釧路地方裁判所帯広支部 昭和38年(ワ)10号 判決 1965年4月14日
主文
被告は原告に対し金一〇〇万円およびこれに対する昭和三五年一月二一日以降支払ずみに至るまで年六分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決は原告が金三〇万円の担保を供するときは仮りに執行することができる。
事実
第一、申立
一、原告
主文第一、二項と同旨の判決並びに担保を条件とする仮執行の宣言を求める。
二、被告
原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。
第二、原告の主張
一、請求原因
(一) 被告は昭和三四年一〇月二〇日訴外渡辺栄作と共同して訴外有限会社内田木材(材以下単に内田木材という)宛つぎの約束手形一通を振出した。
額面 金一〇〇万円
支払期日 昭和三五年一月二〇日
支払場所 空知商工信用組合峰延営業所
支払地、振出地 美唄市峰延町
振出人 渡辺栄作、および空知商工信用組合峰延営業所営業所長石川登吉
(二) 原告は同年一〇月二九日右手形を訴外内田木材より拒絶証書作成義務免除のうえ裏書譲渡を受け、支払期日に支払場所に呈示して支払を求めたがその支払を拒絶された。
(三) そこで、右手形の所持人である原告は、被告に対し右手形金一〇〇万円およびこれに対する支払期日の翌日である昭和三五年一月二一日以降支払ずみに至るまで手形法所定の年六分の割合による利息の支払を求める。
二、被告の答弁並びに抗弁に対する主張
(一) 被告組合峰延営業所長が手形振出の権限を有していなかつたとの点は否認する。仮りに、同所長に手形振出の権限がなかつたとしても、商法第四二条によれば、支店の営業主任たることを示す名称を附した使用人はその支店の支配人と同一の権限を有するものとみなされ、営業主に代つてその営業に関する一切の行為をなす権限を有するものとみなされるところ、本件手形の振出人欄に表示された「空知商工信用組合峰延営業所営業所長石川登吉」なる記載は、支店の営業主任たることを示す名称ということができるから、被告は、同営業所長が振出した本件手形につき振出人としての責任を負うべき義務がある。
(二) 被告の仮定抗弁中、本件手形が被告主張のような原因関係のもとに振出されたことは不知、その余の抗弁事実はすべて否認する。
第三、被告の主張
一、請求原因に対する答弁
(一) 請求原因第一項中被告が原告主張のような手形を振出したことは否認する。
第二項の事実は、原告主張の日原告主張の手形が支払場所に呈示され、その支払が拒絶されたことは認めるが、その余の事実は不知。
(二) 原告主張の手形は、被告組合峰延営業所長石川登吉が訴外渡辺栄作と共同して振出したものであるが、同営業所長は被告名義の手形を振出す権限を有していなかつたから、被告には右手形金を支払う義務がない。
二、仮定抗弁
仮りに、被告が右手形の振出人としての責任を負わなければならないとしても、以下の理由により原告に対しては右手形金を支払う義務がない。
(一) 原告は訴外内田木材の依頼により、本件手形の外額面金二五万円と額面金二五五、六〇〇円の二通の約束手形を割引き、それぞれ右三通の手形の裏書譲渡を受けていたところ、右各手形がいずれも不渡りとなつたゝめ、昭和三五年三月二二日内田木材との間で右三通の手形金合計金一、六〇五、六〇〇円の債務をつぎのような債務に更改した。
(イ) うち金七五万円につき証書貸付。債務者内田木材、弁済期昭和三七年三月三〇日、利息日歩金三銭四厘、毎月末日限り翌月分を持参支払うこと、訴外内田木材の原告に対する相互掛金契約債権および諸預金債権を担保とすること、内田木材が期日に弁済を怠り、または約定利息の支払を怠つたときは、その翌日から完済まで日歩金五銭の割合による遅延損害金を支払うこと、連帯保証人内田忠、日置〓次、高橋八郎。
(ロ) うち金七〇五、六〇〇円につき手形貸付。支払期日昭和三五年五月二〇日利息日歩金二銭、訴外内田木材が原告に対して有する預金債権を担保とすること。
(ハ) うち金一五万円につき手形貸付。支払期日同年九月五日、利息日歩金三銭、訴外内田木材が原告に対する相互掛金契約債権を担保とすること。
従つて、原告の本件手形債権は右更改契約により消滅した。
(ニ) 本件手形は、訴外渡辺栄作と訴外内田木材との間に、広尾郡広尾町所在の北海道財務局帯広財務部所管国有林内の立木約二七、〇〇〇石を受渡期限昭和三四年一〇月二六日、代金二五〇万円として売買契約が成立し、その代金支払のために振出された三通の約束手形のうちの一通であるが、内田木材において受渡期限を経過してもその受渡をせず、しかも同訴外会社は財務部から立木の売却を受けたことがない事実が判明したので、渡辺栄作は直ちに前記売買契約を解除した。従つて、本件手形については手形金を支払うべき原因関係が消滅し、内田木材に対し手形金を支払う義務も消滅したものである。ところで、本件手形の所持人である原告は、前項のとおり本件手形債務を更改したので、当然本件手形を内田木材に返還すべきものであつて、本来本件手形につき固有の独立した経済的利益を有しておらず、現在の手形関係としては右内田木材から隠れたる取立委任裏書をうけた被裏書人としての地位を有しているにすぎないものというべきであるから被告は内田木材に対して有する一切の抗弁を以て原告に対抗することができる。してみると、被告が前記の理由により内田木材に対し本件手形金を支払う義務がない以上原告に対してもその支払義務はない。
(三) 仮りに、以上の抗弁がすべて理由がないとしても、本件手形に対しては、すでに金三四万円の内入弁済がなされているので原告の本件手形債権はその限度において消滅し、残債権は金六六万円にすぎないから、右債権額を超える部分の請求は失当である。
第四、証拠関係(省略)