金沢家庭裁判所 平成2年(少ハ)3号 決定 1990年10月31日
少年 D・I(昭49.12.14生)
主文
少年を中等少年院に戻して収容する。
平成2年少第1067号事件について少年を保護処分に付さない。
理由
1 申請の理由及び非行事実等
(1) 申請の理由の要旨
少年は、平成2年4月24日中部地方更生委員会の決定により同年5月11日に少年院を仮退院して石川県加賀市○○××番地の父D・Oの下に帰住し、以後、金沢保護観察所の保護観察下にあるものである。そして、仮退院に際しては、上記委員会から、犯罪者予防更生法34条2項に定める遵守事項(以下「一般遵守事項」という)のほかに、同法31条3項の規定に基づき仮退院の期間中遵守すべき特別の事項(以下「特別遵守事項」という)として、<1>平成2年5月11日までに石川県加賀市○○××番地の父D・Oの下に帰住すること、<2>平成2年5月11日までに金沢保護観察所に出頭すること、<3>進んで保護司を訪ね、指導を受けること、<4>定職に就いてまじめに働き地道に生活すること、<5>夜遊びや家出、外泊をしないこと、<6>シンナーなどの吸引をしないこと、<7>他人のものに手を出さないこと、の7項目が定められ、この遵守を誓約したものであるが、少年には、以下のとおり、特別遵守事項及び一般遵守事項の違反がある。
<1> 仮退院当初から勤労意欲に乏しく、平成2年5月14日から同月20日ころまでの間加賀市○○町所在の「○○商店」で運転助手として、同年7月末ころ同市○○所在のスーパー「○○」で1日及び同年9月25日ころ○○所在の寿司店「○」で1日就労したほかは徒遊生活を送っている。これは、一般遵守事項1号「一定の住居に居住し、正業に従事すること」の後段及び特別遵守事項<4>項に違反している。
<2> 同年6月20日ころ、女友達宅へ無断外泊したのを始めとして、以降、同女宅への無断外泊を繰り返している。これは、特別遵守事項<5>項に違反している。
<3> 後記(2)記載のとおりの非行を犯しており、これは、一般遵守事項2号「善行を保持すること」及び特別遵守事項<7>に違反している。
<4> 同年8月20日自宅においてシンナーを吸引し、更に同年9月7日及び翌8日加賀市○○所在の○○小学校工事現場からシンナーをそれぞれ約1リットル窃取した。これは、一般遵守事項2号及び特別遵守事項<6>項に違反している。
以上のとおり、少年は遵守事項違反を繰り返す生活を送っており、両親の監護能力も限界に達して適切な指導は期待できないところ、少年の生活態度及び保護環境に照らし考えると、少年院入院以前の状態以上に深刻化しており、保護観察による処遇をもってしては、その改善更生は困難であり、更に非行を重ねるおそれも大きいと認められるから、この際少年を少年院に戻して収容し、再び矯正教育を施すことによって、健全な生活観と規範意識の涵養を図るのが適切である。
(2) 非行事実
少年は、
<1> ア 平成2年8月15日午後9時ころ、石川県江沼郡○○町○○×××番地A方において、B所有の自転車1台(時価60、000円相当)を窃取し、
イ 同月19日午前1時ころ、石川県加賀市○○××番地○○荘において、C所有の原動機付自転車1台(時価85、000円相当)を窃取し、
ウ 公安委員会の運転免許を受けないで、平成2年8月24日午前7時55分ころ、石川県江沼郡○○町○○×番地付近道路において、第1種原動機付自転車を運転し、
<2> D(15年)と共謀の上、平成2年8月22日午後10時40分ころ、石川県加賀市○○×丁目×番地○○ハイム自転車置場において、E子所有の原動機付自転車1台(時価100、000円相当)を窃取し
たものである。
(3) 法令の適用
(2)<1>ア、イの各事実につき、刑法235条
(2)<1>ウの各事実につき、道路交通法118条1項1号、64条
(2)<2>の各事実につき、刑法60条、235条
2 当裁判所の判断
少年の各保護事件記録、少年調査記録及び少年の当審判廷における供述によると、「申請の理由の要旨」記載の各事実及び判示の各非行事実が認められ、上記「申請の理由の要旨」記載の各事実に該当する各行為は、上記特別遵守事項及び法定の一般遵守事項に違反しているものである。
少年は、仮退院後短期間働いたほかは、保護司から再三にわたって仕事をするようにとの指導を受け、両親からも注意されたにもかかわらず、全く耳を貸さずに従遊し、自宅や友人宅で夜中までテレビゲームや音楽を聴くことに打ち興じ、また高校1年生の女生徒と交際して同女宅への無断外泊を繰り返し、同女宅あるいは自宅で性関係を重ねる生活を送り、その間、シンナーを吸引し、出身中学校の在校生を呼び出して遊びに誘い入れるなどし、更に判示の各非行をも犯すに至っており、各窃盗はいずれも、上記女生徒宅へ行く途中あるいは同女宅からの帰宅途中に、又は友人とパチンコをしての帰宅途中に、いわば足代わりにするために犯したものである。
他方、保護者は、危機意識に乏しく、少年に対する溺愛傾向が強く結果的には少年の言いなりになっており、適切な指導監督は期待し難い。
以上の事実によれば、保護観察による処遇態勢から全く逸脱して享楽的な生活を送っていたものであるから、保護観察による改善は困難であり、少年院に収容して矯正教育を施すことにより、社会性の習得及び勤労意識の涵養を図るのが相当であると考える。なお、判示各非行は、少年が生活態度を乱して特別・一般遵守事項違反の行為を重ねているその一局面として犯したものであると認められること、その態様からして事案が比較的軽微であることを考慮すると、戻し収容申請事件につき少年を少年院に戻して収容することとし(収容すべき少年院としては中等少年院が相当であると考える)、判示各非行の一般保護事件につき少年を保護処分に付さないこととするのが相当であると解する。
よって、犯罪者予防更正法43条1項、少年審判規則55条により主文のとおり決定する。
(裁判官 新崎長政)
〔参考〕戻し収容申請書
戻し収容申請書
中部委審第××××号
平成2年10月12日
金沢家庭裁判所殿
中部地方更生保護委員会
下記の者は、少年院を仮退院後金沢保護観察所において保護観察中の者であるが、少年院に戻して収容すべきものと認められるので、犯罪者予防更生法第43条第1項の規定により申請する.
氏名
年齢
D・I
昭和49年12月14日生
本籍
福井県坂井郡○○町○○×丁目××××番地
住居
石川県加賀市○○××番地
(金沢少年鑑別所留置中)
保護者
氏名
年齢
D・O
昭23年3月30日生
住居
本人の住居地に同じ
本人の職業
無職
保護者の職業
会社員
決定裁判所
金沢家庭裁判所
決定の日
平成元年11月20日
仮退院許可委員会
中部地方更生保護委員会
許可決定の日
平成2年4月24日
仮退院施設
湖南学院
仮退院の日
平成2年5月11日
保護観察の経過及び成績の推移
別添、金沢保護観察所長からの平成2年10月4日付け、戻し収容申出書謄本中「保護観察の経過及び成績の推移」欄記載(編略)のとおりであるので、これを引用する。
申請の理由
別紙のとおり
必要とする収容期間
参考事項
(編略)
添付書類
1 本人に対する質問調書(甲)謄本1通
2 関係人に対する質問調書(乙)謄本3通
3 誓約書(甲)写し1通
4 金沢保護観察所長からの戻し収容申出書謄本(添付書類省略)1通
5 本人に対する少年院仮退院許可決定書抄本1通
6 少年調査記録1冊
7 電話聴取書写し1通
8 引致状謄本1通
別紙
申請の理由
少年は、平成2年4月24日中部地方更生保護委員会第2部の決定により、同年5月11日湖南学院を仮退院して、石川県加賀市○○××(父)D・Oのもとに帰住し、以後、金沢保護観察所の保護観察下にある者である。
仮退院に際し、少年は、犯罪者予防更生法第34条第2項に定める事項(以下「一般遵守事項」という。)及び同法第31条第3項の規定に基づき、中部地方更生保護委員会第2部が定めた事項(以下「特別遵守事項」という。)の遵守を誓約したものであるが、平成2年10月4日付け金沢保護観察所長からの戻し収容申出書及び関係書類により審理すると、
少年は、
1 仮退院当初から勤労意欲乏しく、平成2年5月14日から同月20日頃まで、加賀市○○町所在の「○○商店」で運転助手、同年7月末ころ同市○○スーパーマーケット「○○」に1日及び同年9月25日ころ○○所在の寿司屋「○」で1日就労したほかは、徒遊生活を続け(一般遵守事項第1号「一定の住居に居住し、正業に従事すること。」後段及び特別遵守事項第4号「定職に就いてまじめに働き、地道に生活すること。」に違反。)
2 同年6月20日ころ、女友達宅へ無断で外泊したのを始めとして、以降、同宅等に無断外泊を反復し(特別遵守事項第5号「夜遊びや家出、外泊をしないこと。」に違反。)
3 同年8月15日午後9時ころ石川県江沼郡○○町○○町内の民家から自転車1台を窃取し、さらに、同月19日午前1時ころ、加賀市○○地内のアパート階下から原付バイク1台を窃取したほか、同月22日午後10時40分ころ、同市○○地内のアパート駐車場から原付バイクを窃取、翌23日同県江沼郡○○町地内において、無免許で原付バイクを運転しているとこそを警察官に補導され(一般遵守事項第2号「善行を保持すること。」に違反。)
4 同年8月20日表記自宅において、シンナーを吸引し、さらに、同年9月7日及び同月8日加賀市○○所在の○○小学校工事現場からシンナーをそれぞれ1リットルくらい窃取し(一般遵守事項第2号「善行を保持すること。」、特別遵守事項第6号「シンナーなどの吸引をしないこと。」及び同第7号「他人のものに手を出さないこと。」に違反)
したものである。
保護観察の経過からみると、
少年は、仮退院当初から勤労意欲に乏しく、無断外泊を繰返し、保護観察官及び担当保護司の再三の助言指導にも従わず、上記遵守事項違反を繰り返し生活態度は改善されず、家庭内においても両親の監護能力にも限界に達し適切な指導は期待できないものがある。
以上のとおり、少年の遵守事項違反の事実、生活態度及び保護環境を鑑みると、少年院入院前の生活態様以上に深刻化しており、このまま保護観察による処遇をもってしても、その改善更生は困難であり、さらに、非行を重ねるおそれも強いと認められるので、この際少年を少年院に戻して収容し、再び矯正教育を実施することによって、健全な生活観と規範意識のかん養をはかることが適切であると判断し、本件申請を行うものである。