をし、対照集団(非騒音地域住民)は上記第1次の昭和59、60年調査結果を用いて分析検討したところ、騒音地域住民は、両コンターとも、生活妨害や精神的・心理的訴えとともに、「胸がドキドキする」「頭が痛い」「耳鳴りがする」「食欲がなくなる」「疲れやすい」等の身体的訴えの回答割合が、非騒音地域より有意に高く、また騒音地域内では75コンター地域より85コンター地域の回答割合が高いとの結果を得られた。しかし、この調査は、対照集団である非騒音地域住民とその構成・調査時期等が異なっているとの欠点が拭えない面があった。
イ 本件第3、4次訴訟でも、平成10年に新たな騒音影響調査がアンケート形式で実施され、その調査結果と統計学的な分析の結果が医師服部真作成の論文(<証拠略>)等にまとめられている。服部医師は、上記アの各調査等では、主婦層に限定されていたり、無作為でない抽出調査で、地域により回収率に差がある等の批判があったので、今次調査では、調査対象地区の成人男女全体の傾向を正確に反映すべく、対象とした地区の全世帯を調査員が戸別訪問して各世帯から任意に1名ずつ調査票に記入するよう依頼し、後日これを回収するという方法を採用したとしており、結果として、W値75以上のコンター内で調査対象とした463世帯から89パーセントに当たる合計412名(内訳は、85コンター内の小松市上牧町45世帯及び同市天神町55世帯から合計91名、80コンター内の同市大川町129世帯から119名、75コンター内の同市長田町130世帯及び同市城北町104世帯から合計202名)の回答を得、また、コンター外(非騒音地区)で調査対象とした226世帯(内訳は、小松市埴田町122世帯及び寺井町小杉町104世帯)からも90パーセントに近い合計203名の回答を得たことで、統計学的な分析検討をするのに十分なデータが得られたとしている。
今次調査での具体的な調査項目は、性別、年齢、職場、居住期間、航空機騒音以外の騒音暴露歴の有無、聴力障害に係る既往症の有無等の背景事情のほか、ジェット戦闘機の騒音(うるささ)をどう感じるか、ジェット戦闘機騒音の影響をどの程度受けているか、最近1か月間の体調はどうかの3つに分けられており(<証拠略>)、これらに対する回答の集計結果は概ね次のとおりであったとされている。
(ア) ジェット戦闘機騒音のうるささについて
ジェット戦闘機の騒音をうるさく感じますかとの問いに対し、「非常にうるさく感じる」又は「かなりうるさく感じる」と答えた者は、コンター外では20パーセントに満たないのに対し、75コンターでおよそ70パーセントに上り、80コンターで80パーセントを超え、85コンターでは90パーセント近い。ただ、「非常にうるさく感じる」と答えた者の割合に限ってみれば、80コンターと85コンターで過半数に届いているのに対し、75コンターでは30パーセント強程度にとどまっている(コンター外では10パーセントにも満たない。)。
なお、ジェット戦闘機騒音のうるささに関しては、5年前と比較しての質問もなされているが、各コンターとも「ほとんど変わらない」と答えた者の割合が最も多い(ただし、服部医師は、前よりうるさく感じるようになったと答えた者の割合がコンター外と比べてコンター内で高い点に着目している。)。ちなみに、今次調査では、時間帯別に分けて午前7時以前、午前7時から午後5時まで、午後5時から午後7時まで、午後7時以降のうるささを順次尋ねた項目もあるが、この点の調査結果は明らかにされていない。
(イ) ジェット戦闘機騒音の影響について
ジェット戦闘機騒音の影響に関する質問項目は15項目(ただし、そのうち「胸がドキドキする」は、後述する最近1か月間の体調に関する質問項目と重複しており、ここではそれ以外の14項目をみていく。)に上り、日常生活への影響から睡眠への影響、精神面への影響、身体的な影響まで多岐にわたるが、各質問項目について影響が「ひどくある」又は「かなりある」と答えた者の人数及び割合を集計した結果をみると、コンター外は、すべての項目で該当者が5パーセント(10名)に満たなかったのに対し、コンター内では、該当者が10パーセント未満にとどまった項目は少ない(75コンターでは「テレビの画像がゆがむ」、「家が振動する」、「しばらく耳がおかしくなる」、「胸が苦しくなる」、「頭がボーとする」の5つ、80コンターと85コンターではそのうち「胸が苦しくなる」のみである。)。
コンター内で特に該当者が多かった項目としては、第一に「電話が聞き取りにくい」、「テレビやラジオが聞こえない」、「会話が妨げられる」、「ゆっくりくつろげない」といった日常生活への影響、続いて「ジェット機の音にドキッとする」、「イライラして腹が立つ」といった精神面への影響が挙げられ、その中でも電話とテレビ、ラジオに関しては、75コンターで50パーセント、80コンターで60パーセント、85コンターで70パーセントを超える該当者が存在し、会話に関しては、それぞれ約40パーセント、約60パーセント、60パーセント強の該当者が存在する。また、イライラして腹が立つと回答した者は、それぞれ20パーセント強、40パーセント弱、約60パーセント存在する。
これに対し、睡眠への影響を尋ねた項目(「睡眠が妨げられる」)では、該当者が75コンターで10パーセント台、80コンターと85コンターも20パーセント台にとどまり、聴覚への影響を尋ねた項目(「しばらく耳がおかしくなる」)でも、該当者が75コンターで10パーセント未満、80コンターで10パーセント台、85コンターで約20パーセントにとどまるなど、これらの項目に関しては、顕著な影響を感じている者の数はさほど多くない。
(ウ) 最近1か月間の体調について
最近1か月間の体調に関する質問項目は、睡眠の状態、聴覚系の状態のほか、全般的な疲労感、肩や腰の状態、食欲や便通の状態等計15項目に上り、ここでもやはり各項目ごとに不具合が「ひどくある」又は「かなりある」と答えた者の人数及び割合を集計した結果をみていくと、コンター外では、該当者が5パーセント(10名)を超えた項目が「疲れやすい」、「肩がこる」、「腰が痛い」の3つにとどまったのに対し、コンター内では、該当者が5パーセント未満の項目は少なく(75コンターと80コンターでは「めまいがする」、「胃腸の調子が悪い」の2つ、85コンターではそのうち「胃腸の調子が悪い」のみである。)、疲れやすさや肩こり、腰痛の3項目は概ね15パーセントないし25パーセントで、それ以外にも「寝つきが悪い」、「寝ている途中で目を覚ます」といった睡眠の状態に関する項目と「耳鳴りがする」、「耳が遠くなった」という聴覚系の状態に関する項目で各コンターとも該当者が10パーセントを超えたが、いずれも20パーセント未満であった。その他は、「便秘がちである」を除き概ね5パーセントないし10パーセントであった。
ただし、こうした身体面ないし健康面の不具合は、先に(ア)、(イ)でみたジェット戦闘機騒音のうるささの感じ方や日常生活への影響、精神面への影響と比べると、その存在を肯定した者の割合がコンター内でもさほど高いわけでなく、また、コンター区分との対応関係をみても、該当者の多寡がコンター(W値)の高低と一部逆転していたり(「寝つきが悪い」、「耳鳴りがする」、「耳が遠くなった」、「腰が痛い」)、あるいは該当者の比率が75コンターから85コンターまでほぼ横ばいであったりする(「イライラする」、「めまいがする」、「胃腸の調子が悪い」、「食欲がない」)項目が約半数存在する。
3 騒音暴露地域居住原告の被害
(1) 共通被害
前記1に判示した航空機騒音の特質及び前記第2に判示した本件飛行場における侵害行為・騒音暴露の客観的状況に照らすと、本件飛行場周辺の騒音暴露地域に居住する住民は、あまねく自衛隊機・米軍機騒音の暴露を免れないのであり、その結果、その騒音暴露に起因し、かつ、騒音暴露の程度に応じて、年齢・身体条件・職業・生活環境・生活形態等のいかんを問わず、後に判示するような一定種類の日常生活利益について少なくとも一定範囲においてひとしくその享受を妨げられ、かつ、少なくとも一定範囲における精神的被害をひとしく受け、その意味で人格権侵害による被害を共通に受けるものであることが容易に推認されるところである。
したがって、騒音暴露地域の居住者である原告らにおいて、かかる類型の法的利益侵害に関して、共通被害を主張し、その限度で損害賠償を請求する場合には、原告ら各自が受けている被害を個別具体的に主張立証するまでもなく、上記の趣旨での共通被害の内容・程度を主張し、その被害を各原告が共通に被っていることにつき確信を得られる程度に一般的・代表的な立証をすることをもって足りるものというべきであり、このことは、大阪国際空港公害訴訟における最高裁判所の判決(最高裁判所昭和51年(オ)第395号・同56年12月16日大法廷判決・民集35巻10号1369頁)以来、航空機騒音に係る数多くの訴訟において確立されているところであるというべきである。
原告らが本訴損害賠償請求の根拠とする被害も、後に4以下において検討する各主張を除けば、上記趣旨の共通被害を主張しているものと理解される。
(2) 平穏な生活の妨害及び精神的被害
ア そこで、上記の観点から検討するに、前記2に掲記した<証拠略>から認められる被害の実情に、前記第2において実証的なデータに基づき検討した侵害行為の客観的状況等を総合勘案すると、原告らの多くが訴えているように、本件飛行場周辺の騒音暴露地域に居住する住民は、ジェット戦闘機をはじめとする自衛隊機及び米軍機が本件飛行場を使用して離着陸、飛行等することに伴い、それがもたらす前記のような騒音のうるささ、激しさのために、日常生活の種々の活動、すなわち、原告らの訴えにあるとおり、会話、電話による通話、テレビ・ラジオ等の視聴、読書等の知的営み、家庭学習、休息等の日常生活の様々な活動を妨害され、皆一様に多大な精神的苦痛を受けているものと認められ、かつ、それが最も顕著なのは、各人・各家庭での休息・団らんの時間帯、通常の家庭にあっては夕刻午後5時ころ以降9時ころまでの時間帯における日常生活活動の妨害であることが推認される。通常の時間帯には休息・団らんを取らない(あるいは取れない)生活サイクルの者にあっても、先に認定した自衛隊機離着陸・騒音発生等の状況に照らすと、本件飛行場周辺の騒音暴露地域に居住している限り、それぞれの生活サイクルの中で上記のような日常生活の種々の活動が妨害され、多大な精神的苦痛を受け、それが最も顕著なのは各人にとって休息・団らんすべき時間帯における日常生活活動の妨害であることに変わりはないものと認めるのが相当である。
イ 加えて、前記被害の実情に、侵害行為の客観的状況及び戦闘機騒音の特質を総合すると、本件飛行場周辺の騒音暴露地域に居住している住民は、原告らの多くが訴えているように、上記のような日常生活活動を妨げられる場面であると否とを問わず、皆一様に、自衛隊機・米軍機の騒音によって不快感・圧迫感・恐怖感・不安感等を覚え、イライラする、怒りっぽくなる等の精神的・情緒的被害を受けているものと認められる。
ウ しかして、本件にあっては、上記ア、イに判示した平穏な日常生活の妨害とこれによる精神的苦痛及び精神的・情緒的被害の総体が、老若男女を問わず騒音暴露地域住民にひとしく認められる共通被害というべきである。
エ なお、睡眠妨害については、さきに管制交通量、騒音発生・暴露状況、原告らの訴え及び服部報告において触れたとおり、近年における緊急発進回数の顕著な減少傾向に伴い、深夜から早朝にかけての通常の睡眠時間帯においては自衛隊機の離着陸・飛行により安眠を妨げられる頻度も大幅に減少しているものと認められることからすると、少なくとも、後に判示する損害賠償対象期間である平成4年12月以降の状況に関する限り、騒音暴露地域住民に共通する別個独立の恒常的被害としてこれを認めるのは困難であり、航空祭や演習、日米共同訓練等実施時における被害と同様、これも、上述した居住地における平穏な生活の妨害という総体的な被害の一断面として把握するにとどめるのが相当である。
(3) 75コンター居住原告の被害
前記第1の1(3)に判示したとおり、昭和57年以降75コンター地域も生活環境整備法上「自衛隊等の航空機の離陸、着陸等のひん繁な実施により生ずる音響に起因する障害が著しい」第1種区域に指定されているところ、前記第3の2(1)ウに判示したとおり、同じ第1種区域として指定を受けている騒音コンターの中で、75コンター地域だけは被告が助成措置を講ずる住宅防音工事に関しW値80以上の他のコンターと異なる工法(第II工法)が採用されているが、75コンター居住者を含む原告らの訴えに現れた主な被害が、先に2(1)で挙げた多くの具体例に示されているように騒音暴露地域であるコンター内全域に広く及んでおり、その中で、75コンター居住原告らが90通を超える陳述書及び2名の本人尋問で訴える被害・精神的苦痛の態様・程度には、80コンター以上の地域の原告らが訴えるところと比べて、質的に異なるものと評価すべきほどの顕著な差異は見られないことに照らしてみれば、75コンター内に居住地を有する原告らの被害も80コンター以上の地域に居住する原告らのそれと本質的に異なるものではないというべきである。そして、前記服部報告にまとめられたアンケート調査の結果も、75コンター地域と80コンター及び85コンター地域との被害状況の差異がコンター外と対比してみれば相対的なものにすぎないことを裏付ける内容となっていることを併せ考えると、75コンター居住原告も、程度の差こそあれW値80以上のコンター内居住原告と同様に、上述した生活妨害と精神的苦痛及び精神的被害をひとしく被っており、その被害の程度には看過し難いものがあると認めるのが相当であるし、前記第2において検討した自衛隊機の離着陸や騒音発生・暴露状況等に関する各種実証的データ等に照らしても、上記のとおり認定判断するのが相当である。
(4) コンター外勤務者について
0389川本、0845安田、0879西野ら原告各本人尋問の結果等に現れているように、原告らのかなりの部分を占める有職者の中には、日中は居住地を離れて職場におり、日中の騒音に暴露される機会の少ない者が相当数に上るとみられるところ、これらの者と日中の在宅時間の長い主婦層、高齢者層、若年(特に未就学の乳幼児)層との間には自ずから被害の程度に差異が存するであろうことは容易に推認されるところである。しかしながら、上記(2)に判示したとおり、騒音暴露地域に生活の本拠を置く住民がひとしく被る日常生活妨害の最も顕著な部分は各人・各家庭の休息・団らんの時間帯における生活妨害というべきであり、職場の勤めを終えて夕刻帰宅し、休息・団らんし、夕食等を家族と過ごす大多数の有職者がそうした意味での被害を受けていることを疑う余地はなく、また、上記の大多数の有職者とは異なる生活サイクルの有職者にあっては、夕刻以外の騒音暴露時間帯内において上記同様の(あるいは上記を超える)被害を受けているものであり、原告らの中でかかる被害を被っていることすら疑うべき事情のある者は証拠上皆無である。加えて、生活の本拠であり多くの者にとっては一生涯安住の地となるはずの住居地の平穏を害されることがもたらす精神的苦痛の大きさは、単純に、直接騒音に暴露されている時間の長短のみでは計り得ないものがあるというべきであり、例えば「たまたま週の半ばに休暇を取って在宅している時、頭の真上を上がっていくジェット機の離陸音を聞いたが、これが本当に人間が心安らかに住める所なのかと疑ってしまう。地面や空気や建物をビリビリと震わし、耳がつぶれるかと思うほどの爆音である。この騒音の中で毎日あきらめのような何事もないような顔で暮らしている年老いた両親を哀れに思う(1581谷口。80コンター)」等の述懐は、そうした事情を伝えて余りあるものがあるというべきである。
(5) 陳述書未提出者について
原告らの中には、同居家族中の誰一人として陳述書を提出していない者や既に結婚、独立等で当該世帯から離脱したなどの理由により陳述書作成者の同居家族に名前が上がっていない者が相当数に上っており、被告はこれらの者の被害が現に存在するのかについて疑念を呈しているが、騒音暴露地域に生活の本拠を置く住民らにひとしく認められる共通被害を観念し得ることは、多数の原告らの訴えをはじめとする関係各証拠等から先に判示したとおりであり、航空機騒音が離着陸経路を中心とした飛行場周辺地域にあまねく及ぶ特質を有することに照らしてみても、騒音暴露地域であるコンター内に居住していること(あるいは居住している期間のあったこと)が認められる者につき、その者の被害状況に直接触れた証拠がないという理由だけでその被害の存在自体を疑問視することはできず、これらの者の被害も、上記共通被害の範囲においては、先に示した多くの原告らの訴えによっていわば代弁されているものとみて差し支えないというべきである。
4 身体的被害(健康被害)について
(1) 前記のとおり、原告らの数多くの者が、陳述書において聴覚器系の異状をはじめとする身体的な異状ないし不調を訴えているけれども、これらはいずれも診断書等による客観的裏付けを欠くもので、騒音暴露に起因する疾患ないし身体各部の障害として認定し得るものでないことは先にみたとおりである。
(2) また、前記服部報告にまとめられたアンケート調査結果等を参酌してみても、以下に述べるとおり、本件飛行場周辺住民の相当割合の者が騒音暴露に直接起因する疾患・障害等を現に有しているとか、現に罹患発症の危険性の高い状態にあるとかの事実までは、未だ十分に立証されているとはなし難いといわざるを得ない。
すなわち、服部報告は、前記平成10年のアンケート調査の結果を統計学的に分析したところ、ジェット戦闘機騒音による日常生活への影響や精神面への影響の項目だけでなく、身体的な影響に関する項目や最近1か月間の体調に関する項目についても、訴え・症状ありの回答割合には、コンターの内外で、あるいはコンター区分に応じて、推計学的に有意な差異が認められたとし、服部医師は、その証言の中で、かかる分析結果をもとに、まず聴覚系の異状に関する部分については、騒音暴露地域の住民の中で「現実に聴覚障害が起こっているのではないかということを自覚症状のレベルで反映してきているのではないか」という推論を、その他の身体的な異状に関する部分についても「騒音が有害な刺激となってストレスが加わることで体のあちこちに影響が出てきているのではないか」という推論をそれぞれ導いており、公衆衛生学の専門家である証人上島弘嗣も、服部報告にまとめられた疫学調査及び統計学的分析の手法と結論は学問的にも適切、妥当であるとし、自らの予防医学者としての立場から本件飛行場の周辺住民には「種々の被害、症状が出ていることが十分に考えられるとみて予防的な対策処置を講じるべきである」とする見解を述べている。そして、上記推論の前提となる平成10年アンケート調査の信頼性は前記判示のとおりであるし、また、服部医師の行った統計学的分析と有意な差異があるとの評価自体については、その合理性に疑問を差し挟むべき事情も見当たらない。しかしながら、以上の分析、検討の基礎資料となったアンケート調査における質問項目は、先にみたとおりジェット戦闘機騒音の影響として「しばらく耳がおかしくなる」とか、最近1か月間の体調として「耳鳴りがする」、「耳が遠くなった」等といった主観的訴えに係る簡潔な事項であり、しかも、先に判示したとおり、こうした質問項目につき悪影響あるいは不具合が顕著にある(「ひどくある」又は「かなりある」)とした回答者の割合は、(疲れやすい、肩がこる、腰が痛いの3項目を除くと)コンター内居住者においても20パーセント未満で、決して高くはなく、同じアンケート調査の中で、ジェット戦闘機のうるささの感じ方や日常生活への影響、精神面への影響についての回答と比べて相当低いものであり、また、コンター区分との対応関係が必ずしも整合的でない項目もあること、さらには、上記のように有意に高率に示されている身体的影響や体調に係る主観的訴えに関して、その主観的訴えの内容・程度・裏付け・原因等を検証、確認するような検査・診断等はその後もなされていないことも併せ考えると、上記調査・分析の結果から直ちに、本件飛行場の騒音暴露地域の住民の相当割合に、騒音暴露に起因する聴覚障害等の身体的疾患・障害が現実に生じているとは到底認められないし、現に聴覚障害等の身体的疾患・障害の発症の危険性の高い状態にあるとも認め難いといわざるを得ない。
(3) また、前記の石崎調査並びに谷口第1次調査や第2次調査の結果も、前記判示したところからすれば、上記服部報告と同様に、本件飛行場の騒音暴露地域の住民の相当割合に身体的疾患・障害が発症しているとか、その発症危険性の高い状態が生起しているとかの事実を肯認させ得るものではないといわなければならない。
さらに、本訴において証拠として提出されている、本件飛行場以外の飛行場に関する騒音影響調査等の結果及び騒音の身体的影響等に関する各種研究結果(<証拠略>)を併せ検討しても、本件飛行場周辺住民の相当割合に航空機の騒音に起因する身体的疾患・障害が発症しているとか又はその発症危険性の高い状態が生起しているとか認めるのは困難であるといわなければならない。
(4) してみれば、原告らがひとしく受けている共通被害としては、身体的疾患・障害の発症も、あるいはその罹患・発症の危険性の高い状態を惹起されたことも肯認することはできないものといわざるを得ない。
(5) もっともこれまで検討してきたところから明らかなように、原告らの中に騒音暴露の影響による耳鳴りを経験したことのある者が少なくないことは十分認められるところであり、また、その他種々の身体的な異状ないし不調の訴えについても、例えば「テレビやラジオ、電話は中断されるし、読書や思考なども大いに妨害され、甚大なストレスを感じている。ストレスが万病のもとになり得ることは医学の常識と聞いている(1075森。85コンター)」との指摘に示されるとおり、これらが騒音暴露の影響と決して無縁なものでないことは容易に想像し得るけれども、前記(1)ないし(3)に判示したところに照らすと、上記の点は、むしろ、「耳鳴り、ドキドキ、頭痛は軽いがしょっちゅうのことで、その結果のイライラの方が家族に迷惑を掛けている(前出0017木島)」、「私も妻も長年にわたり耳鳴り、肩こり、めまい、高血圧に悩まされ続けているが、それ以上にジェット機の飛行によりイライラと恐怖にさらされている(0744湯淺。85コンター)」といった叙述に表現されているように、ジェット戦闘機騒音の激甚さとそれがもたらす精神的被害・苦痛の多大さを示すものとして把握するのが相当であると解される。
5 その他の被害について
(1) 職業活動上の被害について
原告らのうち一部の者は、自らの住居がコンター外にあるとした上で、当該居住地における被害と併せて、あるいは当該居住地における被害は抜きにして、コンター内に存する職場での職業活動上の被害を訴えており、また、コンター内に居住する原告らの中にも、自宅居住地で事業を自営しているなど仕事場をコンター内に併せ持つことから、やはり仕事を行う上での支障等職業活動上の被害について言及している者が少なくないが、前述したとおり、原告らの共通被害として認められるのは各人の居住地における日常生活妨害及び精神的被害であることからすれば、原告らの一部の者が訴える職業活動上の被害とかかる共通被害とを一体的に把握するのは困難であるといわざるを得ず、さりとて職業活動上の被害のみを別個独立の被害として認めるに足るほどの個別具体的な立証はなされていないことからすると、この点に関する原告らの主張は失当というほかない。
(2) 教育・保育環境の破壊について
前記のとおり、原告らの中には、乳幼児への悪影響、教育・保育環境の阻害を訴える者も相当数いるけれども、事柄の性質上、これ自体は原告らのひとしく受ける共通被害とはなり得ず、前記判示の日常生活妨害・精神的被害として把握される共通被害の一態様として評価し得る限度を超えて、独立に損害賠償請求の根拠となる被害とすることはできない。
(3) 交通事故の危険について
本件の自衛隊機・米軍機の騒音のために本件飛行場周辺において交通事故発生の具体的危険が生じているものと認めるに足りる証拠はなく(原告本人の陳述書の中には、ジェット機の騒音のため自動車事故を起こしそうになったことがある旨の陳述書が何通か見られるけれども、これだけでは事故発生の具体的危険が生じていると認めるには足りない。)、まして、本訴における損害賠償請求の根拠とし得るような共通性ある被害と認めることはできない。
(4) 家屋等の振動・損傷・地価の低下について
原告湯淺治男本人の供述及びその他原告本人の陳述書の中には、不動産の価格の低下や家屋の振動・損傷等を訴えるものも見られるけれども、これらについても、客観的な資料の提出はなく、独立の被害として認定することは困難であり、まして、原告らに共通性ある被害と認めることはできない。
6 平和的生存権侵害の主張について
原告らの主張する平和的生存権とは、軍事的手段を一切排除して平和のうちに生存する権利というのであるが、その主張する権利内容は抽象的なものにとどまり、これを根拠として一定の給付を求めたり、その侵害に対して損害賠償を求め得るような具体的な権利ないし法的利益ということはできない。
7 環境権侵害又は環境破壊の主張について
原告らの主張する環境権とは、良好な環境を享受し支配し得る権利というのであるが、その主張する権利内容は抽象的なものにとどまり、かつ、要件・効果も不明確であって、これを根拠として一定の給付を求めたり、その侵害に対して独立に損害賠償を求め得るような具体的な権利ないし法的利益としては成熟していないといわざるを得ない。また、自衛隊機及び米軍機の騒音に暴露されること自体を環境破壊というのであれば、前記のとおりその暴露による日常生活妨害及び精神的被害という人格権侵害として把握し、評価することをもって足りるものと解される。
第5被告の損害賠償責任
以上検討したところを踏まえて、まず、過去の損害に係る被告の賠償責任の有無について判断する(なお、原告らが将来の損害賠償請求と位置づけている請求のうち口頭弁論終結日までの損害に係る部分は当然に現在請求となったことから、これを含めてここで判断する。)。
1 侵害行為の違法性(受忍限度)
(1) 前記判示のとおり、本件における侵害行為は航空機による騒音であり、これによる共通被害として肯認し得るのは平穏な生活の妨害及び精神的被害であって、身体的被害は肯認し得ないのであるから、その侵害行為が損害賠償請求を認めるべき程の違法性を備えているか否かは、上記被害が社会生活上受忍するのを相当とする限度を超えているか否かによって決せられるものというべきである。
(2) そこで、本件の侵害行為の態様・程度(前記第2)、原告らの被侵害利益及び被害の性質・内容・程度(前記第4)、本件の侵害行為が継続している経過・状況(前記第1)、被告の採った対策の内容・程度・効果(前記第3)並びに本件飛行場に付与されている役割等を総合考慮した上で、原告らのうちいかなる範囲の者に受忍限度を超える被害が生じているとみるべきかを判断する。
前記第4の3に判示したとおり、生活環境整備法上の第1種区域(同区域のうち、騒音に起因する障害がより高度であるとされる第2種区域を含む。以下同様)として指定を受けた騒音コンター内に住居を有する原告らが、各人の居住地においてひとしく被っている被害は、75コンターに居住する者のそれを含めて、看過し難い程度に達しているものと認められるのであり、このことは被告自らが当該区域内を「自衛隊等の航空機の離陸、着陸等のひん繁な実施により生ずる音響に起因する障害が著しい」地域、つまりは騒音被害が著しい地域と認めていることともよく符号している。本件飛行場に係る第1種区域は、前記第1の1(3)に示したとおり第1、2次訴訟係属中に順次その指定領域を拡張してきたが、昭和59年12月20日の告示後は同指定領域に一切変動は生じておらず、現行の騒音コンター内を本件飛行場周辺地域において騒音被害の著しい地域とみる被告の認識は、もはや確立したものになっているといっても過言ではない。
また、生活環境整備法の運用上第1種区域指定の基準値とされているW値75以上という数値は、前記「航空機騒音に係る環境基準」が「生活環境を保全し、人の健康の保護に資するうえで維持することが望ましい」として示した基準値が、専ら住居の用に供される地域(類型Iの地域)でWECPNL70以下、その他の通常の生活を保全する必要がある地域(類型IIの地域)で同75以下とされていることにも裏打ちされているところ、同環境基準は、平成5年に新たな環境基本法が公布、施行された後の今日の環境行政においてもなおそのままの形で維持されている。
しかも、本件飛行場に関しては、既に昭和50年時点において防衛施設庁長官等と関係自治体首長との間で同環境基準の達成を期することとその方途が協定されていたのであり(前記10・4協定)、さらに、その後第1、2次訴訟においては本件飛行場周辺住民に対する関係で被告の損害賠償責任を肯定する判決が一、二審を通じて言い渡され、これが確定したことは争いないところである。それにもかかわらず、被告は、今もなおジェット戦闘機の飛行騒音そのものを低減させるのは技術的に困難であるとの理解の下に、屋外騒音値の軽減、ひいては環境基準値の達成につながるような騒音抑制のための抜本的改善策を何ら講じておらず、結局、上記10・4協定の定めは25年以上経過した今日に至っても、十分には履践されず、達成されていない(前記第3の3及び4で判示した自主規制としての各種音源対策・運航対策も基本的には格別目新しいものでなく、騒音被害を顕著に軽減するものでもないし、十分に実行されてもいない。)。
また、生活環境整備法に基づき、あるいは行政措置として被告が実施している種々の周辺対策をみても、各人の居住地における日常生活上の騒音被害軽減に直接寄与するものは現時点では住宅防音工事の助成措置を除いて見当たらない。そして、住宅防音工事の助成措置が被害軽減に一定の役割を果たしていることは後記3で改めて述べるが、同助成措置に関しても、前記第3の2(1)で判示したとおり、対象家屋を区域指定時点で現存するものに限定した法律上の制約があるため、原告らの中には長年コンター内に居住していながら現住家屋では助成措置を受けることができずにいる者も存するところであり(近年に至って特定住宅防音工事や建替防音工事など助成範囲を徐々に拡充しつつあるものの、上述した問題がすべて解消されたわけではない。)、また、その防音工事には、後記3に判示するとおりの制約と二次的負担・マイナス面を有しており、なお、根本的解決策というにはほど遠いものである。
ところで、本件飛行場は、我が国の国防政策上、日本海側随一の航空自衛隊基地施設として枢要な役割を付与されているところであるけれども、こうした国防政策上の役割は本件飛行場の周辺住民らにより多くの福利・便益(例えば、よりよく守られているという安心感等)をもたらすものでは決してなく、かえって、基地が存在することで外部からの攻撃対象にされるのではないかという不安感を周辺住民らに与える面を有しているのであって、このことも考慮すれば、本件飛行場の基地施設としての機能はひとえに原告らを含む多数の周辺住民の負担と犠牲の上に成り立っているものといわざるを得ない。したがって、少なくとも過去の損害に係る被告の賠償責任の有無を判断するに際しては、本件飛行場に上述のような公共的役割が付与されていることを重視するのは相当でないというべきである。
(3) 以上によれば、原告らのうち第1種区域内に居住する者すなわちコンター内居住原告については、自衛隊機及び米軍機の本件飛行場使用に伴う騒音により、皆ひとしく受忍限度を超える被害が生じているものと認めるのが相当であり、これらの原告との関係で、被告の本件飛行場の使用ないし供用に基づく前記侵害行為には違法性があるものというべきである。
(4) 他方、前記第4に認定判示したところからすれば、コンター内での居住が肯認されない原告らに関しては、受忍限度を検討すべき共通被害も、個別具体的な被害も主張立証されていないといわなければならないから、同原告らとの関係では、被告が損害賠償責任を負うことはないし、コンター内居住歴がある原告らについても、その主張するコンター内居住が肯認されない期間に関しては、同様に、被告が損害賠償責任を負うことはないものというべきである。
2 本件飛行場の設置・管理の瑕疵
以上判示してきたとおり、被告が本件飛行場を使用、供用することにより自衛隊機及び米軍機が本件飛行場を使用して離着陸、飛行し、その結果上記のとおり違法な侵害行為が継続され、周辺に居住する原告ら住民に受忍限度を超える被害が生じてきているところ、被告はこれを十分認識しながら、その違法な侵害行為の抑止あるいは被害の防止に足る措置を講じないまま、上記のような本件飛行場の使用、供用を継続してきたのであるから、被告の設置、管理する公の営造物である本件飛行場につき、その設置・管理に瑕疵があるというべきである。
したがって、被告は、国家賠償法2条1項に基づき原告らの被った損害を賠償する責任を負うものというべきである。
3 住宅防音工事について
被告が助成措置を講じている住宅防音工事のもたらす室内防音効果は、前記第3の2でみたとおり、室内を密閉した状態にすれば被告が目標値とする計画防音量(第I工法で25デシベル、75コンター地域を対象とした第II工法で20デシベル)に達するであろうことが本件検証時に得られた若干のデータからも推認されるところであり、現に原告らの多くが1、2室の新規工事だけにとどめず、更に自ら望んで追加工事の助成を受けていると認められること(前記第3の2(2)の事実及び弁論の全趣旨)からみても、同工事の施された家屋に居住する者らの日常生活妨害ないし精神的被害がある程度軽減されていることは推認するに難くない。
しかしながら、前述のとおり、上記防音効果は、室内を密閉するという条件下でしか十分発揮されないものであるし、本来安らぎの場であることが最も強く望まれる個人の住居については、誰しも騒音と無縁の高度の静けさを求めるのが自然な感情であるというべきであり、これまでみてきたとおりの本件飛行場周辺の騒音暴露地域におけるジェット戦闘機騒音(特に離陸時のそれ)のうるささ、激しさの程度に照らしてみれば、上述した程度の防音効果をもって十分に被害の軽減が図られるとみることは到底できない。しかも、防音工事の施された家屋に居住することが新たに二次的な心理的、物理的、経済的負担とマイナス面を伴うものであることもまた、前記第4の2(1)カに示した原告らの訴えから推認されるところであり、こうした事情を併せ考慮すると、防音工事がせいぜい「気休め程度」の効果しかないとする多くの原告らの主観的評価も、理解し得ないものではないというべきである。
したがって、被告の助成に係る防音工事の施された家屋に居住する原告らについても、その被害が受忍限度内に収まるとみることは到底できず、せいぜいその慰謝料額を算定するに際し防音室数に応じた一定割合の減額を施す程度のしん酌をするにとどめるのが相当である。
第6危険への接近の法理
1 適用の要件及び効果
前記第5の1に判示したところ及び第1の1(2)に判示した本件飛行場の沿革等を勘案すると、本件においても、第1、2次訴訟等と同様、衡平の見地からいわゆる危険への接近の法理の適用を一定限度の範囲内で考慮すべきであると解されるところ、本件飛行場周辺地域において同法理の適用を考慮すべき状況が生じたとみられる基準日は、被告が主張するとおり、第1、2次訴訟と同様本件飛行場がジェット戦闘機本格配備基地施設であることがよく知られることとなった昭和41年1月1日とするのが、本件飛行場の歴史的経過等に照らしてみても相当である。そして、前述したとおり現行の騒音コンターをもって受忍限度を画する基準とし、また、後述するとおり慰謝料基準月額の算定に際しても同コンター区分を基本要素としてしん酌したことからすれば、危険への接近の有無を判定するに当たっても、現行の騒音コンター及び同コンター区分に従うのが唯一考えられる現実的かつ合理的な方法というべきである。
(1) 要件
まず、同法理の具体的な適用要件については、コンター内に居住する原告らのうち、以下の要件をいずれも充たす者を同法理の適用対象者とするのが相当である。
ア 危険への接近
同法理を適用するためには、第一に、基準日である昭和41年1月1日以降にコンター外居住地からコンター内居住地へ転居した(コンター外からの接近)か、又はコンター内のある居住地からより騒音レベルの高いコンター(高次コンター)内居住地へ転居したこと(コンター内での接近)が必要である(ただし、コンター内で一旦危険への接近があったとしても、その後もと居たレベル以下のコンター内に復帰し、現居住地のコンターも復帰後のレベル以下にとどまる場合は除く。)。したがって、いかに多数回転居を繰り返したとしても、それが同一コンター内にとどまる限り、「危険への接近」の要素を欠くことから、適用対象には含まれないというべきである。
イ 居住前歴の不存在
後記2で触れる原告らの具体的な居住歴をみれば明らかなとおり、本件飛行場のある小松市のような地方都市ないしその周辺部においては、一旦離れた親元や郷里(出身地)に戻ってくるといういわば復帰型の転居歴がよくみられるところであり、かかる転居歴をたどった者も、外形上は過去に居住歴のある「危険」地域へ再度「接近」することになるけれども、このような者を初めて危険に接近した者と同列に扱うのは衡平の見地からして相当ではないというべきである。そうしてみると、危険への接近の法理を適用するためには、第二に、基準日以降新たに危険に接近したものであること、すなわち、上記アに挙げた各「危険への接近」事由に当たる転居の日以前には、転居先と同じレベル以上のコンター内での居住歴を有しないことが必要であり、この要件を充たさない者は、単純な再転入者に限らず、コンター内外の異動(転出、転入)を繰り返した者も含めて同法理を適用しないのが相当である。
(2) 効果
危険への接近の法理が衡平の原理を基礎とするものである以上、同法理の具体的な効果は、以上の要件を充たした者とそうでない者との取扱いにどの程度の差異をつけるのが衡平にかなうか、という見地からこれを決すべきであるところ、原告らの中で上記(1)に判示した適用要件を充たす者の転居の経緯をみると、婚姻を契機とした配偶者方ないしその実家への転居(いわゆる嫁入りあるいは婿入り)をはじめとして、私生活や職業上の都合等による必要に迫られての転居が「危険への接近」事由に当たる場合が多いとみられるのであり(<証拠略>)、かかる場合の転居先が選択の余地の乏しいものであることは容易に推知し得るところであって、大都市部であればともかく、本件飛行場周辺地域における原告らの実例をみる限り、全くの自由な選択の結果としての転居などはむしろまれであると解するのが相当というべきであるところ、かかる事例であることをうかがわせる個別的な事情は何ら示されていない。このほか、本件飛行場周辺地域の騒音暴露被害が既に相当長期間に及んでおり、前記基準日時点はもはや遠い過去となりつつあること、被告や関係自治体において「危険への接近」を抑制するような手だてを講じていると認め得る証拠は何もないこと等の事情を併せ考えれば、上記要件該当原告にあっても、転居先を自由に選択し得る状況にありながら本件の騒音に暴露されることを容認して敢えて転居先を選定したものとは認め難く、結局のところ、同法理適用の効果はせいぜい該当者の慰謝料額算定に際し若干の減額を施す程度にとどめるのが相当であって、同法理を免責の法理とする被告の主張は到底採用することができない。
2 原告らに対する具体的な適用状況
<証拠略>によれば、原告らの居住歴は別冊「被告最終準備書面」添付別表II―1(1)<略>及び(2)<略>中の「移動内容(公的資料による)」欄に記載されたところに概ね網羅されていることが認められるのであって、このほか<証拠略>に現れた原告各人の申告内容(上記別表(2)<略>中の「原告申告」欄にまとめられている。)等を総合すると、原告らのうち危険への接近の法理適用対象者及びその具体的な「危険への接近」該当事由は、別表3<略>「危険接近法理適用の有無及び前訴原告一覧」中の「危険接近法理の適用」欄に示したとおりである。
第7消滅時効
前述したとおりコンター内に居住する原告らが被告に対して有する損害賠償請求権は、同原告らの被害の特質に照らして、基本的にコンター内居住開始以降日々継続的に発生しているものと認められるところ、後記第8に挙げた原告らを除くと、上記損害賠償請求権のうち本件各訴訟提起日の3年前の日(すなわち、第3次訴訟にあっては平成4年12月25日、第4次訴訟にあっては平成5年5月21日)の前日以前の被害に係る部分は、原告ら又はその法定代理人らが損害及び加害者を知りながら3年間これを行使しなかったことにより時効消滅したものというべきである。
第8前訴原告
<証拠略>によれば、本件第3、4次訴訟原告らの中には、被告に対し本件と同一の事由に基づき同旨の損害賠償(慰謝料等支払)を求めた第1、2次訴訟(前訴)の原告となっていたため、同訴訟の控訴審口頭弁論終結日である平成6年3月23日までの被害に係る損害賠償請求権の存否について確定判決が存する者がおり、その内訳及び同確定判決における一部認容と全部棄却の別は、別表3<略>「危険接近法理適用の有無及び前訴原告一覧」中の当該原告の「前訴結果」欄に記載したとおりであることが認められる。
したがって、これらの者の本件損害賠償請求のうち平成6年3月23日以前の被害に係る請求は、前訴における請求と同一請求を再度提起したものというべきであり、そのうち、前訴確定判決で請求権を肯認し得ないとして棄却された部分については、既判力により、これと抵触する主張をすることを遮断され、当裁判所もこれを前提として判断すべく拘束されるのであり、他方、前訴確定判決で認容された部分については、前訴判決後の認容額の支払を受けて既に満足を得ていることが弁論の全趣旨により認められることから、これらの請求部分はいずれも失当である。
第9損害賠償額の算定
1 共通被害に対応する慰謝料
原告らの受けている被害は前記判示のとおりの共通被害であって、この被害は航空機騒音の暴露量の程度に応じて被害の程度が増大するものであり、かつ、居住地における航空機騒音の程度は前記第1の1(3)に判示した区域指定におけるW値を基に判断するのが相当であり、したがって、原告らの受けている被害に対する慰謝料は、上記区域指定におけるW値を基準とするのが合理的であると解される。
2 慰謝料の基準月額
そうすると、原告らの慰謝料額を算定するに当たっては、まず、前記区域指定の各コンター区分に応じた慰謝料の基準月額を設定するのが相当というべきところ、第1、2次訴訟における賠償額の算定水準を参酌しつつ、前記第4及び第5の1に判示した事情をはじめこれまで検討してきた諸般の事情並びに後記第11に判示する諸事情及び同所に判示するとおり本件の差止め等請求は認容できず、実現されないことを総合考慮すると、第1、2次訴訟の第一、二審において住民ら一部勝訴の判決が続き、これが確定したにもかかわらず、一向に抜本的な改善のみられないまま騒音暴露とこれによる被害が継続している状況の中で、原告らの精神的苦痛と被害感情はいよいよ厳しさを増しているというべきであり、かかる事情が特に顕著なのは本件第3、4次訴訟においても中心的存在である80コンター及び85コンター地域居住の多数の原告らであることからすると、両地域に居住する原告らについては、第1、2次訴訟の賠償額の水準から更に一定の増額を考慮するのが相当である。
そこで、コンター別の慰謝料基準月額は次のとおり定めることとする。
(1) 75コンター 3,000円
(2) 80コンター 6,000円
(3) 85コンター 9,000円
(4) 90コンター 12,000円
3 減額事由及び減額割合
(1) 危険への接近の法理適用対象者
前記第6の1で検討したところに照らしてみれば、危険への接近の法理の適用がある原告らに対しては、上記基準月額から20パーセントの減額をするにとどめるのが相当である。
(2) 防音工事施工済み家屋の居住者
防音工事の施された家屋に居住する原告らに対する上記基準月額からの減額割合については、前記第5の3で検討したところに加え、各家庭で防音室が1室増えるごとに居住者各人の被害軽減度が倍加していくとまでは通常考え難いことにも照らして、工事室数が1室のみの場合10パーセントの減額とし、更に1室増えるごとに5パーセントずつ減額率を上げていくこととする(したがって、計2室の場合15パーセント、計3室の場合20パーセント、計4室の場合25パーセント、計5室の場合30パーセントの減額とする)のが相当である。
4 損害賠償対象期間
本件において慰謝料総額算定の基礎となる期間(損害賠償対象期間)の最長限度は、前記第8に判示した前訴原告でもある原告らにあっては始期が平成6年3月24日、その他の原告のうち第3次訴訟原告にあっては始期が平成4年12月25日、第4次訴訟原告にあっては始期が平成5年5月21日、終期はいずれも本件口頭弁論終結日である平成13年6月29日である。減額事由の有無に応じて基準月額に一定の減額を施して算出される各人ごとの慰謝料月額(10円単位で四捨五入)に上述した最長限度期間内に認められる各人の居住月数を乗じて慰謝料総額を算出することになるが、居住月数の計算は、便宜上、当該計算対象期間に属する最初の月は暦月1日を含まない限り計上せず、逆に最後の月はすべて丸1月として計上することとする。なお、本件各訴状送達日(第3次訴訟が平成8年1月18日、第4次訴訟が平成8年6月24日であることが一件記録上明らかである。)までの被害に係る請求とそれぞれその翌日以降の被害に係る請求とでは原告らの求める遅延損害金の起算日を異にすることから、前者を期間A、後者を期間Bに区分して、各期間ごとの慰謝料総額を算出することとする。
5 弁護士費用
弁護士費用は、本件訴訟の経過、困難さ等を考慮し、以上の計算を経て算出される各人の慰謝料総額(A期間慰謝料とB期間慰謝料の合計額)の15パーセント相当額(10円単位で四捨五入)をもって、賠償を求め得る損害と認めることとする。
6 具体的な算定結果
以上により原告らに認められる各人の損害賠償額は、別紙損害賠償額一覧表<略>記載のとおりである。
第10将来の損害賠償請求について
原告らの請求のうち本件口頭弁論終結の日の翌日以降に生ずべき損害の賠償を求める部分に係る訴えの適否を判断するに、確かに、従前の経過に照らしてみれば、本件飛行場周辺の騒音暴露地域住民らの被害状況が本件口頭弁論終結日以降も当分の間は基本的に変わらないであろうことは想像に難くないところであるが、原告らの損害賠償請求権の存否を判断し、かつ、それぞれの賠償額を算定するためには、これまで検討してきたとおり、幅広い諸要素を総合考慮する必要があるほか、各人の居住状況、各人の居住家屋に対する住宅防音工事の実施状況等の個別具体的な認定が不可欠であって、そのうち居住関係一つとってみても将来的な変動の余地が多分にあり、軽々に予断を許さないものがあることから、原告らの将来的な被害は、具体的な損害賠償請求権の発生原因として把握し得るほどに確実なものとは認め難いといわざるを得ない。
したがって、原告らの将来請求に係る訴えは、権利保護の要件を欠くもので不適法であり、却下を免れない。
第11自衛隊機及び米軍機の離着陸差止め等請求について
1 自衛隊機の離着陸差止め等請求について
(1) 差止め等請求に係る訴えの適法性
原告らの本件訴えのうち、一定の時間帯における自衛隊機の離着陸等の差止め及びその余の時間帯における自衛隊機の発する騒音の音量規制を請求する部分(自衛隊機の離着陸差止め等請求)に係る訴えの適法性について判断するに、原告らの上記請求が必然的に行政庁の公権力の行使に当たる行為の取消変更ないしその発動を求める請求を包含することになるとすれば、民事上の訴えとして不適法といわざるを得ないこととなるから、この点につき検討する。
一般に、ここにいう民事上の訴えとしてその行為の取消変更ないし発動を求めることが許されない公権力の行使とは、「公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているもの」を意味するとされ、このことは、昭和39年10月29日の最高裁判所判決(昭和37年(オ)第296号事件第1小法廷判決・民集18巻8号1809頁)以来多数の最高裁判決等により確立され定着してきたところであると解される。
しかるところ、本件にあっては、民事訴訟の手続により本件飛行場における自衛隊機の離着陸の差止め等がなされたとしても、そのことで必然的に取消変更ないし発動を求められることとなる公権力の行使又はこれに擬すべき公権力主体の行為は見出し難いといわざるを得ない。
すなわち、本件飛行場における自衛隊機の運航は、被告の主張するとおり自衛隊の隊務を統括する権限を有する防衛庁長官に統括されるものであり、また、自衛隊機の運航はその性質上必然的に騒音の発生を伴い、その影響は飛行場周辺に広く及ぶことが不可避であることは自明のところであり、したがって、防衛庁長官は上記騒音等による周辺住民への影響に配慮して自衛隊機の運航を統括すべきことは行政庁としての当然の責務というべきであるけれども、それにもかかわらず、自衛隊法上、防衛庁長官が上記影響に配慮してその運航統括権限を行使すべきことを定めた規定は設けられておらず、まして、それに当たり周辺住民等国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定し得ること、たとえば周辺住民に騒音等の受忍義務を課し得ることを定めた規定も、その要件、内容、効果、手続、補償措置、不服申立手続等を定めた規定も何ら設けられていない。先に言及した生活環境整備法においても、飛行場周辺の生活環境等の整備について必要な措置を講じること、つまり周辺対策等が定められているだけで、上記判示のような公権力性のある行為ないし権限は何ら定められていないし、他に、防衛庁長官に上記のような行為ないし権限を認める旨の法律の規定も、そのように明確かつ一義的に理解し得る関係規定も見当たらない。自衛隊機の運航が必然的に騒音の発生を伴いその影響が広範であることは上記のとおりであり、また、防衛庁長官は騒音等による周辺住民への影響に配慮して自衛隊機の運航を統括すべきことも上記判示のとおりであるけれども、法治主義、法律による行政の原則に照らし、上記のように広範性のある騒音の発生が必然的であるという社会的事実から当然に周辺住民に騒音受忍義務が発生するとか、周辺住民への配慮責務が行政庁に課せられていることから、法律上の明確な根拠なくして周辺住民に騒音受忍義務その他の義務を課し得るとするのは困難であるといわざるを得ない。加えて、本件飛行場で自衛隊機の運航に関し周辺住民への配慮から現に実施されているのは、前記第3でみたとおり、消音装置・防音壁・防音堤の設置及び飛行場周辺の生活環境等の整備措置(周辺対策等)以外には、第6航空団内部の自主規制としての運航対策のみであって、これらの措置・対策を実施するにつき防衛庁長官が何らかの公権力性ある行為・権限を行使した形跡は被告の主張によっても見当たらない。
してみれば、自衛隊機の運航に伴う騒音等による人格権の侵害等を理由に自衛隊機の離着陸差止め等を求める原告らの訴えは、行政庁の公権力の行使に当たる行為の取消変更ないし発動を求める請求を包含することになるとはいえず、民事上の訴えとして不適法ということはできない。
(2) 差止め等請求の当否
そこで、更に進んで原告らによる自衛隊機の離着陸差止め等請求の当否を判断する。
ア これまで判示してきたとおり、本件飛行場周辺の騒音暴露地域に居住する原告らに生じていると認められる被害は、日常生活妨害ないしこれと密接に関連する精神的被害にとどまるのであって、騒音暴露に起因する身体的疾患ないし障害が生じていると認められる者は証拠上見当たらないし、また、本件飛行場周辺住民の相当割合の者にあるいは多数の者に、身体的疾患・障害の発症又は発症の危険性の高い状態が惹起されているとは認め難く、まして、軽微とはいえない身体的疾患・障害の発症ないしその発症の高度危険性状態が惹起されているとは認められず、したがってまた、原告らにそのような身体的疾患・障害の発症の高度危険性状態が惹起されているとも認め難いこと、一方、本件飛行場は、前述したとおり日本海側随一の航空自衛隊基地施設として国防政策上枢要な役割を付与されており、これに代替し得る施設の早急な確保は望み難い現状において、また、ジェット戦闘機の飛行騒音自体の大幅な低減を図ることは技術的には困難であるとされている状況の下で、原告らの請求に係る自衛隊機の離着陸等差止め及び自衛隊機の発する騒音の音量規制措置は、現時点においては本件飛行場におけるジェット戦闘機の使用をすべて禁じるにひとしいものとならざるを得ないこと、加えて、被告が永年にわたり実施してきた住宅防音工事の助成措置をはじめとする各種周辺対策は、個々の住民に十分な効用と満足をもたらすものではないとしても、多額の国費を投じて相当の努力をしたものであり、本件飛行場周辺地域の生活条件等の維持・向上にとって決して軽くない意義を有しているものと推認されること、また、被告が行ってきている運航対策が少なくとも深夜、早朝等の被害の抑制ないし軽減に多少なりとも寄与してきていることは評価されるべきであることなど、諸般の事情を総合して考慮すると、上記のような多大な影響をもたらしかねない差止め等請求を肯認すべきほどの被害の深刻重大性、侵害行為の悪質性は、本件の証拠上は未だ肯認し難いといわざるを得ない。
イ また、原告らの主張する平和的生存権及び環境権をもっては、差止め等請求の根拠となし得ないことは、先に第4の6及び7で判示したとおりである。
ウ 次に、前記10・4協定は、先に判示したその成立経過、具体的内容及び締結当事者に照らして、防衛施設庁長官ないし名古屋防衛施設局長が小松市長等関係市町村長に対して「環境基準を達成することを期する」こと等前記第1、1(2)エの(ア)ないし(ク)の事項を行政上の責務として約したものに止まり、これを根拠として当該地方公共団体の住民が直接被告に対して私法上の具体的請求をなし得るような法的性格は有しないものといわざるを得ず、<証拠略>ではこの判断を左右するに足りないし、他に、原告らが10・4協定によって被告に対して何らかの請求をなし得る根拠は見当たらない。
エ さらに、憲法違反の点を差止め等請求の直接の根拠とする原告らの主張については、仮に、立法―行政機構によって設置、運営されている一定の組織の存在ないし活動が日本国憲法に違反する面を有していたとしても、そのこと自体から、国民が被告に対して私法上の具体的請求をなし得るものではなく、当該組織の活動等により具体的な権利ないし法的利益が侵害された場合に、これを根拠として侵害の態様・程度等に応じた請求がなし得るにすぎないのであって、この観点から、前記のとおり、原告らの主張する権利・利益の侵害の有無・態様・程度等を検討し、具体的請求の可否について既に判断してきたところである。
したがって、原告らの上記主張も採用できない。
2 米軍機の離着陸差止め等請求について
原告らは、被告に対し、米軍機についても自衛隊機と同様その離着陸差止め等を求めるが、かかる請求をすることができるためには、被告が米軍機の運航等を規制し制限することのできる立場にあることを要するところ、前記のとおり、日米共同訓練時において米軍機が本件飛行場を離着陸等使用するのは、我が国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約及び地位協定に基づくものであるが、上記各条約及び関係国内法令には、米軍の本件飛行場の管理運営を制約し、活動を制限できる定めは何もないから、被告は本件飛行場における米軍機の運航等を規制、制限できるものではない。
したがって、原告の上記請求は主張自体失当として棄却を免れない。
第12結論
1 原告(3次1100)藤本ミキ子の訴えは、提訴前に既に死亡していた者の名でなされた不適法な訴えであるから、これを却下する。
2 原告藤本ミキ子を除くその余の原告らの損害賠償請求のうち、本件口頭弁論終結の日(平成13年6月29日)までに生じた損害の賠償及び民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める部分については、別紙損害賠償額一覧表<略>掲記の原告らにおいて被告に対しそれぞれ主文第2項又は第3項掲記の金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認定し、同原告らのその余の請求及びその余の原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却する。
3 原告藤本ミキ子を除くその余の原告らの損害賠償請求のうち、本件口頭弁論終結の日の翌日(平成13年6月30日)以降に生ずべきとする将来の損害の賠償を求める部分に係る訴えはいずれも権利保護の要件を欠く不適法な訴えであるから、これを却下する。
4 原告藤本ミキ子を除くその余の原告らの被告に対する自衛隊機及び米軍機の離着陸差止め等請求はいずれも理由がないから、これを棄却する。
5 第3、4次訴訟を通じた訴訟費用中、原告藤本ミキ子を除く当事者に生じた訴訟費用の負担については民事訴訟法61条、64条、65条を適用し、また、原告藤本ミキ子に生じた訴訟費用の負担については同法70条を類推適用して、それぞれ主文第8項のとおりとする。
6 仮執行宣言については、民事訴訟法259条1項を適用して、主文第9項の限度で相当と認めてこれを付すこととし、仮執行免脱宣言ないし仮執行開始時期猶予宣言の申立ては相当でないから、付さないこととする。
(裁判官 渡辺修明 小川賢司 上田賀代)
当事者目録<略>
別表<略>