釧路家庭裁判所 昭和33年(家)78号 審判 1958年10月03日
申立人 高木誠(仮名)
被申立人 高木誠一(仮名)
主文
本件申立を棄却する。
理由
申立人は、被申立人が申立人の相続人たることを廃除するとの審判を求め、その理由の要旨は、被申立人は申立人の長男にして推定相続人であるが、同人の○○大学卒業迄の学資金額を申立人において負担したばかりでなく、卒業後開業した小鳥店の資金五〇万円も申立人が支出したに拘らず、申立人には無断にて恣に昭和三三年五月頃廃業しこれを他に転売したのを初めとして数々の非行を重ねている。即ち被申立人の弟信行の学費一〇余万円を勝手に費消し、昭和三三年五月一〇日申立人に対し釧路家庭裁判所に準禁治産宣告の申立をなしその後、取下げたとはいえ、親たる申立人に対し、重大な侮辱を与え更に申立人所有の土地に関する登記簿謄本を持ち廻り買人を物色する等、乱行の限を尽している。かくの如きは申立人に対して重大な侮辱を加えると共に、非行甚しきものがあるので、推定相続人の廃除を求めるため、本件申立に及んだというのである。
被申立入は、離婚した母シゲに対する一ヶ月二万五千円の養育料の外に弟忠行の学費として卒業迄一ヶ月一万五千円宛を送金するならば推定相続人を廃除されても異存ないと述べ答弁として被申立人が、申立人の長男であつて推定相続人であり、○○大学を卒業したことは相違ない、小鳥屋開業の資金は五〇万円ではなく同大学四年生の折三〇万円の出資を受け開店し、生活費や学費を捻出していたが大学を卒業したため必要がなくなり、閉店するに至つた、無断で売却したものではない。弟忠行の学費として前後二回に送金を受けた一五万円は、同大学への寄附金一〇万円、入学金一万円、授業科一ヶ年分一万四千円、学生服その他雑費四万六千円に支弁し、超過分二万円は小鳥店の売却代金中から支出している。申立人に対し準禁治産宣告の申立をなしたが、昭和三三年六月二八日取下げたことは事実である。申立人が日夜遊蕩三昧に耽り財産を濫費するので家庭の平和を保つため、申立てたものであるが申立人が妻シゲとの調停離婚において取決めた妻に対する慰藉料及び養育料の支払を誠実に履行することを確約したから取下げたのである。申立人の土地を売却しようとして登記簿謄本を持ち歩いた事実はないと申述べた。
被申立人が申立人の長男にして、推定相続人であることは申立人の戸籍抄本に徴し明かである。そこで廃除原因について考えてみるに被申立人が、昭和三三年三月○○大学法料を卒業したこと、同大学四年在学当時申立人の出資により、東京において小鳥屋を開業したが卒業と同時に廃業し売却したことは、被申立人に対する調査官の調査報告書により認められるが、その出資金額は五〇万円で申立人には相談なく無断でその少鳥店を売却したことは、高木正に対する調査官の調査報告書により疑えるが、売却代金を自己の費用に蕩尽した事実は認めるに足る資料はなく、弟忠行の大学入学の学費として二回に亘り、一五万円を申立人より、送金を受けたことは上記被申立人に対する調査報告書により是認せられるが、これを被申立人が恣に費消した事実を肯認するに足る証拠はない。却つて、上記調査報告書によれば、被申立人陳述のように大学に対する寄附金や入学金等に使用されたことが認められる。しかして、申立人主張のように、被申立人が申立人に対し準禁治産の申立をなしその後その取下げをしたことは上記報告書に徴し疑ないところであるが、上記高木正に対する調査報告書から推定せられるように申立人の生活も相当放埒を極めこれを反省させるために出でた行為であり、無根の事実をとらえ、申立をなしたことは認めるに足る資料がないばかりでなく、申立人の土地を売り歩いた事実についてもこれを認める証拠はないのである。さすれば被申立人が無断で小鳥店を売却したからというてこの一事を以て直ちに著しい非行ということも出来ないし、上段認定のような事情から提起した準禁治産宣告の申立も強ち申立人に対する重大な侮辱を加えたものとは謂えないから、本件申立はその理由なきものとして棄却すべく、主文のとおり審判する。
(家事審判官 原和雄)