長崎地方裁判所 昭和26年(行)6号 判決
原告 森田栄次郎
被告 福江町議会
一、主 文
被告が昭和二十六年七月十二日原告に対してなした原告を除名する旨の議決はこれを取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求の原因として、原告は被告議会の議員であるところ、被告議会は昭和二十六年七月十二日「議案第九十七号森田議員(原告)の告発事件に関する件について」との議題の下に招集せられた臨時議会において、原告を除名する旨の懲罰議決をした。その理由とするところは、原告の行為は、福江町をして対内外的にも不利に陷れ、その態度は全く議会と相離反し議会運営を阻害し、ひいては議会を侮辱し議会の品位を甚しく傷けるものであるから、議会の神聖を保持し議員の礼節を嚴正にするため、地方自治法第百三十四条の規定に従い、同法第百三十五条第一項第四号に則り原告を除名することとしたというのであるが、右懲罰議決には次のような違法があるので取消さるべきである。
(一)、懲罰議決は特定議員の如何なる行為が懲罰事由に該当するかどうかを具体的に示してなさなければならないにもかゝわらず、被告議会の前記懲罰議決は何ら具体的な懲罰事由を指摘てしいないから、理由を附さない違法な懲罰議決というの外はない。
(二)、原告に対する除名議決の理由は、前記議案等から察するに、原告が昭和二十六年七月五日福江区検察庁に対し福江町長烏山豊吉を公文書偽造行使罪の嫌疑ありとして告発したことが議会を侮辱し議会の品位を甚しく傷けたからであるというのである。しかしながら右の告発についてみるに、原告は福江町長烏山豊吉が長崎県知事に対し、福江町敬老院設備費等に対する国庫(県費)負担の申請をするにあたり、町議会の議決を経て成立した予算書抄本を添付すべきであるにもかゝわらず、町議会の議決を経ない予算書抄本を擅に偽造し、恰も真正に成立したもののように装つて提出した。そこで原告は同町長が地方公共団体の執行機関としてつねに町議会の議決を尊重しこれを誠実に履行する義務を負うていながら、議会を無視して前記行為に出たことは将来町政の紊乱を招く虞があると思料し、その非行を是正せんがため、前記告発をなしたものである。したがつて右告発は、あくまで原告個人が議場外で刑事訴訟法の規定に従つておこなつたものであるから、それは何ら議会の懲罰の対象とならないものであるばかりでなく、法治国下においては当然の権利として認めらるべきものである。ところで被告は右告発行為以外の原告の諸行為もとりあげて、懲罰の対象となし、被告議会の運営を妨害し且つこれを侮辱しその品位を傷けたものであると主張している。しかしながら被告主張の右の如き諸行為は、懲罰委員会においても又本会議においても全く論議されたこともなく、本件懲罰議決の対象となつたものではない。しかして仮りに被告主張のとおりであつたとするも、原告は種々の宣伝その他の方法を用いて可決された前記条例の執行を妨害したこともなく、又昭和二十六年七月九日開催された全員協議会については、原告は利害関係人であつたから出席の義務がなく又被告議会の議員等が原告に面会を求めたのを原告が拒んだのは、彼等が被告議会の代表者としてではなく、個人としての立場であつたからであり、仮りに代表者としての立場であつたとしても、元来本告発事件は原告と福江町長との間の問題であつて、これと何ら関係のない被告議会が介入することは全く見当ちがいであり、したがつて被告議会の議員が議会の代表者として右告発問題につき原告に対し面会を求めることはそれ自体不当であつてこれとの面会を拒んだとしても何ら非難せらるべきではない。したがつて、原告のこれらの行為について被告議会が、原告を除名する旨の懲罰議決をしたことは違法且つ不当である。
(三)、地方自治法及び被告議会の会議規則には「議会を侮辱し議会の品位を甚しく傷けた場合、これを懲罰に附しうる」と明記した規定は存しない。しかるに被告議会が原告の行為を目してこれに該当するものとなし、これに対して懲罰を科することは、法令にもとずかない違法な処分といわねばならない。
(四)、地方議会において懲罰議決をするためには、公開せられた本会議において、懲罰動議の提出があり所定の賛成を得て採択されこれが議題として成立することが必要である。然るに本件懲罰動議は前記臨時議会の公開された本会議では提出されず秘密会に入つてはじめて提案採択され、懲罰委員会に附託された後、再開された本会議で原告を除名する旨の議決がなされるに至つたものであるから、その手続は違法である。
と陳述し、被告の答弁事実に対して、本案前の抗弁第一につき、通常、議会は地方公共団体の意思決定機関であつて、その議決により決定された意思は、執行機関の執行を俟つて地方公共団体の行為となるものであり、町議会における議決自体が直ちに地方公共団体の行為となるものではない。然しながら議会の特定議員に対する懲罰権の行使は議会の議決によつて、直ちにその議員に対して効力を及ぼすものであるから、町議会の議員に対する懲罰処分については、行政庁がした行政処分として町議会は当然その取消訴訟での被告適格を有するものである。本案前の第二の抗弁につき、地方議会と雖も憲法第三十二条裁判所法第三条により、裁判所の裁判に服するものである。蓋し、行政法上の権利はあくまで法規にもとずいて行使せらるべくこれに違反してなされた違法処分に対しては何人と雖もこれが救済を求めうべきものである。しかしてこのことは地方議会の懲罰権と雖もその例外ではなく、司法裁判所はそれがなした懲罰議決の違法性を裁判しうるものといわなければならない。と述べた。(立証省略)
被告訴訟代理人は、先ず原告の訴を却下するとの判決を求め、その理由として
(一) 原告の本訴請求は最初の口頭弁論期日において陳述された訴状の記載の如く懲罰議決の無効確認を求めるものである(仮令原告がその後これを取消請求に変更したとしてもそれはいわゆる訴の変更に該当するから、所定の印紙を貼用した訴変更申立書によつて申し立て、且つ口頭弁論で陳述することを要するにもかゝわらず、斯様な書面の提出もないから、その変更は許されない)ところ、被告福江町議会は福江町なる地方公共団体の組織の一機関であつて、それがなした議決その他の行為の法律効果は公法人たる右福江町について生ずるものである。したがつて福江町議会はそれ自身独立の法人格を有せず公、私法上の権利主体といひ得ないものであるから、本訴における当事者能力を欠くものである。それ故福江町を被告とするならば格別その一部である福江町議会を被告とする原告の本訴は不適法として却下せらるべきである。仮りに原告の本訴請求が無効確認を求めるものでなくて懲罰議決の取消を求めるものであるとすれば、所謂抗告訴訟とは国の行政庁の不当な行政権の行使につき、国がその行政権の主体としてその不当な行政処分の取消又は変更を行うものであるから、抗告訴訟の対象となりうるものは、あくまで国の行政権の行使たる行政処分に限らるべく、国以外の地方公共団体の処分行為についてまで抗告訴訟がゆるされるということは、右法理に反するものであるからこの点からも不適法な訴というの外ない。
(二) 地方議会は地方公共団体の議決機関としてそれ自体自主権を有しているものである。それ故地方議会の意思決定は、国会におけると同様、最高終極的なものであり、地方自治法第百十八条第五項や同法第百二十七条第四項の如き明文の規定を以て不服の申立が許されている場合を除き、これを争う途はなく、司法裁判所と雖もその議決に干渉すべきでない。しかして仮りに右主張がみとめられないとするも、地方議会の議員の行動が懲罰事犯として懲罰処分の対象となるや否や、これに対していかなる懲罰を科しうるや否やの判断は当該議会の自主的判断に俟つべく司法裁判所による判断を排除するものである。何となれば、地方公共団体の議会の懲罰権は当該議会に与えられた紀律保持の自律権であつて、その範囲内においては、当該議会の自由裁量に委ねられているものといわなければならないからである。この点からも原告の本訴は不適法として却下を免れないと述べた。
次に本案につき、原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として、原告主張の事実中、原告が被告議会の議員であつて、被告議会が昭和二十六年七月十二日招集された臨時議会において、原告主張の如き理由を掲げて原告を除名する旨の議決をしたことはこれを認めるが、その余の事実は争う。原告は前掲除名事由が抽象的で理由を附さない違法があると主張する。然るに地方議会が懲罰決議をするにあたり、地方自治法は、例えば国家公務員法第八十九条、地方公務員法第四十九条、地方自治法第百十八条第六項、同法第百二十七条第四項におけるが如き理由書の提示を要求していない。のみならず、原告の如何なる具体的行為が懲罰事犯として懲罰の対象となるかについてはこれを具体的に示さない方が、かえつて被懲罰者たる原告個人の名誉のためにも、将又、地方議会自体のためにも妥当と思料される以上、これを示さないでなされた本件懲罰議決は何ら違法且つ不当なものではない。次に本件懲罰の事由は、被告議会は原告の反対意見にもかゝわらず、昭和二十六年六月十九日福江町敬老院条例を二十三対一票の差で可決した。しかしてこれが議事に際しては原告に対してその反対意見を主張するに十分な機会が与えられていたばかりでなく、偶々原告から福江町長が長崎県知事に宛て提出した福江町敬老院設備費に対する国庫(県費)負担申請書に添付したところの予算書抄本に関し、所謂公文書偽造の問題が提出されたときも、これをめぐつて十分論議がたゝかわされ、その結果、結局被告議会は町長が町議会の議決を経ない予算見込書を提出したことは、町長になお行政手続上、遺憾の点があつたとするも右は、福江町全体の利益を図らんがための行為であると考えられるので、これを諒として前述のとおり多数決を以て福江町敬老院条例を可決するに至つたのである。しかして議案が一旦多数決で議決された以上は議会の一員として、潔くその決議に服しこれを尊重して、その執行を促進すべき義務があるにもかゝわらず、原告はこれに服さず右決議後も種々の宣伝その他の方法で反対の策動をやめず、特に被告議会が福江町長の前記行政措置に関しこれを諒とする態度を決定していたにもかゝわらず、原告はその態度を無視して昭和二十六年七月五日福江区検察庁に対し福江町長烏山豊吉を公文書偽造行使罪の嫌疑ありとして告発するに至つた。そこで被告議会は原告のかゝる議会と相離反し、町長及び議会自体を誹謗する行為は外部に対して被告議会の権威を傷け信用を失墜せしめるものと考えたので、同年七月九日から三日間に亘り全員協議会をひらき、種々これが対策を協議した上、原告との交渉のため代表議員を選定し、これをして原告に対し告発の取下げ方を再三要請させたが、原告はその間議長の要望を無視して全員協議会から無断で退席した上行方をくらまし、将又殊更に議会の代表者との面会を拒み、その交渉を拒絶する態度に出た。そのため右協議会はやむなく三日間を空費しなければならなかつた。そこで、被告議会の大木議員外十六名から原告議員に対する町議会の措置を議する目的で臨時議会招集の請求があり、同年七月十二日臨時議会が招集された。そして右議会において平山議員の提案にもとずき、被告議会は同問題に対する議会の態度を闡明にした声明書を発表することとなり、更に同議員から、こと人事に関するものであるから秘密会を開かれたいとの発議があり、本会議は全員異議なく休会して秘密会に入つたが、同会で原告を懲罰に附する動議が提出され、所定の賛成を得てこれが成立し、懲罰委員会附託となり、ついで再開された本会議において懲罰委員長は原告の前記行動は議会を侮辱し、その品位を甚しく傷けるものであるから原告を除名するを相当と認むるに至つたと報告し、採決の結果、二十対一票の多数決で右委員会の決議どおり原告を除名する議決がなされた。よつて被告議会が原告を除名した議決は、その固有の懲罰権にもとずき適法になされたものであるということができる。なるほど原告の前記告発行為は原告主張の如く議場外の行為ではあるけれども、議会の懲罰権は何も議場内での行為に限らるべきでなく、議場外における行為であつても、議会を侮辱しその品位を甚しく傷ける場合においては、これに対し懲罰を科しうるものと解せられるものである。次に原告は右懲罰決議は法令にもとずかない違法があると主張する。なるほど地方自治法及び被告議会の会議規則には議会を侮辱しその品位を甚しく傷けた場合これを懲罰に附しうる旨の明文の規定はない。然しながらかゝる行為は地方自治法及び被告議会の会議規則の全趣旨に違反するものとして明文の懲罰規定がなくとも懲罰の対象となしうるものと解せられる。そして地方自治法第百三十四条第一、二項によるも懲罰事由は明文を以て会議規則中に定めらるべく、これに該当する場合にのみ懲罰を行いうるものだと解せねばならない理由はない。又原告は本件懲罰動議の提出が違法であると主張するが、動議は必ずしも公開せられた本会議においてのみ提案さるべきものとは限らないのであつて秘密会においてこれが提出さるゝもその効力に影響はない。それ故前記懲罰議決には何ら手続上の違法はないと述べた。(立証省略)
三、理 由
先ず、被告の(一)及び(二)の本案前の抗弁の当否について審按する。
(一)の点については、その前提として、原告の本訴請求の趣旨が一体被告議会の懲罰議決無効確認を求めるものなのか将又その取消を求めるものなのかを判断することを要するのであるが、なるほど最初の口頭弁論期日において陳述された訴状には、請求の趣旨として被告議会が昭和二十六年七月十二日原告を除名する旨の懲罰議決は無効であることの確認を求めると記載されている。然しながら原告がいかなる判決を求めるのかは単に右訴状の記載のみによつて定めらるべきではなく、その申立の全趣旨から判断さるべきであり、本件では、右の訴状の外に、原告が提訴後同年十一月二十七日及び同二十七年五月二十日の各口頭弁論で陳述した準備書面をも斟酌して考えると、原告は、初め漫然と無効確認を訴求するかのような言辞を用いてはいるけれども、その真意はあくまで被告議会の懲罰議決の取消を求めるのにあつて、その間いわゆる請求の趣旨の変更は全然存在しないものと認めることができるから斯様な変更があるとして、その許すべからざることを云為する被告の主張は、これを採用し難い。そうだとすると、懲罰議決の取消を求める所謂抗告訴訟にあつては、被告となるものは、いやしくも行政庁たる性格を具有しておれば足り、その外更に独立の法人格を備えている必要のないことは言うまでもないところであるから、福江町議会に独立の法人格がなく、従つて原告の本訴請求における当事者能力を欠如する旨の被告の主張は当を得ないものというべきである。しかして抗告訴訟において、その対象となりうるものは、被告の主張するように必ずしも国の行政権の行使のみに限る必要はなく、ひろく行政上の一切の権力作用をも含まれるものと解するのが行政事件訴訟特例法第一条に照し、相当と思われるところ、地方議会の職能たるや、地方行政の衝に当る地方公共団体の機関としてその意思決定をするのにあり、その職能を果すに当り、自己の有する紀律権に基いて、構成員たる議員に対する懲罰議決を行うものであると同時に、その議決は別段の執行行為を待たないで直ちに当該議員に対しその議員たる資格において有する権利の剥奪若くは制限の効力を及ぼすものであるから、かゝる懲罰処分をなした地方議会は、その処分の違法を争つて、これが取消を求める訴において、当然、行政処分をした行政庁として被告適格を有するものであるから、被告の(一)の抗弁は理由がない。
次に(二)の点については、憲法第三十二条及び裁判所法第三条によれば裁判所は、憲法に特別の定めのある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判しうるものであるから、地方議会の議決と雖も、それが違法になされた場合当然司法裁判所の裁判に服するものであり、たとい、地方議会が地方公共団体の意思決定機関であるといつても、三権分立の原則にもとずく国権の最高権関である国会と比論すべきではない。なお被告は、地方議会の懲罰議決は当該議会の自律権にもとずきその自由裁量に委ねられているものであるから、これについては行政訴訟を提起しえないと主張するが、地方自治法第百三十四条第一項に地方議会は地方自治法及び会議規則に違反した議員に対し議決により懲罰を科しうるものと規定しているのであり、したがつていかなる場合この要件に該当するかの認定は常に客観的標準によつて決定さるべきであり、又同法第百三十五条第一項が第一号から第四号に亘り懲罰の種類を区別している規定の趣旨から考えても、懲罰事犯に対して、いかなる懲罰を科するかについてやはりそこには自ずから客観的基準が存するものと見るべきである。したがつて、原告の行為がはたして右の懲罰事犯に該当するものであるかどうか及びこれに対する除名決議が適法であるかどうかはいずれも司法裁判所の判断に服すべきものと解するのが相当であるから、被告の(二)の抗弁も亦理由がない。そこで進んで、本案について審按する。
先ず原告が被告議会の議員であつて、被告議会が昭和二十六年七月十二日招集せられた臨時議会において原告主張のような理由を掲げて原告を除名する旨の議決をしたことは当事者間に争がない。原告は斯様な理由は、何ら具体的な懲罰事由を指摘していないから、結局理由を附さない違法があると主張するけれども、地方自治法及び被告議会の会議規則に別段の規定の存しない限り抽象的にしろ理由の記載がなされている以上、懲罰議決としては、これで充分に適法であり、更に具体的な事由を掲げなくても――、或は被懲罰者に対しては妥当を欠くとの譏りを免がれないかも知れないが――そのことだけで直ちに懲罰議決を適法ならしめるものではない。しかのみならず、原告のいかなる具体的行為が懲罰事犯として懲罰の対象となるかについて、これを具体的に示さない方が、かえつて、被懲罰者個人の名誉のためにも将又当該議会自身のためにも妥当と思料される場合が考えられることがある。したがつて弁論の全趣旨から被告議会が右の配慮の下に理由を附さないで本件懲罰議決をなすに至つたことが認められる以上、その議決はこの意味からも適法になされたものということができる。
それでは、本件懲罰の対象となつた原告の行動が具体的にいかなる行為を指していうのかについては、原告はその福江町長告発行為のみであると主張し、被告はそれのみならず、昭和二十六年七月九日から三日間に亘りひらかれた全員協議会における原告の無断退席や被告議会の代表議員との面会拒絶等の行為をもその懲罰の対象となつたものであると主張するので考えてみるに、成立に争のない甲第八及び第九号証、証人竹野定吉、河野勉の各証言及び被告代表者の本人訊問の結果を綜合すれば本件懲罰議決では原告主張の如き告発行為のみにとゞまらず、被告が懲罰の具体的事由として主張する一連のその後の行為も亦その対象となつたものであることが認められこれに反する証人塩塚幸男、佐々野誠の各証言部分は、いずれも措信しがたい。
次に原告は右懲罰議決は法令にもとずかない違法があると主張する。なるほど地方自治法及び被告議会の会議規則には成立に争のない乙第三号証によるも前記懲罰事由として掲げられている、議会を侮辱し、その品位を甚しく傷けた場合これを懲罰に附しうる旨の実体的規定は存しないが、議会がその紀律権にもとずき懲罰事犯に対し懲罰を科するのについては、そのやうな法律の明文の規定のある場合に限る必要はなく、所謂法なければ罰なしとの法定主義の原則は適用されないものと解せられる。何となれば議会の懲罰権は、地方自治法第百三十四条や同法第百三十七条からも類推される如く、議会自体がその秩序を維持し、その権威を保つためにする紀律権であつて、議会を侮辱しその権威を甚しく傷ける者に対しては、必ずしも実体的規定がなくとも、議会は直ちにその紀律権を発動することができるからである。
次に、原告は本件懲罰議決は秘密会における懲罰動議の提案採決にもとずいてなされたものであるから手続上違法であると主張し、右の議決が、斯様に秘密会における懲罰動議に基くものであることは被告の認めて争わないところであるが、地方自治法等の解釈上、動議は必ずしも公開せられた本会議において提案さるべきものと限る必要はなく、秘密会において提出さるゝも、秘密会が本会議の延長にすぎない以上、それが本会議においてなされたことにはかわりがないのであるから、その動議提出の効力に差異はなく、これにもとずいてなされた本件懲罰議決には、何ら手続上違法がないこと勿論である。
そこで原告に対する本件懲罰の理由として被告の主張するような具体的事由が果して、懲罰の対象になることができるかどうかについて按ずるのに、凡そ、地方議会の懲罰権なるものは前述の如く、議会自体がその秩序を維持し、その権威を保つためにする紀律権であるから、その対象となりうるものは、原告主張のように議場内の行為のみに限らるべき理由は少しもなく、たとい議場外の行為であつても、それが議会の存立、活動と密接な関連を有するものであつてその存立、活動を妨げ引いて、その権威を害するが如き行為である場合には当然、当該議会は自らの紀律権を発動しその権威を保持することができるものと断ずべきである。はたしてそうだとすると、被告が懲罰の具体的事由として主張するところの告発行為にはじまる一連の原告の行為はそれ等が真実被告主張のとおり存在していたとすれば、その一部たる告発行為こそ議場外の行為ではあるけれどもその全体としての一連の行為についてみればそれは明かに被告議会の議事活動に密接な関連性をもち且つ、その権威を傷けるものと認めるべきであるから、被告議会はこれに対してその紀律権にもとずき、懲罰を科すことができるものということができる。然しながら更に進んで、本件では、被告主張の具体的懲罰事由に該当する事実が一体真実存在していたのかどうか及び被告議会が原告に対する懲罰としてした除名議決が適法であるかどうかとというかということが最も重要な争点であつて、なお大いに検討を要するところであるから、次にこれ等の点について考察するのに、成立に争のない甲第一乃至第十号証(うち第一号証は一乃至三、第四号証は一及び二、第七号証は一乃至四)及び同乙第一号証、並びに証人釜口房章、杉田郎太夫、佐々野誠、塩塚幸男、烏山豊吉、竹野定吉、河野勉、藤原岩松の各証言、及び原告並びに被告代表者の各本人訊問の結果を綜合すれば被告議会は昭和二十六年六月十一日提案された福江町敬老院設置条例を同月十四日多数決で否決したところ、翌十五日福江町長から再議に附せられたいとの請求があり、再議の結果、同月十九日二十三対一票の差で可決した。しかして、これが議事に際しては原告は他に緊急を要する山積する故敬老院の設置は時機尚早であるとの理由により、常に反対を持して譲らなかつたが、偶々福江町長烏山豊吉がこれより先右敬老院の設備費について、同月二日附国庫負担金の申請をするにあたり、長崎県民生部長から、具体的計画をたて予算措置を講じた上、予算抄本を添付した申請書二通を提出すべき旨指示があつたにもかかわらず、被告議会の議決を経ない歳入歳出予算書抄本(予算成立は同年六月十九日)を、議会には無断で添付して申請していたことが明かとなつたので、原告は同月十九日の本会議で、烏山町長の議会を無視した右非行を論難した。そこで被告議会では、参与として出席していた同町長及び西山総務課長等の意見を求めた上、種々論議の結果、福江町長のとつた前記行政措置には、なお手続上遺憾の点があつたけれども、右は福江町全体の利益を図らんがための行為であると考えられるとの理由により、これを諒として前述のとおり、多数決を以て福江町敬老院設置条例を可決するに至つた。ところが原告は烏山町長が議会軽視の処置を執りながら、すこしも反省の色がないので、被告議会の右の如き態度に慊らなさを感じ、被告議会及び町理事者の反省を促し、被告議会の審議権の冒涜されるのを守る目的を以て昭和二十六年七月五日福江区検察庁に対し、烏山町長を前記予算書抄本の添付に関し公文書偽造行使罪の嫌疑ありとして告発した。ここにおいて被告議会は同年七月九日から三日間に亘り、全員協議会をひらき、種々これが対策を協議した上、原告との交渉のため代表議員を選定し、これをして原告に対し告発の取下げ方を再三要請させた。ところが、原告はその間関係人としてこれに出席していたところ、議長の要望にもかゝわらず、右全員協議会から無断で退席し、その所在を明かにしなかつたため、交渉の継続は困難となり、その所在をつきとめて、面会を求めたところ、被告議会は原告に対してのみ告発の取下げ方を強要し、原告の提示した烏山町長の陳謝方については何ら調停斡旋の労をとらなかつたので、原告は被告議会のそのやうな一方的強制調停の態度に益々硬化し辞を構えて、その面会を拒絶した。そこで、被告議会の大木議員外十六名から原告議員に対する被告議会の措置を講ずる目的で、臨時議会招集の請求があり、同年七月十二日臨時議会が招集され、その秘密会で原告懲罰の件を懲罰委員会に附託し、ついで再開された本会議で懲罰委員長は、原告の前記行為は議会を侮辱し、その品位を甚しく傷けるものであるから原告を除名するを相当と認むるに至つたと報告し、採決の結果、二十対一票の多数決で右委員会の決議どおり、原告を除名する旨の議決があつたことを看取することができる。被告は、烏山町長が国庫負担申請書に添付した書類は単なる予算見込書にすぎなかつた旨及び原告が福江町敬老院設置条例可決後、宣伝その他の方法で反対の策動をやめず被告議会を誹謗した旨主張するけれども、これに副う証人烏山豊吉、竹野貞吉、太田ミ子の各証言は、いずれも容易に信用し難く、他にこれを是認するのに足る何等の証左も存在しない。そうして本件事実関係が、果して以上認定したとおりだとすると、被告が原告に対する具体的懲罰事由だと主張する事実が、右説示のような一、二の点を除き大体存在していたことが判るのであり、これから推して、原告には一応或る程度被告議会の権威を傷けるが如き行為があつたものと認定することができないではないけれども、元来前述の如く、議会が懲罰事犯に対して懲罰を科することは特定議員の公法上の権利の得喪制限に関するものであるから、自ずとそこに客観的標準が存するものであり、しかもその行為が議会を侮辱し、その権威を甚しく傷けたものであると非難して、懲罰に附する場合には単にその行為のみを抽象的に評価するだけでは足りず、ひろくその行為がなされるに至つた全体的具体的事情をも勘案した上で、いかなる程度の懲罰を科すべきかが定められねばならないことは一点疑を容れないところである。そこで原告が告発行為以下一連の行為をとるに至つた事情を具さに観察すると、民主主義憲法下における地方公共団体の執行機関たる町長はつねに地方議会の議決を尊重し、これを誠実に執行する義務を負い、地方議会はたえずその執行を監査する権能を有するものであるにもかゝわらず、福江町長烏山豊吉は福江町敬老院設備費の国庫負担金を県知事に対して申請するにあたり、長崎県民生部長の指示に反して被告議会の議決を経ない予算書抄本を同議会不知の間に提出して、不正の申請をし以て議会軽視の態度に出たのである。そこで被告議会としては、当然同町長に対して注意を促しその将来を戒める等の措置に出るべきところ、これを遺憾としながらも、その行為がたゞ福江町の利益を図らんがために出でた行為であるからとの理由により、これを諒として何等町長の非行を責めることなく、一旦否決した福江町敬老院設置条例を再び可決したのである。このため、右条例の議案に対し終始反対しつゞけてきた原告は議会本来の使命を忘れた被告議会の右の如き徴温的態度に慊らなさを感じ被告議会及び町長等の反省を促す目的を以て、福江町長を公文書偽造行使罪の嫌疑ありとして告発するに至つたものに外ならないこと及び被告議会は右告発の事実を知つて、急遽全員協議会をひらき、被告議会の代表議員を通じてその告発の取下げ方を再三要請したわけであるが、その交渉において、被告議会は原告から烏山町長の陳謝があれば告発を取下げようとの提言をしたにもかゝわらず、一方的に原告に対して告発取下げ方を強要するのみで福江町長の陳謝方については斡旋の労をとらなかつたため、原告の態度を益々硬化させることとなつたものであることは、前段認定の諸事実及び原告本人森田栄次郎の供述に徴して明かであるから、したがつて、このやうな被告議会自体の町長に対する処置及び原告に対する一方的強制調停の態度には反省すべき多くの行き過ぎがあつたものと断ずるのを至当とするにもかゝわらず、被告議会は、これ等の行き過ぎを何等顧みず、原告の行為のみをとりあげて、これを懲罰に附し、しかも地方住民の信任にもとずいて公選された議員の地位を全面的に剥奪する除名処分に附したことは、懲罰の種類の裁量につき著しく判断を誤つた違法があるというべきである。果してそうだとすると、本件懲罰議決は所詮取消を免れず、これが取消を求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容すべきであるから、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のように判決する。
(裁判官 林善助 広木重喜 裁判官、亀川清は、転任につき署名押印することができない。裁判官 林善助)