釧路地方裁判所 昭和49年(少)537号 決定 1974年11月20日
少年 D・I(昭三〇・一・二生)
主文
本件については審判を開始しない。
理由
1 本件送致事実の要旨は「少年は、正当の理由がなく、保護者の依頼または承認を得ないで、一八歳未満N・T子(昭和三一年三月二一日生)を釧路市○○×丁目××番×号の当時の自己居室に連れ込み、(1)イ昭和四九年二月二七日午後一一時から翌二八日午前四時までの間、同所に宿泊させて深夜同伴し、ロその際、同月二七日午後一一時頃、同女と肉体関係を結び、もつて同女に対し淫行をなし、(2)イ同年三月二日午後一一時から翌三日午前四時までの間、同所に宿泊させて深夜同伴し、ロその際、同月二日午後一一時五〇分頃、同女と肉体関係を結び、もつて同女に対し淫行をなし、(3)イ同年三月九日午後一一時から翌一〇日午前四時までの間、同所に宿泊させて深夜同伴し、ロその際、同月九日午後一一時頃、同女と肉体関係を結び、もつて同女に対し淫行をなし、(4)イ同年三月一七日午後一一時から翌一八日午前四時までの間、同所に宿泊させて深夜同伴し、ロその際、同月一八日午前三時三〇分頃、同女と肉体関係を結び、もつて同女に対し淫行をなしたもので、以上の事実中各イは北海道青少年保護育成条例一一条二項、二〇条に、各ロは同条例一二条の三、一八条に該当する。」というのである。
2 同条例一一条二項は「何人も正当の理由がなく、深夜において、保護者の依頼を受けず、またはその承認を得ないで青少年を同伴してはならない。(なお、同条一項により深夜とは午後一一時から翌日午前四時までの間とされる。)」旨、同条例一二条の三は「何人も青少年に対し淫行またはわいせつな行為をしてはならない。」旨それぞれ規定し、同条例二〇条、一八条に各罰則規定が設けられている。(一一条二項違反の場合、五、〇〇〇円以下の罰金または科料、一二条の三違反の場合、五万円以下の罰金)
また、同条例によれば、青少年とは学齢始期から満一八歳に達するまでの者で、その制定目的は、青少年の福祉を阻害するおそれのある行為を防止し、その健全な保護育成を図ることにあるが、同条例で処罰の対象となり得る行為であつても、他の法令の罰則規定にふれる場合は、それらによるとされている。(同条例一条、二条、二二条参照)
ところで、上記一二条の三の規定する「淫行またはわいせつな行為」とは、広くは性交または性交類似行為(以下、単に性的行為という。)一般を指称するものと解されるが、他の法令の罰則規定にふれないようなにの種行為は、本来当事者の自由にまかせられるべき性質のもので、そのことは、心身の状態が未成熟とはいえ原則として青少年の場合にも同様に言い得るのであるから、青少年自身の有する性的自由についても、その健全な育成と調和する限りできるだけ尊重されるべきであり、しかも同条例による青少年の範囲が比較的広い範囲にわたつていることを考慮すれば、青少年に対するこの種行為という一事だけで、それを処罰の対象とするのは必要でもなく、相当でもない。(このことは、青少年にあつても婚姻あるいはこれに準ずる関係にある場合が容易に想定され、このような関係にある青少年に対する性的行為は何ら処罰の必要性がなく、また、そうすることは極めて不都合な結果をもたらすことは明らかである。)従つて、同条は青少年に対する性的行為一般を禁止するものではなく、この種行為のうち同条例の目的に言う青少年の福祉を害するおそれのある一定の反社会性ないし反倫理性をもつ行為だけを禁止しているもので、それでまた同条例の目的を十分達することができるというべきである。
そして、より具体的にいえば、単に性欲を満足させることだけが目的で青少年の性的無知に乗じたり、立場を利用したり、偽計威迫等を用いた、その動機、手段、方法において反社会的な性的行為、および不純異性交遊の一部にみられるような、その態様において極めて反社会的な性的行為が本条に該当するというべきであるが、前記のとおり青少年の範囲が比較的広いこと、成人等に対する同種行為が社会生活上許されたものとして反覆されていること、性的行為には多かれ少なかれ何らかの有形力の行使、不法な言辞が附随しがちであること等に照らせば、本条該当の判断にあたつては単に行為の外形だけによることなく、行為のなされた諸状況を具体的に勘案して慎重に決すべきものと考えられる。
次に、上記一一条二項に規定する「正当の理由のない深夜同伴」とは、一二条の三同様青少年の福祉を害するおそれのあるような一定の反社会的、反倫理的な形態の深夜同伴を意味するものと解され(なお、同条の保護者の依頼または承認は正当な理由についての例示と考えられる。)、より具体的には、青少年を犯罪に誘う目的や、偽計・威迫を用いる等、その動機・目的・手段・態様等において反社会的と評価される深夜同伴をさすものというべきであるが、その判断にあたつて慎重になされるべきことも、また一二条の三同様である。
3 本件記録によれば、少年はN・T子(昭和三一年三月二一日生、当時一七歳)と昭和四九年二月中頃、当時同女が勤務していた喫茶店に客として立ち寄つたことがきつかけで知り合い、交際していたものであるが、同女の勤務が終えた後(午後七時ないし九時頃)に同女を誘つて食事などをした後、それぞれ上記送致事実要旨記載のとおり自室に伴い、肉体関係を結び、そのまま同女は少年の居室に宿泊したこと、その後少年は同女と同棲するに至り、双方の両親もこれを認め、現在は内縁に等しい間柄にあることが認められる。
以上の事実によれば、本件の肉体関係はいずれも交際を継続中の既に婚姻能力もある男女のありふれた性的関係で反社会性なく、深夜同伴もこれに附随したものに過ぎず、加えてN・T子が間もなく満一八歳に達する者であることを考慮すれば、本件各事実が、同女の福祉に影響を与えたとは到底認められないので、本件については、いずれも非行なしとして少年法一九条一項により審判を開始しないこととして主文のとおり決定する。
(裁判官 小田泰機)