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釧路家庭裁判所北見支部 平成15年(少)93号 決定 2003年7月14日

少年 Z・T(昭和61.4.17生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、平成13年4月13日、当庁にて児童自立支援施設送致の決定を受け、○○家庭学校(以下「家庭学校」という。)に入所したものである。少年は、入所当初から、落ち着きに欠け、無断外出未遂を複数回したり、特定の者への執拗な悪戯を繰り返したりしていたが、入所当初は年長の者が多かったことから、集団の中ではそれほど目立っていなかった。

しかし、少年には、平成14年5月ころから、同室の児童等に対して執拗に挑発を行い、相手がこれに反応しなくても殴りかかったり、興奮して相手にとびかかっていく行動がみられるようになり、後には寮の担当職員に対しても向かっていくようになった。そこで、家庭学校及び児童相談所においては、少年の衝動性を抑えるため、同年9月に精神科を受診させ、投薬を施すなどして経過を観察していた。

それでも、少年の暴力行為は収まらず、平成15年4月19日には、他児とのトラブルにより、金属バットを持ち出して、施設の職員に止められるという事件を起こした。そして、同年5月10日には、少年において、作業中に退屈しのぎで他児を挑発したが、同児が反応しなかったことから、これを殴るという暴行に及んだため、施設の職員から反省の様子がないと厳しく注意、叱責を受けたことから、これに反発して興奮状態になり、叱責した職員を殴ろうとして金属バット2本を物置から持ち出すという事件を起こし、職員や他児が寸前のところで押さえつけて止めるという事態となった。

以上の経過に照らせば、少年は、事実上の保護者である施設の職員の正当な監督に服しない性癖があり、自己及び他人の徳性を害する行為をする性癖があると認められ、その性格及び環境に照らし、将来暴行、傷害等の罪を犯すおそれがある。

(法令の適用)

少年法3条1項3号本文、同号イ、ニ

(処遇の理由)

1  少年は、平成13年4月13日、暴行、窃盗の非行事実により当庁で児童自立支援施設送致決定を受けたものであるが、その際、少年の抱える問題として、知的発達の遅れ、集中力の欠如、衝動性の高さに加え、とりわけ、対人関係において自分への関心を引くために挑発的な行動をとったり、これがかなわない場合には粗暴な問題行動に及ぶこと等が指摘されていた。そこで、送致先の○○家庭学校においては、少年に基本的な生活習慣や基礎的学力を身に付けさせて、規律違反や対人関係における問題行動が許されないことを理解させることを目的として、これまで処遇が行われてきた。

少年は、家庭学校における2年余りの処遇を通じて、規則的な生活態度を相当程度身に付け、集団生活内での行動についても、自己の理解できる範囲内ではこれを行えるようになり、自己統制力もある程度は身に付けたものと認められる。しかし、同施設での生活環境に慣れ、職員との親密さも増し、集団内でも年長者となるにつれ、前記指摘した対人関係における問題行動が目立つようになった。この問題点は施設内での教育・訓練によっても改善せず、かえって、判示非行事実のとおり問題行動が激化してしまったものである。

このように、少年は、これまでの家庭学校における処遇により、相当程度その問題点の改善がみられたものの、その年齢、施設収容歴の長さ、最近における問題行動の激化による施設内の他の入所者等に対する影響に加え、後記のとおり、少年の人格的な偏りもこれら問題行動の原因と認められること等に鑑みれば、少年をこれ以上開放的な施設において処遇することには限界があると考えられる。

一方、少年の保護環境については、家庭学校入所当時から基本的には変わりはなく、実父は入院中である一方、実母についても、文字がほとんど読み書きできないことや、これまで少年に対し基本的な生活習慣を身に付けさせることがなかったなど、監護力に欠けていることが指摘できる。また、実母は本件審判手続を経ても一貫して少年を家庭に受け入れることに消極的であり、現時点では少年につき社会内処遇によりその更生を図らせることは不可能といわざるを得ない。

2  そこで、少年に対しては、現時点においては、少年院における矯正教育を選択するほかない。

この点、送致機関である児童相談所は、少年につき軽度の知的障害及び注意欠陥多動性障害の疑いがあり、後者は人格障害に移行しつつある旨指摘し、本件送致直前には少年を知的障害者向けの施設で処遇することを検討していたものであり、本件送致の際には医療少年院送致が相当である旨述べている。少年の人格の偏りや知的発達の遅れが器質的な障害に起因する疑いがあることはその指摘のとおりともいえるが、その一方で、前記で指摘したとおり、少年は2年余りの家庭学校における処遇によりその生活態度がかなり改善され、知的能力も一定程度開発されたことも認められるのである。そこで、現時点において少年に対して医療を主体とした処遇を施すのが最善とは言い難く、むしろ、中等少年院において、個別的働きかけや行動療法的処遇も考慮しながらも、基本的には一般の少年と同様の処遇を受けさせ、年齢相応の自己規制力、集団適応力、さらには自立心を身に付けさせるとともに、自立を可能にするための力を養うための基礎的学力の向上や職業訓練等を施すのが相当であると考える。

なお、前記のとおりの少年の家庭環境に照らせば、現状では帰省先を少年の出院後の引受先とするのは適当でないが、一方で、少年の能力や人格の偏り等に照らせば、少年が出院後直ちに更生保護施設等で独立して更生をはかっていくことを期待することも困難である。そこで、早期のうちから帰住環境の整備のために、関係諸機関により実母に対する援助、指導を施すことが不可欠であると考える。

3  以上によれば、少年については、中等少年院に送致するのが相当であるから、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項により、主文のとおり決定することとする。

(裁判官 柴田雅司)

〔参考〕 環境調整命令

平成15年7月14日

釧路保護観察所長 殿

釧路家庭裁判所北見支部

裁判官 柴田雅司 <印>

環境調整に関する措置について

氏名 Z・T

年齢 17歳(昭和61年4月17日生)

職業 なし(○○家庭学校入所中)

住居 北海道斜里郡○○町○○町××番地(帰住予定先)

本籍 北海道斜里郡○○町○○×××番地

当裁判所は、平成15年7月14日、上記少年に対して、中等少年院に送致する旨の決定をしましたが、下記のとおり、その帰住環境の整備のために、早期の環境調整の必要があると考えますので、少年法24条2項、少年審判規則39条により、下記のとおり措置を執られますよう要請します。なお、詳細については、添付の決定書謄本並びに同決定にかかる鑑別結果通知書及び少年調査票の各写しを参照してください。

少年は、平成13年4月13日、当庁で児童自立支援施設送致の決定を受け、○○家庭学校に入所し、これまで同施設にて処遇されてきたものであるが、他の入所者や施設の職員等とのトラブルやこれらに対する暴行等の問題行動を繰り返したため、児童相談所によりぐ犯送致され、審判の結果、中等少年院送致の決定を受けたものである。

少年の家庭環境をみると、実父が入院中で、実母にも文字がほとんど読み書きができないことや、これまで少年に対し基本的な生活習慣を身に付けさせることがなかったなど、その監護力が欠けていること等、劣悪な環境にあり、現状のままでは家庭を少年の出院後の引受先とするのは適当でないといわざるを得ない。しかし一方で、少年の能力面や人格の偏り等に照らせば、少年院での矯正教育により、その問題点の改善が相当程度はかられたとしても、出院後直ちに更生保護施設等で独立して更生をはかっていくことを期待することも困難な状況にある。

そこで、保護観察所におかれては、少年の仮退院後の社会内処遇に支障を来さないよう、関係諸機関とも連絡調整の上、早期のうちに、実母に対し、少年が少年院出院後は、家庭に戻ること及び家庭においてその自立を支援することになることを自覚させ、その受入れのために、少年との面会通信等を定期的に行うこと等により交流をはからせ、また、家庭環境の整備を図らせるよう、指導、援助されたい。

以上

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