釧路地方裁判所 平成20年(行ウ)1号 判決 2011年3月08日
主文
1 被告は、参加人Z2会に対し、1万2600円を支払うよう請求せよ。
2 被告は、参加人クラブZ3に対し、59万8888円を支払うよう請求せよ。
3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を除く。)は、これを200分し、その175を原告らの負担とし、その余は被告の負担とする。
5 補助参加によって生じた費用の負担については、別紙1記載のとおりとする。
事実及び理由
第1請求の趣旨
1 被告は、参加人Z1クラブに対し、179万2420円を支払うよう請求せよ。
2 被告は、参加人Z2会に対し、102万4125円を支払うよう請求せよ。
3 被告は、参加人クラブZ3に対し、201万0227円を支払うよう請求せよ。
4 被告は、参加人Z4議員団に対し、60万円を支払うよう請求せよ。
第2事案の概要
1 原告らは、a市議会の会派であった参加人らが平成18年度にa市から交付を受けた政務調査費について使途基準に違反する違法な支出を行っており、参加人らはa市に対して上記支出額から返納額を控除した残額に相当する金員を不当利得又は剰余金として返還すべきであると主張している。
本件は、被告がその返還請求を違法に怠っているとして、a市の住民である原告らが、地方自治法242条の2第1項4号に基づき、被告に対し、参加人らに対して上記返還請求をすべきことを求ある事案である。
2 関連法令の定め
(1) 政務調査費の交付
普通地方公共団体は、条例の定めるところにより、その議会の議員の調査研究に資するため必要な経費の一部として、その議会における会派又は議員に対し、政務調査費を交付することができる。この場合において、当該政務調査費の交付の対象、額及び交付の方法は、条例で定めなければならない(地方自治法(平成20年法律第69号による改正前のもの。以下「法」という。)100条13項)。
これを受けたa市議会における各会派等に対する政務調査費の交付に関する条例(平成19年a市条例第52号による改正前の平成17年a市条例第9号。以下「本件条例」という。)は、次のとおり、議会における会派又は議員に対し、政務調査費を交付することとしている。すなわち、政務調査費は、月を単位とし、毎年度一括して当該年度分を交付する(本件条例3条1項)。会派に対して交付する政務調査費の月額は、各会派の所属議員数に応じ、議員1人につき6万円の割合をもって算定した金額、会派無所属議員に対して交付する政務調査費の月額は6万円とする(本件条例4条)。
(2) 使途基準
会派又は会派無所属議員(以下「会派等」という。)は、政務調査費を規則で定める使途基準に従って使用するものとし、市政に関する調査研究に資するため必要な経費以外のものに充ててはならない(本件条例8条)。
これを受けたa市議会における各会派等に対する政務調査費の交付に関する条例施行規則(平成20年規則第45号による改正前の平成17年a市規則第9号。以下「本件規則」という。)6条は、政務調査費の使途基準を以下のとおり定めている(以下「本件使途基準」という。)。
種目 内容
研究研修費 会派等が開催する研究会若しくは研修会に要する経費又は他のものが開催する研究会若しくは研修会に参加するために要する経費(会場費、講師謝金、出席者負担金・会費、交通費、旅費、宿泊費等)
調査旅費 会派等が行う調査研究活動のために必要な先進地調査又は現地調査に要する経費(交通費、旅費、宿泊費等)
資料作成費 会派等が行う調査研究活動のために必要な資料の作成に要する経費(印刷製本代、翻訳料、事務機器購入代・リース代等)
資料購入費 会派等が行う調査研究活動のために必要な図書、資料等の購入に要する経費
広報費 会派等の調査研究活動及び議会活動並びに市の政策について住民に報告し、又は周知するために要する経費(広報紙又は報告書の印刷費、送料、会場費等)
広聴費 会派等が市政及び政策等に対する住民からの要望及び意見を吸収するための会議等に要する経費(会場費、印刷費、茶菓子代等)
人件費 会派等が行う調査研究活動を補助する職員を雇用する経費
事務所費 会派等が行う調査研究活動のために必要な事務所の設置及び管理に要する経費(事務所の賃借料、維持管理費、備品費、事務機器購入代、リース代等)
その他の経費 上記以外の経費で会派等が行う調査研究活動に要する経費
(3) 収支に関する報告書の提出等
政務調査費の交付を受けた会派又は議員は、条例の定めるところにより、当該政務調査費に係る収入及び支出の報告書を議長に提出するものとされており(法100条14項)、これを受けた本件条例及び本件規則は、次のように定めている。
会派の代表者及び会派無所属議員は、交付を受けた政務調査費について、当該政務調査費の交付を受けた年度の終了後1か月以内に、その収入及び支出に関する報告書を議長に提出しなければならない(本件条例10条1項)。
政務調査費の交付を受けた会派の経理責任者及び会派無所属議員(以下「経理責任者等」という。)は、政務調査費の収入及び支出を明らかにするため、会計帳簿を備えなければならない(本件規則9条1項)。また、経理責任者等は、政務調査費による支出をしたときは、社会慣習その他の事情により徴し難いときを除いて、その事実を証する領収書その他の書面を徴さなければならず、上記領収書その他の書面を、これらの書類に基づき作成した政務調査費収支報告書の提出期限の日の属する翌年度の4月1日から起算して5年を経過ずる日まで保存しなければならない(同条2項、本件条例12条)。
(4) 剰余金の返還
会派等は、その年度につき交付を受けた政務調査費の総額からその年度につき市政の調査研究のため必要な経費として支出した総額を控除した場合において、剰余金が生じたときは、当該剰余金を返還しなければならない(本件条例11条)。
(5) 旅費に関する定め
a市は、議員が公務のため旅行する場合について、a市議会議員の議員報酬及び費用弁償等に関する条例(平成17年a市条例第55号)の規定により費用弁償として旅費を支給することとしている。同条例5条2項から4項までの規定によれば、議員に対しては、a市職員等の旅費に関する条例(平成17年a市条例第66号。以下「旅費条例」という。)別表第2に規定する2級の旅費を支給するほか、一般職の職員に支給する旅費の例によって旅費を支給する旨定められている。
旅費条例の定めは次のとおりである。すなわち、旅費は、最も経済的な通常の経路及び方法により旅行した場合の旅費により計算する(4条本文)。普通旅費は、鉄道賃、船賃、車賃、航空賃、日当、宿泊料及び食卓料の7種とする(8条)。鉄道賃は、鉄道旅行について、路程に応じその乗車に要する旅客運賃を支給するほか、移動距離により急行料金、座席指定料金を支給し(9条)、車賃は、陸路(鉄道を除く。)旅行について、路程に応じて定額(1kmにつき37円)を支給するが、公務上の必要又は天災その他やむを得ない理由により定額の車賃で旅行の実費を支弁することができない場合には、その実費額を支給し(11条1項、別表第1)、航空賃は、現に要する旅客運賃によりこれを支給するものとされている(12条)。また、日当は、旅行の日数に応じ、定額(2級の場合、1日につき3000円)を支給し、宿泊料は、旅行中の夜数に応じ、定額(2級で北海道外に宿泊する場合、1夜につき1万4200円)を支給する(14条)。
3 前提事実(証拠等を掲記しない事実は当事者間に争いがない。)
(1) 当事者等
ア 原告らは、a市の住民である。
イ 被告は、a市の執行機関である。
ウ 参加人らは、いずれも、平成17年10月11日に結成され、平成19年4月30日に議員の任期満了により解散したa市議会における会派である。結成時及び解散時におけるa市議会の構成会派及び所属議員数は、以下のとおりである。(乙2の1から10まで)
参加人Z1クラブ 結成時12名 解散時11名
参加人Z2会 結成時9名 解散時8名
参加人クラブZ3 結成時7名 解散時6名
b議員団 結成時16名 解散時6名
参加人Z4議員団 結成時5名 解散時5名
cクラブ 結成時5名 解散時5名
dクラブ 結成時5名 解散時5名
e議員団 結成時5名 解散時4名
なお、a市は、平成17年10月11日、旧a市、旧e町及び旧f町が合併して、新設された地方公共団体であり、参加人らに所属する各議員は、平成22年法律第10号による改正前の市町村の合併の特例等に関する法律9条1項の規定により引き続きa市議会の議員として在任していたものである(弁論の全趣旨)。
(2) 政務調査費の交付
a市は、本件条例に基づき、以下のとおり、参加人らを含むa市議会における各会派に対し、平成18年度政務調査費を交付した。なお、交付額は、前記(1)の議員の異動に伴う変更決定後の金額である。
参加人Z1クラブ 792万円
参加人Z2会 606万円
参加人クラブZ3 486万円
b議員団 432万円
参加人Z4議員団 360万円
cクラブ 360万円
dクラブ 360万円
e議員団 354万円
(3) 政務調査費の支出
ア 参加人らがした平成18年度政務調査費の支出には、次の支出(以下「本件各支出」という。)が含まれていた(以下、この項において、平成18年中の年月日の記載については年の記載を省略する。)。また、参加人ごとに本件各支出を整理すると、別紙2本件各支出集計表の「費目等」及び「金額」欄記載のとおりとなる(甲10)。
イ 調査旅費
(ア) 四国地方視察 90万5620円
参加人Z1クラブが、所属議員4名が10月3日から10月7日まで四国地方を視察した費用として支出した。なお、所属議員1名が自費で視察に参加した。訪問先等は次のとおり。
10月4日 松山市役所、内子重要伝統的構造物群保存地区、桂浜 この日の視察は、自費参加議員1名を含む4名で行われ、同日夜に残り1名の議員が合流した。(松山市、愛媛県内子町、高知市)
10月5日 高知市役所、かずら橋、大歩危、小歩危、金比羅宮、脇町うだつの町並み(高知市、徳島県三好市等)
10月6日 阿波おどり会館、阿波十郎兵衛屋敷、屋島・栗林公園等(徳島市、高松市)
(イ) 中部地方視察 90万9600円
参加人Z1クラブが、所属議員4名が11月13日から11月17日まで中部地方を視察した費用として支出した。訪問先等は次のとおり。
11月13日 松本市役所(長野県松本市)
11月14日 大町温泉、立山黒部アルペンルート(長野県大町市等)
11月15日 白川郷、本巣、長良川温泉(岐阜県白川村等)
11月16日 岐阜市、永平寺、東尋坊、山代温泉(岐阜市等)
11月17日 兼六園(金沢市)
(ウ) 沖縄県視察 102万4125円
参加人Z2会が、所属議員7名が平成19年1月30日から2月2日まで沖縄県を視察した費用として支出した。訪問先等は次のとおり。
同年1月31日 那覇市ぶんかテンブス館、黒糖工場(沖縄県読谷村)
同年2月1日 サトウキビ畑、美ら海水族館、沖縄県森林資源センター(沖縄県本部町、名護市等)
同年2月2日 JAおきなわ糸満支店、うまんちゅ市場、戦跡国定公園
(エ) 東北地方及び東京都視察 122万6470円
参加人クラブZ3が、所属議員7名が4月2日から4月6日まで東北地方及び東京都を視察した費用として支出した。訪問先等は次のとおり。
4月2日 仙台駅前アーケード(仙台市)
4月3日 仙台市役所、航空自衛隊三沢基地(仙台市、青森県三沢市等)
4月4日 海上自衛隊大湊地方総監部(青森県むつ市)
4月5日 中尊寺金色堂(岩手県平泉町)、松島(宮城県松島町) 参加議員のうち1名が仙台空港からa市に戻った。
4月6日 a市東京事務所、表参道ヒルズ(東京都)
この日の視察には6名の議員が参加した。
ウ 資料作成費 124万5058円
参加人クラブZ3が、所属議員に使用させるため、事務機器等を購入する費用として支出した。内訳は次のとおり。
4月23日 品目 デジタルカメラ1台
金額 5万1159円
使用者 A議員
6月6日 品目 パソコン2台、プリンター1台、デジタルカメラ1台
金額 51万0200円
使用者 B議員
7月9日 品目 プリンター1台、デジタルカメラ1台
金額 8万8919円
使用者 C議員(会派に返還済み)
9月5日 品目 デジタルボイスレコーダー1台
金額 1万5100円
使用者 D
10月25日 品目 電子辞書1台
金額 4万1180円
使用者 A議員
11月25日 品目 パソコン1台
金額 24万4760円
使用者 C議員(会派に返還済み)
11月25日 品目 電子辞書1台
金額 1万7800円
使用者 C議員(会派に返還済み)
12月28日 品目 パソコン1台
金額 27万5940円
使用者 E議員
エ 事務所費 60万円
参加人Z4議員団が、平成18年4月から平成19年3月まで、事務所として使用している建物(釧路市<以下省略>所在、床面積112.2m2、木造2階建。以下「本件建物」という。)の賃料月額7万円及び諸経費(光熱水費、消耗品費、新聞代等)のうち5万円を支出したもの。なお、その余の賃料等は、F北海道議会議員(以下「F道議」という。)ほかが負担している。
(4) 監査請求
原告らは、平成19年10月26日、地方自治法242条1項に基づき、本件各支出、cクラブの調査旅費110万1600円及びb議員団の研究研修費19万9000円の各支出が違法な公金の支出に当たるとして、a市監査委員に対し、監査を求めるとともに、本件各支出によりa市の被った損害を補填するために必要な措置として、被告に対して参加人らに平成18年度政務調査費のうち本件各支出にかかる部分の返還を請求するよう勧告することを求めた。
(5) 監査結果
a市監査委員は、平成19年12月25日、原告らに対し、別紙2本件各支出集計表の「監査結果」欄記載の金額に係る支出並びにcクラブ及びb議員団に係る各支出の一部が本件使途基準に適合せず、原告らの監査請求は一部理由があるとして、被告に対し、平成18年度政務調査費のうち、参加人Z1クラブに係る2万2800円、参加人クラブZ3に係る46万1301円、cクラブに係る8万6000円及びb議員団に係る19万9000円について、返還のために必要な措置を講じることを勧告し、その旨通知した。
参加人Z1クラブ、参加人クラブZ3、cクラブ及びb議員団は、平成20年1月22日から同年2月18日までの間に、a市に対し、上記各金額を平成18年度政務調査費に係る返納金として返納した。また、cクラブは、平成20年3月28日、101万5600円を平成18年度政務調査費に係る返納金として返納した。
(6) 本訴提起
原告らは、平成20年1月22日、地方自治法242条の2第1項4号に基づき、本件訴えを提起した(顕著な事実)。
4 争点及び当事者の主張
(1) 本件各支出中、各調査旅費の支出が本件使途基準に適合するか(争点1)
(原告らの主張)
ア 調査旅費の支出が本件使途基準に適合するか否かを判断するに当たっては、調査目的と市攻との関連性、調査方法及び内容等に関する具体的説明の有無、調査方法の妥当性、調査活動と支出経費の相当性、調査結果の保存の有無等を考察してすべきである。本件においては、特に次の点が強調されなければならない。
イ a市が日本を代表する観光地であるからといって、観光振興策検討という理由で関連性を認めると、政務調査費による観光旅行を無制約に認めることになって、政務調査費制度の趣旨に反する。視察調査の実態が観光地の見学としか判断されない場合には、関連性ないし必要性を否定すべきである。
ウ 調査旅費を政務調査費から支出する以上、視察調査への参加が許容されるのは必要な人数に限られ、同一会派の議員が同一の視察先を視察するなどということは、調査方法の妥当性という観点からも、支出の相当性という観点からも、本件使途基準に適合しないというべきである。
エ 政務調査費の支出に当たっては、地方自治法2条14項に定める「最少の経費で最大の効果を挙げるように」するとともに、地方財政法4条1項に定める「地方公共団体の経費は、その目的を達成するための必要且つ最少の限度をこえて、これを支出してはならない。」という財政支出基準が遵守されなければならない。したがって、実費を上回る旅費条例の例により計算した旅費を支出することは、本件使途基準に適合しないというべきである。また、1泊2食付き観光ホテルの宿泊費の支出も、このような観点から本件使途基準に適合しないというべきであり、ビジネスホテルの宿泊費に相当する金額に限るべきである。
オ 個別の視察調査についての主張は、別紙3記載のとおりである。
(被告及び参加人ら(参加人Z4議員団を除く。)の主張)
ア 平成12年法律第89号による地方自治法の一部改正は、政務調査費の制度を創設し、もって議員の調査研究活動の充実化を図るものであるが、議員の調査研究活動それ自体の具体的内容、方法、態様については、地方自治法及び本件条例には何ら規定が置かれていない。これは、議員の調査研究活動は、その範囲が特定かつ具体的な課題に限られるものではなく、広範多岐にわたる分野において研究、研修、視察、資料購入等を随時行うものであることにかんがみて、調査研究活動の具体的内容、方法、態様について、会派等に広範な裁量を認める趣旨と解される。
そうすると、会派等による政務調査費の支出が違法であると認められるのは、本件条例8条及び本件規則6条に照らし、その支出の対象となった調査研究活動が市政との関連性を有しないことが客観的に明白な場合や、仮に市政との関連性を有するとしても、調査研究活動の手段、態様に照らして必要性や合理性が認められないことが客観的に明白である場合に限られる。
イ 本件条例及び本件規則には、実費による精算をしなければならない旨の規定はなく、定額給付を定める規定もないことから、a市議会は実費を支給するか旅費条例の例により支給するかを会派に選択させ、旅費の額を算出する扱いとしていた。旅費条例はa市職員等に等しく適用されるものであって、その内容は合理的なものである。
ウ 個別の視察調査についての主張は、別紙3記載のとおりである。
(2) 本件各支出中、各資料作成費の支出が本件使途基準に適合するか(争点2)
(原告らの主張)
市議会議員であれば、個人としてパソコンを所有しているのが通常であり、政務調査費で議員1人当たり1台のパソコンを購入して議員に貸与する必要性はない。今後も返還されないことが予想されるパソコンの代金は全額が返納されるべきである。デジタルカメラやプリンター、デジタルボイスレコーダー、電子辞書等は、政務調査費を支出して購入する必要のないものであり、消耗品にも該当しない。
(被告及び参加人クラブZ3の主張)
参加人クラブZ3は、事務所を保有していないから、各議員の日常の活動拠点は各議員の自宅であり、購入機器の管理は個々の議員がしていることもやむを得ない。所在不明となっている議員の保管していた購入機器については紛失しているのと同様であることから、購入費を返納しているが、その余は会派として管理ができている。これらの事務機器は議員が会派活動を行うために必要として購入されたものであり、本件使途基準に適合している。
(3) 本件各支出中、事務所費の支出が本件使途基準に適合するか(争点3)
(原告らの主張)
参加人Z4議員団の事務所は、事務所としての形態も実質も備えていない。
a市議会内には会議や集会を行うことのできる委員会室があり、常設の事務所を必要とする理由がなければ、事務所費の支出は不要である。
参加人Z4議員団は、政務調査費から事務所の賃料等の1か月8万円のうち5万円を支出しているが、同事務所は、Z4を支える会a、Z4a総支部、F道議連合後援会事務所及びZ4議員団の4つの異なる団体により使用されている。政務調査費の支出が認められるのは、参加人Z4議員団が市政との関係で使用する部分に関する賃料のみであるのに、適正な按分がされていない。同事務所を利用する各団体は、同事務所を事務所としている以上、そこを日常活動の中心にしているものというべきである。
(被告及び参加人Z4議員団の主張)
参加人Z4議員団は、事務所を打合せ、市民からの陳情の受付、議会活動の広報、広報物の製作等の業務に利用しており、市役所の利用がはばかられる休日や平日夜間にも同事務所を利用することができた。市民からの陳情の受付一つをとっても、常設の事務所の必要性は明らかである。
参加人Z4議員団は、同事務所を常時使用している。一方、F道議は、1年間のうち半年は札幌で活動しており、同事務所を利用するのは多くて半年程度である。Z4総支部は、主たる事務所をG議員の自宅とし、同事務所は月1回程度の役員会及び議員会で使用する程度である。Z4を支える会aは、同事務所を設置、運営、管理しているほか、年1回の総会に利用するのみである。
同事務所は、Z4を支える会aが賃料月額7万円で賃借し、参加人Z4議員団、F道議Z4a総支部が転借しており、参加人Z4議員団が賃料月額5万円を、F道議が賃料月額3万円を、Z4a総支部は印刷機のリース代と紙代25万2283円を負担していた。Z4を支える会aは、同事務所の賃料のほか、光熱費、消耗品費、電話代、その他の通信費、人件費等を負担していた。事務所の経常経費は年260万円前後であり、参加人Z4議員団の使用頻度からすると、月額5万円は低額といえる。
本事務所費は、他の団体を含めた利用実態に照らすとむしろ低額であって、使途基準に適合している。
同事務所の連絡先の周知が十分でないとしても、連絡先の周知は事務所機能の一部を向上させるにすぎず、特定の議員に相談が持ちかけられることが多いことからすれば、同事務所は打合せ等の業務を行うのに十分なものといえる。
第3当裁判所の判断
1 政務調査費を不当利得として返還すべき場合について
(1) 法100条13項は、普通地方公共団体が議会の議員の調査研究活動に資するため必要な経費の一部として、会派又は議員に対して政務調査費を交付することができると定めた上、その交付の対象、額及び交付の方法等については条例で定めることとしている。これを受けた本件条例8条は、会派等が政務調査費を規則で定める使途基準に従って使用するものとし、市政に関する調査研究に資するため必要な経費以外のものに充ててはならないと定め、本件規則においては、経費を研究研修費、調査旅費、資料作成費、資料購入費、広報費、広聴費、人件費、事務所費及びその他の経費の9つの種目に区分した上、種目ごとに内容を具体的に定めることにより、政務調査費の使途基準を定めている(本件使途基準)。また、本件条例11条において、会派等は、その年度につき交付を受けた政務調査費の総額からその年度につき市政の調査研究のため必要な経費として支出した総額を控除した場合において、剰余金が生じたときは、当該剰余金を返還しなければならないことが定められている。
これらの規定の趣旨からすれば、会派等が政務調査費の一部又は全部を本件使途基準に適合しない使途に支出したときは、当該部分が市政に関する調査研究に資するため必要な経費に充てられたとはいえないというべきである。そして、剰余金の額を計算するに当たり、当該部分を「市政の調査研究のため必要な経費として支出した総額」に含めることはできないと解されるから、その結果として交付された政務調査費に剰余金が生ずることとなるときは、当該会派等は、当該余剰金を返還する義務を負うというべきである。
(2) 政務調査費の支出がいかなる場合に本件使途基準に適合しないこととなるかについては、議会の審議能力を強化し、議員の調査研究活動の基盤の充実を図るとともに、その使途の透明性を確保しようとする政務調査費制度の趣旨等を踏まえ検討すべきであるが、使途の種目によって、議員の調査研究活動との関連性や当該活動に当たって政務調査費を支出する必要性を推認させる程度が異なると考えられるから、本件使途基準に定められた使途の種目に応じて個別的に検討することが相当である。
2 争点1(各調査旅費の支出が本件使途基準に適合するか)について
(1) 本件使途基準との適合性の判断基準
ア 本件使途基準は、調査旅費の支出について、その内容を「会派等が行う調査研究活動のために必要な先進地調査又は現地調査(以下、単に「現地調査」という。)に要する経費(交通費、旅費、宿泊費等)」と定めている。議員が行う現地調査は、一般に、調査研究活動そのものであるか、それと密接に関連する準備行為としての性格を有しており、会派又は会派に属する議員の活動の根幹に関わるものである。したがって、現地調査の具体的内容、方法、態様等については、会派等の自律的、裁量的判断に委ねることが適当であって、会派等以外のものがその当否を厳格に判断することは相当ではない。そうすると、現地調査の具体的内容、方法、態様等に関し、調査旅費の支出が本件使途基準に適合しないこととなるのは、現地調査と市政との関連性を明らかに欠いたり、視察の方法が著しく妥当性を欠くような場合など、会派等に与えられた裁量権の逸脱又は濫用が認められる場合に限られるというべきである。
イ 現地調査に当たっては、会派等が旅行を手配し、経費を直接負担するのみならず、現地調査のための旅行を行う議員に対し旅費を支給することも、本件使途基準に反するものではないと解されるが、旅費を支給する場合において、当該金額をどのように決定するかについては、本件使途基準(又は本件条例若しくは本件規則)に定めがない。この点、a市では、平成18年当時、会派の選択により、実費又は旅費条例の例により計算した旅費を支給する運用がされていたことが認められる(甲10)。
一般的に、現地調査の具体的内容、方法、態様等が会派等の自律的、裁量的判断に委ねられるとしても、政務調査費が調査研究に資するため「必要な費用」を支給する制度であり、収支報告書を議長に提出すること等により使途の透明性を確保するものとされていることを併せ考えると、会派が議員に支給すべき旅費の額については、現地調査のための旅行に要する金額に限られるべきであり、この額の決定が会派の自由な裁量に委ねられる性質のものではないと解すべきである。
本件では、いずれの会派も旅費条例の例により計算された金額を支給しているととろ、旅費条例の例により計算された金額を支給することが許されるかについて検討する。a市議会の議員が公務により出張する場合には、a市議会議員の議員報酬及び費用弁償等に関する条例5条2項から4項までの規定により、旅費条例別表第2に規定する2級の職員に準じて計算された旅費を支給するものとされている。このような取扱いをする趣旨は、旅費条例におけるのと同様に、冗費節約と事務の簡素化を目的としたものであり、一定の合理性を有すると考えられる。そして、この趣旨は、会派が旅費を支給する場合にも妥当するといえるから、会派が現地調査を行う議員に旅費を支給する場合において、旅費条例の例により計算された金額を支給することも本件使途基準に反するものではないと解される。
ウ また、会派等が現地調査のための旅行を行う議員に対し、旅費のほか、視察先に支払うべき料金等の実費を支給した場合、それが社会通念上必要かつ相当なものと認められる限り、現地調査に要する経費として本件使途基準に反するものではないと解される。
エ 上記に反する原告らの主張は採用できない。
(2) 参加人Z1クラブの四国地方視察について
ア 次に掲げた証拠によれば、次の各事実が認められる。
(ア) 参加人Z1クラブは、a市の財政状況が予想以上に厳しいものとなっているとの認識から、他の市における行財政改革の状況について調査することとした。そして、行財政改革を進行中の市で、財政状態に差のある2つの市を比較調査することとして、松山市及び高知市を視察することとした。併せて、a市Z1地域における観光振興が課題になっているとの認識から、歴史ある観光地における観光客の動向を視察することとして、前記前提事実(3)イ(ア)記載のとおりの視察を計画した。(甲2の2、甲15から17までの各1及び2、甲39、丙A2、4、証人H、弁論の全趣旨)
(イ) 参加人Z1クラブの視察は、上記計画のとおり行われた(前記前提事実(3)イ(ア)。また、視察後には報告書が作成された(丙A2)。
(ウ) 上記視察に関し、参加人Z1クラブは、所属議員4名に対し、旅費として合計88万9140円を支給した。この旅費には、四国地方内の移動のための借上げ車代23万5000円(運転手宿泊料を含む。)、旅行傷害保険料4000円が含まれていた。また、参加人Z1クラブは、上記視察に関し、キャンセル料1万6480円を支出した。(甲2の1から3まで)
イ 前記ア(ア)(イ)の認定事実によれば、各視察先について、市政との関連性が認められる。この点、原告らは松山市役所及び高知市役所の視察時間が各1時間程度にとどまること、事前の申入れもなく高知市役所を訪問したこと、観光施設等も単に見て歩いたにすぎないこと、1名の議員が自費で参加したこと、参加を取りやめた議員のいること等から、必要のない視察であった旨主張するが、そのような事情は、上記関連性を否定するものではない。
また、会派所属議員のうち4名が参加して視察がされたことについても、そのことゆえに妥当性を欠くとまでは認められない。
以上によれば、四国地方視察について、政務調査費から旅費を支出したことに裁量権の逸脱又は濫用は認められない。
ウ 参加人Z1クラブが所属議員に支給した旅費等の相当性について検討する。
参加人Z1クラブは、旅費の計算に当たり、旅行傷害保険料4000円を含めているところ、本件使途基準においても経費の支出は認められると解されるし、その額も通常のものといえるから、社会通念上の必要性・相当性が認められる。
次に、参加人Z1クラブは、旅費のほか、キャンセル料1万6480円を支出しているところ、参加を取りやめた理由が不明であるから、当該費用を支出することは社会通念上の必要性・相当性を欠き、かかる支出は本件使途基準に適合しない。
もっとも、参加人Z1クラブは、監査結果に従い、上記金額を返納している。
その他の旅費については、旅費条例の例により計算された金額を支給したものと認められる。なお、参加人Z1クラブは、定額の車賃に代えて借上げ車代23万5000円を支給しているところ、この点について社会通念上の必要性・相当性を疑う事情は存しないから、このような支給も許される。
エ 以上によれば、参加人Z1クラブが四国地方視察に関してした調査旅費の支出のうち、監査結果で指摘されたものを除いた支出については本件使途基準に適合するものといえる。
これに反する原告らの主張は採用できない。
(3) 参加人Z1クラブの中部地方視察について
ア 次に掲げた証拠によれば、次の各事実が認められる。
(ア) 参加人Z1クラブは、観光振興がa市Z1地域の課題となっているとの認識から、国のまちづくり地域再生計画の指定を受け、観光振興戦略が策定された松本市を視察し、併せて周辺観光地における観光振興策について調査することとし、前記前提事実(3)イ(イ)記載のとおりの中部地方視察を計画した。(甲3の3、4、甲18の1、2、甲39、丙A3、5、7、8、証人I)
(イ) 参加人Z1クラブの視察は、上記計画のとおり行われた(前記前提事実(3)イ(イ))。ただし、参加議員のうち2名は、金沢市から関西方面への私事旅行に移った。また、松本市かち交付された資料が保管されている。(甲10、丙A3)
(ウ) 上記視察に関し、参加人Z1クラブは、所属議員4名に対し、旅費として合計90万9600円を支給した。この旅費には、中部地方内の移動のための借上げ車代35万6240円、旅行傷害保険料4000円が含まれていた。(甲3の1、2)
イ 前記ア(ア)(イ)の認定事実によれば、各視察先について、市政との関連性が認められる。この点、原告らは、担当者等との意見交換が行われておらず、視察は名目に過ぎないと主張するが、上記関連性を否定するものとはいえない。また、原告らは、参加人Z1クラブが同一年度に中部地方の視察を行っていることから、現地調査の必要がないなどと主張する。この点、証拠(証人I)及び弁論の全趣旨によれば、参加議員のうち1名が同年5月に参加人Z1クラブが行った中部地方視察に参加しており、立山黒部アルペンルートを2度視察したことが認められる。しかし、一度に視察すべきであったというだけでは社会通念上の必要性・相当性は否定できない。また、同日は、長野県から岐阜県への移動日であり、同議員のみが別の経路で移動することが経済的であることを認めるに足りる証拠もないから、以上のような事情は中部地方視察が本件使途基準に適合するか否かの判断を左右するものではない。
また、会派所属議員のうち4名が参加して視察がされたことについても、そのことゆえに妥当性を欠くとまでは認められない。
以上によれば、中部地方視察について、政務調査費から旅費を支出したことに裁量権の逸脱又は濫用は認められない。
ウ 参加人Z1クラブが所属議員に支給した旅費の相当性について検討する。
参加議員のうち2名が中部地方視察の後、私事旅行に移ったことが認められるところ、その後に生じた航空賃等については、調査研究活動に必要な費用と認められないから、復路の航空賃2名分2万2800円については本件使途基準に適合しない。もっとも、参加人Z1クラブは、監査結果に従い、上記金額を返納している。
参加人Z1クラブは、旅費の計算に当たり、旅行傷害保険料4000円を含めているところ、本件使途基準においても経費の支出は認められると解されるし、その額も通常のものといえるから、社会通念上の必要性・相当性が認められる。
その他の旅費については、旅費条例の例により計算された金額を支給したものと認められる。なお、参加人Z1クラブは、定額の車賃に代えて借上げ車代35万6240円を支給しているところ、この点について社会通念上の必要性・相当性を疑う事情は存しないから、このような支給も許される。
エ 以上によれば、参加人Z1クラブが中部地方視察に関してした調査旅費の支出のうち、監査結果で指摘されたものを除いた支出については本件使途基準に適合するものといえる。
これに反する原告らの主張は採用できない。
(4) 参加人Z2会の沖縄県視察について
ア 次に掲げた証拠によれば、次の各事実が認められる。
(ア) 参加人Z2会は、a市音別地域の農業振興、a市の中心市街地の空洞化対策が重要な課題となっているとの認識から、中心市街地の活性化対策のため建設された那覇市ぶんかテンブス館のほか、地産地消の推進に取り組んでいるJAおきなわ糸満支店等を視察することとし、上記の施設を中心に次のとおりの視察を計画した。(甲5の1から3まで、甲19の1、2、丙B2、3、証人J)
平成19年1月31日 那覇市ぶんかテンブス館、黒糖工場
平成19年2月1日 県中部各施設、沖縄県森林資源研究センター
平成19年2月2日 JAおきなわ糸満支店、戦跡国定公園
(イ) 参加人Z2会の視察は、上記計画のとおり行われた。県中部各施設視察とされていた2月1日午前には、サトウキビ畑、美ら海水族館の視察が行われた(前記前提事実(3)イ(ウ))。また、視察後に報告書が作成された。(甲5の1から2の5まで、丙B2)
(ウ) 上記視察に関し、参加人Z2会は、所属議員7名に対し、旅費として合計80万5070円に加え、貸切りバス代19万9500円、高速道路料金900円、水族館入館料1万2600円、フィルム代1440円及びプリント代4615円を支給した。(甲5の1、2)
イ 前記ア(ア)(イ)の認定事実によれば、美ら海水族館を除く各視察先について、市政との関連性が認められる。この点、原告らは、上記視察が十分な事前準備を欠くもので、a市と沖縄の実情の相違を踏まえておらず、失敗した事業の視察を対象に含むなど、上記各施設の視察が不要であった旨主張する。しかし、原告ら主張の事情は、いずれも上記関連性を否定するものとはいえない。
また、会派所属議員のうち7名が参加して視察がされたことについても、そのことゆえに妥当性を欠くとまでは認められない。
もっとも、美ら海水族館については、参加人Z2会が視察旅行の目的とした農業振興、中心市街地空洞化対策との関連性を見出し難い上、これに関する記載が報告書(丙B3)にない。そして、これらの事実からは、同水族館の視察がもっぱら観光を目的とするものであったことが推認されるが、かかる推認を妨げる事情も見当たらない。そうすると、同水族館の入館料を政務調査費から支出したことについては、裁量権の逸脱又は濫用があったといわざるを得ない。したがって、上記水族館の入館料1万2600円の支出は本件使途基準に適合しない。
ウ 続いて、参加人Z2会が所属議員に支給した旅費等の相当性について検討する。
参加人Z2会は、旅費条例の例により計算された金額を支給したものと認められる。なお、参加人Z2会は、定額の車賃に代えて貸切りバス代19万9500円及び道路料金900円を支給しているところ、この点について社会通年上の必要性・相当性を疑う事情は存しないから、このような支給も許される。その余の支出についても、現地調査に要する経費に当たり、本件使途基準に適合する。
エ 以上によれば、参加人Z2会が沖縄県視察に関してした調査旅費の支出のうち、1万2600円については本件使途基準に適合せず、その余の支出については本件取得基準に適合するものといえる。
これに反する原告ら及び被告・参加人Z2会の主張は採用できない。
(5) 参加人クラブZ3の東北地方及び東京都視察について
ア 次に掲げた証拠によれば、次の各事実が認められる。
(ア) 参加人クラブZ3は、防災対策、特に陸路が閉そくした場合における災害復旧の在り方及びa市の財源確保が課題となっているとの認識から、災害出動において北海道地方を管轄する航空自衛隊三沢基地及び海上自衛隊大湊地方総監部を視察し、協力要請と協議を行うこと、市有財産に民間企業の広告を採り入れる試みをしていた仙台市を視察することとし、併せて、a市東京事務所の存続が問題となっているとの認識から、その業務の実情を調査するためにa市東京事務所を、a市において観光が基幹産業となっているとの認識から、政策提言のために、周辺観光地をそれぞれ視察することとし、前記前提事実(3)イ(エ)記載のとおりの東北地方及び東京都視察を計画した。(甲4の1から3まで、丙C2、3、証人K)
(イ) 参加人クラブZ3の視察は、上記計画のとおり行われた(前記前提事実(3)イ(エ))。ただし、参加議員のうち1名は、4月2日札幌市での私事旅行を終えた後、空路で仙台空港に入り、他の議員と合流して視察を行った後、同月5日に視察を切り上げて、a市に戻るという他の議員と異なる行程をとったことが認められる。(甲10)
(ウ) 上記視察に関し、参加人クラブZ3は、所属議員7名に対し、旅費として合計122万6470円を支給した。上記の旅費には、航空賃合計43万6800円及び鉄道賃27万4330円が含まれていた(甲4の1、2、甲12の1から6の2まで)。
イ 前記ア(ア)(イ)の認定事実によれば、仙台市役所、航空自衛隊三沢基地、海上自衛隊大湊地方総監部、a市東京事務所の視察については、市政との関連性が認められる。この点、原告らは、航空自衛隊三沢基地及び海上自衛隊大湊地方総監部の訪問について、市議会議員の訪問によって災害出動が影響を受けることはなく協力要請の必要はないと主張するが、上記協力要請を議員として行うことが市政との関連性を有することは否定し難い。また、原告らは、仙台市がa市と規模の大きく異なる自治体であるから、仙台市の視察がa市政に有益とはいえない旨主張するが、そのような事情は上記関連性を否定する事情とはいえない。
平泉、松島及び表参道ヒルズの視察については、いずれも観光地であるものの、政策提言のためにこれらの観光地を視察することが市政との関連性を欠くとはいえず、視察後に報告書が作成されていることに照らせば、なお市政と関連性を認めることができる。この点に関する原告らの主張は、採用できない。
また、会派所属議員のうち7名が参加して視察がされたことについても、そのことゆえに妥当性を欠くとまでは認められない。
以上によれば、東北地方及び東京都視察について、政務調査費から旅費を支出したことに裁量権の逸脱又は濫用は認められない。
ウ 参加人クラブZ3が所属議員に支給した旅費等の相当性について検討する。
参加人クラブZ3は、旅費の計算に当たり、航空賃を7名分で合計43万6800円としているところ、証拠(甲10、12の3)及び弁論の全趣旨によれば、航空賃の実費は6名分19万4400円であると認められる。旅費条例の例によれば、航空賃は現に要する旅客運賃により支給すべきである(a市において航空運賃を定額で支給する運用がされていたことがうかがえるが、そのような運用は、旅費条例の規定に照らして、適法性に疑義があるので採用しない。)。また、他の議員と異なる行程をとったD議員が現に要した航空賃は不明である(監査委員が認定した運賃5万7610円中の航空賃が実費であることを認めるに足りる証拠はない。)。旅費条例の解釈上、調査と無関係の旅行によって費用が増加する場合には、当該増加部分は旅行者が負担すべきと考えられるから、D議員についても航空賃として支給することができるのは航空賃の実費1名分に相当する3万2400円が限度となる。そうすると、上記実費額に3万2400円を加えた22万6800円を上回る21万円については本件使途基準に適合しない。
次に、参加人クラブZ3は、鉄道賃を7名分で27万4330円としているところ、証拠(甲4の2、甲10、12の3)によれば、鉄道賃の実費は、合計19万0770円(私鉄運賃800円×6名分を含む。)と認められる。旅費条例の例によれば、その乗車に要する旅客運賃を支給することとされているから、差額8万3560円が実費を上回る額となる。しかし、上記各証拠によれば、議員らが鉄道に代えてレンタカーを利用し、その代金額4万0330円の支給を受けていないことが認められ、この利用及び金額について社会通念上の必要性・相当性を疑う事情は存しないから、上記代金4万0330円の支出を認めるのが相当である。そうすると、上記差額から上記代金を控除した残額4万3230円については本件使途基準に適合しない。
さらに、参加人クラブZ3は、宿泊料を1名当たり5万6800円、日当1万5000円としているところ、仙台で視察を切り上げたD議員が要した宿泊料及び日当として認められるのは、3泊分4万2600円及び日当1万2000円に限られるから、これを上回る1万7200円(1万4200円+3000円)については本件使途基準に適合しない。
その他の旅費については、旅費条例の例により計算された金額を支給したものと認められる。
エ 以上によれば、参加人クラブZ3が東北地方及び東京都視察に関してした調査旅費の支出のうち、27万0430円(21万円+4万3230円+1万7200円)については本件使途基準に適合せず、その余の支出については本件使途基準に適合するものといえる。
これに反する原告ら及び被告・参加人クラブZ3の主張は採用できない。
もっとも、参加人クラブZ3は、監査結果に従い、上記27万0430円のうち4万6190円を返納している。
3 争点2(資料作成費の支出が本件使途基準に適合するか)について
(1) 証拠(甲8、10、証人K)及び弁論の全趣旨によれば、参加人クラブZ3が前記前提事実(3)ウ記載のとおり事務機器を購入し、資料作成費として合計124万5058円を支出したこと、これらの事務機器の所有権は会派に帰属するものの、常時、議員個人が自宅等において使用保管する扱いとされ、会派として事務機器を管理する台帳などは作成されていなかったこと、6月6日購入分の事務機器(51万0200円相当)を使用保管していたB議員が、平成18年12月に議員を辞職したが、同議員と連絡がとれず、同議員使用に係るパソコン等が返還されていないことが認められる。
(2) 本件使途基準は、資料作成費につき「会派等が行う調査研究活動のために必要な資料の作成に要する経費(印刷製本代、翻訳料、事務機器購入代、リース代等)」と定めている。
本件で購入された事務機器については、調査研究活動のために通常必要となることが認められる一方、調査研究活動に当たらない政治活動や議員個人の私的活動等、調査研究活動以外の用途にも使用することができる性質のものである。そうすると、当該物品が調査研究活動以外の用途に用いられていないことを認めるに足りる事情のない限り、購入費用の全額を政務調査費から支出することは本件使途基準に反して許されないと解される。このような場合、当該物品が調査研究活動に供される割合の限度で、購入費用を政務調査費から支出できるとするのが相当である。
まず、B議員使用に係るパソコン2台等については、辞職の6か月前に購入されていること、辞職の原因が同議員の経済的破綻であったこと(証人K)、2台同時に購入する必要性についての説明もないこと、上記(1)の認定事実からは、機器購入の意思決定はもっぱら当該機器を使用保管する議員が行っていたことがうかがわれること、議員辞職後もこれらの物品が会派に返還されていないこと等を考慮すると、その購入のための支出は調査研究のための必要性に欠けるものであったことが推認されるというべきであり、かかる推認を妨げる事情もない。そうすると、同議員が購入した物品については、調査研究活動のために必要であったと認めることができないから、その代金の全額である51万0200円については本件使途基準に適合しないものと認められる。
また、その余の事務機器については、議員個人が自宅等において常時使用保管する扱いであったことからすると、調査研究活動以外の用途に用いられていないことを認めるに足りる事情がうかがわれない。したがって、市議会議員の職務内容等にかんがみ、調査研究活動に供される割合を5割と認めるのが相当であるから、その購入費用の5割に相当する限度で本件使途基準に適合するといえる。
もっとも、証拠(甲10)によれば、C議員が使用していた事務機器等については、監査期間中に会派に返還されたことが認められるので、この返還によって調査研究活動以外の用途に用いられていないことになる。ただし、返還された残余価値は不明であるため、5割の限度で認めることとする。
その結果、A議員、D議員及びE議員の購入代金合計38万3379円の5割である19万1690円(円未満四捨五入)と、C議員の購入代金35万1479円の7割5分(1-0.5×0.5)に相当する26万3609円(円未満四捨五入)との総合計45万5299円については本件使途基準に適合するといえる。
(3) 以上によれば、参加人クラブZ3の資料作成費のうち、78万9759円(51万0200円+19万1689円(38万3379円-19万1690円)+8万7870円(35万1479円-26万3609円))については本件使途基準に適合しない。
もっとも、参加人クラブZ3は、上記78万9759円のうち41万5111円を監査結果に従い返還している。
4 争点3(事務所費の支出が本件使途基準に適合するか)について
(1) 証拠(甲6、10、丙D2ないし6、証人G)によれば、次の各事実が認められる。
ア 本件建物は、Z4を支える会aが賃借し、Z4議員団、F道議及びZ4a総支部に転貸し、参加人Z4議員団のほか、F道議、Z4a総支部、Z4を支える会aの各事務所として使用されていた。(原告らは、同事務所の所在地等が東北海道年鑑等の各種媒体に掲載されていないなどとして、同事務所が参加人Z4議員団の事務所としての形態も実質も備えていない旨主張するが、上記各証拠に照らし採用できない。)
イ 本件建物には間仕切り等がなく、上記各団体等の使用部分の特定はなかった。F道議が同事務所を使用するのは、1年間のうち半年間程度であり、Z4a総支部が同事務所を使用するのは1年に7回程度の役員会に限られていた。
ウ Z4を支える会aの平成18年度決算(丙D6)によれば、事務所の経常経費の合計は259万9761円である。これらの経費の分担割合については、参加人Z4議員団が月額5万円、F道議が月額3万円、その余はZ4を支える会a又はZ4a総支部が負担していた。
(2) 本件使途基準は、事務所費につき、「会派等が行う調査研究活動のために必要な事務所の設置友び管理に要する経費(事務所の賃借料、維持管理費用、備品費、事務機器購入代、リース代等)」と定めている。もっとも、議員の事務所は、調査研究活動のために通常必要となることが認められる一方、調査研究活動に当たらない政治活動や政党活動等、調査研究活動以外の用途にも使用することができる性質のものである。そうすると、当該事務所が調査研究活動以外の用途に用いられていないことを認めるに足りる事情のない限り、事務所費の全額を政務調査費から支出することは本件使途基準に反して許されないと解される。このような場合、当該事務所が調査研究活動に供される割合の限度で、事務所費を政務調査費から支出できるとするのが相当である。
本件においては、本件建物が参加人Z4議員団に所属する議員による調査研究活動に供される割合の限度で、事務所費を政務調査費から支出できるところ、各団体の使用頻度奪を考慮すると、上記の割合を少なくとも3割と認めるのが相当である。そして、参加人Z4議員団が支払った賃料年間60万円は、上記の本件建物の賃料、光熱水費等の総額に占める上記割合等を下回ると考えられるので、賃料の支出は本件使途基準に適合するといえる。
5 まとめ
以上によれば、本件各支出のうち、別紙2本件各支出集計表の「当裁判所の判断」欄記載の金額に係る支出が本件使途基準に適合しない。そして、参加人Z2会及び参加人クラブZ3は、前記前提事実(5)の返納済みの額を控除した残額をa市に返還すべきところ、その返還義務の範囲は以下のとおりである。
参加人Z2会 1万2600円
参加人クラブZ3 59万8888円
第4結論
よって、原告らの請求は、被告に対し、参加人Z2会に1万2600円、参加人クラブZ3に59万8888円の各支払を請求するよう求める限度で理由があるから、上記の限度でこれらを認容し、その余はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小西洋 裁判官 小野寺健太 中村英晴)
(別紙1)
1 原告らの負担
原告らに生じた費用の200分の175、参加人Z2会に生じた費用の100分の98、参加人クラブZ3に生じた費用の100分の70並びに参加人Z1クラブ及び参加人Z4議員団に生じた費用の全部
2 参加人Z2会の負担
原告らに生じた費用の200分の1及び参加人Z2会に生じた費用の100分の2
3 参加人クラブZ3の負担
原告らに生じた費用の200分の24及び参加人クラブZ3に生じた費用の100分の30
以上