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長崎地方裁判所 昭和23年(行)15号 判決 1948年12月28日

原告

坂本勘七

被告

湯江村農地委員會

被告

長崎縣農地委員會

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負擔とする。

請求の趣旨

被告村農地委員會が別紙目録記載の農地につき、昭和二十二年十二月十六日した買收計畫決定を取消す、被告縣農地委員會が同二十三年一月三十一日右決定に對する原告の訴願を却下した裁決を取消す、訴訟費用は、被告等の連帶負擔とする。

事実

原告は、請求原因として、本件農地は、原告方祖先傳來の所有地であつて、原告は、昭和十七年中一亘他に賣り渡したけれども、同二十年一月地方長官の許可を受けて買い戻し、翌二月二十七日所有權取得登記を完了したものであり、その後直に前所有者の小作人等に對し登記完了の旨を告げて右農地の返還を求めたところ、小作人等は即時快くこれを承諾したのであるが、當時同人等において既に作付を了した後であつたため、やむを得ず、同年度は同人等の耕作するままに放任した上同二十一年五月芋作から原告において自作し、これが收穫物を一家八名の生活資料として居るものである。

ところが、被告村農地委員會は、本件農地を昭和二十年十一月二十三日現在において不在地主の小作地であつたと認定し、同二十二年十二月十六日これが買收計畫決定をしたので、原告から同月二十四日附異議を申し立てたけれども、同月二十七日同委員會から却下の通逹を受けたので、更に同月三十日被告縣農地委員會に訴願をしたところ、同委員會は同二十三年一月三十一日これを却下する旨の裁決をし、その裁決書の謄本は、約一個月を經て原告に送逹された。

しかしなから、本件農地は、前述のとおり小作人等において返還の承諾をした際に、原告の自作地になつたものであり、その後小作人等が該農地から小作物を收穫したのは、同人等の不法占有の結果に外ならないから、被告等の行政處分は違法であつて、これが取消を免れないから、本訴に及んだ旨陳述し、被告等の本案前の抗辯を否認し、訴願に對する縣農地委員會の裁決後村農地委員會は遲滯なく農地買收計畫について縣農地委員會の承認を受け地方長官より買收令書を交付すべきものであつて、本訴は右令書の交付前に提起されたものであるから適法であると述べ立證として、證人金子淺太、前田〓藏、島田茂馬、西野謙治の訊問を求めた。

被告等訴訟代理人は、先ず本案前の抗辯として、被告村農地委員會が本件農地について、買收計畫決定をした昭和二十二年十二月十六日當時同委員會から原告に對してその旨の通知をしたばかりでなく、翌十七日から同月二十六日まで該計畫に關する書類を縦覽に供する旨適式の公告を行つたのであるから、原告は遲くとも同月二十六日には該買收の事實を覺知したものである。

從つて、同月二十七日から起算し、一個月を經過した後に提起された本訴は、不適法である。假に、原告において覺知しなかつたとしても右行政處分の日から二個月を經過して居るから、この點からも、本訴は不適法であると述べ、本案について、原告の請求棄却の判決を求め答辯として、原告の主張事實中、原告が本件買收計畫決定に對し異議を申し立てた日時は、判然しないけれども、原告の訴願に對する裁決が原告主張の日時にされ、主張の日時頃その謄本が原告に送逹されたことは爭わない。

しかしながら、原告が自作農創設の事由を以て、地方長官の許可を受け、本件農地の所有權を取得したこと、昭和二十年一月中本件農地の賃借人に對し解約の申入をし、賃借人の承諾を得て、これが返還を受けたこと及びその後右農地の耕作が不法占有によるものであることはいずれもこれを否認する。本件農地は、原告が昭和二十一年五、六月頃被告村委員會の承認を受けないで、半強制的に小作人から引き上げ耕作しているものであるから、該解約は無効であって、今尚小作地である。假に小作地でないとしても、本件農地中、別紙目録記載の(一)の畑は、自作農創設特別措置法附則及び同法施行令第四十五條により、その餘の二筆は、同法附則及び同法施行令第四十三條により買收したものであつて、本件買收處分には、何等の違法も存しない旨陳述し、立證として、證人本村重一、坂田マチヨ、西野謙治の訊問を求めた。

理由

先ず、被告等は、本案前の抗辯として、原告の本訴は、被告村農地委員會が本件農地について買收計畫決定をした昭和二十二年十二月十六日又は原告において右決定のされたことを覺知した同月二十六日から夫々起算し、法定の期間を經過した後に提起された不適法のものである旨主張するので、この點について按ずるのに、自作農創設特別措置法のように、農地委員會の農地買收計畫決定に對して異議の申立及び訴願をすることができることとされているものにあつては、行政事件訴訟特例法の施行前には、訴願をしないで直ちに出訴することができたと同時に、訴願をしてから出訴することもできたものと解するのが相當であり、しかも後の場合には、訴願手續のため相當の日子を必要とすること勿論であるから、若し原處分の日から出訴期間を起算しなければならないとすると、事宜によつては、處分を受けた者に出訴の機會を喪失させ、甚だしく酷に失することにもなるので、出訴期間は須らく右の者が訴願に對する裁決のあつたことを知つた日からこれを起算することを必要とするところ、原告が本件農地買收計畫決定に對して異議を申し立てたこと及び原告の訴願に對する裁決が原告主張の日時にされ、主張の日時頃その謄本が原告に送逹されたことは、當事者間に爭がないから、その後一個月内に提起されたことの記録に徴して明かな原告の本訴は、結局適法であつて、被告等の該抗辯は、これを採用することができない。

そこで、進んで本案について考察するのに、本件農地に對する被告村農地委員會の買收計畫決定が、昭和二十年十一月二十三日現在において、該農地が不在地主の小作地であつたことを理由として、されたものであることは、當事者間に爭のないところであるが、これより先同年二月頃原告及び小作人等間に該農地の合意解約が成立した旨の原告主張事實については、これを是認するに足る何等の證據もなく、却つて證人金子淺太、前田〓藏、島田茂馬、本村重一、坂田マチヨの各證言によると、該農地の内別紙目録記載の(一)及び(二)の畑については、原告がいずれも同二十一年五月頃合意解約により、その各小作人金子淺太、前田〓藏から夫々返還を受け、(三)の畑については、その小作人坂田良夫が應召出征し耕作ができなくなつたため、同人妻マチヨにおいて夫歸還まで一時親戚に當る訴外小池忠吉に耕作させて居たところ原告が同年二月頃忠吉からこれを引き上げたものであつて、昭和二十年十一月二十三日現在において本件農地がいずたも不在地主の小作地であつたことを確知するのに充分である。

果してそうだとすると被告村農地委員會の買收計畫決定及び被告縣農地委員會の裁決を違法として、これが取消を求める原告の本訴請求は所詮失當として、排斥を免れないから、訴訟費用の負擔について、民事訴訟法第八十九條を適用し、主文のとおり判決した次第である。

(目録省略)

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