釧路地方裁判所 昭和40年(レ)1号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔争点〕甲所有の某所五九番の三〇宅地一二〇坪の土地を乙が買受けたが、登記手続の過誤で、これと隣接する某所五九番の二九宅地一二〇坪(本件土地)の登記簿に所有権移転登記が経由されたのち、控訴人がこれに抵当権の設定を得、その任意競売を申立てて自ら競落人となり代金を納入した場合、本件土地を甲から買受けていた被控訴人に対し右競落による所有権の取得を主張しうるかが争われた。
〔判決理由〕本件土地がもと川人源市の所有であつたこと及び昭和三〇年六月二〇日釧路地方裁判所帯広支部において右土地について控訴人林清次郎を競落人とする競落許可決定がなされたことは各当事者間に争がない。
(証拠略)によれば、被控訴人が、昭和二二年七月中旬頃、右川人源市から本件土地を他の一筆とともに代金金七〇〇〇円で買受けたこと、その頃、北村利則が右川人から本件土地に隣接する中川郡本別町大字本別村字本別東一号線五九番地の三〇宅地一二〇坪を買受けたが、所有権移転登記手続の際誤つて別紙目録記載の土地に対し所有権移転登記をなしたため、その後右北村から右土地を譲受けた川口正夫及び右川口からこれを譲受けた福田亘においても右過誤に気付かず、本件土地登記簿上に順次所有権移転登記手続をなしたこと、かくして登記簿上本件土地の所有名義人となつた右福田において、同登記簿上に抵当権設定登記をなしたため、これを前提として前記競落許可決定がなされたことが認められ、右認定に反する原審の控訴人林清次郎本人尋問の結果は措信できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。
ところで登記簿上の所有名義者より善意で抵当権の設定をうけた者でもその名義者が真実の所有者でないときは登記に公信力を認めない我が民法の解釈上法律上有効に抵当権を取得することはないからかかる抵当権の実行により競落許可決定を得て代金を完納したからと云つてその競売は実質上無効で競落人において所有権を取得するものではない。従つて控訴人林清次郎が、競落許可決定を得て代金を完納したことによつて本件土地の所有権を取得するものではなく、控訴人箱崎ツタにおいても、その主張する贈与契約によつてその所有権を取得するいわれはない。
控訴人林は競売手続は売買の形式を以つて行なわれる公法上の処分であるから右処分が取消されない限り前提条件の瑕疵は右処分を無効ならしめるものでないと主張するが、元来抵当権の登記は登記官吏の形式的審査のみによりなされこの抵当権に基いて債務名義もなくして競売手続が開始されるものである以上、不完全な登記簿により権利を損ぜられる者がある場合之を保護する必要は大であり、之を越えて迄競売手続が公法上の処分である結果その処分の取消がある迄その処分を有効とし、国家機関による処分を信頼する一般人を保護し敢て競売手続の公の信用を維持する必要があるとは認められないからその法律上の主張は採用しない。
よつて、控訴人らの本件各請求は、いづれも理由がないからこれを棄却すべきものである。(松浦豊久 友納治夫 鈴木悦郎)