大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

金沢地方裁判所輪島支部 昭和41年(ワ)237号 判決 1968年11月12日

原告

砂山ハル

被告

作田武

ほか一名

主文

被告らは、連帯して原告に対し金一六二万円及びこれに対する昭和四一年七月一三日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分しその一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

この判決は、原告勝訴の部分に限り、原告が被告らに対し各金五〇万円の担保を供するときはそれぞれその被告に対して仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、被告らは各自原告に対し金二五〇万円及びこれに対する昭和四一年七月一三日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告らの負担とする、との判決及び担保を条件とする仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、原告は飲食店「大菊」を経営しているものであり、被告会社は自己の業務のため自動車を運行の用に供し、被告作田は被告会社に雇われ、同会社の業務のために自動車運転の仕事に従事する者である。

二、原告は昭和四〇年一一月一四日午後五時頃金沢市島田町三七番地先電車道を東南側から西北側に向つて横断歩行している際、被告会社の被用者である被告作田が被告会社の業務従事中その運転する中型ダンプカーに接触され、その場へ転倒させられた。

三、右の事故は、被告作田が自動車運転手として絶えず進路前方を注視し、障害物の有無を警戒し衝突等の事故の発生を防止すべき業務上の注意義務を負うにも拘らずこれを怠り、漫然時速約三〇粁の速度で進行し、前記横断中の原告を約一〇米の距離に至つて認め、約四米の距離に至つてから初めて急停車の処置をとつた業務上の過失によつて惹起されたものである。

四、原告はこの事故により、昭和四〇年一一月一四日から昭和四一年三月一〇日迄の間入院加療、退院後今日まで(後遺症状の全治時期の予想不可能のため)通院加療を要する頭蓋底骨折、脳挫傷、第三乃至第五左肋骨々折、左鎖骨々折、右臀部挫傷、左肩脾骨々折、右肩関節打撲傷の傷害を受け、その結果、

(一)  治療費(入院中のもの) 四六一、三三六円

(二)  同(通院中のもの) 一三三、三五〇円

(三)  入院中の経費 三三、四〇〇円

(四)  交通費(通院に要した自動車代) 六一、二〇〇円

(五)  休業補償 二、五二八、〇〇〇円

(休業七日間、一日分五、〇〇〇円、計三五、〇〇〇円、代替マダム雇入給料二二二日間、一日分一、五〇〇円、計三三三、〇〇〇円、今後予想される右給料の今後一ケ月四五、〇〇〇円の割合による五年間分をホフマン式計算法により中間利息分を控除した金額二、一六〇、〇〇〇円)

(六)  慰藉料 五〇〇、〇〇〇円

以上の合計金三、七一七、二八六円相当の損害を蒙り、被告作田は不法行為者として、被告会社は運行供用者として、右相当額の損害を賠償すべき義務を負うところ、これらのうち(一)の治療費については、自動車損害賠償保険により内入金として三〇万円の支払を受け、その余の入院治療費も被告作田において直接病院に支払う旨特約したので、原告は被告らに対し右(一)の金額を請求しないものとし、差引合計三、二五五、九五〇円となるところ、本訴においては内金二五〇万円及びこれに対する遅滞後の昭和四一年七月一三日(本訴状送達の翌日)から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める、と述べ、

被告ら訴訟代理人は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、答弁として、請求の原因第一項中原告の営業は不知、その余の事実は否認する、第二項については被告作田の運転する自動車が原告主張の日時、場所において原告に接触したことは認め、その余は争う、第三項及び第四項の事実は全部争う(但し第四項の(一)について内金三〇万円の保険金支払があり、その余の額について被告作田が直接支払うこととなつているため原告が請求しないとする点に関しては、後記のとおり明らかに争わない)、なお、本件事故は専ら原告の重大な過失によつて惹起されたものであつて、被告作田の過失によるものでなく、従つて被告らの責任はなく、少くとも右原告の過失は賠償額の算定に当り斟酌されるべきである、と述べた。

〔証拠関係略〕

理由

被告作田の運転する自動車が原告主張の日時、場所において原告に接触する事故を惹起したことは当事者間に争がない。

そこでその余の請求の原因事実について順次考えるのに、

〔証拠略〕を綜合すれば、

原告は金沢市本町通称昭和通の商店街で買物をし、交差点でない道路(道巾約一五米の車道、他に道巾約三米の歩道)をへだてた筋向いの自宅へ帰るため、右側から来る自動車を大丈夫と即断したまま、折柄の雨の中を小走りに車道上を横断している際、原告主張の日時(但し証拠上午後六時頃と認められる)場所において被告作田の運転する大型貨物ダンプカー(石一す第三六三六号)に接触されたこと(この点当事者間に争がない)、この日被告作田は被告会社の業務のため右自動車を運転して柳田村方面へ出かけ、その帰途(正午頃)ビールを三杯飲み、前記時刻頃時速約三〇粁で右場所にさしかかり、前方注視をし事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務を怠り漫然同速度で運行した過失(なお酒気帯の状態も若干認められる)により約七米の直前に至つて原告を発見し、急制動の措置も及ばず原告に接触、転倒せしめたものであること、右の自動車は自動車登録原簿上所有者として、石川いすゞ自動車株式会社名義とされているが、もと訴外花森義孝が被告会社の代車として使用していたものを、被告作田がそれらの権利と共に譲受け、専ら被告会社の業務に使用するため、自動車の車体に大きく被告会社名を書き入れ、被告作田が運転していたものであること、被告会社は自己の専用所有車(貨物自動車)をもたず、運搬を要する仕事はすべて右代車(全部で一〇台以上)によつて賄つていたものであるが、この代車というのは、主として被告会社の仕事のみをなし(少くとも五〇%以上を被告会社の仕事をする)被告会社はその作業量に応じてこれに対する賃料を支払い、この際被告会社は自動車の月賦代とか名義料としてその一割乃至二割を天引することとし、被告作田は専ら被告会社の仕事のみに従事するため右自動車を専用運転し、右の天引賃料の支払を受けガソリン代等を自己負担して右の仕事を処理していたものであつて、被告会社はこのような関係にある代車に対して車体に被告会社名を表示することを許容していたものであること、

以上の事実が認められ、証人竹内聡の証言中右認定の趣旨に反する部分は前掲各証拠と対比しにわかに採用することはできず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。そうすると被告作田は不法行為者として、被告会社は右自動車を保有し自己のため運行の用に供したものとして(但し証拠によれば被告作田も保有者、運行供用者として被告会社と共存したものと認められる。)、本件事故により原告の蒙つた損害を連帯して賠償する義務を負うことが明らかである。

そこで原告の蒙つた損害について考えるのに、〔証拠略〕を綜合すれば、

原告は本件事故により頭蓋底骨折、左頭骨々折、左肩脾骨々折、脳挫傷、左肋骨骨折等の傷害を受け、米沢病院において約四ケ月間(受傷の日から昭和四一年三月一〇日まで)入院治療の上、その後約六ケ月間余(退院の翌日から同年九月三〇日まで)通院治療を受けたが、その間においても右の後遺症として左半身麻痺の症状等もみられたこと、その後現在においてもときどき通院して治療を受けていること、

そしてこれらのため、

(一)  治療費(入院中のもの) 少くとも 四六一、三三六円(この額については弁論の全趣旨に徴するも被告らは明らかに争わない。)

(二)  同(通院中のもの) 一三三、三五〇円

(三)  入院中の経費(一日一〇〇円)及び医師、看護婦への心附 二一、七〇〇円

(四)  同(栄養の補給費) 一一、七〇〇円

(五)  交通費(通院に要した自動車代)(一日往復三〇〇円、日曜祝日を除く一七〇日分) 五一、〇〇〇円

以上の支払を余儀なくされ、同額の損害を蒙つたこと(但し後記参照)、また原告は事故当時五一才で右の事故前飲食店「大菊」(一時「砂」という屋号を用いたこともある)を経営して収益を挙げていたが、右営業は景気の影響を受け易く安定した収入を収めていたわけでもないこと、しかし事故による本件受傷により右営業を自ら継続することは不可能もしくはかなり困難となり、受傷の日から一週間休業した上その後実の娘水口和枝が他所でお好み焼屋をしていたのを止めて原告方の営業を実質上取仕切るため所謂代替マダムとして雇入れ、この給料として二二二日分一日一、五〇〇円の割合により合計三三三、〇〇〇円を支払つたこと、その後の分として一ケ月三五、〇〇〇円を支払うものとしていること、

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠は存しない。これらのうち、(一)の費用については被告作田らが支払もしくは負担するものとして原告が請求しない旨自陳するのでこれを除外し、(四)の栄養補給費については、本件療養に必要不可欠のものであつたかどうか疑いがあり、むしろ一刻も早く快復したいとの当事者の切実な願望の表れとみるべき事情にあり、その必要最少限のものは(三)の経費中に含まれているもの((三)の必要最少限の経費はこれらをも包含するものとして算出した場合において前記金額に達するものとみることが合理的である。)とみられるため、(四)については右の意味における慰藉料算定の基礎たる事情として考慮することが相当であるから、被告らの賠償すべき損害額には算入しないこととする。(五)の交通費についてはその必要性は認められるが、原告の主張する通院期間全日数を以て算出することは不当であるから、これから日曜祝日分を差引するものとし、なおその余の残日数の全部について毎日通院したものとみることも不合理の嫌いがなくもないけれども、前記認定のとおり原告はその後も引続きときどき通院していることが窺われ、症状、天候、交通事情によつてはタクシーを用いることも必要な場合があるものと認められるからこれらの事情をも考慮するときは少くとも前記金額を以て相当なものというべきである。

次に原告の得べかりし利益の喪失(所謂代替マダムの雇入給料を含む)については、原告の収益が、前記認定の事情の下にあつた故もあつて必ずしも明確ではなく(原告本人の供述等によれば一日五、〇〇〇円の収益を挙げていたというのであるが、具体的根拠に欠け、雇人給料等を差引く前の額を指しているのではないかとも思われ、これを前記事情、営業規模並びに全証拠と対比すると直ちに右額の収益を挙げていたと確定することもためらわれる)、また原告のその後における労働能力喪失の程度も完全に明らかとはいゝ難いが、以上の諸点をも考慮に入れながら全証拠により最も合理的と認められるものを判断すると、純収益は平均して概ね一ケ月四五、〇〇〇円であつたこと、労働能力喪失の程度は今後の見通し(徐々ながらの快復と訓練等)をも綜合し概ね平均して一〇分の六であること、(但し受傷直後の休業期間中はもとより就労不可能であつたものと認めるべきである)、従つてこれらの点をも考慮して代替マダム(実子を以てこれに当てていることも斟酌されるべきである。)に支払うべき給料のうち合理的な必要最少限の範囲内(原告の労働の不足を補うべき部分)に当る額は平均して一ケ月二〇、〇〇〇円と認めることが相当である。(営業の性質に照しこれは前記純収益に対する労働能力喪失比率と一致することを要しない。)これらによつて原告の受傷による休業等による関係の損害額を計算すると、

(六)  休業補償等 一、二〇四、六一四円

(一) (二) (三)

<省略>(各円未満切捨)

(右の(一)は休業した七日分の得べかりし純収益、(二)はその後昭和四一年六月三〇日までの間の代替マダム雇入料、(三)は更にその後五年間の代替マダム雇入料につきホフマン式計算法により中間利息を控除したもの、この場合、原告の年令その他一切の事情を考慮し、期間を五年間とすることが相当であるものと認める)

従つて以上の合計一、四一〇、六六四円の損害額については被告らの賠償責任があるものというべきところ、前記認定のとおり原告にも横断道路でない道路における自動車直前横断の過失も認められ、この過失の全体において占める割合は概ね二割程度とみることが相当であるから、これらをも斟酌して右賠償すべき損害額を算出すると一一二万円(以下切捨)とすることが相当である。

そして前記傷害の部位、程度、入院、通院の治療期間、後遺症の内容、被告作田の誠意その他証拠により認められる諸般の事情並びに原告の過失等をも考慮すれば、原告が本件事故によつて蒙つた精神的苦痛を慰藉するため少くとも金五〇万円を要するものと認めることが相当である。

そうすると原告の本訴請求中、右合計額一六二万円及びこれに対する遅滞後の昭和四一年七月一三日(本訴状送達の翌日)から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める部分は正当であるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条、仮執行の宣言について同法第一九六条を各適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 寺本嘉弘)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例