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釧路地方裁判所帯広支部 昭和51年(ワ)23号 判決 1978年4月26日

原告

餌取かほる

ほか二名

被告

田中義雄

ほか一名

主文

一  被告らは、原告らそれぞれに対し連帯して各金一、〇三〇万八、四三一円およびうち金九八〇万八、四三一円に対する昭和五〇年一二月二八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告らは、連帯して、原告三名に対しそれぞれ金一、四三七万〇、七〇四円およびうち金一、三四七万〇、七〇四円に対する昭和五〇年一二月二八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  被告ら

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告らの負担とする。

第二当事者の主張

(請求の原因)

一  事故の発生(以下、本件事故という。)

1 日時 昭和五〇年一二月二八日午後三時三五分ころ

2 場所 北海道足寄郡足寄町字足寄基線七線七番地付近国道二四一号線路上

3 加害車 大型貨物自動車(帯一一さ一九七六号)

右運転者 被告田中義雄(以下、被告田中という。)

4 被害車 普通貨物自動車(帯四四す一三八一号)

右運転者 訴外餌取寛明(以下、寛明という。)

5 事故の態様 加害車が突然、センターラインを越えて対向車線内に進入進行し被害車に正面衝突した。

6 事故の結果 寛明は、骨盤、内臓破裂等の傷害を受け、即時同所において死亡した。

二  被告らの責任

1 被告田中は、加害車を運転するにあたり、自車線内を安全に進行すべき基本的注意義務を怠り、自車を対向車線内に進入させた過失により本件事故を起したものであるから、民法第七〇九条に基づき本件事故による損害の賠償責任を負う。

2 被告畑中林業株式会社(以下、被告会社という。)は、加害車を所有し、これを自己のために運行の用に供していたのであるから、自動車損害賠償法(以下、自賠法という。)第三条に基づき本件事故による損害の賠償責任を負う。

三  原告らの身分関係

亡寛有の相続人は、妻原告餌取かほるおよびその子原告餌取夕子、同餌取亮である。

四  損害

1 亡寛明の逸失利益

(一) 給与、諸手当

(1) 寛明は、昭和二一年七月一七日生れの健康な男子で、本件事故当時二九歳であつたが、昭和四九年の簡易生命表によれば、その平均余命年数は、四四・二七年である。

亡寛明は、昭和四〇年三月道立足寄高等学校を卒業し、昭和四三年一一月から足寄町農業協同組合の事務職員として勤務していた。

(2) 同農業協同組合の職員については、足寄町条例に基づく足寄町職員給与規定(以下、給与規定という。)および同町職員給料表に則り、町職員に準じて本俸諸手当、賞与、退職金が支給され、また同町職員に準じた昇給、昇格が実施されている。

寛明の本件事故当時の本俸は、月額一〇万四五〇円(四等級七号俸)で、ほかに家族手当月額八、〇〇〇円、燃料手当年額八万九、〇〇〇円、月額給与の五・六五ケ月分の賞与が支給されていた。

また、本件事故によつて死亡しなければ、寛明が、健康な男子であり、かつ勤務成績も良好であつたことからすると、同人が、満五五歳まで勤務し、その間、毎年昇給し、おそくとも満四〇歳時には係長に、また、満四五歳には課長にそれぞれ昇格して所定の役員手当の支給を受けたはずである。

さらに、満五五歳で同農業協同組合を定年退職してのちも、満六七歳までは稼働可能であるから、その間、昭和五〇年度賃金センサスのうち男子労働者新制高等学校卒業者程度の基本給与および賞与等の収入があつたはずである。これらによると、結局、亡寛明は、別紙(一)逸失給与手当等明細表のとおりの収入(同表記載の賞与には、期末手当〇・五ケ月分、夏期手当二ケ月分、年末手当二・七ケ月分、寒冷地手当〇・四五ケ月分を含む。)を得ることができたはずである。

よつて、収入額の三〇パーセントを生活費として控除し、ホフマン式計算方法によつて年五分の割合による中間利息を控除して亡寛明の逸失給与手当等による所得の総額を計算すると、同表逸失利益欄記載のとおり合計四、一四五万二、一八一円となる。

(二) 退職金

足寄町農業協同組合の退職給与規定によれば、寛明が満五五歳で定年退職した場合には、退職時の本俸月額二一万七、〇〇〇円に勤続年数三四年に応じた支給率六一・二を乗じた一、三二八万〇、四〇〇円の退職金を得ることができたはずである。

そこで、ホフマン式計算方法によつて二六年間の年五分の割合による中間利息を控除すると金五七七万二、九八九円となる。

2 亡寛明の慰藉料

寛明は、将来を嘱望された前途有為の青年であり、かつ原告ら家族の柱として円満な家庭生活を送つていたものであるから、その慰藉料としては、金八〇〇万円が相当である。

3 損害填補および相続

原告らは、本件事故による寛明の死亡により足寄町農業協同組合から一時退職金八四万五、九〇〇円および自賠責保険金一、三九六万七、一五七円を受領したから、これら受領金額を右寛明の逸失利益およびその慰藉料額から控除すると、残額は、四、〇三八万二、一一三円となる。

これを原告らがそれぞれ三分の一の割合で相続したから、原告らは、各金一、三四七万〇、七〇四円の損害賠償請求権を取得した。

4 弁護士費用

原告らは、本訴の提起およびその追行を本件訴訟代理人である弁護士両名に委任し、その費用として金二七〇万円(原告各自九〇万円宛)を支払う旨約した。

五  以上により、原告らは、被告らに対しそれぞれ金一、四三七万〇、七〇四円および右弁護士費用をのぞくうち金一、三四七万〇、七〇四円に対する本件事故の日である昭和五〇年一二月二八日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(請求の原因に対する答弁)

一  請求原因一の事実は、いずれも認める。

二  同二の事実は、いずれも認める。

三  同三の事実は、いずれも認める。

四1  同四1の事実のうち、(一)(1)の事実は、認め、その余の事実は、争う。

逸失利益は、本件事故当時における固定した給与手当額を基礎にするのが公平であり、かつ中間利息の控除もホフマン方式によるのは不適切である。

2  同四2の主張は争う。

3  同四3の事実のうち、前段の事実は認め、後段の主張は、争う。

4  同四4の事実は、争う。

(被告らの主張)

被告田中運転の加害車は、はじめに対面進行してきた訴外嵯峨きよ子運転の普通乗用自動車の右側部分に衝突し、その後、これに追随進行していた本件被害車に衝突したものであるから、被害車の運転者である寛明が、前方を注視し、進路の安全を確認しながら進行し、右嵯峨きよ子の場合と同じように道路左端に避譲しておれば、加害車との衝突事故は避けえたか、少くとも本件のごとき重大な結果は発生しなかつたと思われる。

しかるに、寛明は、何ら避譲の措置をとることなく漫然、自車線内中央付近を直進するのみであつた。この点、寛明にも過失があるから、被告らは、過失相殺を主張する。

(被告らの主張に対する反論)

本件事故は、車幅二・四九メートルの大型貨物自動車である加害車が、突然センターラインを越えて被害車の進行車線内にその車体全体を進入させた結果の正面衝突事故であるから被害車の運転者である寛明に避譲すべきことを要求することは、できないし、また、片側有効幅員三・三五メートルの狭い道路であるから、右のような事態にあたつて道路左端に避譲し衝突を避けることは不可能であつた。

したがつて、避譲措置をとらなかつたことをもつて寛明に過失があるとはいえない。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  (事故の発生および責任)

請求の原因第一および第二項の事実は、いずれも当事者間に争いがない。したがつて、被告らには、本件事故による寛明の死亡によつて生じた損害についてこれを賠償すべき義務があることになるが、被告らは、亡寛明にも避譲措置をとらなかつたことについて過失があつた旨主張するので、その点につき判断する。

真正に成立したことについて争いのない乙第一および第二号証、乙第五および第六号証によれば、

1  本件事故の現場は、阿寒方面からきてゆるい左カーブではあるが、阿寒方面に約三〇〇メートル、帯広方面に約六〇〇メートルと見通しが良く、また、同所は、歩車道の区別のない有効幅員六、七メートルの道路で、センターライン、外側線の標示があり、道路両側には、深さ約一・五メートルの側溝がある。

2  加害車は、長さが一〇・〇二メートル、車幅が二・四九メートル、高さが、三・二一メートルの大型貨物自動車であり、被害車は、長さが、三・九四メートル、車幅が、一・五五メートル、高さが、一・八三メートルの普通貨物自動車である。

3  被告田中は、乗車直前の飲酒の影響で眠気を催し、前方注視ができない状態のもとで、時速八〇キロメートルを越えるスピードで疾走を継続し、前記左カーブにきてセンターラインを越えて対向車線内に進入し、訴外嵯峨きよ子運転の普通乗用自動車に衝突する直前になつて自車が完全に対向車線内を進行していることに気付き、正面衝突の危険を感じて慌てて左にハンドルを切つたが間に合わず右普通乗用自動車の右側部分に衝突し、さらに、約二〇メートル後方を約五〇キロメートルの速度で追随して進行してきた本件被害車の正面に激突し、同車を約二八・五メートル後方の側溝脇に横転させたこと。

加害車と被害車との衝突地点は、被害車の進行すべき車線内のほぼ中央であること。

以上の事実が認められ、乙第七号証のうち右認定に反する被告田中の供述部分は、それまでの同人の供述内容に照らして容易に措信できず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

本件事故が、被告田中が運転者としての基本的ともいうべき注意義務に違反した結果であり、しかも前記認定のごとき事故の態様であることに鑑みれば、被害車の運転者であつた亡寛明に対して、予め本件のごとく大幅にセンターラインを越えて自車線内に進入して来る対向車両のあることを予想するよう求めることは酷であり、また、前記認定のごとき衝突地点における道路の有効幅員、加害車の進入の程度および各車両の速度などを考え合わせると、寛明が、咄嗟に道路左端に避譲し、加害車との衝突の結果を回避することはきわめて困難であつたものといわざるをえない。

したがつて、この点について、過失相殺に価するような寛明側の過失を認めることはできない。

二  (損害)

1  亡寛明の逸失利益

被害者の得べかりし収入額の算定は、原則的には控え目になすべきではあるが、公務員や大企業の給与所得者などのように、昇給および昇格についての明確な規定が存し、被害者がこれによつて、将来、昇給、昇格するであろう蓋然性が高いと認められる場合には、これを逸失収入額算出の基礎として考慮するのが相当である。

(一)  給与諸手当

寛明(昭和二一年七月一七日生)は、本件事故当時満二九歳であり、同人は、昭和四〇年三月道立足寄高等学校を卒業し、昭和四三年一一月から足寄町農業協同組合の事務職員として勤務していたことは、当事者間に争いがなく、真正に成立したことにつき争いのない甲第一号証、第三号証、証人坂口隆、同尾西富士男の各証言およびこれにより真正に成立したものと認める甲第六号証ならびに弁論の全趣旨を綜合すると、つぎの事実が認められる。

(1) 足寄町農業協同組合職員については、同町職員に準じ、同町職員の給与に関する条例、同施行規則に従つてその給料表に基づいて基本給、諸手当が支給されるほか、昇給、昇格ならびに退職金の支給がなされることが労働協約上定められており、亡寛明は、本件事故当時、(A) 基本給月俸一〇万〇、四五〇円(給料表四等級七号俸)(B) 家族手当月額八、〇〇〇円、(C) 燃料手当年間八万七、〇〇〇円(八月三一日支給)の支給をうけていたほか、夏期手当(本俸プラス家族手当の二ケ月分)、寒冷地手当(本俸プラス家族手当の〇・四五ケ月分)、年末手当(本俸プラス家族手当の二・七ケ月分)、期末手当(本俸プラス家族手当の〇・五ケ月分)の諸手当の支給をうけていた。

(2) 足寄町農業協同組合の職員についても町職員の場合と同様、毎年一回昇給し、寛明は、本件事故がなければ、昭和五一年四月一日付で四等級九号俸(月額一〇万五、三〇〇円)に昇給する予定であり、その後も毎年一回昇給しながら、四等級在職八年を経過する昭和五八年四月には、三等級九号俸(月額一二万二、八〇〇円)に、また、おそくとも同人が該農業協同組合に就職して二〇年目になる昭和六四年四月(四二歳時)には、係長に昇格し、二等級一〇号俸(月額一四万六、二〇〇円)に昇給し、役職手当月額三、〇〇〇円が加算支給され、その後、満五六歳で定年退職するまで前記昇給にともなう給与のほか、前記諸手当を受給したはずである。

(3) 本件事故がなければ、寛明は、農業協同組合を定年退職してのち満六七歳までは稼働できたはずであり、その間少くとも昭和五〇年度賃金センサスの男子労働者平均の給与額および年間賞与程度の収入があるものと認められること。

ところで、原告らは、亡寛明は、本件事故で死亡しなければ、満四五歳時には、課長に昇格したはずであるとして課長への昇格を前提として同人の逸失給与諸手当額を算出すべきであると主張するが、前掲各証言によると、足寄町農業協同組合は、現在職員数七三名の比較的小規模な法人であり、課長のポストは八つあるが、業務別に課を設置していて将来協同組合自体の組織機構の改革変更の余地も窺えること、旧制中学や農業専門学校、新制高校出身者の多い内で、最近では新制大学卒業者の新規採用もみられること、現在のところ新制高校卒業者で課長の職にある者はいないことなどが認められ、亡寛明は、本件事故当時いまだ満二九歳の若年であつたこと、などを考え合わせると、寛明の課長への昇格が可能性としては考えられるとしても、その蓋然性は、前記係長への昇格のそれに比して高いものとはいえない。

したがつて、寛明の逸失収入額の算出にあたり課長への昇格を前提とした給与額を基礎にすることは相当ではない。

以上の事実を前提とすると、亡寛明は、本件事故により死亡しなければ満六七歳までに別紙(二)逸失給与手当等計算表のとおりの収入(諸手当には、燃料手当年額八万七、〇〇〇円、家族手当月額八、〇〇〇円、月俸プラス家族手当の〇・五ケ月分の期末手当、二ケ月分の夏期手当〇・四五ケ月分の寒冷地手当、二・七ケ月分の年末手当のほか、昭和六四年以降係長としての役職手当月額三、〇〇〇円を含む。)を得たはずである。

寛明の家族が、妻かほる、未成年の子夕子、同亮の三人であることからして、寛明の生活費として三〇パーセントを控除し、昭和五三年三月までの既往分については、ホフマン方式により、将来分についてはライプニツツ方式(ただし、第三年目以降のライプニツツ係数を用いると、複利で運用可能と想定される初年度から係数上第三年目のものを使用することになつて現実的でなく不合理であるから、昭和五三年四月以降につき第一年目からのライプニツツ係数を順次用いることにする。)によつて年五分の中間利息を控除すると亡寛明の給与諸手当についての逸失利益は、別紙(二)逸失給与諸手当等計算表のとおり金三、三二二万三、四九二円となる。

(二)  退職金

原本の存在およびその成立につき争いのない甲第四号証および前掲各証言によれば、寛明は、本件事故がなければ、満五六歳(昭和七七年七月)の退職時には、月俸一九万二、五〇〇円に勤務年数三三年に応じた支給率五八・九を乗じた額の退職金一、一三三万八、二五〇円の支給を受けるはずであることが認められるから、右退職金についても前記同様の考慮から二四年目のライプニツツ係数を用いて年五分の割合による中間利息を控除すると、金三五一万四、八五八円となる。

2  亡寛明の慰藉料

亡寛明は、原告ら家族の柱として平穏な家庭生活を送つていたところ、前記のとおり被告田中の重大な過失に起因する本件事故によつて若年にして突然死亡したものであること、原告餌取かほる本人尋問の結果によつて認められる示談交渉の経緯、提示された賠償額および原告らが遺族としての固有の慰藉料の請求をしていないことその他諸般の事情を考慮し、慰藉料としては、金七五〇万円をもつて相当と認める。

3  原告らの相続

原告かほるが亡寛明の妻であり、原告夕子同亮がいずれもその子であることは、当事者間に争いがないので、原告らは、それぞれ三分の一の割合で亡寛明の前記損害賠償請求権を相続したことになり、その額は、それぞれにつき金一、四七四万六、一一七円となる。

4  損害の填補

原告らが、寛明の死亡による一時退職金八四万五、九〇〇円および自賠責保険金一、三九六万七、一五七円(葬儀費用相当額を控除した額)を受領したことは、原告らの自認するところであるから、これらを原告らの前記相続損害額から控除するとその残額は、それぞれ金九八〇万八、四三一円となる。

5  弁護士費用

原告らが、本件原告ら訴訟代理人両名に対して本件訴訟の提起およびその追行を委任したことは、本件記録上明らかであり、前記認定損害額、被告の抗争の程度、内容その他諸般の事情を斟酌すると、本件事故との相当因果関係を肯定しうる範囲の損害としては、原告らそれぞれにつき各五〇万円を認めるのが相当である。

三  (結論)

以上のとおりであるから、原告らの本訴請求は、原告らか、被告らに対しそれぞれ金一、〇三〇万八、四三一円および前記弁護士費用をのぞくうち金九八〇万八、四三一円に対する本件事故の日である昭和五〇年一二月二八日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので、これを認容し、その余の請求は、失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 舟橋定之)

別紙(一) 逸失給与手当等明細表

<省略>

別紙(二) 逸失給与手当等計算表

<省略>

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