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金沢地方裁判所輪島支部 昭和49年(ワ)33号 判決 1977年2月10日

原告

中田義雄

被告

中村百千之助

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一請求の趣旨

被告は原告に対し金一〇〇〇万円及びこれに対する昭和四七年一〇月五日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決及び仮執行の宣言を求める。

第二請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨の判決を求める。

第三請求の原因

一  (事故の発生)

原告は、次の交通事故によつて傷害を受けた。

(一)  発生時 昭和四七年一〇月四日午後一時五〇分ころ

(二)  発生地 石川県珠洲市宝立町泥ノ木地内路上(通称巻のカーブ上)

(三)  加害車 普通乗用自動車(石五ほ九六九二号)

運転者 被告

(四)  被害車 原動機付自転車(珠洲市九二五八号)

運転者 原告

(五)  態様 被害車が対向車である加害車と正面衝突した。

(六)  原告の傷害の部位、程度及び治療経過は次のとおりである。

原告は本件事故により、骨盤骨折、左中心性股関節脱臼、右脛骨顆間隆起骨折、右腓骨小頭骨折、左下腿挫創の傷害を受け、事故の当日である昭和四七年一〇月四日から同年一〇月一九日まで石川県珠洲市総合病院に、同年一〇月一九日から同四九年三月三〇日まで国立山中病院に各入院し、同年四月三一日から同五〇年八月四日までの間に一二回にわたつて右山中病院に通院し、それぞれ治療を受け、右同日に症状固定したが、その後遺症のため歩行、座ることが困難な状態にある。

二  (責任原因)

被告は、加害車を所有し自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により、本件事故により生じた原告の損害を賠償する義務がある。

三  (損害)

(一)  治療費 金九一万四七二三円

珠洲市総合病院における入院治療費として金二一万一九六〇円、国立山中病院における入、通院治療費として金七〇万二七六三円を要した。

(二)  入院付添費 金二二万六八六〇円

原告の家族が昭和四七年一〇月四日から同四八年二月二六日までの一四六日間珠洲市総合病院及び国立山中病院において原告のため付添看護し、またその際右山中病院から付添人用ベツドを金七八六〇円で賃借した。右付添費用相当損害は一日一五〇〇円の割合で、合計金二一万九〇〇〇円である。

(三)  入院雑費 金一六万二九〇〇円

右両病院への入院期間合計五四三日間を通じて一日三〇〇円の割合で合計金一六万二九〇〇円を要した。

(四)  通院交通費 金二万八七六〇円

歩行不能時の五回分合計金一万円及びその後の七回分合計金一万八七六〇円を要した。

(五)  休業損害 金二八二万四三七五円

原告は本件事故当時毎年一年の内一〇月末ころから翌年三月ころまでの間は滋賀県内の大浜酒造有限会社で勤務し、その余の間は有限会社中塚組で勤務していたほか、父と共同で、田四八九〇平方メートル、畑一六〇五平方メートルを耕作し米を収穫していた。

原告は昭和四六年一〇月末ころから同四七年四月まで右大浜酒造有限会社で稼働し、金三八万六一〇〇円の収入を、同年五月から同年九月まで右中塚組で稼働し、金三八万二四〇〇円の収入を得ていた。また、原告と父は昭和四七年には米一五石を収穫したが、その当時の生産者米価は一石当り約二万五〇〇〇円であつたから、原告らは年間の米作により金三七万五〇〇〇円の収入を得ていたが、経費はその三割を超えず、父の米作による純益に対する寄与分はその二割を超えるものではなかつた。

右のとおり、原告は本件事故当時金九七万八五〇〇円の年収があつたものであるところ、本件事故による傷害の治療に伴い、事故の当日である昭和四七年一〇月四日から同五〇年八月四日までの二九か月の間休業を余儀なくされ、金二八二万四三七五円の損害を蒙つた。

(六)  逸失利益 金八四四万六九三〇円

原告は、前記後遺症により、次のとおり、将来得べかりし利益を喪失した。その額は金八四四万六九三〇円と算定される。

(事故時)二七歳

(稼働可能年数)三三年

(収益)年収金九七万八五〇〇円

(労働能力喪失率及びその期間)三三年間にわたり四五パーセント

(年五分の中間利息控除)ホフマン単式(年別)計算による。

(七)  慰藉料 金二八〇万円

原告の本件傷害による精神的損害を慰藉すべき額は、前記の諸事情に鑑み金二八〇万円が相当である。

(八)  損害の填補 金二一八万円

原告は自賠責保険から本件損害の填補として既に金二一八万円の支払いを受けた。

(九)  弁護士費用 金七〇万円

以上により、原告は金一三二二万四五四八円を被告に対し請求しうるものであるところ、被告はその任意の弁済に応じないので、原告は弁護士たる本件原告訴訟代理人にその取立てを委任し、手数料及び成功報酬として金七〇万円を第一審判決言渡後に支払うことを約した。

四  (結論)

よつて、原告は被告に対し、本件事故による損害賠償として金一三九二万四五四八円の内金一〇〇〇万円及びこれに対する事故発生の日以後の日である昭和四七年一〇月五日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第四被告の事実主張

一  (請求原因に対する認否)

第一項中(一)ないし(五)は認める。(六)中、原告がその主張のとおりの傷害を受け、昭和四八年三月三一日まで入院したことは認めるが、その余は不知。

第二項中、被告が加害車を所有し、自己のため運行の用に供していたことは認める。

第三項(一)中、珠洲市総合病院における治療費が金二一万一九六〇円であつたこと、同(六)中、原告が本件事故当時二七歳であつたこと、同(八)中、原告が自賠責保険から本件損害の填補として金二一八万円を受領したことは認め、その余は争う。

二  (事故態様に関する主張)

本件事故現場付近の道路は未舗装の、その両端に砂利が敷かれた道路で、見通しの悪いカーブとなつていたが、原告は被害車を運転して石川県珠洲市鵜飼町方面から同県鳳至郡柳田村方面に向け、被告は加害車を運転し、同市鵜飼町方面に向け、各進行して、本件現場にさしかかつたところ、原告はその際進路前方を注視し、道路及び交通の状況に応じて速度を調節し、また道路中央部を越えることのないように走行し、もつて事故の発生を防止すべき注意義務があつたのに、これらを怠り、合羽帽子を被り、俯いた姿勢で被害車に乗り、前方注視をしないで、高速度で道路中央部を越えて道路右側(原告から見て)に進入して進行した過失により、おりから道路右側(同右)を対面進行してきた加害車の左前部に被害車を衝突させたものである。

被告は、本件現場付近に差しかかつた際、加害車に子供を背負つている同乗者を乗せ、また集荷した松茸を積載して走行していたので、前方を注視し、道路右側(原告から見て)を特に徐行して、進行していたところ、被害車が自己進路上に進入してくるのを発見し、直ちに道路右側端(同右)に寄つて停止したところへ、被害車が衝突してきたもので、被告としては本件事故は全く回避しえないものであつた。

三  (抗弁)

(一)  免責

右のとおりであつて、被告には運転上の過失はなく、本件事故の発生はひとえに原告の過失によるものである。また、被告には運行供用者としての過失はなかつたし、加害車には構造上の欠陥も機能の障害もなかつたのであるから、被告は自賠法三条但書により免責される。

(二)  過失相殺

かりに然らずとするも、事故発生については原告の過失も寄与しているのであるから、賠償額算定につき、これを斟酌すべきである。

第五抗弁に対する認否及び反論

一  抗弁(一)中、被告に運転上の過失がなかつたことは否認し、加害車に構造上の欠陥、機能の障害がなかつたことは不知。(二)中、原告に過失があつたことは認める。

二  本件事故のあつた道路は現場付近でカーブしているため、見通しが悪く、幅員は四・三メートルないし四・五メートルで処により広狭があり、両端に砂利が敷かれていたため、有効幅員は四・三メートルより狭いうえ、一車線の輪立ち(二本)の跡がついていた。

原告は事故当時進路左側(原告から見て)の輪立ち跡のところを柳田村方面に向つて被害車を運転走行して現場に差しかかつたところ、加害車が毎時四〇キロメートル以上の速度で道路左側(同右)を進行してきたので、これとの衝突を避けようとして右転把したため、加害車と接触する本件事故が発生したものである。また、被告は進路前方を注視していれば、早期に被害者を発見しえたのであるが、そのときに警報器を吹鳴するなどして危険防止の措置をとつていない。右のとおり、被告には加害車を運転するについて過失があつたことは明白である。

第六証拠関係〔略〕

理由

一  事故の発生

昭和四七年一〇月四日午後一時五〇分ころ石川県珠洲市宝立町泥ノ木地内路上(通称巻のカーブ上)で、原告が運転し同県鳳至郡柳田村方面に進行する被害車と被告が運転し、同県珠洲市鵜飼方面に進行する加害車とが衝突する交通事故が発生し、原告が傷害を受けたことは当事者間に争いがない。

二  責任原因

(一)  運行供用者

被告が本件事故当時加害車を所有し、自己のため運行の用に供していたことは当事者間に争いがない。

(二)  免責、過失相殺

被告は本件につき自賠法三条但書の免責あるいは過失相殺を主張しているので、以下この点につき判断する。

1  事故現場付近の状況

成立に争いのない乙第三号証、原告本人、被告本人の各尋問結果(いずれも第一回)によると次のとおりの事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

本件事故現場は主要地方道鵜飼、穴水線上であるところ、右道路は事故現場付近において、ほぼ東西に通じ、幅員が約四・三メートルないし約五・五メートルの、歩車道の区別のない、未舗装の砂利道(事故当時現場付近で右道路の大部分にあつては砂利はほとんど地中に埋没しており、わずかに道路南側にあつて砂利が地表に現われていたにすぎない。)の山道で、西に向つて右にカーブしながら、極めて緩かな上り坂となつている。右道路南側は路肩を経て杉林となり、またその北側は浅い素掘の側溝を経て高さ約一・二メートルの土手(その上は畑)で、事故当時同所には雑草が繁茂していた。右のような状況であるため、右カーブ付近路上での前後の見通しは悪く、相互の距離が約四〇メートル以上に及ぶときは見通すことはできない。なお、現場付近道路における車両交通量は極めて少なく、事故当時は降雨があり、路上は湿潤状態であつた。

2  事故の態様

前記当事者間に争いのない事実、前記乙第三号証、成立に争いのない乙第四号証、証人石山千代、同新出正春の各証言、原告本人(第一回、但し、採用しない部分は除く。)、被告本人(第一回)の各尋問結果を総合すると、次のとおりの事実が認められる。

被告は本件事故当時加害車で石川県珠洲市宝立町内で松茸を集荷し、これを同町柏原地内まで運搬する予定であり、運搬の途中から知人の石山千代(大正三年生れ)と同女に背負われた幼児一名をも後部座席に同乗させていたので、加害車の運行による動揺を極力少なくする配慮から、前記鵜飼、穴水線を同県珠洲市鵜飼方面に向け道路中央部から進路左側部分を前方注視しながら毎時約三〇キロメートルの速度で進行していたところ、本件事故地点の手前約一五メートル付近に達したときに始めて、前方約三六メートル付近道路のほぼ中央部分のところを加害車が対面進行してきており(その速度は毎時三〇キロメートル以上であつた。)、その運転者である原告が雨合羽帽子を頭に被り、俯いた姿勢で被害車に乗車して運転しているのを発見し、その運転態度などから危険を感じ、衝突を回避するため、直ちに制動を掛け、同所から約一五メートル進行した所で、加害車の左側部が進路左側の道路側溝から約五〇センチメートル以内の位置に停止したが、被害車がなおも右道路中央部付近から加害車の進路である道路左側(被告から見て)に進入して、減速、転把などの避譲措置をとることなく直進してきたため、その余の回避措置を取りえず、加害車の左前照灯付近と被害者の前部が接触し、被害車はその場に横転して停止し、また原告は衝突の衝撃で、停止した加害車とその北側の土手との間(原告から見て衝突地点から約二メートル前方)まで飛ばされ、同所で転倒するなどして、前記傷害を負つたものである。

以上の事実が認められ、原告本人の尋問結果(第一回)中の右認定に反する部分は右乙第三、第四号証、証人石山千代の証言、被告本人の尋問結果(第一回)に照らしにわかに採用し難く、また、右乙第三号証によると、加害車の停止直前における制動措置によつて、右路上に右側約一〇・四メートル、左側約九・二メートルのタイヤ痕跡が残つていたことが認められるが、右タイヤ痕が前輪によるものと後輪によるものとが区別できないこと、及び前記認定の道路状態などに照らすと、右のタイヤ痕跡の事実は加害車の事故前の制動直前における速度を毎時約三〇キロメートルと認定する妨げとはならず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

3  過失の有無

前記認定事実によれば、被告は事故当時加害車を運転して前記道路を石川県珠洲市宝立町鵜飼方面に向け進行していたが、原告の被害車を発見するまでの間の加害車の運転については、自動車運転者として払うべき注意義務を欠いたところはないというべく、また被害者の発見後においても、加害車の運行自体については、直ちに制動措置を取り、約一五メートル進行した地点の道路左側(被告から見て)端に寄つて被害車と接触する直前に停止を完了していたものであるから、運転上の注意義務違反がなかつたというべきであるが、被告は被害車を発見するや原告の運転態度などから危険を感じたのであるから、前記道路状況、被害車の走行状況に鑑み、直ちに加害車の警報器を吹鳴し、原告に対向車である加害車の進行を知らしめ、原告自身による回避措置を促すべき注意義務があつたのにこれを怠つたというべきで、本件事故直前に被告が右注意義務を尽したとしても、本件事故が回避しえなかつたとは必ずしも認められないから、被告は本件事故発生につき過失がなかつたとはいえない。それゆえ被告の免責の主張は採用することはできない。

しかし前記認定事実に鑑みると、原告においても、前記道路を被害車を運転して走行するに当り、進路前方を注視して、その安全を確認し、道路の左側(原告から見て)を走行して対向車との接触事故の発生を防止すべき注意義務があつたのに、これを怠る過失があり、これが原因で本件事故が発生したと認められる。

4  過失相殺の割合

右のとおり、本件において、事故発生につき、被告に運転上の過失がなかつたとはいえず、また原告に前方不注視などの過失があつたと認めるべきところ、本件事故の態様、原告の過失の内容、程度、被告の加害車の運転状況などに鑑みると、本件事故により原告に生じた損害額につき過失相殺すべき割合は全体の九割を下らないと認めるべきである。

ところで、原告は本訴において原告の本件事故による総損害額は金一三二二万四五四八円であると主張しているものであるところ、右原告の主張の損害額に基づいても、その九割を過失相殺によつて減額した結果、被告に対して請求しうる損害額は金一三二万二四五五円を超えないと算出されるが、原告は自賠責保険から本件事故による損害の填補として金二一八万円を受領していることは当事者間に争いがないのであるから、原告の右損害は既に填補済であるというべきである。

三  結論

以上の次第で、その余の判断をするまでもなく、原告の本訴請求は理由がなく、失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大出晃之)

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