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長崎地方裁判所 昭和24年(行)31号 判決

原告 小林伝作 ほか一名

被告 長崎県農地委員会

一、主  文

被告が別紙第一表示の物件に対する原告等の訴願につき昭和二十四年五月十二日附でした裁決を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告等訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求の原因として、別紙第一表示の物件中イロハは原告等の共有、二は原告小林伝作の所有であるが、訴外茂木町農地委員会(以下町委員会と略称する)は昭和二十三年十一月十日、訴外川本銀蔵の申請に基いて右各物件につき自作農地創設特別措置法(以下法と略称する。)第十五条による買収計画を定め、之に対する原告等の異議を同年十二月三日附決定で棄却した。よつて原告等は之を不服として同月六日被告に訴願を提起したが、被告は昭和二十四年五月十二日訴願棄却の裁決をしたので、原告等は更に同年六月十六日被告に再審議願を提出したところ、被告は同年七月二十一日の特別委員会で、再審議を要しない旨決定し、右決定は同年八月一日附で町委員会から原告等に通知された。然し右買収計画は以下に述べる五つの理由で違法である。即ち(一)買収申請者川本銀蔵はもと仕立職を本業として居たが、今次戦争中営業不振のため己むを得ず農業に転業したもので、現在でも主食の供出をせず、却つてその配給をうけて生活して居り、到底自作農としで農業に精進する見込はないのであるから、同人の買収申請はすでに此の点で不相当というべきである。(二)しかも同人の耕作面積は本件再審議願提出当時においてすら畑一反九畝十四歩、開墾地二反余りに過ぎず、同人の町委員会に対する、開墾地五反を耕作して居る旨の申告は偽りである。従つて同人の耕作面積は茂木町における附帯買収申請有資格者の最低耕作面積四反四畝に達しないから、同人は買収申請の資格を有しない。(三)本件物件は人家約百五十戸の密集する市街地の中央に所在し、その位置、環境に照らして買収を不適当とする上、川本銀蔵の農業経営とは何の関係もない。(四)原告等は本件物件中イロ及びニを曽つて川本銀蔵に賃貸したことはないから、同人はその賃借権を有しない。(五)ハの物件は昭和二十四年八月四日に原告等が所有権の保存登記手続をしたもので、本件買収の当時は未登記であり、従つて公簿上は何人の所有でもないから、之を原告等の所有であるとして買収計画をたてることはできない。斯様な理由で違法であるにも拘わらず、被告はその違法を看過して本件裁決に及んだのであるから、原告等は本訴においてその取消を求める次第であると陳述し、被告の主張に対して、本訴の出訴期間は再審議願に対する決定が原告等に通知された昭和二十四年八月一日から起算すべきであるから、被告の本案前の主張は理由がない。又本件計画決定当時の川本銀蔵の耕作地の内別が別紙第二表示のとおりであること、及びその内畑合計一反九畝十四歩は同人が法第十六条による売渡をうけたものであることは認めると考えた。(立証省略)

被告指定代理人は答弁として、原告主張の請求原因事実の中別紙第一表示の物件が夫々原告等の共有又は所有であり、町委員会が昭和二十三年十一月十日川本銀蔵の申請に基き、法第十五条を適用して之に対する買収計画を定め、原告等の申立に係る異議を棄却したので、原告等は之を不服として被告に訴願を提起したが、原告は昭和二十四年五月十二日訴願棄却の裁決をし、原告等の再審議願に対しては再審議をしない旨の決定をしたことはすべて認める。しかし被告のした右裁決が原告等に送達されたのは昭和二十四年六月十日であつて、本訴はその日から一箇月の出訴期間を経過して提起されて居るから不適法である。又本訴を適法と仮定しても、原告等の主張する本件買収計画の違法理由はすべて根拠がない。即ちその(一)については、川本銀蔵が以前仕立業をして居て後に農業に転業し、現在に至つて居ることは争わないが、同人は十分自作農として農業に精進する見込のある者である。(二)については同人は現在四反三畝十四歩の農地及び開墾地を耕作して居り、その内別は別紙第二表示のとおりであつて、此の内畑合計一反九畝十四歩は法第十六条による売渡をうけたものである。なお附帯買収の申請が相当かどうかを判断する上において、申請者の耕作面積は当然之を考慮すべきではあるが、原告の主張する様な申請資格の有無を決定するための耕作面積というものは存在しない。(三)については、市街地であるというてとは否認する。本件物件の所在する南川部落は農漁業者の集団部落で、その環境等に徴しても買収不相当とは到底考えられない。(四)については、イロ及びニは孰れも川本銀蔵が数十年前から之を賃借して居る。(五)についてはその事実は原告等主張のとおりであるが、之が買収できないとするのは原告等の謬見である。斯様な次第であつて、本件買収計画及び本件裁決に違法の点は少しもなく、原告等の本訴請求は理由がないから、被告は請求棄却の判決を求めるものであると陳述した。(立証省略)

三、理  由

別紙第一表示の物件中、イロハは原告等の共有、ニは原告小林伝作の所有であるが、町委員会が川本銀蔵の申請により、昭和二十三年十一月十日、法第十五条を適用して、之に対する買収計画を定めたので、原告等が同委員会に異議を申立てたが決定で棄却され、次いで被告に訴願を提起したところ、被告は昭和二十四年五月十二日訴願棄却の裁決をしたので、原告等は之を不服として同年六月十六日被告に再審議願を提出したが、被告は同年七月二十一日再審議をしない旨の決定をしたことは、いずれも当事者間に争のないところである。

よつて先ず本訴の適否を検討するのに、法第四十七条の二所定の一箇月の出訴期間は不変期間と解されるのであるが、本件において被告の裁決書が昭和二十四年六月十日町委員会の職員によつて原告等に交付送達されたことは、証人野口力雄の証言によつて之を認めるに十分であり、又本訴の提起がその日から一箇月を経過した同年八月八日であることは記録上明らかであるから、原告等が右期間を遵守しなかつたものであることは疑がない。然し右不遵守の事由を考えるのに、成立に争のない乙第一号証の一二、及び証人小林伝蔵(第一、二回)の証言を綜合すれば、原告等は本件裁決書の交付をうけた当時、その裁決に不服であつたが、素朴な一介の農民の身として不服申立の方法が分らないで、原告小林伝作の子である訴外小林伝蔵を長崎市の被告事務所に出頭させて係職員に尋ねさせたところ、同職員は再審議願を出すべきであるとのみ教示して、一定期間内に行政訴訟の提起ができることを教えなかつたので、原告等は不服申立の方法は再審議願に尽きるものと考え、直ちに町委員会を経て之を被告に提出した。然るに原告等の予期に反して、同年八月二、三日頃、再審議をしない旨の決定の通知があつたので、原告等は再び知人等について調査した結果、はじめて行政訴訟の提起ができることを知つて、急遽本訴を提起した事実を窺い知ることができる。右事実に反する証人野口力雄の証言は信用せず、他に之を左右するに足る立証はない。斯様な期間不遵守の事由は、到底原告等の過失に基ずくものとは認められず、従つてその責に帰することができないものであるばかりでなく、原告等が本訴を提起した日は、右の事由が止んだと認められる、本件再審議願に対する決定の通知のあつた同年八月二、三日頃から一週間以内であるから、原告等は法定期間内にその懈怠した訴訟行為を追完したものと解するのが相当であつて、結局本訴は之を適法の訴と謂うことができる。

そこで次に本案に入り、原告主張の本件買収計画違法の理由を順次検討する。

(一)  川本銀蔵が以前仕立職をして居り、後に農業に転じて現在に至つているものは当事者間に争がなく、証人川口熊一、川本銀蔵、小林伝蔵(第一回)、梅木専一郎、田中重平の各証言を綜合すると、同人は弱年の頃約六年間長崎市で仕立職の見習をしたが、後造船所の工員となり、まもなく応召入隊して昭和二十年帰還し、その父訴外川本留五郎のあとをついで農業を営む様になつたもので、現在でも近隣の者の依頼をうけて仕立物をすることがあり、又同人及びその家族はその農業収獲物だけでは不十分なので、主食の配給をうけて生活していることを認めることができる。然し以上の事実によつて同人が自作農として農業に精進する見込がないと断定することは、証人川本銀蔵の証言によつて認められる、同人が農業協同組合監事の職にあり、昭和二十三年三月頃、政府買収未墾地の売渡をうけて現在之を開墾中であることに徴しても明らかに早計であり、他に左様に断定すべき事実を認めるに足る立証もないが、たゞ同人の農業経営の経歴が極めて浅く、その規模も決して大きくないことは、右認定事実から容易に判断できるところである。

(二)  川本銀蔵が現在別紙第二表示の畑一反九畝十四歩及び開墾地二反四畝を耕作して居ること、その内前者は同人が法第十六条による売渡をうけたものであることはいずれも当事者間に争がない。又証人田尻矩次郎、三浦義雄の各証言によると、被告は従来附帯買収の適否を判定するにあたつて、申請者の耕作面積と、買収物件所在町村の平均耕作面積とを比較し、前者が後者を超過する場合に、その申請者に申請資格があると認めて居たこと、並びに本件裁決当時の茂木町における平均耕作面積は約四反四畝であることを各々認めることができるのであり、右認定事実に反する証人野口力雄の証言は信用し難い。然し右申請資格というのは、あくまでも被告の定めた一応の基準であつて、之を原告主張の様に絶対的のものと解することはできないが、買収申請が相当かどうかを決定するについて、申請者の耕作面積を考慮すべきことは当然である。然るに本件においては、申請者川本銀蔵の耕作面積は、山林を開墾した二反四畝を加えれば四反三畝十九歩となつて、漸く茂木町における平均耕作面積に達するが、右開墾地は先に認定した様に同人が政府買収未墾地の売渡をうけて、本件買収計画決定の凡そ半歳前である昭和二十三年三月頃にその開墾に着手したものであり、又同人が売渡をうけた農地は僅か一反九畝十四歩に過ぎないのである。よつて斯様な点を考慮し、尚先に判断した同人の農業経歴の浅いことを参酌すれば、同人を目して附帯買収申請資格がないとは言えないにしても、少くともそれに近い程度の小規模な農業経営者と言えるのであるから、その附帯買収申請を相当と認めることは到底できないところである。

(三)  しかも検証の結果によると、本件物件は茂木町と長崎市を結ぶ茂木街道から分岐した道路を約百米進行した所にあり、右街道は幅員約六米でその両側は商店が立並び、本件物件所在地の周囲、及び之から右街道に到る間は概ね住宅地帯を形成し、商店も数軒含まれ、家屋が相当に密集して居ることを認めるに十分であつて、右の事実から判断すると、本件物件はその位置及び環境の点において到底農地買収に附帯して買収すべき物件ではないと言うことができる。

之を要するに本件買収計画及び之を支持した本件裁決は、自作農となるべき川本銀蔵の保護に急なあまりに、同人の農業経営の実態、対象物件の位置環境などに就いて十分の検討をしなかつた結果、上述の理由によつて本来不相当と認めるべき本件買収申請を、誤つて相当と判断した違法があるものであるから、右裁決の取消を求める本訴請求は、その他の原告主張事実に対する判断を俟つまでもなく、正当として之を認容することゝし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 林善助 厚地政信 吉江清景)

(目録省略)

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