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金沢地方裁判所七尾支部 平成16年(ケ)71号 決定 2004年11月29日

主文

1  本件申立てを却下する。

2  申立費用は申立債権者の負担とする。

理由

第1  申立の要旨

申立債権者は、申立債務者に対し、金銭債権を有しているが、申立債務者がその弁済をしないので、その有する根抵当権に基づき、別紙物件目録1ないし19記載の各不動産(以下「本件各不動産」という。)の競売を求める。

第2  当裁判所の判断

1  一件記録によれば、以下の事実が認められる。

(1)  申立債務者は、平成2年7月10日付け売買により、本件各不動産の所有権を各取得した。

(2)  申立債務者は、同月25日付けで、根抵当権者をa株式会社(以下「a社」という。)として本件各不動産に根抵当権を各設定した(以下「本件各根抵当権」という。)。

(3)  本件各根抵当権は、平成6年8月23日付け債権譲渡に基づき、a社から株式会社b(以下「b社」という。)に各移転した。

(4)  申立債務者は、同年11月29日付け譲渡担保設定契約により、本件各不動産の各所有権をb社に各譲渡した。

(5)  申立債権者は、平成13年2月26日付け譲渡担保の売買によりb社から本件各不動産の各所有権を取得するとともに、同日付け債権譲渡に基づきb社から本件各根抵当権を各取得した。

なお、申立債権者が本件各不動産所有権及び本件各根抵当権を取得した日において、本件各不動産について抵当権その他の制限物権の設定を受けていた者はおらず、また、本件各根抵当権は他の者の権利の目的となってはいなかった。

(6)  申立債務者は、現在に至るも譲渡担保権の被担保債権を弁済していない。

2  判断

(1)  上記認定事実によれば、申立債権者が本件各不動産の所有権を取得した時点で、申立債権者は、本件各不動産所有権と本件根抵当権をともに取得するに至ったもので、同一の物件について所有権と根抵当権が同一人に帰したものというべきであるから、このような場合、原則として、根抵当権は、混同により消滅することになるところ(民法179条1項本文)、前記認定のとおり、申立債権者が本件物件を取得した時点では本件各不動産または本件各根抵当権が第三者の権利の目的とされてはいなかったのであるから、同項ただし書にいう混同の例外にもあたらない。

したがって、遅くとも申立債権者が本件各不動産の所有権を取得した時点で、本件各根抵当権は混同により消滅したものというべきである。

(2)  この点、申立債権者は、譲渡担保目的物たる本件各不動産は、債務者による受戻権の目的となるから本件には民法179条1項ただし書が適用され、混同は生じない旨主張する(平成16年11月17日付け上申書)。

しかし、債務者による受戻権は、債務の弁済の効果として債務者に回復された所有権に基づく物権的返還請求権ないし契約に基づく債権的返還請求権、またはこれに由来する抹消ないし移転登記請求権に他ならないのであって(最高裁昭和57年1月22日第二小法廷判決・民集36巻1号92ページ、最高裁平成8年11月22日第二小法廷判決・民集50巻10号2702ページ各参照)、債務者が譲渡担保の被担保債務を弁済するまでは発生する余地がないところ、本件申立債務者が本件各不動産上の譲渡担保の被担保債務を弁済していないことは上記認定のとおりである。

加えて、民法179条1項ただし書が混同の例外を定めたのは、混同により第三者の権利が不当に有利な地位を獲得して所有権者の利益を侵害することを防止する趣旨であるところ、譲渡担保設定契約に基づき債権者に移転した不動産所有権と根抵当権の混同を認めて同根抵当権に基づく担保権実行を否定しても、債権者は譲渡担保権を実行することにより根抵当権の実行方法と比較して簡易な方法で債権の優先弁済を受けることが可能であり、特段の事情がない限り債権者の利益を侵害することはないから、譲渡担保設定契約に基づき移転した不動産所有権と根抵当権の混同の可否につき、上記ただし書を適用する理由はない。

よって、申立債権者の上記主張は採用できない。

(3)  また、申立債権者は、本件各不動産の実質的所有権は債務者(申立債務者)に帰属するから混同は生じない旨主張する(前記上申書)。

しかし、譲渡担保設定契約が締結された場合、債権担保目的という制約は受けるものの、目的物所有権は譲渡担保権者に移転すると解されるのであって(最高裁昭和48年11月16日第二小法廷判決・民集27巻10号1333ページ、最高裁昭和53年6月23日第三小法廷判決・裁判集民事124号127ページ、最高裁昭和56年12月17日第一小法廷判決・民集35巻9号1328ページ、最高裁昭和58年2月24日第一小法廷判決・裁判集民事138号229ページ、最高裁昭和62年11月10日第三小法廷判決・民集41巻8号1559ページ、最高裁昭和62年11月12日第一小法廷判決・裁判集民事152号177ページ各参照)、申立債権者の上記主張はその前提を欠き、採用できない。

(4)  その余の申立債権者の主張は、上記説示に反する限りで採用できない。

3  結論

以上検討したとおり、本件申立てはその基礎となる根抵当権が消滅した後に申し立てられたものであるから、担保不動産競売申立ての要件を備えない不適法なものというほかはない。よって、本件申立ては却下することとし、申立費用の負担につき民事執行法20条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 関述之)

(別紙)当事者目録<略>

物件目録<略>

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