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金沢地方裁判所 昭和61年(ワ)98号 判決 1988年10月14日

《番号・住所省略》

原告 古源貞子

<ほか二四五名>

原告ら訴訟代理人弁護士 田中清一

同 中村吉輝

同 高沢邦俊

同 山腰茂

同 加藤喜一

同 水谷章

同 岩淵正明

同 鳥毛美範

同 木梨松嗣

同 今井覚

同 戸水武史

同 畠山美智子

同 北川忠夫

同 山崎正美

同 智口成市

同 野田政仁

同 奥村回

同 西井茂

同 本田祐司

原告ら訴訟復代理人弁護士 飯森和彦

《番号・住所省略》

被告 山口一成

<ほか五〇名>

被告山本直樹(被告番号74)及び同多賀吉則(同154)訴訟代理人弁護士 西徹夫

主文

一  別紙請求金額一覧表被告欄記載の各被告は、各自、同被告に対応する同表原告欄記載の各原告に対し、同原告に対応する同表請求金額欄記載の各金員及びこれに対する別紙遅延損害金起算日一覧表記載の日から各支払ずみまでいずれも年五分の割合による各金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

主文と同旨。

二  被告番号5、9、11、24、38、39、43、46、52、61、62、70、72、74、92、109、110、112、126、130、132、135、139、145、151、154の各被告(被告番号62の被告は、陳述したものとみなされた答弁書の記載による。)

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  訴外豊田商事株式会社(以下「豊田商事」という。)は、昭和五六年四月二二日、代表取締役を故永野一男として資本金一〇〇〇万円で設立され、昭和六〇年七月一日午後一時に大阪地方裁判所で破産宣告を受けた株式会社である。

2  豊田商事は、設立後間もなくから、金地金の売買と後記「純金ファミリー契約」を組み合わせた商法により、多数の者から巨額の資金を集めてきた。

その商法の概要は以下のとおりである。すなわち、

(一) まず、豊田商事のパート女子社員が電話帳等により無差別に電話して金地金への投資を勧誘し、多少とも見込みある反応が得られた客を営業社員に連絡する。

(二) 連絡を受けた営業社員は、早速その客を訪問し、金地金への投資の有利なことを説いて、その購入を勧める。

(三) 客が金地金購入に乗り気になると、営業社員は、さらに「もっとよい話がある。」として「純金ファミリー契約」への加入を勧める。

この「純金ファミリー契約」とは、豊田商事独特のものであって、客が右のように購入する金地金を豊田商事に預け(契約書上はこれを「賃貸借」と称していた。)、豊田商事は一年または五年後に同種・同量の金もしくは満期時の金地金取引価格相当の金員を客に返還するとともに、その間の「賃借料」として、購入価格の一〇パーセント(一年契約の場合)または一五パーセント(五年契約の場合)相当額の金員を支払う、というものである。そして、右「賃借料」は、初年度は契約締結時に支払うとされているので、結局、金地金購入と「純金ファミリー契約」を併せて行うことにより、客は、金地金を時価よりも一〇ないし一五パーセント安価に購入したうえ、その後も金の値上がり益と「賃借料」収入の両方を得ることができるという、一見はなはだ有利な話になるのである。

3  被告らは、いずれも豊田商事のもと従業員であり、別紙在職期間一覧表記載の期間に豊田商事金沢支店もしくは同福井営業所に勤務していた者である。

4  被告らは、原告らに、次のとおり違法な方法で金地金販売代金及び「純金ファミリー契約」名下に金員を交付させた。

(一) すなわち、被告らは、豊田商事金沢支店もしくは同福井営業所の他の従業員らと共謀のうえ、原告ら一般市民が金地金は安全確実な資産保有手段であると思い込んでいる一方、その取引方法について未経験、無知であることに乗じて、原告らに金地金売買契約及び「純金ファミリー契約」を締結させて金地金売買代金名下に金員を騙取することを企て、事実は右契約の履行期において豊田商事が契約どおり金地金もしくは約定金員を返還する意思も能力もないのにこれあるように装い、別紙不法行為一覧表記載のとおり、各不法行為者欄記載の者において、同表原告欄記載の各原告に対し、同表年月日欄記載の日に各原告の自宅、豊田商事金沢支店あるいは同福井営業所において「税金がかからず、銀行預金よりも安全、確実だ。」「金は会社で預かって運用しているから心配はいらない。」「賃料や元金の返済は絶対間違いない。」「トヨタ自動車の子会社だ。」「国がバックにいるから絶対大丈夫だ。」などと虚偽の事実を申し向け、各原告をして「純金ファミリー契約」によって確実に利益が上がり、かつ途中解約によって違約金なしに利殖を計ることができ、返還時期には契約どおり金地金もしくはそれの時価相当の金員の返還を確実に受けうるものと誤診させ、よって、同日、同表原告欄記載の各原告から同表被害金額欄記載の各金員の交付を受けて、これを騙取したものである。

(二) また、被告らは、右(一)記載のその他の従業員らと共謀のうえ、以下のとおり公序良俗に反する違法な勧誘方法によって金地金売買契約及び「純金ファミリー契約」を締結させ、右(一)に記載したとおり原告らに別紙不法行為一覧表記載の各金員を交付させた。

すなわち、被告らの右契約勧誘の方法は、前記2記載のとおり豊田商事のパート女子社員による無差別な電話勧誘によって少しでも反応のあった客に対して営業社員がその自宅を訪問し、本格的な勧誘をするというものであり、同表不法行為者欄記載の各不法行為者は、こうして勧誘対象となった原告らに対し、原告らが契約締結を固辞するにもかかわらず、長時間粘り続けて原告らの正常な判断ができないようにさせたうえで「純金ファミリー契約」を締結させた。このような強引な勧誘方法は社会的に許容された限度を著しく超えるものである。

また、被告らは、意識的に年金生活者や独り暮しの老人を勧誘対象としており、被害金員は、例えば老後の生活資金であるとか自己の葬儀費用であるといった、原告らにとって今後生活していくうえでなくてはならない不可欠の資金である。被告らの勧誘行為は、そのような特徴を有する原告らの郵便局や銀行の預貯金をむりやり解約させ根こそぎ奪い取ったものであり、人道的にも許されない。

さらに、被告らは、原告らが履行期に前記契約内容の履行を求めても容易にこれに応じず、かえって契約時以上に強引に契約を更新させた。そのうえ、被告らは、原告らが契約期間中途で解約を申し入れても、中途解約禁止条項を盾に一切の金員の返還を拒否する態度に出たが、前記契約の締結に際しては右条項の説明は一切なされていなかったものである。

(三) さらに、被告らは、前記(一)記載の他の従業員と共謀のうえ、原告ら不特定多数の者に対して業として「純金ファミリー契約」を締結させ、別紙不法行為一覧表被害金額欄記載の各金員を交付させたものであるが、この契約の実質は金銭の受入れに外ならず、被告らの共謀による原告らからの金地金売買代金名下の金員の受領は、出資の受入れ、預かり金及び金利等の取締りに関する法律二条一項、八条、九条一項に違反する。

5  被告らは、右4の行為の違法性を認識し、もしくは容易に認識しえたにもかかわらず過失によってこれを認識せず、原告らをして「純金ファミリー契約」を締結させ、別紙不法行為一覧表被害金額欄記載の各金員を交付させたものであるが、被告らは、前記2記載の如きパターン化された会社ぐるみの商法の全体を認識しつつ、共同の意思の下に緊密な一体性をもって、その商法の一部を分担したものであるから、右4の行為により原告らが受けた損害につき共同不法行為責任を負う。

6  別紙不法行為一覧表原告欄記載の各原告は、被告らの前記4記載の不法行為により、同表記載のとおり、同表年月日欄記載の日に、豊田商事に対し、同表被害金額欄記載の各金員を交付し、もってそれぞれ同金額相当の損害を受けた。

7  よって、原告らは、いずれも不法行為による損害賠償請求権に基づき、別紙請求金額一覧表中各原告に対応する被告欄記載の各被告に対し、それぞれ右6記載の各損害額の内金である同表中各原告に対応する請求金額欄記載の各金員及びこれに対する弁済期経過後である別紙遅延損害金起算日一覧表被告欄記載の前同被告に対応する起算日欄記載の日(訴状送達の日の翌日)から各支払ずみまでいずれも民法所定の年五分の割合による各遅延損害金を各自支払うことを求める。

二  請求原因に対する認否(被告番号4、62、68、75、77、86、102、104、117、131、134、142の各被告は、陳述したものとみなされた答弁書の記載による。)

1  被告番号4、24、86、103、104、134及び145の各被告

請求原因1及び3(ただし、自己の在職事実及び在職期間に関する部分に限る。以下の各被告の請求原因3の事実についての認否も同じである。)の事実は明らかに争わない。同2及び4ないし6の事実は否認する。同7は争う。

2  被告番号5の被告

請求原因1ないし3の事実は認める(ただし、同3の事実のうち、在職期間については明らかに争わない。)。同4及び5の事実は否認する。同6の事実は知らない。同7は争う。

3  被告番号9、11、70、110、135及び139の各被告

請求原因1の事実は明らかに争わない。同3の事実は認める。同2及び4ないし6の事実は否認する。同7は争う。

4  被告番号38の被告

請求原因1及び2の事実は知らない。同3の事実は認める。同4及び5の事実は否認する。同6の事実は知らない。同7は争う。

5  被告番号39、92及び112の各被告

請求原因事実は否認ないし争う。

6  被告番号43及び151の各被告

請求原因1及び3の事実は認める。同2及び4ないし6の事実は否認する。同7は争う。

7  被告番号46の被告

請求原因1の事実は明らかに争わない。同3の事実は在職期間を除き認める(豊田商事を退職したのは昭和六〇年五月末ころである。)。同2及び4ないし6の事実は否認する。同7は争う。

8  被告番号52の被告

請求原因1ないし3の事実は認める。同4ないし6の事実は認否する。同7は争う。

9  被告番号61の被告

請求原因1の事実は認める。同2の事実のうち、豊田商事が客とファミリー契約を締結していたことは認めるが、その余の事実は否認する。同3の事実は認める。同4ないし6の事実は否認する。同7は争う。

10  被告番号62の被告

請求原因1ないし3及び6の事実は認める。同4及び5の事実は否認する。同7は争う。

11  被告番号68の被告

請求原因1及び2の事実は知らない。同3の事実は在職期間を除き認める(在職期間は昭和五九年一月四日から同年二月一日までである。)。同4ないし6の事実は否認する。同7は争う。

12  被告番号72の被告

請求原因1の事実は知らない。同2及び3の事実は認める(在職期間については明らかに争わない。)。同4ないし6の事実は否認する。同7は争う。

13  被告番号74及び154の各被告

請求原因1ないし3の事実は認める(ただし、客に金地金を購入してもらったうえで純金ファミリー契約を勧めるものである。)。同4ないし6の事実は否認する。同7は争う。

14  被告番号75及び77の各被告

請求原因1及び2の事実は認める。同3の事実は明らかに争わない。同4ないし6の事実は否認する。同7は争う。

15  被告番号102及び117の各被告

請求原因1及び2の事実は知らない。同3の事実は明らかに争わない。同4ないし6の事実は否認する。同7は争う。

16  被告番号109の被告

請求原因1及び2の(一)、(二)の事実は認める。同2の(三)の事実は否認する。同3の事実は明らかに争わない。同4ないし6の事実は否認する。同7は争う。

17  被告番号126の被告

請求原因1及び2の(一)、(二)の事実は認める。同2の(三)の事実は知らない。同3の事実は認める(在職期間については明らかに争わない。)。同4ないし6の事実は否認する。同7は争う。

19  被告番号130の被告

請求原因1及び2の事実は知らない。同3ないし6の事実は否認する。同7は争う。

20  被告番号131の被告

請求原因1及び2の事実は知らない。同3の事実は在職期間を除き認める(在職期間は昭和六〇年二月上旬から同年三月末までである。)。同4ないし6の事実は否認する。同7は争う。

21  被告番号132の被告

請求原因1及び2の事実は認める。同3の事実は明らかに争わない。同4ないし6の事実は否認する。同7は争う。

22  被告番号142の被告

請求原因3の事実のうち、右被告が豊田商事のもと従業員であることは認める。その余は否認ないし争う。

23  被告番号44、71、76、105、119、123、133、141、143及び150の各被告

右被告らは、公示送達による呼出を受けたが、いずれも本件口頭弁論期日に出頭しない。

24  被告番号128、147及び153の各被告

右被告らは、適式の呼出(訴状陳述後の口頭弁論期日については公示送達による呼出)を受けながら、いずれも本件口頭弁論期日に出頭しないし、答弁書その他の準備書面も提出しない。

第三証拠《省略》

理由

第一被告番号128、147及び153の各被告に対する請求について

右被告らは、民訴法一四〇条三項により、原告ら主張の請求原因事実(ただし、公示送達による呼出を受けた口頭弁論期日において原告らにより陳述された、別紙在職期間一覧表記載のとおり右各被告が豊田商事に在職した事実、別紙不法行為一覧表記載のとおり原告らが金員を交付した事実を除く。)を明らかに争わないものとしてこれを自白したものとみなす。

また、《証拠省略》によれば、別紙在職期間一覧表記載のとおり右各被告が豊田商事に在職した事実を認めることができ、《証拠省略》によれば、別紙不法行為一覧表記載のとおり原告らが金員を交付した事実を認めることができる。

しかして、請求原因1ないし3、同4(一)及び同6記載の各事実によれば、その余の点について判断するまでもなく、右被告らは請求原因6記載の各損害につき共同不法行為責任を負うこととなり、原告らの右被告らに対する本件請求はすべて理由がある。

第二被告番号128、147及び153の各被告を除くその余の各被告(以下、第二の説示において被告らという場合はこの各被告を指す。)に対する請求について

一  請求原因1の事実は、原告らと被告番号5、43、52、61、62、74、75、77、109、126、132、151及び154の各被告との間においては争いがなく、被告番号4、9、11、24、46、70、86、103、104、110、134、135、139及び145の各被告は、右事実を明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

原告らと被告番号38、39、44、68、71、72、76、92、102、105、112、117、119、123、130、131、133、141、142、143及び150の各被告との間においては、《証拠省略》によれば、請求原因1の事実を認めることができる。

二  請求原因2の事実は、原告らと被告番号5、52、62、72、74、75、77、132及び154の各被告との間においては争いがない。

原告らと被告番号4、9、11、24、38、39、43、44、46、61、68、70、71、76、86、92、102、103、104、105、109、110、112、117、119、123、126、130、131、133、134、135、139、141、142、143、145、150及び151の各被告との間においては、《証拠省略》によれば、請求原因2の事実が認められ(ただし、同2の冒頭事実及び(一)、(二)の事実は、原告らと被告番号109及び126の各被告との間においては争いがない。)、他に右認定の事実を左右するに足りる証拠はない。

三  請求原因3の事実のうち、被告らがいずれも豊田商事のもと従業員であることは、原告らと被告番号5、9、11、38、43、46、52、61、62、68、70、72、74、110、126、131、135、139、142、151及び154の各被告との間においては争いがなく、被告番号4、24、75、77、86、102、103、104、109、117、132、134及び145の各被告は、右事実を明らかに争わないから、これを自白したものとみなし、原告らと被告番号39、44、71、76、92、112、119、123、130、133、141、143及び150の各被告との間においては、《証拠省略》により、それぞれ右事実を認めることができる。

請求原因3の事実のうち、被告らが別紙在職期間一覧表記載の期間に同表記載のとおり豊田商事金沢支店もしくは同福井営業所に勤務していた者であることは、原告らと被告番号9、11、38、43、52、61、62、70、74、110、135、139、151及び154の各被告との間においては争いがなく、被告番号4、5、24、72、75、77、86、102、103、104、109、117、126、132、134及び145の各被告は、右事実を明らかに争わないから、これを自白したものとみなし、原告らと被告番号39、44、46、68、71、76、92、112、119、123、130、131、133、141、142、143及び150の各被告との間においては、《証拠省略》により、原告らと被告番号105の被告との間においては、《証拠省略》により、それぞれ右事実を認めることができる。

四  請求原因6について判断するに、《証拠省略》によれば、別紙不法行為一覧表原告欄記載の各原告が、同表不法行為者欄記載の豊田商事金沢支店(原告番号43、188、231ないし236及び246の各原告に対しては同福井営業所)の各従業員らの勧誘を受け、同表記載のとおり、同表年月日欄記載の日に、豊田商事に対し、金地金売買代金及び手数料名下に同表被害金額欄記載の各金員を交付したことが認められる。

五  以上の事実に、《証拠省略》を総合すれば、次のような事実が認められる。すなわち、

(一)  豊田商事の「純金ファミリー契約」は、純金の個性は問題とならないから、その実質は、売買契約に基づく金地金の引渡請求権をもって消費寄託の目的とする消費寄託契約と解されるところ、豊田商事は、これを賃貸借と称し、これによって客に渡されることとなる利益についても賃借料と称するなどして、客の金地金購入代金に相当する金地金が豊田商事において現実に保有ないし運用されているかのような外観を作り出しながら、実際は客の金地金購入代金に相当する金地金を保有せず、客から受け取った金員を他の用途に費消し、しかも、右「純金ファミリー契約」上の返還時期に契約どおりの金地金を返還できる目処はなかった。

(二)  豊田商事が「純金ファミリー契約」に基づく債務を履行して営業を続けていくためには、極めて高率の収益を確実に上げていく必要があったが、豊田商事は、客から受け取った金員を、豊田商事の役員や社員などに対する異常に高額の報酬、給与などとして費消して高額の販売費、一般管理費を支出しており、その余の資金を商品取引相場への投機資金もしくは関連事業に対する貸付金等に支出していたものの、極めて収益性が悪く、「純金ファミリー契約」に基づく債務を履行して営業を続けていくための資金運用は全くなされておらず、このため豊田商事は設立当時から毎期多額の損失を計上しつづけており、早晩倒産することが必至であった。

(三)  豊田商事は、パート女子社員をして不特定多数の者に無差別に電話をかけさせ、金地金への投資を勧誘するなどという手段を取っていたが、前記のとおり本件「純金ファミリー契約」による投資は豊田商事の資金運用力に期待する極めて投機性の高いものであったから、右のような方法によるときはこのような取引に適しない者を対象とする危険があったのに、あえてそのような者を排除しようとせず(実際、取引の対象は大部分老人や主婦であった。)、むしろ、そのような者に対し純金への投資が安全・確実な資産運用方法であるかのように説いて勧誘していた。

以上の事実が認められ、他に右認定の事実を左右するに足りる証拠はない。

してみると、豊田商事は、客の金地金購入代金に相当する金地金を保有せず、契約上の返還時期に契約どおりの金地金を返還することができないのに、これあるように装い、その従業員らをして、客らに対し、本件金地金の売買及び「純金ファミリー契約」による投資が安全・確実な資産運用方法であるかのような虚偽の事実を申し向けさせ、客らをしてその旨誤信させ、よって、客らから金地金売買代金及び手数料名下に金員の交付を受けて、これを騙取したことが認められるので、豊田商事は詐欺的な商法を行っていたものであることは明らかである。

六  そこで、被告らの責任原因について判断する。

1  《証拠省略》によれば、次のような事実が認められる。すなわち、

(一) マスコミは、昭和五六年九月に既に豊田商事の商法を取り上げ、その後も断続的に報道やキャンペーンを繰り返し、特に昭和五八年中頃には全国的に被害者からの訴訟が提起されたため、右商法を現物まがい商法などとして豊田商事の批判報道がなされた。

(二) 昭和五九年七月には、当時豊田商事金沢支店係長であった被告多賀吉則が、強引なセールスをしたという理由で石川県迷惑防止条例違反容疑で逮捕され、豊田商事の強引な勧誘方法に対する批判報道がなされた。

(三) 豊田商事金沢支店では、各係のミーティング等において、これらのマスコミ報道が話題となることがあった。

(四) 豊田商事金沢支店においても、豊田商事の営業方針に従い、執拗かつ強引な勧誘活動が奨励され、営業成績に応じ、一般企業に比し、著しく高額な給与、歩合給が支給され、毎週全社員を集めて行われる朝礼において、高い営業成績を上げた社員が表彰されたり、全体の営業成績が報告されたりした。

(五) 右(三)及び(四)については、豊田商事福井営業所においても同様であった。

以上の事実が認められ、他に右認定の事実を左右するに足りる証拠はない。

してみると、被告らを含む豊田商事金沢支店及び同福井営業所の従業員らは、豊田商事の財産状態について詳細な認識を有しなかったまでも、右認定のマスコミの批判報道や自らが一般企業に比し、著しく高額な給与、歩合給の支給を受けることについての認識を有していたと認められる以上、豊田商事の行っている商法が、「純金ファミリー契約」上の返還時期に契約どおりの金地金を返還することができる目処がなく、いずれ破綻を生ずべき詐欺的な商法であることを認識していたか、もしくはこれを認識していなかったとしても、そのことにつき過失があったものと言わなければならない。

2  以上の認定の各事実によれば、別紙不法行為一覧表記載のとおり、豊田商事金沢支店及び同福井営業所の従業員である各不法行為者欄記載の者が、同表原告欄記載の各原告に対し、同表年月日欄記載の日に各原告の自宅、豊田商事金沢支店あるいは同福井営業所において、前記五認定の豊田商事の商法に従って、本件金地金の売買及び「純金ファミリー契約」による投資が安全・確実な資産運用方法であるかのような虚偽の事実を申し向け、各原告をしてその旨誤信させ、よって、同日、同表原告欄記載の各原告から金地金売買代金及び手数料名下に同表被害金額欄記載の各金員の交付を受けて、これを騙取したことが認められ、右は各不法行為者欄記載の者について、それ自体一個の不法行為を構成することが明らかである。

次に、直接契約の勧誘をしなかったその余の豊田商事金沢支店あるいは同福井営業所の従業員らの責任について判断するに、《証拠省略》及び前示認定の各事実によれば、豊田商事は、各支店及び営業所を一単位として、前記五認定の違法な商法を会社全体として組織的に遂行してきたものと認められる。これを各従業員の担当職務に照らしてみると、セールス係と指揮命令関係にある管理職は、セールス係を指揮することで自ら契約の勧誘をした者と同視することができ、そのほかの者についてみても、管理課の従業員は契約の継続、トラブル処理という豊田商事が本件詐欺的営業を続けていくうえで必要な業務を担当したことにより、総務課の従業員は豊田商事が企業として維持・存続するうえで必要な一般事務等を担当したことにより、テレフォン係の従業員は見込みのある客をセールス係に連絡するというセールス係の従業員が契約の勧誘を行うために必要な準備行為を行ったことにより、それぞれ組織として各セールス係の勧誘行為を援助し、それとともに著しく高額な給与、歩合給の支給をうけることで結局各セールス係の勧誘行為を介して得た違法な対価を受けていたものであり、個々の勧誘行為との具体的な関連性がなくとも、組織体における各自の営業補助業務がなければ、個々の勧誘行為が成立しないという関係が認められるから、それらの業務を分担した者も、少なくとも自己の属した支店又は営業所における各セールス係の勧誘行為を幇助したと言うことができる。

また、各従業員は、前記五認定の豊田商事の詐欺的な商法として行う営業活動を、各自の業務分担に応じて担当することで、組織的に右営業活動がなされていることの共同認識を有していたものと認められ、各自の行為が豊田商事の組織的営業活動として関連共同性を有していたものであることも明らかである。

なお、被告らは、右の如き共同認識を有していたものと認められる以上、自己の入社前の他の従業員の勧誘行為についてもこれを容認し、これを引き継いで自己の職務を行っていたものと解すべきであり、客からの金員の受領自体が詐欺行為の一部と解されるから、右勧誘行為に基づき自己の入社後に交付された金員についても、責任を負うものと言うべきである。

3  そうすると、被告らにおいては、原告らに損害を生じさせることについての共謀までは認められないとしても、その各行為に前記2認定の関連共同性が認められる以上、当該被告に対し全損害の賠償責任を負担せしめることが著しく正義に反すると認められる特段の事情が認められる場合を除いて、自己の在職した期間、自己の在職した支店もしくは営業所の活動によって生じた損害については民法七一九条所定の共同不法行為責任による損害賠償義務を免れないものと言うべきであり、本件全証拠によるも右特段の事情を見出しがたいから、その余の点について判断するまでもなく、原告らの被告らに対する本件請求は理由がある。

第三結論

以上の次第で、原告らの被告らに対する本件請求はすべて理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 寺本栄一 裁判官 春日通良 裁判官 松谷佳樹)

<以下省略>

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