大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。
官報全文検索 KANPO.ORG
月額980円・今日から使える・メール通知機能・弁護士に必須
AD

金沢地方裁判所 昭和41年(ワ)149号 判決 1968年1月30日

原告

福岡豊和

ほか一名

被告

万代家具株式会社

主文

被告等は各自、原告福岡豊和に対し金二五九、一四二円、原告福岡豊吉に対し金一五〇、〇〇〇円とこれに対する昭和四〇年八月八日以降各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告等のその余の請求は、いずれもこれを棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その一を原告等の負担とし、その余を被告等の負担とする。

この判決は、原告等勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

原告等訴訟代理人は「被告等は連帯して原告福岡豊和に対し金三五九、一四二円、原告福岡豊吉に対し金四六一、五〇〇円と各これに対する昭和四〇年八月八日以降各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告等の連帯負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求原因として次のとおり述べた。

「一、(事故の発生)

被告渡辺文一(以下被告渡辺という)は、昭和四〇年八月七日午後〇時五五分頃、普通貨物自動車(愛四な八六三五号)(以下甲車という)を運転して、金沢市小坂町四八番地先国道八号線上を金沢市森本町方面から同市鳴和方面に向け時速約六〇粁で進行中、道路中央線を越えて進行し、折柄反対方向から進行して来た原告福岡豊和(以下、原告豊和という)の運転する原告福岡豊吉(以下、原告豊吉という)所有普通貨物乗用車(石四せ六五四三号)(以下、乙車という)の前部に甲車を激突させ、乙車をその用を為さないまでに大破させるとともに、原告豊和に対し加療約三ケ月を要する頭部並びに全身打撲の傷害を負わせた。

二、(被告渡辺の責任)

被告渡辺は、前示金沢市小坂町四八番地先国道八号線上を進行していたものであるが、自動車運転者としては常に前方左右を注視し、先行車との車間距離を保ち、先行車が徐行、停止するときは直ちに自車も徐行停車し、又、対向車の有無に注意し、追突、衝突等の事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのにこれを怠り、居眠り運転をしていたため、折柄先行車が道路工事個所で徐行しているのに全く気付かず、その直前ではじめて発見し、先行車への追突を避けるため、対向車の有無に全く注意することなく、あわててハンドルを右に切り、道路中央線を三米越えて対向車道上に進入し本件事故を惹起したものである。よつて、被告渡辺は民法第七〇九条の責任がある。

三、(被告万代家具株式会社の責任)

被告万代家具株式会社(以下、被告会社という)は、当時甲車を所有し、これを自己のために運行の用に供していたものであるから自動車損害賠償保障法第三条により、原告豊和に対し損害を賠償すべき義務がある。

又、当時原告渡辺は、被告会社に自動車運転手として雇われ、被告会社所有商品のタンスを運搬中のものであつたから、被告会社は民法第七一五条により、原告豊吉に対しその損害を賠償すべき義務がある。

四、(損害)

(一)原告豊和の損害

(1)治療費 七五、七六四円

(2)休業による収入損 一一七、四九二円

原告豊和は、金銀分析工をしているものであるが、本件事故により、昭和四〇年八月七日から三ケ月間就業することができず、この間一一七、四九二円の収入を失つた。

(3)慰藉料 三〇〇、〇〇〇円

(二)原告豊吉の損害

(1)乙車修理代 四三四、五〇〇円

(2)乙車保存に要した車庫代 二七、〇〇〇円

一ケ月三、〇〇〇円、九ケ月分

五、(一部弁済受領)

原告豊和は、自動車損害賠償責任保険より昭和四二年七月二六日治療費七五、七六四円全額と休業による損失金一一七、四九二円中五八、三五〇円の支払を受けた。

六、よつて被告等に対し、原告豊和は金三五九、一四二円、原告豊吉は金四六一、五〇〇円とこれに対する本件事故発生の翌日である昭和四〇年八月八日以降支払済に至るまでの民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。」

被告等訴訟代理人は「原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

「一、請求原因一の事実中、被告渡辺の運転する甲車と、原告豊和の運転する乙車とが原告等主張の日時場所で衝突したことは認めるが、その余の事実は争う。

二、同二ないし四の事実はすべて争う。

三、原告豊吉の損害賠償の請求額等は不当である。

不法行為による被害者は、現に損害を生じ、また損害を生ずるおそれのある場合、その損害の発生又は拡大を防止するため相当の注意義務を負うことは信義則によつて要請される。

しかるに、原告豊吉は、右信義則に反し、乙車と同等車が当時時価一五〇、〇〇〇円位であることを知りながら、敢えて多額の費用を要する修繕の方法を執ろうとしたもので、損害拡大防止義務に違反する。

従つて被告等は、乙車の当時の価格金一五〇、〇〇〇円を限度として、損害賠償の義務を負うに過ぎない。

又、原告豊吉の主張する車庫代も、原告豊吉において乙車を直ちに売却し、これと同等の車両を買受ければ全く不要のものであり、右損害も、原告豊吉の損害拡大防止義務に違反する行為によつて生じたものであるから、被告等に右損害を賠償すべき義務はない。」

〔証拠関係略〕

理由

一、(事故の発生)

原告等主張日時場所で、被告渡辺の運転する甲車と、原告豊和の運転する乙車とが衝突したことは当事者間に争いがない。

二、(被告渡辺の責任)

〔証拠略〕を綜合すると、昭和四〇年八月七日午後〇時五五分頃、被告会社に雇われていた被告渡辺は、被告会社所有の甲車を運転して、被告会社の商品である家具を富山県の得意先へ運搬しての帰途、金沢市小坂町四八番地先国道八号線上を金沢市森本町方面から同市鳴和方面へ向け道路中央線寄りを時速約四五粁位で進行していたこと、その頃、普通貨物自動車が被告渡辺の運転する甲車を追抜いて行つたが、被告渡辺は、速度計に目を移し、更にかねてからの夢であつた自己の車を購入すること等をぼんやり考えながら、又、対向車に注意を向けていたため、その間前方を注視しないまま甲車を運転していたこと、被告渡辺が再び視線を前方に移した時、前方を進行していた先行自動車がストツプランプを点じているのに気付いたが、右自動車と被告渡辺の甲車との間の距離が、その時僅か一二米位しかなく、慌ててブレーキを踏むとともにハンドルを右に切つて衝突を避けようとしたが、道路中央線を、約二・五米越えて反対車道内に侵入したため、折柄反対方向から進行して来た原告豊和の運転する原告豊吉所有乙車と正面衝突した事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

右事実によれば、本件事故は、被告渡辺の自動車運転者としての前方注視義務、対向車道侵入についての安全確認義務の懈怠という過失によつて生じたものと認められ、被告渡辺は不法行為者として原告等に対し、右事故によつて生じた損害を賠償する義務がある。

三、(被告会社の責任)

被告会社が甲車所有者としてこれを自己のために運行の用に供していたことは前示認定のとおりであるから、免責事由について何等の主張立証のない本件においては、被告会社は原告豊和に対し前示事故により生じた損害を賠償すべき義務があり、又、本件事故は、被告会社の被用者である被告渡辺が、被告会社の事業の執行中に惹起したものであることも前示認定のとおりであるから、免責事由について主張立証のない本件においては、被告会社は被告渡辺の使用者として原告豊吉に対し右事故により蒙つた損害を賠償すべき義務がある。

四、(損害)

(一)原告豊和の損害

原告豊和においては、支出した治療費の支払を受けているとし、休業補償と慰藉料を請求するので、右請求についてのみ判断する。

(1)休業による得べかりし利益の損失

〔証拠略〕によれば、原告豊和は昭和三四年頃から父豊吉とともに家業である金銀分析業を営み、本件事故当時一ケ月少くとも金三九、一六四円の収入を得ていたこと、本件事故により頭部並びに全身打撲傷の傷害を受け、事故当日より昭和四〇年九月九日まで約一ケ月間、金沢市味噌蔵町東丁二七番地杉原外科医院に入院治療を受けていたこと、退院後も頭部外傷に因る後遺症発生の虞れがあつたため自宅で静養をし、昭和四〇年一一月初頃まで就業できず、この間合計金一一七、四九二円の損失を蒙つたものと認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

(2)慰藉料

前示四の(一)の(1)の各証拠によれば、原告豊和は受傷日である昭和四〇年八月七日から同年九月九日まで入院治療し、現在後遺症の存在は認められないが、退院後も約二ケ月間は頭部打撲による後遺症発生の不安から自宅で静養を余儀なくされていたことが認められ、右事実と、本件事故が被告渡辺の一方的な過失によつて惹起されたものであること等、本件事故の情況その他諸般の事情を綜合すると、原告豊和の味わつた肉体的、精神的苦痛を慰藉するものとしては金二〇〇、〇〇〇円をもつて相当と認める。

以上、(1)、(2)の合計金三一七、四九二円の内、原告豊和においては(1)につき金五八、三五〇円の支払を受けたと自認しているので、これを控除した金二五九、一四二円につき被告等は賠償すべき義務がある。

(二)原告豊吉の損害

本件事故により、原告所有乙車が、その用をなさない程に大破するに至つたことは乙車を撮影した写真であることに争いのない〔証拠略〕によつて認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

(1)乙車の損害

原告豊吉は、乙車修理代として金四三四、五〇〇円を要すると主張するが、〔証拠略〕によつても、右金額は、原告豊吉が修理費として実際に支出した金額ではなく、単に乙車を可動し得る程度に修理する場合の見積り金額に過ぎないものと認められ、これをもつて、直ちに原告豊吉の蒙つた損害とは認め難い。即ち、〔証拠略〕を綜合すると、原告豊吉所有の乙車は、本件事故により単に大破したに止まらず、エンヂンも割れて使用不能となつたほか、殆んど車体全部について部品取替、修理を要する破損を蒙り、その修理費は同等車を新たに購入する費用を遙かに超える状態であつたことが認められ右認定を覆すに足りる証拠はない。ところで、違法に所有物が滅失、毀損された場合は、その物の価格、修理費が賠償を要する積極的損害となるが、毀損の度が甚だしいときは、滅失に準じ、その物の価格をもつて賠償を要する額とするのが相当であると解する。(通常の場合、これが賠償をもつて完全な賠償となる。)

これを本件について見るに、前示認定のとおり、乙車は単に車の形骸を留めるだけで、これを可動させるにはエンヂンを取替え、シヤーシーフレーム取替を初めとし、殆んど全部の部品について取替、修理を必要とするもので、自動車としての効用を失つているものと認められるので、滅失に準じ、当時の同等車の価格をもつて賠償を要するものと認める。

そして、乙車の本件事故当時の価格が金一五〇、〇〇〇円であることは被告等の認めるところであるが、乙車の価格が右金額を超えるものであることを認めるに足る証拠のない本件においては、右金一五〇、〇〇〇円をもつて原告豊吉の蒙つた損害額と認める。

(2)乙車の車庫代

〔証拠略〕によれば、原告豊吉が、本件事故によつて大破した乙車の保管につき石川トヨペツト株式会社の駐車場を昭和四〇年八月一〇日から昭和四一年八月九日まで一年間一ケ月三、〇〇〇円の賃料で借受け、内九ケ月分金二七、〇〇〇円を支払つた事実が認められるけれども、右損害は、本件事故により通常生ずべき損害とは到底認められない。

その上、〔証拠略〕によれば、原告豊吉は、本件事故によつて大破した乙車を直ちに修理に出さず、単に乙車の破損状態を維持し証拠として残して置くために駐車場を借受けたもので、被告渡辺或は被告会社の指示によるものとも認められない。

そうだとすると、原告豊吉が支出した右車庫代二七、〇〇〇円は、本件事故に因る損害とは認められず、これが賠償請求は失当と言わざるを得ない。

五、(結論)

以上の理由により、原告豊和の本訴請求は金二五九、一四二円とこれに対する本件事故発生後である昭和四〇年八月八日以降支払済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、又、原告豊吉の請求は金一五〇、〇〇〇円とこれに対する前示昭和四〇年八月八日以降支払済に至るまで前同年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で各理由があるのでこれを認容し、その余は失当であるのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石田恒良)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例