長崎地方裁判所 平成11年(わ)251号 判決 2003年1月31日
主文
被告人両名をいずれも死刑に処する。
理由
(被告人両名の身上、経歴等)
1 被告人Aの身上、経歴等
被告人Aは、昭和33年10月22日、佐賀県藤津郡a町内で出生し、以後、同町内の小中学校を卒業後、佐賀県内の高校、短期大学にそれぞれ進学し、昭和54年3月に同校を卒業後は、同県鹿島市内の甲医院の寮に住み込んで同医院の看護婦見習いなどとして稼働しながら、准看護婦の資格取得のため看護学校に入学した。同被告人は、その後間もなく、知人を通じて、主に電力会社の下請けとして、発電所等の建設に伴う電気機器の設置、電気通信工事等を行う佐賀市内の会社に技術員として勤務するC(昭和28年12月28日生)と知り合い、間もなくして同人から結婚を申し込まれて、昭和54年12月、同人と結婚し、そのころ、上記医院を退職するとともに、上記看護学校を退学した。なお、Cは、被告人Aとの結婚の直前である同年9月に父方の遠縁にあたるDと養子縁組をしてその養子となったため、被告人Aは、結婚後はD宅に上記夫と3人で居住して生活を始めた。その後、同被告人は、上記夫との間に、長男E(昭和55年9月6日生)、次男F(昭和57年5月24日生)、長女G(昭和63年11月25日生)の3子をもうけた。
2 被告人Bの身上、経歴等
被告人Bは、昭和22年7月11日、佐賀県藤津郡鹿島町(現鹿島市)内で出生し、以後、同町内の小中学校を卒業後、佐賀市内の高校に編入学したが、同校を2年時に退学し、その後は主に東京方面に赴いてトラック運転手、ボーリング場従業員等として稼働した後、昭和52年7月ころ神奈川県小田原市にある乙株式会社に就職し、昭和63年1月ころまで同社にバス運転手として勤務した。その間、昭和48年6月にHと結婚し、神奈川県内に居住して3子をもうけた。しかし、同被告人は、結婚後数年たった昭和51、2年ころから、競輪等のギャンブルにのめり込むようになり、そのため数百万円にのぼる借金を背負うようになったことや妻に暴力を振るうなどしたことから、昭和59年5月、離婚を余儀なくされた。その後、同被告人は、数名の女性と知り合って交際し、再婚の希望も有していたが、多額の借金を抱え、なおもギャンブルに耽っていたことなどから結婚には至らず、昭和63年1月にはバスの運転中に事故を起こしたことなどから上記勤務先の会社を退職し、同年5月に同被告人の実父が死去したことを機に佐賀県鹿島市内の実家に転居し、同所で実父の営んでいた古物商を引き継いで営み生活するようになった。
(第1の犯行に至る経緯)
1 被告人両名が知り合った経緯
上記のとおり、被告人Aは、Cと結婚後、同人の養母Dと同居して生活をしていたが、同人は、被告人Aが結婚した当時既に89歳と高齢であり、その後徐々に痴呆の症状が現れるようになった。被告人Aは、Dが昭和59年8月に死去するまで同人の日常の世話に追われたが、同被告人は、自己が結婚後体調がすぐれないにもかかわらず、夫であるCがDの世話を含む家事等の一切を自己に一方的に押しつけ、自己はパチンコ等の遊興に耽るなど家庭内の仕事に非協力的であり、さらにはその実母であるIについても、そもそも同人は、Cと被告人Aとの結婚に当初から反対しており、結婚後もCの肩を持つばかりで、自己に対する思いやりがなく、その苦労を理解しようとしないなどとして、次第に同人らに不満を募らせるようなった。
Cは、結婚後も上記佐賀市内の会社に勤務を続けたが、その一方で、遅くとも被告人Aとの間に長女が誕生した昭和63年ころからは、妻である被告人A以外の女性と内密に交際をするようになり、同年秋ころには、Jと知り合って同人と交際を始め、肉体関係を持つとともに、そのころ、同人が、夫であるKとともに鹿島市内にスナック丙を開店しようとしていたことから、平成元年3月ころには、Jにその開店資金として120万円の金員を貸し付け、同スナックに頻繁に通うなどしていた。
Jは、Kと平成元年4月に離婚したが、翌平成2年ころになり、Kは、自己らが離婚を余儀なくされたのは、CがJと浮気したことが原因である、その責任をとれなどとして、Cに対し金員を要求するようになり、Cはこれに応じて、Kに対し、自己がJと浮気をしたことの慰謝料等として150万円を支払った。そのころ、Kは、さらに、被告人Aに対しても、夫の不貞行為の責任をとれなどとして、頻繁に同被告人方を訪れたり、電話を架けてくるなどするようになり、そのうち同被告人に対し、逆に自己と交際するよう要求し、肉体関係を強要したり、ホテルに同行させた際には、自己が同被告人から警察に訴えられた際の防衛手段であるなどとして、室内で同被告人の全裸写真を撮影したりもした。
被告人Aは、上記のように、Kから夫の浮気の責任をとれなどと要求されているとして、これを当のC本人に相談しても、同人は、既にその件は解決済みであるなどと言うのみで、真剣に取り合ってもらえないなどとして、同人に対し、さらに強い不満を募らせるようになったが、その一方で、同被告人は、以前から経済観念に乏しく、また夫がパチンコ等に相当な金員を費していたこともあって、夫の収入や自己が時折働いて得た収入等の範囲内で家計を維持することができず、親族等から度々金員を借り入れたり、消費者金融等からも多額の借入れを行うなどし、また、そのころK以外の数名の男性とも肉体関係を持ってその見返りに同人らから金員の交付を受けたり、同被告人が居住していた地区の会費数十万円を使い込むなどもしていた。そうして、被告人Aは、Kから交際を半ば強要されることを厭わしく思う一方で、同人を自らが保険外交員として勤務する保険会社の生命保険に加入させるなどしたほか、スナック丙が平成2年夏ころいったん閉店し、翌平成3年ころ、再び別の場所で開店した際には、Jが夫Cの浮気相手であることを知りながら、Kの紹介を受け、同店でホステスとして働き、Jとも知り合うようになった。
一方、被告人Bは、上記のとおり、鹿島市内に居住しながら古物商を実父から引き継いで営んでいたが、その内実は、古物の取引はまれで、安定した収入もまったく見込めない状態ではあったものの、同被告人の兄姉4名(うち兄1名は平成2年7月に死去)が昭和28年ころから昭和53年ころにかけて相次いで精神病に罹患し、以後いずれも長期入院状態にあり、障害者年金を受給していたことから、これらを被告人Bにおいて管理した上、それを担保に供して金融機関から借入れを行ったり、昭和63年に相次いで死去した実父母らの障害者扶養共済金の支給を受けたり、知人女性等各所から金員を借り入れたりなどしてこれらを生活資金に充てるとともに、依然として競輪、パチンコ等のギャンブルにも耽っていた。ところで、被告人Bは、パチンコを通じて知り合った友人に連れられ、平成3年暮れころ、スナック丙に初めて来店し、以後、同店に度々赴くようになり、間もなくして、同店でホステスとして働いていた被告人Aと知り合った。その後、被告人両名は、店外で偶然出会い、被告人Aの求めに応じて被告人Bが金を貸したことをきっかけに肉体関係を持った。そうして、平成4年1月には、被告人Bは、上記のとおり、安定した収入もないまま競輪、パチンコ等のギャンブルに耽り、金融機関等への借金を数百万円にまで増大させていたことに加え、当時既に好意を抱いていた被告人Aに対し、気前よく振る舞いたいなどという思いもあって、同月19日、当時自己が頻繁に通っていた佐賀県鹿島市内のパチンコ店己の景品交換所に1人で強盗に押し入り、女性従業員から現金190万円余りを奪ったが、これもまたたく間に自己の借金の返済やギャンブル等に費消した。
2 第1の犯行の共謀成立状況
一方、上記のような経過から、被告人AとCとの夫婦関係は、遅くとも昭和63年ころからは、互いの愛情を失い、かなり殺伐としたものとなって、被告人Aにおいては、特にKとの関係におけるCの態度に強い不満を募らせるとともに、被告人Bと知り合って以降は、同被告人に好意を寄せるようになり、その一方、Cは、Jとの交際は、平成2年ころにはほぼ終わったものの、それ以前から交際していたスナック丙の別の女性従業員とは以後も交際を続け、同人に対しては、被告人Aとの離婚の意思を打ち明けるなどもしていた。そうして、被告人Aは、平成3年12月ころ、Cから「お前はお手伝いさんたい。」などと言われ、さらには、平成4年1月前後ころ、Cの実母であるIから「Cが離婚ば考えよる。」、「財産は全部Cのもんやけんが。子どもは全部うちが引き取って面倒ばみるけん。」などと言われ、その場に居合わせたCもこれに同調する態度を示すに至り、同人に対する深い憎悪を抱くようになった。そうして、同被告人は、離婚される前にCを事故死に見せかけて殺害し、C家の財産を自分のものにするとともに、同人に掛けてある約1億円の保険金を手に入れようなどと考えるに至った。なお、Cは、上記会社に就職後の昭和47年7月に戊生命保険相互会社との間で、生命保険契約を締結し、これを順次転換し、平成3年3月1日付けで普通死亡保険金額3700万6900円、災害死亡保険金額4900万6900円、受取人を被告人Aなどとする生命保険に加入していたほか、さらに、その実母であるIが、丁保険相互会社e支社で保険外交員をしていたことなどから、同社との間でも、昭和60年6月、生命保険契約を締結し、平成2年4月26日、従前の保険金額を増額して、普通死亡保険金額4000万円、災害死亡保険金額5000万円、受取人を被告人Aなどとする生命保険に加入していた。
このようにしてCに対する殺意を抱くに至ったころ、被告人Aは、上記のとおり、スナック丙でホステスとして働きつつ、他にもコンパニオン派遣業者に登録してコンパニオンをしたり、生命保険会社の保険外交員をするなどしていたが、先のような経緯で被告人Bとの関係を深めるうち、同被告人に対し、自己がKから肉体関係を強要されたり、全裸写真を撮られるなどして、半ば交際を強要されていること、夫にこれを打ち明けても真剣に取り合ってもらえないこと、多額の借金を抱えていることなどを相談として持ちかけるようになっていた。そうしたところ、当時被告人Aに情を傾けつつあった被告人Bは、平成4年3月ころ、スナック丙店内において、その場に居合わせたKを殴りつけ、翌4月には、上記パチンコを通じて知り合った友人の助力も得て、Kに対し、被告人AないしCに対する慰謝料等として150万円の金員を支払うことを約させ、併せてその旨の書面を作成させ、さらに翌5月には、その支払を確実なものとするため、Kに対しては利息を含め270万円、Jに対してもCが貸し付けた開店資金の返済として利息を含め172万円をそれぞれ月々分割して被告人AないしCに対し支払うよう約させるとともに、併せてその旨の書面をさらに作成させるなどした。こうして被告人Bの手によって、被告人Aは苦痛の種であったKとの関係を完全に断ち切ることができ、被告人Bに対し、大きな信頼を寄せるようになっていった。
もっとも、被告人Aは、上記のとおり、Cを憎悪し、同人を殺害してその保険金を得たいと考えていたことから、その計画に協力し、Cを殺害してくれる人物として嫌っていたはずのKを考え、同人との関係が上記の経過により断絶する前である平成4年3月ころまでの間に、同人に対し、それとなくCの殺害をもちかけてみたものの、Kは、これに取り合わなかった。そこで、被告人Bに大きな信頼を寄せつつあった被告人Aは、同年4月ころ、被告人B宅で同被告人に対し、C殺害の意思を打ち明けるとともに、同人には多額の生命保険が掛けられていることを告げた。そうして、その後、実際に上記両保険会社の保険証券を被告人Bに見せるなどするうち、同被告人においても、事故死に見せかけて保険金合計約1億円を手に入れれば、自分と被告人Aの借金を完済し、なお多額の金が残る、そうすれば、被告人Aと共に楽な生活を送れるなどと考え、犯行の実行を承諾し、ここに被告人両名の間に、Cを事故死に見せかけて殺害し、各生命保険会社から災害死亡保険金合計約9900万円を騙取する旨の共謀が成立した。
その後、両被告人は、C殺害の方法を種々思い巡らせたが、結局は、被告人Bの兄姉に処方された向精神薬や被告人Aが不眠を偽って処方を受けた睡眠導入剤をCに飲ませて眠らせた上、海中に突き落とし、魚釣り中に過って転落したように見せかけることとした。
(罪となるべき事実)
第1被告人両名は、水難事故死を仮装して被告人Aの夫C(当時38歳)を殺害した上、同人が、丁保険相互会社及び戊生命保険相互会社との間で締結したいずれも同人を被保険者、被告人Aを受取人とする災害死亡保険契約に係る保険金合計約9900万円を両社から騙取しようと企て、共謀の上、
1 平成4年9月10日午後8時過ぎころ、佐賀県鹿島市bの被告人A方において、Cに対し、睡眠導入剤等の粉末を夕食に混ぜて服用させた上、睡眠状態に陥った同人を、同県藤津郡c町大字d付近護岸まで運び、同月11日午前零時30分ころ、睡眠状態の同人を同護岸の擁壁上に横臥させた上、海中に突き落とし、さらに、同人を海中に沈めるなどし、そのころ、同人を溺水の吸引により窒息死させて殺害した
2 同月21日ころ、情を知らない戊生命保険相互会社e支社f支部係員らを介し、佐賀市g町所在の同社h支社において、同支社保全係員Mに対し、真実は、上記1のとおり、Cは被告人両名の共謀による殺害行為により死亡したものであるにもかかわらず、Cが、魚釣り中に上記護岸上から過って転落死亡した水難事故死であるように装い、被告人A名義の保険金請求書等関係書類を提出して災害死亡保険金4900万6900円の支払を請求し、上記Mらをして上記請求書等を大阪市北区i所在の戊生命保険相互会社に送付させ、同社保険金課長Nらをしてその旨誤信させ、よって、同年10月12日、上記災害死亡保険金名下に、同社から佐賀県鹿島市大字j所在の株式会社庚銀行h支店の被告人A名義の普通預金口座に4881万4683円を振込入金させ、もってこれを騙取した
3 同年10月5日ころ、佐賀市k町所在の丁保険相互会社e支社において、同支社総務課副長Lに対し、真実は、上記1のとおり、Cは被告人両名の共謀による殺害行為により死亡したものであるにもかかわらず、Cが、魚釣り中に上記護岸上から過って転落死亡した水難事故死であるように装い、被告人A名義の保険金請求書等関係書類を提出して災害死亡保険金5000万円の支払を請求し、上記Lらをして上記請求書等を東京都新宿区z所在の丁保険相互会社に送付させ、同社契約サービス部保険金専管部長Oらをしてその旨誤信させ、よって、同月23日、上記災害死亡保険金名下に、同社から佐賀県鹿島市m所在の株式会社辛銀行h支店の被告人A名義の普通預金口座に4990万7160円を振込入金させ、もってこれを騙取したものである。
(第2、第3の犯行に至る経緯)
1 第1の犯行により得た保険金費消状況
被告人Aは、上記第1の2、3に係る災害死亡保険金合計9870万円余りのほか、Cの勤務先会社の団体定期保険金、退職金、弔慰金等も含め、そのころ合計1億円を超える金員を取得した。そうして、それまで自己にとって苦痛の種であったKとの関係を解消させ、さらにはC殺害による保険金獲得をも成功させた被告人Bに対し、絶大な信頼を寄せるに至った被告人Aは、取得した保険金等の半額を被告人Bに譲渡し、さらに被告人らが今後夫婦関係を築いた折りには、保険金等の全額の管理を被告人Bに委ねる旨の誓約書を同被告人に宛てて作成するなどした。ところで、上記第1の3の丁保険相互会社から支払われた保険金については、被告人Aの金銭に対するだらしなさを心配した同被告人の実兄において、同被告人や生前のCの借金の返済等の手続を行った残額である約4500万円余りを、同被告人及びその子らのために預かることとなったが、これを不満とする被告人Bが実兄方に押しかけたり、被告人Aに実兄を告訴させるなどしたため、これに嫌気がさした実兄が管理をあきらめ、結局被告人両名の手に渡った。
被告人両名は、こうして入手した保険金等合計約1億円のうち約3000万円程度を自己らの金融機関等に対する借金の返済や被告人Aの自動車購入代金、滞納していた被告人Bの兄姉の入院費用等に充てたが、それ以外の金員については、当初は住宅購入等を企図したりしていたものの、実現には至らず、上記誓約書のとおり、被告人Bにおいて、これらの保険金を口座から払い出して自宅の金庫に保管するようになると、上記第1の犯行以前にも増して連日のように競輪場等に赴き、しかも1日に数百万円をこれにつぎ込むなどして濫費し、結局、借金の返済等のほか、被告人両名及び被告人Aの実子3名の生活費等となった以外の金員は、平成5年7月ころまでの間に、そのほとんどを被告人Bにおいて競輪等のギャンブルに使い果たした。
2 被告人らの生活状況及び保険加入状況等
被告人両名は、上記第1の犯行の数か月後ころから、被告人A方において、内縁の夫婦として、同被告人の実子3名とともに生活していたが、上記のとおり、同犯行により得た保険金を数か月の間にほぼ使い果たした結果、平成5年7月末の時点では、被告人両名の預金残高は、合計数万円とほぼ底をついた。そこで、被告人両名は、続いて、Cが昭和59年8月にDから相続し、さらに被告人AがCから相続して取得した土地を売却して金員を捻出することを企図し、平成6年から平成9年にかけて、近隣に住む知人や不動産業者らに対し、次々とそれらの土地を売却し、その結果、その間に売却した土地7筆の代金合計約5900万円(ただし、税金、仲介料、手数料等を含む。)を入手した。ところが、そのころに至っても、依然として被告人Bは競輪等のギャンブルに耽り続けていたことから、これらの金員についてもまたもや上記保険金等と同様にその多くを同被告人においてまたたく間に競輪等に費やし、加えて同被告人は全く仕事に就かず、被告人Aについても平成7年9月に食品の加工卸販売等の会社にパート従業員として勤務し始めるまでは無職であり、Cの遺族年金や被告人Bが管理していた長期入院中の兄姉3名の障害者年金も年金担保として差し入れられていたため、被告人両名の手元には入らず、被告人両名の金融機関等に対する借入額は増大する一方であった。こうして、被告人両名は、上記第1の犯行にもかかわらず、経済的な困窮に再び陥って、被告人Bの兄姉らの入院費用や土地売却に伴う税金等を滞納したほか、次第にその生活費にも事欠き、保育園や学校に通学する被告人Aの実子3名の保育料や給食費、病院の治療費、水道光熱費等までをも滞納するようになり、被告人らの知人らに対しても事あるごとに借金を申し込んで、金員を借り受けるなどしていた。
ところで、被告人Bは、昭和63年に鹿島市内の実家に転居したころから、そのころ同被告人の実母が加入していた壬保険相互会社の生命保険の保険料の徴収等のため、同被告人方に出入りしていた同社の保険外交員Pと知り合い、同人の営業成績に貢献しようとの意味合いもあって、そのころ、本来生命保険の被保険者とはなり得ない被告人Bの兄姉らを被保険者とする同社の団体定期保険に同被告人が契約者となって加入させたり、また被告人B自身も同社の生命保険に加入したりなどして懇意にしていた。平成7年4月ころ、上記のとおり、そのころ既に経済的困窮状態にあった被告人Bは、さらに上記Pの営業成績に貢献することにより、同人から金員を借り入れたり、被告人らが消費者金融等から金員を借り入れる際に保証人となってもらうなどの意図の下、被告人Aを保険加入希望者として上記Pに紹介し、同年6月1日付けで、普通死亡時保険金額3200万円、災害死亡時保険金額4700万円、受取人をEなどとする同社の生命保険に加入させたほか、自己も同日付けで普通死亡時保険金額1000万円、災害死亡時保険金額2000万円、受取人を被告人B自身などとする同社の生命保険に加入し、さらに、同様の意図の下、被告人Aの実子らも保険に加入させようと考えて、同年7月1日付けで、次男Fを被保険者とし、普通死亡時保険金額3000万円、災害死亡時保険金額3500万円、受取人を被告人Aなどとする生命保険に加入させ、さらに、長男Eについても、同年8月1日付けで、普通死亡時保険金額2000万円、災害死亡時保険金額2600万円、受取人を被告人Aなどとする生命保険契約を締結し、それらの見返りとして、被告人両名は、平成7年4月から5月にかけて、合計150万円をPから借り入れたほか、そのころ被告人らが消費者金融や信用金庫から金員を借り入れる際に、その保証人となってもらうなどした。
3 第3の犯行に至る当初の経緯及び第2の犯行の共謀成立状況
上記のような経済的な困窮状態にあって、被告人Bは、平成4年に被告人Aの夫を事故死に見せかけて殺害し、多額の保険金を得ることに成功していたことから、再びそれと同様の手段により多額の金員を手に入れようと考えるに至り、今度は被告人Aの実子を殺害し、その保険金を騙取しようと考えた。そして、その対象としては、被告人Aの実子3名のうち、かねてから被告人Bに懐かず、同被告人において、元気がなく、性格が暗い、将来の展望も乏しいなどと軽んじていた次男Fをその対象とすることとし、平成9年暮れころないし平成10年夏ころまでの間に、その意思を被告人Aに打ち明けた。これに対し、被告人Aは、当初、冗談ではない、殺すなら自分の子どもを殺せなどと反論してこれに反対したものの、被告人Bから幾度も計画を持ちかけられるうち、次第に、Fを殺害して保険金を騙取し、これを被告人Bと折半して互いの借金を清算し、C家の財産を食いつぶすばかりの同被告人と別れよう、そうすれば自分と長男E、長女Gは幸せに生きて行ける、Fにはその犠牲になってもらおうなどと考えるに至った。
そこで、被告人両名は、Fを殺害する手段として、種々考えを巡らせたものの、やはり、C殺害の際と同様、Fに薬物を密かに服用させて眠らせ殺害しようと考え、被告人Aにおいて病院に赴いて虚偽の不眠を訴えて睡眠導入剤等を入手し、被告人Bにおいても自宅に保管していた兄姉らに処方された精神病薬等を準備するなどした。しかし、被告人Aはさすがに実子の殺害にはちゅうちょを覚え、同年8月末ころ、Fに上記薬物を密かに服用させた上、イカ採りに誘い出して海岸付近に停めた車内で眠らせ、イカ採りに使うガスを充満させて殺害しようと試みた際には、Eに対し、被告人BがFを殺害しようとしている旨告げ、ガスを止めさせたほか、再度同様の方法によりFを殺害しようと計画された際には、被告人Aにおいて、逆に被告人Bを殺害してF殺害を回避しようと考え、睡眠導入剤等を同被告人に密かに服用させて眠らせ、たばこの火の不始末により焼死したように装って同被告人を殺害したりしようとした。
このように、被告人Aのちゅうちょのため、F殺害に至らなかった被告人両名は、大金を得て窮状を打開する方法として資産家宅に押し入ることを計画し、被告人Aにおいて、かつて短大卒業後、看護婦見習い等として寮に住み込みでその夫の経営する病院に勤務し、平成6年ころにも家政婦として働かせてもらったことがあって屋内の状況等をよく知り、老齢で1人暮らしをしているQ(大正12年生)方に強盗に押し入り、同人から自宅に保管してある現金を強取するとともに、あわよくば同人が金融機関等に預け入れている預金等をも引き出して、多額の金員を得ようと決意するに至った。
(罪となるべき事実)
第2被告人両名は、かねてから内情を知る佐賀県鹿島市n所在のQ(当時75歳)方に押し入り、金品を強取しようと企て、共謀の上、平成10年9月29日午後8時ころ、被告人Bにおいて、覆面をした上、宅配便の配達を装って、上記Q方通用口から同屋内に侵入し、同家屋内において、同人に対し、その首を片腕等で締め付けるとともに、「騒ぐな。」「強盗だ。俺は人を殺したことがある。刑務所も行った。金を出せ。」「災難と思ってあきらめろ。」などと語気鋭く申し向け、引き続き、そのころから翌30日午前3時30分ころまでの間、同所において、同人の首を布きれで締め付けたり、包丁を突き付けたり、「3000万出せ。」「銀行に行って出してやれ。」などと繰り返し語気鋭く申し向けたりなどの暴行・脅迫を加え、その反抗を抑圧し、同日午前3時30分ころ、同人所有の現金約13万7000円、ネックレス等6本(時価合計約120万円相当)及び普通預金通帳1冊を強取したものである。
(第3の犯行に至る最終的な経緯)
上記のとおり、被告人両名は、Q方において、同人から金品を強取し、あわよくば大金を得ようと企てていたものの、強取に成功したのは上記の金品にとどまり、預金通帳についても、その暗証番号を聞き出すことができなかったことから、同人の口座から金員を引き出すことはできず、結局、上記犯行によっても、当時の被告人らの深刻な経済的困窮には焼け石に水であった。そこで、被告人両名は、この上は、いよいよ、先に計画していたとおり、Fを殺害し、その災害死亡保険金3500万円を保険会社から騙取する以外に、困窮から脱する手段はないものと考えるに至り、ここに被告人両名の間にその旨の共謀が成立した。
(罪となるべき事実)
第3被告人両名は、水難事故死を仮装して被告人Aの次男F(当時16歳)を殺害した上、被告人Aが、壬保険相互会社との間で締結したFを被保険者、被告人Aを受取人とする災害死亡保険契約に係る保険金3500万円を同社から騙取しようと企て、共謀の上、
1 平成10年10月26日午後10時30分ころ、長崎県北高来郡o町p所在のq岸壁において、Fに対し、睡眠導入剤等の粉末を入れたカプセルを飲ませ、同月27日午前零時30分ころ、同岸壁東側石段において、睡眠状態に陥った同人の上半身及び両足に紙粘着テープを数回巻き付けて、同人を同石段から同所先の海中に投げ込み、さらに、同人を海中に沈めるなどし、よって、そのころ、同人を溺水の吸引により窒息死させて殺害した
2 同年11月11日ころ、情を知らない壬保険相互会社e支社r支所係員らを介し、佐賀市s所在の同社e支社において、保全係員Rに対し、真実は、上記1のとおり、Fは被告人両名の共謀による殺害行為により死亡したものであるにもかかわらず、Fが、上記岸壁においてイカ採り中に過って転落死亡した水難事故死であるように装い、被告人A名義の保険金請求書等関係書類を提出して上記災害死亡保険金3500万円の支払を請求し、もって人を欺いて財物を交付させようとしたが、同社が上記保険金の支払を保留したため、その目的を遂げなかったものである。
(その他の罪となるべき事実)
第4被告人Aは、
1 平成11年2月15日午前10時50分ころ、佐賀県鹿島市大字t株式会社癸銀行h支店u出張所において、同所に設置されている現金自動支払機に、正当な使用権限のない株式会社甲2発行に係るS名義のクレジットカードを挿入して同機を作動させ、同機から同出張所長T管理に係る現金20万円を窃取した
2 S名義のクレジットカードを利用して商品購入名下に人を欺いて物品を交付させることを企て、同月23日午後3時35分ころ、同市大字v株式会社乙2h店1階ビデオ売場において、同店従業員Uに対し、同クレジットカードの正当な使用権限も同クレジットシステム所定の方法により代金を支払う意思もその能力もないのにこれあるように装って、同クレジットカードを提示して、ビデオカメラ等の購入を申し込み、同人をその旨誤信させ、よって、そのころ、同所において、同人からビデオカメラ等2点(価格合計17万8000円)の交付を受け、もって人を欺いて財物を交付させたものである。
(補足説明)
判示第2の犯行について、被告人Bの弁護人らは、同被告人に住居侵入罪及び強盗罪が成立することは争わないものの、同被告人がQに対し、判示の脅迫文言を「語気鋭く」申し向けたことはなく、また、同人に包丁を「突き付けた」こともなく、「繰り返し」暴行、脅迫を加えたこともないと主張して、犯行の態様を争い、同被告人も、Qに対し、脅迫的な言葉を述べたのは瞬間的なことで、ほとんどは穏やかに話をしていたなどと供述し、さらに被告人Aの弁護人らは、同被告人については、その役割等に照らし、被告人Bとの共謀共同正犯は成立せず、幇助犯が成立するに過ぎない旨主張するので、以下、これらの点に関する当裁判所の判断を示す。
1 犯行の態様について
関係証拠によれば、被告人Bは、平成10年9月29日午後8時ころ、宅配便の配達員を装って、Q方に押し入り、金品を強取しようとの意図の下、作業服を着て、肌色のパンティストッキングに顔の輪郭等を隠すための模様を書き込むなどした覆面を被ってさらに帽子も被り、同人方の呼び鈴を鳴らし、ドア越しに応対に出たQに対し、宅急便ですなどと告げ、これを信用してQが玄関横の通用口のドアを開けたところ、すかさず屋内に侵入したこと、これに驚いてあわててその長女の名前を呼ぶなどしながら、屋内に逃げ込もうとするQに対し、被告人Bは、その頸部を両手で締め付けるなどした上、判示のような脅迫的な言辞を申し向け、屋内に家族等がいないかしばらく様子をうかがおうとその通用口付近において、1時間半ないし2時間ほどとどまり、その間、Qの頸部に布を巻いて締め付けるなどもしたこと、その後、被告人Bにある程度の現金を渡してそれ以上の被害を免れようと考えたQが、同被告人に対し、家の中に上がるよう申し向けたことから、同被告人はQ方に土足のまま上がり込み、同人方1階応接間、茶の間、寝室等において、翌30日午前3時30分ころまでの間、Qに対し、金員の交付を要求し続け、その間、2人で台所に赴いた際には、同所において、包丁を手にとってQに示すなどもし、さらには判示のような脅迫的な言辞をなしたこともあったこと、そうして、被告人Bは応接間付近にあったQのハンドバッグの中から現金を強取したほか、寝室のテレビ台の引き出し、納戸の金庫内から判示の金品を強取したこと、その後、寝室で被告人Bが通帳を確認していた際、すきを見てQが非常通報装置のボタンを押し、これを被告人Bにも告げたことから、同被告人は、すぐさま判示の金品を持ってQ方から逃走し、被告人Aの待機していた自宅に帰ったことが明らかに認められ、被告人Bもこれらの点については争っていない。
そこで、まず、被告人Bが包丁をQに対し「突き付けた」とされる点については、同被告人においても、台所にQと赴いた際、同人が流し台の包丁を手に取ろうとしているように思われたことから、自らこれをすかさず手に取り、自己の胸のあたりに持ち、面前のQの顔の方に向けてこれを示し、同被告人の供述調書によれば、「肝っ玉の太かね」、「傷つけることになるけん」などと申し向けたとされ、公判においてもこれを否定する供述はしていないのであって、かかる行為は、Qに包丁を突き付けたものといえる。もっとも、Qは、被告人Bがこの際、包丁を手にとってこれをQの首の後ろ付近にぺたぺたあてた旨供述しており、それ自体かなり特徴的な供述といえ、これが単なる記憶違いとか虚構のものとは考え難い面はあるが、一方、同人は、被害直後に警察に通報して被害申告したものの、供述に不自然な点があるなどとされて、立件には至らず、約1年後になってようやく詳細な供述調書が作成され、さらにその半年後に公判廷で証言した経緯があり、その間の記憶の薄れや変容も考えられることからすると、被告人Bが一貫して否定する中で、同被告人が、Q証言のとおり、その首に包丁をあてたとまで認めるには至らない。
次に、脅迫の態様については、被告人Bの弁護人らは、同被告人のQに対する脅迫は、直接的にQに危害を加えるような内容のものではなく、長時間に及ぶ犯行の最中、大半は穏やかな会話がなされたものであるから、被告人Bが判示の脅迫的言辞を「語気鋭く」申し向けたとか、「繰り返し」申し向けたとかいうのは当たらないなどと主張するのであるが、1人暮らしの老齢の女性宅に夜間覆面を被り、宅配便の配達員を装って押し入ったという客観的な状況のみからしても、被告人BのQに対する言辞が、「語気鋭い」ものであったことは自明である。また、その金銭要求は、数万円の現金を渡してそれであきらめてくれるよう懇願したQに対し、さらに多額の金員の交付を要求するなどして、約7時間もの間Q方に居座り続けてなされた執ようなものであり、その間被告人Bは、終始金品の強取を目論んでいたものであるから、判示のような脅迫行為が「繰り返された」こともまた明らかである。
2 被告人Aの正犯性について
関係証拠によれば、被告人両名は、金銭に窮し、かつて被告人Aにおいて、寮に住み込みでその経営する病院に勤務し、また平成6年ころには家政婦として雇ってもらったこともあって、内情をよく知るQ方に強盗に押し入ることを企て、被告人AがQ方の間取り等を図面に書いて屋内の状況を被告人Bに説明したこと、その際には、Qが1人暮らしをしていることはもとより、その用心深い性格や、日頃、その長女が夕食を差し入れるなどして同人方に度々出入りしていること、金員等の保管場所と思われた金庫の所在場所や、非常通報装置が設置されていること等をも併せて説明したこと、犯行の実行を決断するや、被告人Aは、被告人Bと共に犯行現場となるQ方や同人方に日頃出入りしていた同人の長女の夫が経営する病院等に赴いて、長女の動向をも確認したこと、実行役については、被告人AはQに顔を知られているなどのため被告人Bが1人でこれにあたることとされたが、同被告人がQ方に押し入る際の方法を検討した際には、被告人Aにおいて、宅配便の配達員を装って屋内に侵入する方法を提案し、現にこれが実行されたこと、また、犯行時に被告人Bが覆面として使用するパンティストッキングや手袋等の犯行道具の準備にも関与したほか、被告人Bにおいて、預金通帳等を強取することに成功した場合には、同被告人が女装して銀行等に赴き、預金を引き出す旨計画されたことから、その際使用する変装用のかつらや着衣等も被告人Aにおいて準備したこと、犯行に赴くに際しては、事前に被告人Bと共にQの長女の夫が経営する病院に赴いて、長女の所在を確認した上、被告人Aにおいて同BをQ方付近まで車で送ったこと、被告人Bにおいては、被告人A所有の携帯電話を持参し、被告人Aにおいては、その間Q方に近い被告人B方で待機して同被告人と常に連絡がとれる体制を整え、実際に、犯行の最中に、幾度か被告人Bから電話連絡を受け、Qが不審に思ったため服用させるには至らなかったが、同被告人から犯行に必要として指示された睡眠導入剤等をQ方まで持参してこれを同被告人に手渡すなどもしたこと、犯行後は、被告人Bと共に、強取に係る現金を持参して消費者金融等に対する返済に赴いたり、質屋に赴いて、強取に係るネックレスを質入れするなどしていること等からすると、実行行為の詳細については、実行犯たる被告人Bに委ねられていたという面はあるにせよ、被告人Aにおいても、なし得る限りの積極的な加担をしていたことが明らかであり、これら被告人Aの行為が犯行の実現に寄与した度合いも大きい。さらには、当時被告人両名は形の上では別居していたが、実質的には内縁関係にあり、本件犯行はこうした関係にある被告人両名の借金返済を目的としたものであるから、被告人Aが幇助犯にとどまるとは到底いえず、同被告人は、正犯としての責任を免れない。
よって、被告人両名には、判示第2の住居侵入罪及び強盗罪の共同正犯が成立する。
(法令の適用)
被告人両名の判示第1の1の所為はいずれも平成7年法律第91号による改正前の刑法60条、199条に、判示第1の2、3の各所為はいずれも同法60条、246条1項に、判示第2の所為のうち住居侵入の点はいずれも上記改正後の刑法60条、130条前段に、強盗の点はいずれも同法60条、236条1項に、判示第3の1の所為はいずれも同法60条、199条に、判示第3の2の所為はいずれも同法60条、250条、246条1項に、被告人Aの判示第4の1の所為は同法235条に、判示第4の2の所為は同法246条1項にそれぞれ該当するところ、被告人両名の判示第2の住居侵入と強盗との間には手段結果の関係があるので、同法54条1項後段、10条によりいずれも1罪として重い強盗罪の刑で処断することとし、被告人両名の判示第1の1、判示第3の1の罪につきいずれも死刑を選択し、以上は同法45条前段の併合罪であるから、同法46条1項本文、10条によりいずれの被告人についても刑及び犯情の最も重い判示第3の1の罪の刑で処断し、他の刑を科さないこととして被告人両名をいずれも死刑に処し、訴訟費用については、刑事訴訟法181条1項ただし書を適用していずれの被告人にも
負担させないこととする。
(量刑の理由)
1 本件は、判示のとおり、当時愛人関係にあった被告人両名が、共謀の上、<1>被告人Aの夫であるCを殺害し、生命保険会社2社から、同人が加入していた保険金合計9870万円余りを騙取した事犯、その約6年後、内縁関係となった被告人両名が、共謀の上、<2>被告人Aが内情をよく知るQ方に、被告人Bにおいて強盗に押し入り、現金約13万7000円及びネックレス等6本等を強取した事犯並びに<3>被告人Aの実子であるFを殺害し、生命保険会社から、同人が加入していた保険金3500万円を騙取しようとしたものの、保険金騙取は未遂に終わった事犯に加え、<4>被告人A単独で、実母名義のクレジットカードを使用して現金自動支払機から現金20万円を窃取し、電器店でビデオカメラ等を騙取した事犯からなる事案である。
このように、本件は、被告人両名共謀の上で、生命保険の被保険者を被害者とする殺人2件を敢行した事犯を含む重大事案であるから、まず、最も考慮を要するこれら殺人等2件についてその量刑事情を検討し、続いてその他の事犯についても順次検討を加えることとする。
(1) そこで、まず、判示第1のC殺害及び保険金騙取の事犯について検討するに、本件は、被告人Aにおいて、昭和54年に結婚し、共に夫婦生活を営んできた被害者が、結婚以来、同被告人との家庭生活を顧みず、パチンコ等の遊興や不貞行為に耽っていたことに加え、被告人Aが、その不貞行為の相手女性の元夫から、その責任をとれなどとして、謂われのない苦痛を被ったことなどから、被害者に対する強い不満を募らせるとともに、そのころ、消費者金融等に対する借金を増大させて窮状に陥り、そうしたところ、被害者との口論の際、同人が、被告人Aに対し、お前はお手伝いに過ぎない旨述べ、さらに同被告人から離婚の意思を問われてこれを否定しなかったことなどを契機として、養母の介護等に苦労をしたのは自分である、C家の財産は私のものだなどと考え、さらには同人が加入する合計1億円近くにも上る保険金に目を付け、これらの取得を目論んで同人を殺害しようと考えるに至り、当時懇意にし、大きな信頼を寄せつつあった被告人Bに対し、これを持ちかけ、同被告人においても、当時多額の借金を抱え、安定した職もなかったことなどから、これを承諾し、実行に及んだという、いずれの被告人についても、金銭的欲望に強く支配された犯行である。
この点、被告人Aの弁護人らは、同被告人が被害者殺害を企図したのは、同人との結婚生活における不満等が積み重なった怨恨とそれに基づく報復が最大の動機であり、金銭的な動機は主たるものではない旨主張し、被告人Aも、公判において、これと同旨の供述をしている。
確かに、被告人Aが、犯行を決意するに至るまでの過程において、夫である被害者に対し、強い不満を募らせていたこと、その不満を募らせた経過自体もそれなりに理由のあるものであることは、被告人Aの供述のみならず、これを裏付けあるいは補強する事実も存することからして明らかであり、これらの不満が、同被告人が本件犯行を企図するに至った発端となっていることも動かし難い事実である。また、前示のとおり、本件犯行により得た合計約1億円近くにものぼる保険金のうち、その多くは被告人Bにおいて競輪等のギャンブルで数か月のうちに使い果たすに至ったもので、被告人Aの本件犯行後の生活状況には、被告人Bのそれにみられるような享楽的、浪費的な面はほとんどない。しかしながら、そもそも本件は、例えば、被告人Aが被害者に対する強い憎悪あるいは殺意を抱くに至った契機として捜査段階から供述するような、「お前はお手伝いさんたい。」「Cが離婚ば考えよる。」「財産は全部Cのもんやけんが。子どもは全部うちが引き取って面倒ばみるけん。」などといった被害者やその実母とのやりとりから被害者に対するそれまでの憎悪が爆発し、衝動的に殺害に及んだような事案ではなく、後述するように、犯行を決意してから実行に至るまで数か月にわたり、様々な犯行計画を練り、種々の準備を整え、機をうかがい、これを見計らってなされた犯行であって、そのような本件の経過に照らすと、被告人Aの犯行に及んだ動機が、単純に怨恨によるものと評価することはできない。本件犯行当時、被告人Aは、数百万円にも上る消費者金融等に対する借金を抱え、犯行後は、騙取した保険金により、これらを返済した上、犯行以前から大きな信頼を寄せていた被告人Bとの間で内縁関係を築き、互いの家を行き来し、その後は同居するなどもして、新たな生活を開始しているのであり、そのことは、被告人Aが供述調書で述べるとおり、被害者から離婚され身一つでC家から放り出されることを恐れた同被告人が、逆に被害者を殺害してC家の財産を自己のものとするとともに被害者にかけられていた保険金をも取得しようと考えた結果そのものである。しかも、被告人Aは、被告人Bに被害者殺害を持ちかけて承諾させる手段として、約1億円にのぼる保険契約の存在を打ち明けているのであるから、被告人Aが本件犯行を決断した最終的な動機には、多額の借金を清算した上での被告人Bとの新たな生活の構築に向けた金銭的な欲望という打算的な思考が大きかったとみるべきであって、被告人Aの被害者に対する怨恨や報復的意図は、こうした打算の背後にかなり後退してしまっていたというべきである。
また、被告人Bの弁護人らも、同被告人は、もっぱら被告人Aに対する情愛に基づいて、同被告人を苦境から救済したいとの一心で及んだ犯行であって、金銭的動機は付随的なものであるなどと主張するが、被告人Bについても、被告人Aと同様、本件犯行当時数百万円に上る消費者金融等への借金を有し、安定した職もなく、騙取した保険金でこれら借金を返済しているほか、犯行後も職にすら就かず、騙取した保険金のうち数千万円もの金員を競輪等のギャンブルで費消したという経過や、上記認定のとおり、本件殺人の犯行の直後ころには、被告人Aは、取得した保険金等の半額を被告人Bに譲渡し、さらに被告人らが今後夫婦関係を築いた折りには、保険金等の全額の管理を被告人Bに委ねる旨の誓約書を同被告人に宛てて作成するなどもしており、これがどちらの被告人の発案であったかはともかくとして、被告人Bの思惑と無関係であるはずがないこと等に照らし、同被告人においては、被告人Aに対する愛情がなかったとまではいえないとしても、ほとんど大半は金銭欲に駆られて及んだ犯行であることは明白である。
そうして、身勝手な金銭欲に駆られて人の殺害を企てるというその動機そのものが人道に対する挑戦としてこの上ない悪質なものであるのみならず、保険金騙取というその犯行の目的からは半ば当然のことながら、被害者殺害に向け、数か月にもわたり、実に綿密な計画を立て、周到に準備を重ね、慎重に機会をうかがって犯行がなされたという点も重大である。すなわち、被告人らの犯行に至る具体的な経過をみると、被告人両名は、犯行の実行を決意するや、まず、他殺と疑われない種々の殺害方法すなわち、被害者の通勤途中にその乗車する車のブレーキに細工をして事故死に見せかけて殺害する方法、被害者に飲酒させたり睡眠導入剤等の薬物を密かに服用させたりなどした上、被告人Bが被害者と共に車に乗車し、川に車ごと飛び込んで被告人Bのみがそこから脱出する方法、被告人A方付近を流れる川が増水した際に、そこに突き落として溺死させる方法等を企図したものの、いずれも発覚の危険が大きかったり、被告人ら自身の身が危険であったりなどの理由で、実行には至らなかったが、その間、被告人Aにおいて、数度精神科病院に赴いて、虚偽の不眠を訴え、犯行に必要と思われた数種類の睡眠導入剤等を入手し、また、被告人Bにおいても、精神病で入院中の兄姉らに処方され、同人らが一時帰宅を許された際等に持ち帰って服用しなかった精神病薬等を自宅に保管してあったことから、これも併せて使用することとし、さらには、それらの薬効を詳細に把握して犯行計画に資するため、薬物の効能等が記された書物を購入して、その効果等を確認するなどもしている。そうして、これら薬物を被告人らの自宅においてすりこぎ等を用いて粉末状にし、その量や種類等を変えて調節しながら、被告人Aにおいて、種々の料理に混ぜてその見た目や味の変化を確認し、このうちカレーが最も味や見た目に不自然な変化が表れにくく、またそれが被害者の好物であったこともあって、犯行の実行にあたっては、カレーに睡眠導入剤等を混ぜて被害者に密かに服用させることとし、その後被告人Aにおいて頻繁に夕食としてカレーを出した上、そこに睡眠導入剤等を混ぜて服用させて、その後の被害者の様態を見ながら、犯行の機会をうかがったものである。このような経過をたどるうち、最終的な被害者の殺害方法としては、同人が、日頃休日等に度々海岸で釣りを楽しむなどしていたことから、釣り中の水難事故を装って同人を殺害する旨計画がなされ、具体的には、同人に睡眠導入剤等を密かに服用させて、意識を失わせた上、堤防から海中に突き落として殺害することとし、その犯行場所については、被害者が日頃釣りをしていた海岸を実際に被告人両名で下見した結果、本件犯行現場を選定し、その際には、犯行の後、夫が海に落ちたなどと言って110番通報を依頼する民家についてもあらかじめ選定するなどもしているのであり、このように、本件犯行に至る具体的な経過には、被告人らの被害者に対する極めて強固で計画的かつ冷酷な殺意と保険金騙取に向けた並々ならぬ意欲が如実に表れている。
本件犯行態様そのものについても、上記計画に基づき、被告人Aが被害者に対し、夕食として出したカレーの中に睡眠導入剤等を混ぜて服用させて眠らせ、後の偽装工作のため、子供らに対しても、今日は釣りに行こうなどと申し向けた上、睡眠導入剤等を密かに服用させ、被告人Bに連絡をとってその旨伝え、自らは釣りの準備を整えて餌を購入するなどもし、同被告人を車で迎えに行った後、いったん自宅に戻り、薬効が表れて意識もうろうとなった被害者に、お母さんが呼んでいるなどと詐言を申し向け、その身体を抱えながら車の助手席に乗せ、被告人Bも別の車を運転してこれに同行し、あらかじめ犯行場所と決めた本件護岸付近に赴き、その途中では釣りをしていたように偽装するため、缶ビール、つまみ等を購入するなどもしている。そうして、現場に到着するや、周囲の様子をうかがい、準備した釣り道具を護岸付近に置き、缶ビールの中身や釣り餌を一部捨て、竿に餌を付けてこれを護岸下に投げ込むなどの偽装工作も行い、被告人両名で被害者を護岸付近まで抱えて運び、同所から約7m下の海面に被害者を突き落としたところ、同人が、被告人らの予想に反して覚せいし、俺を殺す気かなどと叫んだため、被告人Bにおいて、咄嗟に付近の階段を下りて大丈夫かなどと声をかけながら護岸下の被害者に近づき、同所で被害者と数分間の格闘の末、同人を海中に沈め、殺害したというものである。さらに、犯行後は、被告人Aにおいて、被告人Bをその自宅まで送り届けた上、再び自宅に戻り、上記事前に密かに服用させた睡眠導入剤等により睡眠状態にあった子供3名を連れ出して車に乗せ、再び犯行現場の護岸付近に赴き、そこで、現場に他殺をうかがわせるような証跡が残っていないか確認の上、被害者が死亡しているか否かもその体を揺すって声をかけるなどして確認し、さらには長男と次男に対し、お父さんが海に落ちたから助けに行ってくれ、自分は救急車を呼んでくるなどと申し向け、付近の民家に赴いて主人が海に落ちたから電話を貸してくれなどと言って警察等への通報を依頼しており、事前の綿密な計画に従って、着々とこれを遂行したばかりでなく、事情を知らない子供までをも欺いて、家族での釣りを偽装し、自己らの完全犯罪実現のための道具として用いるなど母親としてあるまじき行為までしているのであり、極めて計画的かつ冷酷なものである。確かに、犯行日はほぼ満月で、犯行時刻も干潮であったため、そのような状況下で釣りをすることの不自然さなど被告人らにおいて思いつかなかった点はいくつかあったものの、本件が極めて巧妙な手口による犯行であることは間違いなく、その後約7年間にわたり、本件が他殺と疑われることなく、発覚を免れたという事実がこのことを如実に示している。
被害者は、高校を卒業後、電気工事等の会社に技術員として継続して勤務し、かつては被告人Aと恋愛関係にあって、その後同被告人との家庭を築き、当時保育園ないし小学校に通学する3人の子供の父親として、種々の問題はありながらも、一家の生活を支えていたものであり、被告人らから命までをも奪われる理由など何もなかった。被告人Aは、先述のとおり、被害者との夫婦生活上の不満を多々挙げて、同人に夫としての殊に家庭人としての多大な問題点があったと供述するが、そもそもそれらは被害者との離婚原因とはなり得ても被害者を殺害しようと考えるほどの理由といえるかははなはだ疑問である。確かに、特に被害者の女性関係に問題があったことは証拠上明らかであり、同人と被告人Aとの夫婦生活の実態の詳細については、もはやこれを供述し得るのが、一方当事者である被告人Aしか存しないことから、公平な立場で真実を詳らかにすることはできないが、被告人Aにあっても、生活費が足りないなどとして自らの意思で複数の男性と肉体関係を結んで金員を得たり、町内会費数十万円を使い込むなどもしており、その他関係者の供述等を総合すると、確かにこれらは本件犯行の発覚により、実態以上に被告人Aを悪く言っている可能性はあるものの、それを考慮しても、被告人Aの金銭管理や日常家事がずさんでかなり非常識なものであった状況はうかがわれる。そうすると、被告人Aと被害者との夫婦生活が破綻の危機に瀕した原因が、一方的に夫である被害者の側にあって、妻である被告人Aには全く責められるべき点がないなどということはできない。38歳にして非業の死を遂げた被害者の無念さには察するに余りあるものがあり、本件が尊い人の生命を奪ったという点でその結果が極めて重大であることはいうまでもないが、加えて、当時まだ幼い被害者の実子や生前の被害者の実母、兄妹ら遺族に与えた精神的衝撃が大きかったことは想像に難くなく、さらには、同人らはその後数年間にわたって、事故死と聞かされ騙され続けていたもので、本件の発覚により自己らの実父あるいは兄弟が、実は他人の手によって殺害されたもので、しかもその犯人が自己らの母ないし兄弟の妻とその内縁の夫である旨知らされた遺族らの衝撃はもはや筆舌に尽くし難いものがある。
そうして、かかる犯行により、被告人らは、その目論みどおり、合計9870万円余りにも上る多額の金員を取得しており、これにより被害会社に多大な経済的損失を被らせたことはもとより、被告人両名は、犯行の後数年は全く仕事に就かず、その金員のうちかなりの部分は、これを主に被告人Bにおいて、驚くべき勢いで競輪等のギャンブルに費やし、わずか数か月のうちにほぼ使い果たすなど極めて享楽的な生活に浸っており、そこには被害者に対する憐憫のかけらすら見いだすことができない。
(2) 次に、判示第3のF殺害及び保険金騙取未遂の事犯について検討するに、先に犯行に至る経緯として認定したとおり、被告人両名は、C殺害により取得した保険金を数か月のうちにほぼ使い果たし、さらには被告人AがCから相続した不動産を売却して数千万円の金員を取得したものの、これらについても主に被告人Bにおいて競輪等のギャンブル等に費やすなどして使い果たしたことなどから、消費者金融等に対する借金を増大させ、生活費等の金員にも窮し、被告人Bにおいて、その性格が暗い、元気がない、将来の展望がないなどと軽んじていた被害者の保険金に目を付け、その取得を目論み、一方で、被告人Aにおいては、取得した保険金を手切れ金として被告人Bと別れようとの意図もあって及んだ犯行であり、人命軽視もはなはだしく、その卑劣かつ自己中心的な動機に酌むべきものなど全くない。
この点、被告人Aの弁護人らは、同被告人は、日頃から被告人Bによる度を超えた暴力の被害に遭っていたものであり、また、そのことは、被害者についても同様であって、これにより被告人Aは、被告人Bと別れなければ、自己や長男、長女らは、一生同被告人のいわば食い物にされるという極限にまで追いつめられた精神状態にあったものであり、そこから解放されるには、被害者を殺害し、保険金を取得して、その金を手切れ金として、被告人Bと折半し、借金を清算するほかないと思い至ったものであり、いわばやむにやまれぬ緊急避難的な選択であって、その動機には酌むべきものが大きいと主張する。もっとも、この点に関しては、被告人Bは、被告人Aや被害者に対し、暴力に及んだこと自体はあったものの、被告人Aが強調するほどの頻繁で度を超えたものではなく、被害者に対する暴力もしつけの域を出ないものであったなどと供述する。しかしながら、被告人Bの暴力については、被害者の兄であるEにおいても、これが家庭内で二、三日に一度は必ずあるなど日常茶飯事のごとくであった旨供述し、しかもその暴力の理由は、被害者の寝ている姿勢が悪い、入浴の仕方が悪いなどといったはなはだ理不尽なも のであり、その暴力の程度も素手で殴ったり、足で顔を踏みつけたり、ガラス製の灰皿を投げ付けたりなど相手に相当な怪我を負わせるほどの度を超えたものであって、現にそれらにより被害者が入院を余儀なくされたこともあったとしており、また、被告人Aや被害者が入通院した際の診療録等の記載に基づく捜査報告書からもそのことは十分に認められるのであって、被告人Bの被告人Aや被害者らに対する暴力が、それほど頻繁にあったわけではないとか、しつけの域を出ないものであったなどとする被告人Bの供述は信用できない。
しかしながら、被告人Aにおいて、被告人Bの日常的な暴力に苛まれていたこと自体は事実としても、その暴力は、被告人Aの供述によれば、競輪で負けたときのうっぷん晴らしであるというのであり、被告人Aをして被害者を殺害することを強制させるために繰り返されたものではなく、そうであれば、被告人Bの暴力そのものは、被告人Aが被害者の殺害を決断した動機たり得るものではなく、重要な背景事情ともいえない。しかも、被告人Bは、入籍もしていない内縁の夫に過ぎないのであるから、被告人Aにおいてその暴力から逃れる手段は、客観的にはいくらでもあったはずであり、同被告人がかかる手段をとり難かったのは、同被告人も供述しているように、かつて共に夫であるCを殺害し、多額の保険金を騙取したことからくる被告人Bとの心理的な一体感や同被告人において、万が一にもC殺害の件を口外されることへの恐怖等がその理由と考えられるのであって、そうであれば、そのような動機により被害者を殺害することは、本来C殺害により自己が負わなければならないはずの責任を全てこれに何の関係もない被害者に押し付け、まさに犠牲となることを強い、自分はこれから逃れようとすることにほかならないのであって、そのような身勝手な動機に酌むべきものなどあろうはずがない。被告人Aは、公判において、C殺害の件が発覚するような事態になれば、残された子供たちが路頭に迷うことになると思ったなどとも供述するが、そのような事態を回避するために、まさにその子供の1人を犠牲にして殺害するなど言語同断というほかはない。
そうして、本件についても、先に述べたC殺害の件と同様に、綿密な計画を練り、周到な準備を重ね、慎重に機会をうかがって及んだ凶悪な犯行であり、本質的には、C殺害と同様の殺害方法を選択したということで世人の疑惑を招き、ずさんな計画といえるが、C殺害による保険金騙取の成功体験を下に、それを生かしつつもさらに修正すべき点をも踏まえ、より確実に完全犯罪を成し遂げることを目論んで念入りに計画準備を行い、殺害に及んだという点で、極めて計画的であるとともにそれなりに巧妙なものである。すなわち、被告人両名は、被害者の好きなイカ採りに出かけた際の事故死を装って同人を殺害する旨計画し、具体的には、被告人Aにおいて、C殺害の際と同様、精神科病院に赴いて、虚偽の不眠の症状を訴えて睡眠導入剤等を入手し、被告人Bにおいても、先のC殺害の際に用いた兄姉らの精神病薬等が自宅に残ったまま保管してあったことから、これらを再び取り出して、それらをすり潰して風邪薬のカプセルに詰め替えるなどもした上、被害者にこれら薬物をビタミン剤と偽って服用させ、被害者がイカ採りを好んでよくしていたことなどから、イカ採りに誘い出し、犯行場所としては、C殺害の捜査にあたったh警察署の管轄内であれば、C殺害の事情を知る警察官もいて発覚の危険が大きいとして、別の警察署の管轄内の海岸を犯行場所に選定することを企図し、長崎県北高来郡o町の海岸を犯行場所と定め、さらに殺害するにあたっては、C殺害の際には、被告人らの予想に反して海中に突き落としたCが覚せいし、被告人Bにおいて、海中に入って力ずくで同人を海中に沈めることを余儀なくされたため、被害者殺害にあたっては、そのような事態に陥らぬよう、被害者の身体をガムテープで縛り、さらに頭には頭巾を被せるなど実に細かな点まで考えを巡らせて行った犯行である。
現実に、被害者を殺害する場面においては、他のイカ採り客が帰り、誰もいなくなったことを確認するや、睡眠導入剤等の服用により眠り込んでいた被害者に対し、計画したとおりガムテープでその手足を縛り、頭には頭巾を被せた上、被告人Bにおいて、そのまま石段横の海中に被害者を投げ込んだが、被告人らの予想に反して覚せいした被害者が泳いで岸壁に戻ろうとしたのに、翻意して被害者の殺害を思い止まることもなく、すぐさま、被告人Bにおいて自らも海中に飛び込み、「この野郎」などと声を発して抵抗する被害者の身体を海中に押さえつけるようにして殺害し、その後、被告人Aにおいても、被害者の殺害を確実なものとする意味で、岸壁付近に引き寄せた同人の顔面を押さえて海中に沈めるなどもしたのである。被害者は被告人Aの実の子であり、これまでの経緯から、被告人Bが自分を殺そうとしていることは分かっているのではないかと見られるものの、母親である被告人Aは自分を助けてくれるものと信じ、あるいは、被告人Aに対しても疑いを持っていたとしても、家庭内では被告人Bのいわれなき暴力にさらされ、被告人Aしか頼るべき者はおらず、同被告人を信じざるを得ない立場にあり、同被告に言われるままイカ採りに出かけ、その直前には、間近に迫った文化祭の準備等の話を聞かせるなどしていたにもかかわらず、かかる親子の絆を断ち切るようにして行われた本件犯行の冷酷さ、残忍さにはもはや言うべき言葉もない。また、被告人Bについても、数年にわたり、被告人Aの内縁の夫として被害者の父親代わりとして同居して生活していたものであるのに、何らのためらいもなく被害者の身体を海中に沈めて殺害したその行為には、慄然とせざるを得ない。
もとより被害者に殺害されなければならない理由などあろうはずもなく、幼いころには構音の障害を抱えつつも、指導教室に通うなどの努力でそれを克服し、小学生のときに実父を失い、被告人Bの暴力にさらされ、唯一頼りにしていた被告人Aからも兄とは差別的な扱いを受けるという殺伐とした家庭環境の中にあっても道を誤ることはなく、小学校時代には兄と共に牛乳配達のアルバイトをして家計に協力し、高校に進学後は、コンピューターに興味を抱いて学業の他にも情報処理部に所属してクラブ活動にも精を出し、級友からはひょうきん者として親しまれ、本件の数日後には通学していた高校の文化祭を控えてその準備に余念がなく、まさに青春の只中にあって人生の希望や可能性に満ち溢れていた当時16歳の高校1年生であった被害者が、その実母らによって殺害の標的とされ、密かに服用させられた薬物により身体の自由を奪われ、その信頼し、慕っていた実母である被告人Aの面前で、海中に投げ込まれ、かつて実母の内縁の夫として同居していた被告人Bから強引に海中に沈められた際の苦悶、恐怖、絶望は想像するに余りあり、深い哀切の念を覚えずにはいられない。加えて、被害者の兄妹らに対し、本件が与えた精神的衝撃は計り知れず、とりわけ、被告人Bから日常的に暴力被害に遭っていた被害者に対し、自分のように体力を付けて対抗できるようになどとアドバイスを与えたり、被告人Aから被告人Bが被害者を殺害しようとしているなどと事前に相談を持ちかけられ、一度は被害者の殺害を阻止するため、ガスの充満する車内から同人を救出するなどもし、当然ながら本件が水難事故などではなく、被告人らの手による殺人であることも十分認識していた被害者の兄に与えた悲嘆、苦悶には想像を絶するものがある。さらには、同人らは、本件の後、実母である被告人Aも身柄拘束されるに至ったことから、被害者の兄にあっては18歳にして、妹にあってはわずか10歳にして、いわば一家離散の状況に追い込まれるに至ったもので、本件が先の判示第1の犯行とも相俟って、同人らの人生に与えた影響の深刻さには計り知れないものがある。
(3) さらに判示第2の住居侵入、強盗事件についてみるに、被告人両名は、上記のような経過により多額の借金を抱え、その返済に窮したことから、一攫千金を目論んで、かつて被告人Aにおいてその経営する病院の寮に住み込みで勤務し、内情をよく知る被害者方に強盗に押し入ろうと企図したもので、恩を仇で返すにとどまらず、自己中心的も甚だしく、その金銭獲得のためには、他人を顧みない身勝手な動機に酌量の余地はない。そうして、本件犯行に関しても、上記2件の殺人等と同様に、事前の計画に基づき、周到な準備を重ね、機会を慎重にうかがってなされた犯行である。すなわち、先に(補足説明)の項で被告人Aの正犯性を基礎付ける事実として説示したとおり、被告人両名は、犯行の計画にあたっては、屋内の状況をよく知る被告人Aにおいて、実行役である被告人Bに対し、被害者方の間取りや金庫の所在場所等を図示するなどし、同人方に日頃度々出入りしていた同人の長女の動向をも把握して犯行の機会をうかがい、被告人Bが被害者方に押し入る際の方法については、宅配便の配達員を装って屋内に侵入することとし、その際には、覆面としてパンティストッキングを被ることとして、これらの準備を整え、さらには預金通帳等を強取した場合にこれを引き出す際の変装用具まで準備した上で犯行に及んでいるのであり、その周到さは並みの強盗のそれではない。
その犯行の態様は、先に(補足説明)の項で被告人Bの実行行為の内容として認定したとおりのものであり、覆面をした上、宅配便の配達員を装って屋内に侵入し、約7時間もの長時間にわたって、種々の脅迫や暴行を加え、判示の金品を強取したという大胆かつ凶悪なもので、その際、被害者の味わった恐怖感は想像するに余りある。なお、被告人Bの弁護人らは、本件強盗に際して、被害者は、犯行の最中、被告人Bに対して歌を歌ったり、テレビをつけたり、種々の被告人Bの要求も拒絶するなどして気丈に対応しており、一方、被告人Bの脅迫、暴行の態様も、それほど酷いものではないことなどから、被害者の反抗抑圧の程度は低く、凶悪な態様の犯行ではないなどと主張する。しかしながら、確かに、被害者が被告人Bに対して気丈に対応し、一見すると余裕のあるかに見える行動に及んだ経過はあるものの、それは、夜間、1人暮らしの自宅に宅配便の配達員を装って覆面をした男が突然侵入してきたという状況に照らせば、犯人を徒に刺激したり、また逆に隙を見せたりすることもなく、身体的、財産的被害を回避し、あるいはこれらを最小限に食い止めようとの意図から出た必死の行動とみるべきものであり、被害者が気丈ともみえる対応をしたことをもって、同人の反抗抑圧の程度が低いなどということはできず、むしろかかる態度を約7時間にもわたってとらせたことによる苦痛を重視すべきである。また、被告人Bの被害者に対する暴行、脅迫の態様も、確かに種々の暴行の態様や脅迫的言辞の内容そのものは、被害者の生命身体を殊更に危険にさらしたり、その恐怖心を殊更に煽り立てるような内容のものはそう多くはないが、それらが、先に述べたとおり、夜間に1人暮らしの老齢の女性宅に覆面をして押し入り、約7時間にもわたって屋内に居座り続けたという状況の下でなされたものであることをも踏まえれば、その態様が凶悪なものでないなどとは到底いうことができない。そして、その財産的被害も、現金被害約13万7000円、物品被害約120万円と多額に上る。
また、判示第4の被告人Aにおいて単独で敢行した、実母名義のクレジットカードを不正に使用して、現金自動支払機から現金20万円を窃取し、電器店でビデオカメラ等を騙取した事犯についても、金銭に窮した上での身勝手な犯行であり、その被害額も少ないものではない。
2 次に、各事犯ごとの被告人ら個別の量刑事情について、判示第1、第3の各殺人等の事犯を中心に検討し、被告人らの責任の軽重について考察を加える。
(1) まず、判示第1のC殺害、保険金騙取の事犯に関する被告人Aの犯情について検討するに、同被告人は、最初に被害者殺害を企図して被告人Bに持ちかけた犯行の発案者である。その後、被告人Bに保険証券を見せるなどするうち、同被告人においてもこれを承諾するや、同被告人と共に、前示のような犯行の綿密な計画を練り、その際には、自ら殺害の手段を提案したり、被害者が釣りによく出かけることを被告人Bに申し向けてこれを殺害計画の策定にも供し、犯行の準備段階においては、精神科病院に赴いて睡眠導入剤等を入手し、それら薬物の薬効を確認するため、自宅において、食事に粉末状にすり潰した薬物を混入させてこれを被害者に食べさせ、その効果を確認し、犯行現場の選定にも被告人Bと共にこれに赴き、犯行を実行に移すに際しては、それまでと同様に被害者の夕食に睡眠導入剤等を混入させて密かにこれを被害者に服用させ、その薬効が現れるや、被告人Bに対し、犯行の絶好の機会が訪れた旨告げて、当日の実行を決断させ、釣り中の水難事故を装うための種々の偽装工作を被告人Bと共に行った後、同被告人と共に被害者の身体を現場の護岸付近まで運び、同人をそこから海中に突き落とす際にも、これを護岸の擁壁上に抱え上げるなどもし、殺害後は、再び自宅に戻って睡眠中の実子らを海岸に連れ出した上、付近の民家に駆け込むなどして水難事故を偽装し、その目論みどおり捜査機関において事故死として処理されるや各保険会社に対し、保険金請求手続を行って保険金を自己名義の口座に入金させたものであって、その犯行への加担は、犯行の計画段階から準備段階、実行段階に至るまで、犯行の全般に及んでおり、なおかつこれを積極的に推し進めたものである。そうして、被害者は、被告人Aの夫であったものであるから、被告人Aがいなければ、被害者に薬物を密かに服用させることも、被害者が好んでよくしていた釣り中の水難事故を装うことも、さらには犯行の目的である保険金請求を行って保険会社から保険金を騙取することもなし得なかったものであり、犯行実現の上での被告人Aの地位、役割の重要さは、決して余人をもって代えることができないという意味で、被告人Bのそれを優に上回っているというべきである。
一方、被告人Bにおいても、被告人Aから、被害者殺害の計画を持ちかけられるや、保険金欲しさからこれを承諾し、その計画段階においては、被害者殺害の様々な方法を提案し、釣り中の事故を装って被害者に睡眠導入剤等の薬物を服用させた上、海中に突き落とすという本件犯行の計画の概要を被告人Aと共に策定し、その準備段階においては、自ら自宅に保管していた兄姉らの精神病薬等を被告人Aに交付し、同被告人の入手した睡眠導入剤等とともにこれらを被害者に密かに服用させるよう申し向け、その効果について同被告人から報告を受けるなどもし、また、犯行の実行にあたっては、被告人Aからの連絡を受けて実行を決断するや、現場に赴いて種々の偽装工作の上、被害者の身体を護岸付近まで運んでそこから突き落とし、予想に反して同人が覚せいするやただちに海中に入って同人を力ずくで海中に沈めて殺害したもので、犯行実現のための地位、役割の重要さという観点でみるかぎりは、被告人Bのそれは被告人Aのそれに及ぶものではないが、犯行の全般に終始積極的、主体的に関与したという点においては、何ら被告人Aに劣るところはなく、かつてKに対し、被告人Aが犯行を持ちかけた際には、これに取り合ってもらえず、犯行の実現には全く至らなかったことをみても、被告人Bの加担なくしては、被告人Aひとりでは、その被害者殺害の意思を現実のものとすることは到底不可能であったものと認められる。そうして、犯行の結果得た保険金については、被告人Bの当時数百万円にも上っていた借金の返済にも充てられたほか、数千万円にも上る多額の金員を同被告人において競輪等のギャンブルに費消している。
なお、被告人両名の間には、本件犯行の主導性をめぐってその供述に対立がみられ、被告人Aは、公判において、被告人Bに対し犯行を持ちかけるや、同被告人が思いのほか積極的となったため、自分はその指示に従うままであった、自分の行った行為の大半は被告人Bの指示に基づくものであり、自分はこれに嫌々ながら追随したにすぎない旨供述しており、被告人Aの弁護人らも、本件犯行の直前ころから、被告人Bが競輪に費やす金員の額や借金の額が急激に増大していること等から、そのことは裏付けられている旨主張し、一方、被告人Bにおいては、犯行を持ちかけられても当初は合計約1億円という額までは告げられておらず、半信半疑であったものであり、犯行の計画段階、準備段階においても、被告人Aの方が積極的で、これに自分が話を合わせるようにしていたに過ぎない旨供述している。
しかしながら、まず、被告人Aについては、当初保険金騙取の目的で被害者を殺害することを思い立ったのが同被告人であることは疑いを容れる余地のないところであり、また、同被告人は、それ以前にも、Kに対し、それとなく被害者の殺害を持ちかけたことがあるというのであって、そのような経過に照らし、同被告人の本件犯行実現に向けた意欲は、当初から相当強いものであって、それが、被告人Bに犯行を持ちかけて同被告人がこれを承諾した途端に、被告人A自身は逆に犯行に消極的となり、主導的に犯行を推し進める被告人Bに嫌々ながら追随したなどとは到底考えられない。そもそも、被告人Aが、被害者の殺害に消極的であるならば、犯行の計画、準備、実行のいずれの段階においても、自己の殺害の提案を撤回することは、当時の被告人両名の関係に照らしても容易なはずであって、これをしなかったことは、とりもなおさず、被告人Aにおいても被告人Bの犯行への加担を積極的に求め、これを自己の意図実現のために利用していたことにほかならない。なお、被告人Aは、公判において、被告人Bに犯行を止めるよう述べたこともある旨供述するが、被告人Bはこれを否定しているばかりか、そもそも具体性に乏しく、捜査段階においては、そのような供述は一切していないことに照らしても、信用できない。また、本件犯行の直前ころから被告人Bが競輪に費やす金員や借金が増大しているとしても、そのことが必ずしも被告人Aの本件犯行における従属性を裏付けるものとはいい難い。一方、被告人Aの殺害の提案を受けて、これを半信半疑のまま、被告人Aに話を合わせるようにして犯行計画の策定や準備行為に加担していたとする被告人Bの供述は、被告人Aの積極性をいう部分はともかく、自己の消極性をいう部分については、上記に述べたような同被告人の客観的に認められる犯行の計画、準備にあたっての行動に照らし、到底信用できない。
以上、考察するに、本件犯行は、被告人Aにおいて当初発案して被告人Bに持ちかけ、同被告人においてもこれに異を唱えることなく承諾し、その後は当時愛人関係にあった被告人両名が一体となって、相互に影響を及ぼし合い、助け合って、計画に基づき実行に及んだものであり、そのどちらかが欠けても犯罪の実現は不可能ないし著しく困難であったものであるから、基本的に、被告人間の責任に顕著な軽重の差はないというべきである。しかしながら、より仔細にその軽重を見極めようとするならば、上述のとおり、本件犯行は、被告人Aにおいて当初発案し、被告人Bに持ちかけたことを契機としてなされたものであり、その後の犯行の計画、準備、実行のいずれの段階にあっても、被告人Aは積極的に犯行を推し進めたものであって、主導性の優劣という観点で見る限りは、本件は被告人A主導の下になされた犯行といえる。加えて、上述のとおり、犯行の実現に寄与した地位、役割の重要性という観点においても、被告人Aの地位、役割は、被告人らの犯行の目的すなわち保険金騙取のためには絶対不可欠と言ってよいほどの重要な意味をもつものであり、被害者とは基本的に何らの関係も有しない被告人Bの担った地位、役割の重要性を大きく上回るものである。これらのことにもかんがみると、本件殺人等に関しては、被告人Aの方が被告人Bに比してより重い責任を負うものと解すべきである。
(2) 次に、判示第3のF殺害、保険金騙取未遂の事犯に関する被告人Aの犯情について検討するに、同被告人は、前述のとおり、当初被告人Bから犯行を持ちかけられるや、即座にこれを拒否し、同被告人が、海岸付近に停めた車内に、ガスを充満させて被害者を殺害しようと試みた際には、被害者の兄に対し、被害者の救出を依頼してその犯行を阻止し、再び同様の犯行に及ぼうとした際には、逆に、被告人Bに対し、睡眠導入剤等を密かに服用させた上、同被告人を寝煙草による火災を偽装して殺害し、被害者の殺害を回避しようとする一方、再び精神科病院に赴いて睡眠導入剤等を入手し、判示第2の住居侵入、強盗事件によっても、目論んだほどの多額の金員を獲得するには至らなかったこと等から、もはや被害者を殺害するほかないとして犯行の実行を決意するや、被告人Bと共に、その犯行の具体的計画を策定し、被害者がイカ採りに好んで行っていたことを利用し、同人に睡眠導入剤等を服用させた上、海中に突き落とす旨の計画が固まるや、病院から入手した睡眠導入剤等や被告人Bが自宅に保管していた精神病薬等を自宅ですり潰し、風邪薬のカプセルに詰め替えたり、使用するガムテープを用意するなどして犯行の準備を整え、犯行現場の下見にも被告人Bと共に赴き、実行の段階にあっては、被害者にイカ採りに行こうなどと声をかけて同人を海岸に誘い出し、そこで同人にビタミン剤と偽ってカプセルに詰め替えた薬物を密かに服用させ、海岸の岸壁で眠り込んだ同人の身体にガムテープを巻き、頭巾を被せ、被告人Bにおいて被害者を海中に投げ込むなどして殺害した後は、ガムテープや頭巾を回収して処分したり、付近のコンビニエンスストアに駆け込んで事故を装って警察への通報等を依頼するなど偽装工作を行い、保険金の請求も当然ながら自ら行ったものであって、犯行の実行を最終的に決断して以後は、確かにその決断は、被告人Aなりに苦渋に満ちたものではあったろうが、同被告人は、C殺害の際と同様に、犯行の計画、準備、実行の全般に加担しており、その態様も単に被告人Bに追随していいなりになったとか、引きずられたとかいった性質のものとは考えられない積極的、主体的なものである。そうして、被告人Aがいなければ、被害者を海岸に誘い出すことも、同人に密かに薬物を服用させることも、さらには犯行の目的である保険金請求を行うことも不可能であったものであるから、犯行の実現に寄与した地位、役割の重要さという点においては、被告人Aのそれは、被告人Bのそれを優に上回っている。
一方、被告人Bについてみると、同被告人は、かつて被告人Aと共に同被告人の夫を殺害し、多額の保険金を得た経緯があったことから、次なるは被告人Aの実子を殺害することを企図して同被告人に持ちかけた犯行の発案者である。当然ながら、当初は被告人Aに頑なに拒否されたものの、繰り返し同被告人に被害者の殺害を持ちかけて、ついにはこれを承諾させ、始めのうちは、被告人Aにおいて、いまだ犯罪の実行にちゅうちょを覚えるなどしたことなどから何度も失敗に終わったものの、犯行意欲を失うことなく、最終的に被告人Aにおいて実行の決意を固めさせた後は、同被告人と共に犯行計画を練り、被害者がイカ採りが好きであることを被告人Aから聞き及ぶや、C殺害の際と同様に、イカ採り中の水難事故を装って、被害者を海中に突き落として殺害する旨計画し、その間、自宅に保管していた兄姉らの精神病薬等や被告人Aに病院から入手させた睡眠導入剤等を被害者に服用させるよう同被告人に申し向けたり、被害者に被せる頭巾を自ら用意し、犯行現場の下見にも被告人Aと共に訪れるなどして犯行の準備を整え、解剖は絶対拒否するようになどと種々の偽装工作の方法について、被告人Aに指示を与えるなどもし、犯行の実行にあたっては、現場付近でコンクリート製ブロックの陰に隠れて被害者らの様子をうかがい、被害者が薬物により眠り込むや、被告人Aと共に被害者の身体にガムテープを巻くなどした上、同人を海中に投げ込み、予想に反して同人が覚せいして岸壁にすがろうとするや、自ら海中に飛び込んで同人を力づくで海中に沈めて殺害したもので、その犯行加担は、やはり犯行の計画、準備、実行の全般に及ぶと共に、終始、積極的で主体的なものであり、犯行の発案者としてその計画を強力に推し進めたものである。そうして、被告人Bがいなければ、被告人Aは、被害者殺害を思いつくことも、これを企図した後も実際にこれを実行に移すことは到底あり得なかったものであり、犯行の実現に被告人Bの果たした役割は大きい。
以上、考察するに、本件犯行は、被告人Bにおいて当初発案し、これを被告人Aに執ように持ちかけて、拒否する同被告人を説得して犯行に引き込み、実行に及んだものであり、その間、被告人Bにおいて被害者を殺害しようと試みた際には、被告人Aは、被害者の兄の協力を仰いで殺害の実行を阻止したり、逆に被告人Bを殺害しようとまで試みて被害者の殺害を回避しようともしたのであるから、犯行の主導性を見る限りは、これが被告人B主導の下に行われた犯行であることは明白である。しかしながら、一方、犯行の実現に与った地位、役割の重要性という観点でみる限り、被告人Aの犯行加担がなければ、事故死に見せかけた被害者の殺害も、保険金騙取という本件犯行の目的そのものの達成も、絶対的に不可能であったものであって、いわば同被告人は、本件犯行を実行に移す最終決定権限を握っていたものであり、だからこそ被告人Bも、いかに頑なに拒否されようとも、執ように被告人Aに対し、犯行を持ちかけ、実行を決断するに至らせたものと考えられる。そうして、被告人Aは、いったん犯行の実行を承諾するや自ら犯行に使用する薬物を準備するなど積極的に犯行に加担してもいる。
してみると、本件犯行は、紆余曲折はあるものの、最終的には、C殺害の件と同様に、被告人両名が、一体となって、相互に影響を及ぼし合い、助け合って実行に及んだものであり、そのどちらかが欠けても犯罪の実現は不可能ないし著しく困難であったものといえ、被告人B主導の下に計画が策定され、これが推し進められるとともに、被告人Aにおいても、最終的には、これに積極的に加担して決して余人をもって代えることのできない極めて重要な役割を担ったものであり、結局、これらを総合すると、本件犯行については、被告人らの責任に軽重の差をつけることはできないというべきである。
(3) このほか、判示第2の住居侵入、強盗の事犯については、被告人Aの担った地位、役割とそれに基づく行動については、先に(補足説明)の項で述べたとおり、同被告人が正犯としての責任を免れないことはもとより、実行行為を除く犯行の全般に積極的に関与しており、その犯罪の実現に与った役割は大きい。しかしながら、本件は、被告人Bが犯行を企図して被告人Aに持ちかけたもので、その後も犯行計画の策定やこれに基づく種々の準備作業を積極的に推進したほか、判示の実行行為に及んで現実に金品を強取したものであるから、その責任は、被告人Aに比してより重いというべきである。
(4) 以上検討したところによれば、本件各事犯のうち被告人らの量刑上最も重視されるべき判示第1、第3の各殺人等の事犯のうち、判示第1の殺人等の事犯については、被告人らの責任に顕著な軽重の差はないものの、被告人Aが被告人Bに比してより重い責任を負うというべきであり、一方、判示第3の殺人等の事犯については、被告人らの責任に軽重の差はつけられず、被告人らは同等の責任を負うというべきであるから、結局、これら2件の各殺人等の事犯を通じ、被告人らの責任にそれほどの軽重の差はないものの、より仔細にみれば、被告人Aの方がやや重い責任を負うというべきであって、この判断は、上記説示した判示第2の住居侵入、強盗の事犯に関する両被告人の犯情や被告人Aの判示第4の窃盗、詐欺の事犯に関する犯情を考慮に入れてもなお左右されない。
3 以上の次第であり、本件各犯行のうち、被告人らの量刑上、最も重視されるべき殺人等2件の事犯については、いずれも保険金騙取という金銭的動機に基づく犯行であり、その目的に照らして半ば当然のことながら、水難事故を装った完全犯罪を目論んで綿密な計画を練り、周到な準備を整えて敢行された極めて計画性の高い犯行である。その態様は、上述のとおり、いずれの犯行についても、睡眠導入剤等の薬物を密かに被害者らに服用させて、睡眠状態に陥らせ、身体の自由を奪った上、海中に突き落とすなどし、これにより被害者らが覚せいするやただちに抵抗する被害者らを力ずくで海中に沈めて殺害するという冷酷非情なものであり、しかも、一度かかる犯行により完全犯罪を成し遂げて多額の保険金を騙取するや、あろうことか、その約6年後に、再び完全犯罪を成し遂げるべく同様の犯行に及んでこれを繰り返したものであって、被殺害者の数も2名に上り、その結果は極めて重大である。そうして、被告人両名は、いずれの犯行についても、相互に意思を及ぼし合って助け合い、一体となって犯行に及んだもので、判示第1のC殺害の件に関しては、その犯行実現に与った地位、役割の重要性や犯行の主導性等の点に照らし、被告人Aの方がより重い責任を負うべきものではあるが、それにしても、両事件を通じ、被告人両名の責任にそれほどの軽重の差はない。本件各殺人は、被告人Aの夫と実子が多額の生命保険に加入しており、その受取人が被告人Aとされていたことを奇貨として、被告人両名において、同人らを殺害の標的とし、その保険金目当てに敢行されたもので、この種保険金目的殺人の事犯は、保険制度が一般化、高額化してますます利用される今日の状況において、模倣性・伝播性が極めて高いばかりでなく、これがなされる場合には、まさに本件のごとく綿密な計画や周到な準備がなされ、これに基づいて巧妙に犯行がなされる類の犯罪であり、そしてまさに被告人らがそうしたように、ひとたびその犯行が発覚を免れるや、再び繰り返されることも多い類の犯罪でもある。したがって、本件の量刑にあたっては、この種犯罪の根絶を期する意味でも、一般予防の見地から厳しく対処することが求められるのである。また、本件は、父子連続保険金殺人事件として、広く世間に報道され、社会全体に大きな動揺と衝撃を与えたばかりでなく、とりわけ判示第3のF殺害の件に関しては、もっぱら金のために母がわが子を殺したものであり、母子の情愛という人類普遍の、かつ最も根源的な倫理すら脅かす犯行であって、その責任は余りにも重い。こうしてみると、本件各殺人等の犯行の罪質、動機、態様、2人の生命を奪ったという結果の重大性、社会的影響の大きさ等を考慮すると、本件の犯情はいずれの被告人についても極めて悪く、被告人両名の刑事責任は、より重い責任を負うべき被告人Aについてはもとより、それほどの差がない被告人Bについてもまことに重大という以外になく、特別の事情がない限り、被告人両名に対し、極刑を選択することもやむを得ない。
4 そこで、以下、被告人らのために酌むべき事情を取り上げ、これらが、死刑選択回避の理由となり得るか否かについて検討する。
(1) まず、最も重視されるべきは、遺族の被告人らに対する被害感情である。すなわち、被害者Cの実子であり、同Fの実兄でもあるEは、被告人Aについては、できるだけ早く帰って来てもらいたい、寛大な処分を希望する旨捜査段階及び公判準備期日に証人として出廷した際を通じ一貫して供述し、被告人Bについても、捜査段階においては、死刑に処して欲しい旨述べていたものの、公判準備期日に出廷した際には、一生刑務所から出てきてほしくないが、死刑までは望まない旨述べてその被害感情に変化を見せている。また、同じく被害者Cの実子であり、同Fの実妹でもあるGについても、被告人Aについては、すぐにでも会いたいが、それは無理なこととわかっているので、できるだけ軽い処罰にしてもらって早く帰って来てもらいたい旨検察官に対し供述し、被告人Bに関しても、積極的に死刑を望む旨の供述はしていない。そうして、Cの実兄であるVについても、被告人らに対し、死刑は望まない旨公判廷で供述しており、その他被害者遺族の供述を見ても、被告人らに対し死刑を望む意思を積極的に明らかにしている者は存しない。こうしてみると、本件は、保険金目的殺人2件を敢行したという凶悪重大事犯としては異例といってもよいほどに遺族らの被害感情は一様に緩やかであると言ってよく、とりわけ被告人Aについては、これらの犯行により遺族中もっとも多大な被害を被ったと言ってよいE、Gの両名からは宥恕すら得られているのであるから、このような遺族らの被害感情が被告人Aはもとより、その刑責が同被告人を下回ると認められる被告人Bについても、その量刑殊に死刑選択の是非には大きな影響を及ぼすものとも考えられる。
しかしながら、翻って考えてみるに、本件殺人等の事犯2件は、上述のとおり、被告人Aの夫及び実子に多額の生命保険が掛けられていたことを奇貨として、同被告人が、いわゆる愛人関係ないし内縁関係にあった被告人Bと共謀し、その保険金欲しさに被害者らを殺害したという基本的に家族内において敢行された事件であるだけに、いずれの被害者についても、その最も近しい間柄にあった家族関係者は、ほかならぬ被告人A自身であり、被害者らの遺族は同被告人の家族、親類でもあるのであって、特に、被告人Aの実子らが、実母である同被告人に対し寛大な処分を求めるのは必然であり、さらには、V証人についても、その旨明言は避けているため断定はできないが、甥姪にもあたる被告人Aの実子らの境遇や心情、将来への影響等にもかんがみてそのような供述をしているのではないかとも考えられる。すなわち、本件で遺族らの被害感情が緩やかであるのは、家族内における犯行という本件の特殊性によるものであり、被告人の動機に酌むべきものがあったり、被告人が深く反省し、あるいは相当の慰藉の措置を講じたなどの結果として被害感情が緩和されるという通常一般の場合とは異なるのであって、被告人Aが死刑に処せられれば、長男Eや長女Gは、実父と兄弟を殺害された上に実母まで失うこととなるのであるから、これを回避して欲しいという思いには深い共感を覚えざるを得ないが、その評価にはやはり一定の限界があるといわざるを得ない。
また、被告人Bに関しても、被告人Aの実子らが、死刑を望まないとし、あるいは、直接的には言及しないものの、積極的に死刑を望むともしていないのは、同人らがいずれもその理由を明らかにしておらず、これまた推測に頼るほかないが、やはり同被告人の本件の犯情や深い反省などを反映したものではなく、同被告人が死刑に処せられれば、実母である被告人Aについても同様の、あるいは極めて重い処分がなされるのではないかという危惧等が影響しているのではないかとみられるし、このことは、V証人についても同様である。してみると、被告人Bについても、この点を同被告人に酌むべき事情として斟酌するには大きな制約があるといわざるを得ない。
なお、家族内の犯行であるということに関しては、「法律は家庭に入らず」として、一定の財産犯については不処罰としたり、あるいはその処罰を被害者の意思に委ねるものとされ、殺人のような重大な犯罪にあっても、家族内の犯行として、刑が軽減される例は珍しいことではない。しかし、家族内の犯行で刑が軽減される例が多いのは、その動機が家族内の人間関係に根差した酌むべきものであったり、犯行態様もそれらの苦悩から衝動的、発作的になされたものであったり、さらには被告人自身が深い反省の態度を示したりするなどの結果でもあるのであり、これらの事情を離れて、家族内の犯行という一事だけで刑が軽減されるものではない。本件は、前述のとおり、C殺害については、夫婦間の不満、憎しみを発端とするものではあるが、結局は金銭欲、打算的な考えに基づく計画的で冷酷な犯行であり、F殺害に至っては、酌むべきものの全くない冷酷無比の犯行であって、家族内の犯行として刑が軽減されるべき前提をおよそ欠いているといわざるを得ない。
(2) 次に、被告人両名の反省の態度について検討する。被告人両名は、いずれもF殺害等の件により逮捕された後間もないうちから本件各殺人等について自白し、その事実を詳細に供述し、公判においても、殊に重刑が予想されるそれら殺人等2件の事犯については、事実をいずれも認め、反省の態度を示している。そうして、被告人Aにおいては、起訴後約3年に及ぶその勾留期間中、経を唱えるなどして反省の日々を送るとともに、上記Kの撮影した全裸写真を掲載した雑誌の発行元等に対し提起した損害賠償請求訴訟に勝訴して得た金員約300万円のうちE及びGに対しては合計135万円を、戊生命保険相互会社及び丁保険相互会社に対しては各40万円を、Cの実妹に対しては45万円を、判示第2の強盗等の被害者に対しては30万円を、判示第4の犯行に使用したカード発行元会社に対しては10万円をそれぞれ被害弁償として支払うなどもして可能な限りの被害の回復に努めている。また、被告人Bについても、その勾留中、書物を読むなどする中で自らの人生を振り返り、反省の念を深めるとともに、公判においては、被告人Aを子供たちの下に早く帰してほしい、自分は重刑を甘受する旨供述するなどしており、基本的にそれらの態度は真摯なものであり、嘘はないものと考えられる。しかしながら、そもそも被告人両名は、本件C殺害等の件については、約7年間にわたり水難事故を偽装して発覚を免れ、その後本件F殺害を敢行して保険金請求を行った後も、被告人Bについては同事件で、被告人Aについては判示第4の窃盗及び詐欺の件で逮捕されるに至るまでの約10か月の間、自ら警察に出頭することがなかったばかりか、その間、被告人Aにおいては、F殺害の件が発覚した折りには、これを被告人Bの単独犯行と偽装することを企図し、同被告人に遺書を書かせた上、自殺に見せかけて同被告人を殺害できないかと画策したり、被告人Bにおいては、自らの身辺に捜査が及んでいることを察知するや、警察関係の書物を購入した上、取調べの際の対処方法等について検討するなどしていた経過もあり、被告人らがF殺害等の件で逮捕された後間もなくして本件各殺人等の犯行を自白したことをもって、ただちに被告人らの反省の情が顕著であるとはいい難いところもある。また、各犯行に至る経過に関する被告人らの公判廷での供述内容をみても、被告人Aについては、夫であるCとの結婚生活における同人に対する不満や非難、共犯者である被告人Bによる自己やFに対する暴力被害等を強調する部分が多く、もとよりそれらの供述には多分に真実も含まれているとみられ、殊に被告人Bによる暴力被害については、同被告人がこれを半ば否定する供述もしているのであるから、そのような供述をすること自体が被告人Aの反省の態度に疑問を抱かせるものではないが、その一方で、自らの行動に関しては、判示第3のF殺害等の件については「ほかの子供たちを守るためと思った」などとし、また自ら被告人Bに持ちかけた判示第1のC殺害等の件についてさえ「成り行きに任せるしかないという投げやりな心があった」「殺したいという気持ちは本心ではなかった」「そこまでする必要はないんじゃないかと思ったが、Bのいいなりになってしまった」などと供述するにとどまっていることと対比してみると、被告人Aは、本件各犯行に至るまでの自己の行動が、常に自らの意思以外の抗い難い何ものかによって支配され、あるいはこれに押し流されて犯行に及んだという、ある種の被害者意識にいまだ強くとらわれていることが推察され、それが同被告人の弁護人らが主張するような同被告人の極めて依存心の強い性向からくるものか、重刑を免れたいという自己保身からくるものか定かではないが、いずれにしても、その反省の態度には根本的な過ちがあるといわざるを得ない。一方、被告人Bについては、各犯行に至る計画や準備を重ねていた際の心情を問われて、C殺害等の件については、冗談だと思って被告人Aの話に合わせていたらいつの間にか犯行に至ってしまったなどとその入念な計画や準備の状況に照らし愚にも付かない供述に終始し、F殺害等の件については、自分でも当時の心境はよくわからない、何故殺害の対象としてFを選んだのかもわからない、借金に追われて頭がおかしくなっていたなどとして、自らの罪責と真剣に向き合う姿勢が見受けられない。こうしてみると、被告人両名が、本件各犯行により逮捕され、その後約3年間にわたって身柄を拘束されて公判審理を重ね、関係者や相被告人の言葉にも耳を傾ける中で、自己の犯行に対する反省悔悟の念を相当に深めてきたことは肯認し得るにしても、それが現段階においてどこまで十分な深まりに達しているのかについては、いずれの被告人についても、いまだ疑問の余地なしとしない。なお、両被告人の弁護人らは、本件各殺人等の事犯のうち判示第1のC殺害等の事犯については、被告人らの逮捕当時既に事件後7年近くが経過していたもので、被告人らの自白以外に客観的に被告人らの犯行を証明する手段はなく、その意味で、被告人らが同事件についてもF殺害等の件で逮捕されて間もなく自白したことが事案の真相の解明に大きく貢献しており、このことを量刑上重視すべきである旨主張するが、確かに同事件に関しては、被告人らの自白以外にその犯行を決定的に裏付ける証拠はなく、その意味で被告人らの自白が得られなければ、真相の解明は相当に困難であったと認められ、かかる状況下で自白し、公判でもこれを維持していることは、被告人らの深い反省を示す相当に大きな事情ということはできるが、それ以上に、捜査や公判維持への協力などとして、その刑を大きく軽減すべきでないことは、わが国の刑事裁判実務の大勢である。
(3) さらに、被告人両名の弁護人らは、被告人らのいずれも不遇な生い立ちや家庭環境が被告人らの人格形成ひいては本件一連の犯行に大きく影響を及ぼしており、このことを斟酌すべきである旨主張するので検討するに、被告人Aは、実父母のほか3人の兄姉のいる家庭に生まれ、確かに同被告人の幼少時から両親の夫婦仲は芳しくなく、実父は不貞を繰り返したほか飲酒して暴力を振るうこともあり、実母はこれを強く憎んで、昭和62年には離婚に至っていることが認められ、また被告人Bについても、実父母のほか5人の兄姉がいる家庭に生まれ、やはり両親の喧嘩が絶えることはなく、同被告人が6歳のころに当時高校生であった実姉が精神病に罹患したのを始めとして、その後次々と兄姉らが精神病に罹患するなどいずれもそれなりに不遇な点がうかがわれないではない。しかしながら、被告人Aは、その後短期大学を卒業して一時的に看護婦見習いなどとして病院に勤務した後間もなくしてCと結婚し、家庭の主婦となり、3人の子供の母親として家庭生活を営みつつ、時折は自らも働きに出るなどして通常の社会生活を営み、C殺害当時既に33歳に達していたもので、また、被告人Bは、高校中退後、主に東京方面に赴いて様々な職に就いた後、バス運転手として約10年間にわたり会社に勤務し、その間前妻と結婚し、3人の子供をもうけ、C殺害当時既に45歳に達していたもので、このように被告人両名は、本件一連の犯行に至るまでの過程において、ものごとの道理をわきまえ、生命の尊さ、自らの欲望のみにとらわれず他人の気持ちにも思いを致すことの大切さなどを会得するに十分な人生上の経験を積んでいたのであるから、被告人らのそれなりに不遇な面もないではない生い立ちや家庭環境が本件犯行に大きく影響を及ぼしているとはいい難い。なお、上記のような生い立ちや家庭環境の影響のほか、性格面の本件犯行への影響という点に関し、被告人Aの弁護人らは、過去の指導要録の記載等を根拠に、同被告人は元来依存心が非常に強く、意思が乏しく、他人の影響を受けやすい性格であるとしており、確かにC殺害に至る経過において、同人殺害の願望を抱くや、それまで嫌悪していたはずのKに対してすらこれを持ちかけた経過であるとか、当初頑なに拒否していたF殺害を最終的に決意するに至った経過などにもそのような傾向がみてとれないではない。そうして、被告人Bにおいては、判示のような一連の凶悪な犯行を繰り返したことはもとより、若年のころから窃盗や暴行の前科前歴を有し、その後41歳のころに実家に戻って生活を始めたころまでは、ギャンブル癖はみられるものの、その生活歴にさほど重大な問題を孕んでいたわけではないが、その後はほとんど職に就くことすらなく、競輪等のギャンブルに耽溺して多額の借金を抱えた挙げ句、白昼1人でパチンコ店の景品交換所に強盗に押し入って200万円近い金員を奪うなどもし、判示第1の犯行による保険金獲得後は、被告人Aが相続した土地売却代金等をも含めれば1億円以上にも上るとみられる多額の金員をわずかの間に競輪等で使い果たしたほか、日常的に被告人Aやその家族に対し理不尽な暴力を振るうなどの犯罪歴、生活歴には、一見して相当に根深い犯罪性もうかがわれるのに対し、被告人Aについては、判示のC殺害の犯行に及ぶ以前には全く前科前歴はなく、その生活状況にはかなり荒んで自堕落な面も色濃くうかがわれるものの、それほど大きな問題はない社会生活を営んできており、その子供たちは同被告人を優しい母親であったとし、現に、結婚後数年間にわたり、年老いて痴呆の症状が現れた養母を献身的に世話していたことなどもうかがわれるのであり、それが被告人Bと出会ったことを契機として、本件一連の凶悪犯罪に手を染めるに至ったものであるから、これを依存心が非常に強く、他人の影響を受けやすいという性格的な問題を有する被告人Aが、犯罪性の顕著な被告人Bの影響を強く受けた結果とみる余地もあり得ないではない。しかしながら、そもそも当初夫を殺害して保険金を得るという人としてあるまじき凶悪な犯行を企図したのは、ほかならぬ被告人A自身であり、また、同被告人は、本件F殺害の前後には、実現には至らなかったものの、被告人Bを殺害する意思すら抱いていたことなどからすれば、被告人Aの気質傾向に、本来犯罪性がなかったということはできないし、本件における被告人Aの心理的背景は、仮にそのようなものであったとしても、既に検討した本件犯行に至る経緯における被告人Aの動機形成や役割の一要素として評価されるにすぎないものであり、同被告人の依存的性格の犯行への影響を過度に強調し、同被告人の役割を低くみることは相当でない。
5 このようにしてみると、上述した被告人らに対し酌むべき事情すなわち本件一連の犯行にもかかわらず、被害者遺族とりわけ最も多大な被害を被ったといってよい被告人Aの実子らが、同被告人を宥恕するとともに、被告人Bに対しても死刑を望まないとし、あるいは積極的に望むとはしておらず、他にも遺族中被告人らに対し、積極的に死刑を望むとしている者は存しないこと、被告人両名が、いずれも身柄拘束されて以降今日まで3年以上にわたって、相当に深い反省の日々を送っていると認められること、被告人Aにより上述の各被害者ないし遺族らに対し到底不十分ながらも被害弁償がなされていることのほか、判示第1、第3の各殺人等の事犯については、前示のとおり、いずれも既存の生命保険契約において、その受取人が被告人Aとされていたことを奇貨として犯行がなされたもので、当初から被害者殺害の目的で保険契約を締結し、殺害した事犯よりはやや犯情が軽いといえなくもないこと、判示第2の強盗等の事犯について、その被害品の一部が被害者に還付されていること、被告人Aには前科がなく、被告人Bについても古い罰金前科以外に前科がないこと等の諸事情に加え、死刑が人間存在の根元である生命そのものを永遠に奪い去る冷厳な極刑であり、まことにやむを得ない場合における究極の刑罰であって、その適用は慎重にされなければならないことをも十分に考慮し、慎重に検討してもなお、いずれの被告人についても、死刑の選択を回避し得るほどの事情を見いだすことはできない。よって、死刑制度が存する限りは、いずれの被告人に対しても、死刑をもって臨む以外にない。なお、被告人Bの弁護人らは、死刑制度は「個人の尊厳」の原則を規定する憲法13条に違反し、執行方法の如何にかかわらず、その本質において「残虐な刑罰」にあたるから、同法36条にも反して違憲である旨主張するが、「死刑はいわゆる残虐な刑罰にあたるものではなく、死刑を定めた刑法の規定(は)憲法に違反しない。」「死刑制度を存置する現行法制の下では、犯罪の罪質、動機、態様ことに殺害の手段方法の執拗性・残虐性、結果の重大性ことに殺害された被害者の数、遺族の被害感情、社会的影響、犯人の年齢、前科、犯行後の情状等各般の情状を併せ考慮したとき、その罪責が誠に重大であって、罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむを得ないと認められる場合には、死刑の選択も許されるものといわなければらない。」(最判昭和58年7月8日・刑集37巻6号609頁)から採用しない。
よって、主文のとおり判決する。
(求刑被告人両名に対し死刑)
(裁判長裁判官 山本恵三 裁判官 鈴嶋晋一 裁判官 高石博司)