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釧路地方裁判所 昭和38年(ワ)130号 判決 1965年6月07日

原告 釧路及川商事株式会社

被告 吉田勝弥

主文

被告は原告に対し金六二万二五〇円およびこれに対する昭和三八年六月一四日から支払ずみまで年五分の金員の支払をせよ。

原告のその余の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は原告が金一五万円の担保を供することを条件に仮に執行することができる。

事実

(双方の申立)

原告は「被告は原告に対し金六三万九〇五〇円およびこれに対する昭和三八年六月一四日から支払ずみまで年五分の金員の支払をせよ。」との判決を求め、被告は「原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求めた。

(原告の主張)

一、原告は時計、貴金属、ラジオ等の販売を業とする会社であり、被告は昭和三四年七月一日原告に雇傭されて右商品の販売および集金の業務に従事していたが、昭和三八年五月初旬退職したものである。

二、被告は原告より原告所有の別表<省略>(一)紛失商品名欄記載の商品を預りこれを販売するため保管し、その販売に至らない場合は遅くとも原告会社を退職する際にこれを原告に返還しなければならない義務を負つていたのに、被告は同表紛失年月日欄記載の頃これを紛失しその返還義務が履行不能に帰し、そのため原告はその価格相当の損害を蒙つた。この損害額は同表金額欄記載のとおりで合計金五六万一一七〇円である。

三、被告は別表(二)横領年月日欄記載の頃同表集金先欄記載の者から同表金額欄記載の商品代金を集金したが、この場合被告はこれを直ちに原告に提供しなければならない義務があるのにその交付をしない。その金額は合計七万七八八〇円である。

四、よつて原告は被告に対し第二項記載の損害賠償と第三項記載の金員の交付とを求め、かつこれに対する弁済期の後である昭和三八年六月一四日から支払ずみまで民法所定年五分の遅延損害金の支払を求めるため本訴に及んだ。

(被告の答弁および抗弁)

一、原告主張第一項の事実は認める。同第二項中被告が原告より別表(一)番号1ないし6の各商品を預り保管したこと、第三項中被告が別表(二)1、2、5、7ないし10、12ないし15の金額を集金したがこれを原告に交付していないことは認めるが、その余の事実は否認する。

二、被告が原告より預り保管した商品の紛失については被告の責に帰すべき事由はない。すなわち被告が商品を保管したのはこれを販売する目的からであり、かつ原告が被告にさせていた販売方法は多量の商品を一時に一ケ所に展示して大勢の購入希望者の目に晒したうえこれを自由に購入させるというのであるから、相当数の商品が紛失しまたは窃取されることは当然に予定されているものというべく、被告としてはその販売中展示場所を離れずに販売事務に従事したのであるからその間の商品紛失については被告の責に帰すべき事由がない。

三、かりに被告に商品紛失についての損害賠償義務が発生したとしても、被告はその都度始末書を提出したうえ原告よりその債務の免除を受けた。

四、かりにそうでないとしてもその損害賠償は被告が退職するに際して原告から給付を受けるべき退職金の限度内において支払う旨の特約が存する。

五、かりに以上がいずれも理由がないにしても、損害賠償額を争う。すなわち原告は被告の紛失した各商品の損害賠償金額としてその販売価額を請求しているが、時計、貴金属においては仕入価格と販売価格との間には三割ないし五割の値巾があり、原告が失つたものは原告が仕入価格で仕入れた商品であつて他から同種の商品を仕入れることによつて填補されうるものであるから、その損害賠償額は仕入価格によるべきである。また販売価格で販売した場合のうべかり利益をも請求するというのであるとしてもその利益なるものは単に販売人に保管をさせただけで発生するわけでなく、少くとも販売の具体的可能性が発生しなくては主張できない筈であるから、この点も失当である。

(証拠関係)<省略>

理由

一、原告が時計、貴金属、ラジオ等の販売を業とする会社であり、被告は昭和三四年七月一日原告に雇傭されて右商品の販売および集金の業務に従事していたが昭和三八年五月初旬退職したことは当事者間に争いがない。

二、被告が原告より別表(一)の番号1ないし6の紛失商品名欄記載の商品を預りこれを販売するため保管していたことは当事者間に争いがなく、この事実によれば被告は右商品を保管中これを善良な管理者の注意をもつて保管すべく、販売に至らない場合は遅くとも被告が原告会社を退職するまでに原告に返還すべき義務を負つていたことが認められる。しかるに成立に争いのない甲第一ないし第六号証によれば被告は右商品を同表の番号1ないし6の紛失年月日欄記載の頃紛失したことが認められる。

成立に争いのない甲第七号証によれば同表の番号7につき、証人福田和雄の証言およびこれにより真正に成立したと認められる甲第八号証、第九号証の一、二によれば同表の番号8ないし16(ただし番号15の銘柄はTK)、19ないし34につき、成立に争いのない甲第一四号証によれば同表の番号35につき、成立に争いのない甲第一五号証によれば同表の番号36につき、成立に争いのない甲第一六号証によれば同表の番号37、38につき、それぞれ上記同様の事実が認められるが、同表の番号17、18については甲第八号証に上記同様の事実の記載があるけれども同号証作成の元となつている甲第九号証の一、二セールス在庫台帳にはその記載がなく右二点については上記同様の事実を認めるに充分でない。

被告は以上認定の商品紛失につきその責に帰すべき事由がない旨主張するが、甲第一ないし第七号証によれば被告は別表(一)の番号1ないし7については自らその不注意を自認しているうえ、本件にあらわれた全証拠によつても被告の右の主張事実を認めるに足らない。

そうすると、被告は同表の番号17、18を除く各商品につき原告に対して返還義務を負つていたが、これを紛失したことによりその義務が履行不能に帰したもので、被告は原告に対しその損害賠償義務を負うに至つたものといわねばならない。

三、被告は右損害賠償義務がその主張の免除ないし特約により消滅ないし限定されている旨主張するが、これを証するに足る証拠はなく、かえつて証人福田和雄の証言によれば原告としては右の免除も特約もしなかつたものであることが認められ、被告の右主張は採用できない。

四、そこで右損害賠償の数額について検討する。原告が本訴において請求している商品紛失による損害賠償は当該特定商品の返還義務の履行不能による填補賠償であると解されるが、その賠償額はその履行不能となつた当時における当該商品の交換価格によつて算定するのが相当である。しかして、甲第九号証の一、二および証人福田和雄の証言によれば原告は紛失商品の販売価格(ただし別表(一)の番号36、38については販売価格から被告がすでに原告に支払ずみの内金を差引いた金額)をその損害額として計上していることが明らかであるが、これに対し被告はその仕入価格によるべきであると主張する。なるほど時計、貴金属等の販売を業とする会社がその商品を滅失された場合には他の同種の商品を再度仕入れることによつてその損害を填補されうると考えられないではないが、少くとも会社が商品を仕入れたのちこれにつき一定の経費や利潤を折込んで一定の販売価格を定めたうえこれを販売係に交付して販売に着手した場合には、当該商品は特定物と見るべきものであり、かつ右の折込み価格が合理的な範囲を越えない限り、その販売価格が当該商品の交換価格にあたると解するのが相当である。そうして本件においても原告の主張する販売価格が不合理であると考えるべき事実はなんら認められないから、被告のこの点に関する主張も採用できない。

そうすると別表(一)の商品紛失による被告の原告に対する損害賠償額は、同表の番号17、18の分を除き、合計五五万六三七〇円およびこれに対する履行不能時以後支払ずみまでの遅延損害金に相当すると認められる。

五、次に、被告が別表(二)の番号1、2、5、7ないし10、12ないし15記載の金額を集金したが、これを原告に交付していないことは当事者間に争いがない。また甲第一六号証によれば同表の番号11につき、成立に争いのない甲第一七号証、第二〇号証によれば同表の番号16につき、それぞれ右同様の事実が認められ、甲第一四号証によれば被告は昭和三六年一〇月三日頃腕時計一個代金七七〇〇円を一〇ケ月払いの約で荒川希世に販売したが、その頃契約を解除されて返品となつたのち、氏名不詳者に販売してその代金を受領しながらこれを原告に交付していないことが認められ、右の氏名不詳者に対する販売価格が何程かは被告自身記憶していないけれども他に特段の事情も認められないからその受領額は前の販売代金七七〇〇円と同額であると推認され、結局同表の番号6についても上記と同様の事実が認められる。

これに反し、同表の番号3については、成立に争いのない甲第一三号証によれば被告は昭和三六年六月二四日頃腕時計一個代金七八〇〇円を月賦払いの約で中尾周平に販売したが、その数日後返品を受けたものをその頃氏名不詳者に売却したことが認められるがその販売価格もその代金集金の有無も不明であつて、結局右腕時計を原告に返還しなかつた点をいうのならば格別、その代金を集金したことを前提とする請求は失当である。

また、同表の番号4については、甲第一三号証によれば被告は昭和三六年九月二九日頃腕時計一個代金七八〇〇円を一〇ケ月払いの約で村瀬博之に販売し同年一〇月、一一月の二月分の割賦金合計一六〇〇円を集金して原告に納付したが、その余の割賦金についてはこれを集金することなく村瀬の勤務するすし屋において被告がその相当額の飲食をしたものであることが認められ、結局右行為が集金人としての義務に反するという点はともかく、右割賦残金を集金したことを前提とする請求は失当である。

そうすると、被告は別表(二)の番号3、4を除くその余の金員を集金したがこれを原告に交付しないものであることが認められ、被告は原告に対し合計金六万三八八〇円を交付するとともにこれに対する各集金の日の翌日から支払ずみまでの遅延損害金を支払うべきものである。

六、よつて、原告の本訴各請求は主文第一項の限度で正当であるからこれを認容し、その余はこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法第九二条但書、仮執行宣言につき同法第一九六条第一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 友納治夫)

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