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長崎地方裁判所 昭和36年(ワ)156号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕一、(一)原告主張の事実摘示第二の一の(一)の事実、すなわち被告が昭和三三年一二月二二日原告を相手方債務者として長崎地方裁判所に対し原告主張の譲受債権を被保全債権として原告の訴外株式会社十八銀行富江支店に対する当時の普通預金債権のうち金三〇三万一、三六五円の債権についての仮差押えの申請をなし、同月二五日右裁判所からその債権仮差押決定を得、同決定が同月二七日前記訴外銀行支店に送達されたこと、そして、原告が昭和三五年一〇月一八日付をもつて右債権仮差押決定に対し異議の申立てをなし、その結果同債権仮差押決定が昭和三六年三月三一日前記裁判所により仮執行宣言付で取り消されるにいたつたことは、当事者間に争いがない。

右事実によると、原告の前記普通預金債権に対する被告の右の仮差押えは、昭和三三年一二月二七日にその効力を発生し、この差押えの効力は昭和三六年三月三一日まで持続されたものというべきである。

(二) そこで、右仮差押えの違法の有無について判断する。

(1) まず、その仮差押えの必要性の有無について

≪前略≫<証拠>を総合すると、≪中略≫前記仮差押え申請ならびにその効力発生当時、原告(地方自治法上の地方公共団体であることはいうまでもない。)は、土地、建物、諸設備などの多額の財産を有していて、原告町有山林だけでも七三〇町歩にのぼり、その立木の一部を評価しても一、〇〇〇万円を下ることはなかつたこと、かてて加えて、原告の地方公共団体としての一会計年度における通常歳入額は、七、〇〇〇万円以上であつたこと、当時原告が多額の負債を有していて、その弁済に困窮していたというような事実はなかつたこと、さらに、もし前記の仮差押えをしておかなければ、原告がいつ右財産を隠匿し、または他に処分する(原告が地方自治法上の地方公共団体であることは前記のとおりであるから、この点につき、一般私法人の場合と同一視すべきでないことは多言を要しない。)かして、後日被告がこれらに対する強制執行を行なうとしても、それが不能となるかもしくは著しく困難となるおそれがある状況にあつたというような事実もまた存しなかつたこと、そして、原告は、昭和三四年一月二七日付の内容証明郵便をもつて、被告に対し、前記仮差押えの解放を要望したところ、被告は、同年二月三日付の内容証明郵便をもつて、原告の右要望をしりぞけたのであつたが、右仮差押え申請ならびにその効力発生当時における原告側の前記事情は、その後原、被告間の右郵便のやりとりならびにその仮差押決定に対する原告の前記異議申立てを経て同決定が取り消されるにいたるまでさしたる変りはなかつたことをそれぞれ認めることができるから、これらの事実をあわせ考えると、被告のなした右仮差押えには、その必要性は存しなかつたものと認めるのが相当である。

(2) つぎに、右(1)の点に関する被告の故意、過失の有無について本件仮差押えの申請からその仮差押決定が取り消されるにいたるまでの経過、原告の訴外会社に対する請負報酬金の支払状況右仮差押申請当時からその仮差押決定取消し当時にいたるまでの原告町有財産ならびに原告の地方公共団体としての歳入の実態および原告の債務弁済の意思ならびに能力の有無、原告の右仮差押えの解放の要望ならびに仮差押決定についての異議申立てに対する被告側の態度は、いずれも前認定のとおりであり、さらに<証拠>を総合すると、原告は、当時原告町の上水道拡張工事を施行中であり、前記普通預金は、右工事のための予算化された政府借入金を特別会計にかかるものとして別途に預金されたものであつたところ、原告は、前記仮差押えにより、その額に相当する右預金を使用することができず、かといつて他の原告町有金から前記工事に関する費用を支弁することもできなかつた(原告は、地方自治法上の地方公共団体である関係上、右預金をその予算目的外の目的のために使用したり、予算の他項目へ流用したりすることを禁じられていたとともに、他の予算目的の、あるいは予算上他項目の原告町有金をもつて前記工事に関する支払いにあてることもまた禁じられていたことは、いうまでもない。)ことを認めることができる(これを左右するに足りる証拠はない。)ところ、<証拠>によると、本件債権仮差押命令申請書(甲一号証の二)には、原告は「他に多額の負債を有しその債権者との間に紛争を生じ右上水道拡張工事に対する補助金、起債等も使い果たし、現在においては申請旨記載の普通預金を有するのみであり、」と記載され、さらにその附属の疏明資料である被告名義の報告書(同号証の三)には、「富江町としては他にも多額の負債があり、その支払に困窮しており、殊に水道工事の補助金、起債等も費い果してしまい、」と記載されていることが認められるが、これらの記載は、いずれも全く真実に反するものであることが明らかである≪中略≫。そして、以上の事実に、<証拠>および弁論の全趣旨を総合すると、被告は、≪中略≫右普通預金債権以外の前記原告町有財産には意を介しなかつたか、もしくは気付かずして、前記のとおり真実に反した記載のある報告書を疏明資料として添付したこれもまた真実に反する内容のいい加減な債権仮差押命令申請書を提出し、これがため、前記仮差押決定がなされるにいたつたこと、被告は、少くとも原告の内容証明郵便による前記の仮差押えの解放の要請後は、右普通預金が前記上水道拡張工事の唯一の財源であることを知つていたが、右要請後はもとより、原告の前記仮差押決定に対する異議申立て後も、その態度をあらためることなくして、右仮差押えをあえて前記のとおり持続させたことをそれぞれ認めることができ、≪中略≫他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

およそ、債権者が仮差押えをなすに際しては、それが被保全権利の存在と仮差押えの必要性の存在とをその前提とするものであるところからして、被保全権利の存在についてはもとより、仮差押えの必要性の有無、すなわち債務者の資産の有無、ならびに債務者がその所有財産を隠匿したり、もしくは他に処分したりなどして、そのため債権者が後日強制執行を行おうとしても、それが不能となるかあるいは著しく困難となるおそれがあることの有無についても、充分にこれを調査すべきものであり、しかも、債務者の仮差押解放の要請ならびに仮差押決定に対する異議申立てにもかかわらずあえてその仮差押えを持続させるがためには、債務者の主張ならびに債務者提出の資料をも参照して、ことさら慎重に被保全権利ならびに仮差押えの必要性の有無につき調査をなすべきものであつて、その結果もし被保全権利ならびに仮差押えの必要性の存在しないことが判明した以上、仮差押えの申請、もしくは執行をなさないか、すでに効力の発生した、あるいは執行中の仮差押えを自ら進んで解放するかなどして、債権者において債務者に対し故のない損害をこうむらせないようにしなければならないものと解するのを相当とするところ、前認定事実によると、被告には、右の点につき少くとも重大な過失があつたものと認めるのが相当である。≪中略≫

(3) そうすると、前記仮差押えは、その仮差押えの必要性がないのに被告のこの点に関する少くとも重大な過失にもとずいてなされたものであることがすでに明らかであり≪中略≫それは、すでに右の点において違法なものというべきであるから、被告は、原告に対し被告の違法な右仮差押えによつてこうむつた原告の損害を賠償すべき義務があるものといわなければならない。(桑原宗朝 原政俊 水谷厚生)

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