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長崎地方裁判所 昭和25年(ワ)40号 判決

原告 松島炭鉱株式会社

被告 小田忠司

一、主  文

原告と被告との間には、雇傭契約の存在しないことを確認する。

被告は、原告所有の長崎県西彼杵郡大島町一、八一三番地浜町社宅二十一棟第三号木造瓦葺二階建住家一戸建坪六坪、二階六坪から退去せねばならない。

被告は原告の経営する大島町原告会社大島鉱業所の別紙記載の事業区域から退去し、右事業区域に立入つてはならない。但し、同事業区域内の公道、郵便局、警察署、町役場出張所等公共用建物、及び前記社宅(被告の実弟及び母が居住する間)に、正当の目的で出入するのを妨げない。

原告その余の請求は、これを棄却する。訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の負担とし、その二を被告の負担とする。

二、請求の趣旨

原告等訴訟代理人は、主文第一、三項と同趣旨の外同第二項掲記の家屋の明渡しと訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求めた。

三、事  実

原告訴訟代理人はその請求の原因として、原告会社は福岡市に本店を、西彼杵郡大島町に大島鉱業所と称する事業場を有し、鉱山業を目的とする資本金二百八十万円の株式会社で被告は、昭和二十三年十月一日坑外夫として原告会社に雇傭せられ、被告肩書記載の社宅に目下居住中の者である。そして被告等鉱員は、就業規則の定めるところに従い「職場の秩序を維持し、職務の如何によることなく一致協力して事業の円滑な発展を期し、その職責を遂行せねばならない」義務を有し(同規則第二条)、鉱員に関する賞罰に関しては、労働協約第三十条にもとづいた賞罰規定があつて、賞罰委員会に附議した後原告会社に於てこれを行うことに定められている。

然るところ被告は、昭和二十三年十二月一日「日本共産党佐世保地区委員会大島細胞」を結成して以来就業時間中と否とを問わず政治的運動に沒頭し、昭和二十四年五月以降は原告会社に無断で、或は数囘に及ぶ会社の勧告竝びに制止も無視して、(一)事業区域内に掲示板を設置し、殊更に事実を歪曲し原告会社を誹謗した内容の記事を掲示し又は斯る内容記載のビラを貼付したので会社から数囘その撤去方を要求されながらこれを聞き入れず、(二)事業区域内の板塀・コンクリート壁等に右と同趣旨の内容を記載したビラを数囘に亘つて貼付し、又は貼付せしめて会社の制止も聞き入れず、(三)右と同趣旨の内容を記載したビラを鉱員社宅各戸に配布し、或は進発所附近に於て入坑せんとする鉱員又は昇坑して帰宅せんとする鉱員にビラを貼布し、若しくは配布せしめた。斯様な被告の行為は、明かに「生産秩序」を紊し、「労働能率」を阻害する外(賞罰規定第一条)、所謂「甚だしき背信行為」というべきもので(同規定第十条三号)、殊に右板塀・コンクリート壁に貼付したビラの撤去・清掃については、会社は特別の人手並に費用を必要とし常に相当の損害を被つたのである。

次に原告会社の鉱員社宅は、只単に業務に従事する鉱員及び家族の宿舎として使用せしめているにすぎないのであつて、これを他の目的に使用することは厳重に禁止されておるにも拘らず、被告は昭和二十四年九月以来その居住する社宅を会社に無断で日本共産党大島細胞事務所とし、政治活動の本拠たらしめている。斯様な被告の行為も亦職場の秩序を紊す背信行為というべきである。

更に同年十二月中旬、原告会社と大島鉱業所労働組合との間に賃金交渉開始されるや、被告は当時経理課所属の経理特務の職責にありながら、経理内容を歪曲して宣伝し、右賃金交渉妥結後に於てもビラを撤布し虚構の事実を宣伝し、これがため人心を動搖せしめ、労働能率に悪影響を与えた。斯様な被告の行為については、原告会社は被告に対し数回戒告を与え、或はその反省を求めたのであるが、被告はこれをきき入れないばかりでなく却つて将来に於ても反覆強行することを放言して憚からないので、終に原告会社は、被告の行為は賞罰規定第十条第二号(機密漏洩行為)・同第三号(背信行為)・同第九号(無反省)・第十号(重要な法令規則違反・不都合行為)に該当し解雇すべきものとして、協約第三十条並びに賞罰規定に従つて昭和二十五年一月六日大島鉱業所賞罰委員会に委員会開催を要求し、同月八日開催された委員会に於て慎重審議の結果、全員一致を以て被告解雇を妥当とする旨の決議がなされた。

原告会社は、右賞罰委員会の決議に基き一月二十一日解雇の予告を為し、次で翌二十二日労働基準法第二十条の規定に従い、被告の平均賃金百九十三円九十三銭の三十日分金五千八百十八円から控除金五百八十一円を差引いた金五千二百三十七円、及び昭和二十五年一月分賃金控除金差引交付額金三千二百九十八円五十銭、合計金八千五百三十五円五十銭を被告に現実に弁済提供したが、被告が受領を拒んだので翌二十三日原告会社は右金額を通常為替として配達証明附で被告に郵送したところ、それも返還してきたので同年二月四日遂に右金額を長崎地方法務局に弁済供託したのである。

以上のような経緯から原告会社との間には現に雇傭関係は存在せず、従つて被告の居住する前記社宅は雇傭関係消滅後は被告はこれを明渡さねばならないのであつて、殊に大島鉱業所に於ては社宅が不足しているので速かに明渡すべき義務があるに拘らずこれを明渡さないばかりか、原告会社の現業区域内に立入つて政治活動をし、鉱員の作業能率に悪影響を与え且は人心を動搖せしめている外、本件解雇は憲法違反で無効であると放言し、その解雇の効力を争つているので本訴提起に及んだと述べ、被告の答弁に対し、本件社宅は被告の実弟昭弘に貸与されたもので、同居家族が被告主張のとおりであることは認めるが、その他の点は争うと附陳した。

(立証省略)

被告は原告の請求は棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、答弁として、

被告は原告主張日時原告会社(資本金の点を除いた原告会社の所在地等の点については争わない。資本金は一千万円である。)の事業場である大島鉱業所に坑外夫として雇傭せられて経理課に勤務し肩書掲記の原告会社社宅に居住中の者であつたところ、昭和二十五年一月二十一日解雇の予告を受けたこと、次で翌二十二日労働基準法第二十条による解雇手当(平均賃金三十日分五千八百十八円から控除金五百八十一円を差引いた残額五千二百三十七円)その他合計金八千五百三十五円五十銭の弁済提供を受け、その後原告会社が同年二月四日長崎地方法務局に弁済供託するに至る間の経緯、原告会社にはその主張のような就業規則並びに労働協約があつて、同協約第三十条に基いた賞罰規定が定められていること、被告が昭和二十三年十二月一日原告主張の大島細胞を結成し、所轄町長に対し其の後団体等規正令による責任者としての届出を為したことがあること、の諸点については認めるが、その他の点については争う。

先ず本件解雇は次に述べるような理由で、不当解雇である。

被告は賞罰規定第十条各号に該当するような行為をしていない。即ち掲示板を設置したことはあるが、それは原告会社の事業区域内に設置したのではなく公道に設置したのであり、又ビラ・貼り紙等についても、民主団体・商店・社会党等が行つているのと同様何等問題にされるべき筋合のものではないのであつて、これを賞罰規定第十条三号に所謂甚しく背信行為をなした者にあたるとするのは笑止千万である。次に社宅を日本共産党大島細胞事務所とし、政治活動の本拠たらしめて職場の秩序を紊す背信行為をしたと主張するのであるが、該社宅を政治活動の本拠とした事実はない。只先に述べたように団体等規正令によつて届出を必要とするので、同社宅を事務所として届出て国民の義務を果したまでのことで、これも何等背信行為にあたらない。社会党も亦大島町一八一三番地を昭和二十五年一月二十七日まで事務所として届出ていたことは、会社当局も知つている筈で、共産党のみが異る取扱いを受くべきものではない。昭和二十四年十二月中旬行われた賃金交渉に際してのビラ撒布行為も亦、何等原告主張のような機密漏洩行為にあたらない。

原告は、被告が政治活動をして生産秩序を紊し生産能率を阻害すると言うのであるが、政治活動の自由はポツダム宣言第十条・日本国憲法第二十一条・労働基準法第三条等によつて保障されているのであつて、労働者の政治的自覚と意識の向上こそ最も生産能率を増進し得る所以であり、このことは約三年に及ぶソ連抑留生活中に於ける炭坑労働者としての自己の体験によつて目撃してきた事実であるが、原告は前記法条を無視して、被告等共産党員を不当に弾圧せんとしているのである。現に被告は昭和二十三年十月一日勤務以来欠勤したこともなく、寧ろ残業・連勤・公休出勤とひたすら日本再建は労働者階級が指導権を握ることによつて達成し得ることを固く信じて勤務してきたのであつて、去る一月の如きは三日より六日まで一日十六時間の連勤をし又昨二十四年十月頃まで六人で遂行してきた自分の職場経理課分室の事務を五人で遂行してきたことは、就業規則第二条に違反する事実のなかつたことを何よりも証明しているのである。

次に賞罰委員会の構成並びに運営方法が不当であるから、斯様な委員会の決議による本件解雇には承服できない。即ち一月八日開催された右委員会に於ては、労働者の利益を守るべき組合側委員は何等具体的な調査もせず出席し、本人である被告を立会わしめるような方法も採らず極秘裡に行われたため、被告不知の間に殺されたと同様の結果になつているのである。然も一月二十一日解雇の予告を受け翌二十二日異議申立をしたところ、二十三日再審議をしたとしていうのであるが、之より先一月十七日開催された組合臨時総会に於て組合執行部不信任の決議があつたのであつて、同不信任の決議がなされたのは組合幹部に於て公金流用の不正を為していることが原因となつているのだから、組合幹部は一月十七日以降は代表権を喪失しているのであつて斯様な幹部の出席した再審議の手続は当然違法なものといわねばならず、その後組合委員会に於て被告の本件解雇に関し対策委員会を設けていることは、先になされた賞罰委員会の決議を否定しているのだと解されるからである。

以上の理由によつて、被告に対する本件解雇は実質的にも又形式的にも違法不当な解雇である。

更に原告は本件家屋の明渡並びに事業区域の立入禁止を求めている。然しながら本件社宅は被告の実弟で選炭夫として働いている小田昭弘が世帯主として貸与を受けたのであつて、同人の家族は母、機械夫の弟博記の外他に弟二人、被告を含めて都合六人が同居している。だからその家屋明渡請求が失当であることは勿論、事業区域の立入禁止も亦被告の基本的人権即ち母及び兄弟と同居する権利を奪う結果を招来するので不当であると述べた。(立証省略四)

四、理  由

原告会社と、被告等鉱員が所属している鉱員労働組合との間には甲第一号証(成立に争がない)記載のような労働協約が締結されていて同協約第三十、第三十一条に基いて賞罰規定(成立に争いのない甲第三号証、特に第一、三、五、十の各条)及び就業規則(成立に争いのない甲第二号証、特に第二、第五十五条)が定められ、それぞれ原告主張のような規定が制定されていること、被告は昭和二十三年十月一日原告会社大島鉱業所に坑外夫として雇傭せられ、経理課分室に勤務していた者であつたところ、賞罰規定による賞罰委員会の決議を経て昭和二十五年一月二十一日懲罰解雇の予告を受け次で翌二十二日労働基準法第二十条に規定する解雇手当の提供と共に即時解雇の申渡を受けたのであるが、被告に於てその受領を拒絶したため同年二月四日長崎地方法務局に対し原告の弁済供託が為されるに至つたこと、については本件当事者間に争いのないところである。

そこで先ず、被告に本件懲罰解雇に値する所為があつたか否かの点について審案してみるのに、成立に争のない甲第五号証(原本の存在並びに写たることに争いがない)、証人彌永喜一郎・宮崎豊喜・浜田邦夫・野田正木・松浦正雄の各証言によつてその成立を認めることができる甲第四号証、成立に争いのない甲第十号証の一・二前記証人宮崎豊喜・野田正木の各証言によつてその成立を認めることができる同第十号証の六及び七、同じく右宮崎証人の証言によつてその成立を認めることができる同第十四、十五号証成立に争いのない乙第一乃至第三号証と、前記各証人の外証人川北忠純・渡辺信の各証言及び本件検証の結果並びに口頭弁論の全趣旨を綜合して考えれば、被告は昭和二十三年十二月一日日本共産党佐世保地区委員会大島細胞が結成されて以来、その有力な一員として活動していたもので昭和二十四年九月頃来同細胞責任者として届出でも為されるに至つたのであるが、その経理課分室勤務中執務時間中種々思想問題について論議を事として隣室の進発所勤務者にも支障を与えていたこと、会社の許可を受けずに右大島細胞名による掲示板を大島町郵便局附近の会社所有地内に設置して、原告会社幹部を誹謗する内容のビラを貼付し、労務課長その他係員の再三に亘る撤去方の要求に対しても何等顧みることなくこれを聞き入れる気配のなかつたこと、殊に昭和二十四年年末越冬資金問題に関し、原告会社と被告等の所属する労働組合との間に種々接渉が行われ、組合の要求五千円に対し三千円で妥結されるに至つたのであるが、被告は右労働組合の現場委員並びに拡大闘争委員として右妥結に至るまでの経過について詳細知悉しながら、故らに前顕甲第十号証の二・七に記載してある(第十号証の二には七月以降会社は二千万円も儲けているに拘らず、越年資金五千円の控目な要求をあつさりつつぱねている……一部の人に任せ切りでいるうちはいつでも会社はイタクもカユクもないぞと平気な顏でつつぱねるでしよう。現に拡大闘争委員会で皆さんの意志を裏切り、会社案税込み三千円をのんでいるではありませんか……とあり、同号証の七には「………最低線五〇〇〇円の要求さえも無暴にも拒否してしまつた。所長以下坑課長の連々は数千の労働者を犠牲にしてもいとわぬ。全く人間としての一応の良心さえないのである……」とある)ような内容のビラを貼付し、会社幹部を誹謗しているのは勿論、正当な組合活動の範囲を逸脱した行為に出ていること、

被告は原告会社勤務当初その妹婿にあたる遠藤毅方に同居し、後に肩書地の本件社宅にその弟並びに母と共に転居したのであるが、本件社宅に転居後も右社宅に於て夜間遅くまで細胞員等と種々会合しているので、近隣者から睡眠休息の妨害となるとの非難を受けていること原告会社の大島鉱業所は、職員約三百三十名・鉱員約三千百名(内寮生約千名程度)を擁している有望炭坑で、事業地域は殆んど大島町全町に亘り、学校・警察署・役場出張所等の官公署も右事業地域内にある観を呈しているのであるが、被告が掲示板設置の個所として自認する地点(検証調書附図(1)(3))ビラ貼付のことを認める配給所家屋板塀(同附図(6))・病院下コンクリート壁(同附図(8))・真砂町住宅街水槽(同附図(10))等の諸地点は、いずれも大島鉱業所の樞要なる地点にあたり、日常同鉱業所勤務鉱員・職員・家族等は勿論、一般公衆の交通の最も繁華な地点附近で、鉱業所内部関係はもとより、外部に対しても最上の宣伝放果を目ざしていることが窺われるから、被告がこれらの地点で前記のような分派行動に出でて憚らないことは、経営者に於て終戦後の極めて困難なわが国の経済情勢に対処して、前記労働協約にもとづく経営協議会及び、専門委員会等を各月一囘の割合で開催し、労資協調の実績をあげ生産秩序の安定と生産上昇の達成のため鋭意努力している状況に鑑み、その影響の波及するところ極めて甚大なものがあることは容易に看取できることを、それぞれ認定することができて、右認定を動かすに足る反証は一つもない。

もしそうだとすれば、被告の右認定のような行為は、執務時間中自己所属政党の主義・綱領宣伝にあたり、又故らに掲示板を設置して会社幹部を誹謗する内容の掲示並びにビラを貼付し、会社係員の再三に亘る制止・注意も無視して顧りみないで毫も反省の気色すら見受られないのは、前記賞罰規定第十条第三号に所謂承諾を得ないで在籍のまま社外の業務に従事する等甚しく背信行為をなしたものに該当するばかりでなく、第九号に所謂譴責又は減給の処分を受けても尚改悛の見込のないものに該当し、延て前記鉱員就業規則第二条に所謂職場の秩序を維持し、事業の円滑な発展を期しその職責を遂行すべき義務にも違背し、このことがとりもなおさず賞罰規定第十条第十号に所謂その他重要な法令諸規則に違反し不都合な行為のあつたものにも該当するものと解することができる。

従つてこれと略同一の見地から昭和二十五年一月八日開催された賞罰委員会に於ても全員一致を以て被告を懲罰解雇に附する旨の決議が為されたものであることは、前顕甲第四号証及び前掲証人の証言に照して明白であるが、尚被告に対し自発的退職並びにこれが反省を求めるためその猶予方を労組側賞罰委員から懇請されていたためその通告が延期されたのであるが、依然として被告はこれを肯んずる模様がなかつたので同月二十一日に至つて遂に右解雇の通告が為され、翌二十二日労働基準法第二十条による解雇手当の提供がなされ、次で被告の受領拒絶のため同年二月四日長崎地方法務局に対する弁済供託が為されるに至つたことも右証拠によつて明かであるから、被告は前記昭和二十五年一月二十二日を以て適法に解雇されたものといわねばならない。

被告は本件解雇は共産党員弾圧のためになされた不法解雇で、被告の行為はポツダム宣言第十条・日本国憲法第二十一条・労働基準法第三条等によつて保障された政治活動の自由を逸脱していないと抗争するのであるが、右憲法第二十一条等に所謂言論、出版その他一切の表現の自由も無制限の自由を認めたものではなく、公共福祉の見地から種々の制限を免れないものであることは敢て説明を要しないところであり、それぞれ具体的場合に処して各種の制約を受けることは自明のことで、本件に於ては被告等鉱員は、何より前記労働協約・就業規則賞罰規定等の適用を免れないものであつて、被告の右行為も亦前段認定したように右就業規則並びに賞罰規定に照して賞罰委員会の決議を経た上懲罰解雇に値するものと評価され解雇申渡しが為されるに至つたのであるから、該抗弁も亦採用できないことは明白である。

更に被告は、賞罰委員会の構成並びに運営方法が不当であるから、本件解雇には承服できないと抗争し、昭和二十五年一月十七日開催された組合臨時総会に於て、組合執行部不信任の決議が為されたことは前掲証人野田正木の証言によつて推知されるのであるが、既に前述したように被告に対する本件解雇は同月八日の賞罰委員会に於て全員一致を以て可決されているのであつて、被告に対する通告が組合側委員の要望を容れて延期されていたのにすぎないばかりか、組合執行委員とは各別個の機関であつてその選任手続を異にし、賞罰委員は組合執行委員たることを要する旨の規定もなく、成立に争いのない甲第九号証の一乃至三によつて、被告の同月二十二日附異議申立に対し適法な再審議が為されたこと及び被告の出席又は弁明を徴さなかつたとしても何等違法な手続とされないことが認められるから、該抗弁も亦これを採用することはできない。

そこで、被告は本件解雇によつて原告会社社宅居住の資格を喪失したものといわねばならないのであるが、一方本件社宅は被告の実弟選炭夫小田昭弘が世帯主としてその居住を認められ、母及び機械夫弟博記の外他に弟二人と共に被告を含めて都合六人が同居していたものであることは、原告も自認するところであるから、右解雇を理由として直ちに本件家屋の明渡を求めるのは、聊か当を得ないものであることは明白で、更に前掲宮崎証人の証言によつてその成立を認めることができる甲第十六、第十七号証と同証人の証言によれば、社宅居住竝びに管理に関する事項は労務課長の統轄に属し、他人は勿論親戚と雖も同居については許可を要するものと定められていて、被告に対しては本件解雇後二月六日附労務課長名による書面で本件社宅からの退去を要求していることが認められるから、鉱員社宅管理規則第十二条に従つて遅くとも同年三月上旬までには退去すべき義務があるものといわねばならない。そして、被告は原告会社の鉱員たる身分を失つたのに拘らずこれを争い、依然として前に認定したような原告会社の生産秩序を紊すような行為に出でる公算が頗る強いことは本件口頭弁論の全趣旨から容易に窺知されるので、原告会社は被告に対し右大島鉱業所の事業区域から退去を求める必要があるばかりでなく、公道その他官公署等の公共用建物に出入する場合の外、被告が濫りに右事業区域に立入り生産秩序を紊し、延て原告会社の事業経営権に重大なる障害を招来する事態防止のため被告の事業区域立入禁止を求め得るものといわねばならない。

従つて原告の本訴請求は、右限度に於て正当として認容すべきものであるが、本件家屋の明渡しを求める部分は失当として棄却を免れない。

そこで訴訟費用の負担については、民事訴訟法第九十二条を適用して主文のように判決せる次第である。

(裁判官 林善助 厚地政信 西岡徳寿)

別紙<省略>

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