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釧路地方裁判所 平成22年(ワ)247号 判決 2011年7月13日

主文

1  被告は、原告に対し、825万0832円及びこれに対する平成23年1月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、これを5分し、その3を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

4  この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

被告は、原告に対し、2053万3414円及びこれに対する平成23年1月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

1  本件は、釧路地方裁判所平成22年(フ)第1号破産事件の破産債権者であった原告が、同事件の破産管財人であった被告に対し、誤った配当表に基づいて配当を行った等の善管注意義務違反があったとして、破産法85条2項に基づき、損害賠償の一部として2053万3414円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成23年1月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事件である。

2  前提事実

次の各事実は、当事者間に争いがないか、当該箇所に摘示する証拠等により容易に認めることができる。

(1)  株式会社妹尾商店(以下「破産者」という。)は、平成22年1月12日、釧路地方裁判所に破産手続開始の申立てをした(釧路地方裁判所平成22年(フ)第1号破産事件。以下「本件破産事件」という。)。釧路地方裁判所は、同日、破産手続開始決定をし、釧路弁護士会に所属する弁護士である被告を破産管財人に選任した。また、破産者について保証人となっていたAについても同様に破産手続開始の申立てがあり、釧路地方裁判所は、破産手続開始決定をし、被告を破産管財人に選任した。(顕著な事実)

(2)  原告は、本件破産事件の破産手続開始決定の時点で、破産者に対し、別紙破産債権目録記載の破産債権を有しており、かつ、別紙破産債権目録記載1から7までの破産債権(以下「届出債権1」という。)について別紙別除権目録記載の別除権を有していた。

(3)  原告は、本件破産事件につき、次のとおり債権届出をした。

ア 平成22年2月23日付けで、届出債権1につき債権届出をするとともに、別除権の目的である財産を別紙物件目録記載の各不動産(以下「対象不動産」と総称する。)及び別紙別除権目録記載5の火災保険請求権と、別除権の行使によって弁済を受けることができないと見込まれる債権の額を7583万2531円と届け出た。

イ 平成22年2月25日付けで、別紙破産債権目録記載8の破産債権(以下「届出債権2」という。)につき、債権届出をした。

(4)  平成22年4月21日、本件破産事件の第1回期日(財産状況報告集会期日、一般調査期日、計算報告集会及び破産手続廃止に関する意見聴取のための集会の各期日を兼ねるもの)が開催された。原告札幌支店の中小企業事業を担当する職員であるB(以下「B」という。)が当該期日に出席した。

被告は、届出債権1につき、原告の届出のとおり全額を別除権付債権として認め、届出債権2については、原告の届出のとおり認めた。ただし、債権認否に当たって引用された債権認否予定書には、届出債権1の備考欄に「不足額の証明を要する」旨が記載されていた。

(5)  被告は、次のとおり、破産裁判所の許可を受けて、対象不動産を任意売却するとともに、その受戻しをした。

ア 被告は、平成22年4月22日、別紙物件目録記載4の土地を任意売却し、原告に対して615万円を支払い、当該土地を受け戻した。原告は、被告に対し、破産者に対する貸付償還金の一部として同額を受領した旨の領収証を交付した。

イ 被告は、平成22年5月18日、別紙物件目録記載1から3までの各不動産を任意売却し、原告に対して7477万4750円を支払い、当該各不動産を受け戻した。原告は、被告に対し、破産者に対する貸付償還金の一部として同額を受領した旨の領収証を交付した。

ウ 被告は、平成22年6月11日、別紙物件目録記載5の建物及びその敷地であるA所有の土地を任意売却し、原告に対して合計4008万5000円を支払い、当該各不動産を受け戻した(以下「昭園支店の処分」という。)。また、別紙物件目録記載5の建物が破産者の所有でなくなったことに伴い、これを保険対象とする火災保険金に係る別紙別除権目録記載5の質権で担保される額は0円となった。

エ 被告は、平成22年6月25日、別紙物件目録記載6から11までの各土地を任意売却し、原告に対して合計199万5828円を支払い、当該各土地を受け戻した。原告は、被告に対し、破産者及び株式会社白樺ストアーに対する貸付償還金の一部として同額を受領した旨の領収書を交付した。この任意売却と併せて株式会社白樺ストアー所有の建物も売却され、同建物の代金から549万8875円が原告に支払われた。(甲13。以下「白樺支店の処分」という。)

(6)  原告においては、別除権の目的である財産の受戻しに応じ、別除権の行使により弁済を受けることができない債権の額(以下「別除権不足額」という。)が確定した場合には、破産管財人に対し、不足額確定報告書(別除権の行使により弁済を受けた金額及び充当関係を記載した書面をいう。以下同じ。)を提出する取扱いであったが(乙1、証人B)、Bは、被告からの問い合わせがあってから対応すればよいと考えて、白樺支店の処分を終えても不足額確定書を提出しなかった。

(7)  平成22年7月28日、本件破産事件の第2回期日(財産状況報告集会期日、一般調査期日、計算報告集会及び破産手続廃止に関する意見聴取のための集会の各期日を兼ねるもの)が開催された。Bは、当該期日に出席した。被告は、当該期日において、同日付け業務報告書に基づき、次のように報告した。次回の債権者集会期日は同年10月27日に指定された。

ア 本店所在地の土地建物については、年をまたげば高額な固定資産税を破産財団から支出する必要があること、実質的な換価業務は当該不動産の処理だけであることから早期に売却できない場合は破産財団から放棄する予定である。

イ 本店所在地の土地建物の換価若しくは放棄により、早期に換価業務を終了させ、配当手続を行い、次回に管財人の業務を終了させる予定で考えている。

(8)  被告は、平成22年8月20日、破産者の本店所在地の土地建物について不動産売却許可を得て、その後間もなく、当該各不動産を任意売却した。これにより、本件破産事件における換価業務がすべて終了した。

(9)  被告は、平成22年9月8日、裁判所書記官に対し、最後配当の許可を申請した。被告は、この申請の際、裁判所に対し、現時点において原告及び釧路信用組合から別除権不足額の証明がされていないと報告した。裁判所書記官は、同月14日、最後配当を許可した。

(10)  被告は、配当の公告をし、当該公告は平成22年9月28日付け官報に掲載された。最後配当の除斥期間は、同年10月12日までとなった。Bら原告の担当職員は、配当の公告がされたことに気がつかなかった。被告は、原告に対して不足額確定報告書その他の資料を提出するよう促すことをしなかった。結局、原告は、その通常の取扱いに反して、不足額確定報告を提出しない結果となった。

(11)  被告は、平成22年10月13日、裁判所に対し、除斥期間内に原告及び釧路信用組合から別除権不足額の証明がされなかったため、別除権付債権に関する配当手続に参加することができる債権額は0円となったこと、異議期間が同月19日までであることを報告した。被告は、同日、裁判所に対し、配当手続に参加することができる債権の総額を3億1718万3184円、配当をすることができる金額を5041万8384円などと記載した配当表を提出した。上記配当表には、原告の確定債権額が3億2723万2765円であるのに対し、配当手続に参加できる債権額は719万8234円(届出債権額2の元利金合計である。)と記載されていた。また、釧路信用組合についても、確定債権額が4億4293万6608円であるのに対し、配当手続に参加できる債権額は0円と記載されていた。

被告は、平成22年10月22日、上記配当表に基づいて配当を実施した。

(12)  Bら原告の担当職員は、平成22年10月21日、被告から配当通知書を受領して初めて本件破産事件において配当手続が実施されていることを知った。上記配当額から振込手数料735円を控除した114万3472円は、同月21日、原告の預金の口座に送金された。

(13)  平成22年10月27日、本件破産事件の第3回期日(財産状況報告集会期日、計算報告集会及び破産手続廃止に関する意見聴取のための集会の各期日を兼ねるもの)が開催された。Bは、原告代理人として当該期日に出席した。

被告は、当該期日において、同日付け業務報告書に基づき、管財人の任務は終了した旨を報告した。Bは、原告を代理して、原告の破産債権額及び配当額が正確でなく、破産管財人の善管注意義務に違反するなどと述べた。破産裁判所は、同日、破産手続終結決定をした。

3  争点

(1)  まず、被告において、別除権不足額の証明を看過した点(争点1①)、別除権不足額の証明を促さなかった点(争点1②)及び最後配当に当たり原告に通知せずに公告を行った点(争点1③)が善管注意義務違反に当たるかが争点である。

(2)  原告に善管注意義務違反が認められる場合、損害賠償請求権の成立を阻却する事由等があるかが争点となり(争点2)、これが認められない場合には原告の損害額が争点となる(争点3)。

4  争点に対する当事者の主張

(1)  別除権不足額の証明を看過した点について(争点1①)

ア 原告の主張

(ア) 本件破産事件において、被告は、対象不動産をすべて任意売却し、受け戻している。昭園支店の処分に当たっては、別紙物件目録記載5の建物とA所有の不動産とを一括して任意売却し、受け戻しているが、任意売却に先立って、原告と被告との間で、破産者の債務に係る弁済額を500万円とすることが合意され、原告は被告からそのとおり弁済を受けたから、被告が破産者に係る弁済として受領した金額は明確である。そして、原告は、対象不動産の受戻しに際し、被告に対し、受領した金額を明らかにする領収書を交付している。

また、弁済の充当に関して、白樺支店の処分で原告が支払を受けた弁済金は、まず届出債権2の元金に充当し(利息及び遅延損害金を免除した上、株式会社白樺ストアー所有の建物の売買代金からの弁済と併せて、同債権を完済と扱う。)、残金30万4703円を届出債権1に充当する旨の合意がある。

(イ) 被告は、対象不動産の任意売却に関与し、対象不動産をすべて受け戻した以上、法定充当により、別除権不足額を確定させることができるのであり、その証明があったことになる。法定充当によった場合の別除権不足額は、2億5266万9756円となる。なお、原告は、被告において弁済金を元金に充当することを希望するものと考え、弁済金を元金に充当するものと扱ったところ、この場合の別除権不足額は、2億3380万5078円となる。

(ウ) したがって、被告には、届出債権1について別除権不足額が証明されているのに、これを配当手続に参加できる債権と扱わずに配当表を作成し、これに基づいて配当を行った善管注意義務違反がある。

イ 被告の主張

原告及び被告が、昭園支店の処分に際して破産者の債務に係る弁済額を500万円とすることで合意したとの事実及び白樺支店の処分で原告が支払を受けた弁済金をまず届出債権2の元金に充当する合意があったことは否認する。

別除権者は、最後配当に関する除斥期間内に別除権不足額を「証明しなければならない」のであり、証明のための能動的行為なしに証明がされることはありえない。原告は、本件破産事件において別除権不足額を証明するための能動的行為を一切行っていないのであって、別除権不足額は証明されていない。そもそも、原告は、充当関係を明らかにしておらず、その主張に別除権不足額として複数の金額が現れていること自体、別除権不足額の証明がされていないことを示している。また、別除権者は、破産管財人に対する不足額確定報告書を提出して別除権不足額を明らかにするのが実務の取扱いである。

(2)  別除権不足額の証明を促さなかった点について(争点1②)

ア 原告の主張

前記(1)アの事情のみでは、届出債権1について別除権不足額が証明されていないと解するとしても、原告において、対象不動産が任意売却によりすべて換価されていた以上、充当関係を明らかにし、又は別除権不足額を被告に届け出るなどして、別除権不足額の証明をすることは容易であった。被告はこのことを認識しながら、多額の破産債権を有する原告に対し、除斥期間内に届出債権1について別除権不足額を証明するよう促さなかった。このような促しをしないで配当表を作成し、配当を行ったことは、善管注意義務違反に当たる。

イ 被告の主張

原告は、政府系金融機関で破産手続について十分な知識を有している上、本件破産事件の第1回期日において届出債権1について別除権不足額の証明を要する旨が被告から報告され、第2回期日において次回期日までに破産管財人としての業務を終了させる旨報告しているのであって、それ以上に別除権不足額の証明を促す必要はなく、このような促しをすべき義務はない。

(3)  最後配当に当たり原告に通知せずに公告を行った点について(争点1③)

ア 原告の主張

破産管財人は、配当から除斥される可能性のある別除権者が存在する場合には、当該別除権者の破産債権行使が妨げられることのないよう、通知を行う最後配当若しくは配当時異議確認型の簡易配当を選択し、又は配当の公告を行ったことを別除権者に通知すべきであった。しかし、被告は、公告を行う最後配当を選択し、原告に対し配当の公告を行ったことを通知せずに、配当手続を進行させており、善管注意義務違反がある。

イ 被告の主張

争う。配当方法の選択は、破産管財人の裁量に委ねられており、公告を行う最後配当を選択したことに善管注意義務違反はない。また、配当の公告を行ったことを別除権者に通知すべき義務は存在しない。

(4)  原告の損害賠償請求権の成立を阻却する事由等があるか(争点2)

ア 被告の主張

(ア) 破産債権者は、破産手続によらなければ権利行使できないところ、原告は別除権不足額を証明しておらず、破産手続で配当を受けることができないのであって、破産法85条2項に基づく損害賠償請求もできない(別除権不足額の証明がされていないとした場合の主張である。)。

(イ) 原告は、配当異議の申立てによって救済を受けることができたのに、これをしないで配当表を確定させたのであるから、その賠償を破産管財人に求めることはできない。

(ウ) 原告は、本件破産事件の計算報告集会で、破産法88条4項の異議を述べなかったから、被告に対する損害賠償請求権を失った。

イ 原告の主張

(ア) 被告の主張(ア)は争う。

(イ) 被告の主張(イ)は争う。原告は、公告の方法による最後配当を行うことを知らされておらず、官報公告を日々確認しなければならないとするのは現実的でない。むしろ、被告が前記(3)アのとおりの対応をすべきであった。

(ウ) 被告の主張(ウ)は争う。第3回期日における原告代理人Bの発言が破産法88条4項の異議の趣旨であることは明らかである。

(5)  原告の損害額は幾らか(争点3)

ア 原告の主張

(ア) 原告の届出債権1に係る別除権不足額は2億5266万9756円が正しく、他方、届出債権2に係る債権額719万8234円(劣後的破産債権に当たる部分を除いた額)は弁済により消滅しているから配当に参加することのできる債権ではない。原告が有する配当に参加することのできる債権の額は2億5266万9756円である。

これを前提とすると配当に参加することのできる債権の総額は、配当表に記載された3億1718万3184円に上記2億5266万9756円を加え、上記719万8234円を減じた5億6265万4706円となる。

本件破産事件において配当することができる金額は、5041万8384円であるから、原告が配当を受けることができた金額は、次のとおり計算される。

5041万8384円×2億5266万9756円/5億6265万4706円=2264万1240円

(イ) 原告が本件破産事件で受けた配当114万4207円を控除すると、原告の損害額は2149万7033円となる。なお、本件は一部請求である。

イ 被告の主張

争う。原告の主張を前提とすると、釧路信用組合も配当に参加できたことになり、原告の損害額は上記と異なる金額となるはずである。

第3争点に対する判断

1  争点1①について

(1)  当裁判所は、本件破産事件において、被告としては、① 債権調査の結果及び対象不動産の受戻しの際に原告に対してした弁済額に基づいて民法489条及び491条の規定(以下「法定充当の規定」という。)を適用して届出債権1の残額を計算し、その額を別除権不足額と認定するか、② 原告に対して充当関係についての立証(具体的には不足額確定報告書の提出)を促し、原告の計算結果を踏まえて別除権不足額を認定するかのいずれかによって、届出債権1を配当表に記載すべきであり、これらを怠って届出債権1を配当表に記載しなかった被告の行為は、破産管財人としての善管注意義務に違反すると判断する。その理由を詳述すると次のとおりである。

(2)  事実関係の争いについて判断する。

昭園支店の処分に係る事実関係について検討する。証拠(甲9、10、33の1、34、36、証人B)によれば、任意売却に先立つ平成22年6月9日、Bと被告との間で、破産者の債務に係る弁済額を500万円、Aの保証債務に係る弁済額を3508万5000円とすることが合意されたこと、Bは、同月11日の代金決済の際、被告の事務員から合計4008万5000円の支払を受けるとともに、同人に対し、原告名義の2枚の領収書(1枚は破産者の破産管財人である被告宛の500万円の領収書、もう1枚はAの破産管財人である被告宛の3508万5000円の領収書)を交付したことが認められ、各領収書の内訳について被告又はその事務員から異議が述べられた事実はうかがわれない。以上によれば、原告と被告との間で破産者の債務に係る弁済額を500万円とする旨の合意が成立し、被告から原告に対しそのとおりの弁済金が支払われたことが認められる。被告本人尋問の結果は、この点に関する記憶がないというものであり、上記認定を左右するものではない。

次に、白樺支店の処分に係る事実関係について検討する。この点、原告は、弁済の充当に関して、白樺支店の処分において原告が支払を受けた弁済金をまず届出債権2の元金に充当し(利息及び遅延損害金は免除した上、株式会社白樺ストアー所有の建物の売買代金からの弁済と併せて、同債権を完済とする。)、残金30万4703円を届出債権1に充当する旨の合意があると主張し、証人Bもこれに沿う証言をする。しかしながら、これを裏付ける証拠はない上、これと対立する被告本人尋問の結果があることも併せ考えると当該証言は直ちに採用することができないというべきである。原告主張の合意があった事実は認めるに足りない。

(3)  前記前提事実及び前記(2)の認定事実を総合すれば、本件破産事件において、被告は、自ら関与して対象不動産の任意売却及びその受戻しを行い、別紙別除権目録記載の別除権が消滅し、又はこれによって担保される額が0円となったことを認識していたと認められるが、原告から不足額確定報告書が提出されなかったので、原告に対しその提出を求めることなく、別除権不足額の証明がされなかったものと扱い、届出債権1を配当表に記載しなかったこととなる。

(4)  破産法198条3項は、いわゆる不足額責任主義(同法108条1項)を前提とすると最後配当に当たり別除権不足額が確定している必要があるため、その証明責任を別除権者に負わせる趣旨であり、当該別除権者が既に破産債権者としての地位を有していることにかんがみると、その配当に参加するに当たって届出その他の積極的行為を要求する趣旨であるとは解されない。また、その証明に当たっては、破産管財人がその職務上知り得た事実及び入手した資料について、更に証明することを要しないと解される。

このような取扱いは、別除権者が有している破産債権者としての地位に基づくもので、実体的な権利関係にも合致するのであるから、当該別除権者を優遇することにはならず、むしろ、破産者の財産等の適正かつ公平な清算を図るという観点からすれば、職務上知り得た事実及び入手した資料に基づいて認定できる事実に合致しない配当を行うことは、破産管財人の善管注意義務に違反するというべきである。

(5)  別除権者が弁済を受けた場合において、複数の債権があるとき、又は元本のほか利息等の請求権を有するときの充当方法は、充当に関する合意があるときはそれによるが、当該合意がない場合及び当該合意の事実が認定できない場合には、法定充当の規定に従って充当することになる。したがって、弁済の充当方法が不明で定まらないということは論理上ありえない。

(6)  前記(4)及び(5)を前提とすると、本件破産事件において、被告は、自ら関与して対象不動産の任意売却及びその受戻しを行い、別紙別除権目録記載の別除権が消滅し、又はこれによって担保される額が0円となったことを認識していたのであり、原告が合計1億2300万5578円の弁済を受けたことも把握していたから、法定充当の規定に従って計算を行い、届出債権1の残額すなわち別除権不足額を認定することができ、そのように認定すべきであった。そして、法定充当の規定によって計算される届出債権1に係る別除権不足額は、別紙法定充当計算書記載のとおり、2億5256万4702円である。

この点、被告は、原告が充当関係を示さなかった点を問題とするが、別除権不足額の証明に当たって、充当関係その他の事項を破産管財人に報告すべき旨の規定はなく、証明資料(前記(4)のとおり、破産管財人が職務上知り得た事実等を含む。)から別除権不足額を計算して認定できるのであれば、破産管財人において計算すべきである。

また、被告は、実務上、破産管財人に対する不足額確定報告書の提出をもって別除権不足額の証明があったものと解されている旨主張し、乙第3号証の文献(伊藤眞・岡正晶・田原睦夫ほか著『条解破産法』1286頁)を引用する。しかしながら、同文献は、別除権者が不足額確定報告書を提出するという実務の慣行を前提として、それが認定の資料となることを指摘するに止まり、いかなる場合に別除権不足額の証明があったかを論じているものではないと考えられる。むしろ、破産管財人の実務について記述した文献には、任意売却の際の領収書が提出されたときにも証明があったとするもの(例えば、東京地裁破産再生実務研究会編『破産・民事再生の実務〔新版〕中』201頁)もあるのであって、被告の主張は採用できない。

(7)  以上のとおり、別除権者が不足額確定報告書を提出するという実務の慣行に反して、不足額確定報告書が提出されない場合、破産管財人としては、直ちに別除権不足額の証明がなかったものと扱うことはできないところ、自ら充当計算を行うときは、当該別除権者との間で充当方法に関して意見が食い違ったり、違算をしたりするおそれもあるから、別除権者に対し不足額確定報告書の提出を求め、不明点があれば更に問い合わせるなどして、別除権不足額を認定するのが相当であり、被告としては、このような措置をとることでも足りたと考えられる。

(8)  前記(2)から(7)によれば、届出債権1(別除権不足額は2億5256万4702円)を配当手続に参加できる債権として扱わずに配当表を作成し、これに基づいて配当を行ったことは誤りであり、破産管財人としての善管注意義務に違反する。

2  争点2について

(1)  原告が配当異議の申立てをせず、配当表を確定させたことにより、被告に対する損害賠償請求権の成立が阻却されるか、検討する。

破産法200条は、配当表に誤りがある場合に備え、配当表に対する異議を認めており、配当表の誤りは、これにより是正されることが予定されている。もっとも、破産管財人は、破産法199条の規定によるほか、配当表に明白な誤りがある場合にも職権でこれを更正することができると解されていることからすれば、破産管財人がその義務に違反して配当表に記載すべき債権を記載しなかった場合には、職権で配当表を更正すべきであって、このことも破産債権者が配当を受けられなかった原因となったというべきである。

そうすると、本件破産事件において原告が配当異議の申立てをせず、配当表を確定させたことは、後記3(3)で検討するとおり過失相殺の事由となるに止まり、被告に対する損害賠償請求権の成立を阻却する事由には当たらないと解すべきである。

(2)  原告が本件破産事件の計算報告集会で、破産法88条4項の異議を述べたかについて検討するに、前記前提事実(13)の原告代理人Bの発言は、同項の異議に当たると解すべきである。この点に関する被告の主張は採用できない。

3  争点3について

(1)  本件においては、原告が受けることができた配当の額が原告の損害であると解すべきであるから、この点について検討する。

ア 前記前提事実(11)のとおり、本件破産事件においては、原告と同様に釧路信用組合についても別除権不足額の証明がされなかったとして配当から除斥されているところ、証拠(甲16、17、19、22)によれば、破産者所有の不動産はすべて被告によって任意売却されたことが認められるから、他に処分未了の別除権があるといった事情のない限り、釧路信用組合が配当に参加することのできる債権を有していた相当程度の可能性が存在する。

そうすると、原告の損害額を認定するに当たっては、上記の可能性が否定されない限り、原告と釧路信用組合が配当に参加したことを前提に原告が受けることができた配当の額を認定すべきである。

イ 証拠(甲3、4、12、16、17、乙2)によれば、釧路信用組合が受領した金額は、釧路市<以下省略>外所在の不動産の受戻しに係る1億3190万8832円(不動産仲介手数料その他の控除されるべき金額については、これを認めるに足りる証拠がない。)、釧路市<以下省略>外所在の建物の売却代金153万3973円であることが認められ、その合計は1億3344万2805円である。

別除権不足額の計算は、原告と同じく法定充当によるべきところ、釧路信用組合に係る破産債権中、遅延損害金の額を認めるに足りる証拠がないので、金額が明らかになっている利息、元金の順に充当する。そうすると、本件の証拠関係の下では、釧路信用組合の破産債権額4億4293万6608円から、上記金額を控除した3億0949万3803円が別除権不足額となる。

ウ 本件破産事件において配当に参加することのできる債権の総額は、配当表に記載された配当に参加することのできる債権の総額3億1718万3184円に原告に係る別除権不足額2億5256万4702円及び釧路信用組合に係る別除権不足額3億0949万3803円を加えた8億7924万1689円である。なお、届出債権2の利息に充当された8234円は、破産法104条1項の規定により、配当に当たって考慮しない。

他方、本件破産事件において配当することのできる金額は、5041万8384円であるから(甲21)、原告が受けることのできた配当額は次のとおり計算される。

5041万8384円×(2億5256万4702円+719万8234円)/8億7924万1689円=1489万5594円(1円未満切捨て)

(2)  前記(1)によれば、原告が受けることのできた配当額1489万5594円から原告が受けた配当額114万4207円を差し引いた1375万1387円が原告の損害となる。

(3)  ところで、証拠(甲16、証人B)によれば、原告従業員のBは、対象不動産の任意売却及び受戻しが行われ、別紙別除権目録記載の別除権が消滅し、又はこれによって担保される額が0円となったにもかかわらず、別除権者が不足額確定報告書を提出するという実務の慣行に反して当該報告書を提出しなかった。また、Bは、本件破産事件の第2回期日に出席した際、届出債権1が別除権不足額の証明を要するものと扱われていることを認識したのに、被告からの問い合わせがあってから対応すればよいとの考えから、特段の措置を講じなかったことが認められる。さらに、前記2(1)で検討したところによれば、原告は、配当異議の申立てによる救済を求めることができたのにこれを怠ったというべきである。なお、この点、原告は、被告が原告に対して通知をせず、配当の公告を行ったことを非難するが、配当方法の選択は破産管財人の裁量に委ねられており、本件において裁量権の逸脱濫用があったと評価すべき事情は見当たらないから、この点に関する原告の主張は理由がない。

これらの事情を総合考慮すれば、本件については原告側にも相応の過失があるというべきであるから、過失相殺として、原告の損害額から4割を減じることが相当である。

したがって、被告が賠償すべき原告の損害額は825万0832円となる。

第4結論

以上の次第であるから、原告の請求は、被告に対し、損害賠償として825万0832円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成23年1月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 小野寺健太)

(別紙)破産債権目録<省略>

別除権目録<省略>

物件目録<省略>

法定充当計算書<省略>

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