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金沢地方裁判所 昭和27年(行)7号 判決

原告 新田三次

被告 寺井野町議会

一、主  文

被告議会が昭和二十七年三月二十七日なした原告を被告議会の議員から除名する旨の議決を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求めその請求原因としては原告は昭和二十六年四月二十三日執行の寺井野町議会議員選挙に於て当選人の決定を受け被告議会の議員たる身分を取得したものであるが、同二十七年三月二十七日招集開催された被告議会の定例議会において原告を懲罰に附すべき旨の動議が提出され、その結果原告は改心の情なく被告議会の辞職勧告を蹂躙したことを理由に即時原告を被告議会の議員より除名する旨の議決をしたのである。右は原告が同二十五年十月十五日より同二十六年三月三十一日までの間寺井野町外三ケ村組合立中学校附属体育館建設のため小松製作所小松工場建物の解体移築の現場監督をしたときに右に関聯して原告が横領した嫌疑により検察庁の取調べを受け起訴猶予処分を受けたが、その時被告議会が要求した辞職勧告に応じなかつたことを指すと思われるが右除名の議決は次に述べる事由により取消さるべきである。

一、原告は横領等の不正をしたことがない。従つて除名されるべき筋合でない。

二、地方自治法第百三十四条に「普通地方公共団体の議会はこの法律及び会議規則に違反した議員に対し議決により懲罰を科することができる」と規定している通り懲罰事由を「この法律及び会議規則」に違反した場合に限定している。そこで同条の趣旨から議会の懲罰権の行使は次の範囲内においてのみ是認されるのである。

(一)  事項的限界として、

地方自治法及び会議規則中議員が遵守すべき義務を定めた規定に違反することが必要である凡ゆる法律に対する違反が懲罰事由になるのではない。

(二)  場所的限界として、

議場における言動を以て懲罰の対象となす可きで議場外の一般的行為にまで及ばせてはならない。

(三)  時期的限界として、

議員の言動で懲罰の対象となるのは議会が現に開会され、且つ当該議員が議会に出席して現に議事に参与している間のそれでなければならない。

尚右と関聯して旧任期中の事由を以て懲罰の事由に出来ないことも当然である。

以上の解釈が正しいとすれば被告議会の原告に対する本件除名処分はいづれの限界をも逸脱し到底許さるべくもない。

三、而して若し被告の主張するような理由によつて除名出来るとすると公職選挙法第十一条による選挙関係犯罪以外の犯罪を犯したことによつて選挙権被選挙権を剥奪されるのは判決により刑の言渡を受けて実刑に処せられた場合のみに限りこの場合にのみ議員たる身分を喪失するものとされているのにこの規定と対比し単に起訴猶予処分を受けたと言うことだけで直ちに除名の理由ありとすることは大いに均衝を失する。

以上要するに議会の議員に対する懲罰は議場又は議会における言動を対象に議会運営に当り議会の品位を汚しその権威を失墜せしめるような言動乃至議会の円滑な運営を阻害する言動に限るべきものであるからそのいづれにも該当しない事由に基く本件除名決議は明かに違法であるからその取消を求めると述べた(立証省略)。

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する」との判決を求め原告主張の請求原因に対する答弁として、原告主張の日時に被告議会の選挙があり原告が当選して被告議会の議員の身分を取得したこと、原告がその主張の期間現場監督に就任したこと、及び原告主張の日時に開会された被告議会において原告を議員より除名する議決をしたことは認める。而して原告の右除名の事由は以下述べるとおりであり、右原告の行為は議会において議会の品位を汚しその権威を失墜し、ひいては議会の円滑な運営を阻害するもので地方自治法の精神に違反するものであるから被告議会の原告を除名する議決は適法である。即ち原告が昭和二十五年十月より同二十六年三月迄の間寺井野町外三ケ村組合立中学校附属体育館建築のため小松製作所小松工場の建物一棟の解体移築の現場監督に右寺井野町長より任命されたがその間右作業に関聯し、(一)寺井野町学校建築場に運搬すべき鉄材一車分を擅に解体工場請負人訴外田中博をして売却処分せしめその代金一万円を、(二)右同様手段で鉄材売却代金三千円、並にグレンガーター附属用三十四キロ、レール約百米売却代金二万円、(三)買収資材中、木材、亜鉛板、鉄材等数十車分を処分した代金を夫々着服した外、(四)同二十五年十一月頃右地位を利用して木材供給の能力のない訴外徳永をして右工事請負人と木材供給契約を締結せしめ、右徳永がその債務を履行しなかつたため同町に金五十万円程の工事増金の支出を余儀なくし、更に徳永の木材購入資金として金三十万円を同町より融資せしめたが尚必要数量を納めなかつたので遂に右契約は解除された。それにも拘わらず遂に右金三十万円を返さなかつたので同町長の背任行為として町長迄糺弾されるに至り右徳永の保証人である原告よりようやく返還されて解決したのである。而して以上のような不正事実が昭和二十六年四月頃より町民間に噂として流布し、議会は町民から事実の解明を迫られたのみならず、リコール運動、税金不納運動にまで進転する気配顕著となつたので取敢えず同年五月二十二日被告議会は特別調査委員会を設置し右委員会の調査により前述の不正事実が明確になつたので同年九月十二日の被告議会の本会議で原告に対し辞職勧告の決議をしたにも拘らず原告は右不正事実を認め乍ら遂に辞任しなかつたので已むなく全議員一致で本件除名の議決をしたのである。以上の事情の下においては原告は被告議会の議員の地位において為した犯罪により議会の品位を汚し権威を失墜せしめ、且つ議会の円滑な運営を阻害したこと明らかであるから右事由を以て懲罰に付することは何等違法でない。

尚被告議会の地方自治法第百三十四条の解釈に対する見解を附陳すると、

(一)  事項的限界として、

議員は公務員として誠実に全体に奉仕する義務があり、右誠実義務違反行為は議会の権威を失墜するもので、就中汚職等はその最たるものであるから議会の懲罰権行使の範囲は広く解して単なる議会の運営を阻害する行為のみに限らず右述の様な不正行為に迄及ぼすのが至当である。

(二)  場所的限界として、

原告は議場における言動にのみ限定するが、その様に解さなければならない条文上の根拠は無い。元来懲罰の窮局の目的が議会の品位及び権威を失墜することのないことを期し以て議事の円滑な運営を図るにあるならば、議場内に於ける言動より寧ろ議場外の言動の方がより議会の品位を傷けることが多いのであるからこれらに対しても懲罰を加えることが必要である。

(三)  時期的限界として、

以上よりして時期的にも原告の主張するように狭く解する理由はない。又会期不継続の原則は予算の審議に関するものでこれを本件の様な場合に迄適用して論ずるのは妥当でない。就中本件の様に前任期中の事犯が再選後に至つて発覚した場合には懲罰の手続が前任期以来継続したものでないから尚更である。

原告は又右事由に基く除名処分は公職選挙法と対比し均衡を失すると云うが、国家刑罰権の発動と議会の自律権に基く懲罰との間にはその性質、目的を異にするからかかる結果を生ずるのは当然である。

以上要するに議会の懲罰権付与の目的は議会の品位及び権威を失墜することのないことを期し以て議事の円滑な運営を図るにあるから原告の様に公務員に課せられた誠実義務に違反し不正行為をなした者はとりも直さず議会の品位及び権威を失墜し、ひいては議会の円滑な運営を阻害するものであるから原告に除名処分を以て臨むも決して違法ではなく地方自治法の精神に反しないと述べた(立証省略)。

三、理  由

一、原告が昭和二十六年四月二十三日執行の寺井野町議会議員選挙に当選し被告議会の議員であること、及び同二十七年三月二十七日招集開催された被告議会の定例議会において原告が被告議会の議員より除名する旨の議決がなされたことについて当事者間に争がない。

二、ところで原告は右除名議決が地方自治法に違反し違法である旨争うので考えて見る。

地方自治法第百三十四条には「地方公共団体の議会はこの法律及び会議規則に違反した議員に対し議決によつて懲罰を科することができる」と規定しているが、その趣旨とするところは議会が会議体であるためその会議体としての統制をはかり議事の運営を円滑に進め、且つ議会の品位若くは権威を保持するためにその統制並に自律作用として懲罰権を議会に与えたものであつて、他方各議員はその選挙区より公選され、選挙民の信託を受けて議会に代議していることを併せ考えると、右内部的統制としての懲罰権の発動は決して無制限に議会の自由裁量に任せられたと断ずることはできないのであつて、右懲罰権を行使し得る場合は議会若くは議場に於ける統制を紊し議事の運営を阻害する議員の議場内に於ける言動で、地方自治法又は会議規則に明らかに規定されたものに反したものに限ると解するのを相当とする。

議員の議場外に於ける職務外の個人的非行或は職務と関聯した非行は議場内の非行と等しく議会の品位を傷け権威を失墜せしめることはないといえないが議場内の非行に比し議会に対する影響は直接ではなく、かかる議場外の議員の非行に対する措置は宣しく選挙民の判断に任せるべきで(地方自治法第八十条参照)議会自らが懲罰権を発動し除名処分に付することは到底その権限の範囲として論ずることができない。

右に反する被告議会の見解は採用し難い。

三、右の見解に立つて本件を見るとき被告議会の主張するところの原告の非行は原告の学校建築工事現場監督中の行為であり、原告はその様な非行はなかつたと争つているが、仮令右非行があつたとしても議会外における原告の非行でありしかも被告議会の会議規則に議会外の議員の非行についても懲罰し得る規定のないことは被告議会の明らかに争わないところであるから、かかる行為を懲罰し得ないものというべく、結局被告議会の原告を被告議会の議員から除名する旨の議決は爾余の判断をまつまでもなく違法であるから取消を免れない。

よつて原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 観田七郎 田中武一 古崎慶長)

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