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釧路家庭裁判所 昭和43年(少)360号 1968年6月20日

主文

少年を釧路保護観察所の保護観察に付する。

押収してある手製あいくち一丁(昭和四三年押第三八号の一)を没取する。

理由

1  罪となるべき事実および法令の適用

記録中に存する釧路地方裁判所昭和四二年(わ)第二〇一号事件判決理由欄記載の罪となるべき事実およびその罰条(検察官の公訴事実が一部認められない理由を含む。)と同一であるからこれを引用する。

2  保護の理由

(一)  本件全非行事実は、昭和四二年九月一九日当裁判所により少年決二〇条にもとづいて釧路地方検察庁検察官に送致され、同庁検察官がこれにつき釧路地方裁判所に公訴を提起したところ、同地方裁判所は昭和四二年一一月二九日「少年を懲役三年に処し、五年間保護観察に付して右刑の執行を猶予する。」旨の判決をなした。検察官は右判決に対し控訴の申立をなし、札幌高等裁判所は、昭和四三年三月二九日少年法五五条により決定で本件を当裁判所に移送したものである。

(二)  少年は、一時は生活保護を要するほどの経済的に恵まれない家庭の中で妹一人弟二人をもつ長兄として両親の過多ともいえる愛情を受けてわがままに育ち、昭和四〇年四月には家族の期待を担つて公立高校に入学したのであるが、生来の性格は内向的、憶病で、自己防禦的構えが強く、家庭や学校、友人間で表面上はともかく、必ずしも充分自己をさらけ出すほど環境の中にとけこんでいたとはいえなかつた。

(三)  一年有余にわたつてなされた本件非行は、父は杣夫として月に二度位しか帰宅せず、母は四、五年前から病弱でともに少年に適切な監護をしていなかつたこと、少年に社会規範遵守の観念が不足していたこともその一因であるが、何よりも少年の上記性格から少年の年代特有の性的欲求を円満に解決するすべを知らず、これを内面にうつ積させ、そのうつ積が本件第一回犯行直前に年上の女性にペッテングを教えられたことにより極度に膨脹した結果行なわれたものである。したがつて、少年の上記性格と自己統制力の欠如は資質的に大きな問題であるが、少年は平均人としての知能を有し、これまで具体的な非行としては中学時代における友人達との銭湯ののぞき、高校における無帽等の規律違反があるのみで、日常の生活態度は殆んど歪んでいなかつたこと等を考慮すると上記少年の性格偏倚は必ずしも一般的な犯罪の危険性を内包するものではなく、本件非行は多分に少年の年代に特有の情緒不安定期における一過性のものととらえられる面がある。

(四)  ところで本件についての一連の保護、刑事事件手続とその間における一〇〇日有余の身柄拘束は初体験の少年に多大な影響を与え、ある程度少年の性格を矯正する効果をあげたと考えられ、少年の社会規範遵守の心構えと自己統制力は相当強化されたし、また少年は自己の性格上の欠点を自覚し、これに深い反省を加えたようである。一方少年は本件発覚により高校を中退し、身柄を釈放されて後一時父とともに山中で造材業に従事し、昭和四三年五月からは本件事情を了解した父の友人の経営する運送会社で自動車運転助手として真面目に働いており、少年の周囲は監護の不適から目覚めた両親をはじめ、理解のある雇主、第一審判決により事実上開始されている保護司の活動等少年の更生のためには好ましい状態にあるといえる。

(五)  本件非行は極めて重大であり、保護の重点が性格の矯正に置かれるべき本件においては、少年に対して、一層の深い反省を行なわしめ、強い責任感を喚起させるため施設収容により矯正教育を行なうことも保護処分の選択として充分考えられるところである。しかし身柄拘束を含めた本件一連の保護刑事事件手続はある程度施設収容と同様の効果をあげ、少年に社会的責任感を植えつけるのに役立つたし、上記諸般の事情を考慮すると、現在の生活環境を維持改善するなかで専門的な指導監督、および補導援護を施すことによつても少年の再非行の危険は殆んど考えられず更生は充分期待できるので、現段階では敢えて収容による保護処分を採るべき顕著な必要性はないと判断する。

よつて少年法第二四条一項一号、少年審判規則三七条一項を適用して少年を釧路保護観察所の保護観察に付し、なお押収してある手製あいくち一丁(昭和四三年押第三八号の一)は上記釧路地方裁判所判決理由欄記載第一一の犯行の用に供したもので少年本人以外の者に属しないから少年法二四条の二、一項二号、二項によりこれを没取することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 広田富男)

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