長崎地方裁判所 昭和27年(ワ)232号 判決
原告 長崎県農林水産株式会社
被告 桜井季春 外二名
一、主 文
原告の訴を却下する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は、被告等が、昭和二十七年一月九日原告に対し、貸し付けた金八十六万七千四百四十一円の債権を担保する抵当権の実行として、原告所有の別紙目録<省略>記載の不動産についてした当裁判所昭和二十七年(ケ)第三四号事件の競売手続を許さない、訴訟費用は被告等の連帯負担とするとの判決を求めると申し立て、その請求原因として、被告等は、昭和二十七年一月九日原告に対し、貸し付けた金八十六万七千四百四十一円及びこれに対する同日以降同年六月十八日迄月三分の割合による利息損害金の債権を有すると称し、これを担保する抵当権の実行として、原告所有の別紙目録記載の不動産について、競売の申立をし、当裁判所昭和二十七年(ケ)第三四号事件として競売手続が開始した。けれども、右の債権及び抵当権は、被告等と原告会社の前代表取締役木場貞治とが通謀し、原告会社の財産を横領又は騙取して財産上不法の利益を得又は得させる目的を以て、その手段として、仮装した虚構のものであつて、原告会社の関知しないものである。仮にそうでなくして、被告等の主張するような債権について抵当権が設定されたものであるとしても、その債権の更改及び抵当権設定は、いずれも被告等及び訴外木場が通謀して、その任務に背き、被告等を利し、原告会社を害する目的を以てされた行為であるから、当然無効であるから、斯様な虚構乃至実在しない抵当権に基く競売が許すことのできないこと勿論である。そこで前示競売手続の排除を求めるため、本訴に及んだ旨陳述し、被告等の本案前の抗弁に対し、競売法による競売開始決定に対する異議は、民事訴訟法第五百四十四条所定の異議申立の方法によろうと、同法第五百四十五条所定の請求異議の訴の方法によろうと、その選択は当事者の自由であるから、本件請求異議の訴は適法であると述べた。<立証省略>
被告等訴訟代理人は、先ず本案前の抗弁として、競売法による競売開始決定に対して不服を申し立てるには、民事訴訟法第五百四十四条の規定により異議の申立をするのが相当であつて、請求異議の訴を以てすべきものではないから、原告の本訴は却下されるべきであると述べ次に、本案につき、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、被告等が、抵当権の実行として、原告主張のように競売手続に及んだことは、相違ないが、本件債権及び抵当権が原告主張のような虚構のものであることは否認する。すなわち被告季春、同太郎一は、いずれも原告会社現代表者山口京次郎が以前同会社の代表者であつた時代に原告会社に金員を貸与しており、又被告末吉は、木炭生産者が、原告会社に納入した木炭代金を同会社のために立て替え支払つて遣つていたので、原告主張の日時原告会社の当時の代表取締役木場貞治及び被告等間でこれ等の債権三口計金八十六万七千四百四十一円を貸金に改めた上、これが担保として本件抵当権を設定したものである。なお原告の予備的主張事実はこれを否認する。従つて、原告の本訴請求は失当たるを免がれない旨陳述した。<立証省略>
三、理 由
先ず、被告等の本案前の抗弁の当否について按ずるのに、原告は本件において、基本たる債権及び抵当権の不存在を理由として、競売法による任意競売手続の排除を訴求しているのであるが、元来任意競売手続に対する不服申立方法については、競売法に何等の規定も存在しないので、その性質に反しない限り、強制執行に関する民事訴訟法の規定を準用し、同法所定の不服申立方法によることになる筋合である。ところで、同法所定の不服申立方法としては、第五百四十四条のいわゆる執行方法に関する異議及び第五百四十五条のいわゆる請求異議が存在しており、先ず執行方法に関する異議は、任意競売に対する不服申立方法として、これを認めても何等任意競売の性質に反するところがないのであつて、形式上の瑕疵は勿論実体上の瑕疵を理由としても、この異議を申し立てることができることは、従来あまねく認められているのであるが、しかもなおこの異議は、専ら申立の方法によるべきであつて、本件のように訴提起の方法によることができないことは、当該法条自体に照して一点の疑をも容れないのである。次に、請求異議は、任意競売に対する不服申立方法として許されるかどうかであるが、この異議は、債務名義の執行力を排除することを目的とする訴であるから、常に債務名義の存在を前提要件とするのに反し、任意競売には何等の債務名義も存在しないのだから、斯様な訴を任意競売について認めることは、その性質に反するものといわなければならないばかりでなく、たとえ斯様な訴を認めなくとも、執行方法に干する異議の申立により、実体上の瑕疵を攻撃し、且つ競売手続の進行を一時停止して貰うことができる外、実体上の権利の不存在に関する通常の訴を提起し、よつて得た確定判決を競売機関に提出することにより、或は事宜によつて急を要し確定判決を待つことができないときは、仮処分の申立をすることにより、一般的に任意競売の実行を阻止することができ実際上も殆ど何等の不都合もないのであるから、任意競売については、請求異議の訴の方法によることはできないものと解するのがまことに相当である。
果してそうだとすると、原告の本訴は、本案についての審究を待つまでもなく、既に以上の点で不適法として却下を免れないので、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決した次第である。
(裁判官 林善助)