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金沢地方裁判所七尾支部 昭和41年(ワ)90号 判決 1968年1月27日

原告

西山政治

ほか一名

被告

豊島次郎

主文

被告は原告西山政治に対し金二五、〇〇〇円、原告西山照子に対し金二五、〇〇〇円及びいずれもこれに対する昭和四一年一二月二九日以降完済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

原告等その余の請求はいずれも棄却する。

訴訟費用は各自弁とする。

この判決は主文第一項に限り仮りに執行することができる。

事実

原告等訴訟代理人は

被告は原告西山政治に対し金五〇〇、〇〇〇円、原告西山照子に対し金五〇〇、〇〇〇円及びいずれもこれに対する昭和四一年二月三日以降完済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決及び仮執行の宣言を求め、その請求原因として

一、原告政治の内縁の妻であり、原告照子の実母である亡西山静子は昭和四一年一月三一日午後一〇時頃被告が運転する自動二輪車後部に便乗して金沢七尾間に通ずる国道上を七尾方面に向い走行中石川県羽咋郡志雄町荻谷地内において振落とされ道路側溝内に転落し直ちに近くの志雄病院に収容されたが、脳底骨折のため手当ての甲斐なく翌々二月二日午前七時頃同病院において死亡した。

二、然るところ、右事故の発生は被告の運転操作上の過誤によるものであるから、被告は業務上過失に因る責任者として、右静子の相続人に対し相当損害金を支払う外、右静子の配偶者及び子に対し相当慰藉料を支払うべき義務がある。

三、原告政治は田八反余、畑二畝余を耕作し傍ら日雇として稼働中の者であるが、静子は生前原告政治の農業を援助し兼ねて原告等の家事一切を切り廻していた。

長女照子は昭和四一年四月以降小学校に入学している。

四、原告政治の農業及び日雇人夫による収入は年間金三三〇、〇〇〇円であるが、これは静子の協力によるものでその半額に相当する金一六五、〇〇〇円は静子の収入である。静子は死亡時三五才であつたからその平均余命は二八・七八才であり、得べかりし、利益の喪失はホフマン式計算法により算出すれば金二、三一九、〇〇〇円余となる。

五、右の外原告等は静子を喪失したことによる精神的苦痛が甚大であるから、各金一、〇〇〇、〇〇〇円の慰藉料を受ける権利がある。

六、これを計算すれば原告等は合計金四、三一九、〇〇〇円以上の損害賠償を受けねばならないが、被告の資力等を考慮し本訴により原告一人につき夫々内金五〇〇、〇〇〇円宛の支払を求めるものである。

と述べた。

〔証拠関係略〕

理由

一、訴外亡西山静子は原告政治の内縁の妻で原告照子の実母である事実、右静子は昭和四一年一月三一日午後一〇時頃被告運転の自動二輪車後部に便乗中石川県羽咋郡志雄町荻谷地内国道側溝内に転落し、脳底骨折により同年二月二日午前七時頃志雄病院において死亡した事実は当事者間に争がない。

二、原告等は右事故の原因は被告の業務上過失に因るものであるから被告は原告等に対し損害の賠償を為すべき義務があると主張し、被告はこれを否認しているので、先ずこの点から調べて見るのに原告等主張の損害賠償請求権中には、先に被害者本人に帰属し、原告等が相続によりこれを承継したものと、原告等固有の所謂慰藉料請求権とを包含しているものと考えられるので、両者を別々に検討してみる必要がある。

(一)  〔証拠略〕を綜合すると、事故当日である昭和四一年一月三一日夜一〇時頃、被告は国鉄敷波駅から自動二輪車に乗つて自宅に帰る途中被害者西山静子に会い同人から是非とも自動二輪車の後部に乗せて貰い度いと頼まれてやむなくこれを承諾したものであること、乗車した現場は暗くて被害者がどの様な乗り方をしているか判らなかつたので、被告は被害者に対し「大丈夫か」と問い、被害者が「うん」と答えたのでそのまま発進したものであること、その際における事故の態様はこのような場合にしばしは発生すると考えられる急停車の際の衝撃によるもので、自動二輪車に便乗する者が自ら転落防止の措置を講じない限り運転者としてはこれを防止すべき方法が考えられないこと、当時被告が自動二輪車を急停車したのは後車輪のタイヤがパンクすると言う突発的事情に因るもので、被告の自動車運転の技術に関する過失とは見られないことが各認められ、他にこの判断を左右するに足るものはないから、少くとも被害者西山静子の転落事故に関する限りは被告の業務上の過失責任は極めて軽微であり、仮りに若干過失があつたとしても、その際の被害者の過失を考慮すれば、これに対し被害者は予じめ損害賠償請求の意思を放棄していたものと判断するのが相当である。尤も〔証拠略〕によると被告は本件事故に関し、道路交通法違反及び業務上過失致死の罪により罰金五〇、〇〇〇円に処せられた事実が認められるが、それは主として被告の道路交通法違反の責任を問われたものと認めるべきである。

そうすると、原告等が被害者亡西山静子の相続人として被告に対し損害賠償の請求をするのは理由がないから、爾余の点を判断する迄もなく失当として棄却を免れない。

(二)  次に原告等の慰藉料請求の主張については、前段認定の各事実によると被告は道路交通法違反の罪を犯して被害者西山静子を自動二輪車に便乗させ、その程度は軽微であるとは言え業務上の過失により同人を転落させて死に至らしめたものであるから、被告は右被害者の配偶者(内縁の夫を含むものと解する)及び子に対し若干の慰藉料を支払う義務を負うものと認めるべきであり、その慰藉料の額は、前段認定の諸事情から判断すると原告等に対し各金二五、〇〇〇円を支払うことによりその責務を果たすことが出来るものと解される。

よつて、原告等の被告に対する慰藉料請求の主張は右各金額の限度において理由があるからこれを認容すべく、その余は失当として棄却すべきである。

三、以上の判断により、原告等の本訴請求は被告に対し各金二五、〇〇〇円及びこれに対する本訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和四一年一二月二九日以降完済に至るまで年五分の割合による損害金の支払を求める限度において正当であるからこれを認容すべく、原告等のその余の請求は失当であるからこれを棄却すべきである。

よつて訴訟費用について民事訴訟法第九二条、仮執行宣言について同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 田中武一)

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