金沢家庭裁判所 平成22年(少ハ)1号 決定 2010年3月17日
少年
A (平成4.○.○生)
主文
施設送致申請事件につき,少年を中等少年院に送致する。
各非行事実については,少年を保護処分に付さない。
理由
(施設送致申請の概要)
少年は,平成21年8月28日,当庁で保護観察処分に付され,「深夜にはいかいしたりしないこと」,「家出,無断外泊をしないこと」などの特別遵守事項が設定されたが,同年10月から同年11月の間に2回家出をしたため,同年12月1日,「家出,無断外泊をしないこと」などの遵守事項に違反したとして,金沢保護観察所長から警告を受けた。しかし,少年は,平成22年1月13日以降再び家出をし,その後も家出を繰り返している。このように,少年には再三の指導によるも自覚が認められず,保護観察によっては改善更生を図ることができないため,施設送致の決定を申請する。
(非行事実)
少年は,
第1 平成22年1月21日午後9時30分ころ,石川県a市b町c番地○所在のa市営d自転車駐車場において,氏名不詳者が遺留したB所有の自転車1台(時価3000円相当)を発見し,これを自己のものとして使用する目的で同所から乗り去り,もって横領し,
第2 同月28日午後6時07分ころ,石川県e郡f町g丁目c番地所在の×○1階食料品売場において,同店店長C管理にかかるコーヒー飲料(ペットボトル入り,500ミリリットル)1本(販売価格88円)を窃取し,
第3 D,Eと共謀の上,同年2月17日午後2時ころ,石川県a市b町c番地○所在のa市営d自転車駐車場において,F所有の自転車1台(時価2000円相当)及びG所有の自転車1台(時価5000円相当)を窃取し,
第4 同月20日午前2時20分ころ,石川県a市h丁目i番j号先路上において,k株式会社所属のタクシー運転手Hに対し,所持金が無く,目的地到着後料金を支払える当てがないのに,あるように装い,「l丁目付近まで行ってくれ。」等と申し向け,同人の運転するタクシーに同行女性とともに乗り込み,上記Hをして,目的地到着後直ちに料金の支払いを受けられるものと誤信させ,同所から同市l丁目c番j号先路上まで同タクシーを運転走行させ,同所で上記同行女性を降ろした上,さらに「c番付近に行ってくれ。」等と申し向け,同所から石川県e郡f町g丁目c番地の○所在のm駐車場まで同タクシーを運転走行させ,もって,その料金2930円相当の財産上不法の利益を得,
第5 同月22日午前1時55分ころ,石川県e郡f町g丁目○番地所在のn店において,同店総店長I管理にかかるパーカー等の衣類2点及び漫画本12冊(販売価格合計7550円相当)を窃取し,
第6 同月23日午後3時10分ころ,石川県e郡f町i番o号所在の××駐輪場において,J所有の自転車1台(時価3000円相当)を窃取し,
第7 同月24日午後7時35分ころ,上記第5のn店駐輪場において,K所有の自転車1台(時価1万円相当)を窃取した
ものである。
(非行事実についての法令の適用)
判示第1につき 刑法254条
判示第2,第5ないし第7につき 同法235条
判示第3の各窃盗につき いずれも同法60条,235条
判示第4につき 同法246条2項
(当裁判所の判断)
1 少年は,平成21年8月28日,当庁において,金沢保護観察所の保護観察に付す旨の決定を受け,同保護観察所において,「深夜にはいかいしたりしないこと」,「家出,無断外泊をしないこと」などの特別遵守事項を設定された。
しかし,少年は,平成21年10月22日から同年11月13日まで家出をし,さらに同月15日から同月27日まで家出をし,「家出,無断外泊をしないこと」との特別遵守事項に違反し,同年12月1日,金沢保護観察所長から,同遵守事項などの違反を理由とする警告を受け,遵守事項に重ねて違反すると少年院等の施設に送致されることがある旨の注意を受けた上で,3か月間の特別観察期間を設定された。
にもかかわらず,少年は,平成22年1月13日から家出をし,同月21日に自転車盗で警察に検挙され,翌日自宅に戻り,同日保護観察官から指導を受けたが,同月25日ころから再び家出をし,同月31日に万引きで警察に検挙されて,再び自宅に戻り,さらに,同年2月1日にも家出をし,結局,同月25日,引致状により保護観察所に身柄を確保され,同日当庁で観護措置をとられた。このように,少年は,警告を受けた遵守事項になお重ねて違反した。
2 少年は,母子家庭に育ち,中学在学時から家出や自転車窃盗等の問題行動を起こすなどし,児童自立支援施設に入所した経歴を有していたが,高校2年であった平成21年7月以降,家出を繰り返しては,家出中に自転車を横領したり,食品を万引きしたりし,さらに,一旦保護された後も児童相談所の一時保護所から逃走した。少年は,上記行状などによりぐ犯として立件,送致され,緊急同行状により身柄を確保されて,当庁で観護措置をとられた。少年は,平成21年8月28日,上記占有離脱物横領,窃盗などの非行事実により,保護観察の決定(以下「前件決定」という。)を受けた。
前件決定においては,少年のそれまでの行状から,少年にとって,適切な保護環境を確保し,非行を阻止するためには,家出をしないことが不可欠と考えられ,金沢保護観察所においても,同保護観察の実施に際して,「無断外泊,家出をしない」との遵守事項が特に設定された。
しかし,少年は,保護観察開始後わずか2か月足らずで,実母を生理的に受けつけないなどの理由から,上記1のとおり,再び家出をするようになり,二度の家出に基づき,金沢保護観察所長から警告を受け,3か月間の特別観察期間が設定されたが,それにもかかわらず,その後さらに三度家出を繰り返し,しかも,その間には,上記非行事実第1ないし第7のとおり,自転車の窃盗や食品・衣類の万引きなどの非行を繰り返した。
なお,少年の実母は,少年に対する愛情と監護意欲を有しており,その反面,少年に対する監護姿勢が厳格で,少年の心情への細やかな配慮が不足している点も見受けられるが,かといって少年に対する虐待や遺棄がないのは勿論のこと,その指導内容も理不尽とは言えず,少年の家出が正当化される余地はない。
これらの事情に鑑みれば,少年の遵守事項違反の程度は重いと言わざるを得ない。
3 少年の鑑別結果通知書等によれば,少年の性格等について,物事に対して投げ遣りで,逃避的傾向が強いこと,落ち着きや慎重さに欠け,関心や興味が目先のことに限られること,自分に自信がなく,主体性が乏しいこと,その場の雰囲気に流されやすく,自律性が弱いことなどが指摘できるが,これらの性格傾向は,前件観護措置時から大きな変化はない。
また,前件観護措置及びその後の保護観察を経ても,家出から非行に繋がる少年の行動様式には何ら改善がなく,そればかりか,家庭からの離反傾向及び家出中の累犯罪などの点で,その非行性は深まっていると認められる。
少年は,本件観護措置を経て,自己の逃避的傾向や家出が犯罪に結び付いていることなど,自己の問題性を改めて認識しているものの,それらは前件審判時と同様であり,問題解決への新たな展望は乏しい。一方,少年の実母は,少年に対する指導方針に悩み,観護措置期間中も積極的な関わりはなされておらず,現時点で,少年と実母の確執やすれ違いが解消される兆しは薄い。
これらの各事情に加え,少年が保護観察における保護司との面会や遵守事項を軽視し,保護観察官の指導をまったく顧みることがなかった点を考慮すると,もはや保護観察の処分によっては,少年の改善と更生を図ることができないと認められる。
4 以上のとおり,少年の遵守事項違反の程度は重く,保護観察の処分によっては,少年の改善と更生を図ることができないと認められるから,施設送致申請に基づき,少年を中等少年院に送致するのが相当である。もっとも,少年の非行の幅はある程度限定されていること,少年は枠のある環境の中ではそれなりに規則に従った生活ができると見込まれること,実母は少年を受け入れる気持ちを強く持っていることなどを考慮すると,短期間の集中的な教育においても相応の改善が期待できるので,一般短期の処遇を勧告する。
なお,少年には,判示のとおりの各非行事実が認められるが,上記のとおり,施設送致申請に基づき少年を少年院に送致する旨の処分をすることから,これらの非行事実については,別途処分することはしない(別件による保護)。
よって,少年法26条の4第1項,24条1項3号,26条の4第3項,少年審判規則37条1項を適用して,施設送致申請に基づき,少年を中等少年院に送致することとし,また,少年法23条2項を適用して,各非行事実については,少年を保護処分に付さないこととし,主文のとおり決定する。
(裁判官 足立拓人)
処遇勧告書省略