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金沢家庭裁判所 平成14年(少)367号 決定 2002年5月20日

少年 M・J(昭和57.8.9生)

主文

この事件を金沢地方検察庁検察官に送致する。

理由

1  罪となるべき事実

少年は、平成14年4月15日午前2時40分ころ、普通乗用自動車(登録番号○○×××た×××号)を運転し、○○県○○市○○町×××番地×先の左方に湾曲する下り坂の道路において、先行する2台の車両を追い越すため、時速約120ないし150キロメートルで自車を加速走行させ、もって、その進行を制御することが困難な高速度で自車を走行させたことにより、自車を前方の樹木及び道路右側の歩道に設置されているガードパイプに激突させ、よって、自車の助手席に同乗していたA(当時19歳)に脳挫傷の傷害を負わせ、同日午前4時59分、同市○町××番×号○○病院において、同人を上記傷害により死亡させたものである。

2  法令の適用

刑法208条の2第1項後段

3  処遇理由

本件は、少年法20条2項所定の「故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件」に該当し、かつ、少年は本件罪を犯したとき16歳以上であったから、いわゆる原則逆送事件に該当する。そこで、以下、本件を原則どおり検察官に送致すべきか、それとも同法20条2項ただし書を適用して保護処分を選択すべきかについて判断する。

(1)  少年は、平成13年4月17日に普通運転免許を取得し、そのころから父所有の普通乗用車を通学等に使用していたが、同年9月に中学時代からあこがれていたトヨタ・スープラを父に買ってもらい、以来、本件事故の日まで同車に日常的に乗っていた。少年は、同年6月ごろ本件事故現場付近の道路において、どれくらいの速度でカーブを曲がり切れるか実験しようと考え、時速約90キロメートルで走行したことがあるが、このときは時速約100キロメートルの速度を出すと危険であるという感じを持った。このほか、同年10月までに○○道路で3、4回加速実験を行ったことがある。さらに、同年10月20日には、○○自動車道においてスープラでどれくらいまで速度が出せるか実験し、制限速度100キロメートルのところを62キロメートル超過する道路交通法違反事件を起こした。少年は、この事件により当裁判所で検察官送致決定を受けた上、同年12月21日、罰金10万円に処せられた。また、少年は、同年11月1日、先輩から、「スープラに初心者マークを付けているのは、格好が悪い。」と言われたため、マークを取り外して運転したところ、即日検挙された。

(2)  本件事故当夜、少年は、所属している軽音楽サークルの新入生勧誘のため、同じサークルに所属している被害者らとともに場所取りをしようと考え、スープラにバンド仲間で親友の被害者(大学2年生)を同乗させて、○○市○□町の○○大学キャンパスに行った。少年及び被害者らは、○○棟前でトランプゲームをするなどをして時間を過ごしたが、15日午前2時30分過ぎに交替のメンバーが来たため、バンド仲間の下宿に戻ることにした。そこで、少年は、再びスープラに被害者を同乗させ、バンド仲間の2台の車に続いて駐車場を出発したが、トランプゲームが白熱したことなどから、気分が非常に高揚しており、車内でも被害者と一緒に歌を歌いながら運転した。そして、深夜で他に通行車両がないことに気を許し、先行する2車を追い越すため、左カーブの緩い下り坂において、制限速度の約2倍以上の猛スピードを出した結果、自車を制御不能に陥らせ、樹木等に激突させて被害者を死亡させるに至った。

(3)  少年は、本件について、車を運転することに対する考えが甘かったために被害者に対し本当に申し訳ないことをしてしまったと深く反省している。少年の両親は、被害者の遺族に謝罪し、北海道○○市で行われた通夜及び葬儀に参列した。今後、示談についても誠意をもって当たりたいと考えている。

(4)  少年は、根気強い性格で、目標を定めると達成できるまでやり遂げようと努力する。また、人付き合いを好み、だれとでも一緒に行動し、楽しく過ごそうとする。しかし、もともと繊細な神経の持ち主であり、周りの者から評価に敏感である。そのため、様々な場面でストレスや不安を感じやすいが、他人に対して感情的に振る舞うようなことはなく、ストレスを内面にため込みやすい。警察庁方式CRT運転適正検査の結果によれば、総合判定は5段階中の4であり、総じて良い運転をすることができる。また、法務省式運転態度検査の結果によると、運転態度に総じて問題はないものの、安全運転軽視傾向の得点がやや高い。他に、性格的に大きな問題はなく、暴走等の反社会的行動傾向は認められない。

(5)  少年の家庭は、両親、兄及び少年の4人家族であるが、家庭環境に特に問題はない。

(6)  以上認定事実のほか、諸般の事情を総合考慮して少年の処遇について検討するに、本件犯行は偶発的なものではなく、車に対する思い入れが強く機会があればかなりの高速運転をしがちな日ごろの運転態度に原因があったものと考えられるから、少年には交通要保護性があり、保護処分によって改善を図ることは可能と考えられる。しかし、本件犯行の態様は悪質であり、結果も重大であること、少年は間もなく成人になること、大幅な速度違反の前科があることなどからして、本件について保護処分を行うことは不適当であり、検察官送致決定をし、少年に成人としての責任を取らせるのが相当というべきである。

(7)  よって、少年法20条2項本文、1項により、主文のとおり決定する。

(裁判官 棚橋健二)

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