大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。
官報全文検索 KANPO.ORG
月額980円・今日から使える・メール通知機能・弁護士に必須
AD

釧路地方裁判所 昭和41年(レ)18号 判決 1968年1月30日

控訴人(被告) 八巻かず子 外一名

被控訴人(原告) 日本私鉄労働組合総連合北海道地方労働組合

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

(控訴人らに関する原判決主文第一項は、当審における被控訴人の請求の一部減縮により、「被控訴人に対し、控訴人八巻かず子は金四、五〇〇円、控訴人松井英雄は金四、八九〇円、およびそれぞれに対する昭和三九年一二月二〇日より支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。」と変更された。)

事実

控訴人ら訴訟復代理人は、「原判決中控訴人らに関する部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文第一、二項同旨の判決を求めた。

被控訴代理人は、請求の原因として、

「一、控訴人らは、訴外北見バス株式会社の従業員であるところ、昭和三九年九月同訴外会社との労働争議に関し、労働組合である被控訴人の組合員として、右争議に参加したため、同訴外会社より同月二日から同月一九日までの間の賃金が支給されなかつたので、同月二〇日に開催された被控訴人の組合大会において、支給されなかつた賃金の九割は被控訴人よりその組合員に補償するが、補償を受けた組合員が被控訴人より脱退したときは贈与の効力が失効するものとする旨の決議がなされ、同日右決議に基づいて、被控訴人と各控訴人との間で、それぞれ解除条件付贈与契約が締結された。そこで被控訴人は、右各贈与契約に従い、同月二七日、控訴人八巻に対して金四、五〇〇円を、又控訴人松井に対して金四、八九〇円をそれぞれ支給した。

二、ところが、控訴人八巻は同月二九日に、又控訴人松井は同月二八日に被控訴人より脱退したので、前記解除条件が成就したことになり、被控訴人と控訴人らとの間の本件各贈与契約は、いずれもその効力を失つた。

三、したがつて、控訴人らはそれぞれ被控訴人より支給された金員を不当に利得し、被控訴人は同額の損失を受けたわけである。

四、よつて、被控訴人は、控訴人八巻に対して金四、五〇〇円、控訴人松井に対して金四、八九〇円、およびそれぞれに対する本件各訴状送達の日の翌日である昭和三九年一二月二〇日より支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めるため本訴に及んだ。」

と述べ、控訴人らの抗弁を否認した。

控訴人ら訴訟復代理人は、「被控訴人の請求原因事実をすべて認める。」と述べ、抗弁として、

「被控訴人が本件各贈与契約を締結するに際して付加した解除条件は、労働組合の加入、脱退に関する結社の自由を拘束することを専らその目的とし、被控訴人がその組合員に対して平等公平に補償をなすべき義務を無視してなされた組合大会の決議に基づくものであつて、憲法二一条に違反し、かつ権利の濫用であるから無効である。」

と述べた。

(証拠省略)

理由

請求原因事実は、すべて当事者間に争いがない。

そこで、控訴人らの抗弁について判断することとする。

被控訴人は、労働者でもつて組織された労働組合であるから、その構成員である組合員は憲法二八条で保障された団結権を有しており、この結果組合員の意思により、団結を強固にするため、組合員を団結へ強制すること、つまりある労働者が組合より離反していく自由をある程度制約することは、当該労働者の有する組合脱退の自由を不当に制限するものでない限り、団結権の内容として当然容認されるべきである。

これを本件についてみるに、被控訴人と控訴人らとの間で締結された本件各贈与契約には、被控訴人より脱退したときはその効力を失う旨の解除条件が付加されたのは、被控訴人の組合大会において、組合員の意思により決定されたところに基づいているのであり、右解除条件は、控訴人らが被控訴人より脱退するのを事実上防止しようとする意図の下に付加されたことは明らかであるけれども、これにより控訴人らの脱退の自由を全面的に剥奪するものではなく、脱退の自由はなお確保されており、ただ脱退した場合には、控訴人らは被控訴人に対し、それぞれ被控訴人より贈与を受けた金員を返還する義務を負担することになるにすぎないのである。そうすると、本件各贈与契約を締結するに当たり、右のような解除条件を付することは、団結権の内容として容認されるべきことは明白であつて、団結を強固にするため、被控訴人の組合員としてとどまるものと被控訴人より脱退するものとの間に差別を設けることはやむをえないところであり、これをもつて団結権の濫用であるとは認められないし、憲法二一条に保障する結社の自由に対する侵害であるということも到底できない。

したがつて、控訴人らの右抗弁は主張自体失当であつて、これを採用することができない。

してみると、本件各贈与契約は解除条件の成就によりその効力を失つたにもかかわらず、控訴人らは被控訴人の損失において被控訴人より支給を受けた金員をそれぞれ利得していることになるから、被控訴人に対し、控訴人八巻は金四、五〇〇円、控訴人松井は金四、八九〇円、およびそれぞれに対する本件各訴状送達の翌日である昭和三九年一二月二〇日より支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務を負担していることが明らかであり、これが履行を求める被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当で、本件控訴は理由がない。

よつて、本件控訴を棄却することとし(なお、被控訴人は、原審において、控訴人八巻に対し金四、五〇〇円およびこれに対する昭和三九年九月三〇日より、又、控訴人松井に対し金四、八九〇円およびこれに対する同月二九日より民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを請求していたが、当審において、遅延損害金の起算日をいずれも本件各訴状送達の日の翌日である同年一二月二〇日と変更し、請求の一部を減縮するに至つたので、これに伴い、原判決主文第一項の控訴人らに関する部分は、「被控訴人に対し、控訴人八巻は四、五〇〇円、控訴人松井は金四、八九〇円およびそれぞれに対する昭和三九年一二月二〇日より支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。」と変更された。)、控訴費用の負担について、民事訴訟法九三条一項本文、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 石川恭 篠田省二 喜多村治雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例