長崎地方裁判所 平成13年(わ)155号 判決 2001年11月07日
主文
被告人を懲役3年に処する。
未決勾留日数中20日をその刑に算入する。
この裁判確定の日から4年間その刑の執行を猶予する。
被告人から金200万円を追徴する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,長崎県北松浦郡鹿町町長として,同町が発注する各種工事に関し,指名競争入札参加者の指名選定等の職務を行っていたものであるが
第1平成10年2月11日ころ,同町a番地所在の当時の被告人方において,株式会社A代表取締役社長Bから,情を知らないCを介し,同町において発注予定の工事の指名競争入札参加者の指名選定に関して,上記株式会社Aに有利な取り計らいをされたいとの趣旨のもとに供与されるものであることの情を知りながら,現金100万円の供与を受け
第2平成11年6月16日ころ,同町下歌ヶ浦免290番地2所在の鹿町町役場1階町長室において,上記株式会社A代表取締役社長B及び同社従業員Dらから,同町において発注予定の工事の指名競争入札参加者の指名選定に関して上記株式会社Aに有利な取り計らいをされたいとの趣旨のもとに供与されるものであることの情を知りながら,現金100万円の供与を受け
第3平成12年7月17日ころ,当時の上記被告人方において,株式会社E代表取締役会長Fから,同町において発注予定の工事の指名競争入札参加者の指名選定に関して上記株式会社Eに有利な取り計らいをされたいとの趣旨のもとに供与されるものであることの情を知りながら,現金500万円の供与を受け
もって自己の職務に関して賄賂を収受したものである。
(法令の適用)
被告人の判示各所為はいずれも刑法197条1項前段に該当するが,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により犯情の最も重い判示第3の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役3年に処し,同法21条を適用して,未決勾留日数中20日をその刑に算入することとし,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予することとし,被告人が判示第1及び第2の各犯行により収受した賄賂は没収することができないので,同法197条の5後段によりその価額金合計200万円を被告人から追徴することとする。
(量刑の理由)
本件は,鹿町町長の地位にあった被告人が,平成10年から平成12年にかけて,同町が発注する公共工事の入札参加者選定に関し,建設会社2社の代表者から3度にわたり合計700万円の賄賂を収受した事案である。
被告人は,町長という町政の最高責任者として,公正・適正に職務を遂行することを厳しく求められる立場にありながら,その自覚をせず,自らの選挙に多額の費用を要するなどとして,建設会社2社の代表者からの賄賂の提供に安易に応じて本件各犯行に及んでおり,その規範意識は著しく欠けていたと言わざるを得ない。
また,被告人は2年余りの間に3度にわたり2社の建設会社代表者から賄賂を収受して犯行を繰り返したもので,収受した賄賂金額も合計700万円と多額にのぼる。とりわけ平成12年に収受した500万円については,1度に収受した賄賂金額としては相当な額であり,被告人はこれを2度に分けて贈賄業者に返還してはいるものの,それとて贈賄業者が自らの選挙における対立候補者にも金員を提供しようとしたことを知り,憤りを覚えたことや,また自らの犯行の発覚を恐れての行動であって,その動機,意図からして被告人の刑責を大きく減らすものではない。
加えて,被告人を含む公共工事発注担当者が特定の業者から賄賂を収受することにより,町と建設業界との癒着体質をもたらすとともに,建設業界の談合体質を助長し,ひいては適正,公正であるべき公共工事の入札制度そのものをも歪める結果となっている点も見逃すことはできない。
以上のことからすると,被告人の刑事責任は軽視できない。
一方,被告人は建設業者に対し,自ら賄賂を要求したものではなく,その意味では犯行態様は受動的といえること,被告人は本件の発覚を機に鹿町町長の職を辞していること,被告人は心臓に疾患を有すること,妻が被告人の更生に協力する旨証言していること,被告人にはこれまでいかなる前科前歴もないこと等被告人に酌むべき事情も存するので,これらの事情を総合考慮し,被告人に対しては,主文の刑を科した上,その執行を猶予することが相当と思料した。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑 懲役3年,追徴200万円)
(裁判長裁判官 山本恵三 裁判官 鈴嶋晋一 裁判官 高石博司)