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長崎地方裁判所 昭和27年(行)2号 判決

原告 松口大三郎 外一名

被告 佐世保市長

一、主  文

被告が原告両名に対し昭和二十六年九月二十日為した免職処分はいずれもこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告等訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、その請求の原因として、原告松口大三郎は被告の管理する佐世保市立市民病院に市医として又原告帆足勇夫は同病院に技手として、それぞれ勤務していたものであるが、被告から、原告両名は昭和二十六年五月末頃から同年七月頃までの間、上長及び同僚を陥れる目的を以て悪質なるデマを公表し、又原告松口においては昭和二十六年五月頃以降上長の許可を受くることなく、濫りに公の施設を私用に供したものであり、右はいずれも佐世保市職員就業規則第三十五条第七号、第八号に該当するものとして、昭和二十六年九月二十日それぞれ免職処分に附せられた。然しながら、右免職処分は後記の如く不純の動機に出たものであつて、原告等には何等免職せらるべき事由はない。

すなわち原告等は予てから前記病院の経営内情について、(1)現金の直接徴収を禁ぜられている係医員が検診料、入院費等を徴収しているため、会計上多額の隠蔽せられた不正の存すること、(2)医員の中に患者から入院費等を徴収せず擅に金品を受領している者があること、(3)金品贈与の如何によつて差別待遇の著しいこと、(4)院内において投薬される薬価のうち各料において差異のあるものがあること、(例えばペニシリンの価格が内科では一本金九百五十円であるのに婦人科では一本金五百円であるが如き)(5)院内薬品を勝手に私用のため持ち出す者のあること、(6)看護婦間の風紀につき兎角の風評のあること等著しく不健全にして不明朗極まるもののあることを痛感し、その是正のため、同病院長花牟礼淳二郎にこれが革正と反省を求め来つたのであるが、一向に是正せられざるのみならず、却つて同人が原告等を疎外する措置に出たので、已むを得ず、同年六月初旬頃長崎県議会議員石橋正嗣を通じて被告に対し、その事情を訴え善処方の要望を為したところ、前記院長等の揉消し工作により、却つて原告等が辞職の勧告を受け、原告等においてこれを拒否するや、遂に問題が佐世保市の輿論に取上げられ、司直の搜査にまで発展することになつたため、報復的に本件免職処分が為されたものである。以上の如く原告等の言動は、その目的においても手段においても、公立市民病院の公共性に立脚した公平にして正しい明朗な運営の在り方を希求するの外何等の他意はなく、毫も上長同僚を陥れる目的の下に事実に反するデマを事としたものでもない。これは正に公務員としての正当の行為であり、何等非難せらるべき廉はないのであつて、被告が殊更に虚構の理由を構えて為した本件免職処分の違法であることは多言を要しない。

よつてここに原告両名は被告に対し右免職処分の取消を求めるため本訴請求に及んだと陳述し、被告の本案前の抗弁に対し、原告等が佐世保市公平委員会に対し、審査請求を為したのは、被告主張の如く昭和二十六年十月二十二日ではなくて、原告等に処分事由の説明書が交付せられた日から起算し、二十二日目の同月十二日である。従つて右審査請求が地方公務員法第四十九条第四項の規定する三十日の期間経過後に提起せられた、不適法のものであつたとする被告の非難は当らない。仮りに又審査請求書受付の日が被告主張の通りであつたとしても、これは後記の如く公平委員会の責任であつて、原告等の責に帰すべき事由に因るものではない。すなわち当時佐世保市公平委員会は、その発足時代のことであつて、一般には未だその所在すら判然としていなかつたばかりでなく、看板も掲げられておらず又責任の事務員も配置せられていなかつたから、委員会事務局には何の人影もなく、何人が事務を担当しているのか、審査請求書は何処に提出すれば良いのかもこれを確知するに由がない状況であつた故、原告等は己むを得ず昭和二十六年十月十二日、市議会議員下村朝男を通じ公平委員の金高仙一に対し、前記の事情を告げた上、特にこれを委員会において受理したことにして貰い度い旨希望を述べて手交しておいたところ、同委員会事務局において、同月二十二日に至り漸くこれが受附をしたような次第であつた。

それで右期間の経過は正に宥恕すべき事由があつたものと認むべく、委員会としてはこれを受理し、本件免職処分の当否につき実体的審査を遂げて然るべきであつたにかかわらず、敍上の事情に目を覆い、僅か二日の期間経過の故を以てこれが却下処分を為したのであつて、これは明に不当な措置というべきであるから、斯様な場合には、行政事件訴訟特例法第二条にいわゆる「訴願の裁決を経ないで訴を提起するにつき正当の事由」がある場合に該当するものとして、当然訴の提起が許されると解するのが相当である。さすれば本訴が適法なる審査手続を経ないものであるとする被告の非難は当らないと述べた。

(証拠省略)

被告訴訟代理人はまず本案前の抗弁として訴却下の判決を求め、その理由として、原告等が本件免職処分の事由説明書を受取つたのは、その自陳する通り、昭和二十六年九月二十日であつたから、これに対する審査請求は地方公務員法第四十九条第四項の規定に従いその日から三十日以内の同年十月二十日までに提起せらるべきものであつた。然るに佐世保市公平委員会に対し本件審査請求が提起せられたのは、右期間を経過した同月二十二日であつたので、委員会においてはこれを不適法と認めて却下した。それで結局本訴は適法な審査請求の手続を経ないで為された不適法のものといわねばならぬ。若し仮りに右期間の経過が宥恕すべき事由に基くものであつたとするならば、まず公平委員会を被告とし、その為した却下処分の取消を求めた上、更めて実体的審査を受け、然るのち初めて訴訟を提起するのが順序であつて、斯る手続を経ることなく、直に訴を提起するが如きことは、いわゆる訴願前置主義に背反するものとして許されないと解すべきであると述べ、

本案につき「原告等の請求を棄却する」「訴訟費用は原告等の負担とする」との判決を求め、答弁として請求原因事実中、原告等がいずれも被告の管理する佐世保市立市民病院の市医又は技手としてそれぞれ勤務していたものであること、及び被告が原告両名を、その主張日時その主張の如き理由ありとして免職処分に附したことはいずれもこれを認めるが、その余は全部否認する。そもそも被告が本件免職処分を為したのは後記の如き事由に基くものであつて、その間原告等主張の如き何等のかしはない。すなわち昭和二十六年五月末頃から同年七月末頃にかけ、原告等の当時勤務していた前記病院及び一般市民の間に、(1)院長の手術はよい加減である。県議石橋氏の夫人も現に要が無いのに切開され、告発するといつている。(2)院長は診療費をごまかして私腹を肥やし、その横領額は金百五十万円位にもなるであろう。(3)検診料をごまかしている。(4)院長は性病を患つている。従つて褌を自宅で洗濯しないで看護婦に洗わしている。(5)或る外人の女に入院料は要らぬからラジオを持参せよといつた、(6)院長の手術は旧式である。(7)院長室で患者を診ることがある。(8)外人の招待が多く、その都度看護婦を酌婦として待らせている。(9)金子医長は情実検診をしている。(10)事務長は無為無能である等全く事実無根の宣伝が拡がつたので、事態を重視した市当局において調査を遂げたところ、右は原告両名及び当時市医であつた浜崎信男の三名が共謀の上、病院長その他の市民病院幹部を中傷せんがため、殊更に事実をねつ造して流布したものであることが判明し、又原告松口については、家庭に妻子を持ちながら、昭和二十六年三月頃から同年六月頃までの間、上長の許可を受けることなく、濫りに病院内眼科手術室に寝泊りし、看護婦をして、食事洗濯等を行わしめた事実をも判明した。そして敍上の行為は市民病院内の秩序を紊り病院の信用と権威を失墜させるものであつて、斯の如き行為を敢て為すということは、市民病院に職を奉ずる職員としての義務に背き、引いてはその体面を汚し信用を失わしめる所以であるから、佐世保市職員就業規則第三十五条第七号、第八号に該当し市職員としての適格性に欠けるものといわねばならぬ。然るにもかかわらず被告は、事を穏便のうちに解決すべく且原告等に同情を以て対処する意味において、原告両名及び浜崎に対し辞職の勧告を為したところ、浜崎のみはこれに応じ辞表を提出したが故に、同人に対しては依願免職の手続を採つたけれども、原告両名は前記事実を認めながら頑として応じないため、ここに被告としては已むを得ず、前記規則の定めるところに従い原告両名を免職処分に附した次第である。以上説明の通り本件免職処分は適法且正当の理由に基いて為されたものであつて、その間何等のかしをも存しないのであるから、これが取消を求める本訴請求の理由なきことは明であると述べた。(証拠省略)

三、理  由

まず本案前の抗弁について判断する。

原告等は本件免職処分に対する審査請求は、昭和二十六年十月十二日佐世保市公平委員会に対し適法に提起した旨主張しているのであるが、斯様な事実を確認するに足る証拠はなく、却つて証人下村朝男、金高仙一の各証言を綜合すると、右審査請求が、正式に提起せられたのは、原告等が処分事由説明書の交付を受けた同年九月二十日(この点は当事者間に、明に争がない)から起算し、三十二日目の同年十月二十二日であつた事実が認められる。尤も右両証人の証言によれば、当該審査請求書は同月二十日下村朝男を通じ公平委員の一人である金高仙一に対し、特に公平委員会において受理したことにして貰い度い旨希望を述べて既に手交せられていた事実が認められないではないが、審査請求というものは、権限ある受附事務の担当係員が、法定の手続を経て正式にこれを受理するとき、初めて適法に提起せられたとみるべきであつて、公平委員の一人に対し事実上これが手交せられていたからといつて、これに因り直に適法な審査の請求が為されたものとは解し難いから、敍上の事実にかかわらず、本件審査請求は、矢張り三十日の法定期間を失期していたものというの外はない。然しながら又一方前顕各証人の証言によると、佐世保市公平委員会は、当時発足したばかりであつて、その所在も市役所三階の一隅というだけで一般には未だ判然としていなかつたのに加え、事務局には看板も掲げられておらず、又専任係員の配置もなく、事務局には人影すら見当らず、然も何人が何処で事務を担当し、受附事務は何処で取扱われているのかの掲示すらも為されていなかつた事実が明であり、これ等の事実から推すならば、原告等が審査請求を、何処で何人に対し、提出すべきかを確知するに由がなかつたというのも、あながち無理からぬものがあつたと認むべく、むしろ本件審査請求の提起が、前記の如く失期したということは、公平委員会が、その発足当時であつたにかかわらず、審査請求を為す者の利益のために、看板を掲げて所在を明にし又何人が何処で事務を取扱つているかの掲示を為す等その他適当な措置を講じていなかつたということに、大きな原因があつたとすらいうことができる。然も敍上の事情に、前段認定の如く本件審査請求書が、既に公平委員の一人に対し、期間内に手交せられていたという事実及び失期期間が僅かに二日であつたという事実等諸般の事情を綜合して考えるとき、本件審査の請求は、なるほど失期したものではあつたけれども、これは正に宥恕すべき事由に因るものと認めるを相当とし、従つて公平委員会としては当然これが受理を為すべかりしものといわざるを得ない。さすれば本件審査の請求は、結局において適法であつたと認むべく、これが提起せられたときに、適法に提起せられたものということができるのであるから、従つてそれが期間内に提起せられた場合と同様に、その時から三ケ月を経過しても、なお何等の決定がない場合には爾後何時でも訴の提起が許されると解し何等の妨げがないと同時に、又正に宥恕すべき事由があるにもかかわらず、審査請求が却下されたというような場合には、適法に提起せられた訴願の受理が理由なくして拒否せられた場合と同じく、いわゆる正当の事由ありとして、直に訴の提起が許されると解するのが相当である。この点について被告は、本件審査請求の失期が宥恕すべき事由に基くものであるとすれば、まず、佐世保市公平委員会を被告とし、その為した却下処分の取消を求めた上、更めて実体的審査を受け、その裁決を俟つて訴を提起すべきであり斯る手続を経ることなく直に訴を提起するということは、いわゆる訴願前置主義に背反するものとして許されないと主張する。然しながら行政事件訴訟特例法第二条本文の規定は、一般的にみて、違法な行政庁の処分に対しては、まず行政庁をして、その処分匡正の機会を与えるということが、訴願制度を認める趣旨にも適合するし、又それが迅速に行われる限り国民のためにも便宜であるというに出でたものであるから、従つて斯る訴願手続を経せしめることが却つて国民の権利保護の観点から著しく適当でないと認められる場合には、訴の提起につき必しも実体的な訴願の裁決を俟つ必要はないのであつて、同条但書の規定が右の例外を認めているのも亦この趣旨に出でたものということができる。そして本件においては、前記の如く正に宥恕すべき事由があるにかかわらず、自己の手落ちには目を覆い一方的に審査の請求を却下した場合であるから、その却下処分の取消を求めしめ、更らに訴願手続を繰返えさせるというが如きことは、却つて原告等の権利保護のために適当でないものと認められ、従つて本訴が被告主張の手続を経ることなく、直に提起せられたからといつて、これは前記の通り正に斯くすべき正当の事由があつたというべきであるから、これを目しいわゆる訴願前置主義に背反するものとする被告の非難は、その当を得ないと解さねばならぬ。

以上の理由により本訴を不適法とする被告の抗弁はこれを採用することができない。

よつて次に本案につき順次検討する。

原告等がいずれも被告の管理する佐世保市立市民病院の医師又は技手としてそれぞれ勤務していたということ、及び被告が原告両名を、その主張の日時その主張の如き事由ありとして免職処分に附したことはいずれも当事者間に争がない。

それで果して原告等にどのような免職事由があつたかについて調べるのに、成立に争のない乙第一号乙至第十号証、証人山中辰四郎の証言により成立を肯認すべき乙第十一号証、右山中証人の証言及び証人石橋政嗣、下村朝男、吉沢音一の各証言に弁論の全趣旨を綜合すると、原告等の勤務していた佐世保市立市民病院においては、後記認定の通り確に不健全にして不明朗な事実の存したことは、間違いないところであるが、然しこれは当時未だ証拠により、具体的に確定していた訳ではないにかかわらず、浜崎信男が中心となり原告両名もこれに同調して、それぞれこれに自己の想像をも加え、同病院内に(1)検診料をごまかしている、(2)情実検診をしている。(3)院長の手術は旧式で良い加減である。(4)患者に対し金品の贈与を強要しその贈与如何によつては著しい差別待遇が行われている。(5)外人を招待しては看護婦を酌婦代りに待らせている。(6)院内薬品を私用のため勝手に持出している。(7)院長は性病を患い「褌」を看護婦に洗わせている。(8)殊に院長は医長、事務長等と共謀の上診療費、入院費等を横領し、その額は金百五十万円にも上つている等幾多の不正事実があるとしてこれを外部に発表し、或はこれを新聞記者に話したために、それがやがて新聞紙上にも公表され、恰も同病院内に院長派、反院長派の対立による泥試合が行われ、誇大に不正事実が存在するが如き宣伝が拡がつて著しく病院の信用と権威を失墜せしめるに至つた事実を認めるに十分である。右認定に反する証人浜崎信男の証言部分はにわかに信を措き難く他にこれを左右すべき資料はない。而してこれ等の事実から考えるとき、なるほど同病院内には不健全にして不明な事実の存したことは間違のないところであるけれども、若し然りとするならば、まず証拠によつて具体的に事実を確定し、当局の適宜な措置を要望すべく、又故なくこれを拒否された場合においても、矢張り証拠に基く具体的な事実を挙げて告発を為す等の適宜な措置をとるのが相当であつて、証拠に基いて事実を確定することなく、自己の想像を交えて事実を誇大に推測し、斯る臆測的事実を恰も絶対であるが如くに発表し、これがため個人の名誉のみならず、著しく同病院の信用と権威とを失墜させたということは、その動機目的の如何は兎も角、市民病院に勤務する職員として、何等の責任がないとはいい難く、むしろ相当の責任はこれを免れ得ないものがあつたと認めるのが相当である。然しながら又一方成立に争のない甲第一号証、第二号証の一、二、三、第三号証、第四号証の一、二、第五号証、第六号証の一、二、乙第十二号乃至第十四号証に前顕石橋、下村両証人の証言に、証人浜崎信男、千住博、尾辻正徳の各証言を綜合すると、同病院内においては全く何等の不健全不明朗なる事実がなかつたかというに決してそうではなく、或は(1)情実によつて手術料、処置料、注射料、検査料、特別薬価等を徴収せず、背任的行為が行われており或は(2)院内で投薬する「ペニシリン」の価格が各科において差異があり或は(3)係医員が領収した検診料、入院費等を直に会計に引継がず、ボール箱に投入れて放置していたために、何時の間にかこれが紛失してしまうようなことがありながら、然も何等適宜の措置が講ぜられず、会計面において極めてルーズなものがあり、又(4)これがため看護婦にして入院費等を横領する者があつたというが如く、その他市民の疑惑を招くような、確に不健全にして不明朗な事実のあつたことが認められるのであつて、これ等の事実から推すならば、原告等の前記言動は、被告主張の如く必ずしも専ら事実無根の「デマ」をねつ造したものともいい難い。又少なくとも原告両名がいわゆる「トラブルメーカー」として右の如く病院内に不明朗な事実の存することを奇貨とし、平和な病院の秩序を紊し、幹部を中傷せんがために、殊更に「デマ」をふいちようし、宣伝これ努めたというが如き事実に至つては、これを窺うべき何等の証拠がないのみならず、却つて証人七種礼蔵の証言に弁論の全趣旨を綜合すると、原告両名は前記の如く、病院内に不健全な事実の在ることを痛感し、真摯な気持から、これが是正を計らんとしたものであつた事実すら、これを認めることができるのである。然も前顕山中、石橋、下村、浜崎各証人の証言に弁論の全趣旨を綜合すると、原告等は初めから前記事実を口外したという訳ではなく、まず病院当局に対し適宜な措置を要望したのであるが、殆ど問題にせられなかつたのみならず、却つて原告等を疎外するが如き態度がみられるに至つたから、万止むを得ず、更らに県会議員石橋政嗣を通じて市当局に対し、これが是正を要望したところ、市当局においても、病院内に前記の如く、市民の疑惑を招くような不明朗なものがあつたにかかわらず、一応病院長事務長等に対する弁解を聞いただけで、病院内には何等不正の事実は存しない。原告等は殊更に病院の信用と権威とを失墜せしめ病院幹部を中傷せんがため、殊更に事実無根の「デマ」を飛ばすものであると結論し、原告等を辞職せしめることによつて、事を解決しようとした事実が認められるのであつて、これ等の事実から推すときは、病院側は勿論、市当局においても何等かの非難はこれを免れ難いものがあつたと認むべく、これ等諸般の事情を綜合し斟酌して考えるとき、原告等が臆測的事実を発表したということについては、確に相当の責任を免れ得ないこと既述の通りであるけれども、さればといつて、これに科するるに免職の処分を以て臨むということは、甚だしく行過ぎの嫌があるという意味において妥当を欠くものと認めるを相当とする。

又被告は、原告松口において上司の許可を受けることなく、濫りに病院内眼科手術室に寝泊りし、看護婦をして食事洗濯等を為さしめた事実があつたと主張し、該事実は証人大塚穰、川津シマ、平井静子の各証言によつて、これを認めることができるのであるが、然し右平井証人の証言に証人七種礼蔵の証言を綜合すると、原告松口の病院内における寝泊りはその専門的研究のためであつて、又およそ公立の病院においては、医師がその研究のために病院内に寝泊りするということは半ば黙認せられていたものであることが認められるので、原告松口の病院内の寝泊りが、上司の許可を受けなかつたという点において、非違の事由があつたにしても、これを以て直に懲戒免職に値するものとは解し難い。

さすれば原告等に対する本件免職処分は、結局において裁量を誤つた違法の廉があるというべきであつて、これが取消を求める本訴請求は理由があるからこれを認容すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 林善助 入江啓七郎 菊地博)

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