釧路家庭裁判所 平成26年(家)65号 審判 2014年3月28日
主文
1 相手方は,申立人に対し,18万円を支払え。
2 相手方は,申立人に対し,平成26年×月から毎月末日限り9万円を支払え。
3 手続費用は各自の負担とする。
理由
第1 申立ての趣旨(当初のもの)
相手方は,申立人に対し,平成25年×月から毎月40万円を支払え。
第2 当裁判所の判断
1 一件記録によれば,次の事実が認められる。
(1)申立人はC(以下「相手方の父」という。)との間に,昭和48年×月×日,相手方をもうけた。
(2)申立人は,その後,相手方の父と離婚した。
(3)相手方は,医学部を卒業後,平成17年に○○において△△クリニックを開業し,平成19年に○○の□□病院を買収し,△△クリニックと併せて医療法人Eの傘下に2つの医療機関を置き,Eの本部を□□病院内に置いて病院経営を始めた。
(4)相手方は,申立人をEの理事として遇し,申立人に対しては,平成20年×月から理事報酬として月額30万円(額面)がEから支払われるようになった。申立人の理事報酬は,平成21年×月から月額40万円(額面)となり,平成24年には年間480万円(額面)が支払われた。
(5)その後,申立人と相手方との間でトラブルが重なり,相手方又はEは,平成24年暮れころ,申立人に対し,平成25年×月×日に申立人の常勤理事の任期が満了した後は,再任しない旨の通告をした。
(6)その後,申立人(代理人)と相手方(代理人)との間で,申立人の退職や退職金の支給をめぐって交渉がなされる一方,申立人は,平成25年×月×日,当庁に,本件扶養料の調停を申し立てた。
(7)申立人は,本件調停の申立時は○○に居住していたが,平成25年×月ころ,○○へと転居した。
(8)申立人に対しては平成25年×月から×月までは,Eから月額40万円の理事報酬が支払われたが,その後,申立人はEを退職することとなり,平成25年×月×日に退職金432万7000円(額面)が支給された。申立人は,受け取った退職金を弁護士費用,歯科治療代,税金や保険料の納付,債務の返済等にあて,退職金を上回る金額を費消した。
(9)申立人は,相手方の父と離婚した後,D(以下「前夫」という。)と再婚していたが,平成25年×月×日,前夫と離婚した。
(10)申立人は,平成25年×月下旬,○○の町営住宅への入居を申し込んだが,一旦決まった入居決定が取り消されるということがあった。そのため,申立人は,平成25年×月×日,○○に引越しした。その際,申立人は,それまで利用していた自動車(メルセデスベンツ)を130万円で売却し,借金の返済や転居のための旅費,生活費として費消した。
(11)○○へ転居後の申立人の収入は,国民年金と厚生年金で1か月当たり7万6725円であったため,申立人は,平成25年×月×日に○○へ生活保護の申請をした。そうしたところ,相手方は,申立人に対し,平成25年×月×日,6万円を振込みの方法で渡した。これを受けて,申立人の生活保護の申請は却下された。
(12)申立人は,○○の町営住宅への入居決定が取り消された後異議を述べていたが,その結果,町営住宅(申立人肩書住所地)に入居が認められたため,平成26年×月×日に転居した。
(13)相手方は,申立人に対し,平成26年×月×日及び同年×月×日に,それぞれ6万円を支払った。
(14)なお,申立人の現在の収入は上記のとおり国民年金と厚生年金であり,1か月当たりの支給額は合計7万6725円である。
他方,相手方は,Eから理事報酬として年間3600万円(額面),月額にすると300万円(額面。手取りは月額約170万円)を得ており,相手方の妻もEの理事報酬として年間360万円(額面)の収入を得ている。また,相手方と相手方の妻との間には,3人の子どもがおり,将来医師になることを考えているため相当額の教育費や教育費用保険がかかっている。
2 以上の事実を前提に検討する。
(1)申立人は,最低限の生活費(月額)として27万6700円が必要であると主張し,それを前提に扶養料月額19万9975円を請求している。
これに対し,相手方は,妥当な生活費(月額)は16万1700円であり,扶養料を月額8万4975円と定めるべきと主張している。
(2)ところで,直系血族は互いに扶養をする義務がある(民法877条1項)ところ,子の親に対する扶養義務は,自分の生活を犠牲にしない限度で被扶養者の最低限の生活扶助をする義務(いわゆる生活扶助義務)と解される。
そのような観点からは,相手方が主張するように生活保護基準や標準生活費を参考にして必要な生活費を検討すべきであり,そうすると,相手方が総務省の統計も考慮して主張する16万1700円は概ね相当な金額ということができ,申立人の主張する27万6700円は過大というべきである(なお,1か月当たりの年金収入額7万6725円に相手方から支給された6万円が加算され申立人の収入が月額13万6725円となったことで,生活保護の申請は却下されたという経緯もある。)。
もっとも,医療費については,相手方は月額8000円が相当と主張するが,申立人が実際に平成25年×月から×月の3か月間に3万6550円(1か月当たり1万2183円)の支出をしていることを主張し裏付けとなる証拠も提出していることからすると,今後も申立人が同程度の支出を余儀なくさせられることも十分予想できる(なお,申立人は上記額を上回ることは確実と主張するが,それを裏付ける証拠はなく,かつ,突発的に支出が増えた場合には他の支出(教養・娯楽費等)を減らすことで対応すべきと考えられる。)。そうすると,医療費については,相手方が主張する8000円ではなく1万2000円程度が必要であると考えることができ,これを加味すると,申立人が必要な金額は16万5700円となる。
なお,家賃については,申立人は,扶養料を得て収入が21万円を超えたら現在の町営住宅から退去を求められることを根拠に,民間住宅の家賃として6万円が必要となる旨を主張している。しかしながら,申立人の収入が21万円を超えるような扶養料を認めるのは,生活扶助義務という性質に照らし相当とは考えられず,申立人の主張は採用できない。妥当な家賃は1万2200円と考えるべきである。
(3)そして,上記のとおり申立人が必要とする金額を16万5700円とした上で,上記認定のとおり,申立人には国民年金及び厚生年金を受給することで1か月当たり7万6725円の収入があることからすれば,差引8万8975円となるので,相手方が生活扶助義務として申立人に支払うべき扶養料は月額9万円と定めるのが相当である。
(4)ところで,上記認定のとおり,申立人は,本件扶養料の調停の申立後に前夫と離婚し,その後の平成25年×月×日に○○に移転して以降は,それ以前の退職金や自動車の売却代金を費消し,平成25年×月×日には生活保護を申請しているから,申立人から相手方に対する扶養料の請求は平成25年×月に遡って認めるのが相当である。
そして,相手方が平成25年×月,平成26年×月及び同年×月に各6万円を支払っていることを考慮すると,平成25年×月分から平成26年×月分までの扶養料の未払分として相手方がさらに支払うべきは18万円となる。
(5)そこで,相手方に対し,18万円を直ちに支払うことを命じるとともに,平成26年×月以降は毎月末日限り9万円の支払いを命じることとする。
3 よって,主文のとおり審判する。