長崎地方裁判所 平成17年(行ウ)6号 判決 2006年11月07日
長崎市a町b番c号
原告
A
東京都千代田区<以下省略>
被告
国
代表者法務大臣
B
処分行政庁
C 税務署長
指定代理人
D
同
E
同
F
同
G
同
H
同
I
同
J
同
K
同
L
同
M
同
N
同
O
主文
1 処分行政庁が,原告の平成14年分の所得税について平成15年9月16日付けでした更正(平成16年6月23日付け減額更正後のもの)のうち,総所得37万7707円を超える部分を取り消す。
2 訴訟費用は,被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文と同旨
第2事案の概要等
本件は,原告の夫PがQ相互会社との間で締結していた生命保険契約(被保険者及び契約者はP,受取人原告)について発生した保険事故(Pの死亡)に基づいて,原告が平成14年に受け取った年金払保障特約年金220万8000円を,被告が,原告の雑所得に当たるとして,その平成14年分の所得金額に加算して所得税の更正(以下「本件処分」という。)を行ったため,原告がその取消を求めている事案である。
1 当事者間に争いのない事実等
・※ 本件保険契約及び原告の年金受領までの経緯
ア Pは,平成8年8月1日,Qとの間で,Pを契約者及び被保険者,原告を受取人とする年金払生活保障特約付終身保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結し,その保険金を支払っていた。この保険契約では,保険事故が発生した場合に主契約に基づいて支払われる一時金に加え,生活保障のため特約年金が支払われる特約(年金払生活保障特約条項)が付されている。この特約では,保険事故が発生した場合,年金額230万円を主契約の受取人(すなわち原告)に対して10年間支払うものとされ,また,上記特約条項4条では,特約年金の受取人は,年金支払期間中,将来の特約年金の支払にかえて,特約年金の未支払分の現価の一時支払を請求することができるものとされている。この現価は,一時支払請求日における特約年金の支払残存回数に応じ,所定の算定率に特約基本年金額(本件では230万円)を乗じて算定され(ただし,1回目の特約年金支払以降はさらに所定の調整を行う),主契約の保険金の請求と同時に特約年金の現価の一時支払が請求された場合,この現価は,特約基本年金額に8.956を乗じた金額(本件では2059万8800円)とされている(甲4,5の③)。
イ Pは,平成14年10月28日死亡した。原告は,Pの死亡により,本件保険契約に基づき,死亡保険金4000万円を受け取る権利と,年金払生活保障特約年金(「以下「年金」という。)として,平成14年10月28日から平成23年まで,毎年10月28日に230万円ずつ受け取る権利(以下「本件年金受給権」という。)を取得した。
ウ 原告は,平成14年11月6日,Qに対し,本件保険契約に基づき,死亡保険金及び年金の請求を行い,Qは,同月8日,原告に対し,死亡保険金4000万円,年金230万円(以下「本件年金」という。)及び配当金2万0649円の合計4232万0649円から,契約貸付金19万5000円,同貸付金利息2104円及び源泉徴収税22万0800円を差し引いた4190万2745円を支払った。
・※ 原告の確定申告及び本件更生処分などの経緯
ア 原告が行った平成14年分の所得税の確定申告,更正の請求並びに本件処分から裁決に至るまでの請求,処分,申立て,決定等の年月日及びその内容は,別表のとおり(掲載省略)である。その要点は,イに記載のとおりである。
イ 原告は,原告が行った確定申告について,給与所得15万円が漏れており,他方,本件年金の源泉徴収税23万0800円が所得金額から差し引かれる金額として追加されるべきであり,同年中に還付を受けるべき金額は,合計22万3464円になるとして,更正の請求を行った。これに対し,C税務署長は,原告が平成14年11月8日に支払を受けた保険金のうち,本件年金230万円から必要経費として認められた9万2000円を差し引いた220万8000円を同年中における原告の雑所得と認定し,還付を受けるべき額が4万8264円になるとする本件処分を行った。
なお,必要経費の算出は以下のように行われている。
本件保険契約における払込保険料 195万1291円・・①
主契約に基づく死亡保険金 4000万円・・②
特約に基づく年金総額 2300万円・・③
特約に基づく特約年金に係る払込保険料 72万1977円・・④
≒(①×(③/(②+③))
本件年金に係る保険料 9万2000円
≒230万円×(④/2300万円)
その後,原告の異議申立て,審査請求を経て,寡婦控除,配偶者控除,配偶者特別控除及び扶養控除等が所得金額から差し引かれる金額として認定され,平成16年6月23日に還付を受けるべき金額を19万7864円とする減額再更正がされ,審査裁決は,この再更正を認めた。
ウ 他方,原告は,平成15年8月27日,C税務署長に対しPを被相続人とする相続税の申告書を提出し,その申告に係る相続財産の中には,本件年金受給権の総額2300万円に0.6を乗じた1380万円が含まれている。
・※ 相続税法及び所得税法の規定,課税実務など
ア 相続税法3条1項1号は,被相続人の死亡により相続人(相続を放棄した者及び相続権を失った者を含まない。)が生命保険契約の保険金を取得した場合においては,当該保険金受取人について,当該保険金のうち被相続人が負担した保険料の金額の当該契約に係る保険料で被相続人の死亡の時までに払い込まれたものの全額に対する割合に相当する部分を相続により取得したものとみなす旨を規定している。
イ 他方,所得税法9条1項15号は,相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの(相続税法(昭和二十五年法律第七十三号)の規定により相続,遺贈又は個人からの贈与により取得したものとみなされるものを含む。)については,所得税を課さない旨を規定している。
ウ 課税実務では,相続税法3条1項1号によりみなし相続財産とされる保険金には,一時金により支払を受けるもののほか,年金の方法により支払を受けるものも含まれるとされ(相続税法基本通達3-6。乙10-①),他方,これによって受取人が受け取る個々の年金については当該受給者の所得として所得税を課税するものとされている(「家族収入保険の保険金に関する課税について」(昭和43年3月官審(所)2,官審(資)9)。乙11の①)。
2 争点及び当事者の主張
本件の争点は,本件年金が相続税法3条1項1号のみなし相続財産に当たる否か,所得税法上の所得に当たるか否か,所得税法9条1項15号により非課税とされるか否かという点である。
(原告の主張)
本件年金は,相続税法3条1項1号の「保険金」に該当し,みなし相続財産として相続税を課税されているので,所得税法9条1項15号により非課税所得となり,所得税法35条1項の雑所得には該当しないというべきである。
すなわち,
・※ 生命保険金が年金で支払われる場合,同条項の「保険金」は,年金受給権(基本権と支分権)と支分権に基づいて支払われる年金のすべてを包含したものと解すべきであり,基本権である年金受給権のみを指すものではない。
・※ 相続税法3条1項1号の「保険金」を「受給権」と解釈した場合,その財産的価値は,受給権という債権が将来現金化することにほかならず,債権が現金化することは権利の性質が変わるだけのことであるから,所得税法9条1項15号を適用するまでもなく,本件年金は,所得の発生に当たらない。また,年金受給権について相続税を課し,更に,当該受給権の支分権に基づいて支払われる年金に所得税を課することは二重課税に当たる。被告の解釈は,憲法29条の財産権の保障にも違反するものである。
・※ 本件年金が雑所得に当たるとして課税するのであれば,一時払の保険金であっても,相続開始時に受給権が発生し,その後,保険金を取得するのであるから,その取得時において一時所得又は雑所得として課税すべきことになるが,そのような取扱いになっていない。また,売掛金債権を相続し,将来それを回収して現金化した場合,その現金に対して課税はされないが,本件年金受給権について,みなし相続財産として相続税が課税された場合,将来年金を受け取った際,年金に対して所得税を課税すべきでないことは,上記売掛金債権の相続の場合と同様である。
(被告の主張)
・※ 本件年金受給権
ア 原告は,本件年金契約に基づき,Qに対し,平成14年10月28日から平成23年10月28日まで,毎年10月28日限り,230万円ずつ年金を請求し得る権利を取得している。
相続税法3条1項1号は,被相続人の死亡により相続人その他の者が生命保険契約の保険金又は損害保険契約の保険金を取得した場合においては,当該保険金受取人について,当該保険金のうち被相続人が負担した保険料の金額の当該契約に係る保険料で被相続人の死亡の時までに払い込まれたものの全額に対する割合に相当する部分を相続により取得したものとみなす旨規定しているが,この「保険金」とは,正確には保険契約等に基づく死亡保険金等の受給権を意味するものであり,現実に受領する金銭を意味するものではない。したがって,本件のように,保険契約に基づいて定期金に関する権利(年金受給権)を取得した場合も,その年金受給権は相続税法3条1項1号の「保険金」に該当し,被相続人の死亡を原因として取得した相続財産とみなされる財産である。そして,現実に受領する保険金額やその受領の態様は,当該保険金等の受給権を評価する基準としての意味を持つにすぎないものである。
イ 本件年金受給権は,残存期間10年の定期金債権であるところ,相続税法上,その権利の価額は,相続税法24条1項1号により,その残存期間に受けるべき給付金額の総額(230万円×10回=2300万円)に,100分の60を乗じて計算した金額の1380万円となる。
・※ 本件年金
ア 本件年金は,現実に支給された230万円という現金であり,それ自体定期金に関する権利ではないから,相続税法3条1項1号にいう「保険金」には該当しない。また,基本債権たる本件年金受給権に基づく権利ではあるが,一定期日(年金の支払事由が生じた日)の到来によって生み出された支分権,すなわち基本債権とは異なる権利に基づいて取得した現金であり,また,2回目以降の各年金も,本件年金受給権に基づき,一定期日(年金の支払日の単位の応答日)の到来によって生み出されてゆく支分権に基づくものであって,雑所得として所得税が課税される。
イ 本件年金のように支分権に基づいて取得した現金が雑所得に該当することは,所得税法施行令183条1項が,生命保険契約等に基づく年金の計算に関する規定を,また,同法第4編第4章第2節に生命保険契約等に基づく年金に係る源泉徴収に関する規定をもうけていることからも明らかである。
ウ なお,所得税法9条1項15号は,相続(被相続人の死亡)という同一原因によって相続税と所得税とを負担させるのは,同一原因により二重に課税することになるので,これを回避し,相続税のみを負担させるという趣旨であり,本件年金のように被相続人の死亡後に実現する所得に対する課税を許さないという趣旨ではない。
また,現実にも,相続税法24条1項1号に基づく本件年金受給権の価額(1380万円)は,本件年金受給権のみなし相続財産としての価額を算出するため,相続税法上定められた評価方法に基づいて算定されたものであり,他方,本件の特約年金の現価の一時支払の請求が行われた場合,その「現価」は,特約基本年金額に算定率たる8.956を乗じて算出されるから,本件においては2059万8800円(230万円×8.956)となる。したがって,本件年金受給権と本件年金とは経済的価値が同一のものとはいえない。
第3当裁判所の判断
1 相続税法3条1項は,相続という法律上の原因に基づいて財産を取得した場合でなくとも,実質上相続によって財産を取得したのと同視すべき関係にあるときは,これを相続財産とみなして相続税を課することとし,他方所得税法9条1項15号は,このように相続税を課することとした財産については,二重課税を避ける見地から,所得税を課税しないものとしている。このような税法の規定からすると,相続税法3条1項によって相続財産とみなされて相続税を課税された財産につき,これと実質的,経済的にみれば同一のものと評価される所得について,その所得が法的にはみなし相続財産とは異なる権利ないし利益と評価できるときでも,その所得に所得税を課税することは,所得税法9条1項15号によって許されないものと解するのが相当である。
2 本件年金受給権は,Pを契約者兼被保険者とし,原告を保険金受取人とする生命保険契約に基づくものであり,その保険金は保険事故が発生するまでPが払い込んだものであるから,年金の形で受け取る権利であるとしても,実質的にみて原告が相続によって取得したのと同視すべき関係にあり,相続税法3条1項1号に規定する「保険金」に当たると解するのが相当である。そして,本件年金受給権の価額は,同法24条に基づいて評価されることになるが,同条1項1号によると,有期定期金は,その残存期間に受けるべき給付金の総額に,その期間に応じた一定の割合を乗じて計算した金額とされている。この割合は,将来支給を受ける各年金の課税時期における現価を複利の方法によって計算し,その合計額が支給を受けるべき年金の総額のうちに占める割合を求め,端数整理をしたものだといわれている。
他方,本件年金は,本件年金受給権に基づいて保険事故が発生した日から10年間毎年の応答日に発生する支分権に基づいて原告が保険会社から受け取った最初の現金である。上記支分権は,本件年金受給権の部分的な行使権であり,利息のような元本の果実,あるいは資産処分による資本利得ないし投資に対する値上がり益等のように,その利益の受領によって元本や資産ないし投資等の基本的な権利・資産自体が直接影響を受けることがないものとは異なり,これが行使されることによって基本的な権利である本件年金受給権が徐々に消滅していく関係にあるものである。
そして,上記のように,相続税法による年金受給権の評価は,将来にわたって受け取る各年金の当該取得時における経済的な利益を現価(正確にはその近似値)に引き直したものであるから,これに対して相続税を課税した上,更に個々の年金に所得税を課税することは,実質的・経済的には同一の資産に関して二重に課税するものであることは明らかであって,前記所得税法9条1項15号の趣旨により許されないものといわなければならない。
3・※ 被告は,本件の争点に関して,①相続税法3条1項1号の「保険金」は,保険契約等に基づく死亡保険金等の受給権を意味するものであるが,本件年金は,現実に支給された230万円という現金であり,それ自体定期金に関する権利ではないこと,②本件年金は,一定期日の到来によって生み出された支分権という本件年金受給権とは異なる権利に基づいて取得した現金であること,③所得税法施行令183条1項が,生命保険契約等に基づく年金の計算に関する規定を,また,同法第4編第4章第2節に生命保険契約等に基づく年金に係る源泉徴収に関する規定をもうけていることからすると,所得税法は,みなし相続財産とされる生命保険等を年金で受け取る場合においても当該年金に所得税を課税することを前提としていると解されること,④所得税法9条1項15号は,本件年金のように被相続人の死亡後に実現する所得に対する課税を許さないという趣旨ではないこと,⑤相続税法24条1項1号に基づく本件年金受給権の価額(1380万円)と,本件の特約年金の現価の一時支払の請求が行われた場合の「現価」(2059万8800円)とは異なり,本件年金受給権と本件年金とは経済的価値として同一のものとはいえないと主張しているので,この点について補足的に説明をしておく。
・※ ア 前記のとおり,相続税法3条1項によって相続財産とみなされて相続税を課税された財産につき,これと実質的,経済的にみれば同一のものと評価される所得について,その所得が法的にはみなし相続財産とは異なる権利ないし利益と評価できるときでも,その所得に所得税を課税することは,所得税法9条1項15号の趣旨によって許されないものと解するのが相当である。したがって,本件年金が現金であること,それが本件年金受給権とは法的に異なる支分権に基づくものであること,被相続人の死亡後に発生するものであることは,いずれも所得税法の前記条項にもかかわらず本件年金について所得税を課税すべきことの根拠となるものではない。
イ なお,付言すると,本件年金受給権が相続税法3条1項1号の「保険金」に該当すると解すべきことは先にみたとおりであるが,上記条項の文理とは異なって,ここにいう「保険金」はすべて「保険金受給権」を意味すると解さなければならない必然性はないと思われる。
また,所得税法9条1項15号が,被相続人の死亡後に実現する所得に対する課税を許さないという趣旨のものでないことはそのとおりであるが逆に,被相続人の死亡後に発生した権利や実現した所得について必ず所得税を課税する趣旨を含んでいるものでもない。例えば,株式会社の役員が死亡後,その役員に対して退職慰労金を支給する旨の株主総会決議がされた場合,その支給が当該役員の死亡後3年以内に確定したものについては相続税法3条1項2号によって相続財産とみなされることとなるが,この役員退職慰労金請求権は,相続開始後に発生したものであるから,同条項により相続財産とみなされるものの中には被相続人の死亡後に発生する権利もある。また,本件年金受給権に関しても,受取人である原告が一時払いを選択した場合,この一時払いに基づく保険金に対して所得税は課税されない扱いであるが,一時払いを選択した場合の保険金請求権は,被相続人の死亡後に発生するものと解する余地があるし,そもそも本件年金に係る支分権(第1回目の年金支払請求権)は,支払事由が生じた日を支払日とされているから(2条4の・※。甲5の③),相続開始後に発生した権利であるとも,実現した所得であるともいえないと見る余地もあることに留意すべきである。
いずれにせよ,相続開始後に発生した債権・実現した所得であることは,それだけではみなし相続財産にはならないこと,あるいは所得税を課税することの,いずれの根拠にもならないというべきである。
また,確かに,本件年金は,支分権という,本件年金受給権(基本権)と法的には異なる権利に基づいて取得した現金であるとはいえる。しかし,基本権と支分権は,基本権の発生原因たる法律関係と運命を共にする基本権と一たび具体的に発生した支分権との独立性を観念する概念であり,債権の消滅時効の点(民法168条,169条)などにおいて実際上の差異が生じるものであるが,この観念を,所得税法9条1項15号の解釈において,二重課税か否かを区別する指標であり二重課税であることを否定すべき事情と考えるべき根拠には乏しく(なお,相続税法3条1項1号の「保険金」を直ちに「保険金受給権」と解すべき根拠になるとも考えにくい),上記のとおり,今後受け取るべき年金の経済的利益を原価に引き直して課税しているのが年金受給権への相続税課税である以上,このような経済的実質によって,二重課税か否かを区別することが所得税法9条1項15号の趣旨に沿う。
したがって,基本権と支分権の関係にあることないし法的には異なる権利と評価できるものであることは,それだけで二重課税であることを否定する根拠とはならない。
・※ 所得税法施行令38条は,生命保険契約等に基づく年金に係る雑所得の計算方法を定めている。もともと命令の規定から法の解釈をすることは本末転倒というべきであるが,生命保険契約には,被保険者ないし年金受取人の死亡という保険事故ないし事実が発生しなくとも年金の支払をすることを内容とするもの等多様なものがあるから,施行令38条のうち,生命保険契約に係る部分は,上記のような保険事故ないし事実を前提としない同契約に基づく年金に係る雑所得の計算方法を定めたものと解することができる。したがって,この規定が置かれていることは,被告のような解釈をすることの根拠とはならない。
また,所得税法207条ないし209条は,生命保険契約等の年金に係る契約に基づく年金の支払をする者の源泉徴収に関する定めをしているが,この規定も,上記と同様,被保険者ないし年金受取人の死亡という保険事故ないしその事実を支給の要件としない年金の支払に関する規定と解することができる。
・※ 一時支払を選択した場合に,本件保険契約上される一時支払金の計算結果(2059万8800円)と,相続税法によって計算した本件年金受給権の価額(1380万円)は異なる。しかし,これは現価計算の方法が異なることによるものであり,相続税法24条1項1号による時価計算において,年金受取時に実現する所得について所得税が課税されることを前提とした減価・調整等をしているわけではないと考えられるから,このような違いがあるからといって,本件年金受給権に対する相続税の課税と本件年金に対する課税が,経済的実質が同一の資産に対する二重課税であることを否定する根拠となるものではない。
4 結論
そうすると,本件年金を雑所得と認定して原告の所得に加算した本件処分は違法であり,取消を免れない。よって,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田川直之 裁判官 今中秀雄 裁判官 船戸宏之)
<編注:『※』部分は原文のとおり。>