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長崎地方裁判所 昭和23年(行)62号・昭24年(行)37号 判決

原告 林田朝幸

被告 長崎県農業委員会・口之津町農業委員会

一、主  文

原告の請求は、いずれもこれを棄却する。

訴訟費用は、両事件とも原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、昭和二三年(行)第六二号及び同二四年(行)第三七号両事件について、被告口之津町農業委員会(以下町委員会と略称する)が、別紙目録第一記載の農地について昭和二十三年九月三日なした買収計画、及び被告長崎県農業委員会(以下県委員会と略称する)が、同年十二月九日なした原告の訴願却下の裁決は、いずれもこれを取消す、被告町委員会が、昭和二十四年五月十三日別紙目録第二記載の農地についてなした買収計画、及び被告県委員会が同年八月九日なした訴願却下の裁決は、いずれもこれを取消す、訴訟費用は、両事件共被告等の負担とするとの判決を求め、その請求原因として、次のように陳述した。

別紙目録第一記載の農地六筆合計面積五反二畝三歩及び同第二記載の農地二筆面積合計一反八畝十四歩は、元訴外合資会社江崎本店(本店所在地島原市、代表者江崎好太郎)の所有であつたところ、昭和十九年十月十日原告において贈与を受け、昭和二十一年七月二十四日自作農創設維持事業地として長崎県知事の許可を受け、同年八月二十一日原告名義に同年七月二十一日附売買を原因とする所有権移転登記を経由したので、原告の所有地となつた。原告は訴外成末一人の七男であるが、昭和二十一年八月二十一日林田アイと養子縁組屈出をして同人の世帯員となり、同じく右訴外人合資会社江崎本店から贈与を受けていた口之津町字小利下丙七五番田一反二畝十二歩以下八筆の田地を保有超過小作地として買収を受けたので、本件第一、第二記載の農地を保有地としてこれが農業経営にあたる意図の下に、長崎県知事に対し右第一記載の農地について小作地引上の許可申請の手続中で、町委員会においても当初原告の保有小作地として認めていたのであるが、従前の小作人訴外園田三吉等から被告県委員会に対し買収指示方を申請したため、前記第一記載の農地について昭和二十三年七月二十八日附同年農委第一〇二三号の自創法第六条の三による指示書が発せられ、これに基ずいて被告町委員会は昭和二十三年九月三日右農地の買収計画決定をするに至つた。そこで原告は異議申立をなし、次で同年九月三十日被告県委員会に訴願に及んだところ、同被告は同年十二月九日右訴願却下の裁決をしたので、同年(行)第六二号事件として行政訴訟を提起しその訴訟係属中、更に昭和二十四年五月十三日には前記第二記載の農地についても被告県委員会からの指示に基ずいて被告町委員会は買収計画を樹立し、次で同年八月九日前同様被告県委員会は原告の訴願却下の裁決をし、同年九月一日該裁決書の送達を受けた。然しながら、被告等の右買収計画竝びに訴願却下の裁決には次のような違法があるから、無効又は取消さるべきものである。即ち

(一)  被告町委員会は、被告県委員会の自創法第六条の三の規定による指示があるものとして本件農地の買収計画を樹立したのであるが、右指示は県委員会の本会議を経ずして特別委員会に於て決定した事項をそのまゝ県委員会の指示として町委員会に対し要請したにすぎないので、右指示は違法無効といわねばならないのみならず、別紙目録第二記載の農地については昭和二十三年十一月十一日小作人から町農業委員会に対し遡及買収の申請をし、被告町委員会は同月十三日の第三十三回委員会において右申請は自創法第六条の二第二項第四号にあたると認め不買収の決定をしたのに対し、小作人等は被告県委員会に対し昭和二十四年二月十五日自創法第六条の三による買収指示方の申請をしたのであるから、右買収指示の申請は所定の三箇月の期間経過後の申請であるとして却下すべきであるに拘らず、被告県委員会は違法な指示をするに至つたのである。斯様な違法無効な指示であるに拘らず、これを適法有効なものと誤認し、錯誤に基ずいて被告町委員会は本件買収計画を樹立するに至つたのであるから、斯様な錯誤による買収計画は民法第九十五条の準用によつて無効であるといわねばならない。更に被告県委員会の訴願却下の裁決は、昭和二十四年八月九日為されたこととなつているが、同日には委員会の開催なく、原告の訴願に対する特別委員会は同月十日開催されているにすぎないから、被告県委員会のなした却下の裁決も亦無効である。

(二)  被告町委員会の本件買収計画は、昭和二十年十一月二十三日現在島原市所在の訴外合資会社江崎本店の所有農地で所謂不在地主の小作地にあたるものとして決定されたのであるが、前述のように原告は昭和十九年十月十日贈与を受け、自作農創設維持事業地として長崎県知事の許可を受け原告名義に所有権移転登記も完了したのに拘らず、これを無視してなされた違法な決定でこれが取消を免れないばかりでなく、被告県委員会の訴願却下の裁決も違法として取消を免れない。

尚原告が訴外成末一人の世帯員であるとする点は否認する。従つて同訴外人の超過小作地として買収さるべきであるとする被告等の抗弁も亦失当たるを免れないと述べた。(立証省略)

被告等指定代理人は、主文と同旨の判決を求め、答弁として、別紙目録第一、及び第二記載の農地について、原告主張日時原告主張のような買収計画が樹立され、原告主張のような訴願却下の裁決がなされたこと、本件農地の買収計画は被告県委員会の指示に基ずいて樹立されたものであること、及び形式的には原告の自作農創設維持事業地としての長崎県知事の許可があり、原告主張日時原告名義に所有権移転登記手続がなされていることは総て認める。然しながら、本件農地に関し被告町委員会がなした買収計画竝びに被告県委員会の裁決には原告主張のような違法な点はない。

(一)  原告は、被告県委員会がなした買収指示は特別委員会のみの決議によつたもので、本会議に付議決定されていないのみならず、前記第二記載の農地に関する指示は自創法第六条の三所定の期間経過後の指示申請であつたのに拘らず、これを看過してなされた違法があり、斯様な違法無効な指示を適法有効と誤信して錯誤によつて買収計画を樹立したのであるから無効であると主張するのであるが、原告主張のような手続面の瑕疵があつたとしても、本件買収計画がそれによつて当然無効となるとする点はあたらない。何となれば前者の点については前記指示は被告町委員会の職権を発動せしめるための行為であつて、買収計画が無効か否かは職権の発動によつて定められたか否かの計画樹立に至るまでの経緯によつて決定さるべきものではなく、当該買収計画自体について無効を招来するような重大な瑕疵があるか否かによつて判断されねばならないからである。遡及買収の指示が適法か否かと、その指示に基ずいて定められた計画自体が適法であるか否かとは別個の問題で、適法な指示による計画と雖も計画自体に法定要件を欠く違法があり重大な瑕疵であれば無効といわねばならないのであつて、これと同様たとえ不適法な指示に基ずいて定められた計画と雖も、買収計画自体法定要件を具備し違法な点がなければ、勿論有効な買収計画といわねばならない。次に後者の自創法第六条の三所定の期間経過の点については、原告主張のような僅か数日を出でない期間の経過があつたことは事実であるが、元来右規定の所定期間そのものが訓示規定であるから、これに違反しているとしても直ちに指示そのものが無効を来すと言うような性質のものではない。

被告県委員会の訴願却下の裁決日時の点についても、当初原告主張の昭和二十四年八月十日開催予定となつていたのであるが、これを一日繰上げ同月九日の委員会に付議決定されたまでのことで、原告主張のような瑕疵あるものではない。

(二)  本件農地について、原告が訴外合資会社江崎本店から昭和十九年十月十日贈与を受けたものであるとする点、昭和二十年十一月二十三日当時原告が林田アイの養子として独立世帯を営んでいたとする点は否認する。本件農地は島原市所在の前記訴外合資会社の所有農地であつたもので、長年の間本件買収計画樹立当時まで、別紙目録第一記載の農地については訴外園田三吉外四名、同第二記載の農地については訴外成末常市の小作人によつて耕作されていた小作地で、自作農創設事業地と言ふのは単なる所有権移転登記を受けるための名目にすぎなかつたのであるから、昭和二十年十一月二十三日の基準時に遡り不在地主の小作地として遡及買収の対象となつたのであり、被告町委員会の買収計画自体には何等違法な点はない。

仮に、原告主張日時原告が右訴外合資会社から贈与を受けたものであるとしても、原告は訴外成末一人の七男として昭和十五年四月四日出生した幼年者で、昭和二十年十一月二十三日当時は前記訴外人成末一人と同居し同一世帯に属していたのであつて、長崎県における自創法第三条第一項第三号の自小作地の合計制限面積は二町三反歩で、右訴外人の右保有面積を超過する小作地として買収さるべきものであるから、被告町委員会の本件買収には何等違法な点はない。

従つて原告の本訴請求はいずれも失当として棄却を免れないと述べた。(立証省略)

三、理  由

別紙目録第一記載の農地六筆(合計面積五反二畝三歩)について、被告町委員会が昭和二十三年九月三日買収計画を樹立し、これに対する原告の訴願について被告県委員会が同年十二月九日訴願却下の裁決をしたこと、別紙目録第二記載の農地二筆(合計面積一反八畝十四歩)について、被告町委員会が昭和二十四年五月十三日買収計画を樹立し、これに対する原告の訴願について被告県委員会が同年八月九日附を以て訴願却下の裁決をしたことは、本件当時者間に争いがない。

そして、右被告町委員会の右買収計画は、いずれも、被告県委員会がなした自創法第六条の三の規定による買収指示に基ずいて樹立されたものであることは当時者間に争いのないところで、被告県委員会の右買収指示には本会議に付議せずして特別委員会のみの決議によつて直ちに被告県委員会の議を経たものとして指示された違法があるのみならず、別紙目録第二記載の農地に関しては、自創法第六条の三所定の期間を経過した後の指示申請であるのに拘らずこれを看過した違法があり、斯様な違法無効な指示に対しては被告町委員会は何等拘束されないのに拘らず、適法有効な指示があつたものと誤信して本件買収計画を樹立したのであるから、民法第九十五条の準用によつていずれも無効な買収計画であると主張するので、先ずこれらの点について考えてみるのに、今次農地改革の根幹をなす自創法の規定によれば、政府の買収すべき農地を規定すると共にこれらの農地買収処分は、先ず市町村農業委員会の買収計画によるべきこととし(同法第三条、第六条)、右買収計画樹立に関しては買収の対象となるべき農地の利害関係人の請求によるほか、右請求のない場合においても市町村農業委員会において買収すべきものと認めるものについて買収計画を定めることができる旨(同法第六条の二乃至同条の五)を規定しているので、府県農業委員会による買収指示なるものは、要するに耕作者の地位を安定し、その労働の成果を公正に享受させるため自作農を急速且広汎に創設すべき右市町村委員会の機能に鑑み、その使命達成に過誤のないようこれを助長指導するための制度にほかならないのである。従つて買収計画自体に違法な瑕疵があり、該瑕疵が重大且明白である場合は格別、右買収計画決定に至るまでの間の内部的手続面において多少の瑕疵があつたとしても、それがため当然買収計画自体の違法無効を招来するものとするのは到底これを採用することはできないばかりでなく、農地買収処分に関する第一次機関である市町村委員会に対する第二次機関たる県委員会の指示について、原告主張のような本会議に付議されなかつた瑕疵があつたとしてもそれは右上下級行政庁間の内部的指導についての過誤にすぎず、且つこの点に関する錯誤は、単なる動機の錯誤たるに止まり、これにより行政行為たる買収計画の無効を招来するものではないのであつて、買収計画自体に重大且明白な違法とすべき瑕疵がない限り、これを以て直ちに違法無効であるとすることはできないものといわねばならない。又自創法第六条の三所定の三箇月の期間についても、右期間の定めは農地買収の行政処分を急速且広汎に処理するため農地利害関係人の迅速なる請求を促す意味で設けられた訓示的規定で、同期間後の請求による場合でも県委員会において指示をなすに何等の制限なく、且市町村委員会において一旦買収計画を定めた以上、右計画自体に違法がない限り無効取消の理由とならないことは明かであるから、この点に関する原告の主張も亦到底採用できない。

更に、被告県委員会が前記第二記載の農地についてなした昭和二十四年八月九日附訴願却下の裁決については、鉛筆書の部分を除いて成立に争いのない乙第八号証の記載と本件口頭弁論の全趣旨によれば、当初同月十日開催予定とされていたのが、一日繰上げ同月九日開催された委員会に付議決定されたものであることを認定するに難くないところで、甲第十三号証の一乃至三によつても右認定を左右するに足らない。従つてこの点に関する原告の主張も亦採用できない。

次に原告は、本件農地は元島原市の訴外合資会社江崎本店の所有であつたが、原告において昭和十九年十月十日右訴外会社から贈与を受け、昭和二十一年七月には自作農創設維持事業地として長崎県知事の許可を受け且同年八月には原告名義にその旨の所有権移転登記を経由した農地であるのに、被告等は昭和二十年十一月二十三日現在右訴外合資会社の所有農地であるとして、本件遡及買収をなすに至つたもので所有者の認定を誤つた違法があると主張するのであるが、この点に関する甲第一乃至第六号証第八号証及び証人江崎好太郎・成末一人(第一・二回)の各証言は、後記証拠と対照して当裁判所の措信しないところで、却つて成立に争いのない乙第一乃至第三号証・第五乃至第七号証(第七号証は一・二)に証人成末長蔵・園田三吉・江島万吉・浜田徳松・園田長蔵・成末常市・林田アイの各証言を綜合して考えれば、本件農地はいずれも島原市にある訴外合資会社江崎本店所有に属し、目録第一記載の農地に関しては前記証人園田三吉・園田長蔵・浜田徳松・江島万吉・成末長蔵が、同第二記載の農地に関しては前記証人成末常吉が、それぞれ長年小作して来た農地で、右農地の小作料は右江崎本店の支配人をしていた訴外松田虎松等に納付してきていたところ、昭和二十二年二月頃農地に関する一筆調査が施行された際、これらの農地の所有者が原告に変更されたことを原告の実父成末一人から告げられて始めてこれを知つたこと、又原告は昭和十五年四月四日訴外成末一人の七男として、出生したもので、自作農創設維持事業の申請をした昭和二十一年七月当時は年齢僅かに満七才を出たばかりの幼年者にすぎず、同年八月二十一日林田アイと養子縁組届出をなしており、該日時が本件所有権移転登記を受理された日時と合致しておるが、林田アイと原告と同居するようになつたのは昭和二十三年の春頃からで、養子縁組の届出をしたのは昭和二十三年頃であつた旨林田アイにおいて供述している点等、諸般の事情を考慮すれば、本件農地の贈与がなされたのは昭和二十一年の第一次農地改革が叫ばれた以後のことであつて、昭和二十年十一月二十三日当時においては依然として前記訴外合資会社の所有農地であつたものと認定するのが相当である。

もしさうだとすれば、その他の争点については判断するまでもなく前記日時を基準として本件農地はいずれも自創法第三条第一項第一号に所謂不在地主の小作地に該当するものとして、被告町委員会において買収計画を定めたのはまことに適法有効な行政処分であつて、原告主張のような違法な瑕疵はなく又これと同一趣旨のもとに原告の訴願を却下した被告県委員会の裁決にも何等瑕疵のないものといわねばならないから、原告の取消を求める本訴請求も亦失当として棄却を免れない。

そこで訴訟費用の負担については、いずれも民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のように判決する。

(裁判官 林善助 厚地政信 吉江清景)

(目録省略)

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