長崎地方裁判所 平成17年(ワ)85号 判決 2005年10月18日
原告
甲山春男
外2名
原告ら訴訟代理人弁護士
八木義明
同
梅本義信
被告
日本郵政公社
同代表者総裁
生田正治
同訴訟代理人弁護士
坂本邦彦
同
髙島剛一
主文
1 被告は、原告甲山春男に対し、67万0653円及びこれに対する平成16年11月18日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
2 被告は、原告甲山夏男に対し、67万0653円及びこれに対する平成16年11月18日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
3 被告は、原告丙田冬子に対し、335万3269円及びこれに対する平成16年11月18日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 この判決は、第1項ないし第3項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
1 当事者間に争いのない事実等(一部証拠で認定した事実を含む。)
(1) 亡甲山太郎(以下「太郎」という。)の被告に対する預金債権の内容は次のとおりである。
ア 定額郵便貯金(記号番号<省略>、以下「本件定額貯金ア」という。)
① 預入日 平成3年9月24日
② 金 額 80万円
③ 満 期 平成13年9月24日
④ 利 率 年6パーセント(半年ごとに利息を元本に組み入れる複利契約)
イ 定額郵便貯金(記号番号<省略>、以下「本件定額貯金イ」という。)
① 預入日 平成3年10月21日
② 金 額 63万円
③ 満 期 平成13年10月21日
④ 利 率 年6パーセント(半年ごとに利息を元本に組み入れる複利契約)
ウ 定額郵便貯金(記号番号<省略>、以下「本件定額貯金ウ」という。)
① 預入日 平成3年10月21日
② 金 額 120万円
③ 満 期 平成13年10月21日
④ 利 率 年6パーセント(半年ごとに利息を元本に組み入れる複利契約)
エ 定額郵便貯金(記号番号<省略>、以下「本件定額貯金エ」という。)
① 預入日 平成6年11月15日
② 金 額 70万円
③ 満 期 平成16年11月15日
④ 利 率 年2.9パーセント(半年ごとに利息を元本に組み入れる複利契約)
(2) 太郎は、平成8年5月13日、死亡した(甲4の4)。
(3) 本件定額貯金アないしエの払戻しについては、いずれもその満期が太郎の死亡後となるが、死亡後は課税扱いとなるため、それぞれの満期日現在の元利合計金額は、次のとおりとなる。
ア 本件定額貯金ア
137万7176円(満期日平成13年9月24日現在)
イ 本件定額貯金イ(甲2の2)
103万6287円(満期日平成13年10月21日現在)
ウ 本件定額貯金ウ
206万4168円(満期日平成13年10月21日現在)
エ 本件定額貯金エ
88万7600円(満期日平成16年11月15日現在)
(4) 原告らは、平成16年11月17日、被告に対し、原告らの法定相続分に応じた本件定額貯金アないしエの払戻しを請求したところ、被告は、同月29日、原告らの請求には応じられない旨返答した。
2 争点
本件は、原告らが、被告に対し、太郎から相続した本件定額貯金アないしエについて各自の法定相続分に応じた払戻請求をするとともに、各自の取得額に対する前記1(4)の請求日の翌日(平成16年11月18日)から支払済みまで民法所定の年5パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めている事案であり、その主な争点は、原告らが各自の法定相続分に応じた相続預金の払戻請求をすることができるか否かである。
(1) 原告らの主張
ア 預金債権は、相続により当然に法定相続分に従って相続人に分割承継されるものである(当然分割説)から、原告らは、その法定相続分に応じた相続預金の払戻請求をすることができる。
イ 太郎の相続人は、妻の甲山花子(以下「花子」という。)、長男の原告甲山春男(以下「原告春男」という。)、二男の原告甲山夏男(以下「原告夏男」という。)、三男の乙川秋男(以下「秋男」という。)、長女の原告丙田冬子(以下「原告冬子」という。)であり、その法定相続分は、花子が2分の1であり、原告ら及び秋男は各8分の1であるところ、花子が平成16年4月12日に死亡し、原告冬子が花子を単独相続したことから、最終的な各相続人の法定相続分は、原告春男、原告夏男及び秋男が各8分の1であり、原告冬子が8分の5である。
ウ 被告は、平成13年9月ころの原告春男による相続預金の払戻請求に対し、共同相続人全員による同意書、戸籍謄本の提出を要求したが、共同相続人の一人である秋男が同意書への署名捺印に応じないばかりか、原告らが申し立てた遺産分割調停の期日にも出頭せず、非協力的な態度に終始しているため、原告らは、前記アの相続預金の分割承継の原則に従って、被告に対し前記1(4)の請求をし、被告がそれに応じないので、本訴を提起するに至った。
(2) 被告の主張
原告らが払戻しを求める本件定額貯金アないしエは、預入日から10年を経過しており、払戻しに特別の条件を付けない通常貯金として取り扱われることとなるが、通常貯金の払戻しに応じるには、相続人及び相続分の特定を行う必要があるところ、本件では相続人及び相続分の特定がされていないことから、直ちに払戻しに応じることはできない。
第3 争点に対する判断
1 相続人が複数いる場合において、相続財産中に金銭その他の可分債権があるときは、その債権は法律上当然に分割され、各共同相続人はその法定相続分に応じて権利を取得するものと解するのが相当である(最高裁昭和29年4月8日判決民集8巻4号819頁等)が、本件定額貯金アないしエに係る払戻請求権も可分債権であるから、太郎の各共同相続人がその法定相続分に応じ独立してその債権を取得することになる。
そして、証拠(甲4の1ないし10、16)によれば、太郎の共同相続人及び各人の法定相続分については、前記第2・2(1)イにおいて原告らが主張するとおりの内容のものであると認められるから、本件定額貯金アないしエに係る払戻請求権については、原告春男及び原告夏男が各8分の1、原告冬子が8分の5の割合でもって独立して取得したということができる。
2 これに対して、被告は、相続人及び相続分の特定がされていないと主張しているが、本件では遺言の存否や相続人の範囲をめぐって争いがあるなどといった事情は特に見受けられない。もっとも、確かに、相続財産中の可分債権も共同相続人全員間の合意により遺産分割の対象とされる余地があり、そのような余地がある間は、可分債権といえどもその帰属者及び帰属の範囲が未確定ということになろうから、その意味では被告の主張も理解できないではないが、本件においては、太郎の共同相続人の一人である秋男が、原告らの申し立てた遺産分割調停の期日に出頭しないなど非協力的な態度に終始していること(甲12ないし15)にかんがみると、本件定額貯金アないしエに係る払戻請求権について遺産分割の対象とされる余地はほとんどないというべきである。(なお、秋男は、本件訴訟手続で被告が行った訴訟告知に対しても、何らの応答を示していない。)。そして、このように秋男が非協力的な態度に終始している事情は、原告らによる前記第2・1(4)の請求の際に既に被告に告げられていたものである(甲5の1、2)から、被告は、原告らから前記第2・1(4)の請求を受けた時点で、前記1のような可分債権の相続関係の原則論に基づいた処理を行うべきであったといえる。
3 結論
本件定額貯金アないしエの各満期日現在の元利合計金額は、前記第2・1(3)のとおりであり、これらを合算すると536万5231円となるが、これを原告ら各自の法定相続分で除すると、原告春男及び原告夏男の取得額はそれぞれ67万0653円、原告冬子の取得額は335万3269円となる(いずれの取得額も小数点以下切り捨て)。そして、被告は、前記2で述べたとおり、原告らから前記第2・1(4)の請求を受けた時点で、原告らの各取得額の払戻しに応じるべきであったから、この時点から遅延損害金が発生することとなる。
よって、原告らの本訴各請求はいずれも理由があるからこれらを認容することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官・上拂大作)