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長崎地方裁判所 平成21年(ワ)745号 判決 2011年11月30日

原告

同訴訟代理人弁護士

木佐茂男

北爪宏明

被告

Y大学法人

同代表者理事長

同訴訟代理人弁護士

福田浩久

木下健太郎

主文

1  原告が,被告に対し,平成21年9月15日付け停職処分の付着しない労働契約上の権利を有することを確認する。

2  被告は,原告に対し,534万1475円並びにうち55万1900円に対する平成21年10月22日から,うち55万1900円に対する平成21年11月21日から,うち133万1911円に対する平成21年12月11日から,うち55万0600円に対する平成21年12月22日から,うち55万0600円に対する平成22年1月22日から,うち55万0600円に対する平成22年2月20日から,うち24万4535円に対する平成22年3月20日から,うち7600円に対する平成22年4月22日から,うち7600円に対する平成22年5月22日から,うち7600円に対する平成22年6月22日から,うち80万9343円に対する平成22年7月1日から,うち7600円に対する平成22年7月22日から,うち7600円に対する平成22年8月21日から,うち7600円に対する平成22年9月22日から,うち7600円に対する平成22年10月22日から,うち7600円に対する平成22年11月20日から,うち5万3227円に対する平成22年12月11日から,うち7600円に対する平成22年12月22日から,うち7600円に対する平成23年1月22日から,うち7600円に対する平成23年2月22日から,うち7600円に対する平成23年3月19日から,うち6800円に対する平成23年4月22日から,うち6800円に対する平成23年5月21日から,うち6800円に対する平成23年6月22日から,うち1万4859円に対する平成23年7月1日から,うち6800円に対する平成23年7月22日から,うち6800円に対する平成23年8月20日から及びうち6800円に対する平成23年9月22日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  被告は,原告に対し,280万円及びこれに対する平成21年10月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

5  訴訟費用は,これを2分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。

6  この判決は,第2,3項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

1  主文第1項と同旨

2  主文第2項と同旨

3  被告は,原告に対し,5万5760円及びうち5万3760円に対する平成22年9月19日から,うち2000円に対する同月26日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4  被告は,原告に対し,1100万円及びこれに対する平成21年10月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

1  本件は,次のとおりの事案である。

(1)  前記第1の1の請求

原告が,被告(原告の使用者〔労働契約上の使用者〕たる地位にある者)が原告(被告が設置運営している大学の教授である。)に対して平成21年9月15日付けでした停職6月の懲戒処分が無効であるとして,被告に対し,同日付け停職処分の付着しない労働契約上の権利を有することの確認を求める事案である。

(2)  前記第1の2の請求

原告が,被告に対し,上記停職処分は無効であるとして,未払賃金又は債務不履行による損害賠償金及びその遅延損害金の支払を求める事案である。

(3)  前記第1の3の請求

原告が,被告に対し,上記停職処分により研究費減額分相当の損害を被ったとして,損害賠償金及びその遅延損害金の支払を求める事案である。

(4)  前記第1の4の請求

原告が,被告が無効な上記停職処分をしたことは不法行為を構成する旨,そして,上記停職処分により教育研究をする権利,名誉等の権利が侵害され精神的苦痛を受けたうえ,弁護士費用の損害を被ったとして,被告に対し,不法行為に基づき,1100万円(上記精神的苦痛に係る慰謝料1000万円及び弁護士費用100万円の合計)及びこれに対する不法行為の後である平成21年10月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

2  争いのない事実等

次の事実は,当事者間に争いがないか,又は,証拠(後掲のもの。なお,枝番のある書証につき枝番の記載のないものは,各枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により認めることができる。

(1)  当事者

原告は,平成11年から現在に至るまで,長崎県立a大学(以下,独立行政法人である被告が平成17年4月1日に同大学を承継した前後を併せて,「被告大学」という。)において,大学教員(教授)として勤務する者である。

長崎県は,平成11年から,原告の使用者(労働契約上の使用者)たる地位を有していたところ,被告は,平成17年4月1日,法人として設立され(Y大学法人b大学とY大学法人県立a大学〔被告大学〕を設置運営するものである。),Y大学法人への職員の引継ぎに関する条例(平成17年長崎県条例第5号)に基づき,原告の使用者たる地位を長崎県から承継した。

被告は,a1校(長崎県西彼杵郡長与町所在)及びa2校(長崎県佐世保市所在)において,被告大学を設置運営している。

(争いがない。)

(2)  関係規定

ア 長崎県の職員の兼業に関する定め

長崎県は,「職務専念義務の免除の承認及び営利企業等従事の許可について」と題する総務部長通知(昭和59年4月1日・59人委第21号総務部長通知。証拠<省略>)において,次のとおり定めている。

職員は,職専免条例又は職専免規則による承認を受けようとする時及び営利企業等従事規則による許可を受けようとする時は,申請書に参考となるべき書類を添えて,知事に提出すること。

イ 被告の職員兼業規程

被告は,Y大学法人職員兼業規程(平成17年4月1日規程第7号。以下「本件兼業規程」という。証拠<省略>)において,次のとおり定めている。

(兼業の許可)

第3条 兼業に従事しようとする職員は,あらかじめ兼業従事許可申請書を理事長に提出して許可を受けなければならない。

(兼業の従事時間)

第6条 兼業は,勤務時間外に行うものとする。ただし,理事長が特に必要と認める場合は,この限りではない。

(賃金の取扱い)

第7条 職員が勤務時間内に兼業に従事することを許可された場合は,当該兼業により勤務しなかった勤務時間について,賃金を減額するものとする。ただし,理事長が特に必要と認める場合は,この限りではない。

(兼業の報告)

第11条 理事長は,必要に応じて,許可を与えた職員に兼業の実施状況の報告を求めることができる。

ウ 被告の職員の勤務時間・休日等に関する規程

被告は,Y大学法人職員の勤務時間,休日及び休暇に関する規程(平成17年4月1日規程第14号。証拠<省略>)において,次のとおり定めている。

第3条 職員の始業及び終業の時刻は,次のとおりとする。

始業時刻 午前9時

終業時刻 午後5時50分

第8条 職員の休日は,次に定める日とする。

日曜日,土曜日,祝日,12月29日から翌年1月3日までの日

エ 被告の職員就業規則

被告は,Y大学法人職員就業規則(平成17年4月1日規則第5号。以下「本件就業規則」という。証拠<省略>)において,次のとおり定めている。

(規則の遵守)

第4条 法人及び職員は,誠意をもってこの規則を遵守しなければならない。

(職務に専念する義務)

第33条 職員は,この規則又は関係法令の定める場合を除いては,その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い,法人がなすべき責を有する業務にのみ従事しなければならない。

(服務心得)

第35条 職員は,職務を遂行するに当たり,法令に従い,かつ,上司等の職務上の指揮命令に従わなければならない。

(兼業)

第39条 職員は,理事長の許可を受けた場合でなければ,他の業務に従事してはならない。

② 職員の兼業については,本件兼業規程の定めるところによる。

(懲戒の事由)

第46条 職員が次の各号(1号ないし9号の各号が定められている。)のいずれかに該当する場合は,懲戒処分を行う。

(1) 職務上の義務に違反し,又は職務を怠った場合

(中略)

(7) 正当な理由なく無断欠勤した場合

(懲戒の種類)

第47条 懲戒の種類及び内容は次のとおりとする。

(1) 訓告(記載<省略>。以下「…」と表示する。),(2)戒告…,(3)減給…。

(4) 停職 1日以上6か月以内を限度として勤務を停止し,職務に従事させず,その間の賃金を支給しない。

(5) 懲戒解雇…。

オ 被告の懲戒等に関する規程

被告は,Y大学法人職員の懲戒等に関する規程(平成21年3月25日規程第5号。以下「本件懲戒規程」という。証拠<省略>)において,次のとおり定めている。

(教員の懲戒)

第2条 教員の懲戒処分は,学長の申し出により理事長がこれを行う。

(調査)

第4条 学長は,本件就業規則第46条各号の懲戒事由のいずれかが存在すると思料する場合には,教育研究評議会の中に事実確認等の調査のための調査委員会を設置する。なお,当該調査の際には,調査委員会は,調査の対象となる教員から事情を聴取するものとする。

第3項 第1項の規定にかかわらず,懲戒事由にかかる事実の内容が極めて明白である場合等調査の必要がないと認められる場合には,学長は調査を省略することができる。

(教育研究評議会における審議)

第6条 第4条に規定する調査が終了した場合は,調査委員会は直ちに教育研究評議会に調査結果を報告しなければならない。

第2項 教育研究評議会は,前項の報告を受けたときは,教員の懲戒処分の要否等について審議を行い,その結果を学長に報告するものとする。

第3項 教育研究評議会は,調査対象となる教員に,文書又は口頭による弁明の機会を与えなければならない。また,必要があると認めるときは,参考人の出頭を求め,又はその意見を聴取することができる。

(3) 原告(被告大学○○学部教授)は,平成15年10月17日,医薬品の研究・開発の受託業務等を目的として,c株式会社(以下「c社」という。)を設立し,その代表取締役に就任した(証拠<省略>)。そして,設立以後,代表取締役としてc社の業務に従事していた(争いがない。)。

c社は,産学官連携の事業として設立され,事業活動を行っていた。

(4) 原告に対する営利企業等従事許可

原告は,c社の設立前である平成15年9月29日ころ,長崎県知事に対し,要旨次の内容の営利企業等従事許可申請書を提出し,c社の代表取締役として同社の業務に従事することにつき許可の申請を行った。

事業の内容 医薬品の研究・開発の受託業務等

職務の内容 …

従事予定期間 平成15年10月17日から平成17年3月31日まで

従事時間 平日3時間程度,日祝日は終日

勤務の態様 常勤(大学勤務時間外において本事業に従事)

報酬 有り(…)

原告は,平成15年10月3日ころ,長崎県知事から上記申請を許可する旨の許可書の交付を受けた。

(証拠<省略>)

(5) 被告の設立

被告は,平成17年4月1日,法人として設立され,前記(1)のとおり,条例に基づき,原告との間の労働契約における原告の使用者たる地位を長崎県から承継した(争いがない。)。

(6) 原告に対する兼業従事許可

原告は,その後,平成20年6月ころまでの間,数回にわたって,被告理事長に対し,それぞれ要旨次の内容の兼業従事許可申請書を提出し,上記許可申請をした。

団体・従事する職名 c社の代表取締役

事業の内容 ゲノム創薬を支援する受託研究事業

従事する職の内容 産学官連携による事業体制の構築

従事予定期間 上記申請書記載の作成日の属する年の4月1日から翌年の3月31日まで(ただし,平成20年分は,同年4月1日から同年11月30日まで)

従事時間 平日3時間程度,土曜日曜祝日は終日

報酬 有(…)

従事することを必要とする理由 …。

原告は,上記各申請書を提出した後,間もなく,被告理事長から,上記各申請に係る兼業従事につき許可を受けたが,その際交付された各許可書には,いずれも「勤務時間の割り振り 要」「やむを得ず,勤務時間内に上記団体業務に従事する場合は,勤務時間の振り替え申請が必要である。」との記載があった。

(証拠<省略>)

(7) c社は,設立後,増資され,事業規模が拡大したが,赤字経営に終始して経営が悪化し,平成20年10月,破産手続開始申立てをし,同月22日,破産手続開始決定を受けた(なお,平成22年6月11日,上記破産手続廃止の決定が確定した。証拠<省略>)。

(8) 本件懲戒処分に至る経緯

ア c社は,財団法人f振興財団及び長崎市から補助金等の支援を受けていたことから,その破綻が明らかになった平成20年9月以降,長崎県議会及び長崎市議会は,c社破綻の原因究明に関する調査等を行うこととした(証拠<省略>)。

イ 被告大学学長は,原告につき,本件就業規則第46条各号の懲戒事由が存在すると思料されたことから,平成21年1月13日,本件懲戒規程第4条に基づき,副学長(B)を委員長とし,委員4名(○○学部長,a1校事務局長〔C〕,a1校総務企画課長ら)をもって組織する被告調査委員会(以下「調査委員会」という。)を設置した(証拠<省略>)。

ウ 被告(当時の理事長:D)は,原告に対し,平成21年5月ないし6月ころ,同年5月15日付け(証拠<省略>),同年6月10日付け(証拠<省略>)及び同月30日付け(証拠<省略>)のいずれも「記録等の提出について」と題する書面により,「原告が代表取締役を務めるc社が経営破綻したことから,長崎県,長崎県議会,長崎市議会において,その破綻原因の調査・検証が行われている。この過程で,原告が,被告の服務に関する規程や兼業の許可条件等に照らして必要な手続を経ずに勤務時間中にc社関係の業務に従事していたことが明らかになってきた。原告の平成19年出勤簿は勤務を要する日についてすべて出勤として捺印されているなど,c社の業務に従事した状況と被告大学での勤務の状況が矛盾しており,誠に遺憾である。被告としては,原告の勤務実態について正確に把握する必要がある。」として,本件就業規則第4条,本件兼業規程第11条に基づき,「平成15年度から平成21年度までの①c社の株主総会,取締役会などの全議事録,②原告の出張関連資料,③法務省入国管理局の出帰国記録調査書,④その他業務日誌など原告がc社業務に従事したことを示す資料」(上記各資料を,以下「本件資料」という。)を提出するよう求めた。

原告代理人弁護士は,原告を代理し,平成21年6月22日ころ,被告に対し,上記同年5月15日付け及び同年6月10日付けの各書面(証拠<省略>)につき,現時点において,提出を求められた本件資料の提出はできない旨の回答をし(証拠<省略>),同年7月7日ころ,上記同年6月30日付け書面(証拠<省略>)につき,上記と同様,本件資料の提出はできない旨の回答をした(証拠<省略>)。

エ 調査委員会による調査

調査委員会は,平成21年8月31日夕刻,原告に対し,「兼業従事許可等に関する事実確認について」と題する書面(甲92。以下「甲92の書面」という。)を交付し,本件懲戒規程第4条第1項の規定に基づき,同年9月1日午後4時20分に調査委員会による事実確認のため事情聴取をしたいとして,上記日時に調査委員会(場所:被告大学本部棟2階応接室)に出席するよう求めた。

原告は,同年9月1日午後4時20分ころ,弁護士同行の上,上記応接室に出頭し,調査委員会に対し,弁護士の同席を求めたが,調査委員会から,弁護士の同席を拒否されたため,やむなく弁護士の同席のないまま,調査委員会に出席し,同委員会の委員から,c社の業務に従事した状況等について,事情聴取を受けた(証拠<省略>)。

オ 被告教育研究評議会による弁明手続

(ア) 被告教育研究評議会(以下「教育研究評議会」という。)は,原告に対し,平成21年9月7日ころ,「原告には,本件就業規則第46条に規定する懲戒の事由が存在すると思料する。ついては,本件懲戒規程第6条第3項の規定に基づき,教育研究評議会において原告の弁明機会を設けるので,同月10日午前11時に被告大学に出席されるよう通知する(内容:原告の兼業従事許可違反及び職務命令違反に対する懲戒の要否等)。なお,上記に出席しない場合,又は,上記開始時刻までに文書による弁明がない場合には,弁明を放棄したものと見なす。」旨の通知書を交付した。上記通知書には,「原告の兼業従事許可等に関する事実について」と題する書面が付されていた(甲94。上記書面と上記通知書を併せて,以下「甲94の書面」という。)。

(イ) 甲94の書面のうち上記「原告の兼業従事許可等に関する事実について」と題する書面には,「兼業従事許可等の申請及び許可」の概要のほか,要旨次のとおりの記載があった。

(兼業従事等の状況)

原告は,c社業務により兼業許可期間中(平成15年~平成20年)の5年余において,被告大学の勤務を要する日の115日について中国渡航し,208日について国内出張した。それ以外に,103日について,c社の株主総会や取締役会に出席するなどしたところ,うち勤務時間内に行われていたことが確認できるものが60日である。このように原告は,被告大学の勤務時間内にc社業務に従事していたにもかかわらず,勤務時間の振替手続を行っておらず,このことは,兼業従事許可に違反し,また当該日あるいは当該時間は,無断欠勤していたといわざるを得ない。

(職務命令違反について)

本件兼業規程により,「理事長は,必要に応じて,許可を与えた職員に兼業の実施状況の報告を求めることができる。」とされている。被告理事長は,原告に対して,兼業従事の実態を明らかにするための記録等の提出を再三にわたり求めた。これに対して,原告からは,要求している資料等は提出されなかった。原告が被告理事長からの再三の請求に対し記録等を提出しなかったことは,重大な職務命令違反である。

(ウ) 教育研究評議会は,平成21年9月10日,原告に対し,上記弁明手続を実施した。その際,原告は,上記評議会に対し,弁明書(証拠<省略>)を提出した。

カ 原告に対する平成21年9月15日付け停職処分

(ア) 調査委員会による上記調査(証拠<省略>は,調査委員会作成の調査報告書である。)及び教育研究評議会による上記弁明手続がなされた後,被告は,平成21年9月15日,原告に対し,「本件就業規則第46条第1号及び第7号により懲戒処分として停職6月(平成21年9月15日から平成22年3月14日まで)に処する。」との懲戒処分をした(以下「本件懲戒処分」という。証拠<省略>)。

(イ) 本件懲戒処分をするに当たって,被告が原告に対して示した処分の理由は,次のとおりである。

原告(○○学部 教授)は,平成15年10月17日から平成20年11月30日までの兼業従事許可(又は,営利企業等従事許可)期間において,本来兼業が認められていない法人の勤務を要する日又は勤務を要する時間内(「勤務を要する日」と「勤務を要する時間内」を併せて,以下「勤務時間内」という。)に,勤務日又は勤務時間の振替申請(「勤務日又は勤務時間の振替申請」を,以下「振替申請」という。)を行うことなくc社の業務に従事し,中国渡航や国内出張などを行ったことは,兼業従事許可に違反する。この結果,無断欠勤をした日は383日である(なお,この383日には,終日欠勤した日だけでなく,1日のうち部分的に欠勤した日も含まれる。)。

更に,これらの事実を解明するために本職が職務命令により再三にわたり兼業従事の実施状況の報告を求めたにもかかわらず,これに従わなかった。

このような行為は,本件就業規則第33条及び第35条に違反する。

(9) 被告による本件懲戒処分の公表

被告は,平成21年9月15日,本件懲戒処分をしたことについて,記者会見をし,「原告を無断欠勤などで停職6月の懲戒処分にした」などと公表し,翌16日,被告が原告に対して本件懲戒処分をしたことについて,新聞報道がなされた(証拠<省略>)。

(10) 仮に,本件懲戒処分がなされなかった場合,被告が原告に対して支払義務を負う賃金(賞与等を含む。上記賃金は,本件懲戒処分がなければ昇給していたという場合については,上記昇給があったとした場合の賃金である。)からこれまでに原告において支払を受けた賃金を控除した残額は,次のとおりであり,本件懲戒処分が無効である場合,被告は,上記処分後,現在までの未払賃金(又は債務不履行による損害賠償金)及びその遅延損害金として,原告に対し,前記第1の2の請求記載の金員の支払義務を負う(争いがない。)。

3  争点

(1)  本件懲戒処分は有効であるか

(被告の主張)

ア 本件懲戒処分は有効である。その理由は,次のイ及びウのとおりである。

イ 勤務時間内の兼業従事

(ア) 本件兼業規程第6条本文は,「兼業は,勤務時間外に行うものとする。」と定めている。

(イ) 兼業従事許可等の内容

a 原告は,c社を設立した平成15年10月ころ,長崎県知事に対し,事業従事時間につき「平日3時間程度,土曜日曜祝日は終日」「大学勤務時間外において事業に従事」とするとの営利企業等従事許可の申請をし,その内容で許可を受けた。

b 原告は,平成17年3月ころ,平成18年3月ころ,平成19年3月ころ,平成20年3月ころ,それぞれ被告理事長に対し,事業従事時間につき「平日3時間程度,土曜日曜祝日は終日」とするとの兼業従事許可の申請をし,その内容で許可を受けたところ,原告がその際に交付された各許可書には,「勤務時間の割り振り 要」「やむを得ず,勤務時間内に上記団体業務に従事する場合は,勤務時間の振り替え申請が必要である。」との記載があった(証拠<省略>)。

(ウ) 原告は,平成15年10月17日から平成20年11月30日までの兼業従事許可(又は,営利企業等従事許可)期間において,本来兼業が許されない被告大学の勤務時間内に,c社の業務に従事し(又は,振替申請を行うことなくc社の業務に従事し),中国渡航や国内出張などを行った。このように勤務時間内に兼業従事した日は383日(1日の全部ではなく,部分的に兼業に従事した日を含む。)である。

そして,原告は,勤務時間内の兼業は認められていなかったのであるから,振替申請を行わなかった場合,原告が勤務時間内に行った兼業は,そのすべての時間が無断欠勤に当たる。

ウ 職務命令に従わなかったこと

(ア)被告は,前記第2の2(8)のとおり,平成21年5月ないし6月ころ,本件兼業規程第11条に基づき,原告に対し,3回にわたって,書面(証拠<省略>)により,兼業従事の実施状況の報告として,本件資料の提出を求めた。

(イ) これは,根拠規定を示した上で,再三にわたって,本件資料の提出を求めたものであり,職務命令である。ところが,原告は,本件資料の提出を拒否し,上記職務命令に従わなかった。

エ 上記イ及びウの各事実は,前記第2の2(2)エの本件就業規則第33条及び第35条に違反する。したがって,原告には,本件就業規則第46条1号所定の「職務上の義務に違反し,又は職務を怠った場合」及び同条7号所定の「正当な理由なく無断欠勤した場合」の各懲戒事由がある。

(原告の主張)

ア 被告の主張アは争う。

イ 被告の主張イのうち,原告が提出した許可申請書及び原告が交付された許可書に被告主張に係る事実の記載があったこと,原告が振替申請を行うことなく勤務時間内にc社の業務に従事したことがあったことは認め,その余は否認し又は争う。

後記オのとおり,長崎県及び被告は,原告に対し,原告が勤務時間内にc社事業に従事することにつき黙認又は黙示の承認をしたものであり,原告が勤務時間内に上記従事をしたことは,本件就業規則第46条1号及び7号所定の各懲戒事由に当たらない。

ウ 被告の主張ウ(ア)は認める。同(イ)のうち,原告が被告の本件資料提出の求めに対し提出はできない旨回答したことは認め,その余は否認し又は争う。

被告が上記のとおり資料提出を求めたことは,職務命令に当たらない。原告が被告から交付された書面(証拠<省略>)は,資料提出の「お願い」文書であり,職務命令ではない。

エ 被告の主張エは争う。

オ 懲戒事由の不存在・権利の濫用

(ア) 本件懲戒処分は,本件就業規則所定の懲戒事由に該当する事実がないか,又は,仮に,該当する事実があったとしても,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当なものとして是認することができないから,権利の濫用として,無効である。その理由は,次の(イ)ないし(エ)のとおりである。

(イ) 黙認・黙示の承認

a 次のとおり「黙認・黙示の承認」がある本件において,被告が本件懲戒処分を行うことは信義則(禁反言の法理)に違反する(一般に,従来黙認してきた種類の行為に対し懲戒を行うには,事前の十分な警告を必要とすると解されている〔菅野和夫著・弘文堂「労働法(第九版)」433頁参照〕。)。

b 長崎県及び被告は,c社が設立された平成15年10月ころから,原告が勤務時間内にc社の業務(兼業)に従事していることを知りながら,c社の経営が破綻するに至った平成20年10月ころまでの約5年間にわたって,原告に対し,上記勤務時間内における兼業従事につき何らの注意・警告をしなかった。

したがって,長崎県及び被告は,平成15年10月ころから平成20年10月ころまでの時期に,原告に対し,原告の大学教員としての本来の職務に支障を生じさせない限度で,勤務時間内にc社業務に従事し兼業を行うことにつき黙認・黙示の承認をしたものである(なお,上記「黙認・黙示の承認」に関し,証拠<省略>の保全抗告に係る決定では,「被告においては,原告の本来の職務に支障を生じさせない限度で,原告が所定労働時間内にc社事業に係る業務に従事することを容認していたものと評価せざるを得ない。」旨判示されている。)。そして,原告がc社業務に従事(兼業)していた当時,講義,研究及び学内行政のいずれの面においても,上記兼業が被告大学における原告の本来の職務の遂行に支障を与えたことはなかった。

(ウ) 職務命令違反との懲戒事由に対し

仮に,被告の本件資料提出の求めが職務命令に当たるとしても,被告が懲戒事由と考えるもの(勤務時間内にc社の業務に従事したこと)は,そもそも懲戒事由たり得ず,明らかに不当なものであったから,上記職務命令は違法なものであり,原告にはそれに従うべき義務は存しない。したがって,上記職務命令に従わなかったことは,本件懲戒処分の理由とはなり得ない。

カ 平等原則違反

仮に,上記オが認められないとしても,本件懲戒処分は,次のとおり平等原則に違反し,無効である。

被告大学において,原告と同様,日々の勤務の振替表を提出せずに勤務時間の振り分けをしている教員は多かった。この事実関係の下において,被告大学の他の教員について問題とすることなく,原告に対してのみ,振替申請を行うことなく勤務時間内に兼業に従事したことを理由として懲戒処分を行うことは,平等原則に違反する。

キ 手続的瑕疵(弁明の機会が与えられなかったこと)

仮に,上記アないしカが認められないとしても,本件懲戒処分は,次のとおり重大な手続的瑕疵があり,無効である。

(ア) 本件懲戒規程は,懲戒処分を行うに当たり,被懲戒者に対し,処分の対象となる具体的な事実の存否,正当理由の存否等について弁明を行う機会を与えている(なお,本件懲戒規程第6条参照)。そうすると,被懲戒者が,上記弁明を行う前提として,いかなる事実が懲戒の対象とされようとしているのかを明示される必要があり,これがなされなければ,懲戒処分につき弁明の機会が与えられたとはいえない。

本件において,原告は,次の(イ)及び(ウ)のとおり,本件懲戒処分がなされるに先立ち,弁明の機会が与えられなかった。

(イ) 調査委員会による調査

調査委員会が行った前記第2の2(8)の調査は,原告に対し,弁明の機会を与えたものとはいえない。その理由は次のとおりである。

調査委員会が原告に対して交付した甲92の書面は,いかなる具体的事実を確認するかを全く明示しないものであった。

原告に上記書面が交付されて24時間以内に事情聴取が行われており,この時間内に資料を準備して回答することは不可能である。

原告は,上記事情聴取が行われるに先立ち,被告に対し,本件で問われている問題の時期に適用される就業規則や調査手続の根拠規定の開示を求めたが,開示はなされなかった。

原告は,平成21年9月1日,調査委員会による上記事情聴取に応じるに当たって,弁護士同行のうえ出頭し,調査委員会に対し,弁護士の同席を求めたのであるが,調査委員会から,弁護士の同席が拒否されたため,やむなく弁護士の同席のないまま事情聴取を受けた。

(ウ) 教育研究評議会による手続

教育研究評議会が行った前記第2の2(8)の弁明手続には,重大かつ明白な手続的瑕疵があり,上記手続をもって,原告に対し,弁明の機会を与えたものとはいえない。その理由は次のとおりである。

教育研究評議会は,原告に対し,弁明の機会を与えるに当たっては,本件就業規則第46条に規定されている懲戒事由のうち,具体的にどの条項の懲戒事由であるのか,そして,予定処分内容を告知する必要があった。ところが,甲94の書面には,具体的条項も予定される不利益処分も記載されていない。また,上記書面は記載内容が不明確である。

(被告の反論)

ア 原告の主張オ(懲戒事由の不存在・権利の濫用)に対し

(ア) 原告の主張オ(ア)は争う。

(イ)a 原告の主張オ(イ)(黙認・黙示の承認)のうち,同aは争い,同bは否認する(ただし,証拠<省略>の保全抗告の決定が上記b記載の判示をしていることは認める。)。

「黙認・黙示の承認」の事実はない。原告は,被告大学の勤務時間外での兼業従事を前提とした兼業従事等の許可申請を行ったものであり,長崎県及び被告は,その申請の範囲内で許可した。また,長崎県及び被告は,原告の兼業が許可の範囲内で行われていると,すなわち,原告は勤務時間外にのみc社の業務に従事(兼業従事)しており勤務時間内に兼業従事していることはないと認識していた。したがって,長崎県及び被告において,原告が勤務時間内にc社の業務(兼業)に従事することにつき黙認・黙示の承認をしたことは一切ない(なお,被告は,原告に対し,許可書を交付した際などに,職員を通じ,勤務時間内に兼業従事の必要性があるときは振替申請を行うよう指導した。)。

したがって,原告は,兼業従事許可違反行為を日常的・反復的に行ったものであり,被告による労働時間管理に不十分な点があったとしても,それによって,原告の兼業従事許可違反行為が正当化されることはない。なお,被告大学においては,平成22年3月までは時間労働制が採用されており,裁量労働制は導入していなかった。仮に,大学教授の本業が裁量労働制になじむものであり,被告大学における大学教員の勤務実態が裁量労働制であったとしても,それは,教育研究という大学教員の本来の業務を行うについてのものであり,兼業を行う場合に,その許可の範囲内でのみ従事すべきことは明らかである。

また,c社事業(兼業)に従事したことが,講義,研究及び学内行政の面で原告の大学教員としての本来の職務の遂行に支障を与えたことがなかったとの事実があったとしても,それによって,原告の兼業従事許可違反行為が正当化されることはない。

b 以上のとおり,原告主張に係る黙認・黙示の承認はなかったから,原告が勤務時間内にc社業務に従事したことは無断欠勤に当たり,労働契約上の重大な義務違反である。

また,上記黙認・黙示の承認はなかったから,原告が勤務時間内にc社業務に従事したとの事実があればそれは懲戒事由に該当するものであり,被告が,原告に対し,上記従事の事実が確認されれば懲戒を行うことを目的として,c社業務(兼業)に従事した実態を明らかにするため本件資料の提出を求めたことには,目的の正当性があり,資料提出を求める必要性も高かった。したがって,被告が原告に対して職務命令として本件資料の提出を求めたのに対し,原告がその提出を拒否し,職務命令に従わなかったことは,重大な懲戒事由に当たる。

したがって,本件懲戒処分(停職6月)が相当なものであることは明らかである(なお,仮に,本件懲戒処分における6か月の停職期間が長期に過ぎるとしても,被告においては,就業規則上1日以上6月以内の範囲での停職処分を科することができるところ,原告の懲戒事由が無断欠勤として停職処分が相当であることは明らかであるから,懲戒権の濫用とならない停職期間の範囲内では有効であり,上記範囲を超える停職期間の一部無効となるにすぎない。)。

イ 原告の主張カ(平等原則違反)に対し

原告の主張カ(ア)は否認し,同(イ)は争う。

被告大学の他の教員は,兼業従事により必要がある場合には勤務時間の振替申請を行っていたものであり,原告についてのみ,勤務時間内に兼業に従事した事実が確認されている。

ウ 原告の主張キ(手続的瑕疵)に対し

(ア) 原告の主張キ(ア)のうち,本件懲戒規程第6条の定めが前記第2の2(2)のとおりであることは認め,その余は争う。

(イ) 原告の主張キ(イ)のうち,手続的瑕疵があるとの点は争う。上記事情聴取の状況は,(証拠<省略>)(議事録)記載のとおりである。そもそも,この調査(事情聴取)は,懲戒対象となっている教員に対し,「弁明の機会」を与えるものではなく,事実確認の一環として事情を聴くとの趣旨である。

(ウ) 原告の主張キ(ウ)は争う。教育研究評議会が行った前記第2の2(8)の弁明手続は,原告に対し,十分に弁明の機会を与えたものであり,本件懲戒処分の手続には何ら瑕疵はない。

(2)  研究費の減額は,本件懲戒処分によるものであるか

(原告の主張)

ア 被告は,平成22年7月20日,原告の平成22年度の研究費を前年より22万6389円減額した。上記減額は,本件懲戒処分を理由とするものであり,本件懲戒処分がなければ,上記減額はなかった。

イ 原告は,上記減額のため,少なくとも5万5760円を立て替えて支払った(平成22年9月18日に5万3760円を,同月25日に2000円を立替払したものである。上記合計は5万5760円である。)。これは,本件懲戒処分により原告が被った損害である。

(被告の主張)

原告の上記各主張は,否認し又は争う。被告大学の研究費は,予算の制約の下,被告大学の裁量で決定される。原告に割り当てられた平成22年度の研究費は,大学として当該年度の予算を執行した結果によるものである。

(3)  本件懲戒処分をしたことにつき不法行為の成否,原告の損害

(原告の主張)

ア 被告は,故意又は過失により,原告に対し,無効な本件懲戒処分をし,これにより,原告は,教育研究をする権利,名誉等の権利を侵害された。

イ 原告の損害

(ア) 慰謝料 1000万円

原告は本件懲戒処分により上記権利を侵害されたところ,これにより原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は1000万円を下らない。

(イ) 弁護士費用 100万円

原告は,本件懲戒処分により,本件懲戒処分の付着しない労働契約上の権利を有することを確認する判決を得るため,また,上記(ア)の損害賠償請求をするため,本件訴訟の提起を余儀なくされ,弁護士費用として100万円の損害を被った。

(ウ) 上記(ア)及び(イ)の合計 1100万円

(被告の主張)

原告の上記主張は,否認し又は争う。

第3当裁判所の判断

1  前記第2の2の事実及び証拠(証拠・人証<省略>,原告本人,後掲のもの)並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

(1)  当事者及び関係規定

前記第2の2(1)及び(2)のとおり。

(2)  原告(当時,被告大学○○学部△△学科教授)は,平成15年10月17日,医薬品の研究・開発の受託業務等を目的として,c社(c株式会社。本店所在地は長崎市である。)を設立し,その代表取締役に就任した(証拠<省略>)。

(3)  原告に対する営利企業等従事許可

原告は,c社の設立前である平成15年9月29日ころ,長崎県知事に対し,要旨次の内容の営利企業等従事許可申請書を提出し,c社の代表取締役として同社の業務に従事することにつき許可の申請を行った。

事業の内容 医薬品の研究・開発の受託業務等

職務の内容 取締役会への出席,会社運営の指導,被告大学との共同研究に関する企画・調整

従事予定期間 平成15年10月17日から平成17年3月31日まで

従事時間 平日3時間程度,日祝日は終日

勤務の態様 常勤(大学勤務時間外において本事業に従事)

報酬 有り(平成15年度は50万円程度を予定)

原告は,平成15年10月3日ころ,長崎県知事から上記申請につき許可を受けた(証拠<省略>)。

(4)  c社は,産学官連携の事業として設立され,原告は,設立後,代表取締役としてその業務に従事していた。c社は,平成16年8月には,f振興財団から「大学等発ベンチャー創出事業」として1億円の出資及び補助金の助成を受け,産学官連携の会社として,事業の成功が期待された(証拠<省略>)。

(5)  被告の設立

被告は,平成17年4月1日,法人として設立され,前記のとおり,条例に基づき,原告との間の労働契約における原告の使用者たる地位を長崎県から承継した。

(6)  長崎市は,平成18年3月23日ころ,c社に対し,c社の本社等を長崎市に誘致するための書面を送付した(証拠<省略>)。

(7)  原告に対する兼業従事許可

原告は,平成18年4月ないし5月ころ,被告理事長に対し,要旨次の内容の兼業従事許可申請書(2通)を提出し,兼業従事の許可申請をした。

団体・従事する職名 c社の代表取締役

事業の内容 ゲノム創薬を支援する受託研究事業

従事する職の内容 産学官連携による事業体制の構築

従事予定期間

各申請書につきそれぞれ次のとおり

平成17年4月1日から平成18年3月31日まで

平成18年4月1日から平成19年3月31日まで

従事時間 平日3時間程度,土曜日曜祝日は終日

報酬 有(年間250万円)

従事することを必要とする理由

長崎県及び長崎県出身企業家らの支援を受けている被告大学発ベンチャー企業,c社の創業者として,目標とする「大学と連携しつつ長崎県内においてバイオ研究者の育成を行い,バイオ産業の創出と発展に寄与し得る企業を作るため,また,学生の就職先確保にも役立つ産学連携研究体制の構築」を実現するために,事業全体の枠組みを確立する事が必要である。

原告は,上記各申請書を提出したころ,被告理事長から,上記各申請に対して兼業従事許可する旨の各許可書(作成日付は,それぞれ平成17年4月1日付け,平成18年4月1日付けである。)を交付され,上記各申請につき許可を受けたが,上記各許可書には,いずれも「勤務時間の割り振り 要」「やむを得ず,勤務時間内に上記団体業務に従事する場合は,勤務時間の振り替え申請が必要である。」との記載があった。

原告は,その後,平成19年5月ころ,そして,平成20年6月ころ,被告理事長に対し,それぞれ上記と同様の兼業従事許可申請書により許可申請をし,被告理事長から,そのころ,上記各許可申請につき許可を受けた。これらの際に原告に対して交付された各許可書にも,上記と同様の振替申請に係る記載があった。(証拠<省略>)

(8)ア  c社は,設立後,産学官連携の有望な事業として多くの投資家の関心を引き,ベンチャーキャピタル13社からの出資を中心に県内外から多くの出資を得ることとなり,設立時の資本金1900万円から,平成19年5月30日までに7億3300万円に増資され,事業規模が拡大された。

しかし,c社は,設立後,赤字経営に終始して経営が悪化し(平成18年10月から平成19年9月までの決算期〔第4期〕において,経常損失は約2億1500万円であった。),平成20年10月,破産手続開始申立てをし,同月22日,破産手続開始決定を受けた(証拠<省略>)。

イ  原告がc社業務に従事(兼業)していた当時(平成15年10月ころから平成20年10月ころまでの間),講義,研究及び学内行政のいずれの面においても,上記兼業が原告の大学教員としての本来の職務の遂行に支障を与えたことはなかった。

(9)  本件懲戒処分に至る経緯及び被告による本件懲戒処分の公表(平成21年1月ないし9月)

前記第2の2(8)及び(9)のとおり。

(10)  被告は,従前,賃金台帳に労働日数,労働時間数等を記入しておらず(労働基準法108条違反),被告大学の教員につき労働時間を的確に把握していなかったことから,平成21年12月1日付けで,長崎労働基準監督署から是正勧告を受けた(証拠<省略>)。そのため,被告は,平成22年1月15日ころ,同監督署に対し,是正報告書を提出した(証拠<省略>)

被告は,平成22年3月3日,被告大学の職員過半数代表者に対し,①専任教員等を対象者とする専門業務型裁量労働制,②特任教員を対象とするフレックスタイム制をそれぞれ導入することを提案し,それぞれについて労使協定書が取り交わされ,同年4月1日から実施された(証拠<省略>)。

2  争点(1)(本件懲戒処分は有効であるか)について

(1)  前記第2の3(1)被告の主張について

前記1の事実及び弁論の全趣旨によれば,①被告大学の教員に適用される本件就業規則第33条は職務に専念する義務について定め,本件兼業規程第6条本文は兼業は勤務時間外に行うものとする旨定めていること,②原告(被告大学教授)は,平成15年10月17日,医薬品の研究・開発の受託業務等を目的として,c社を設立し,その代表取締役に就任し,以後,平成20年10月ころまでの間,c社の業務(兼業)に従事したこと,③原告は,平成15年9月ないし10月ころ,長崎県知事に対し,勤務時間外において事業に従事するということでc社の業務に従事することにつき営利企業等従事許可の申請を行い,長崎県知事から上記申請につき許可を受けたこと,④原告は,平成18年4月ないし5月ころ,被告理事長に対し,兼業従事許可申請をし,被告理事長から,上記申請につき許可を受けたが,その際,交付された許可書には,いずれも「勤務時間の割り振り 要」「やむを得ず,勤務時間内に上記団体業務に従事する場合は,勤務時間の振り替え申請が必要である。」との記載があったこと,⑤原告は,その後,平成19年5月ころ,そして,平成20年6月ころ,被告理事長に対し,それぞれ,兼業従事許可申請をし,被告理事長から,そのころ,上記各許可申請につき許可を受けたが,その際,交付された許可書には,上記④と同様の記載があったこと,⑥原告は,平成15年10月ころ以降,c社の業務に従事することがあったが,同月から平成20年10月までの間において,被告大学における勤務時間内にc社の業務(兼業)に従事した日(1日の全部ではなく,部分的に兼業に従事した日を含む。)が383日あったこと,⑦被告は,原告に対し,平成21年5月ないし6月ころ,いずれも「記録等の提出について」と題する書面(証拠<省略>)により,本件就業規則第4条,本件兼業規程第11条に基づき,本件資料を提出するよう求めたが,原告はこれを拒否したことが認められる(被告が原告に対して本件資料の提出を求めたことは,その経緯や書面の文言等に照らし,職務命令に当たると解するのが相当である。これに対し,原告は,職務命令に当たらない旨主張するが,上記主張は採用できない。)。

(2)  前記第2の3(1)原告の主張オ(イ)(黙認・黙示の承認)について

ア 被告は,本件懲戒処分は有効である旨主張するが(前記第2の3(1)被告の主張),上記主張は採用することができない。その理由は,次のとおりである。

イ 前記1の事実及び証拠(証拠・人証<省略>,原告本人)並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

(ア) 長崎県は,平成15年当時,長崎県知事の強い意向を受け,大学発ベンチャー創業に熱心に取り組んでおり(なお,「大学発ベンチャー」を推進する動きは,平成12年ないし平成13年ころ,始まったところ,その趣旨は,大学の研究活動等により得られた特許等を活用して産業を活性化させるなどというものであった。),県立大学である被告大学は,知事の意向を受け,長崎県の奨励金交付事業(大学等発ベンチャー創業支援事業)に応募する教員を学内で探していた。

原告は,このような状況で,E(当時,被告大学事務局長であった。以下「E事務局長」という。平成14年4月1日から平成17年3月31日まで被告大学事務局長の地位にあり,同年4月1日から平成20年3月31日まで被告専務理事兼被告事務局長兼b大学事務局長の地位にあった者である。)の強い勧めでc社を創業することとした(証拠<省略>)。

原告は,当初の資金集めについてはE事務局長との2人で当たることとし,平成15年9月,c社への出資を募るため,E事務局長とともに,神奈川県にあるd株式会社の本社を訪ね,同社のF会長に対し,会社設立資金の提供を要請し,同会長から資本金の提供を受けた(証拠<省略>)。

原告は,平成15年10月,c社を設立したところ,E事務局長は,c社の創業・立ち上げにつき原告に対し多大な協力をし,そのころ,原告に対し,長崎県のためc社事業を頑張ってほしい,被告大学も全面的に後押しをする旨述べ,原告を励ましていた。

c社は,産学官連携の事業として設立されたものであり,当時,被告大学は,大学発ベンチャーが長崎県知事の意向に沿うものでもあったことから,長崎県と共に,原告がc社の代表取締役としてc社事業を行い兼業に従事することについて,全面的に支援・後押しをしていた。

(イ) 原告は,平成15年9月ないし10月ころ,長崎県知事に対し,被告大学の勤務時間外において事業に従事するということでc社の業務に従事することにつき営利企業等従事許可の申請を行い,長崎県知事から上記申請につき許可を受けた。原告は,上記手続については被告大学に任せていた(証拠<省略>)。

長崎県知事の上記許可は,許可書の記載上,勤務時間外において原告がc社の業務に従事することを許可するというものであったが,c社事業という最先端の研究施設の用地買収,建物取得,人事管理,資金調達,その他取引先との交渉等の様々な企業立ち上げ時(起業時)の業務を行うに当たって,他の職業人(交渉・取引の相手方等)が休息の時間に入る「勤務時間外(なお,勤務時間については,始業時刻午前9時,終業時劾午後5時50分との定めがある。)」と「日祝日」にのみ代表取締役としての業務に従事するというのでは,c社の事業を実際に行うことができないのは明らかであった。このように上記許可書に記載された兼業時間帯においてc社事業を行うことは,現実には不可能であり,c社事業を実際に行うについては,原告において勤務時間内に上記事業の業務に従事することが避けられないことは,通常人であれば容易に理解できることであった。

E事務局長は,被告大学学長がその職責に基づき被告大学の教員の勤務時間管理を行うにつき,事務方のトップとして補佐すべき職責を有するものであるが,原告においてc社の事業を行うためには被告大学の勤務時間内に上記事業の業務に従事せざるを得ないことを認識しながら,原告がc社の業務に従事することの許可を受けるにつき,上記業務に従事する時間等につき具体的な話をすることなく,被告大学として原告のc社事業を全面的に支援する旨述べていた。

(ウ) 長崎県又は被告の関係者が同席の上で行われたc社に関する行事として,次のものがあった。

原告は,①平成16年1月22日,長崎県庁を訪問し,②同年7月20日に長崎県知事への状況報告をし(証拠<省略>),③E事務局長と何度か打合せの上,同月26日,f振興財団においてプレゼンテーションを行い(証拠<省略>),④同年8月5日,長崎県庁で開催された大学等発ベンチャー支援金交付式に出席し(これは新聞テレビで報道された。証拠<省略>),⑤同年9月14日,E事務局長同席の上,G市長との面談をし(証拠<省略>),⑥平成17年3月14日,E事務局長同席の上,在長崎中国総領事館にて総領事と面談をし(証拠<省略>),⑦同年4月28日,E事務局長同席の上,在長崎中国総領事館にて総領事と面談をし(証拠<省略>),⑧同年6月15日,E事務局長同席の上,在長崎中国総領事館にて領事と面談をし(証拠<省略>),⑨同年9月6日から同月9日までの間,中国・浙江省政府表敬訪問をし,上海におけるc社の中国研究所(e有限公司。c社が設立した中国現地法人である。)の起工式に出席し(上記表敬訪問及び起工式には,長崎県知事代理等のほか,被告大学から,理事長〔H〕,I副学長,E事務局長が出席した。証拠<省略>),⑩平成18年4月18日,中国嘉善県日本経済視察団を案内して,長崎県知事表敬と長崎市長表敬に同行し(これは,新聞テレビで報道された。証拠<省略>),⑪平成19年3月26日,長崎県知事への状況報告をした(証拠<省略>)。これらは,いずれも原告が勤務時間内にc社の業務に従事したものである。

長崎県及び被告は,当時(長崎県については平成17年3月31日まで,被告については同年4月1日以降の時期である。),原告が被告大学の勤務時間内に上記行事に参加・出席等してc社の業務に従事しているとの認識を有していた。

(エ) 原告は,c社の事業を行っていた当時,多数回にわたって,振替申請を行うことなく勤務時間内にc社業務に従事していたのであるが,長崎県又は被告(被告大学の事務局長,総務グループリーダー等を含む。)が,原告に対し,勤務時間内にc社の業務に従事していることにつき,非違行為であるなどとして注意・警告をしたことは,全くなかった(原告本人14頁。なお,証人J〔平成23年5月18日の本件口頭弁論期日の尋問調書28~32頁〕は,平成20年12月ないし平成21年1月に振替手続をしていなかったことの問題点を指摘するなどの話をするまで,J〔以下「J」という。〕において,上記の注意・警告をしたことはなかった旨証言している。)。

E事務局長は,原告がc社の事業を行っていた当時,被告大学教員から,数回,原告が勤務時間内に学外に出ていることにつき問題行動であると指摘する話を聞いたが,調査の必要があるとは全く考えず,何らの調査もしなかった(人証<省略>)。

(オ) 被告大学は,原告がc社事業を行っていた当時,大学教員の労働時間の適正な把握・管理をしておらず,規定上は時間労働制であるが,実態として,裁量労働制と同様の運用をしていた。それは,時間外の夜間や土曜・日曜に研究活動をしたり,学会・研究会等に出席したりするのは,研究業務に従事する大学教員としては日常的な行為であり,原告のような大学教員の研究業務は,業務の性質上大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要があるため,通常の労働時間の管理になじみにくく,裁量労働制になじむことによるものであった。このように,被告大学においては,大学教員の労働時間につき,形式(規定)と異なる運用実態があった。

(カ) 原告は,c社の事業を行っていた当時,上記(ア)ないし(オ)のとおりの長崎県及び被告の行為(作為及び不作為。E事務局長の職責に属する事項につき同事務局長の行為を含む。)から,長崎県及び被告が,原告に対し,交付を受けていた許可書の記載と異なり,原告の大学教員としての本来の職務に支障を生じさせない限度で,勤務時間内にc社の業務に従事することにつき承認しているものと認識していた。

ウ 黙示の承認の存在

(ア) 上記イの事実によれば,①長崎県及び被告は,c社が設立された平成15年10月ころから,c社の経営が破綻するに至った平成20年10月ころまでの約5年間にわたって,原告が勤務時間内にc社の業務(兼業)に従事していることを知りながら,原告に対し,上記勤務時間内における兼業従事につき何らの注意・警告をしなかったこと,②長崎県及び被告は,平成15年10月ころから平成20年10月ころまでの間,原告に対し,原告の大学教員としての本来の職務に支障を生じさせない限度で,原告が被告大学の勤務時間内にc社業務(兼業)に従事することにつき継続的に黙示の承認(以下「本件黙示の承認」という。)をしていたことが認められる。

(イ) これに対し,被告は,本件黙示の承認がなかったことの根拠として,①被告大学事務局総務課長は,平成18年4月21日ころ及び平成19年4月26日ころ,それぞれ被告大学の各教員(原告を含む。)に対し,「兼業申請及び勤務時間の割り振り承認申請について(お願い)」と題する書面を送付し,報酬を得て勤務時間内に大学業務以外の業務を行う場合には,「勤務時間の割り振り承認申請書」を提出願う旨の事務連絡をした(証拠<省略>),②被告大学の総務グループリーダーは,平成19年4月,原告に対し,兼業従事許可書(証拠<省略>。「勤務時間内にc社の業務に従事するには,勤務時間の振替申請が必要である。」との記載があるもの)を交付した際,勤務時間内にc社業務に従事する際には,事前に振替申請手続を行うよう口頭でも指導した(証拠<省略>),③J(もと長崎県職員であるが,平成20年4月1日付けで,長崎県から,被告に派遣され,同日以降,被告において,被告大学事務局総務グループリーダーの地位にある者である。証拠<省略>)は,平成20年4月1日ころ,上記同様の記載のある許可書を交付した際,口頭でも,上記記載と同様の話をし指導したとの各事実を主張する。

しかしながら,上記イの事実によれば,上記①ないし③の各書面の交付等の際,原告が,従前,営利企業等従事許可書や兼業従事許可書(証拠<省略>)の形式的な記載に反し,勤務時間内にc社の業務に従事していたことにつき,原告に対し,注意や警告がなされたことはなかったことが認められるから,被告が主張する上記①ないし③の各事実は,上記(ア)の判断を左右しない。

(ウ) したがって,原告が,平成15年10月から平成20年10月までの間において,被告大学における勤務時間内にc社の業務(兼業)に従事したことがあったとの前記事実を理由として,原告に対して懲戒を行うことが許されないことは明らかである(なお,前記1の事実によれば,原告がc社業務に従事〔兼業〕していた当時,上記兼業が原告の大学教員としての本来の職務の遂行に支障を与えたことはなかったことが認められる。)。

(エ) 次に,原告が,平成21年5月ないし6月ころ,被告から,職務命令として,本件資料提出の求めを受けたが,その提出を拒否したとの前記事実については,本件資料提出を求める職務命令に違反したものということはできる。しかしながら,前記1の事実及び弁論の全趣旨によれば,被告は,「原告が,c社事業を行っていた当時,勤務時間内にc社業務に従事していた」との事実が確認されれば懲戒を行うことを目的として,原告に対し,本件資料の提出を求めたことが認められるところ,前判示のとおり,長崎県及び被告は,原告に対し,本件黙示の承認をしていたのであるから,原告が,当時,勤務時間内にc社業務に従事していたとの事実を理由として原告に対して懲戒を行うことができないことは明らかであり,上記職務命令に正当な目的があったとはいえない。そして,前記1の事実及び弁論の全趣旨によれば,原告が,本件資料提出の求めに対しこれを拒否したのは,本件黙示の承認があったから「原告が勤務時間内にc社業務に従事した」との事実を理由に懲戒を行うことはできないにもかかわらず,被告から本件資料に基づき上記事実を理由として懲戒を受けるおそれが高いと判断し,その懲戒処分を回避するためであったことが認められる。

したがって,本件資料の提出の求めに対してこれを拒否したとの上記事実を理由として,原告に対し,停職処分を行うことは,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当なものとして是認することができないというべきである。

エ 以上によれば,本件懲戒処分は,その余の点(前記第2の3(1)原告の主張カ〔平等原則違反〕及び同キ〔手続的瑕疵〕)について判断するまでもなく,権利の濫用として,無効である(全部無効であり,その一部が有効であると解する余地はない。)。

したがって,原告の前記第1の1の請求(本件懲戒処分の付着しない労働契約上の権利を有することの確認を求める請求)及び前記第1の2の請求(未払賃金又は債務不履行による損害賠償金及びその遅延損害金の支払を求める請求)は,理由がある(なお,前記第1の2の請求につき前記第2の2(10))。

3  争点(2)(研究費の減額は,本件懲戒処分によるものであるか)について

原告は,被告が平成22年7月20日に原告の研究費を前年より減額したことにつき,上記減額は本件懲戒処分によるものである旨主張する。しかしながら,上記減額が本件懲戒処分によるものであるとの事実は,これを認めるに足りる証拠がない。したがって,原告の前記第1の3の請求(研究費減額に係る請求)は,理由がない。

4  争点(3)(本件懲戒処分をしたことにつき不法行為の成否,原告の損害)について

(1)  前記1,2の各事実及び弁論の全趣旨によれば,被告は,故意又は過失により,原告に対し,無効な本件懲戒処分をし,これにより,原告の教育研究をする権利,名誉等の権利が侵害されたことが認められ,被告が本件懲戒処分をしたことは不法行為を構成するというべきである。

(2)  原告の損害

ア 慰謝料 200万円

本件懲戒処分により侵害された原告の教育研究をする権利,名誉等その他諸般の事情に鑑みれば,本件懲戒処分により原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は200万円と認めるのが相当である。

イ 弁護士費用 80万円

前判示の事実によれば,原告は,被告が本件懲戒処分をしたことにより,本件懲戒処分の付着しない労働契約上の権利を有することを確認する判決を得るため,また,上記損害賠償請求をするため,本件訴訟を提起することを余儀なくされ,弁護士費用の損害を被ったことが認められる(なお,不法行為の被害者は,加害者の不法行為によって被った損害につき損害賠償請求権の履行を受けられないために訴訟提起を余儀なくされた場合のみならず,不法行為によって生じている違法状態の除去〔原状回復〕を求めるために訴訟提起を余儀なくされた場合についても,それにより生じた弁護士費用につき損害賠償を請求することができると解するのが相当である〔最高裁昭和41年(オ)第280号同44年2月27日第一小法廷判決・民集23巻2号441頁等参照〕。)。そして,本件事案の内容,本件訴訟の経過及び認容額(認容内容)等に鑑みれば,被告の上記不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は,80万円と認めるのが相当である。

ウ 上記ア及びイの合計 280万円

(3)  以上によれば,不法行為に基づき,損害賠償金及び遅延損害金の支払を求める原告の請求(前記第1の4)は,被告に対し,損害賠償金280万円(前記(2)ウ)及びこれに対する不法行為の後である平成21年10月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。

(裁判官 井田宏)

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