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釧路地方裁判所 平成16年(わ)125号 判決 2004年12月15日

主文

被告人を懲役5年に処する。

未決勾留日数中110日をその刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は,

第1平成16年5月3日午前1時ころ,北海道標津郡a町南b条西c丁目d番e号所在のA方南側敷地において,Bが所有する自転車1台(時価約3000円相当)を盗み取った。

第2同月17日午前3時ころ,同町南f条西c丁目d番g号所在のC店内において,同店店長Dほか1名が所有する腕時計1個ほか3点(時価合計約3700円相当)を盗み取った。

第3店内から自分の指紋が検出されて,自分が第2の犯行の犯人であることが発覚することを怖れて,E株式会社(代表取締役F)が所有する現に人が住居に使用せず,かつ,現に人がいない鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺平家建前記店舗(総床面積176平方メートル)に放火しようと考え,そのころ,店舗内において,衣料品を掛けて陳列してあるパイプハンガー及び洋服ハンガーの上にそれぞれティッシュペーパーを多数枚置いて,持っていたライターでそのティッシュペーパーに点火して火を放ち,パイプハンガー及び洋服ハンガーに掛けて陳列してある衣料品を介してその火を壁,天井等に燃え移らせ,よって,前記店舗の壁,天井等の一部(約50.815平方メートル)を焼損した。

第4同月28日午前2時ころ,同町南h条西i丁目d番所在のG公園管理棟において,同町役場職員Hが管理するポータブルストーブ1台ほか12点(時価合計約5400円相当)を盗み取った。

第5同日午後11時ころ,同町南b条西i丁目j番k-l号所在のI方東側物置において,Iが所有する灯油約4.5リットルが入ったポリタンク1個ほか1点(時価合計約1225円相当)を盗み取った。

第6同月29日午前1時ころ,同町南b条西i丁目j番k-m号所在のJ方において,Jが所有する現金773円及び缶ビール約20缶ほか28点(時価合計約8800円相当)を盗み取った。

第7同年6月4日午後11時ころ,同町南h条西i丁目j番n号所在のK株式会社L工場南西側敷地内に置かれている灯油タンクから,同社所長代理Mが管理する灯油約18リットル(時価約936円相当)を盗み取った。

第8同月13日午後11時55分ころ,同町南b条西i丁目j番k-o号所在のN方北側敷地に止めてある自動車内から,Nが所有する鮭とば1袋(時価約500円相当)を盗み取った。

第9前述のとおり,他人の家などに入って食べ物などを盗むことを繰り返していたものであるが,自分だけが惨めな生活を送らなければならないのは世間が悪いからだと,世の中に対する不平不満やむしゃくしゃした気持ちが強くなり,この気持ちを晴らすため,Nが所有する自動車に放火しようと考え,そのころ,自動車内において,助手席シート上に置いてあった座布団に,あらかじめ準備して持っていた500ミリリットル用ペットボトル内の灯油(第7の犯行で盗んだものの一部)をまいて,灯油をまいた座布団の上に車内にあったウインドブレーカーのような衣類を乗せ,持っていたライターでその衣類に点火して火を放ち,よって,自動車の助手席等を焼損し,そのまま放置すれば近接した周囲の人家に延焼するおそれのある危険な状態を発生させ,もって公共の危険を生じさせた。

第10食べ物等を盗み取ろうと思って,同月19日午前0時13分ころ,第6記載のJ方に,窓ガラスの一部とクレセント錠を外して窓を開け,窓からJ方に侵入した。

第11業務その他正当な理由による場合でないのに,そのころ,その場において,刃体の長さ約10.5センチメートルの果物ナイフ1本を携帯した。

(証拠の標目)<略>

(累犯前科)

1  事実

平成8年6月7日函館地方裁判所宣告非現住建造物等放火,住居侵入,器物損壊及び建造物等以外放火の各罪により懲役3年6月平成11年8月8日刑の執行終了

2  証拠

前科調書(乙33)

(法令の適用)

罰条

第1,第2,第4ないし第8の各行為

いずれも刑法235条

第3の行為        刑法109条1項

第9の行為        刑法110条1項

第10の行為        刑法130条前段

第11の行為        銃砲刀剣類所持等取締法32条4号,22条刑種の選択

第10及び第11の各罪   いずれも懲役刑を選択

累犯加重         刑法56条1項,57条(第1ないし第11の各罪の刑に再犯の加重,ただし第3の罪の刑について は刑法14条の制限に従う。)

併合罪の処理       刑法45条前段,47条本文,10条(最も重い第3の罪の刑に刑法14条の制限内で法定の加重)

未決勾留日数の算入   刑法21条

訴訟費用の不負担    刑訴法181条1項ただし書

(量刑の理由)

被告人は,自分の境遇が恵まれないことに対する積もった怒りを何ら関係のない人々に向けて晴らそうと思って,同一地域内において,深夜,短期間に放火などを繰り返したという判示累犯前科のほか,窃盗を含む罪による前科が2犯あり,いずれも服役しているにもかかわらず,またも同種の本件各犯行に及んだものであり,被告人には窃盗や放火に対する容易に抜きがたい常習性があると言わざるを得ない。また,その法規範軽視の態度も明らかである。

犯行の結果も,放火だけに限って見ても,判示第3の犯行では,店舗の比較的広範囲を焼損し,経済的損失は約3500万円にも及んでいる。また,判示第9の犯行では,町営住宅からわずか86センチメートルしか離れていない位置に止めていた自動車内に,あらかじめ準備した灯油をまいた上で放火しており,警察官が車が燃えているのをすぐに発見したため大事に至らなかったものの,それでも自動車の損害だけでも約35万円に及んでいる。

にもかかわらず,被告人は,各被害者に対して,何らの被害弁償も慰謝の措置もとっておらず,今後も何らその具体的な見通しすら立っていないのであって,各被害者の被害感情には厳しいものがある。また,今夜は我が家が放火されるかもしれない,盗みに入られるかもしれないなどと恐怖と不安におののいていた地域住民が被告人に対する厳重処罰を求める意向を示しているのも当然と言うほかない。

以上に照らすと,被告人の刑事責任は重いというべきである。

他方,第3の財産的被害のうちの一部は保険により填補されることがうかがわれるほか,本件各被害品の中には被害者に還付されたものもあること,被告人は,自らの罪を認め,謝罪の弁を述べるなど,被告人なりに反省の態度を示していること,平成11年3月に仮出獄して以降平成15年9月までの約4年半は真面目に働いていたと見受けられることなど,被告人のために酌むことのできる事情も認められる。

そこで,これら一切の事情を総合考慮して,主文のとおり刑の量定を行った。

(検察官椿剛志,国選弁護人梅地理各出席)

(求刑-懲役6年)

(裁判長裁判官 河原俊也 裁判官 三井大有 裁判官 古庄研)

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